霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】10月30~31日に旧サイトから新サイトへの移行作業を行う予定です。実験用サイトサブスク
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一二章 (おに)(こひ)〔一三七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第2篇 貞烈亀鑑 よみ(新仮名遣い):ていれつきかん
章:第12章 鬼の恋 よみ(新仮名遣い):おにのこい 通し章番号:1375
口述日:1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
鬼春別は剣のつかを握って久米彦を叱責した。久米彦は、女を追い出せと言うなら辞職する、と売り言葉に買い言葉になった。
カルナ姫は、久米彦が軍籍にいるから自分は気に入ったのだが、辞職するなら鬼春別に仕えることにする、と発言した。鬼春別も、久米彦が辞職したら自分が一人で軍隊を統率しなければならなくなるから、利発なカルナ姫を副将軍にそればいい、と勝手な理屈をひねって、カルナ姫を自分のものにしようと野心を起こしだした。
久米彦はあわてて、行きがかり上そう言っただけで辞職するつもりはない、と言い改めた。鬼春別はむっとして、自分は上官の権利で久米彦を免職し、カルナ姫を副将軍にすると言い張った。
二人がにらみ合っていると、鬼春別の副官・スパールが一人の美人を連れて鬼春別に献上しに来た。女の顔を見ると、カルナ姫に勝る美人である。これはヒルナ姫が、やはりカルナ姫と同じ作戦でわざとバラモン軍に捕らえられたのであった。
鬼春別はこれを見て久米彦との矛を収め、ヒルナ姫を自分のテントに連れてこさせた。ヒルナ姫はわざと隣のテントに聞こえるように、自分はビク国の豪農の娘で、カルナ姫は侍女だということを歌ってきかせた。
鬼春別がヒルナ姫とのろけていると、久米彦がやってきた。久米彦は、カルナ姫がヒルナ姫の侍女だと聞いて、ヒルナ姫が鬼春別の妻となったら、自分はその侍女をめとったというkとおが面白くなく、談判に来たのであった。
ヒルナ姫はバラモン軍を内部から瓦解させようとという作戦だから、久米彦にも秋波を送り、気を持たせた。
ついに鬼春別と久米彦は言い争いになり、互いに刀を抜いて切り合いを始めた。様子を聞いて驚いたカルナ姫が鬼春別のテントに飛んできたが、ハルナ姫は目で合図をした。二人はわざと、恐そうにテントの隅で震えている。
副官たちはテントに戻ってくると二人の将軍が刀を抜いて切り合いをしているので驚いて中に割って入り、二人をいさめた。鬼春別と久米彦は潮時と剣をさやにおさめて腰を下ろした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-03-09 17:14:34 OBC :rm5312
愛善世界社版:123頁 八幡書店版:第9輯 548頁 修補版: 校定版:128頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 鬼春別(おにはるわけ)厳然(げんぜん)として姿勢(しせい)(ととの)へ、002佩剣(はいけん)(つか)左手(ゆんで)(にぎ)り、003蠑螈(いもり)立上(たちあが)つたやうなスタイルで、
004鬼春別久米彦(くめひこ)殿(どの)005陣中(ぢんちう)(をんな)引入(ひきい)れる(こと)は、006軍律(ぐんりつ)(うへ)から()ても(ゆる)(べか)らざる(ところ)(ござ)る。007何故(なにゆゑ)(かく)(ごと)美人(びじん)陣中(ぢんちう)(ひき)よせ、008軍務(ぐんむ)(わす)れ、009狂態(きやうたい)(えん)じらるるか』
010久米彦(くめひこ)『ハイ、011拙者(せつしや)軍律(ぐんりつ)(そむ)き、012(をんな)引入(ひきい)れたと()つてお(とが)めになるならば、013是非(ぜひ)(ござ)いませぬ。014只今(ただいま)(かぎ)責任(せきにん)()びて辞職(じしよく)(つかまつ)ります』
015 鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(いま)辞職(じしよく)されては大変(たいへん)だと(こころ)(おどろ)(なが)らも、016平然(へいぜん)として、
017鬼春別(おにはるわけ)貴殿(きでん)辞職(じしよく)(のぞ)みとあらば、018辞職(じしよく)(ゆる)してもやらう、019(しか)(なが)今日(こんにち)(ゆる)(こと)(まか)りなりませぬ。020(いち)()(はや)(この)(をんな)追出(おひだ)しめされ』
021久米彦(くめひこ)(この)(をんな)追出(おひだ)(くらゐ)ならば、022只今(ただいま)(かぎ)りお(ひま)(いただ)きませう』
023 カルナ(ひめ)二人(ふたり)(なか)葛藤(かつとう)(おこ)さしめ、024バラモン(ぐん)根底(こんてい)から攪乱(かくらん)するは(この)(とき)と、025心中(しんちう)画策(くわくさく)(さだ)め、
026カルナ(ひめ)『これはこれは、027勇壮(ゆうさう)活溌(くわつぱつ)な、028凛々(りり)しき(をとこ)らしき、029(もつとも)敬愛(けいあい)する、030(おと)名高(なだか)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)031(その)()威勢(ゐせい)日月(じつげつ)(ごと)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)032(はじ)めて()()にかかりまする。033(をんな)()として陣中(ぢんちう)()(きた)(こと)は、034軍律(ぐんりつ)(じやう)不都合(ふつがふ)かは(ぞん)じませぬが、035(わらは)(けつ)して(みづか)(のぞ)んで陣中(ぢんちう)()訪問(はうもん)(まを)したのでは(ござ)いませぬ。036ビクトル(さん)神王(しんわう)(もり)参拝(さんぱい)せむと、037一人(ひとり)のお友達(ともだち)(とも)(きた)(をり)しも、038貴方(あなた)部下(ぶか)出会(であ)ひ、039路傍(ろばう)()(たふ)され、040()()かしてゐました。041(じつ)無残(むざん)武士(ぶし)もあるもので(ござ)います。042そこへエミシ、043マルタの士官(しくわん)(さま)()(とほ)(あそ)ばし、044(わらは)(たす)けて此処(ここ)(おく)(とどけ)(くだ)さいました。045(その)()親切(しんせつ)(けつ)して(わす)れは(いた)しませぬ。046(これ)(まつた)将軍(しやうぐん)(さま)日頃(ひごろ)()訓練(くんれん)()統率(とうそつ)(よろ)しきを()たるが(ため)(ござ)いませう。047(わらは)(すく)はれましたのは、048(まつた)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)()余光(よくわう)感謝(かんしや)(いた)して()ります。049何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)仁慈(じんじ)御心(みこころ)(もつ)て、050(この)陣営(ぢんえい)静養(せいやう)さして(くだ)さいますれば、051(かた)()みまするし、052御飯(ごはん)()かして(もら)ひます。053如何(いか)軍律(ぐんりつ)(きび)しき陣中(ぢんちう)なればとて、054三軍(さんぐん)指揮(しき)(あそ)ばす将軍(しやうぐん)(さま)に、055(をんな)がなくては不都合(ふつがふ)(ござ)いませう。056一兵卒(いつぺいそつ)ならばいざ()らず、057(いやしく)尊貴(そんき)()(もつ)て、058仮令(たとへ)軍中(ぐんちう)とはいへ独身(どくしん)生活(せいくわつ)とは(おそ)()つた(こと)(ござ)います』
059 鬼春別(おにはるわけ)はカルナ(ひめ)阿諛(あゆ)諂侫(てんねい)言葉(ことば)()()けて、060(にはか)態度(たいど)一変(いつぺん)し、061閻魔顔(えんまがほ)(たちま)地蔵顔(ぢざうがほ)(へん)じて(しま)つた。062そして言葉(ことば)やさしく、063カルナに(むか)ひ、
064鬼春別(おにはるわけ)成程(なるほど)065其方(そなた)()はるる(とほ)りだ。066久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)辞職(じしよく)(いた)すと()ふなり、067さすれば拙者(せつしや)(ただ)一人(ひとり)068(この)軍隊(ぐんたい)統率(とうそつ)するには、069(もつとも)不便(ふべん)(かん)ずる次第(しだい)だ。070其方(そなた)(さつ)する(ところ)071高等(かうとう)教育(けういく)()けてる(やう)だから、072(をんな)だつて将軍(しやうぐん)(つと)まらない(はず)はあるまい。073只今(ただいま)より久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(あと)(おそ)はしめ、074女将軍(ぢよしやうぐん)として(にん)ずるであらう。075伊邪那岐(いざなぎの)大神(おほかみ)黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)(たたか)ひに、076(まつ)(たけ)(うめ)女将軍(ぢよしやうぐん)使(つか)はし、077大勝利(だいしようり)()られた(ため)しもある。078女房(にようばう)としておくのは軍律(ぐんりつ)(そむ)くかは()らねども、079将軍(しやうぐん)として相並(あひなら)軍機(ぐんき)(つく)すは軍律(ぐんりつ)違反(ゐはん)でもない』
080勝手(かつて)理窟(りくつ)(ひね)()し、081カルナ(ひめ)自分(じぶん)のものにせむと(はや)くも野心(やしん)(おこ)()した。
082カルナ(ひめ)『ハイ、083有難(ありがた)(ござ)います。084(わらは)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(さま)が、085軍籍(ぐんせき)将軍(しやうぐん)としてゐられるのが大変(たいへん)()()りましたので、086(じつ)(ところ)仮情約(かりじやうやく)締結(ていけつ)(いた)しましたなれど、087(をんな)(こころ)(うば)はれ、088千騎(せんき)一騎(いつき)場合(ばあひ)に、089将軍職(しやうぐんしよく)()するといふやうな(こし)(よわ)いハイカラ男子(だんし)にはホトホト愛想(あいさう)()きまして(ござ)います。090何卒(なにとぞ)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)091(あは)れな(をんな)(ござ)いますから何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)可愛(かあい)がつて(いただ)きたう(ござ)います。092(その)(かは)(わらは)はあらむ(かぎ)りのベストを(つく)し、093(その)任務(にんむ)(はづか)しめない(かんが)へで(ござ)います』
094 久米彦(くめひこ)(あわて)てカルナ(ひめ)(くち)()をあてる(やう)(ふう)で、
095久米彦(くめひこ)『イヤイヤ、096カルナ殿(どの)097(けつ)して拙者(せつしや)辞職(じしよく)(いた)さぬ。098()安心(あんしん)なされ、099鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(あま)拙者(せつしや)恋愛(れんあい)干渉(かんせう)なさるものだから、100つひ()(あが)りになつて、101辞職(じしよく)(いた)すと(まを)したのだよ。102ここ(まで)()()げた地位(ちゐ)を、103さうムザムザと()てる馬鹿者(ばかもの)があるか、104よう(かんが)へてみよ。105吾々(われわれ)自由(じいう)意志(いし)束縛(そくばく)し、106圧迫(あつぱく)せむとする(もの)あらば、107仮令(たとへ)上官(じやうくわん)(いへど)自己(じこ)保護(ほご)(ため)()()ててみせる。108マアマア安心(あんしん)(いた)すがよい、109かう()えても拙者(せつしや)沈勇(ちんゆう)だ。110ハツハハハ』
111カルナ(ひめ)『ああさうで(ござ)いましたか、112それを()いてヤツと安心(あんしん)(いた)しました、113(しか)らば貴方(あなた)(さま)夫婦(ふうふ)たることを予約(よやく)(いた)しませう。114ねえ久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(さま)
115 鬼春別(おにはるわけ)はムツとした(かほ)(また)もや(いか)()し、
116鬼春別(おにはるわけ)『いかに久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)軍職(ぐんしよく)(とど)まらむと(いた)(とも)117(そう)司令官(しれいくわん)たる(それがし)承諾(しようだく)(いた)さぬ(かぎ)りは駄目(だめ)だ。118一旦(いつたん)武士(ぶし)(くち)から辞職(じしよく)申出(まをしいで)以上(いじやう)は、119ヨモヤ撤回(てつくわい)することは出来(でき)まい、120それでは男子(だんし)とは(まを)されぬ。121覆水(ふくすゐ)(ぼん)(かへ)らず、122()いた(つば)()めない道理(だうり)123鬼春別(おにはるわけ)断然(だんぜん)久米彦(くめひこ)(しよく)()き、124カルナ(ひめ)(もつ)副将軍(ふくしやうぐん)(いた)すに()つて、125久米彦(くめひこ)殿(どの)126(けん)投出(なげだ)し、127軍服(ぐんぷく)着替(きか)へて、128早々(さうさう)(この)()退却(たいきやく)めされ』
129久米彦(くめひこ)『これは(また)理不尽(りふじん)な、130何咎(なにとが)あつて、131大黒主(おほくろぬし)より任命(にんめい)されたる拙者(せつしや)将軍職(しやうぐんしよく)褫奪(ちだつ)せんとなさるるか、132チツとは僣越(せんゑつ)(ござ)らうぞや。133そんな乱暴(らんばう)()命令(めいれい)には、134久米彦(くめひこ)(だん)じて服従(ふくじゆう)(つかまつ)りませぬ』
135(こゑ)(とが)らし抗弁(かうべん)した。
136鬼春別(おにはるわけ)(なん)()つても、137上官(じやうくわん)命令(めいれい)大黒主(おほくろぬし)命令(めいれい)だ。138グヅグヅ()はずに退却(たいきやく)めされ。139カルナ殿(どの)140如何(いかが)(ござ)る。141拙者(せつしや)権威(けんゐ)(この)(とほ)り、142仮令(たとへ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)たり(とも)143(ただ)一言(いちごん)(もと)左右(さいう)する権能(けんのう)があるのだからなア、144ワツハハハハ』
145カルナ(ひめ)成程(なるほど)貴方(あなた)本当(ほんたう)(この)もしい将軍(しやうぐん)(さま)146(わたし)147貴方(あなた)になれば(いのち)まで差上(さしあ)げます、148本当(ほんたう)凛々(りり)しい威厳(ゐげん)(そな)はつた、149絶対(ぜつたい)無限(むげん)権力者(けんりよくしや)(ござ)いますな』
150 久米彦(くめひこ)形勢(けいせい)益々(ますます)不良(ふりやう)()て、151焼糞(やけくそ)になり鬼春別(おにはるわけ)(ねめ)つけ、152(かたな)(つか)()をかけて、153(ただ)一打(ひとうち)()(たふ)し、154一層(いつそう)(こと)155自分(じぶん)(そう)指揮官(しきくわん)とならむかと決心(けつしん)して、156(すき)(ねら)つてゐる。157鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)様子(やうす)(ただ)ならざるに(こころ)(ゆる)さず、158()らば()らむと(つか)()をかけ、159(たがひ)阿吽(あうん)(いき)()らして、160山門(さんもん)仁王(にわう)(ごと)くつつ()つてゐる。161カルナは(この)(てい)()て、
162カルナ(ひめ)『ホホホ、163(なん)とマア()両人(りやうにん)(さま)凛々(りり)しいお姿(すがた)164どちらを()ても、165(はな)あやめ、166(かふ)()らうか、167(おつ)()らうか、168(はな)(はな)169(つき)(つき)170(そろ)ひも(そろ)うた立派(りつぱ)なお(かた)(こと)171あああ(からだ)(ふた)つあつたなら、172(ひと)つは鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)(したが)ひ、173(ひと)つは久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(さま)(つか)へるのだに、174(まま)ならぬ浮世(うきよ)だなア』
175 鬼春別(おにはるわけ)176久米彦(くめひこ)はカルナの美貌(びばう)にゾツコン(こころ)(とろ)かしてゐた。177カルナの精神(せいしん)(はか)りかね、178仁王立(にわうだち)になつた(まま)179()(ばか)りキヨロつかせてゐる。180そこへワイワイとどよめき(なが)一人(ひとり)美人(びじん)()いてやつて()たのは鬼春別(おにはるわけ)副官(ふくくわん)スパールであつた。
181スパール『モシ鬼春別(おにはるわけ)(さま)182陣中(ぢんちう)(おい)斯様(かやう)美人(びじん)()()れました、183どうか貴方(あなた)御用(ごよう)()ちますればと(ぞん)じ、184ワザワザ()れて(かへ)りました。185城内(じやうない)(たたか)ひは味方(みかた)大勝利(だいしようり)186最早(もはや)後顧(こうこ)(うれひ)(ござ)いませぬ。187何卒(どうぞ)(この)(をんな)をトツクリお調(しら)(あそ)ばして、188よきに()処分(しよぶん)(ねが)ひます』
189慇懃(いんぎん)()べた。190鬼春別(おにはるわけ)(この)(こゑ)にハツとして、191(をんな)(つら)()れば、192カルナ(ひめ)(まさ)数等(すうとう)美人(びじん)である。193そして(なん)とはなしに気品(きひん)(たか)く、194(うるほ)ひのある(くろ)()195如何(いか)なる男子(だんし)悩殺(なうさつ)する(てい)魅力(みりよく)(そな)はつてゐた、196鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)との(あらそ)ひをスツカリ(わす)れて(しま)ひ、
197鬼春別(おにはるわけ)『スパール、198(その)(はう)()(やつ)だ、199ここは久米彦(くめひこ)居間(ゐま)だ、200(この)(はう)居間(ゐま)(この)(をんな)(とほ)せ』
201()(なが)(さき)()つて自分(じぶん)のテントに(かへ)り、202胡座(あぐら)をかいてニコニコして()る。203スパールは美人(びじん)(とも)なひ、204鬼春別(おにはるわけ)(まへ)()(つか)へ、
205スパール『(きみ)()命令(めいれい)()り、206城内(じやうない)(さし)()()(をり)しも、207(わが)部下(ぶか)のシヤム、208(それがし)計画(けいくわく)(どほ)りよく遵奉(じゆんぽう)して、209刹帝利(せつていり)(はじ)左守司(さもりのかみ)(その)()勇将(ゆうしやう)生捕(いけどり)(いた)しました。210最早(もはや)(たたか)ひは大勝利(だいしようり)211()安心(あんしん)なさいませ。212(しか)るに、213これなる(をんな)214ビクトル(ざん)神王(しんわう)(みや)参拝(さんぱい)途中(とちう)215癪気(しやくけ)(おこ)路上(ろじやう)(たふ)れて()りました(ゆゑ)216(すく)()げて御前(ごぜん)(ともな)(まゐ)りました。217どうぞ可愛(かあい)がつておやり(くだ)さいませ』
218 鬼春別(おにはるわけ)はニコニコし(なが)ら、
219鬼春別(おにはるわけ)『ウーン、220よく()れて()た、221褒美(はうび)(あと)より(つか)はす。222(なんぢ)(これ)より陣営(ぢんえい)(むか)ひ、223十分(じふぶん)注意(ちうい)(はら)つて、224違算(ゐさん)なき(やう)(いた)すがよからう』
225 スパールは『ハイ』と(こた)へて、226後振返(あとふりかへ)振返(ふりかへ)り、227()でて()く。
228 (この)(をんな)はヒルナ(ひめ)である。
229ヒルナ(ひめ)『これはこれは将軍(しやうぐん)(さま)230(はじ)めてお()にかかりまする。231(わらは)はスパール(さま)(おほ)せの(ごと)く、232神王(しんわう)(もり)参拝(さんぱい)途中(とちう)癪気(しやくけ)(おこ)し、233(いのち)(あやふ)(ところ)(たす)けられた(もの)(ござ)います。234バラモンの軍人(ぐんじん)といふものは(じつ)仁慈深(じんじぶか)(かた)(ばか)りですなア。235(これ)(まつた)貴方(あなた)(さま)()訓練(くんれん)(よろ)しきの(いた)(ところ)感謝(かんしや)(いた)します。236(えう)するに(わらは)(いのち)(たす)けて(くだ)さつたのは貴方(あなた)(さま)(ござ)います。237貴方(あなた)(さま)(わらは)(ため)には(いのち)(おや)さま、238不束(ふつつか)(もの)なれど、239どうぞ(なに)なりと御用(ごよう)をさして(いただ)ければ有難(ありがた)(ぞん)じます』
240 鬼春別(おにはるわけ)満面(まんめん)(ゑみ)(たた)へ、241ニコニコし(なが)ら、
242鬼春別(おにはるわけ)『ウン、243ヨシヨシ、244(なんぢ)(これ)から(この)(はう)(そば)(ちか)(つか)へて、245(それがし)顧問(こもん)となり、246内助(ないじよ)(らう)()つて(くだ)され』
247 ヒルナ(ひめ)は、
248ヒルナ(ひめ)将軍(しやうぐん)(さま)有難(ありがた)(ござ)います』
249鬼春別(おにはるわけ)()をワザと(かた)(にぎ)り、250鬚武者(ひげむしや)(ほほ)に、251(しろ)(やはら)かき(ほほ)をピタリとあてた。
252 鬼春別(おにはるわけ)はグデングデンになり、253背筋(せすぢ)(ほね)(まで)ぬかれたやうな調子(てうし)(ひめ)(ひざ)(まくら)にし、254ゴロンと(よこ)たはり、
255鬼春別(おにはるわけ)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)
256神力(しんりき)無双(むさう)大勇士(だいゆうし)
257(かみ)御言(みこと)(かうむ)りて
258(おと)名高(なだか)きエルサレム
259黄金山(わうごんさん)へと()めのぼる
260(その)(ゆき)がけの副事業(ふくじげふ)
261ビクトリヤ(じやう)をば占領(せんりやう)して
262刹帝利(せつていり)(はじ)(その)后妃(きさき)
263左守(さもり)右守(うもり)()ふも(さら)
264(もも)(いくさ)司人(つかさびと)
265(みな)(ことごと)()りなびけ
266(いくさ)予定(よてい)大勝利(だいしようり)
267帷幕(ゐばく)(うち)画策(くわくさく)
268めぐらしゐたる(をり)もあれ
269木花姫(このはなひめ)棚機(たなばた)
270(ひめ)(みこと)にまがふなる
271古今(ここん)無双(むさう)美人(びじん)其方(そなた)
272()びを(てい)してやつて()
273仁義(じんぎ)(いくさ)(てき)はない
274(わが)名声(めいせい)(あこが)れて
275やつて()たのはバラモンの
276(かみ)(みこと)()たまもの
277ホンに愉快(ゆくわい)(こと)だなア
278(となり)陣取(ぢんど)久米彦(くめひこ)
279カルナの(ひめ)とか()ふナイス
280(そば)近付(ちかづ)(やに)さがり
281(うつつ)をぬかす不態(ぶざま)さよ
282軍律(ぐんりつ)(きび)しき(なか)なれど
283(をんな)()のない久米彦(くめひこ)
284ドン栗眼(ぐりまなこ)(ほそ)うして
285此上(こよ)なき(もの)(いつくし)
286(はづか)しげもなくデレてゐる
287カルナの(ひめ)(くら)ぶれば
288(あめ)(つち)との相違(さうゐ)ある
289古今(ここん)無双(むさう)のヒルナ(ひめ)
290どこの(むすめ)()らね(ども)
291気品(きひん)(たか)(この)ナイス
292鬼春別(おにはるわけ)枕辺(まくらべ)
293(あさ)(ゆふ)なに(はべ)らして
294久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)()せたいものだ
295ああ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
296(をとこ)(うま)れた(その)甲斐(かひ)にや
297こんなナイスを一夜(いちや)でも
298宿(やど)(つま)よと(あい)しつつ
299(たの)しく(うれ)しく(この)()をば
300(わた)つて()たいものだなア
301アハハハハ、アハハハハ
302コリヤコリヤ久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)
303(おれ)腕前(うでまへ)(この)(とほ)
304女房(にようばう)容貌(きりやう)(くら)べようか
305霊相応(みたまさうおう)といふ(こと)
306ヤツパリこんな(とき)(あら)はれる
307(からす)(からす)(さぎ)(さぎ)
308権威(けんゐ)(つよ)(をとこ)には
309格別(かくべつ)綺麗(きれい)女房(にようばう)がつき()ふものだ
310(かみ)(をしへ)にウソはない
311ホンに愉快(ゆくわい)(こと)だなア
312ヒルナの(ひめ)膝枕(ひざまくら)
313こんな(ところ)久米彦(くめひこ)
314一目(ひとめ)()たならさぞや(さぞ)
315(めう)(つら)してさがるだろ
316イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒ』
317()()もなく(よだれ)(なが)し、318ヒルナ(ひめ)小袖(こそで)(とほ)して、319(やはら)かい太腿(ふともも)をぬらした。320ヒルナ(ひめ)は、
321ヒルナ(ひめ)『アレまあ、322(なん)だか(あつ)たかいと(おも)つたら、323将軍(しやうぐん)(さま)(よだれ)だわ、324ホホホホ』
325鬼春別(おにはるわけ)『オイ、326ヒルナ、327貴様(きさま)(ひと)(うた)つたら()うだ。328戦争(せんそう)大方(おほかた)カタがついたなり、329最早(もはや)殺伐(さつばつ)空気(くうき)一掃(いつさう)されるに()もなからうから、330其方(そなた)(たの)しく(かり)のホームを(つく)つて、331陣中(ぢんちう)(はな)(うた)はれる()はないか』
332ヒルナ(ひめ)『ハイ、333()勿体(もつたい)ない(その)言葉(ことば)334不束(ふつつか)(わらは)335どうぞ可愛(かあい)がつてやつて(くだ)さいませ、336左様(さやう)ならば不調法(ぶてうはふ)(なが)(うた)はして(いただ)きませう』
337(すず)のやうな(こゑ)で、338(となり)久米彦(くめひこ)やカルナ(ひめ)(きこ)えよがしに、339比較(ひかく)(てき)()(とほ)(こゑ)(うた)()した。
340ヒルナ(ひめ)(わたし)(うま)れはビクの(くに)
341キールの(さと)豪農(がうのう)
342骨姓(かばね)(いや)しき首陀(しゆだ)(いへ)
343数多(あまた)下僕(しもべ)にかしづかれ
344今日(けふ)花見(はなみ)明日(あす)(また)
345月見(つきみ)(さけ)四方(よも)八方(やも)
346山野(さんや)(あそ)贅沢(ぜいたく)
347(かぎ)りを(つく)しゐたりしが
348(わらは)侍女(ぢぢよ)のカルナ(ひめ)
349引伴(ひきつ)れまして神王(しんわう)
350(もり)参拝(さんぱい)せむものと
351スタスタ(すす)(きた)(をり)
352殺風景(さつぷうけい)軍人(いくさびと)
353(やり)(つるぎ)()きかざし
354雲霞(うんか)(ごと)(すす)()
355(その)権幕(けんまく)(おそろ)しさ
356()(のが)れむといら()ちて
357侍女(じぢよ)(わか)れてマチマチに
358(さまよ)ひゐたる(をり)もあれ
359(にはか)(おこ)癪病(しやくやまひ)
360(いのち)たえむとする(とき)
361(なさけ)(ふか)きスパールさま
362(わらは)(たす)親切(しんせつ)
363(いた)はり(なが)将軍(しやうぐん)
364御前(みまへ)(おく)らせ(たま)ひける
365ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
366盤古(ばんこ)神王(しんのう)自在天(じざいてん)
367神々(かみがみ)(さま)(おん)(めぐみ)
368(をし)(いのち)(たす)けられ
369(いま)(また)名望(めいばう)いや(たか)
370バラモン(ぐん)(そう)指揮官(しきくわん)
371鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)
372(たふと)陣営(ぢんえい)(はこ)ばれて
373(おも)ひもよらぬ()寵愛(ちようあい)
374(かうむ)(わらは)()冥加(みやうが)
375(あさひ)()(とも)(くも)(とも)
376(つき)()つとも()くるとも
377仮令(たとへ)天地(てんち)はかへる(とも)
378(つき)おち(ほし)()するとも
379(この)大恩(たいおん)はいつの()
380(わす)れませうぞバラモンの
381(いくさ)(きみ)(わらは)をば
382いや永久(とこしへ)(いつく)しみ
383(なれ)御側(みそば)朝夕(あさゆふ)
384使(つか)はせ(たま)惟神(かむながら)
385(かみ)かけ(ねん)(たてまつ)
386ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
387御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
388(うた)()はり、
389ヒルナ(ひめ)将軍(しやうぐん)(さま)390何分(なにぶん)無教育(むけういく)(わらは)391(うた)なんか()めませぬ、392何卒(どうぞ)これでこらへて(くだ)さい』
393鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、394てもさても立派(りつぱ)なものだ。395久米彦(くめひこ)(いのち)(おや)(たの)んでゐるカルナに(くら)ぶれば、396器量(きりやう)()ひ、397学識(がくしき)程度(ていど)()ひ、398(おか)(べか)らざる気品(きひん)()ひ、399年頃(としごろ)()ひ、400着物(きもの)()こなしと()ひ、401(はだ)(つや)402可愛(かあい)らしい手足(てあし)403瑪瑙(めなう)のやうな(つめ)(いろ)404どこに(てん)のうつ(ところ)のない、405最奥(さいあう)天国(てんごく)天人(てんにん)(はだし)()げるやうな天下(てんか)無二(むに)のナイスだ、406アハハハハ』
407とワザと高声(たかごゑ)にて久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)にヘケラかしてやらうと呶鳴(どな)()ててゐる。
408ヒルナ(ひめ)『ホホホホ、409(わらは)のやうな醜女(しこめ)を、410さうお()(くだ)さいますと(なん)だかクスぐつたいやうな心持(こころもち)(いた)しますワ。411将軍(しやうぐん)(さま)412貴方(あなた)(いま)(わらは)をその(やう)寵愛(ちようあい)して(くだ)さいますが、413(また)(ほか)(うつく)しき美人(びじん)(あら)はれた(とき)には、414キツと(わらは)をお()(あそ)ばすので(ござ)いませう。415それを(おも)ふと(なん)だか(うら)めしうなつて(まゐ)りましたワ』
416鬼春別(おにはるわけ)『ハハハハ、417さすがは(をんな)だ。418(なん)でもない(こと)取越(とりこし)苦労(くらう)(いた)すものでない、419其方(そなた)(ため)なら(いのち)でもやらうといふ決心(けつしん)だ』
420ヒルナ(ひめ)『ホホホホ(なん)とマア辞令(じれい)のお上手(じやうず)なお(かた)421もし(わらは)(いま)(いのち)(くだ)さいと()つたら、422すぐに臂鉄(ひぢてつ)をくはすクセに、423貴方(あなた)(をとこ)似合(にあは)愛嬌(あいけう)のよい(こと)仰有(おつしや)いますね。424流石(さすが)敏腕(びんわん)なる外交家(ぐわいかうか)(だけ)あつて、425仰有(おつしや)ることが垢抜(あかぬけ)(いた)して()りますよ、426ホホホホ』
427鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハハ』
428(えつ)()つてゐる。429そこへ久米彦(くめひこ)はヌツと(かほ)()し、
430久米彦(くめひこ)将軍殿(しやうぐんどの)431(その)狂態(きやうたい)(なん)のザマで(ござ)るか、432軍紀(ぐんき)(なん)心得(こころえ)めさる。433拙者(せつしや)()にとまつた以上(いじやう)は、434最早(もはや)了簡(れうけん)(いた)しませぬぞや』
435鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、436オイ久米彦(くめひこ)437(なん)(その)スタイルは、438(かた)まで四角(しかく)にして、439(なに)気張(きば)つてるのだ、440陣中(ぢんちう)相身互(あひみたがひ)だ、441チツと()()かさぬかい』
442久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)一寸(ちよつと)談判(だんぱん)があつて(うかが)ひました。443(しつか)()いて(いただ)()い』
444鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、445(いくさ)大方(おほかた)()んだのだから、446さう(かた)くなるものだない。447それより(はや)(かへ)つて、448カルナ(ひめ)(かた)でも()んで(もら)うたがよからうぞ』
449 ヒルナ(ひめ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)面体(めんてい)をツラツラ(なが)めて、450(ゑみ)(たた)へ、
451ヒルナ(ひめ)貴方(あなた)(さま)はバラモン軍中(ぐんちう)(おい)驍名(げうめい)かくれなき久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(さま)(ござ)いましたか、452これはこれは失礼(しつれい)(いた)しました。453(わらは)侍女(じぢよ)()世話(せわ)になつた(さう)(ござ)います。454有難(ありがた)う、455()懇情(こんじやう)(ほど)侍女(じぢよ)(かは)つて、456主人(しゆじん)(わらは)()(れい)申上(まをしあ)げます』
457 久米彦(くめひこ)自分(じぶん)折角(せつかく)()()れたカルナ(ひめ)が、458ヒルナ(ひめ)()して美人(びじん)ではあるが、459どこともなしに(おと)つてゐること、460(および)第一(だいいち)(しやく)(さは)るのは、461鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(つま)となさむとするヒルナ(ひめ)侍女(じぢよ)だといふ(こと)()いたので、462(なん)だか自分(じぶん)声望(せいばう)(きず)つけられたやうな気分(きぶん)仕出(しだ)し、463(かつ)鬼春別(おにはるわけ)(つま)侍女(じぢよ)女房(にようばう)にしたとあつては、464世間(せけん)(きこ)えも面白(おもしろ)くない、465(おな)(こと)なら、466(なん)とか()つて理窟(りくつ)をつけ、467とつ()へつこをしてやらうと、468(むし)のよい(かんが)へでやつて()たのである。469ヒルナ(ひめ)明敏(めいびん)頭脳(づなう)(はや)くも、470久米彦(くめひこ)心中(しんちう)洞察(どうさつ)した。471(なん)とかして両将軍(りやうしやうぐん)(あひだ)(すき)(しやう)ぜしめ、472バラモン(ぐん)内部(ないぶ)から破壊(はくわい)せむと(おも)(こころ)はカルナ(ひめ)同様(どうやう)である。473ヒルナはワザと(からだ)をシヨナ シヨナさせ(なが)ら、474久米彦(くめひこ)(そば)にツツと()り、475(かた)()(もち)のやうな()でグツと(にぎ)り、476二三遍(にさんぺん)(ゆす)つて、477(めう)視線(しせん)()(なが)ら、478ワザとに(ほほ)(あか)らめ、
479ヒルナ(ひめ)『ああお(はづか)しう(ござ)います』
480意味(いみ)ありげに(かほ)をかくす。481久米彦(くめひこ)益々(ますます)(えつ)()り、482(かほ)相好(さうがう)(くづ)して、
483久米彦(くめひこ)『エヘヘヘヘ、484これはこれはヒルナ(ひめ)どの、485貴女(あなた)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)と、486(すで)(すで)情約(じやうやく)締結(ていけつ)なさつた(こと)は、487隣室(りんしつ)(おい)て、488()両所(りやうしよ)()(うた)()つて(たしか)()ました。489どうぞ(はら)(わる)い、490おだてないやうにして(くだ)さいな』
491ヒルナ(ひめ)『ホホホホ(おほせ)(ごと)く、492(はづ)かし(なが)情約(じやうやく)(むす)びましたが、493まだ予定(よてい)(ござ)います。494(その)(つぎ)内定(ないてい)495(つぎ)確定(かくてい)と、496順序(じゆんじよ)(ござ)いますから、497予定(よてい)内定(ないてい)(あひだ)()うとも融通(ゆうづう)のつくもので(ござ)います。498ラブは神聖(しんせい)(ござ)いますから、499到底(たうてい)権力(けんりよく)美貌(びばう)や、500金銭(きんせん)圧迫(あつぱく)501(また)法律(はふりつ)などで()めらるべきものでは(ござ)いませぬ。502さうでなくつてはコンヂーニアル・ラブが完全(くわんぜん)成立(なりたち)ませぬからねえ。503結婚(けつこん)問題(もんだい)人生(じんせい)一代(いちだい)大切(たいせつ)(こと)(ござ)いますから、504本当(ほんたう)のディヴァイン・ラブでなければ、505(すゑ)()げられませぬから、506(をつと)(さだ)むるのは(たがひ)自由(じいう)(ござ)いますからねえ』
507 久米彦(くめひこ)(すで)にヒルナ(ひめ)自分(じぶん)秋波(しうは)をよせたものと早合点(はやがつてん)し、508色男(いろをとこ)気取(きどり)になつて(かほ)(ひも)(まで)(ほど)いてゐる、509(これ)(はん)して鬼春別(おにはるわけ)顔面(がんめん)(たちま)緊張(きんちやう)し、510(まゆ)をつり()げ、511(かほ)殺気(さつき)()びて()た。
512鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)殿(どの)513ここは拙者(せつしや)居間(ゐま)(ござ)る。514貴方(あなた)自分(じぶん)居間(ゐま)(かへ)つて軍務(ぐんむ)鞅掌(おうしやう)なされ、515不都合(ふつがふ)(ござ)るぞツ』
516久米彦(くめひこ)『ヘヘヘヘ、517拙者(せつしや)(まゐ)りますと、518(さだ)めて不都合(ふつがふ)(ござ)いませう。519(しか)らば(わが)居間(ゐま)へさがりませう。520アイヤ、521ヒルナ殿(どの)522拙者(せつしや)()いてお()(あそ)ばせ、523貴女(あなた)侍女(じぢよ)()つて()りますよ』
524ヒルナ(ひめ)『ホホホホ、525(めう)(こと)仰有(おつしや)いますね、526侍女(じぢよ)主人(しゆじん)から訪問(はうもん)するといふ道理(だうり)がどこに(ござ)いませう。527カルナ(ひめ)(はう)から(わらは)()機嫌(きげん)(うかが)ひに()(はず)(ござ)いませぬか。528どうぞカルナにさう仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ』
529久米彦(くめひこ)成程(なるほど)530(ひめ)(さま)のお言葉(ことば)には条理(でうり)()つて()ります。531(しか)らばカルナ(ひめ)(うかが)はせます、532一寸(ちよつと)()つてゐて(くだ)さい』
533鬼春別(おにはるわけ)(けが)らはしい、534カルナの(ごと)(をんな)拙者(せつしや)居間(ゐま)()()(こと)(まか)()らぬ……ヒルナ其方(そなた)(なん)(おも)ふか』
535ヒルナ(ひめ)将軍(しやうぐん)(さま)(おほせ)(とほ)り、536斯様(かやう)(たふと)きお居間(ゐま)へ、537侍女(じぢよ)などを(はべ)らすは(おそ)(おほ)(ござ)います』
538 鬼春別(おにはるわけ)顔色(かほいろ)(やはら)げ、539(やや)得意(とくい)となつて、
540鬼春別(おにはるわけ)『ああさうだらう、541ヒルナの()(とほ)りだ、542流石(さすが)才媛(さいえん)だ。543そして侍女(じぢよ)情約(じやうやく)締結(ていけつ)する(ごと)下劣(げれつ)人格者(じんかくしや)(わが)居間(ゐま)(きた)るべきものではない、544トツトと(かへ)つたがよからう久米彦(くめひこ)545これに違背(ゐはい)はあるまいな、546アハハハハ』
547久米彦(くめひこ)『これは()しからぬ。548貴方(あなた)のお(せつ)では公私(こうし)混淆(こんかう)といふもの、549貴方(あなた)将軍(しやうぐん)ならば拙者(せつしや)将軍(しやうぐん)550軍務(ぐんむ)(じやう)()(あは)せも時々(ときどき)(いた)さねばならず、551(また)吾々(われわれ)将軍(しやうぐん)としてお居間(ゐま)をお(たづ)(まを)したもの、552(けつ)して一個人(いちこじん)資格(しかく)(ござ)らぬぞ』
553鬼春別(おにはるわけ)(その)(はう)弁舌(べんぜつ)(もつ)て、554(この)()糊塗(こと)せむと(いた)(ども)555左様(さやう)(こと)巻込(まきこ)まれるやうな迂愚者(うぐしや)では(ござ)らぬ。556サ、557(すみやか)にお()ちめされ、558拙者(せつしや)のラブの妨害(ばうがい)になり(まを)す』
559 久米彦(くめひこ)軍刀(ぐんたう)をヒラリと()いて、560矢庭(やには)鬼春別(おにはるわけ)()りつけた。561鬼春別(おにはるわけ)はヒラリと(たい)をかはし(かたはら)軍刀(ぐんたう)()るより(はや)(また)もやスラリと引抜(ひきぬ)き、562カチヤカチヤと(やいば)(あは)火花(ひばな)()らし、563数十合(すうじふがふ)(およ)んだ。564されど(いづ)れも手利(てき)きと手利(てき)き、565竜虎(りうこ)(あらそ)ひ、566何時(いつ)()つべしとも()えなかつた。567(この)物音(ものおと)(おどろ)いて、568カルナ(ひめ)はヒルナ(ひめ)()(うへ)()づかひ、569(あわ)ただしく()んで()た。570ヒルナはカルナの(かほ)()るより、571()(もつ)合図(あひづ)をし、572……キツと(なか)這入(はい)るな……といふ意味(いみ)(しめ)した、573そして二人(ふたり)美人(びじん)はワザと(こは)(さう)(へや)(すみ)(つくゑ)をかぶつて(ふる)うてゐる、574そして……何方(どちら)一人(ひとり)が……(はや)くやられたら都合(つがふ)()いがと、575(こころ)(うち)(ねん)じてゐた。
576 ()かる(ところ)へ、577スパール、578エミシの両人(りやうにん)(かへ)(きた)り、579(この)(てい)()(おどろ)き、580二人(ふたり)(なか)にわつて()り、
581スパール『モシ鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(さま)582少時(しばらく)()(くだ)さいませ』
583エミシ『久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(さま) (しばら)(しばら)く』
584大手(おほて)(ひろ)げてつつ()つた。585これ(さいはひ)両人(りやうにん)(つるぎ)(さや)にをさめ、586ハアハアと(いき)()らし(なが)ら、587俄作(にはかづく)りの椅子(いす)(こし)をおろした。
588 ヒルナ(ひめ)589カルナ(ひめ)はヤツと安心(あんしん)したものの(ごと)く、590ワザと不安(ふあん)(かほ)をし(なが)ら、591ハアハアハアと(いき)(はづ)ませ、592(むね)()()ろし()たりける。
593大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於竜宮館 松村真澄録)
文芸社文庫『あらすじで読む霊界物語』絶賛発売中!
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / 本サイトに掲載されている霊界物語等の著作物の電子データは飯塚弘明ほか、多数の方々の協力によって作られました。(スペシャルサンクス) / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki