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第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
01 心転
〔1409〕
02 道謡
〔1410〕
03 万民
〔1411〕
04 真異
〔1412〕
05 飯の灰
〔1413〕
06 洗濯使
〔1414〕
第2篇 縁三寵望
07 朝餉
〔1415〕
08 放棄
〔1416〕
09 三婚
〔1417〕
10 鬼涙
〔1418〕
第3篇 玉置長蛇
11 経愕
〔1419〕
12 霊婚
〔1420〕
13 蘇歌
〔1421〕
14 春陽
〔1422〕
15 公盗
〔1423〕
16 幽貝
〔1424〕
第4篇 法念舞詩
17 万巌
〔1425〕
18 音頭
〔1426〕
19 清滝
〔1427〕
20 万面
〔1428〕
21 嬉涙
〔1429〕
22 比丘
〔1430〕
余白歌
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第四章
真異
(
まちがひ
)
〔一四一二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第1篇 奇縁万情
よみ(新仮名遣い):
きえんばんじょう
章:
第4章 真異
よみ(新仮名遣い):
まちがい
通し章番号:
1412
口述日:
1923(大正12)年02月26日(旧01月11日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
テームスとベリシナは、治国別たちの居る部屋ではなく、鬼春別たち元バラモン軍指揮官たちのいる部屋に来てしまった。そしてほの暗い行灯の光に、治国別ではないと気付かず、丁寧に娘たち救出のお礼を述べた。
鬼春別は自分がこの事件の張本人であり、心苦しさに自分が鬼春別本人であることを伝えることができなかった。そこで春別と名乗ってその場をごまかそうとした。
テームスは三五教の宣伝使一行だと思って、バラモン軍の悪行を並べ立てたので、鬼春別と久米彦らは慙愧の念に堪えず、しばし油をしぼられた。
そこへ治国別、松彦、竜彦が下女に案内されて部屋にやってきた。治国別は挨拶をなし、ここにいるのは元バラモン軍の鬼春別、久米彦たち本人だとテームスとベリシナに告げた。テームスは驚いたが、治国別は彼ら四人はもう自分の弟子になったことを説明し、テームスたちを安堵させた。
一同はそれぞれ挨拶と述懐の歌を交わした。テームス夫婦はその場を下がり、怪我人の看病に戻って行った。
後には下女が治国別たちの御膳をしつらえた。そこへ万公が戻ってきて、自分の膳がないことに不平を洩らした。竜彦は、スガールの顔が万公にとっての御馳走だろうとからかった。
それでも一人前の食欲がある、と万公が不平を鳴らすので、竜彦はさらにからかって、お前はテームス家の婿になるのだから主人側だろう、給仕をする側だと持ち上げた。万公はすっかり乗せられてその気になり、客人たちをもっともてなす御馳走を出すのだと、慌てて炊事場に進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5504
愛善世界社版:
45頁
八幡書店版:
第10輯 49頁
修補版:
校定版:
45頁
普及版:
17頁
初版:
ページ備考:
001
バラモン
教
(
けう
)
のゼネラルと
002
羽振
(
はぶり
)
利
(
き
)
かした
久米彦
(
くめひこ
)
や
003
鬼春別
(
おにはるわけ
)
を
初
(
はじ
)
めとし
004
スパール、エミシの
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れ
005
玉木
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
の
家
(
いへ
)
に
006
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
手負
(
ておひ
)
を
送
(
おく
)
りつけ
007
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め
声
(
こゑ
)
潜
(
ひそ
)
め
008
悔悟
(
くわいご
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮果
(
くれは
)
てて
009
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
吐
(
つ
)
きながら
010
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
011
唱
(
とな
)
ふる
声
(
こゑ
)
も
口
(
くち
)
の
中
(
うち
)
012
悄気
(
せうげ
)
かへり
居
(
を
)
る
其
(
その
)
席上
(
せきじやう
)
へ
013
廊下
(
らうか
)
の
板
(
いた
)
の
間
(
ま
)
轟
(
とどろ
)
かし
014
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るテームスは
015
日影
(
ひかげ
)
も
細
(
ほそ
)
き
部屋
(
へや
)
の
内
(
うち
)
016
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
敵将
(
てきしやう
)
が
017
帰順
(
きじゆん
)
し
来
(
きた
)
るを
知
(
し
)
らずして
018
娘
(
むすめ
)
二人
(
ふたり
)
を
救
(
すく
)
ひたる
019
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
と
020
老
(
おい
)
の
眼
(
まなこ
)
に
見誤
(
みあやま
)
り
021
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
をついて
022
いと
慇懃
(
いんぎん
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
を
023
初
(
はじ
)
めかけしぞ
可笑
(
をか
)
しけれ。
024
仄暗
(
ほのぐら
)
き
行灯
(
あんどう
)
の
光
(
ひかり
)
に
主
(
あるじ
)
のテームスは、
025
鬼春別
(
おにはるわけ
)
一行
(
いつかう
)
とは
知
(
し
)
らず、
026
叮嚀
(
ていねい
)
に
両手
(
りやうて
)
を
支
(
つか
)
へ、
027
テームス『これはこれは
皆様
(
みなさま
)
よくまア
助
(
たす
)
けてやつて
下
(
くだ
)
さいました。
028
さうして
貴方
(
あなた
)
は
誰人
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
いましたかなア』
029
と
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
顔
(
かほ
)
をそつと
覗
(
のぞ
)
いた。
030
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
言句
(
げんく
)
につまり、
031
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
032
鬼春
(
おにはる
)
『ハイ、
033
私
(
わたし
)
は……
春別
(
はるわけ
)
で
厶
(
ござ
)
いまする。
034
イヤ、
035
もう
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけました』
036
テームス『どう
致
(
いた
)
しまして、
037
此方
(
こなた
)
の
方
(
はう
)
から
甚
(
えら
)
い
心配
(
しんぱい
)
をかけ
何
(
なん
)
とも
申訳
(
まをしわけ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
038
貴方
(
あなた
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
さまと
承
(
うけたま
)
はりましたが、
039
今
(
いま
)
承
(
うけたま
)
はれば
春別
(
はるわけ
)
と
仰有
(
おつしや
)
いました。
040
アアこれはこれは
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました。
041
何分
(
なにぶん
)
年
(
とし
)
がよつて
記憶
(
きおく
)
が
悪
(
わる
)
いので
人
(
ひと
)
の
名
(
な
)
迄
(
まで
)
忘
(
わす
)
れます。
042
いやもう
年
(
とし
)
は
取
(
と
)
り
度
(
た
)
くはありませぬ。
043
時
(
とき
)
に
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
、
044
随分
(
ずいぶん
)
苦心
(
くしん
)
で
厶
(
ござ
)
いましたでせうなア。
045
お
骨折
(
ほねをり
)
お
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します』
046
鬼春
(
おにはる
)
『いやもう
其
(
その
)
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
には
痛
(
いた
)
み
入
(
い
)
ります』
047
テームス『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもバラモン
教
(
けう
)
の
悪神
(
あくがみ
)
、
048
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
049
久米彦
(
くめひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
鬼
(
おに
)
のやうな
悪党
(
あくたう
)
に
捕
(
とら
)
へられたのですから、
050
嘸
(
さぞ
)
娘
(
むすめ
)
もえぐい
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたで
厶
(
ござ
)
いませう。
051
さうして、
052
奥眼
(
おくめ
)
とか
久米彦
(
くめひこ
)
とか
云
(
い
)
ふ
狒々
(
ひひ
)
のやうな
男
(
をとこ
)
がついて
居
(
ゐ
)
るのだから
定
(
さだ
)
めし
娘
(
むすめ
)
は
操
(
みさを
)
を
汚
(
けが
)
されたで
厶
(
ござ
)
いませうなア』
053
鬼春
(
おにはる
)
『いや
決
(
けつ
)
して
其
(
その
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
054
仲々
(
なかなか
)
貴方
(
あなた
)
の
娘
(
むすめ
)
さまだけあつて
確
(
しつか
)
りしたものです。
055
それは
私
(
わたし
)
が
保証
(
ほしよう
)
致
(
いた
)
します』
056
テームス『
仮令
(
たとへ
)
身
(
み
)
を
汚
(
けが
)
されても
命
(
いのち
)
さへ
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
れば
結構
(
けつこう
)
だと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
りましたが、
057
少々
(
せうせう
)
怪我
(
けが
)
をして
居
(
を
)
りますけれど
肝腎
(
かんじん
)
のものに
別状
(
べつじやう
)
さへなくば、
058
こんな
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
059
何分
(
なにぶん
)
養子
(
やうし
)
をせねばならぬ
娘
(
むすめ
)
ですから、
060
親
(
おや
)
としても
随分
(
ずいぶん
)
心配
(
しんぱい
)
で
厶
(
ござ
)
います』
061
鬼春
(
おにはる
)
『
成程
(
なるほど
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
お
察
(
さつ
)
し
致
(
いた
)
します。
062
実
(
じつ
)
は
拙者
(
せつしや
)
はあの
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
います……。
063
やつぱり……
春別
(
はるわけ
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
064
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
無事
(
ぶじ
)
に
治
(
をさ
)
まつたので
厶
(
ござ
)
いますから、
065
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
何彼
(
なにか
)
の
思召
(
おぼしめ
)
しとお
諦
(
あきら
)
めなさるがよろしう
厶
(
ござ
)
いませう』
066
久米
(
くめ
)
『
初
(
はじ
)
めてお
目
(
め
)
にかかります。
067
貴方
(
あなた
)
は
此
(
この
)
家
(
や
)
の
主様
(
あるじさま
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
068
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
のない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
069
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
により
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
道
(
みち
)
に
救
(
すく
)
はれ、
070
こんな
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
071
貴方
(
あなた
)
も
嘸
(
さぞ
)
お
喜
(
よろこ
)
び、
072
お
目出度
(
めでた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
073
テームス『イヤ
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
074
第一
(
だいいち
)
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
のお
骨折
(
ほねを
)
り、
075
次
(
つぎ
)
には
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
のお
助
(
たす
)
けによりて、
076
あの
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
鬼春別
(
おにはるわけ
)
や、
077
久米彦
(
くめひこ
)
の、
078
泥棒
(
どろばう
)
将軍
(
しやうぐん
)
に
拐
(
かどわ
)
かされた
所
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けて
頂
(
いただ
)
き、
079
天
(
てん
)
にも
昇
(
のぼ
)
る
心持
(
こころもち
)
で
厶
(
ござ
)
います。
080
もし
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
、
081
娘
(
むすめ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして
実
(
じつ
)
にお
礼
(
れい
)
の
申
(
まを
)
しやうが
厶
(
ござ
)
りませぬが、
082
又
(
また
)
あの
泥棒
(
どろばう
)
将軍
(
しやうぐん
)
が、
083
貴方
(
あなた
)
のお
帰
(
かへ
)
りになつた
後
(
あと
)
は
沢山
(
たくさん
)
の
雑兵
(
ざふひやう
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ、
084
娘
(
むすめ
)
を
取
(
と
)
り
返
(
かへ
)
しに
来
(
く
)
るやうな
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いますまいか、
085
それが
第一
(
だいいち
)
気
(
き
)
にかかります』
086
久米
(
くめ
)
『
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
087
治国別
(
はるくにわけ
)
さま、
088
松彦
(
まつひこ
)
さま、
089
竜彦
(
たつひこ
)
さま、
090
万公
(
まんこう
)
さまが、
091
すつかり
岩窟
(
いはや
)
退治
(
たいぢ
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
092
二人
(
ふたり
)
の
頭
(
かしら
)
に
大鉄槌
(
だいてつつい
)
を
喰
(
くら
)
はし、
093
三千
(
さんぜん
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
を
解散
(
かいさん
)
し、
094
後顧
(
こうこ
)
の
患
(
うれひ
)
のなきやうにして
此処
(
ここ
)
にお
帰
(
かへ
)
りになりましたから、
095
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
096
テームス『
遉
(
さすが
)
は
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
、
097
其
(
その
)
外
(
ほか
)
のお
弟子
(
でし
)
様
(
さま
)
、
098
実
(
じつ
)
に
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますな。
099
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
分
(
わ
)
けると
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
100
やつぱり
善
(
ぜん
)
は
最後
(
さいご
)
までゆけば
勝
(
か
)
つもので
厶
(
ござ
)
います。
101
そして
鬼春別
(
おにはるわけ
)
や、
102
久米彦
(
くめひこ
)
の
泥棒
(
どろばう
)
人足
(
にんそく
)
は、
103
首
(
くび
)
でも
吊
(
つ
)
つて
死
(
し
)
にましたか、
104
但
(
ただ
)
しは
切腹
(
せつぷく
)
でも
致
(
いた
)
しましたか、
105
それが
一
(
ひと
)
つお
土産話
(
みやげばなし
)
に
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
う
厶
(
ござ
)
います』
106
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
頭
(
かしら
)
を
掻
(
か
)
き
乍
(
なが
)
ら、
107
鬼春
(
おにはる
)
『ヘイ
将軍
(
しやうぐん
)
としての
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
108
久米彦
(
くめひこ
)
は
最早
(
もはや
)
消滅
(
せうめつ
)
致
(
いた
)
しました。
109
やがて
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
つて
貴方
(
あなた
)
にお
目
(
め
)
にかかりに
来
(
く
)
るでせう。
110
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
悪人
(
あくにん
)
と
憎
(
にく
)
まず
言葉
(
ことば
)
をかけてやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
111
テームス『
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
なれば
背
(
そむ
)
く
訳
(
わけ
)
にはゆきませぬが、
112
彼
(
あ
)
のやうな
悪党
(
あくたう
)
が
何程
(
なにほど
)
天地
(
てんち
)
が
覆
(
かへ
)
つて、
113
謝罪
(
あやま
)
つて
来
(
き
)
ましても
一口
(
ひとくち
)
言葉
(
ことば
)
をかける
所
(
どころ
)
か、
114
門内
(
もんない
)
にも
入
(
い
)
れませぬ。
115
肉
(
にく
)
を
削
(
けづ
)
り
血
(
ち
)
を
啜
(
すす
)
り、
116
骨
(
ほね
)
をはたいて
食
(
く
)
つても
虫
(
むし
)
の
納
(
をさま
)
らない
悪党
(
あくたう
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
117
何
(
なん
)
とかして
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
力
(
ちから
)
で
痕跡
(
あとかた
)
もなく
亡
(
ほろ
)
ぼしたいもので
厶
(
ござ
)
います』
118
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
治国別
(
はるくにわけ
)
、
119
松彦
(
まつひこ
)
、
120
竜彦
(
たつひこ
)
は
下女
(
げぢよ
)
の
案内
(
あんない
)
によつて
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
121
治国
(
はるくに
)
『イヤ、
122
テームス
殿
(
どの
)
、
123
私
(
わたし
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
124
悠
(
ゆつく
)
りと
休
(
やす
)
まして
頂
(
いただ
)
きました。
125
何
(
ど
)
うですかな、
126
四
(
よ
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
少
(
すこ
)
しく
気分
(
きぶん
)
はよいやうですか』
127
テームス『ヤ、
128
貴方
(
あなた
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
129
ハテナ、
130
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
厶
(
ござ
)
るお
方
(
かた
)
を
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
と
思
(
おも
)
つて
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
131
ハテナ、
132
どうも
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だなア』
133
治国
(
はるくに
)
『
此
(
この
)
方
(
かた
)
は
有名
(
いうめい
)
な
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
134
久米彦
(
くめひこ
)
の
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
及
(
および
)
スパール、
135
エミシのカーネルさまですよ』
136
テームスは
倒
(
こ
)
けぬ
許
(
ばか
)
りに
驚
(
おどろ
)
いて、
137
顔
(
かほ
)
を
真青
(
まつさを
)
にしながら
慄
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
138
テームス『モシ
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
139
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
かへ
帰
(
い
)
なして
下
(
くだ
)
さいませ。
140
何故
(
なぜ
)
こんな
奴
(
やつ
)
が
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのでせう』
141
治国
(
はるくに
)
『
此
(
この
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
方
(
かた
)
が、
142
すつかり
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
143
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さまを
背中
(
せなか
)
に
負
(
お
)
うて
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
送
(
おく
)
つて
来
(
こ
)
られたのですよ。
144
もはや
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
将軍
(
しやうぐん
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ、
145
治国別
(
はるくにわけ
)
の
弟子
(
でし
)
ですから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
146
テームスはやつと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で、
147
テームス『ヤアそれで
一寸
(
ちよつと
)
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
148
モシ
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
、
149
随分
(
ずいぶん
)
貴方
(
あなた
)
は
腹
(
はら
)
が
悪
(
わる
)
いですな。
150
なぜ
鬼春別
(
おにはるわけ
)
だと
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬのです』
151
鬼春
(
おにはる
)
『
余
(
あま
)
りお
恥
(
はづ
)
かしうて
合
(
あは
)
す
顔
(
かほ
)
がありませぬので
春別
(
はるわけ
)
と
申
(
まを
)
しました。
152
併
(
しか
)
し
最早
(
もはや
)
鬼
(
おに
)
は
取
(
と
)
れましたから
矢張
(
やつぱり
)
春別
(
はるわけ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
153
随分
(
ずいぶん
)
私
(
わたし
)
の
悪
(
あく
)
を
並
(
なら
)
べられた
時
(
とき
)
には
五臓
(
ござう
)
六腑
(
ろつぷ
)
を
抉
(
えぐ
)
られるやうに
苦
(
くる
)
しう
厶
(
ござ
)
いました。
154
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
るのは
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
、
155
スパール、
156
エミシの
改心党
(
かいしんたう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
157
何卒
(
どうぞ
)
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
恨
(
うらみ
)
を
去
(
さ
)
つて、
158
通常
(
あたりまへ
)
の
人間
(
にんげん
)
として
御
(
ご
)
交際
(
かうさい
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
159
テームス『
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
厶
(
ござ
)
る
間
(
あひだ
)
は
御
(
ご
)
交際
(
かうさい
)
をさして
頂
(
いただ
)
きませうが、
160
又
(
また
)
何時
(
なんどき
)
引
(
ひつ
)
くりかへらるるやら
分
(
わか
)
りませぬから、
161
成
(
な
)
るべくは
帰
(
かへ
)
つて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
います』
162
治国
(
はるくに
)
『
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
163
此
(
この
)
方方
(
かたがた
)
の
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
見透
(
みす
)
かして
居
(
を
)
りますから、
164
最早
(
もはや
)
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
165
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
醜神
(
しこがみ
)
に
取
(
と
)
り
憑
(
つ
)
かれたる
鬼春別
(
おにはるわけ
)
も
166
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
人
(
ひと
)
となりぬる。
167
テームスの
里庄
(
りしやう
)
の
君
(
きみ
)
よ
惟神
(
かむながら
)
168
神
(
かみ
)
のまにまに
赦
(
ゆる
)
したまはれ』
169
久米彦
(
くめひこ
)
『
大神
(
おほかみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
深
(
ふか
)
し
瑞御霊
(
みづみたま
)
170
河瀬
(
かはせ
)
の
水
(
みづ
)
を
久米彦
(
くめひこ
)
の
吾
(
われ
)
に。
171
汲
(
く
)
めど
汲
(
く
)
めど
尽
(
つ
)
きせぬ
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
は
172
流
(
なが
)
れて
霊
(
たま
)
を
洗
(
あら
)
ひましぬる』
173
テームス『
有難
(
ありがた
)
や
醜雲
(
しこぐも
)
四方
(
よも
)
に
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
り
174
今日
(
けふ
)
は
嬉
(
うれ
)
しき
月
(
つき
)
を
見
(
み
)
るかな。
175
三五
(
あななひ
)
の
月
(
つき
)
の
教
(
をしへ
)
を
守
(
まも
)
りつつ
176
いや
永久
(
とこしへ
)
に
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へませ』
177
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
曲鬼
(
まがおに
)
の
霊
(
みたま
)
を
隈
(
くま
)
なく
追
(
お
)
ひ
散
(
ち
)
らし
178
空晴別
(
そらはるわけ
)
となりし
今日
(
けふ
)
なり。
179
猪
(
ゐ
)
の
倉
(
くら
)
の
砦
(
とりで
)
に
潜
(
ひそ
)
む
曲神
(
まがかみ
)
も
180
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
に
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
りにけり。
181
曲神
(
まがかみ
)
の
去
(
さ
)
りにし
後
(
あと
)
の
久米彦
(
くめひこ
)
は
182
心
(
こころ
)
真澄
(
ますみ
)
の
空
(
そら
)
の
月
(
つき
)
かも』
183
スパール『バラモンの
軍
(
いくさ
)
の
君
(
きみ
)
に
従
(
したが
)
ひて
184
カーネルとなりし
吾
(
われ
)
ぞうたてき。
185
大神
(
おほかみ
)
の
救
(
すく
)
ひの
喇叭
(
らつぱ
)
に
醒
(
さま
)
されて
186
今
(
いま
)
は
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
覚
(
さ
)
めける』
187
テームス『
有難
(
ありがた
)
き
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
醜草
(
しこぐさ
)
も
188
薙
(
な
)
ぎ
払
(
はら
)
はずに
救
(
すく
)
ひますかも』
189
エミシ『
吾
(
われ
)
こそはエミシの
司
(
つかさ
)
三五
(
あななひ
)
の
190
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
びてエミシ
吾
(
われ
)
なり。
191
姉妹
(
おとどひ
)
の
二人
(
ふたり
)
の
御子
(
みこ
)
をいろいろと
192
悩
(
なや
)
ませまつりし
吾
(
われ
)
ぞうたてき。
193
ゼネラルや、スパール
司
(
つかさ
)
の
罪
(
つみ
)
ならず
194
エミシ
一人
(
ひとり
)
が
犯
(
おか
)
せし
醜業
(
しこわざ
)
』
195
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
友垣
(
ともがき
)
の
罪
(
つみ
)
をかくして
一人
(
ひとり
)
負
(
お
)
ふ
196
エミシの
司
(
つかさ
)
は
真人
(
まびと
)
なりけり』
197
久米彦
(
くめひこ
)
『
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
の
罪
(
つみ
)
に
責
(
せ
)
められて
198
吾
(
われ
)
は
言
(
い
)
ふべき
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
もなし』
199
治国別
(
はるくにわけ
)
『
猪
(
ゐ
)
の
倉
(
くら
)
の
山
(
やま
)
の
黒雲
(
くろくも
)
空
(
そら
)
晴
(
は
)
れて
200
立
(
た
)
ちも
及
(
およ
)
ばぬ
谷
(
たに
)
の
川霧
(
かはぎり
)
』
201
松彦
(
まつひこ
)
『
松
(
まつ
)
の
世
(
よ
)
の
魁
(
さきがけ
)
として
現
(
あ
)
れませる
202
木花姫
(
このはなひめ
)
の
恵
(
めぐみ
)
かしこし。
203
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
在
(
まさ
)
ざらば
204
いかで
救
(
すく
)
へむこの
姉妹
(
おとどひ
)
を』
205
竜彦
(
たつひこ
)
『
大神
(
おほかみ
)
の
宣
(
のり
)
のまにまにビクの
国
(
くに
)
206
早
(
は
)
や
竜彦
(
たつひこ
)
の
今日
(
けふ
)
の
嬉
(
うれ
)
しさ。
207
大空
(
おほぞら
)
に
輝
(
かがや
)
きわたる
月
(
つき
)
見
(
み
)
れば
208
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
御霊
(
みたま
)
とぞ
思
(
おも
)
ふ』
209
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
許々多久
(
ここたく
)
の
罪
(
つみ
)
や
汚
(
けが
)
れを
委曲
(
まつぶさ
)
に
210
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
したる
治国別
(
はるくにわけ
)
の
司
(
つかさ
)
。
211
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
には
仇
(
あだ
)
もなし
212
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
任
(
まか
)
す
身
(
み
)
なれば』
213
テームス『
治国別
(
はるくにわけ
)
司
(
つかさ
)
を
初
(
はじ
)
め
百人
(
ももびと
)
よ
214
今宵
(
こよひ
)
は
早
(
はや
)
く
寛
(
くつろ
)
ぎませよ。
215
吾
(
あ
)
が
娘
(
むすめ
)
父
(
ちち
)
をたづねて
待
(
ま
)
つならむ
216
許
(
ゆる
)
させたまへ
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
く
吾
(
われ
)
を』
217
治国別
(
はるくにわけ
)
『
親
(
おや
)
と
子
(
こ
)
の
情
(
なさけ
)
を
思
(
おも
)
ふ
益良雄
(
ますらを
)
は
218
いかでとがめむ
汝
(
なれ
)
の
言葉
(
ことば
)
を』
219
テームス『
有難
(
ありがた
)
し
百
(
もも
)
の
司
(
つかさ
)
よいざさらば
220
くつろぎたまへ
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
けく』
221
と
挨拶
(
あいさつ
)
しながら、
222
後
(
あと
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
しつつ、
223
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
馳
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
224
お
民
(
たみ
)
は
下女
(
げぢよ
)
下男
(
げなん
)
の
調理
(
てうり
)
せし
膳部
(
ぜんぶ
)
を
運
(
はこ
)
び
来
(
きた
)
り、
225
酒
(
さけ
)
なぞを
添
(
そ
)
へて
一同
(
いちどう
)
の
前
(
まへ
)
に
据
(
す
)
ゑ、
226
お
民
(
たみ
)
『
皆様
(
みなさま
)
、
227
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
が、
228
いかいお
世話
(
せわ
)
になられまして
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
229
何分
(
なにぶん
)
私
(
わたし
)
は
此処
(
ここ
)
へ
雇
(
やと
)
はれて
参
(
まゐ
)
りまして、
230
まだ
日日
(
ひにち
)
も
浅
(
あさ
)
う
厶
(
ござ
)
いまして
家
(
いへ
)
の
勝手
(
かつて
)
も
分
(
わか
)
りませず、
231
不都合
(
ふつがふ
)
だらけですが「どうぞ
悠
(
ゆつく
)
り
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
つて
貰
(
もら
)
へ」との
主人
(
しゆじん
)
の
云
(
い
)
ひつけで
厶
(
ござ
)
います。
232
何
(
なに
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬが
何卒
(
どうぞ
)
腹
(
はら
)
一杯
(
いつぱい
)
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
233
竜彦
(
たつひこ
)
『お
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
みの
中
(
なか
)
、
234
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
な
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
、
235
イヤもう
大変
(
たいへん
)
なお
骨折
(
ほねをり
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
236
然
(
しか
)
らば
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう。
237
サア
先生
(
せんせい
)
、
238
春別
(
はるわけ
)
様
(
さま
)
、
239
皆様
(
みなさま
)
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませうか』
240
治国
(
はるくに
)
『
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
241
此方
(
こちら
)
は
勝手
(
かつて
)
に
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しますから、
242
何卒
(
どうぞ
)
お
民
(
たみ
)
さまとやらお
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな』
243
お
民
(
たみ
)
『ハイ
不調法
(
ぶしよう
)
者
(
もの
)
がお
給仕
(
きふじ
)
を
致
(
いた
)
すよりも
御
(
ご
)
自由
(
じいう
)
にして
下
(
くだ
)
さる
方
(
はう
)
が
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
244
と
挨拶
(
あいさつ
)
もそこそこに
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
並
(
なら
)
べ
終
(
をは
)
り
炊事場
(
すゐじば
)
へさして
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
245
万公
(
まんこう
)
はテームスと
交替
(
かうたい
)
に、
246
道晴別
(
みちはるわけ
)
、
247
シーナの
介抱
(
かいほう
)
より
離
(
はな
)
れ
空腹
(
くうふく
)
を
抱
(
かか
)
へて
声
(
こゑ
)
をしるべに
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
248
万公
(
まんこう
)
『ああ
先生
(
せんせい
)
、
249
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
が
出
(
で
)
て
居
(
を
)
りますなア。
250
一
(
ひと
)
つ
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
七
(
なな
)
つヤ
一膳
(
いちぜん
)
足
(
た
)
らぬぞ。
251
万公司
(
まんこうつかさ
)
のお
膳
(
ぜん
)
はどこにあるのかなア』
252
竜彦
(
たつひこ
)
『オイ
万公
(
まんこう
)
、
253
お
前
(
まへ
)
は
既
(
すで
)
に
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
しただらう。
254
スガールさまのお
顔
(
かほ
)
さへ
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れば
無上
(
むじやう
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
だ。
255
飯
(
めし
)
の
一
(
いち
)
日
(
にち
)
や
二日
(
ふつか
)
食
(
く
)
はなくても
辛抱
(
しんばう
)
が
出来
(
でき
)
るだらう』
256
万公
(
まんこう
)
『ヘン
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
り
様
(
さま
)
、
257
木仏
(
きぶつ
)
金仏
(
かなぶつ
)
でない
限
(
かぎ
)
り、
258
矢張
(
やつぱり
)
食欲
(
しよくよく
)
が
一人前
(
いちにんまへ
)
は
厶
(
ござ
)
いますから、
259
何
(
なん
)
ならお
前
(
まへ
)
の
分
(
ぶん
)
を
拙者
(
せつしや
)
が
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませうかい』
260
竜彦
(
たつひこ
)
『ヤお
前
(
まへ
)
は
別
(
べつ
)
に
席
(
せき
)
が
拵
(
こしら
)
へてあるのだらう、
261
主人側
(
しゆじんがは
)
だからなア。
262
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
はお
客
(
きやく
)
さまだ
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもテームス
家
(
け
)
の
新養子
(
しんやうし
)
様
(
さま
)
だから、
263
些
(
ちつ
)
と
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にお
給仕
(
きふじ
)
でもしたらよからう』
264
万公
(
まんこう
)
『ウンさうだつた。
265
お
前
(
まへ
)
もさう
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るか、
266
さうすると
俺
(
おれ
)
の
考
(
かんが
)
へもちつとも
違
(
ちが
)
はぬ、
267
それでは
気楽
(
きらく
)
にお
客
(
きやく
)
さま
面
(
づら
)
もして
居
(
を
)
れまい、
268
下女
(
げぢよ
)
に
云
(
い
)
ひつけ
沢山
(
どつさり
)
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をして
上
(
あ
)
げる。
269
………
何分
(
なにぶん
)
取込
(
とりこ
)
んで
居
(
ゐ
)
るので
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をして
上
(
あ
)
げたいと
思
(
おも
)
ひましたが
俄
(
にはか
)
には
出来
(
でき
)
ませぬ。
270
又
(
また
)
明日
(
あす
)
になつたら、
271
何
(
なん
)
とか
小甘
(
こうま
)
いものでもして
上
(
あ
)
げませう。
272
まアお
客様
(
きやくさま
)
御悠
(
ごゆつ
)
くり
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
273
と
慌
(
あわて
)
て
柱
(
はしら
)
や
襖
(
ふすま
)
にゆき
当
(
あた
)
りながら
炊事場
(
すゐじば
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
274
(
大正一二・二・二六
旧一・一一
於竜宮館
加藤明子
録)
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