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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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第三章
喬育
(
けういく
)
〔一七四八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第1篇 清風涼雨
よみ(新仮名遣い):
せいふうりょうう
章:
第3章 喬育
よみ(新仮名遣い):
きょういく
通し章番号:
1748
口述日:
1924(大正13)年01月22日(旧12月17日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
高砂城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国依別は珍の国の国司になって以来、政治は松若彦に一任し、自分は朝夕皇大神の前に礼拝する以外は、花鳥風月を楽しみ、宣伝使時代の気楽さを懐かしんでいました。
国依別は球の玉の神徳によって世の中を達観していたので、時が至るまでは実際の政治を松若彦一派に委任していたのでした。
国依別は歌を詠んでいます。すべて、今の世の暗さ、しかし夜明けが近いこと、また夜明けの前には大きな「地震」があること、を歌っています。
そこへ妻の末子姫がやってきて、息子と娘の暴言に松若彦が憤慨していると諫言に来ます。
国依別は逆に、時代遅れの親爺連に引退を迫ったのはさすが自分の子、あっぱれと言って、自分の子供たちが立派に育ったのは神様のおかげ、と拝礼を始めます。さすがに末子姫はあきれてしまいます。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
天才教育
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-28 20:32:49
OBC :
rm6903
愛善世界社版:
59頁
八幡書店版:
第12輯 293頁
修補版:
校定版:
61頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
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:
出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 【教育編】第一篇 皇道教育 > 第五章 喬育
出口王仁三郎著作集 > 第三巻「愛と美といのち」 > [6] 如是我観 > [6-2] 平和に生きる > [6-2-11] 喬育
001
国依別
(
くによりわけ
)
は
元来
(
ぐわんらい
)
磊落
(
らいらく
)
豪放
(
がうはう
)
にして、
002
小事
(
せうじ
)
に
齷齪
(
あくせく
)
せず、
003
何事
(
なにごと
)
に
対
(
たい
)
しても
無頓着
(
むとんちやく
)
なる
性質
(
せいしつ
)
とて、
004
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
国司
(
こくし
)
に
封
(
ほう
)
ぜられてより、
005
一切
(
いつさい
)
の
政務
(
せいむ
)
を
重臣
(
ぢうしん
)
の
松若彦
(
まつわかひこ
)
に
一任
(
いちにん
)
し、
006
自分
(
じぶん
)
は
只
(
ただ
)
事実
(
じじつ
)
上
(
じやう
)
虚器
(
きよき
)
を
擁
(
よう
)
してゐたに
過
(
す
)
ぎなかつた。
007
それ
故
(
ゆゑ
)
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
大小
(
だいせう
)
の
政治
(
せいぢ
)
は、
008
松若彦
(
まつわかひこ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
閥族
(
ばつぞく
)
の
手裡
(
しゆり
)
に
握
(
にぎ
)
られてゐた。
009
国依別
(
くによりわけ
)
は
只
(
ただ
)
朝夕
(
てうせき
)
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
前
(
まへ
)
に
拝礼
(
はいれい
)
をするのみにて、
010
花鳥
(
くわてう
)
風月
(
ふうげつ
)
を
楽
(
たのし
)
み、
011
昔
(
むかし
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
時分
(
じぶん
)
の
気楽
(
きらく
)
さを
思
(
おも
)
ひ
出
(
いだ
)
しては、
012
時々
(
ときどき
)
吐息
(
といき
)
をもらし、
013
末子姫
(
すゑこひめ
)
に
酌
(
しやく
)
をさせ、
014
城中
(
じやうちう
)
に
伶人
(
れいじん
)
を
招
(
まね
)
いて
歌舞
(
かぶ
)
音楽
(
おんがく
)
に
悶々
(
もんもん
)
の
情
(
じやう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めてゐた。
015
そして
実子
(
じつし
)
の
国照別
(
くにてるわけ
)
、
016
春乃姫
(
はるのひめ
)
に
対
(
たい
)
しても
家庭
(
かてい
)
教育
(
けういく
)
などの
七
(
しち
)
むつかしいことは
強
(
し
)
ひず、
017
自然
(
しぜん
)
の
成熟
(
せいじゆく
)
に
任
(
まか
)
してゐた。
018
故
(
ゆゑ
)
に
親子
(
おやこ
)
の
関係
(
くわんけい
)
は
兄弟
(
きやうだい
)
の
如
(
ごと
)
く
円満
(
ゑんまん
)
にして
少
(
すこ
)
しの
差別
(
さべつ
)
もなく、
019
和気
(
わき
)
藹々
(
あいあい
)
として
春風
(
しゆんぷう
)
の
如
(
ごと
)
き
家庭
(
かてい
)
を
造
(
つく
)
つてゐた。
020
国依別
(
くによりわけ
)
は
球
(
きう
)
の
玉
(
たま
)
の
神徳
(
しんとく
)
に
仍
(
よ
)
つて、
021
凡
(
すべ
)
ての
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
成行
(
なりゆき
)
を
達観
(
たつくわん
)
してゐた。
022
それ
故
(
ゆゑ
)
ワザとに
時
(
とき
)
の
来
(
きた
)
る
迄
(
まで
)
は
政治
(
せいぢ
)
に
干与
(
かんよ
)
せず、
023
なまじひに
小刀
(
こがたな
)
細工
(
ざいく
)
を
施
(
ほどこ
)
す
共
(
とも
)
、
024
時
(
とき
)
至
(
いた
)
らざれば
殆
(
ほと
)
んど
徒労
(
とらう
)
に
帰
(
き
)
することを
知
(
し
)
つてゐたからである。
025
それ
故
(
ゆゑ
)
当座
(
たうざ
)
の
鼻塞
(
はなふさ
)
ぎとして、
026
実際
(
じつさい
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
永年間
(
ながねんかん
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
一派
(
いつぱ
)
に
委任
(
ゐにん
)
してゐたのである。
027
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
の
丸窓
(
まるまど
)
を
開
(
ひら
)
いて
夏風
(
なつかぜ
)
を
室内
(
しつない
)
に
入
(
い
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
028
脇息
(
けうそく
)
にもたれ、
029
作歌
(
さくか
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐた。
030
そこへ
静々
(
しづしづ
)
と
襖
(
ふすま
)
を
押開
(
おしあ
)
け
入来
(
いりき
)
たるは
末子姫
(
すゑこひめ
)
であつた。
031
国依別
(
くによりわけ
)
は
作歌
(
さくか
)
に
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
られて
032
末子姫
(
すゑこひめ
)
の
入
(
いり
)
来
(
きた
)
りしことに
気
(
き
)
がつかなかつた。
033
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
両手
(
りやうて
)
をついて、
034
言葉
(
ことば
)
もしとやかに、
035
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
036
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いますか……』
037
と
四五回
(
しごくわい
)
繰
(
くり
)
返
(
かへ
)
した。
038
国依別
(
くによりわけ
)
は
色紙
(
しきし
)
に
目
(
め
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
039
『
黎明
(
れいめい
)
に
向
(
むか
)
はむとして
天地
(
あめつち
)
は
040
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
震
(
ふる
)
ひをののく。
041
大空
(
おほぞら
)
に
月
(
つき
)
は
照
(
て
)
れ
共
(
ども
)
村雲
(
むらくも
)
の
042
深
(
ふか
)
く
包
(
つつ
)
みて
地上
(
ちじやう
)
に
見
(
み
)
えず。
043
甲子
(
きのえね
)
の
春
(
はる
)
をば
待
(
ま
)
ちて
開
(
ひら
)
かむと
044
雪
(
ゆき
)
に
堪
(
た
)
へつつ
匂
(
にほ
)
ふ
梅ケ香
(
うめがか
)
。
045
時
(
とき
)
は
今
(
いま
)
天地
(
あめつち
)
暗
(
くら
)
し
刈菰
(
かりごも
)
の
046
みだれに
紊
(
みだ
)
る
黎明
(
れいめい
)
の
前
(
まへ
)
に。
047
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
ければ
048
世
(
よ
)
を
守
(
まも
)
らむと
地震
(
なゐふる
)
至
(
いた
)
る』
049
と
口吟
(
くちずさ
)
んでゐる。
050
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
一層
(
いつそう
)
声
(
こゑ
)
を
高
(
たか
)
めて、
051
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
052
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
います』
053
と
繰
(
くり
)
返
(
かへ
)
した。
054
国依別
(
くによりわけ
)
はハツと
気
(
き
)
がつき、
055
『あゝ
末子姫
(
すゑこひめ
)
か、
056
何
(
なん
)
ぞ
用
(
よう
)
かね』
057
末子
(
すゑこ
)
『ハイ、
058
至急
(
しきふ
)
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
が
厶
(
ござ
)
いまして、
059
御
(
ご
)
勉強
(
べんきやう
)
の
最中
(
さいちう
)
を
御
(
お
)
驚
(
おどろ
)
かせ
致
(
いた
)
しました』
060
国依
(
くにより
)
『ナアニ、
061
勉強
(
べんきやう
)
でも
何
(
なん
)
でもない。
062
三十一
(
みそひと
)
文字
(
もじ
)
の
腰折
(
こしをれ
)
をひねくつてゐたのだ』
063
末子
(
すゑこ
)
『
立派
(
りつぱ
)
なお
歌
(
うた
)
が
詠
(
よ
)
めたでせう。
064
妾
(
わらは
)
にも
一度
(
いちど
)
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいませぬか』
065
国依
(
くにより
)
『ナアニ、
066
聞
(
き
)
かせるやうな
名歌
(
めいか
)
ぢやない。
067
余
(
あま
)
り
気
(
き
)
がムシヤクシヤしてゐるので、
068
歌
(
うた
)
迄
(
まで
)
がムシヤついてゐる。
069
今日
(
けふ
)
は
何時
(
いつ
)
にない
出来
(
でき
)
が
悪
(
わる
)
いよ』
070
末子
(
すゑこ
)
『
貴方
(
あなた
)
の
歌
(
うた
)
は
後
(
のち
)
になる
程
(
ほど
)
、
071
良
(
よ
)
くなりますからね。
072
お
詠
(
よ
)
みになつた
時
(
とき
)
は、
073
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
らこんな
歌
(
うた
)
と
思
(
おも
)
つてゐましても、
074
後日
(
ごじつ
)
になつて
拝読
(
はいどく
)
しますと、
075
お
歌
(
うた
)
が
皆
(
みな
)
予言録
(
よげんろく
)
となつて
現
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
りますの。
076
松若彦
(
まつわかひこ
)
も
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
のお
歌
(
うた
)
はウツカリ
見逃
(
みのが
)
すことは
出来
(
でき
)
ぬ、
077
残
(
のこ
)
らず
予言
(
よげん
)
だと
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
りましたよ』
078
国依
(
くにより
)
『
予言
(
よげん
)
か
五言
(
ごげん
)
か
妖言
(
ようげん
)
か
知
(
し
)
らぬが、
079
大
(
たい
)
したことはないよ。
080
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
自身
(
じしん
)
の
為
(
ため
)
によんだ
歌
(
うた
)
だからな、
081
ハヽヽ』
082
末子
(
すゑこ
)
『エ、
083
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
います。
084
又
(
また
)
謎
(
なぞ
)
を
言
(
い
)
つてゐらつしやるのでせう。
085
近
(
ちか
)
い
内
(
うち
)
に
地震
(
ぢしん
)
があると
仰有
(
おつしや
)
るのですか』
086
国依
(
くにより
)
『ウン、
087
地震
(
ぢしん
)
、
088
雷
(
かみなり
)
、
089
火事
(
くわじ
)
、
090
親爺
(
おやぢ
)
、
091
現代
(
げんだい
)
はモ
一
(
ひと
)
つ
加
(
そ
)
へ
物
(
もの
)
が
出来
(
でき
)
た、
092
それは
所謂
(
いはゆる
)
お
媽
(
かか
)
だ、
093
ハツハヽヽヽ』
094
末子
(
すゑこ
)
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
095
上流
(
じやうりう
)
の
家庭
(
かてい
)
に
於
(
おい
)
て、
096
お
媽
(
かか
)
なんて、
097
そんな
下卑
(
げび
)
た
言葉
(
ことば
)
をお
使
(
つか
)
ひなさいますな。
098
悴
(
せがれ
)
や
娘
(
むすめ
)
が
聞
(
き
)
きましては、
099
又
(
また
)
見習
(
みなら
)
つて
困
(
こま
)
りますからね』
100
国依
(
くにより
)
『ナアニ
奥様
(
おくさま
)
と
云
(
い
)
つても、
101
後室
(
こうしつ
)
と
云
(
い
)
つても、
102
御
(
ご
)
令室
(
れいしつ
)
と
云
(
い
)
つても、
103
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
と
云
(
い
)
つても、
104
お
媽
(
かか
)
と
云
(
い
)
つても、
105
ヤツパリ
女房
(
にようばう
)
だ。
106
人間
(
にんげん
)
の
附
(
ふ
)
した
名称
(
めいしよう
)
位
(
ぐらゐ
)
に
拘泥
(
こうでい
)
する
必要
(
ひつえう
)
はないぢやないか』
107
末子
(
すゑこ
)
『
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
は
地震
(
ぢしん
)
、
108
雷
(
かみなり
)
、
109
火事
(
くわじ
)
、
110
親爺
(
おやぢ
)
……と
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
111
それもキツト
深遠
(
しんゑん
)
な
謎
(
なぞ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
112
どうも
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
は
滑稽
(
こつけい
)
洒脱
(
しやだつ
)
の
中
(
なか
)
に
恐
(
おそ
)
ろしい
意味
(
いみ
)
が
含
(
ふく
)
んでゐるのですから、
113
容易
(
ようい
)
に
聞
(
きき
)
流
(
なが
)
しは
出来
(
でき
)
ませぬワ』
114
国依
(
くにより
)
『ハツハヽヽヽ、
115
地震
(
ぢしん
)
雷
(
かみなり
)
といふことは、
116
国依別
(
くによりわけ
)
自身
(
じしん
)
が
神
(
かみ
)
也
(
なり
)
といふ
事
(
こと
)
だ。
117
お
前
(
まへ
)
は
自信力
(
じしんりよく
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のやうに
強
(
つよ
)
いから、
118
ヤツパリお
前
(
まへ
)
も
自信
(
じしん
)
神
(
かみ
)
也
(
なり
)
だ』
119
末子
(
すゑこ
)
『ホツホヽヽヽ、
120
能
(
よ
)
くしらばくれ
遊
(
あそ
)
ばすこと、
121
そんな
意味
(
いみ
)
では
厶
(
ござ
)
いますまい。
122
火事
(
くわじ
)
親爺
(
おやぢ
)
といふことは
何
(
ど
)
ういふ
意味
(
いみ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
123
それを
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいな』
124
国依
(
くにより
)
『
今
(
いま
)
警鐘
(
けいしよう
)
乱打
(
らんだ
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えてゐただらう。
125
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
126
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
親爺
(
おやぢ
)
連
(
れん
)
が、
127
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
を
陳列
(
ちんれつ
)
して、
128
国政
(
こくせい
)
とか
何
(
なん
)
とかの
評議
(
ひやうぎ
)
の
最中
(
さいちう
)
へ
火事
(
くわじ
)
がいつたものだから、
129
親爺
(
おやぢ
)
が
驚
(
おどろ
)
いて
高欄
(
かうらん
)
から
転落
(
てんらく
)
し、
130
腰
(
こし
)
を
打
(
う
)
つて、
131
吾
(
わが
)
部屋
(
へや
)
へかつぎこまれ、
132
媽
(
かか
)
アの
世話
(
せわ
)
になつたと
云
(
い
)
ふ
謎
(
なぞ
)
だよ、
133
ハツハヽヽヽ』
134
末子
(
すゑこ
)
『あれマア、
135
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
高欄
(
かうらん
)
から
転落
(
てんらく
)
したことを
誰
(
たれ
)
にお
聞
(
き
)
きになりましたか』
136
国依
(
くにより
)
『そんなことは
霊眼
(
れいがん
)
でチヤンと
分
(
わか
)
つてるのだ。
137
それだから
国依別
(
くによりわけ
)
自身
(
じしん
)
は
神
(
かみ
)
也
(
なり
)
と
云
(
い
)
つたのだ。
138
火事
(
くわじ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
親爺
(
おやぢ
)
が
転落
(
てんらく
)
したから
火事
(
くわじ
)
親爺
(
おやぢ
)
だ』
139
末子
(
すゑこ
)
『
其
(
その
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
で
思
(
おも
)
い
出
(
だ
)
したが、
140
今
(
いま
)
お
伺
(
うかが
)
ひに
参
(
まゐ
)
りましたのも
松若彦
(
まつわかひこ
)
に
関
(
くわん
)
しての
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います。
141
幸
(
さいは
)
ひ
捨子姫
(
すてこひめ
)
が
参勤
(
さんきん
)
してゐたので、
142
直
(
ただち
)
に
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
担
(
かつ
)
ぎ
込
(
こ
)
まれ、
143
捨子姫
(
すてこひめ
)
の
介抱
(
かいはう
)
を
受
(
う
)
けて
居
(
を
)
ります。
144
妾
(
わらは
)
も
余
(
あま
)
り
可哀相
(
かあいさう
)
なので
病床
(
びやうしやう
)
を
見舞
(
みま
)
つてやりましたが、
145
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
大変
(
たいへん
)
に
憤慨
(
ふんがい
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますよ』
146
国依
(
くにより
)
『それは
廁
(
かわや
)
え
相
(
さう
)
に
糞外
(
ふんぐわい
)
してゐるのだらう。
147
俺
(
おれ
)
だつて
日
(
ひ
)
に
一遍
(
いつぺん
)
位
(
ぐらゐ
)
は
高野
(
かうや
)
参
(
まゐ
)
りをして
糞外
(
ふんぐわい
)
するのだからな、
148
ハツハヽヽヽ』
149
末子
(
すゑこ
)
『
冗談
(
じようだん
)
仰有
(
おつしや
)
るも
時
(
とき
)
と
場合
(
ばあひ
)
に
仍
(
よ
)
ります。
150
一遍
(
いつぺん
)
彼
(
かれ
)
の
言
(
い
)
ふことも
聞
(
き
)
いてやつて
頂
(
いただ
)
かねばなりませぬ』
151
国依
(
くにより
)
『そりや
聞
(
き
)
いてやらぬことはない。
152
悴
(
せがれ
)
や
娘
(
むすめ
)
に
揶揄
(
からか
)
はれて、
1521
薬鑵
(
やくわん
)
から
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
て、
153
火事
(
くわじ
)
に
二度
(
にど
)
吃驚
(
びつくり
)
して
負傷
(
ふしやう
)
したと
云
(
い
)
ふのだらう。
154
マア
可
(
い
)
いワイ、
155
松若彦
(
まつわかひこ
)
もモウ
可
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
引込
(
ひきこ
)
んでも
可
(
い
)
い
時分
(
じぶん
)
だからのう』
156
末子
(
すゑこ
)
『
何卒
(
どうぞ
)
、
157
今日
(
けふ
)
は
真剣
(
しんけん
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
158
真面目
(
まじめ
)
に
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ。
159
何時
(
いつ
)
も
瓢箪
(
へうたん
)
で
鯰
(
なまづ
)
を
抑
(
おさ
)
へるやうに、
160
ヌルリ ヌルリと
言霊
(
ことたま
)
の
切先
(
きつさき
)
をお
外
(
はづ
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
貴方
(
あなた
)
のズルサ
加減
(
かげん
)
、
161
いつも
風
(
かぜ
)
を
縄
(
なは
)
で
縛
(
しば
)
るやうな
掴
(
つか
)
まへ
所
(
どころ
)
のない、
162
困
(
こま
)
つた
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
だと、
163
松若彦
(
まつわかひこ
)
がこぼしてゐましたよ。
164
無頓着
(
むとんちやく
)
も
宜
(
よろ
)
しいが、
165
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
に
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
国司
(
こくし
)
にお
成
(
な
)
りなさつたのですか』
166
国依
(
くにより
)
『
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
でもない、
167
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
や
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
がお
前
(
まへ
)
の
夫
(
をつと
)
になつてやつて
呉
(
く
)
れと
仰有
(
おつしや
)
つたものだから、
168
厭
(
いや
)
で
叶
(
かな
)
はぬ
事
(
こと
)
のないお
前
(
まへ
)
の
夫
(
をつと
)
になつた
許
(
ばか
)
りだ。
169
其
(
その
)
時
(
とき
)
にお
前
(
まへ
)
も
知
(
し
)
つてるだらうが、
170
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
や
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
にダメを
押
(
お
)
して
置
(
お
)
いたぢやないか。
171
……
私
(
わたし
)
は
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
家潰
(
いへつぶ
)
しの
後家
(
ごけ
)
倒
(
たふ
)
し、
172
女
(
をんな
)
たらしの
野良苦良
(
のらくら
)
者
(
もの
)
、
173
こんなガラクタ
人間
(
にんげん
)
を
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
婿
(
むこ
)
になさつた
所
(
ところ
)
で
駄目
(
だめ
)
ですから……と
云
(
い
)
つて、
1731
お
断
(
ことわ
)
り
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げたら、
174
それが
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたと
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
つたぢやないか。
175
之
(
これ
)
でも
俺
(
おれ
)
は
十分
(
じふぶん
)
に
窮屈
(
きうくつ
)
な
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
んで、
176
勃々
(
ぼつぼつ
)
たる
勇気
(
ゆうき
)
を
抑
(
おさ
)
へ
神命
(
しんめい
)
を
守
(
まも
)
つてゐるのだ。
177
此
(
この
)
上
(
うへ
)
俺
(
おれ
)
に
追及
(
ついきふ
)
するのは
殺生
(
せつしやう
)
だ。
178
政治
(
せいぢ
)
なんかは
俗物
(
ぞくぶつ
)
のやることだ。
179
老子経
(
らうしきやう
)
に
云
(
い
)
ふてあるぢやないか、
180
太上
(
たいじやう
)
下知在之
(
しもこれあるをしる
)
……と
云
(
い
)
つて、
181
国民
(
こくみん
)
が
此
(
この
)
国
(
くに
)
に
国王
(
こくわう
)
が
有
(
あ
)
ると
云
(
い
)
ふこと
丈
(
だけ
)
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
ればそれで
可
(
い
)
いのだ。
182
なまじひに、
183
チヨツカイを
出
(
だ
)
し、
184
拙劣
(
へた
)
な
政治
(
せいぢ
)
でもやつて
見
(
み
)
よ、
185
国依別
(
くによりわけ
)
の
名
(
な
)
は
忽
(
たちま
)
ち
失墜
(
しつつゐ
)
し、
186
引
(
ひ
)
いて
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
名
(
な
)
迄
(
まで
)
汚
(
けが
)
すぢやないか』
187
末子
(
すゑこ
)
『お
説
(
せつ
)
は
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
いますが、
188
太上
(
たいじやう
)
とは
大昔
(
おほむかし
)
のこと、
189
人智
(
じんち
)
未開
(
みかい
)
の
古
(
いにしへ
)
なれば、
190
国
(
くに
)
に
王
(
わう
)
あることさへ
知
(
し
)
れば、
191
それで
民心
(
みんしん
)
は
治
(
をさ
)
まりましたが、
192
今日
(
こんにち
)
の
世態
(
せたい
)
はさう
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまい』
193
国依
(
くにより
)
『
老子経
(
らうしきやう
)
には
太上
(
たいじやう
)
下知在之
(
しもこれあるをしる
)
、
194
次褒之
(
つぎはこれをほむ
)
、
195
次畏之
(
つぎはこれをおそる
)
、
1951
次譏之
(
つぎはこれをそしる
)
、
196
次侮之
(
つぎはこれをあなどる
)
、
1961
……と
出
(
で
)
てゐるぢやないか。
197
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
段々
(
だんだん
)
進
(
すす
)
むに
連
(
つ
)
れ、
198
徳
(
とく
)
がおちて
来
(
く
)
ると
慈善
(
じぜん
)
だとか、
199
救済
(
きうさい
)
だとか
云
(
い
)
つて、
200
万衆
(
ばんしう
)
の
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
らねばならぬやうになつて
来
(
く
)
る。
201
そこで
万衆
(
ばんしう
)
に
施
(
ほどこ
)
しをするから
仁者
(
じんしや
)
だ、
202
尭舜
(
げうしゆん
)
の
御世
(
みよ
)
だと
云
(
い
)
つて
頭主
(
とうしゆ
)
をほめるのだ、
203
次
(
つぎ
)
に
之
(
これ
)
を
畏
(
おそ
)
るといふことはつまり
斯
(
か
)
うだ、
204
余
(
あま
)
り
頭主
(
とうしゆ
)
の
仁慈
(
じんじ
)
に
狎
(
なれ
)
て、
205
衆生
(
しゆじやう
)
が
気儘
(
きまま
)
になり、
206
慢心
(
まんしん
)
した
結果
(
けつくわ
)
207
不正義
(
ふせいぎ
)
をたくらんだり、
208
強盗
(
がうたう
)
殺人
(
さつじん
)
放火
(
はうくわ
)
等
(
とう
)
所在
(
あらゆる
)
悪事
(
あくじ
)
を
敢行
(
かんかう
)
し、
209
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
秩序
(
ちつじよ
)
を
紊
(
みだ
)
す
様
(
やう
)
になつて
来
(
く
)
る。
210
そこで
頭主
(
とうしゆ
)
は
厳
(
きび
)
しい
法規
(
はふき
)
を
設
(
まう
)
けて、
211
善
(
ぜん
)
を
賞
(
しやう
)
し、
212
悪
(
あく
)
を
罰
(
ばつ
)
する
様
(
やう
)
になつて
来
(
く
)
る。
213
丁度
(
ちやうど
)
八衢
(
やちまた
)
の
白赤
(
しろあか
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
を
勤
(
つと
)
める
様
(
やう
)
なものだ。
214
それならまだしも
可
(
い
)
いが、
215
世
(
よ
)
が
段々
(
だんだん
)
進
(
すす
)
むと、
216
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
には
之
(
これ
)
を
侮
(
あなど
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
になつて
来
(
く
)
る。
217
遂
(
つひ
)
に
衆生
(
しゆじやう
)
心
(
しん
)
汚濁
(
をぢよく
)
して
頭主
(
とうしゆ
)
大老
(
たいらう
)
豈
(
あに
)
種
(
しゆ
)
あらむやなど
称
(
とな
)
ふる
馬鹿者
(
ばかもの
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
く
)
る。
218
要
(
えう
)
するに
頭主
(
とうしゆ
)
たる
名
(
な
)
は
神
(
かみ
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
として、
219
国
(
くに
)
の
中心
(
ちうしん
)
に
立
(
た
)
つてゐれば
可
(
い
)
いのだ。
220
色々
(
いろいろ
)
な
小刀
(
こがたな
)
細工
(
ざいく
)
をする
様
(
やう
)
なことでは
最早
(
もはや
)
駄目
(
だめ
)
だ。
221
だから
此
(
この
)
国依別
(
くによりわけ
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
衆生
(
しゆじやう
)
からは
国司
(
こくし
)
と
仰
(
あふ
)
がれてゐるが、
222
自分
(
じぶん
)
としては
国司
(
こくし
)
でも
何
(
なん
)
でもないヤハリ
一個
(
いつこ
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
、
223
元
(
もと
)
の
宗彦
(
むねひこ
)
だ。
224
誰
(
たれ
)
が……
馬鹿
(
ばか
)
らしい、
225
大
(
おほ
)
きな
面
(
つら
)
をして
表
(
おもて
)
へ
出
(
で
)
られるものか……アーア』
226
と
大欠伸
(
おほあくび
)
をし、
227
両手
(
りやうて
)
の
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
差
(
さし
)
上
(
あ
)
げた。
228
末子
(
すゑこ
)
『モウ
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
229
何時
(
いつ
)
も
貴方
(
あなた
)
はそれだから
愚昧
(
ぐまい
)
な
妾
(
わらは
)
の
言
(
い
)
ふことは
一口
(
ひとくち
)
に
茶化
(
ちやくわ
)
されて
了
(
しま
)
ひますからね。
230
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
231
余
(
あま
)
り
貴方
(
あなた
)
は
天然
(
てんねん
)
教育
(
けういく
)
とか
自然
(
しぜん
)
教育
(
けういく
)
とか
仰有
(
おつしや
)
つて、
232
二人
(
ふたり
)
の
子供
(
こども
)
を
気儘
(
きまま
)
に
放任
(
はうにん
)
して
置
(
お
)
かれたものだから、
233
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
234
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
老臣
(
らうしん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
235
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
の
暴言
(
ぼうげん
)
を
吐
(
は
)
き、
236
……お
前
(
まへ
)
のやうな
骨董品
(
こつとうひん
)
は
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
引退
(
いんたい
)
した
方
(
はう
)
が
国家
(
こくか
)
の
利益
(
りえき
)
だとか
衆生
(
しゆじやう
)
の
幸福
(
かうふく
)
だらう……とか
言
(
い
)
つたさうですよ。
237
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
放任
(
はうにん
)
教育
(
けういく
)
がよいと
云
(
い
)
つても、
238
チツとは
教誡
(
けうかい
)
を
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さらぬと
困
(
こま
)
るぢやありませぬか』
239
国依
(
くにより
)
『
子供
(
こども
)
の
教育
(
けういく
)
は
母
(
はは
)
にあるのだ。
240
お
前
(
まへ
)
は
世
(
よ
)
の
所謂
(
いはゆる
)
良妻
(
りようさい
)
賢母
(
けんぼ
)
だから
困
(
こま
)
るのだ。
241
賢妻
(
けんさい
)
良母
(
りやうぼ
)
でなくては
本当
(
ほんたう
)
の
教育
(
けういく
)
は
出来
(
でき
)
ないよ。
242
国依別
(
くによりわけ
)
は
教育家
(
けういくか
)
でもなければ
子守
(
こもり
)
でもなし、
243
家庭
(
かてい
)
教師
(
けうし
)
でもないから、
244
そんなことア
畑違
(
はたけちが
)
ひだよ。
245
併
(
しか
)
しあの
時代遅
(
じだいおく
)
れの
親爺
(
おやぢ
)
連
(
れん
)
に、
246
悴
(
せがれ
)
も
娘
(
むすめ
)
も
引退
(
いんたい
)
を
迫
(
せま
)
つたといふのか、
247
流石
(
さすが
)
は
俺
(
おれ
)
の
子
(
こ
)
だ、
248
あゝ
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
。
249
此
(
この
)
父
(
ちち
)
にして
此
(
この
)
子
(
こ
)
あり、
250
国依別
(
くによりわけ
)
知己
(
ちき
)
を
得
(
え
)
たりと
云
(
い
)
ふべしだ、
251
アツハヽヽヽ』
252
末子
(
すゑこ
)
『あゝ
困
(
こま
)
つたことになつたものだなア。
253
丸
(
まる
)
で
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
に
向
(
むか
)
つては
如何
(
いか
)
なる
箴言
(
しんげん
)
も
豆腐
(
とうふ
)
に
鎹
(
かすがひ
)
、
254
糠
(
ぬか
)
に
釘
(
くぎ
)
だワ。
255
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にして
放任
(
はうにん
)
して
置
(
お
)
かうものなら、
256
悴
(
せがれ
)
も
娘
(
むすめ
)
も
新
(
あたら
)
しがつて
乗馬
(
じやうめ
)
生活
(
せいくわつ
)
を
捨
(
す
)
て、
257
両親
(
りやうしん
)
を
捨
(
す
)
て、
258
どこへ
逐電
(
ちくでん
)
するか
分
(
わか
)
らないと
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
めてならないのですワ。
259
松若彦
(
まつわかひこ
)
もそれが
心配
(
しんぱい
)
でならないと
云
(
い
)
つてゐましたよ』
260
国依
(
くにより
)
『
悴
(
せがれ
)
も
娘
(
むすめ
)
も
乗馬
(
じやうめ
)
生活
(
せいくわつ
)
を
嫌
(
きら
)
つて
何
(
いづ
)
れは
出
(
で
)
るだらう。
261
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
262
俺
(
おれ
)
の
血
(
ち
)
を
受
(
う
)
けてる
子供
(
こども
)
だからな。
263
今
(
いま
)
こそ
斯
(
か
)
うして
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
国司
(
こくし
)
の
仮名
(
かめい
)
に
捉
(
とら
)
はれ、
264
鍍金
(
めつき
)
的
(
てき
)
権威
(
けんゐ
)
を
保
(
たも
)
つてすまし
込
(
こ
)
んでゐるものの、
265
元
(
もと
)
を
糾
(
ただ
)
せば、
266
お
勝
(
かつ
)
と
巡礼
(
じゆんれい
)
をして
居
(
を
)
つた
宗彦
(
むねひこ
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
はて
)
だ、
267
其
(
その
)
悴
(
せがれ
)
だもの
当然
(
たうぜん
)
だよ。
268
親
(
おや
)
に
似
(
に
)
ぬ
子
(
こ
)
は
鬼子
(
おにご
)
と
云
(
い
)
ふから、
269
俺
(
おれ
)
もヤツパリ
誠
(
まこと
)
の
子
(
こ
)
を
持
(
も
)
つたと
見
(
み
)
えるワイ、
270
アツハヽヽヽ。
271
オイ
末子姫
(
すゑこひめ
)
、
272
人間
(
にんげん
)
は
教育
(
けういく
)
が
肝心
(
かんじん
)
だよ。
273
教育
(
けういく
)
の
行方
(
やりかた
)
によつて、
274
人物
(
じんぶつ
)
が
大
(
おほ
)
きくもなり
小
(
ちひ
)
さくもなるのだからな』
275
末子
(
すゑこ
)
『ホヽヽヽヽ、
276
教育
(
けういく
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れますワ。
277
貴方
(
あなた
)
の
教育
(
けういく
)
の
教
(
けう
)
は
獣扁
(
けものへん
)
に
王
(
わう
)
の
狂
(
きやう
)
でせう』
278
国依
(
くにより
)
『
無論
(
むろん
)
獣
(
けもの
)
でも
王
(
わう
)
になれば
結構
(
けつこう
)
だが、
279
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
教育
(
けういく
)
の
教
(
けう
)
はそんなのではない。
280
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
に
雲
(
くも
)
を
凌
(
しの
)
いで
聳
(
そび
)
え
立
(
た
)
つ
喬木
(
けうぼく
)
の
喬
(
けう
)
だ。
281
現代
(
げんだい
)
の
如
(
や
)
うな
教育
(
けういく
)
の
行方
(
やりかた
)
では、
282
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
に
飾
(
かざ
)
る
盆栽
(
ぼんさい
)
は
作
(
つく
)
れても、
283
柱
(
はしら
)
になる
良材
(
りやうざい
)
は
出来
(
でき
)
ない。
284
野生
(
やせい
)
の
杉
(
すぎ
)
檜
(
ひのき
)
松
(
まつ
)
などは、
285
少
(
すこ
)
しも
人工
(
じんこう
)
を
加
(
くは
)
へず、
286
惟神
(
かむながら
)
の
儘
(
まま
)
に
成育
(
せいいく
)
してゐるから、
287
立派
(
りつぱ
)
な
柱
(
はしら
)
となるのだ。
288
今日
(
こんにち
)
の
如
(
や
)
うに
児童
(
じどう
)
の
性能
(
せいのう
)
や
天才
(
てんさい
)
を
無視
(
むし
)
して、
289
圧迫
(
あつぱく
)
教育
(
けういく
)
や
詰込
(
つめこみ
)
教育
(
けういく
)
を
施
(
ほどこ
)
し、
290
折角
(
せつかく
)
大木
(
たいぼく
)
にならうとする
若木
(
わかぎ
)
に
針金
(
はりがね
)
を
巻
(
ま
)
いたり、
291
心
(
しん
)
を
摘
(
つ
)
んだり、
292
つつぱりをかうたりして、
293
小
(
ちひ
)
さい
鉢
(
はち
)
に
入
(
い
)
れて
了
(
しま
)
ふものだから、
294
碌
(
ろく
)
な
人間
(
にんげん
)
は
一
(
ひと
)
つも
出来
(
でき
)
やしない。
295
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
して、
296
思
(
おも
)
ふままに
子供
(
こども
)
を
発達
(
はつたつ
)
させ、
297
智能
(
ちのう
)
を
伸長
(
しんちやう
)
させるのが
真
(
しん
)
の
教育
(
けういく
)
だ。
298
大魚
(
たいぎよ
)
は
小池
(
こいけ
)
に
棲
(
す
)
まず、
299
悴
(
せがれ
)
も
余程
(
よほど
)
人格
(
じんかく
)
を
練
(
ね
)
り
上
(
あ
)
げたと
見
(
み
)
えて、
300
此
(
この
)
狭
(
せま
)
い
高砂城
(
たかさごじやう
)
が
窮屈
(
きうくつ
)
になつたとみえる。
301
それでこそ
世界
(
せかい
)
的
(
てき
)
人物
(
じんぶつ
)
だ、
302
否
(
いや
)
崇敬
(
すうけい
)
すべき
人格者
(
じんかくしや
)
だ、
303
てもさても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御恵
(
みめぐ
)
み
有難
(
ありがた
)
う
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します』
304
と
拍手
(
はくしゆ
)
し
乍
(
なが
)
ら
神殿
(
しんでん
)
に
向
(
むか
)
つて
拝礼
(
はいれい
)
する。
305
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
余
(
あま
)
りのことに
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
306
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
も
知
(
し
)
らなかつた。
307
(
大正一三・一・二二
旧一二・一二・一七
於伊予 山口氏邸、
松村真澄
録)
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