霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 洗濯使(せんたくし)〔一四一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻 篇:第1篇 奇縁万情 よみ(新仮名遣い):きえんばんじょう
章:第6章 洗濯使 よみ(新仮名遣い):せんたくし 通し章番号:1414
口述日:1923(大正12)年03月03日(旧01月16日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
フエルとアヅモスは、朝食のお膳を治国別の別宅に運んできた。元バラモン軍のエミシは、フエルの姿を認めて声をかけた。フエルは道晴別に霊縛されて、この家の蔵に放り込まれていたが、今朝この家の若主人が解放したことを話した。
鬼春別も、自分が三五教に改心したことをフエルに話した。治国別は朝飯を食べてみると、灰まみれでとても喰えたものでなく、目を白黒させている。
アヅモスとフエルは御膳を片付けて、もう一度朝飯を作り直しに炊事場に引き返してきた。すると万公がお民をつかまえて一生懸命に指図している。
アヅモスは、自分たちが飯を作るからと言って万公を治国別の別宅に戻らせた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-05-14 17:41:22 OBC :rm5506
愛善世界社版:70頁 八幡書店版:第10輯 59頁 修補版: 校定版:72頁 普及版:29頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)居間(ゐま)へはフエル、002アヅモスの両人(りやうにん)膳部(ぜんぶ)(はこ)び、003叮嚀(ていねい)辞儀(じぎ)をし(なが)ら、004フエルの(はう)(ふる)うてゐる。005フエルは三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)とアヅモスに()いたので、006(にはか)(おそ)ろしくなつたのである。007(しか)(なが)治国別(はるくにわけ)008松彦(まつひこ)009竜彦(たつひこ)一面識(いちめんしき)もないので、010(この)()下男(げなん)とのみ(かんが)へてゐた。011フエルは鬼春別(おにはるわけ)以下(いか)(さん)(にん)姿(すがた)()て、012様子(やうす)(わか)らず、013不思議(ふしぎ)(さう)(うつむ)いたまま横目(よこめ)()(にん)(かほ)見比(みくら)べてゐた。014エミシは(はや)くもフエルの姿(すがた)()て、
015エミシ『オオお(まへ)はフエルぢやないか。016()うして此処(ここ)()たのだ』
017フエル『貴方(あなた)はカーネル(さま)(ござ)いましたか、018()うマア……()うしてお()でになりました。019(わたし)貴方(あなた)命令(めいれい)()つて、020シメジ(たうげ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)閉塞隊(へいそくたい)(つと)めて()矢先(やさき)021道晴別(みちはるわけ)宣伝使(せんでんし)霊縛(れいばく)をかけられ、022当家(たうけ)(くら)()()まれ、023ヤツと今朝(けさ)ここの若主人(わかしゆじん)解放(かいはう)され、024炊事(すゐじ)掃除(さうぢ)(やく)(おほ)()けられて()ります』
025エミシ『お(まへ)一人(ひとり)か』
026フエル『イエ、027ベツトと二人(ふたり)(ござ)います。028ベツトも(わたし)同様(どうやう)早朝(さうてう)から大活動(だいくわつどう)をやつて()ります』
029 エミシは鬼春別(おにはるわけ)(ゆび)ざし、
030エミシ『オイ、031(この)(かた)()つてゐるか』
032フエル『ハイ、033ゼネラル(さま)ぢや(ござ)いませぬか、034どうしてマア三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)と、035かやうな(ところ)へお(いで)になりました。036(また)霊縛(れいばく)にかかつてぢや(ござ)いませぬか』
037鬼春(おにはる)『アハハハ、038治国別(はるくにわけ)(さま)霊縛(れいばく)にかけられ、039たうとうゼネラルを(ぼう)にふつて、040今日(けふ)三五教(あななひけう)一兵士(いちへいし)となつたのだよ』
041フエル『(おも)ひきやゼネラル(さま)(この)(いへ)
042()しあるとは(ゆめ)にも()らず。
043(ゆめ)()(ゆめ)()るてふ(ひと)()
044はかなきものと(いま)(さと)りぬ』
045鬼春別(おにはるわけ)三五(あななひ)(かみ)(ひかり)(てら)されて
046(やみ)()れけり(こころ)(やみ)も』
047治国別(はるくにわけ)『テームスの(うづ)(やかた)落合(おちあ)ひて
048(かみ)(めぐみ)(あぢ)はふ今日(けふ)かな』
049アヅモス『客人(まらうど)よいと(たひら)けく聞召(きこしめ)
050万公別(まんこうわけ)献立(こんだて)()を』
051竜彦(たつひこ)万公(まんこう)姿(すがた)()えぬと(おも)ひしに
052(はや)飯焚(めしたき)となりにけるかな』
053 松彦(まつひこ)(めし)(すこ)しく(いろ)(かは)つたのを()て、
054松彦(まつひこ)(この)(めし)(なん)とはなしに(いろ)づきぬ
055(はひ)カラ(をんな)のたきしものにや』
056アヅモス『色付(いろづ)きし万公別(まんこうわけ)献立(こんだて)
057(おも)へば(なん)不思議(ふしぎ)かはある。
058さり(なが)直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)
059今日(けふ)一朝(ひとあさ)(しの)ばせ(たま)へ』
060松彦(まつひこ)(なん)となくゲヂゲヂゲヂと()はきしり
061(すな)()むよな(めし)(あぢ)かな』
062竜彦(たつひこ)万公(まんこう)主人(しゆじん)気取(きどり)となりよつて
063(はひ)カラ(めし)(たき)しなるらむ』
064 治国別(はるくにわけ)は、
065治国別(みな)さま、066頂戴(ちやうだい)(いた)しませう。067(さき)御免(ごめん)
068()(なが)ら、069一口(ひとくち)(くち)(ふく)んで()白黒(しろくろ)し、070()()(わけ)にも()かず、071(なみだ)(なが)(なが)らグツと()()んで(しま)つた。072(しろ)(めし)(うへ)所々(ところどころ)(はひ)(くろ)(かたま)つてゐた。
073治国別(はるくにわけ)黒胡麻(くろごま)のふりかけ(めし)(おも)ひきや
074()白黒(しろくろ)麦粟(むぎあは)をふく』
075松彦(まつひこ)麦飯(むぎめし)(いろ)にもまがふ灰飯(はひめし)
076黍悪(きびわる)(さう)(あは)()くかな』
077竜彦(たつひこ)『オイ番頭(ばんとう)さま、078偶々(たまたま)のお(きやく)さまに、079こんな(めし)()はすといふ(こと)があるか、080(あま)りヒドイぢやないか』
081アヅモス『ハイ、082万公別(まんこうわけ)若旦那(わかだんな)()指図(さしづ)で、083(たき)になつたので(ござ)いますから、084何卒(どうぞ)今朝(けさ)(だけ)()辛抱(しんばう)(くだ)さいませ。085それはそれは炊事場(すゐじば)(えら)灰埃(はひぼこり)(ござ)いました。086(めし)(やつ)087鍋山(なべやま)噴火(ふんくわ)して(はひ)()らし、088そこら一面(いちめん)(はひ)(やま)となりましたので、089()らず()らずの(あひだ)(あつ)鍋蓋(なべふた)(くぐ)つて、090(はひ)浸入(しんにふ)したので(ござ)いませう。091(なん)なら鬼春別(おにはるわけ)さま、092久米彦(くめひこ)さまにあがつて(いただ)きまして、093(なか)がすきませうが、094(しばら)()つてゐて(くだ)さいませ。095(あらた)めておいしい御飯(ごはん)()いて(まゐ)りますから……』
096治国(はるくに)『イヤ、097(たれ)だつて(おな)(こと)だ。098(しか)(なが)折角(せつかく)(こころざし)099()にするのも()まないから一度(いちど)(これ)をスツカリ清水(せいすい)(あら)つて()(かわ)かし、100茶漬(ちやづけ)にしてよばれませう。101サ、102(ぜん)()いて(くだ)さい。103(たれ)だつて(この)御飯(ごはん)(ばか)りは勿体(もつたい)ない(こと)(なが)(のど)へは(とほ)りませぬから……』
104アヅモス『左様(さやう)ならば一先(ひとま)(ぜん)をひきませう
105()たせ(たま)へよ(しばら)くの(うち)
106フエルさまお(まへ)(とも)炊事場(すゐじば)
107(いそ)御飯(ごはん)()いてくるのよ』
108フエル『()(やう)()つてお(こめ)はフエルさまだ
109サア(これ)からが一生(いつしやう)懸命(けんめい)
110生命(せいめい)(つな)(きこ)えし(この)(めし)
111(はひ)にまぶせし()れはハイカラ。
112万公別(まんこうわけ)主人(あるじ)(きみ)諸共(もろとも)
113(うで)(より)かけむし(かへ)しみむ』
114()(なが)ら、115アヅモス、116フエルの両人(りやうにん)(いそ)いで膳部(ぜんぶ)片付(かたづ)け、117幾度(いくたび)謝罪(しやざい)(なが)ら、118炊事場(すゐじば)引返(ひつかへ)して()た。119()れば万公(まんこう)はお(たみ)をつかまへて、120一生(いつしやう)懸命(けんめい)指図(さしづ)をしてゐる。
121万公(まんこう)『オイお(たみ)122火消壺(ひけしつぼ)(ふた)何時(いつ)もキチンと出来(でき)てるか、123(そこ)(はう)()がまわりはせぬかと()()をつけるのだぞ。124コンロの(した)(はひ)一遍(いつぺん)々々(いつぺん)()てる(こと)(わす)れるな。125井戸(ゐど)(みづ)はどんなとこへ使(つか)へば危険(きけん)でないか。126煮物(にもの)127炊物(たきもの)128()かして()(みづ)(など)(ほか)129(けつ)して生水(なまみづ)()んでは()かぬぞ。130(この)(ごろ)梅雨(つゆ)だから、131(みづ)塩気(しほけ)があつて、132(めう)黴菌(ばいきん)()いてゐるから充分(じゆうぶん)(たぎ)らして、133(みづ)()みたけりや(ひや)して()め、134生水(なまみづ)使(つか)ふのは手洗水(てうづ)雑巾水(ざふきんみづ)より(ほか)にはならぬぞ』
135(たみ)(なが)しを(あら)うたり、136食器類(しよくきるゐ)爼板(まないた)(あら)ふのは()うしたら()いのですか。137ヤツパリ(これ)()()かすのですか』
138万公(まんこう)『エー、139そんな(こと)(まで)指図(さしづ)せなくちや(わか)らぬのかナ、140其奴(そいつ)(みづ)辛抱(しんばう)するのだ。141そして水壺(みづつぼ)何時(いつ)(みづ)用意(ようい)して、142非常(ひじやう)(とき)用意(ようい)(そな)へておくのだ。143そして毎日(まいにち)(あたら)しい(みづ)(とり)かへるのだぞ。144柄杓(ひしやく)などを(みづ)(なか)へつけておくと、145(みづ)(あぢ)もかわるし、146(しやく)もホトびて(いた)むから、147一遍(いつぺん)々々(いつぺん)(そと)()して(かわ)かしておくのだよ。148そして井戸(ゐど)使(つか)つたあとは(ふた)をしておくのだ。149釣瓶縄(つるべなは)(あたら)しいのを使(つか)(とき)は、150ようスゴいて使(つか)はないと、151クロロを脱線(だつせん)するから()をつけよ』
152(たみ)贋旦那(にせだんな)さま、153指図(さしづ)(ばか)りして()らずと、154貴方(あなた)(ひと)手伝(てつだ)うて(くだ)さいナ。155ここは井戸(ゐど)ぢやありませぬよ。156水道(すいだう)(みづ)使(つか)つて()るのですよ』
157万公(まんこう)水道(すいだう)でも井戸(ゐど)でも(おんな)(こと)だ。158痳病(りんびやう)やみが小便(せうべん)をたれるやうに、159いつもジヨウジヨウと(もら)しておいては公徳(こうとく)(じやう)すまないから、160水道(すいだう)(せん)は、161使(つか)つたら(かた)()めておくのだ。162そして(あさ)水道(すいだう)(みづ)はバケツに一杯(いつぱい)(だけ)使水(つかひみづ)とし、163(あま)りは(すす)(みづ)にして(ほか)利用(りよう)するのだ。164(みづ)粗末(そまつ)にすると、165(つき)大神(おほかみ)さまの神罰(しんばつ)(あた)るぞ』
166(たみ)『ハイハイ。167()うゴテゴテと(かま)(ひと)ですな。168そんな(こと)(ぐらひ)()らいで、169大家(たいけ)下女(げぢよ)(つと)まりますか』
170万公(まんこう)『コリヤ主人(しゆじん)口答(くちごたへ)するといふ(こと)があるか。171(なん)(はひ)だらけの(めし)(たき)やがつて、172おまけに()のいつた(くろ)(くろ)(めし)沢山(たくさん)(こしら)へたぢやないか』
173(たみ)『あんたが()()(やか)ましう差出(さしで)なさるものだから、174つい()()られてお(まへ)さまの(かほ)(ばか)()()つたら、175()げついたのですよ』
176万公(まんこう)『ヘヘヘヘ、177()()られて(おれ)(かほ)(ばか)りみとつたといふのか、178其奴(そいつ)駄目(だめ)だ。179(あきら)めたがよからう、180下女(げぢよ)女房(にようばう)にする(わけ)にも()かず、181(また)(きさま)(あか)(ほほ)ぺたでは、182如何(いか)物食(ものぐ)ひのよい万公別(まんこうわけ)でも、183一寸(ちよつと)三舎(さんしや)()けるからのう』
184(たみ)『ホツホホホ、185(たれ)主人(しゆじん)だつて、186貴方(あなた)(やう)なお(かほ)(ほれ)ますか。187(あま)奇妙(きめう)(かほ)だと(おも)つて、188()()られてゐたのですよ。189モウ()いかげん彼方(あちら)()つて(くだ)さいな』
190万公(まんこう)今日(けふ)はどうやら日和(ひより)もよささうだから、191(きやく)さまの着物(きもの)大分(だいぶん)(あせ)じゆんでゐる。192着替(きがへ)()して()(もら)つて、193(その)装束(しやうぞく)洗濯(せんたく)するのだな』
194(たみ)『ハイハイ(めし)()かねばならず、195洗濯(せんたく)もせにやならず、196本当(ほんたう)(いそが)しい(こと)だ。197(わたし)はここへ飯焚(めした)(をんな)(やと)はれて()たのだから、198洗濯(せんたく)約束(やくそく)以外(いぐわい)ですワ、199洗濯(せんたく)さすのなら二人前(ににんまへ)給料(きふれう)をくれますか。200(まへ)さまは俄主人(にはかしゆじん)だから(わたし)約束(やくそく)()らぬのだらう。201庭掃(にはは)きとも座敷(ざしき)掃除番(さうぢばん)とも()つて、202(やと)はれて()たのぢや(ござ)りませぬよ』
203万公(まんこう)下女(げぢよ)()(もの)(いへ)(うち)一切(いつさい)(かま)ふものだ。204飯焚(めした)きといへば一切(いつさい)(こと)(ふく)んでをるのだ。205融通(ゆうづう)()かぬ(やつ)だなア』
206(たみ)『そんなこた(わか)つてをりますよ。207(しか)(あま)融通(ゆうづう)()かすと、208(いそが)しい(ばか)りで身体(からだ)(つか)れて(そん)ですワ。209()のない主人(しゆじん)使(つか)はれて()つては、210何程(なにほど)(ほね)()つても(えん)(した)(まひ)だから、211マアやめておきませうかい。212(まへ)さま若主人(わかしゆじん)だなんて、213勝手(かつて)にきめてるのだらう、214そんなこたチヤンとお(たみ)()(うつ)つてをりますよ。215宣伝使(せんでんし)褌持(ふんどしもち)ぢやありませぬか、216オホホホホ、217チツと()うかしてますねえ』
218万公(まんこう)『エー、219(かみ)(こと)(しも)(わか)るものかい。220サア(これ)から洗濯(せんたく)だ。221洗濯(せんたく)仕方(しかた)(わか)つとるかなア』
222(たみ)洗濯(せんたく)()つたら、223(かは)()つて()つて、224浅瀬(あさせ)(いし)一々(いちいち)()せて、225()けておけば()いのでせう。226そして十日(とをか)(ほど)して()けば自然(しぜん)(あか)()れてますワ。227万公(まんこう)さま、228ここに(ふる)(まわし)湯巻(ゆまき)古手(ふるて)沢山(たくさん)つつ()んであるから、229(まへ)さま(かか)えて猪倉川(ゐのくらがは)(まで)()つて()(くだ)さらぬか』
230万公(まんこう)馬鹿(ばか)()ふな、231主人(しゆじん)候補者(こうほしや)(おれ)(むか)つて、232チツと失礼(しつれい)ぢやないか。233ここの背戸口(せとぐち)(たらひ)(みづ)()()んでバサバサとやれば()いのだ。234きめ(あら)(みづ)だとみた(とき)は、235(はじ)めに曹達(さうだ)()()かして使(つか)へばキツト(うつく)しうおちる、236さうすると石鹸(せつけん)時間(じかん)とが経済(けいざい)になる。237そして(すす)(みづ)奇麗(きれい)(にご)らなくなる(まで)何遍(なんべん)()へないといふと、238生地(きぢ)(はや)くいたむぞ。239そして(みづ)(あら)うて()いものと、240()(あら)うて()いものとある。241それを第一(だいいち)心得(こころえ)ておかないと洗濯婆(せんたくばば)にはなれぬぞ。242(おれ)世界(せかい)人民(じんみん)(みたま)洗濯(せんたく)する三五教(あななひけう)洗濯使(せんたくし)だ。243(しか)(なが)今日(けふ)譲歩(じやうほ)して、244(おまへ)衣類(いるゐ)洗濯(せんたく)方法(はうはふ)(をしへ)てやるのだから、245()(わす)れぬやうに(おぼ)えておけ。246洗方(あらひかた)注意(ちゆうい)せないと、247折角(せつかく)結構(けつこう)衣類(いるゐ)台無(だいな)しになつて(しま)ふものだ。248絹物(きぬもの)毛織物(けおりもの)色物(いろもの)(あつ)()につけて(あら)うと駄目(だめ)だ。249(また)毛織物(けおりもの)(つめ)たい(みづ)()けても(わる)い。250そして絹物(きぬもの)251毛織物(けおりもの)252麻織物(あさおりもの)(つよ)()んでは駄目(だめ)だぞ。253曹達(さうだ)灰汁(あく))や(わる)石鹸(せつけん)で、254絹物(きぬもの)はキツと(あら)つてはならない、255色物(いろもの)猶更(なほさら)だ。256そして色物(いろもの)(みな)陰干(かげぼし)にせなくては、257日向(ひなた)()したら(みな)(いろ)()せて(しま)ふ。258()(とき)竿(さを)(なは)(とほ)して、259()から()()けておくのだ。260(しろ)(もの)色物(いろもの)竿(さを)にかけると、261(いろ)がついて(だい)なしになつて(しま)ふぞ。262あああ宣伝使(せんでんし)(なに)から(なに)(まで)()つてをらねば(つと)まらぬ、263本当(ほんたう)(むつか)しい職掌(しよくしやう)だなア』
264(たみ)『ハハア、265さうするとお(まへ)さまは(わか)(とき)から洗濯屋(せんたくや)番頭(ばんとう)をして()つたのだなア。266(をとこ)(くせ)にそんな(こと)()つて()るものは、267首陀(しゆだ)(うち)だつてありませぬワ。268モウ(あま)(しやべ)りなさるな、269(さと)()えると、270折角(せつかく)縁談(えんだん)もフイになりますよ。271ホツホホホホ』
272万公(まんこう)馬鹿(ばか)()ふな、273女子(ぢよし)大学(だいがく)家政科(かせいくわ)卒業生(そつげふせい)だ。274それだから(なに)もかも()つてるのだ』
275(たみ)『ホホホホ、276女子(ぢよし)大学(だいがく)(をとこ)()くのですか。277さうするとお(まへ)さまは(をとこ)(くさ)つた(をんな)(くず)だな。278道理(だうり)でクヅクヅ()うと(おも)つてゐた』
279万公(まんこう)(をんな)(くち)(つつし)むが第一(だいいち)だ。280男子(だんし)抗弁(かうべん)するといふ(こと)何処(どこ)にあるか、281らしうせよといふ(こと)()つてゐるか』
282(たみ)(その)(くらゐ)のこた、283とうの(むかし)御存(ごぞん)じのお(たみ)ですよ。284主人(しゆじん)主人(しゆじん)らしう、285(やつこ)(やつこ)らしう、286下女(げぢよ)下女(げぢよ)らしう、287宣伝使(せんでんし)宣伝使(せんでんし)らしう、288居候(ゐさふらふ)居候(ゐさふらふ)らしうせよと()(こと)でせうがな。289(まへ)さまも若主人(わかしゆじん)なら、290なぜ若主人(わかしゆじん)らしうせぬのだい。291(わたし)一寸(ちよつと)(かんが)へてみると、292(まへ)さまは、293馬鹿(ばか)らしう、294ケレ(また)らしう、295自惚(うぬぼれ)(をとこ)らしう、296腰抜(こしぬけ)らしう、297デレ(すけ)らしう、298雲雀(ひばり)らしう、299九官鳥(きうくわんてう)らしう、300まだも(ちが)うたら鸚鵡(おうむ)らしうみえますよ、301ホツホホホホ』
302 かかる(ところ)へアヅモス、303フエルの両人(りやうにん)はツマらぬ(かほ)をして、304()(きた)り、
305アヅモス『オイ、306(たみ)307(なん)といふ(めし)()きやがるのだ。308偶々(たまたま)のお(きやく)さまに灰飯(はひめし)()はしやがつて、309一遍(いつぺん)()(なほ)さぬかい。310サ、311(はや)う、312(なに)をグズグズしてゐるのだ。313ハハア(この)(きやく)さまにうつつをぬかしやがつて、314(めし)(こげ)たのも()らず、315(はひ)這入(はい)つたのも()がつかなかつたのだなア』
316(たみ)『モシ()番頭(ばんとう)さま、317(この)(ひと)318どつかへ()れて()つて(くだ)さい、319(かぶら)から大根(だいこん)菜種(なたね)のはしに(いた)(まで)ゴテゴテ()つて(かま)ふのですもの、320骨折(ほねを)つて炊事(すゐじ)出来(でき)やしませぬワ』
321アヅモス『ヤア貴方(あなた)夜前(やぜん)のお客様(きやくさま)322何卒(どうぞ)(おく)へお(はい)(くだ)さいませ。323先生(せんせい)()()(かね)(ござ)います』
324万公(まんこう)『ウン、325(まへ)番頭(ばんとう)のアヅモスだなア。326スガールやシーナが病気(びやうき)()せつて()るので、327(まへ)(いそが)しい(こと)だらう。328(しか)(なが)らここ二三(にさん)(にち)辛抱(しんばう)してくれ、329(その)(かは)りに褒美(はうび)(また)(この)若主人(わかしゆじん)がドツサリ使(つか)はすから』
330アヅモス『ヘーエ、331(めう)ですな。332貴方(あなた)何時(いつ)()にここの主人(しゆじん)になられましたか』
333万公(まんこう)(とほ)神代(かみよ)(むかし)から、334(みたま)因縁(いんねん)でここの主人(しゆじん)ときまつて()るのだ。335(おれ)(いま)主人(しゆじん)父親(てておや)のテームスの(うま)(がは)りだぞ』
336アヅモス『ヘーエ、337貴方(あなた)のお(とし)は、338一寸(ちよつと)()(ところ)四十(しじふ)(ちか)いぢやありませぬか、339()主人(しゆじん)のお(とう)さまは()くなつてから、340まだ五六(ごろく)(ねん)よりなりませぬがな』
341万公(まんこう)(その)(ひと)(おや)だ、342(おや)()つたら先祖(せんぞ)をすべて(おや)といふのだ。343それで遠津(とほつ)御祖(みおや)代々(よよ)(おや)(たち)祝詞(のりと)にもいうてあるぢやないか。344祖父(ぢい)さまだの、345曾祖父(ひぢい)さまだのと、346人間(にんげん)()ふか()らぬが、347(かみ)(はう)では一口(ひとくち)(おや)()へば、348それで()いのだ。349ゴテゴテ()はずに、350(たみ)(めし)炊方(たきかた)から洗濯(せんたく)方法(はうはふ)まで(をし)へてあるから、351()()いて(はや)膳部(ぜんぶ)(こしら)へ、352珍客(ちんきやく)さまを待遇(もてな)すやうに(いた)さぬか』
353アヅモス『モシ、354若旦那(わかだんな)候補生(こうほせい)(さま)355(これ)から吾々(われわれ)(ほね)()つて御飯(ごはん)(こしら)へますから、356何卒(どうぞ)治国別(はるくにわけ)さまのお居間(ゐま)へいつて、357(しばら)くお(きやく)さまの待遇(もてなし)をして()つて(くだ)さいませぬか』
358万公(まんこう)主人(しゆじん)番頭(ばんとう)()(つけ)()(はふ)はないけれ(ども)359(しばら)折角(せつかく)のお客様(きやくさま)だから、360主人(しゆじん)()ないのも(かへつ)失礼(しつれい)になる、361そんなら()()をつけて万事(ばんじ)抜目(ぬけめ)のないやうにやつてくれ。362……お(たみ)363(きさま)も、364今度(こんど)性念(しやうねん)()れて(めし)()くのだぞ』
365()()て、366(ひろ)(いへ)(まよ)ひさがし(なが)ら、367(やうや)くにして治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)陣取(ぢんど)つてゐる庭園内(ていゑんない)建物(たてもの)()つけて(はし)()く。
368大正一二・三・三 旧一・一六 於竜宮館 松村真澄録)
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