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第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
01 心転
〔1409〕
02 道謡
〔1410〕
03 万民
〔1411〕
04 真異
〔1412〕
05 飯の灰
〔1413〕
06 洗濯使
〔1414〕
第2篇 縁三寵望
07 朝餉
〔1415〕
08 放棄
〔1416〕
09 三婚
〔1417〕
10 鬼涙
〔1418〕
第3篇 玉置長蛇
11 経愕
〔1419〕
12 霊婚
〔1420〕
13 蘇歌
〔1421〕
14 春陽
〔1422〕
15 公盗
〔1423〕
16 幽貝
〔1424〕
第4篇 法念舞詩
17 万巌
〔1425〕
18 音頭
〔1426〕
19 清滝
〔1427〕
20 万面
〔1428〕
21 嬉涙
〔1429〕
22 比丘
〔1430〕
余白歌
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第三章
万民
(
まんみん
)
〔一四一一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第1篇 奇縁万情
よみ(新仮名遣い):
きえんばんじょう
章:
第3章 万民
よみ(新仮名遣い):
まんみん
通し章番号:
1411
口述日:
1923(大正12)年02月26日(旧01月11日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一同は門前にて帰宅を告げたが、門番はバラモン軍の計略を警戒して開かず、テームスを門の前まで呼んできた。万公やシーナが門内に呼びかけ、シーナの声を認めたテームスは驚喜して門を開け、一同を奥の一間に迎え入れた。
鬼春別ら四人のバラモン組と万公は、怪我をしているスミエル、スガール、シーナ、道晴別四人を別室に運んで行った。
治国別たちは下女たちに案内されて別の間に息を休め、大神に祈りを捧げていた。テームスとベリシナの老夫婦は娘たちが帰った嬉しさに、怪我人たちの部屋に入り、介抱に明け暮れて治国別たちにお礼を言うのも忘れていた。
万公はすっかり婿気取りになって振る舞ってはいたが、テームスとベリシナに、治国別たちにお礼の挨拶をするように促した。そして自分はスガールの横顔をちらちらのぞきながらであったが、甲斐甲斐しく怪我人たちの介抱をやっていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-05-09 18:30:10
OBC :
rm5503
愛善世界社版:
32頁
八幡書店版:
第10輯 45頁
修補版:
校定版:
32頁
普及版:
12頁
初版:
ページ備考:
001
鬼将軍
(
おにしやうぐん
)
と
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
に
002
恐
(
おそ
)
れられたるバラモンの
003
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
漸
(
やうや
)
くに
004
心
(
こころ
)
に
悔悟
(
くわいご
)
の
花
(
はな
)
開
(
ひら
)
き
005
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
いて
大神
(
おほかみ
)
の
006
尊
(
たふと
)
き
恵
(
めぐみ
)
を
覚
(
さと
)
りつつ
007
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
神徳
(
しんとく
)
は
008
汲
(
く
)
めども
尽
(
つ
)
きぬ
久米彦
(
くめひこ
)
が
009
スパール、エミシと
諸共
(
もろとも
)
に
010
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
も
治国別
(
はるくにわけ
)
の
011
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
012
帰順
(
きじゆん
)
しまつり
常磐木
(
ときはぎ
)
の
013
動
(
うご
)
かぬ
心
(
こころ
)
の
松彦
(
まつひこ
)
や
014
醜
(
しこ
)
の
岩窟
(
いはや
)
を
竜彦
(
たつひこ
)
の
015
司
(
つかさ
)
と
共
(
とも
)
に
阪道
(
さかみち
)
を
016
スタスタ
帰
(
かへ
)
る
神司
(
かむつかさ
)
017
道晴別
(
みちはるわけ
)
やシーナをば
018
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
ぶつて
許々多久
(
ここたく
)
の
019
罪
(
つみ
)
や
穢
(
けが
)
れの
贖
(
あがなひ
)
と
020
川
(
かは
)
の
流
(
なが
)
れもスミエルの
021
谷間
(
たにま
)
を
渉
(
わた
)
り
大神
(
おほかみ
)
に
022
誠
(
まこと
)
を
捧
(
ささ
)
げてスガール
姫
(
ひめ
)
023
万公司
(
まんこうつかさ
)
に
送
(
おく
)
られて
024
屠所
(
としよ
)
の
羊
(
ひつじ
)
のトボトボと
025
悄気返
(
せうげかへ
)
りたる
足許
(
あしもと
)
も
026
漸
(
やうや
)
く
茲
(
ここ
)
に
玉木村
(
たまきむら
)
027
テームス
館
(
やかた
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
028
月
(
つき
)
照
(
て
)
る
空
(
そら
)
の
夕間暮
(
ゆふまぐ
)
れ
029
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
汗
(
あせ
)
流
(
なが
)
し
030
息
(
いき
)
もせきせき
帰
(
かへ
)
り
着
(
つ
)
く。
031
万公
(
まんこう
)
は
表
(
おもて
)
に
立
(
た
)
ち
止
(
と
)
まり
032
大音声
(
だいおんじやう
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
033
万公
『
玉木
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
のテームスよ
034
それに
仕
(
つか
)
ふる
僕
(
しもべ
)
等
(
たち
)
035
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
凱旋
(
がいせん
)
の
036
宣伝
(
せんでん
)
将軍
(
しやうぐん
)
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れ
037
歓喜
(
くわんぎ
)
の
涙
(
なみだ
)
に
浴
(
よく
)
すべし
038
そも
吾々
(
われわれ
)
は
三五
(
あななひ
)
の
039
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
040
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一
(
いち
)
の
弟子
(
でし
)
041
万公別
(
まんこうわけ
)
の
命
(
みこと
)
ぞや
042
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
に
立籠
(
たてこ
)
もる
043
バラモン
軍
(
ぐん
)
のゼネラルと
044
羽振
(
はぶ
)
り
利
(
き
)
かした
大将
(
たいしやう
)
を
045
箒木
(
はうき
)
で
蝶
(
てふ
)
を
叩
(
たた
)
く
様
(
やう
)
に
046
いと
容易
(
やすやす
)
と
生捕
(
いけど
)
つて
047
芽出度
(
めでた
)
く
凱旋
(
がいせん
)
なしにけり
048
くめ
ども
尽
(
つ
)
きぬ
久米彦
(
くめひこ
)
の
049
悪業
(
あくごふ
)
多
(
おほ
)
き
身魂
(
みたま
)
をば
050
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
に
051
谷
(
たに
)
の
流
(
なが
)
れに
洗
(
あら
)
はれて
052
今
(
いま
)
は
誠
(
まこと
)
の
人
(
ひと
)
となり
053
スツパリもとの
生身魂
(
いくみたま
)
054
スパール、エミシのカーネルが
055
万公別
(
まんこうわけ
)
のお
伴
(
とも
)
して
056
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
を
送
(
おく
)
りつつ
057
此処
(
ここ
)
にお
詫
(
わび
)
を
致
(
いた
)
さむと
058
いと
殊勝
(
しゆしよう
)
にも
来
(
きた
)
りけり
059
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
060
松彦
(
まつひこ
)
、
竜彦
(
たつひこ
)
諸共
(
もろとも
)
に
061
尊
(
たふと
)
き
司
(
つかさ
)
にましませど
062
万公別
(
まんこうわけ
)
が
居
(
を
)
らなけりや
063
如何
(
どう
)
しても
斯
(
か
)
うしても
此
(
この
)
戦
(
いくさ
)
064
これ
程
(
ほど
)
うまく
行
(
ゆ
)
きはせぬ
065
喜
(
よろこ
)
び
玉
(
たま
)
へテームスよ
066
ベリシナ
姫
(
ひめ
)
のお
婆
(
ば
)
アさま
067
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
門
(
もん
)
開
(
あ
)
けなされ
068
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
069
これ
程
(
ほど
)
蚊
(
か
)
の
喰
(
く
)
ふ
門
(
もん
)
の
前
(
まへ
)
070
立
(
た
)
たせて
置
(
お
)
くは
失礼
(
しつれい
)
ぢや
071
万公別
(
まんこうわけ
)
もちと
困
(
こま
)
る
072
開
(
ひら
)
けよ
開
(
ひら
)
け
表門
(
おもてもん
)
073
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
も
一時
(
いつとき
)
に
074
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れたる
岩戸口
(
いはとぐち
)
075
歌舞
(
かぶ
)
音楽
(
おんがく
)
を
調
(
ととの
)
へて
076
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
を
077
早
(
はや
)
く
歓迎
(
くわんげい
)
致
(
いた
)
すべし
078
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
079
神
(
かみ
)
に
代
(
かは
)
りて
万公別
(
まんこうわけ
)
080
館
(
やかた
)
の
主
(
あるじ
)
に
気
(
き
)
をつける』
081
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
が
割
(
わ
)
れる
程
(
ほど
)
殴
(
なぐ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
082
門番
(
もんばん
)
の
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
は
万公
(
まんこう
)
の
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
いて
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせ、
083
バラモン
教
(
けう
)
の
悪神
(
あくがみ
)
が、
084
又
(
また
)
もや、
085
あんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
門
(
もん
)
を
開
(
ひら
)
かせ
倉
(
くら
)
につないで
置
(
お
)
いた
両人
(
りやうにん
)
を
奪還
(
とりかへ
)
しに
来
(
き
)
たのではあるまいかと
案
(
あん
)
じ
案
(
あん
)
じ
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
んで、
086
テームスの
前
(
まへ
)
に……
数多
(
あまた
)
の
人々
(
ひとびと
)
が
門外
(
もんぐわい
)
へ
押寄
(
おしよ
)
せ
来
(
き
)
たれり……、
087
と
報告
(
はうこく
)
した。
088
テームスは……
物騒
(
ぶつそう
)
な
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
油断
(
ゆだん
)
はならぬ……と
身仕度
(
みじたく
)
をなし
槍
(
やり
)
を
小脇
(
こわき
)
に
抱
(
かか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
089
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
はむと
密
(
ひそ
)
かに
門口
(
かどぐち
)
に
立現
(
たちあら
)
はれ、
090
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
に
隔
(
へだ
)
てられて
一行
(
いつかう
)
の
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えねども……
何
(
なん
)
だか
娘
(
むすめ
)
の
帰
(
かへ
)
つた
様
(
やう
)
な
気配
(
けはい
)
がする、
091
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
が
娘
(
むすめ
)
を
助
(
たす
)
けて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつたのではあるまいか。
092
但
(
ただ
)
しは
敵
(
てき
)
に
捕
(
と
)
らはれ
玉
(
たま
)
ひ
悲惨
(
ひさん
)
な
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
はせ
玉
(
たま
)
うたのではなからうか。
093
敵
(
てき
)
は
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じて
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
を
打滅
(
うちほろぼ
)
さむと
押寄
(
おしよ
)
せ
来
(
きた
)
りしには
非
(
あら
)
ずや……と、
094
とつおいつ
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
暫
(
しば
)
し
佇
(
たたず
)
み
考
(
かんが
)
へてゐる。
095
シーナは
傷
(
きず
)
だらけの
頭
(
あたま
)
をふり
乍
(
なが
)
ら、
096
苦
(
くる
)
しさうな
声
(
こゑ
)
で、
097
シーナ『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
098
シーナで
厶
(
ござ
)
ります。
099
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
助
(
たす
)
けによつてお
嬢
(
ぢやう
)
さまと
共
(
とも
)
に
無事
(
ぶじ
)
に
皈
(
かへ
)
りました。
100
何卒
(
どうぞ
)
此
(
この
)
門
(
もん
)
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
101
と
呶鳴
(
どな
)
つて
見
(
み
)
たが、
102
どうしても
厚
(
あつ
)
い
門扉
(
もんぴ
)
に
隔
(
へだ
)
てられて
中
(
なか
)
へは
聞
(
きこ
)
えなかつた。
103
万公
(
まんこう
)
はもどかしがり
大声
(
おほごゑ
)
にて、
104
万公
(
まんこう
)
『
吾
(
われ
)
こそは、
105
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
治国別
(
はるくにわけ
)
の
片腕
(
かたうで
)
と
仕
(
つか
)
へまつる、
106
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
、
107
万公別
(
まんこうわけの
)
命
(
みこと
)
で
厶
(
ござ
)
る。
108
館
(
やかた
)
の
主
(
あるじ
)
テームス
殿
(
どの
)
、
109
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
表門
(
おもてもん
)
を
開
(
ひら
)
かれよ。
110
某
(
それがし
)
の
申
(
まを
)
す
言葉
(
ことば
)
に
間違
(
まちがひ
)
は
厶
(
ござ
)
らぬ』
111
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てた。
112
テームスは
万公
(
まんこう
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いてヤツと
安心
(
あんしん
)
し、
113
急
(
いそ
)
ぎ
門扉
(
もんぴ
)
を
開
(
ひら
)
き、
114
半信
(
はんしん
)
半疑
(
はんぎ
)
乍
(
なが
)
らよくよく
見
(
み
)
れば
月夜
(
つきよ
)
の
事
(
こと
)
とて、
115
ハツキリは
分
(
わか
)
らねど、
116
どうやら、
117
シーナを
始
(
はじ
)
め
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
が
背
(
せな
)
に
負
(
お
)
はれて
皈
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た
様子
(
やうす
)
に
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
門外
(
もんぐわい
)
へ
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
でた。
118
シーナは
背中
(
せなか
)
から、
119
シーナ『もし
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
120
お
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
けて
頂
(
いただ
)
きました。
121
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
122
と
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
に、
123
テームスは
驚喜
(
きやうき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
124
テームス『やア
皆様
(
みなさま
)
、
125
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
りました。
126
さア
何卒
(
どうぞ
)
奥
(
おく
)
へお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
127
まあまあ
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
128
よう
娘
(
むすめ
)
をあの
峻
(
きつ
)
い
阪
(
さか
)
を
負
(
お
)
うて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
129
嘸
(
さぞ
)
お
疲
(
つか
)
れで
厶
(
ござ
)
りませう』
130
と
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
感謝
(
かんしや
)
する。
131
治国別
(
はるくにわけ
)
は
一同
(
いちどう
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
門内
(
もんない
)
に
入
(
い
)
る。
132
十二
(
じふに
)
人
(
にん
)
はテームスの
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
僕
(
しもべ
)
に
灯火
(
あかり
)
を
以
(
もつ
)
て
案内
(
あんない
)
され、
133
奥
(
おく
)
の
広
(
ひろ
)
き
一間
(
ひとま
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
134
テームス、
135
ベリシナの
夫婦
(
ふうふ
)
は
余
(
あま
)
りの
嬉
(
うれ
)
しさに、
136
下女
(
げぢよ
)
や
下男
(
げなん
)
に
命
(
めい
)
じ、
137
座敷
(
ざしき
)
を
掃
(
は
)
いたり
座布団
(
ざぶとん
)
を
出
(
だ
)
したり、
138
煙草盆
(
たばこぼん
)
を
並
(
なら
)
べなどしてキリキリ
舞
(
ま
)
ひをしてゐる。
139
万公
(
まんこう
)
『テームス
殿
(
どの
)
、
140
必
(
かなら
)
ずお
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな。
141
まア
御緩
(
ごゆつく
)
りなさいませ。
142
吾々
(
われわれ
)
が
勝手
(
かつて
)
にそこらを
片
(
かた
)
づけて
休息
(
きうそく
)
させて
頂
(
いただ
)
きます。
143
もう
斯
(
か
)
うなれば
親子
(
おやこ
)
も
同然
(
どうぜん
)
ですから……』
144
と
早
(
はや
)
くも
養子
(
やうし
)
になつた
気分
(
きぶん
)
に
馴々
(
なれなれ
)
しく
云
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
した。
145
テームス『ハイ、
146
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
147
御
(
お
)
礼
(
れい
)
は
何
(
ど
)
う
申
(
まを
)
してよいやら
分
(
わか
)
りませぬ』
148
万公
(
まんこう
)
『いや
舅殿
(
しうとどの
)
、
149
若
(
わか
)
いものが
控
(
ひか
)
えて
居
(
を
)
りますれば、
150
貴方
(
あなた
)
は
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
、
151
何卒
(
どうぞ
)
緩
(
ゆつく
)
りとなさいませ。
152
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
153
シーナ、
154
スミエル
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
めスガールが
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
に
堕
(
おと
)
され
余程
(
よほど
)
体
(
からだ
)
を
痛
(
いた
)
めて
居
(
を
)
りますから
何卒
(
どうぞ
)
寝床
(
ねどこ
)
を
拵
(
こしら
)
へてやり
度
(
た
)
いものです。
155
夜具
(
やぐ
)
や
蚊帳
(
かや
)
の
用意
(
ようい
)
をせねばなりませぬが、
156
何分
(
なにぶん
)
私
(
わたし
)
はホヤホヤで
今
(
いま
)
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
ですから
家
(
いへ
)
の
勝手
(
かつて
)
は
分
(
わか
)
りませぬから
一寸
(
ちよつと
)
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ』
157
テームス『ハイ、
158
勿体
(
もつたい
)
ない。
159
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
貴方
(
あなた
)
にさせて
済
(
す
)
みますか。
160
何卒
(
どうぞ
)
御緩
(
ごゆつく
)
りして
下
(
くだ
)
さいませ』
161
万公
(
まんこう
)
『
舅殿
(
しうとどの
)
、
162
そりや
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
163
若
(
わか
)
いものが
働
(
はたら
)
かいで
誰
(
たれ
)
が
働
(
はたら
)
くものですか。
164
治国別
(
はるくにわけ
)
、
165
松彦
(
まつひこ
)
、
166
竜彦
(
たつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
には
私
(
わたし
)
が
名代
(
みやうだい
)
として
十分
(
じふぶん
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
して
置
(
お
)
きます。
167
おい
春
(
はる
)
チヤン、
168
久米
(
くめ
)
チヤン、
169
スーチヤン、
170
エーチヤン、
171
病人
(
びやうにん
)
を……いや
負傷者
(
ふしやうしや
)
を
早
(
はや
)
く
卸
(
おろ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
172
お
前
(
まへ
)
さまも
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
でした。
173
こんな
時
(
とき
)
や
図体
(
づうたい
)
の
大
(
おほ
)
きい
奴
(
やつ
)
は
重宝
(
ちようほう
)
なものだな』
174
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
下女
(
げぢよ
)
の
案内
(
あんない
)
によつて
負傷者
(
ふしやうしや
)
を
一室
(
ひとま
)
に
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
き
夜具
(
やぐ
)
を
敷
(
し
)
いて
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にソツと
寝
(
ね
)
かせ、
175
下女
(
げぢよ
)
に
介抱
(
かいほう
)
を
頼
(
たの
)
みおき、
176
もとの
居間
(
ゐま
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
177
治国別
(
はるくにわけ
)
は
松彦
(
まつひこ
)
、
178
竜彦
(
たつひこ
)
と
共
(
とも
)
に
離
(
はな
)
れの
間
(
ま
)
に
下女
(
げぢよ
)
に
案内
(
あんない
)
され、
179
一先
(
ひとま
)
づ
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
め、
180
大神
(
おほかみ
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
181
終
(
をは
)
つて
茶菓
(
さくわ
)
を
喫
(
きつ
)
し
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めてゐた。
182
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
183
久米彦
(
くめひこ
)
、
184
スパール、
185
エミシ、
186
万公
(
まんこう
)
は、
187
奥
(
おく
)
の
一室
(
ひとま
)
にグツタリとして
足
(
あし
)
を
伸
(
の
)
ばせ
自分
(
じぶん
)
按摩
(
あんま
)
を
頻
(
しき
)
りにやつてゐる。
188
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
況
(
ま
)
して
重
(
おも
)
い
人間
(
にんげん
)
を
背負
(
せお
)
つて
来
(
き
)
たのだから、
189
足
(
あし
)
も
疲
(
つか
)
れ
体
(
からだ
)
も
弱
(
よわ
)
り、
190
縄
(
なは
)
の
様
(
やう
)
になつて
腕枕
(
うでまくら
)
に
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
る。
191
テームス、
192
ベリシナの
夫婦
(
ふうふ
)
は
娘
(
むすめ
)
の
帰
(
かへ
)
つた
嬉
(
うれ
)
しさに
治国別
(
はるくにわけ
)
に
礼
(
れい
)
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も
忘
(
わす
)
れ、
193
室内
(
しつない
)
をウロウロし
乍
(
なが
)
ら
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
負傷者
(
ふしやうしや
)
が
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
居間
(
ゐま
)
へ
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
み、
194
ベリシナは
二人
(
ふたり
)
の
娘
(
むすめ
)
の
介抱
(
かいほう
)
にかかり、
195
テームスは
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
196
シーナの
枕許
(
まくらもと
)
に
坐
(
すわ
)
つて
体
(
からだ
)
を
擦
(
さす
)
り
労
(
いたは
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
197
何
(
いづ
)
れも
深
(
ふか
)
い
穴
(
あな
)
へ
吊
(
つ
)
り
下
(
お
)
ろされ
体
(
からだ
)
を
何処
(
どこ
)
ともなく
痛
(
いた
)
めて
思
(
おも
)
ふやうに
動
(
うご
)
かないのを、
198
やつと
安心
(
あんしん
)
したので
気
(
き
)
も
緩
(
ゆる
)
みグツタリとなつて、
199
物
(
もの
)
をも
云
(
い
)
はずベツドの
上
(
うへ
)
で
苦
(
くる
)
しげな
息
(
いき
)
を
吐
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
200
両親
(
りやうしん
)
は
能
(
あた
)
ふ
限
(
かぎ
)
りの
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
して
介抱
(
かいほう
)
に
余念
(
よねん
)
なく、
201
治国別
(
はるくにわけ
)
の
事
(
こと
)
を
殆
(
ほとん
)
ど
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
202
万公
(
まんこう
)
は
老夫婦
(
らうふうふ
)
が
娘
(
むすめ
)
二人
(
ふたり
)
と
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
203
シーナを
何処
(
どこ
)
かへ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つたきり、
204
顔
(
かほ
)
をも
出
(
だ
)
さぬのでチツとばかり
癪
(
しやく
)
に
触
(
さは
)
つたと
見
(
み
)
え、
205
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
でそこらにウロウロしてゐる
下女
(
げぢよ
)
を
捉
(
とら
)
まへ、
206
『
茶
(
ちや
)
を
汲
(
く
)
め、
207
足
(
あし
)
を
揉
(
も
)
め、
208
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐるか』と
早
(
はや
)
くも
若主人
(
わかしゆじん
)
気取
(
きどり
)
になつて
呶鳴
(
どな
)
りまはして
居
(
ゐ
)
る。
209
万公
(
まんこう
)
『
肝腎
(
かんじん
)
の
娘
(
むすめ
)
番頭
(
ばんとう
)
を
助
(
たす
)
けられ
210
テームス
老爺
(
おやぢ
)
礼
(
れい
)
さへ
云
(
い
)
はず。
211
愛
(
いと
)
し
娘
(
ご
)
の
帰
(
かへ
)
りたるより
狼狽
(
うろた
)
へて
212
俺
(
おれ
)
やお
客
(
きやく
)
を
忘
(
わす
)
れよつたか。
213
万公
(
まんこう
)
はスガール
姫
(
ひめ
)
の
主人公
(
しゆじんこう
)
214
神
(
かみ
)
が
許
(
ゆる
)
した
仲
(
なか
)
と
知
(
し
)
らぬか。
215
僕
(
しもべ
)
共
(
ども
)
早
(
はや
)
く
主人
(
あるじ
)
を
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
216
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
愛相
(
あいさう
)
せぬかい。
217
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
大
(
おほ
)
きな
家
(
いへ
)
に
住
(
す
)
み
乍
(
なが
)
ら
218
何故
(
なぜ
)
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか』
219
下女
(
げぢよ
)
『テームスの
主人
(
あるじ
)
の
君
(
きみ
)
は
姉妹
(
おとどい
)
の
220
姿
(
すがた
)
眺
(
なが
)
めて
狼狽
(
うろた
)
へ
玉
(
たま
)
ひぬ。
221
今
(
いま
)
少時
(
しば
)
し
待
(
ま
)
たせ
玉
(
たま
)
へよ
神司
(
かむづかさ
)
222
水
(
みづ
)
の
出鼻
(
でばな
)
は
詮術
(
せんすべ
)
もなし』
223
万公
(
まんこう
)
『それだとて
義理
(
ぎり
)
人情
(
にんじやう
)
は
知
(
し
)
るだらう
224
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
を
袖
(
そで
)
にするのか』
225
下女
(
げぢよ
)
『
私
(
わたくし
)
はお
民
(
たみ
)
と
申
(
まを
)
す
賤女
(
はしため
)
よ
226
そんなむつかしい
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らない。
227
三四
(
さんよつ
)
日前
(
かまへ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
下女
(
げぢよ
)
なれば、
228
宅
(
うち
)
の
様子
(
やうす
)
が
分
(
わか
)
りませうか。
229
その
様
(
やう
)
な
駄々
(
だだ
)
を
捏
(
こ
)
ねずに
今晩
(
こんばん
)
は
230
おとなしうして
寝
(
やす
)
み
遊
(
あそ
)
ばせ。
231
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
苦
(
くる
)
しみを
232
如何
(
どう
)
して
親
(
おや
)
が
見捨
(
みす
)
てられよか。
233
テームスの
主人
(
あるじ
)
の
君
(
きみ
)
は
愛
(
いと
)
し
娘
(
ご
)
に
234
心
(
こころ
)
悩
(
なや
)
ませ
煩
(
わづら
)
ひ
玉
(
たま
)
ふ。
235
お
前
(
まへ
)
さま
屈強
(
くつきやう
)
な
身
(
み
)
をば
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
236
チツとハキハキ
働
(
はたら
)
きなされ。
237
俺
(
わし
)
だとて
之
(
これ
)
程
(
ほど
)
広
(
ひろ
)
い
家中
(
いへなか
)
を
238
手
(
て
)
の
廻
(
まは
)
りさうな
事
(
こと
)
がないぞえ。
239
緩
(
ゆつく
)
りと
今夜
(
こんや
)
は
此処
(
ここ
)
に
落着
(
おちつ
)
いて
240
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けたなら
噪
(
はつしや
)
ぎなされ』
241
万公
(
まんこう
)
『こりやお
民
(
たみ
)
女
(
をんな
)
の
癖
(
くせ
)
に
益良夫
(
ますらを
)
を
242
嘲弄
(
てうろう
)
致
(
いた
)
すか
迂愚者
(
うつけもの
)
奴
(
め
)
が』
243
お
民
(
たみ
)
『
此
(
この
)
家
(
いへ
)
に
来
(
く
)
ると
匆々
(
さうさう
)
若主人
(
わかしゆじん
)
244
気取
(
きど
)
りて
厶
(
ござ
)
る
人
(
ひと
)
の
可笑
(
をか
)
しき。
245
心
(
こころ
)
よきお
嬢
(
ぢやう
)
さまだと
云
(
い
)
つたとて
246
お
好
(
す
)
き
遊
(
あそ
)
ばす
筈
(
はず
)
はないぞや。
247
何故
(
なぜ
)
なればお
前
(
まへ
)
の
姿
(
すがた
)
は
阿呆面
(
あはうづら
)
248
顔
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
まで
解
(
ほど
)
けてる
故
(
ゆゑ
)
』
249
万公
(
まんこう
)
『
賤女
(
はしため
)
の
癖
(
くせ
)
にべらべらたたく
奴
(
やつ
)
250
腮
(
あご
)
外
(
はづ
)
さうか
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
で』
251
万公
(
まんこう
)
は
斯
(
こ
)
んな
下女
(
げぢよ
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
つてもつまらない、
252
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
主人
(
しゆじん
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り
出
(
だ
)
し、
253
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
をさせなくちや
済
(
す
)
まないと、
254
お
民
(
たみ
)
を
案内
(
あんない
)
させて、
255
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
256
見
(
み
)
れば
夫婦
(
ふうふ
)
は
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
負傷者
(
ふしやうしや
)
を
交
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
親切
(
しんせつ
)
に
介抱
(
かいほう
)
してゐる。
257
万公
(
まんこう
)
『やア
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
、
258
介抱
(
かいほう
)
は
私
(
わたし
)
が
引受
(
ひきう
)
けてやります。
259
何卒
(
どうぞ
)
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
にお
礼
(
れい
)
の
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
に
御
(
お
)
入来
(
いで
)
下
(
くだ
)
さいませ。
260
彼処
(
あちら
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
られますから』
261
テームス『ハイ、
262
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
ります。
263
あまり
嬉
(
うれ
)
しいのと、
264
娘
(
むすめ
)
の
介抱
(
かいほう
)
に
気
(
き
)
をとられ、
265
肝腎
(
かんじん
)
の
命
(
いのち
)
の
親様
(
おやさま
)
に
一言
(
ひとこと
)
の
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
すのも
忘
(
わす
)
れてゐました』
266
ベリシナ『
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
りました。
267
そんなら
老爺
(
おやぢ
)
どの、
268
あなた、
269
済
(
す
)
まないけれど
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
に、
270
取敢
(
とりあへ
)
ずお
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
271
私
(
わたし
)
はここで
介抱
(
かいほう
)
して
居
(
を
)
りますから』
272
テームスは
肯
(
うなづ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
273
慌
(
あわ
)
ただしく
廊下
(
らうか
)
を
渡
(
わた
)
つて
治国別
(
はるくにわけ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
274
万公
(
まんこう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にスガールの
横顔
(
よこがほ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
275
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
276
シーナの
介抱
(
かいほう
)
を
甲斐
(
かひ
)
々々
(
がひ
)
しくやつて
居
(
ゐ
)
た。
277
(
大正一二・二・二六
旧一・一一
於竜宮館
北村隆光
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