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第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
01 心転
〔1409〕
02 道謡
〔1410〕
03 万民
〔1411〕
04 真異
〔1412〕
05 飯の灰
〔1413〕
06 洗濯使
〔1414〕
第2篇 縁三寵望
07 朝餉
〔1415〕
08 放棄
〔1416〕
09 三婚
〔1417〕
10 鬼涙
〔1418〕
第3篇 玉置長蛇
11 経愕
〔1419〕
12 霊婚
〔1420〕
13 蘇歌
〔1421〕
14 春陽
〔1422〕
15 公盗
〔1423〕
16 幽貝
〔1424〕
第4篇 法念舞詩
17 万巌
〔1425〕
18 音頭
〔1426〕
19 清滝
〔1427〕
20 万面
〔1428〕
21 嬉涙
〔1429〕
22 比丘
〔1430〕
余白歌
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第二〇章
万面
(
まんめん
)
〔一四二八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第4篇 法念舞詩
よみ(新仮名遣い):
ほうねんぶし
章:
第20章 万面
よみ(新仮名遣い):
まんめん
通し章番号:
1428
口述日:
1923(大正12)年03月05日(旧01月18日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ビクトリヤ城では、左守キュービット、ハルナ、右守エクス、タルマンらが、ダイヤ姫が行方不明になった件について話し合っていた。
タルマンの霊力では、ダイヤ姫がベルツとシエールの反逆者によって窮地に陥っていることはわかったが、その場所まではわかりかねていた。タルマン、ハルナ、エクスは改めて神勅を乞いに玉の宮へ参拝に出かけていった。
後に残っていた左守の元に、三五教の万公たち一行が見えたとの報告が入った。左守はてっきり治国別や弟子たちも一緒だと思ったので喜んだが、使いのトマスが見に行くと、宣伝使は万公一人であり、玉置村から来たという三組の夫婦一行であった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5520
愛善世界社版:
260頁
八幡書店版:
第10輯 128頁
修補版:
校定版:
274頁
普及版:
112頁
初版:
ページ備考:
001
ビクトリヤ
城
(
じやう
)
の
評議室
(
ひやうぎしつ
)
にはタルマンを
初
(
はじ
)
め
左守司
(
さもりのかみ
)
のキユービツト、
002
ハルナ、
003
右守司
(
うもりのかみ
)
のエクスが
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
秘々
(
ひそびそ
)
相談会
(
さうだんくわい
)
を
始
(
はじ
)
めてゐる。
004
左守
(
さもり
)
『タルマン
殿
(
どの
)
、
005
寸善
(
すんぜん
)
尺魔
(
しやくま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
申
(
まを
)
してバラモン
軍
(
ぐん
)
が
退却
(
たいきやく
)
致
(
いた
)
し、
006
やれ
一安心
(
ひとあんしん
)
と
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
もなく
再
(
ふたた
)
び
右守司
(
うもりのかみ
)
のベルツ、
007
シエールが
叛逆軍
(
はんぎやくぐん
)
に
取囲
(
とりかこ
)
まれ、
008
国家
(
こくか
)
已
(
すで
)
に
危
(
あやふ
)
き
所
(
ところ
)
、
009
尊
(
たふと
)
き
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
一行
(
いつかう
)
に
助
(
たす
)
けられ、
010
これにてビクの
国家
(
こくか
)
も
刹帝利
(
せつていり
)
家
(
け
)
も
大磐石
(
だいばんじやく
)
と
思
(
おも
)
ふ
折
(
をり
)
、
011
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
王子女
(
わうしぢよ
)
が
帰
(
かへ
)
られて
益々
(
ますます
)
万代
(
ばんだい
)
不易
(
ふえき
)
と
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
、
012
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
俄
(
にはか
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
、
013
その
上
(
うへ
)
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
又
(
また
)
もやお
行衛
(
ゆくゑ
)
が
分
(
わか
)
らなくなり
再
(
ふたた
)
び
城内
(
じやうない
)
は
黒雲
(
こくうん
)
に
包
(
つつ
)
まれたも
同然
(
どうぜん
)
、
014
貴方
(
あなた
)
は
日夜
(
にちや
)
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
に
専仕
(
せんし
)
される
以上
(
いじやう
)
は、
015
此
(
この
)
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
の
原因
(
げんいん
)
や
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
行衛
(
ゆくゑ
)
がお
分
(
わか
)
りで
厶
(
ござ
)
いませう。
016
一
(
ひと
)
つ
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いものですな』
017
タルマン『
何分
(
なにぶん
)
にも
神徳
(
しんとく
)
の
足
(
た
)
らぬ
拙者
(
せつしや
)
の
事
(
こと
)
なれば、
018
ハツキリした
事
(
こと
)
は
申上
(
まをしあ
)
げ
兼
(
か
)
ねますが、
019
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
は
生霊
(
いきりやう
)
の
祟
(
たた
)
りと
存
(
ぞん
)
じます』
020
左守
(
さもり
)
『
何
(
なに
)
、
021
生霊
(
いきりやう
)
とは
何者
(
なにもの
)
の
怨霊
(
をんりやう
)
で
厶
(
ござ
)
るかな』
022
タルマン『
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
023
前
(
ぜん
)
右守司
(
うもりのかみ
)
のベルツ、
024
シエールが
怨霊
(
おんりやう
)
と
察
(
さつ
)
します。
025
拙者
(
せつしや
)
が
神殿
(
しんでん
)
に
於
(
おい
)
て
祈願
(
きぐわん
)
の
最中
(
さいちう
)
、
026
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
両人
(
りやうにん
)
が
現
(
あら
)
はれ
鬼
(
おに
)
の
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
をして
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
を
睨
(
ね
)
めつけて
居
(
を
)
りました。
027
屹度
(
きつと
)
彼奴
(
あいつ
)
の
生霊
(
いきりやう
)
に
間違
(
まちがひ
)
厶
(
ござ
)
いますまい』
028
左守
(
さもり
)
『して、
029
その
両人
(
りやうにん
)
の
所在
(
ありか
)
は
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
りますかな』
030
タルマン『ハイ、
031
何処
(
どこ
)
だかハツキリは
分
(
わか
)
りませぬが、
032
拙者
(
せつしや
)
の
霊眼
(
れいがん
)
に
映
(
えい
)
じた
所
(
ところ
)
によれば、
033
沢山
(
たくさん
)
な
魔神
(
まがみ
)
に
誑惑
(
きやうわく
)
され、
034
深山
(
しんざん
)
の
谿谷
(
けいこく
)
に
分
(
わ
)
け
入
(
い
)
り
大瀑布
(
だいばくふ
)
にうたれて
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
を
呪詛
(
じゆそ
)
の
荒行
(
あらぎやう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
る
様
(
やう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
035
左守
(
さもり
)
『その
地名
(
ちめい
)
は
分
(
わか
)
りませぬか。
036
地名
(
ちめい
)
が
分
(
わか
)
らねば、
037
せめて
此
(
この
)
城内
(
じやうない
)
から
何方
(
どちら
)
に
当
(
あた
)
ると
云
(
い
)
ふ
方角
(
はうがく
)
位
(
ぐらゐ
)
は
分
(
わか
)
るでせうな。
038
さうして
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
はまだ
見当
(
けんたう
)
がつきませぬか』
039
タルマン『ハイ、
040
何
(
なん
)
でも
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
もその
滝
(
たき
)
へソツと
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
を
癒
(
なほ
)
さむため
荒行
(
あらぎやう
)
においでになつた
所
(
ところ
)
、
041
ベルツ、
042
シエールの
両人
(
りやうにん
)
が
左右
(
さいう
)
より
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
打殺
(
うちころ
)
さむと
大刀
(
だいたう
)
を
揮
(
ふる
)
つて
攻
(
せ
)
めかけてゐる。
043
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
大木
(
たいぼく
)
の
幹
(
みき
)
を
楯
(
たて
)
にとり
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
く
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
うてゐなさる
場面
(
ばめん
)
が
霊眼
(
れいがん
)
に
映
(
えい
)
じました。
044
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
地名
(
ちめい
)
と
方角
(
はうがく
)
はまだ
分
(
わか
)
りませぬ。
045
ああ
斯
(
か
)
ふ
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
か、
046
お
弟子
(
でし
)
の
一人
(
ひとり
)
でも
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さつたらハツキリ
分
(
わか
)
るであらうに、
047
……ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
048
心
(
こころ
)
の
曇
(
くも
)
りたるタルマンに、
049
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
霊眼
(
れいがん
)
を
開
(
ひら
)
かせ
下
(
くだ
)
さいまして、
050
ハツキリした
事
(
こと
)
をお
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいます
様
(
やう
)
、
051
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
052
慎
(
つつし
)
み
畏
(
かしこ
)
みお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
053
と
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せて
祈願
(
きぐわん
)
して
居
(
ゐ
)
る。
054
然
(
しか
)
し
如何
(
どう
)
しても
地名
(
ちめい
)
や
方角
(
はうがく
)
はタルマンの
霊力
(
れいりよく
)
では
感知
(
かんち
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
055
左守
(
さもり
)
『はて、
056
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
057
如何
(
どう
)
したら
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
が
全快
(
ぜんくわい
)
致
(
いた
)
し、
058
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
無事
(
ぶじ
)
にお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さるであらう』
059
ハルナ『
皆様
(
みなさま
)
、
060
これから
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
が
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
し、
061
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
無事
(
ぶじ
)
で
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
がお
帰
(
かへ
)
りになる
様
(
やう
)
、
062
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
、
063
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
願
(
ねが
)
はうぢやありませぬか』
064
左守
(
さもり
)
『ヤ、
065
それは
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
066
第一
(
だいいち
)
左守
(
さもり
)
、
067
右守
(
うもり
)
が
命
(
いのち
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
捧
(
ささ
)
げて、
068
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
の
平癒
(
へいゆ
)
を
祈
(
いの
)
らねばなるまい。
069
之
(
これ
)
が
臣
(
しん
)
たるものの
道
(
みち
)
だ。
070
さア
右守殿
(
うもりどの
)
、
071
貴方
(
あなた
)
も
用意
(
ようい
)
なされ』
072
右守
(
うもり
)
『ハイ、
073
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
074
私
(
わたくし
)
の
考
(
かんが
)
へでは、
075
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
も
日
(
ひ
)
ならず
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばし、
076
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
も
近日
(
きんじつ
)
無事
(
ぶじ
)
にお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
します。
077
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
は
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
、
078
ハルナ
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
名代
(
みやうだい
)
としてお
詣
(
まゐ
)
りになれば
宜
(
よろ
)
しからう。
079
貴方
(
あなた
)
はビクトリヤ
家
(
け
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
080
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
側
(
そば
)
をお
離
(
はな
)
れになつてはいけませぬ。
081
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
し
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らす
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう』
082
左守
(
さもり
)
『
然
(
しか
)
らば
拙者
(
せつしや
)
は
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
側
(
そば
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
を
)
りませう。
083
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
早
(
はや
)
く
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
へ
御
(
ご
)
参詣
(
さんけい
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
084
タルマンは『
畏
(
かしこ
)
まりました』とハルナ、
085
右守
(
うもり
)
と
共
(
とも
)
に
急
(
いそ
)
ぎ
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
と
出掛
(
でか
)
けた。
086
後
(
あと
)
に
左守
(
さもり
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
思案
(
しあん
)
にくれてゐる。
087
そこへ
慌
(
あわ
)
ただしく
受付
(
うけつけ
)
のトマスは、
088
襖
(
ふすま
)
をソツと
開
(
ひら
)
き
両手
(
りやうて
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
089
トマス『
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
090
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
伴
(
とも
)
をして
来
(
こ
)
られた
万公
(
まんこう
)
さまが、
091
六人
(
ろくにん
)
連
(
づ
)
れで
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
へ
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
になり、
092
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
に
一度
(
いちど
)
お
目
(
め
)
にかかり
度
(
た
)
いと
云
(
い
)
つてお
越
(
こ
)
しになりました。
093
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
したら
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
りませうかな』
094
左守
(
さもり
)
『ウン、
095
三五教
(
あななひけう
)
の
万公
(
まんこう
)
さまが
見
(
み
)
えたか。
096
ヤ、
097
それは
有難
(
ありがた
)
い。
098
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
は
御
(
お
)
出
(
い
)
でにはなつてゐないか。
099
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
や
松彦
(
まつひこ
)
、
100
竜彦
(
たつひこ
)
様
(
さま
)
ならば
斯
(
か
)
ふ
云
(
い
)
ふ
場合
(
ばあひ
)
に
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さるであらうが
万公
(
まんこう
)
さまでは
心
(
こころ
)
許
(
もと
)
ない。
101
そして
其
(
その
)
お
連
(
つ
)
れと
申
(
まを
)
すのは
何
(
ど
)
んなお
方
(
かた
)
かな』
102
トマス『ハイ、
103
男
(
をとこ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
104
女
(
をんな
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
105
どうも
三夫婦
(
みめをと
)
らしう
厶
(
ござ
)
います。
106
島田
(
しまだ
)
潰
(
つぶ
)
して
丸髷
(
まるまげ
)
結
(
ゆ
)
うて
107
主
(
ぬし
)
と
二人
(
ふたり
)
で
宮詣
(
みやまゐ
)
り
108
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
陽気
(
やうき
)
な
様子
(
やうす
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
109
左守
(
さもり
)
『その
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふのは
治国別
(
はるくにわけ
)
さまか、
110
竜彦
(
たつひこ
)
さまの
中
(
うち
)
であらう。
111
モシ、
112
さうであつたならば
万公
(
まんこう
)
さまはどうも
八釜
(
やかま
)
しくて
困
(
こま
)
るから……
治国別
(
はるくにわけ
)
さまか
竜彦
(
たつひこ
)
さまに、
113
一寸
(
ちよつと
)
お
目
(
め
)
にかかりたいと
申
(
まを
)
して
呉
(
く
)
れ。
114
そして
外
(
ほか
)
のお
方
(
かた
)
は
応接間
(
おうせつま
)
にお
茶
(
ちや
)
でも
出
(
だ
)
して
大切
(
たいせつ
)
に
待
(
ま
)
たして
置
(
お
)
くのだ』
115
トマス『ハイ、
116
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
117
直様
(
すぐさま
)
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
を
呼
(
よ
)
んで
参
(
まゐ
)
りませう』
118
と
急
(
いそ
)
ぎ
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
現
(
あら
)
はれ、
119
トマス『さア、
120
皆
(
みな
)
さま、
121
お
待
(
ま
)
ち
遠
(
どお
)
う
厶
(
ござ
)
いました。
122
何卒
(
どうぞ
)
応接間
(
おうせつま
)
の
方
(
はう
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さい。
123
暫
(
しば
)
らくして
左守
(
さもり
)
がお
目
(
め
)
にかかります。
124
時
(
とき
)
に
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
か、
125
竜彦
(
たつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
此処
(
ここ
)
に
交
(
まじ
)
つて
居
(
を
)
られますかな。
126
根
(
ね
)
ツから
万公
(
まんこう
)
さまでは
八釜
(
やかま
)
しくて……
一寸
(
ちよつと
)
取込
(
とりこ
)
んでゐるから
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
い……と
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
が
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
られました。
127
何卒
(
どうぞ
)
万公
(
まんこう
)
さまは
此処
(
ここ
)
に
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
の
方
(
かた
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい。
128
さアお
二人
(
ふたり
)
の
中
(
うち
)
何方
(
どなた
)
でも
宜
(
よろ
)
しい、
129
お
一人
(
ひとり
)
さま、
130
左守
(
さもり
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
131
シーナ『
拙者
(
せつしや
)
は
玉置村
(
たまきむら
)
の
者
(
もの
)
でシーナと
申
(
まを
)
すもの、
132
実
(
じつ
)
は
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
媒酌
(
ばいしやく
)
によつて
里庄
(
りしやう
)
の
娘
(
むすめ
)
スミエル
姫
(
ひめ
)
と
結婚式
(
けつこんしき
)
を
挙
(
あ
)
げ、
133
今日
(
けふ
)
は
玉
(
たま
)
の
宮様
(
みやさま
)
へ
礼詣
(
れいまゐ
)
りを
致
(
いた
)
したので
厶
(
ござ
)
います』
134
トマス『ヘー、
135
それは、
136
マアマアお
目出度
(
めでた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
137
一寸
(
ちよつと
)
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
とお
洒落遊
(
しやれあそ
)
ばした
所
(
ところ
)
ですな。
138
アハ……も
一人
(
ひとり
)
のお
方
(
かた
)
、
139
貴方
(
あなた
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
140
アーシス『ハイ、
141
拙者
(
せつしや
)
は
矢張
(
やは
)
り
玉置
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
でアーシスと
申
(
まを
)
します。
142
一度
(
いちど
)
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかかり
度
(
た
)
いと
存
(
ぞん
)
じ、
143
今度
(
こんど
)
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つたお
礼
(
れい
)
に
玉
(
たま
)
の
宮様
(
みやさま
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
を
致
(
いた
)
し、
144
一寸
(
ちよつと
)
御
(
ご
)
面倒
(
めんだう
)
を
致
(
いた
)
しました』
145
トマス『ハハア、
146
それはお
目出度
(
めでた
)
う、
147
新夫
(
しんぷ
)
新婦
(
しんぷ
)
が
二組
(
ふたくみ
)
もお
揃
(
そろ
)
ひになつたのですな。
148
ヤ、
149
万公
(
まんこう
)
さま、
150
お
前
(
まへ
)
さまは
到頭
(
たうとう
)
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
に
暇
(
ひま
)
を
出
(
だ
)
され、
151
どつかの
家
(
うち
)
で
奉公
(
ほうこう
)
でもしてゐると
見
(
み
)
えますな』
152
万公
(
まんこう
)
『エエ
八釜
(
やかま
)
しく
云
(
い
)
ふな。
153
之
(
これ
)
でも
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
万公別
(
まんこうわけ
)
だ。
154
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
から
此
(
この
)
度
(
たび
)
新
(
あらた
)
に
万公別
(
まんこうわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
名
(
な
)
を
頂
(
いただ
)
いたのだ。
155
神徳
(
しんとく
)
無限
(
むげん
)
の
神司
(
かむつかさ
)
だ。
156
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
んでゐる
事
(
こと
)
があるとは
一体
(
いつたい
)
何事
(
なにごと
)
か
知
(
し
)
らぬが、
157
此
(
この
)
宣伝使
(
せんでんし
)
に
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
あれば
直様
(
すぐさま
)
解決
(
かいけつ
)
をつけて
上
(
あ
)
げると、
158
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
にさう
仰有
(
おつしや
)
るがよからう』
159
トマス『ヘー
相変
(
あひかは
)
らず
大変
(
たいへん
)
な
馬力
(
ばりき
)
ですな。
160
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
が
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
るか
知
(
し
)
りませぬが、
161
一寸
(
ちよつと
)
奥
(
おく
)
へ
伝
(
つた
)
へて
来
(
き
)
ます。
162
暫時
(
しばらく
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
163
と
早
(
はや
)
くも
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
左守
(
さもり
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
引返
(
ひつかへ
)
した。
164
トマス『
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
165
一寸
(
ちよつと
)
調
(
しら
)
べて
参
(
まゐ
)
りましたが、
166
玉置村
(
たまきむら
)
の
若夫婦
(
わかふうふ
)
が
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
を
兼
(
か
)
ね、
167
玉
(
たま
)
の
宮様
(
みやさま
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
を
致
(
いた
)
し
帰
(
かへ
)
り
道
(
みち
)
、
168
万公
(
まんこう
)
さまに
連
(
つ
)
れられて、
169
お
訪
(
たづ
)
ねをしたのだと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ます。
170
そして
万公
(
まんこう
)
さまは
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
から
新
(
あらた
)
に
宣伝使
(
せんでんし
)
号
(
がう
)
を
頂
(
いただ
)
き
万公別
(
まんこうわけ
)
となり、
171
無限
(
むげん
)
の
神力
(
しんりき
)
を
与
(
あた
)
へられたと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
られますが、
172
此方
(
こちら
)
へお
通
(
とほ
)
し
申
(
まを
)
しませうか』
173
左守
(
さもり
)
『
今日
(
こんにち
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
174
誰彼
(
たれかれ
)
の
容赦
(
ようしや
)
はない。
175
万公別
(
まんこうわけ
)
なんて
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
るのだらう。
176
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
万公
(
まんこう
)
のチヨカさまも
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
伴
(
とも
)
に
歩
(
ある
)
いて
居
(
を
)
つたのだから、
177
何処
(
どこ
)
かに
見込
(
みこみ
)
があるだらう。
178
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
「
膝
(
ひざ
)
とも
談合
(
だんがふ
)
」と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
179
早
(
はや
)
く
此方
(
こちら
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいと
云
(
い
)
つて
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
して
来
(
こ
)
い。
180
さうして
他
(
ほか
)
のお
客
(
きやく
)
さまは
珈琲
(
コーヒー
)
でも
出
(
だ
)
して
鄭重
(
ていちやう
)
に
用
(
よう
)
の
済
(
す
)
むまで
待
(
ま
)
つて
頂
(
いただ
)
くのだ。
181
失策
(
ておち
)
のない
様
(
やう
)
にして
置
(
お
)
くのだぞ』
182
トマス『ハイ、
183
そんな
事
(
こと
)
に
抜目
(
ぬけめ
)
が
厶
(
ござ
)
いませうか。
184
直様
(
すぐさま
)
呼
(
よ
)
んで
参
(
まゐ
)
ります。
185
エーエ』
186
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
襖
(
ふすま
)
をピシヤリと
締
(
し
)
め、
187
トマス『エーエ、
188
忙
(
いそが
)
しい
事
(
こと
)
だ。
189
彼
(
あ
)
ツ
方
(
ちや
)
へ
行
(
い
)
つたり、
190
此
(
こ
)
ツ
方
(
ちや
)
へ
行
(
い
)
つたり、
191
キリキリ
舞
(
ま
)
ひだ。
192
之
(
これ
)
だから、
193
すまじきものは
宮仕
(
みやづか
)
へと
云
(
い
)
ふのだ。
194
ぢやと
云
(
い
)
うて
外
(
ほか
)
に
何
(
なに
)
もこれと
云
(
い
)
ふ
芸能
(
げいのう
)
はなし、
195
先
(
ま
)
づ
玄関番
(
げんくわんばん
)
で
辛抱
(
しんばう
)
するより
仕方
(
しかた
)
がないな』
196
と
一人
(
ひとり
)
呟
(
つぶや
)
き
乍
(
なが
)
ら
応接室
(
おうせつしつ
)
に
慌
(
あわ
)
ただしく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
197
トマス『イヤ、
198
皆
(
みな
)
さま、
199
お
待
(
ま
)
たせ
申
(
まを
)
しました。
200
何卒
(
どうぞ
)
珈琲
(
コーヒー
)
なつとドサリ
召
(
あが
)
つて、
201
……
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
方
(
かた
)
は
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
202
……
万公別
(
まんこうわけ
)
なんて、
203
宜
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いてゐるのだらう。
204
あの
万公
(
まんこう
)
は
鈴
(
すず
)
の
様
(
やう
)
に
八釜
(
やかま
)
しくて、
205
おまけにデレ
助
(
すけ
)
で
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
だけど、
206
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
丁稚役
(
でつちやく
)
をしてゐたのだから
少
(
すこ
)
しは
霊術
(
れいじゆつ
)
も
利
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
るだらう。
207
膝
(
ひざ
)
とも
談合
(
だんがふ
)
だ。
208
空腹
(
ひもじ
)
い
時
(
とき
)
には
不味
(
まづい
)
ものなし、
209
万公
(
まんこう
)
でも
宜
(
い
)
いから
呼
(
よ
)
んで
来
(
こ
)
い……と
仰有
(
おつしや
)
いました。
210
さア
万公別
(
まんこうわけ
)
さま、
211
このトマスに
跟
(
つ
)
いて
左守
(
さもり
)
の
居間
(
ゐま
)
迄
(
まで
)
お
越
(
こ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます』
212
万公
(
まんこう
)
『
何
(
なん
)
だ、
213
川獺
(
とます
)
の
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
しやがつて
失敬
(
しつけい
)
ぢやないか。
214
今日
(
こんにち
)
の
万公
(
まんこう
)
さまは
玉置
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
テームス
家
(
け
)
の
若旦那
(
わかだんな
)
だぞ。
215
これ
見
(
み
)
い、
216
此
(
この
)
様
(
やう
)
なナイスを
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つて
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
を
兼
(
か
)
ね、
217
玉
(
たま
)
の
宮
(
みや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
をしたのだ。
218
チツと
羨
(
けな
)
るい
事
(
こと
)
はないか。
219
エー、
220
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
と
何方
(
どちら
)
が
美
(
うつく
)
しいと
見
(
み
)
えるか、
221
ヒヒヒヒヒ』
222
トマス『エヘヘヘヘヘ
犬
(
いぬ
)
も
歩
(
ある
)
けば
棒
(
ぼう
)
に
当
(
あた
)
るとか
云
(
い
)
つて、
223
到頭
(
たうとう
)
治国別
(
はるくにわけ
)
さまに
暇
(
ひま
)
を
出
(
だ
)
され
玉置
(
たまき
)
の
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
の
宅
(
うち
)
の
門掃
(
かどはき
)
男
(
をとこ
)
となり、
224
お
嬢
(
ぢやう
)
さまのお
伴
(
とも
)
をして
詣
(
まゐ
)
つて
来
(
き
)
たのだな。
225
お
前
(
まへ
)
のスタイルでそんなナイスが
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
てるものかい。
226
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
で
分
(
わか
)
らぬと
云
(
い
)
つて、
227
此
(
この
)
トマスが
一目
(
ひとめ
)
チヤンと
見
(
み
)
たら
決
(
けつ
)
して、
228
はづれツこは
無
(
な
)
いワイ。
229
ウツフフフフ』
230
万公
(
まんこう
)
『エー、
231
馬鹿
(
ばか
)
にすない。
232
左守
(
さもり
)
の
奴
(
やつ
)
、
233
ダイヤ
姫
(
ひめ
)
と
俺
(
おれ
)
との
縁談
(
えんだん
)
をチヤチヤ
入
(
い
)
れやがつたものだから
此
(
この
)
爺
(
おやぢ
)
、
234
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
だ……と
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
怨
(
うら
)
んでゐたのだ。
235
そした
所
(
ところ
)
、
236
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
のナイスが……ヘヘヘ
此
(
この
)
万公
(
まんこう
)
さまに
首
(
くび
)
ツたけラバーしたものだから、
237
嫌
(
いや
)
でもない
縁談
(
えんだん
)
を……
俺
(
おれ
)
もチツとはスヰートハートして
居
(
ゐ
)
たものだから
両方
(
りやうはう
)
からピツタリと
意思
(
いし
)
投合
(
とうがふ
)
の
結果
(
けつくわ
)
お
粗末
(
そまつ
)
乍
(
なが
)
ら……ヘン……
合衾
(
がふきん
)
の
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げ
新婚
(
しんこん
)
旅行
(
りよかう
)
と
洒落
(
しやれ
)
てゐるのだよ。
238
万公別
(
まんこうわけ
)
の
腕前
(
うでまへ
)
には
如何
(
どう
)
だ、
239
獺
(
かはうそ
)
のトマス、
240
感服
(
かんぷく
)
しただらう』
241
スガール『もし、
242
万公別
(
まんこうわけ
)
さま、
243
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいますな。
244
妾
(
わたし
)
恥
(
はづか
)
しう
厶
(
ござ
)
いますわ』
245
万公
(
まんこう
)
『
何
(
なに
)
が
恥
(
はづか
)
しい。
246
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
夫婦
(
ふうふ
)
ぢやないか。
247
エヘヘヘヘヘ、
248
これから
左守司
(
さもりのかみ
)
にアフンとさしてやるのだ。
249
ああ
愉快
(
ゆくわい
)
々々
(
ゆくわい
)
』
250
トマス『
此
(
この
)
様子
(
やうす
)
では、
251
も
一度
(
いちど
)
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
に
伺
(
うかが
)
つて
来
(
こ
)
なくちや
直様
(
すぐさま
)
お
会
(
あわ
)
せ
申
(
まを
)
す
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬワイ。
252
ま
一遍
(
いつぺん
)
伺
(
うかが
)
つて
来
(
く
)
るまで
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さいや。
253
そして
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さまを
大切
(
たいせつ
)
に
守
(
まも
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さいや。
254
うかうかすると「
此
(
この
)
下男
(
げなん
)
は
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かぬ」と
云
(
い
)
つて
又
(
また
)
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されますよ』
255
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
256
又
(
また
)
もや
左守司
(
さもりのかみ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
踵
(
くびす
)
を
返
(
かへ
)
し
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
257
万公
(
まんこう
)
『ハハハハハ、
258
スガールの
美貌
(
びばう
)
に
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し
魂
(
たましひ
)
を
有頂天
(
うちやうてん
)
にして
居
(
ゐ
)
やがるワイ。
259
さア
此
(
こ
)
れからが
三段目
(
さんだんめ
)
だ。
260
オイ、
261
スガール、
262
今日
(
けふ
)
は
俺
(
おれ
)
の
男
(
をとこ
)
を
左守
(
さもり
)
の
前
(
まへ
)
で
売
(
う
)
つて
見
(
み
)
せるのだから、
263
お
前
(
まへ
)
も
辛
(
つら
)
からうがチツと
意茶
(
いちや
)
ついて
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れぬと
困
(
こま
)
るよ。
264
夫
(
をつと
)
が
妻
(
つま
)
に
対
(
たい
)
する
一生
(
いつしやう
)
の
願
(
ねがひ
)
だからな』
265
スガール『ホホホホホ、
266
キツと
引締
(
ひきし
)
め
三筋
(
みすぢ
)
の
糸
(
いと
)
で
267
主
(
ぬし
)
のお
好
(
す
)
きに
紫檀竿
(
したんざを
)
。
268
焚
(
た
)
いて
喰
(
く
)
はうと
焼
(
や
)
いて
喰
(
く
)
はうと
万公
(
まんこう
)
さまのお
勝手
(
かつて
)
ですわ』
269
万公
(
まんこう
)
『ヘヘヘヘヘそれでこそ
三国一
(
さんごくいち
)
の
花嫁
(
はなよめ
)
だ。
270
万公別
(
まんこうわけ
)
、
271
万歳
(
ばんざい
)
』
272
(
大正一二・三・五
旧一・一八
於竜宮館
北村隆光
録)
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