鬼春別以下三人のバラモン組は、宣伝使と俗人の中間的立場である比丘となり、長髪を剃り落され、黒衣を仕立てて金剛杖をつきながら、照国山のビクトル山の谷あいに山伏の修業をなすべく、軍用に使っていたほら貝を吹き立てながら出立していった。
鬼春別は治道居士、久米彦は道貫居士、スパールは素道居士、エミシは求道居士という戒名が与えられた。新米の比丘たちは、治国別け一行や玉置村の人々と別れの歌を交わし、進んで行った。
一同は北の森の祠で野宿をすることになった。夜分、祠の後ろから人声がするのを聞きつけて、治道居士は耳をすませた。聞けば、解散したバラモン軍の兵士たちが、今後の身の振り方を相談しているところだった。盗賊になって一旗揚げようとする三人に反対し、二人が国へ帰ると言って逃げて行った。
治道居士はやにわに数珠をつまぐりながら声も涼しく経文を唱え始めた。三人の元兵士のなり立て盗賊たちは、声をたよりに治道居士を取り囲むと、ベル、シヤル、ヘルと名乗り、金品持ち物を出すようにと凄んだ。
治道居士は、衣類を渡すのは困るから、金をやる代わりに国へ帰って正業に就くようにと諭した。ベルは、帰りの旅費や国へ帰って商売をする元手を計算すると、一人千三百両は要ると治道居士に強要した。
治道居士は、そんな端数ではなく三人まとめて五千両やるから手を出せと言った。ベルは恐る恐る手を出したが、治道居士にぐっと掴まれてしまい、悲鳴を上げている。
治道居士は、約束した以上は金はやると安堵し、おもしろいことが起きていると他の居士たちを起こした。道貫は、実は寝ているふりをして様子をうかがっていたと笑い、自分も千両を与えた。
ベル、シヤル、ヘルの三人は、六千両を三等分し、居士たちにお礼を述べて去って行った。