鬼春別は剣のつかを握って久米彦を叱責した。久米彦は、女を追い出せと言うなら辞職する、と売り言葉に買い言葉になった。
カルナ姫は、久米彦が軍籍にいるから自分は気に入ったのだが、辞職するなら鬼春別に仕えることにする、と発言した。鬼春別も、久米彦が辞職したら自分が一人で軍隊を統率しなければならなくなるから、利発なカルナ姫を副将軍にそればいい、と勝手な理屈をひねって、カルナ姫を自分のものにしようと野心を起こしだした。
久米彦はあわてて、行きがかり上そう言っただけで辞職するつもりはない、と言い改めた。鬼春別はむっとして、自分は上官の権利で久米彦を免職し、カルナ姫を副将軍にすると言い張った。
二人がにらみ合っていると、鬼春別の副官・スパールが一人の美人を連れて鬼春別に献上しに来た。女の顔を見ると、カルナ姫に勝る美人である。これはヒルナ姫が、やはりカルナ姫と同じ作戦でわざとバラモン軍に捕らえられたのであった。
鬼春別はこれを見て久米彦との矛を収め、ヒルナ姫を自分のテントに連れてこさせた。ヒルナ姫はわざと隣のテントに聞こえるように、自分はビク国の豪農の娘で、カルナ姫は侍女だということを歌ってきかせた。
鬼春別がヒルナ姫とのろけていると、久米彦がやってきた。久米彦は、カルナ姫がヒルナ姫の侍女だと聞いて、ヒルナ姫が鬼春別の妻となったら、自分はその侍女をめとったというkとおが面白くなく、談判に来たのであった。
ヒルナ姫はバラモン軍を内部から瓦解させようとという作戦だから、久米彦にも秋波を送り、気を持たせた。
ついに鬼春別と久米彦は言い争いになり、互いに刀を抜いて切り合いを始めた。様子を聞いて驚いたカルナ姫が鬼春別のテントに飛んできたが、ハルナ姫は目で合図をした。二人はわざと、恐そうにテントの隅で震えている。
副官たちはテントに戻ってくると二人の将軍が刀を抜いて切り合いをしているので驚いて中に割って入り、二人をいさめた。鬼春別と久米彦は潮時と剣をさやにおさめて腰を下ろした。