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第67巻(午の巻)
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第69巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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第一九章
老水
(
らうすい
)
〔一七六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第4篇 新政復興
よみ(新仮名遣い):
しんせいふっこう
章:
第19章 老水
よみ(新仮名遣い):
ろうすい
通し章番号:
1764
口述日:
1924(大正13)年01月25日(旧12月20日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
秋山別より先に行ったモリスは、木株につまづいて倒れ、老体のこととて、息も絶え絶えになってしまう。
その様を見かねて、春子姫はモリスの手当てをする。モリスは息を吹き返すが、自分を助けてくれたのが春子姫とは知らず、うわごとに春子姫を責める。
後から秋山別は追いついて、倒れているモリスと合流する。二人はとうてい姫に追いつけないと判断し、辞職を覚悟で家路についた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-09-11 14:41:47
OBC :
rm6919
愛善世界社版:
263頁
八幡書店版:
第12輯 369頁
修補版:
校定版:
277頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
002
モリスの
両老
(
りやうらう
)
は、
003
先
(
さき
)
に
高倉城
(
たかくらじやう
)
の
世子
(
せいし
)
国愛別
(
くにちかわけ
)
の
脱出
(
だつしゆつ
)
を
気附
(
きづ
)
かざりし
責任
(
せきにん
)
を
負
(
お
)
ひ、
004
惜
(
をし
)
くてならぬ
地位
(
ちゐ
)
を
表面
(
へうめん
)
上
(
じやう
)
、
005
責任
(
せきにん
)
を
負
(
お
)
うて
辞任
(
じにん
)
すると
云
(
い
)
つて、
006
辞表
(
じへう
)
を
提出
(
ていしゆつ
)
し、
007
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
より……それには
及
(
およ
)
ばぬ。
008
今後
(
こんご
)
は
気
(
き
)
をつけて、
009
国家
(
こくか
)
に
忠勤
(
ちうきん
)
を
励
(
はげ
)
めよ……との、
010
優握
(
いうあく
)
なる
箴言
(
しんげん
)
を
辱
(
かたじけ
)
なうし、
011
やつと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし、
012
恋々
(
れんれん
)
たる
元
(
もと
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
居据
(
ゐすわ
)
り、
013
之
(
これ
)
で
天下
(
てんか
)
太平
(
たいへい
)
とタカをくくつてゐた
所
(
ところ
)
、
014
又
(
また
)
もや
妹君
(
いもうとぎみ
)
清香姫
(
きよかひめ
)
の
思想
(
しさう
)
が
何
(
なん
)
となく
異様
(
いやう
)
に
感
(
かん
)
ぜられたので
心配
(
しんぱい
)
でならず、
015
過
(
あやまち
)
を
再
(
ふたた
)
びせば、
016
今度
(
こんど
)
こそは
切腹
(
せつぷく
)
してでも
申
(
まをし
)
開
(
ひら
)
きをせなならないと
両老
(
りやうらう
)
は、
017
夜半
(
やはん
)
にも
拘
(
かかは
)
らず、
018
姫
(
ひめ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
に
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つてゐた。
019
にも
拘
(
かかは
)
らず、
020
月夜
(
つきよ
)
に
釜
(
かま
)
をぬかれた
様
(
やう
)
な
驚
(
おどろ
)
きに
会
(
あ
)
ふて、
021
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず、
022
こんなことを
他
(
ほか
)
の
役人
(
やくにん
)
に
悟
(
さと
)
られては、
023
自分
(
じぶん
)
の
地位
(
ちゐ
)
が
危
(
あやふ
)
い、
024
幸
(
さいは
)
ひ
夜明
(
よあ
)
けには
少
(
すこ
)
しく
間
(
ま
)
があるのだから、
025
今夜
(
こんや
)
の
内
(
うち
)
に
姫
(
ひめ
)
の
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ね、
026
ソツと
城中
(
じやうちう
)
へ
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れておかむものと、
027
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
転
(
こ
)
けつ
輾
(
まろ
)
びつ、
028
裏門口
(
うらもんぐち
)
より
馬場
(
ばんば
)
の
木立
(
こだち
)
を
縫
(
ぬ
)
うて、
029
ウントコ ドツコイ ドツコイと
蛙
(
かへる
)
が
跳
(
はね
)
たやうなスタイルで、
030
息
(
いき
)
もせきせき
追
(
お
)
つかけて
行
(
ゆ
)
く。
031
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
足拍子
(
あしびやうし
)
を
取
(
と
)
り
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
ふ。
032
『ハアハアウントコ ドツコイシヨ
033
高倉城
(
たかくらじやう
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
と
034
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
から
敬
(
うやま
)
はれ
035
最大
(
さいだい
)
権威
(
けんゐ
)
を
掌握
(
しやうあく
)
し
036
大老
(
たいらう
)
の
地位
(
ちゐ
)
にすわりつつ
037
国愛別
(
くにちかわけ
)
の
若君
(
わかぎみ
)
に
038
スツパぬかれて、ドツコイシヨ
039
禿
(
は
)
げた
頭
(
あたま
)
を
台
(
だい
)
なしに
040
めしやがれ
鼻
(
はな
)
をねぢられて
041
どうして
大老
(
たいらう
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
つ
042
是非
(
ぜひ
)
がないので
表向
(
おもてむき
)
043
進退伺
(
しんたいうかがひ
)
辞職願
(
じしよくねがひ
)
044
ソツとコハゴハ
出
(
だ
)
してみたら
045
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
国司
(
こくし
)
様
(
さま
)
046
決
(
けつ
)
してそれには
及
(
およ
)
ばぬと
047
お
下
(
さ
)
げ
下
(
くだ
)
さつた
嬉
(
うれ
)
しさよ
048
ヤツと
胸
(
むね
)
をば
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし
049
お
務
(
つと
)
め
大事
(
だいじ
)
と
朝晩
(
あさばん
)
に
050
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
り
薬罐
(
やつくわん
)
に
051
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
てつつ
見守
(
みまも
)
れば
052
しばしは
無事
(
ぶじ
)
に
過
(
す
)
ぎたれど
053
隙間
(
すきま
)
を
狙
(
ねら
)
ふ
魔
(
ま
)
の
神
(
かみ
)
が
054
又
(
また
)
もや
館
(
やかた
)
に
現
(
あら
)
はれて
055
大事
(
だいじ
)
の
大事
(
だいじ
)
の
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
056
甘言
(
かんげん
)
以
(
もつ
)
て
唆
(
そそ
)
のかし
057
引
(
ひつ
)
ぱり
出
(
だ
)
したに
違
(
ちがひ
)
ない
058
まだ
夜
(
よ
)
があけるに
間
(
ま
)
もあれば
059
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
御
(
お
)
行方
(
ゆくへ
)
を
060
捜
(
さが
)
しあてずにおくものか
061
オイオイ モリスしつかりせい
062
今日
(
けふ
)
が
命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
だ
063
ウントコドツコイ、ハアハアハア
064
喉
(
のど
)
がひつつき
息
(
いき
)
つまる
065
よい
年
(
とし
)
してからこんな
苦労
(
くらう
)
066
なさねばならぬ
二人
(
ふたり
)
の
身
(
み
)
067
ホンに
因果
(
いんぐわ
)
な
生
(
うま
)
れつき
068
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
069
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
気
(
き
)
をつけて
070
人間
(
にんげん
)
らしい
影
(
かげ
)
みれば
071
取
(
と
)
つつかまへて
査
(
しら
)
べあげ
072
否応
(
いやおう
)
いはさず
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り
073
ソツと
二人
(
ふたり
)
が
脂
(
あぶら
)
をば
074
取
(
と
)
つておかねば
此
(
この
)
後
(
のち
)
の
075
懲戒
(
しめし
)
にならないドツコイシヨ
076
老眼鏡
(
らうがんきやう
)
が
曇
(
くも
)
り
出
(
だ
)
し
077
一寸先
(
いつすんさき
)
も
分
(
わか
)
らない
078
眼鏡
(
めがね
)
をとれば
尚
(
なほ
)
見
(
み
)
えぬ
079
進退
(
しんたい
)
ここに
谷
(
きは
)
まつた
080
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
081
アイタヽタツタ
木
(
き
)
の
株
(
かぶ
)
に
082
足
(
あし
)
をつまづき
脛
(
すね
)
むいた
083
ウンウンウンウン あゝ
痛
(
いた
)
や
084
腰
(
こし
)
の
骨
(
ほね
)
迄
(
まで
)
ギクギクと
085
下
(
くだ
)
らぬ
小言
(
こごと
)
をいひ
出
(
だ
)
した
086
アイタヽタツタ アイタツタ』
087
モリスは
倒
(
たふ
)
れてゐる
秋山別
(
あきやまわけ
)
を
抱
(
だ
)
き
起
(
おこ
)
し、
088
介抱
(
かいはう
)
しておつては
姫
(
ひめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
見失
(
みうしな
)
ふ。
089
それだと
云
(
い
)
つて、
090
みすみす
友達
(
ともだち
)
をすてて
行
(
ゆ
)
く
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
091
一間
(
いつけん
)
程
(
ほど
)
前
(
まへ
)
へ
走
(
はし
)
つてみたり、
092
後
(
あと
)
へ
戻
(
もど
)
つたり、
093
幾度
(
いくど
)
も
進退
(
しんたい
)
をしてゐる。
094
秋山
(
あきやま
)
『オイ、
095
モリス
殿
(
どの
)
096
何
(
なに
)
をして
厶
(
ござ
)
る。
097
第一線
(
だいいつせん
)
が
破
(
やぶ
)
るれば、
098
第二線
(
だいにせん
)
が
活動
(
くわつどう
)
するは
兵法
(
へいはふ
)
の
奥義
(
おくぎ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
099
拙者
(
せつしや
)
に
構
(
かま
)
はず、
100
トツトと
出陣
(
しゆつぢん
)
なされ。
101
間髪
(
かんぱつ
)
を
入
(
い
)
れざる
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
102
早
(
はや
)
くお
出
(
い
)
でなされ。
103
此
(
この
)
秋山
(
あきやま
)
は
殿
(
しんがり
)
となつて、
104
そこらの
木蔭
(
こかげ
)
や
叢
(
くさむら
)
を
捜
(
さが
)
しつつ
行
(
ゆ
)
くで
厶
(
ござ
)
らう、
105
サア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
106
とせき
立
(
た
)
てられ、
107
モリス『
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
、あとは
貴殿
(
きでん
)
にお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
す
108
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
109
昔
(
むかし
)
の
罪
(
つみ
)
がめぐり
来
(
き
)
て
110
又
(
また
)
もや
女
(
をんな
)
で
苦労
(
くらう
)
する
111
己
(
お
)
れの
恋
(
こひ
)
では
無
(
な
)
けれ
共
(
ども
)
112
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
めが
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
て
113
こい
こいこいと
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
114
つれ
出
(
だ
)
しやがつたに
違
(
ちがひ
)
ない
115
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
116
グヅグヅしてゐちや
夜
(
よ
)
があける
117
早
(
はや
)
く
所在
(
ありか
)
を
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し
118
とつつかまへて
元
(
もと
)
の
鞘
(
さや
)
119
をさめておかねば
吾々
(
われわれ
)
の
120
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
は
丸潰
(
まるつぶ
)
れ
121
皺腹
(
しわばら
)
切
(
き
)
らねばならうまい
122
すまじきものは
宮仕
(
みやづか
)
へ
123
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
124
臍
(
へそ
)
の
緒
(
を
)
切
(
き
)
つて
八十
(
はちじふ
)
年
(
ねん
)
125
これだけ
辛
(
つら
)
い
事
(
こと
)
あろか
126
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
は
127
芝生
(
しばふ
)
に
倒
(
たふ
)
れてウンウンと
128
脛腰
(
すねこし
)
立
(
た
)
たぬ
浅
(
あさ
)
ましさ
129
とは
云
(
い
)
ふものの
俺
(
おれ
)
だとて
130
最早
(
もはや
)
呼吸
(
こきふ
)
がつづかない
131
オーイ オーイ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
よ
132
オーイ オーイ
春子姫
(
はるこひめ
)
133
そこらに
居
(
ゐ
)
るなら
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
134
心
(
こころ
)
を
推量
(
すいりやう
)
した
上
(
うへ
)
で
135
あつさり
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はせよ
136
オーイ オーイお
姫
(
ひめ
)
さま
137
決
(
けつ
)
して
叱
(
しか
)
りはせぬ
程
(
ほど
)
に
138
一号
(
いちがう
)
二号
(
にがう
)
三号
(
さんがう
)
四号
(
しがう
)
139
五号
(
ごがう
)
(
合
(
がふ
)
)の
写真
(
しやしん
)
気
(
き
)
にくはにや
140
一升
(
いつしよう
)
でも
二升
(
にしよう
)
でも
捜
(
さが
)
します
141
オーイ オーイお
姫
(
ひめ
)
さま
142
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
迄
(
まで
)
牡鳥
(
おんどり
)
を
143
忘
(
わす
)
れぬためしも
厶
(
ござ
)
ります
144
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
頑固
(
ぐわんこ
)
なモリスでも
145
恋
(
こひ
)
には
経験
(
けいけん
)
持
(
も
)
つてゐる
146
貴女
(
あなた
)
の
決
(
けつ
)
して
不利益
(
ふりえき
)
な
147
話
(
はなし
)
はせない
村肝
(
むらきも
)
の
148
心
(
こころ
)
を
安
(
やす
)
んじ
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
149
あつさり
現
(
あら
)
はれ
下
(
くだ
)
さんせ
150
高倉城
(
たかくらじやう
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
151
ヒルの
国家
(
こくか
)
の
大問題
(
だいもんだい
)
152
恋
(
こひ
)
しき
父
(
ちち
)
と
母上
(
ははうへ
)
を
153
見捨
(
みす
)
てて
出
(
で
)
るとは
不孝
(
ふかう
)
ぞや
154
序
(
ついで
)
に
私
(
わたし
)
も
不幸
(
ふかう
)
ぞや
155
フコウ
峠
(
たうげ
)
の
麓
(
ふもと
)
迄
(
まで
)
156
かからぬ
内
(
うち
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
157
どうしてもこしても
捉
(
つか
)
まへて
158
皺面
(
しわづら
)
立
(
た
)
てねばおくものか
159
ウントコドツコイ、アイタヽヽ
160
俺
(
おれ
)
も
秋州
(
あきしう
)
の
二
(
に
)
の
舞
(
まひ
)
だ
161
木株
(
きかぶ
)
につまづき
向脛
(
むこずね
)
を
162
尖
(
とが
)
つた
石
(
いし
)
ですりむいた
163
ウンウンウンウン アイタヽヽ
164
アイタヽタツタ、アイタツタ』
165
と
云
(
い
)
つたきり、
166
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
息
(
いき
)
も
細
(
ほそ
)
つて
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
167
春子姫
(
はるこひめ
)
は
少
(
すこ
)
し
横側
(
よこがは
)
の
灌木
(
くわんぼく
)
の
茂
(
しげ
)
みに、
168
姫
(
ひめ
)
に
追
(
お
)
ひつき、
169
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めてゐたが、
170
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
がり、
171
小声
(
こごゑ
)
で、
172
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
173
今
(
いま
)
倒
(
たふ
)
れてゐるのはモリスぢやありませぬか。
174
あゝしておけば、
175
縡
(
ことぎ
)
れて
了
(
しま
)
ひませう、
176
介抱
(
かいはう
)
して
助
(
たす
)
けてやりませうか』
177
清香
(
きよか
)
『あ、
178
助
(
たす
)
けてやらねばならず、
179
助
(
たす
)
けてやれば
妾
(
わらは
)
の
目的
(
もくてき
)
が
立
(
た
)
たず、
180
どうしたら
可
(
よ
)
からうかな。
181
みすみす
老臣
(
らうしん
)
を
見殺
(
みごろ
)
しにして
迄
(
まで
)
、
182
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
183
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだ。
184
春子
(
はるこ
)
、
185
其方
(
そなた
)
、
186
そろそろモリスの
介抱
(
かいはう
)
をしてやつて
下
(
くだ
)
さい。
187
余
(
あま
)
り
早
(
はや
)
く
呼
(
よ
)
び
生
(
い
)
けると、
188
妾
(
わらは
)
が
逃
(
に
)
げる
間
(
ま
)
がないから、
189
そこは
時
(
とき
)
を
計
(
はか
)
つて
縡
(
ことぎ
)
れない
様
(
やう
)
に、
190
そろそろ
急
(
いそ
)
いで
助
(
たす
)
けてやつて
下
(
くだ
)
さい。
191
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
妾
(
わらは
)
は
逃
(
に
)
げのびますからね』
192
春子
(
はるこ
)
『
成
(
な
)
る
程
(
ほど
)
193
よい
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
います。
194
私
(
わたくし
)
がモリス
其
(
その
)
他
(
た
)
の
役人
(
やくにん
)
が
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
参
(
まゐ
)
りましても、
195
一歩
(
いつぽ
)
も
之
(
これ
)
から
南
(
みなみ
)
へ
行
(
ゆ
)
かぬやうに、
196
喰
(
く
)
ひとめますから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
197
清香
(
きよか
)
『
何分
(
なにぶん
)
頼
(
たの
)
みます、
198
左様
(
さやう
)
なら……』
199
と
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
した。
200
夜
(
よ
)
はガラリと
明
(
あ
)
けて
小鳥
(
ことり
)
の
声
(
こゑ
)
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
201
春子
(
はるこ
)
は、
202
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
203
キツト
後
(
あと
)
から
参
(
まゐ
)
ります』
204
と
声
(
こゑ
)
をかけた。
205
清香姫
(
きよかひめ
)
は
二三回
(
にさんくわい
)
うなづき
乍
(
なが
)
ら、
206
密林
(
みつりん
)
の
中
(
なか
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
207
春子
(
はるこ
)
はモリスの
側
(
そば
)
に
立寄
(
たちよ
)
り
見
(
み
)
れば、
208
体
(
からだ
)
をピコピコ
動
(
うご
)
かせ、
209
幽
(
かす
)
かな
息
(
いき
)
をしてゐる。
210
忽
(
たちま
)
ち
水筒
(
すいたう
)
の
水
(
みづ
)
を
口
(
くち
)
に
含
(
ふく
)
ませ、
211
背
(
せな
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
叩
(
たた
)
いて、
212
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
を
念
(
ねん
)
じ、
213
『
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
』と
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
した。
214
五
(
ご
)
分間
(
ふんかん
)
程
(
ほど
)
経
(
へ
)
た
後
(
のち
)
、
215
モリスは『ウーン』と
一声
(
ひとこゑ
)
唸
(
うな
)
つて、
216
頭
(
あたま
)
をソツと
擡
(
もた
)
げ、
217
老眼
(
らうがん
)
を
開
(
ひら
)
いて、
218
『あゝ
秋山別
(
あきやまわけ
)
か、
219
能
(
よ
)
う
助
(
たす
)
けてくれた。
220
何分
(
なにぶん
)
年
(
とし
)
がよつて、
221
足
(
あし
)
が
脆
(
もろ
)
いものだから、
222
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りむごい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うたのだ。
223
あゝ
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
む、
224
まア
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
で
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めねばなるまい。
225
清香姫
(
きよかひめ
)
様
(
さま
)
は、
226
こんな
無謀
(
むぼう
)
な
事
(
こと
)
はなさる
筈
(
はず
)
はないが、
227
侍女
(
じぢよ
)
の
春子
(
はるこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
228
彼奴
(
あいつ
)
が
張本人
(
ちやうほんにん
)
だらう。
229
オイ
秋山
(
あきやま
)
、
230
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
小言
(
こごと
)
いふ
訳
(
わけ
)
にいかぬから、
231
以後
(
いご
)
の
懲戒
(
みせしめ
)
に、
232
春子
(
はるこ
)
の
奴
(
やつ
)
を
牢屋
(
らうや
)
へでもブチこんで
辛
(
から
)
い
目
(
め
)
をさしてやらねばなるまいぞ、
233
ウンウンウン』
234
春子
(
はるこ
)
は
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くより、
235
モリスの
懐
(
ふところ
)
からタヲルを
取
(
とり
)
出
(
だ
)
し、
236
目
(
め
)
からかけて、
237
頭
(
あたま
)
をグツと
縛
(
しば
)
り、
238
モリスの
命
(
いのち
)
は
大丈夫
(
だいじやうぶ
)
と、
239
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
姫
(
ひめ
)
の
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
した。
240
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
足
(
あし
)
をチガチガさせ
乍
(
なが
)
ら
漸
(
やうや
)
くにしてモリスの
側
(
そば
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た。
241
秋山
(
あきやま
)
『ヤア
貴殿
(
きでん
)
はモリス
殿
(
どの
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
242
テも
偖
(
さて
)
も
大怪我
(
おほけが
)
をなさつたとみえる。
243
其
(
その
)
鉢巻
(
はちまき
)
は
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
る』
244
モリス『
此
(
この
)
鉢巻
(
はちまき
)
は
貴殿
(
きでん
)
がさしてくれたのでは
厶
(
ござ
)
らぬか。
245
一命
(
いちめい
)
すでに
危
(
あやふ
)
き
所
(
ところ
)
、
246
お
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
され、
247
誠
(
まこと
)
に
感謝
(
かんしや
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
248
持
(
も
)
つべき
者
(
もの
)
は
同僚
(
どうれう
)
なりけりだ。
249
お
蔭
(
かげ
)
で
足
(
あし
)
の
痛
(
いた
)
みも
余程
(
よほど
)
軽減
(
けいげん
)
致
(
いた
)
した』
250
秋山
(
あきやま
)
『
決
(
けつ
)
して、
251
拙者
(
せつしや
)
は
貴殿
(
きでん
)
を
助
(
たす
)
けたのではない。
252
漸
(
やうや
)
うの
事
(
こと
)
、
253
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
辿
(
たど
)
りついた
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
254
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
255
貴殿
(
きでん
)
は
何人
(
なにびと
)
かに
救
(
すく
)
はれたので
厶
(
ござ
)
らう』
256
といひ
乍
(
なが
)
ら
鉢巻
(
はちまき
)
を
外
(
はづ
)
す。
257
モ『
何
(
なん
)
だか
柔
(
やはら
)
かい
手
(
て
)
だと
思
(
おも
)
つてをつた。
258
さうすると、
259
拙者
(
せつしや
)
を
助
(
たす
)
けてくれたのは
貴殿
(
きでん
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
260
何
(
なに
)
はともあれ
命拾
(
いのちびろ
)
ひをして
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
る』
261
秋山
(
あきやま
)
『
斯
(
か
)
う
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けて
了
(
しま
)
へば、
262
捜索
(
そうさく
)
の
仕方
(
しかた
)
もなし、
263
大老
(
たいらう
)
ともあらう
者
(
もの
)
が、
264
供
(
とも
)
もつれずに、
265
ウロついて
居
(
を
)
つては
却
(
かへつ
)
て
疑
(
うたが
)
ひの
種
(
たね
)
、
266
何
(
なん
)
とか
善後策
(
ぜんごさく
)
を
講
(
かう
)
じようでは
厶
(
ござ
)
らぬか』
267
モ『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
る、
268
職務
(
しよくむ
)
上
(
じやう
)
捨
(
すて
)
おく
訳
(
わけ
)
にはいかず、
269
だと
申
(
まを
)
して、
270
斯
(
か
)
う
日
(
ひ
)
の
照
(
て
)
るのに、
271
吾々
(
われわれ
)
が
姫
(
ひめ
)
の
捜索
(
そうさく
)
もなりますまい。
272
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
間道
(
かんだう
)
よりソツと
吾
(
わが
)
家
(
いへ
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませう。
273
秋山別
(
あきやまわけ
)
殿
(
どの
)
、
274
拙者
(
せつしや
)
と
変
(
かは
)
り、
275
貴殿
(
きでん
)
は
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
で
厶
(
ござ
)
らうのう。
276
貴殿
(
きでん
)
の
御
(
ご
)
賢息
(
けんそく
)
、
277
菊彦
(
きくひこ
)
殿
(
どの
)
の
掌中
(
しやうちう
)
の
玉
(
たま
)
を
逃
(
に
)
がしたも
同様
(
どうやう
)
で
厶
(
ござ
)
れば、
278
御
(
ご
)
愁傷
(
しうしやう
)
の
程
(
ほど
)
、
2781
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
す。
279
最早
(
もはや
)
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
之
(
これ
)
限
(
ぎ
)
り
城中
(
じやうちう
)
へ
出入
(
でいり
)
せない
覚悟
(
かくご
)
をきめれば
可
(
よ
)
いでは
厶
(
ござ
)
らぬか。
280
老先
(
おいさき
)
短
(
みじか
)
い
吾々
(
われわれ
)
、
281
何時
(
いつ
)
までも
骨董品
(
こつとうひん
)
だ、
282
床
(
とこ
)
の
置物
(
おきもの
)
だと、
283
機械扱
(
きかいあつかひ
)
をされて、
284
頑張
(
ぐわんば
)
つておつても
詰
(
つま
)
り
申
(
まを
)
さぬでないか。
285
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が
退職
(
たいしよく
)
さへすれば、
286
政治
(
せいぢ
)
の
方針
(
はうしん
)
は
悪化
(
あくくわ
)
するかも
知
(
し
)
れないが、
287
マア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
人気
(
にんき
)
が
一変
(
いつぺん
)
して
288
それが
却
(
かへつ
)
てお
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
になるかも
知
(
し
)
れませぬぞ、
289
秋山殿
(
あきやまどの
)
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
る』
290
秋山
(
あきやま
)
『
一度
(
いちど
)
ならず、
291
二度
(
にど
)
迄
(
まで
)
も
大失敗
(
だいしつぱい
)
を
重
(
かさ
)
ね、
292
大老
(
たいらう
)
として、
293
どうして
之
(
これ
)
が
国司
(
こくし
)
に
顔
(
かほ
)
が
合
(
あ
)
はされうぞ。
294
又
(
また
)
衆生
(
しゆじやう
)
に
対
(
たい
)
しても
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
が
厶
(
ござ
)
らぬ。
295
貴殿
(
きでん
)
のお
言葉
(
ことば
)
の
通
(
とほ
)
り、
296
各自
(
かくじ
)
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
り
辞表
(
じへう
)
を
呈出
(
ていしゆつ
)
致
(
いた
)
し、
297
責任
(
せきにん
)
を
明
(
あきら
)
かにするで
厶
(
ござ
)
らう。
298
皺
(
しわ
)
つ
腹
(
ぱら
)
を
切
(
き
)
つて
切腹
(
せつぷく
)
すれば
腹
(
はら
)
は
痛
(
いた
)
し、
299
惜
(
をし
)
い
命
(
いのち
)
がなくなる
道理
(
だうり
)
、
300
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
顕要
(
けんえう
)
の
職務
(
しよくむ
)
だといつても、
301
命
(
いのち
)
には
替
(
か
)
へられ
申
(
まを
)
さぬ。
302
アツハヽヽヽ』
303
モ『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
賛成
(
さんせい
)
、
304
モリス
満足
(
まんぞく
)
で
厶
(
ござ
)
る。
305
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
斯
(
か
)
う
足
(
あし
)
が
痛
(
いた
)
んでは、
306
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
申
(
まを
)
さぬ。
307
一町
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
後
(
うしろ
)
へ
返
(
かへ
)
せば、
308
そこに
谷水
(
たにみづ
)
が
流
(
なが
)
れてゐる。
309
其
(
その
)
水
(
みづ
)
でも
呑
(
の
)
んで
息
(
いき
)
をつぎ、
310
ボツボツ
帰館
(
きかん
)
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
らう。
311
秋山殿
(
あきやまどの
)
、
312
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら、
313
拙者
(
せつしや
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
下
(
くだ
)
され。
314
どうも
苦
(
くる
)
しうてなり
申
(
まを
)
さぬ』
315
秋山
(
あきやま
)
『
老
(
お
)
いぬれば
人
(
ひと
)
の
譏
(
そし
)
りもしげくなりて
316
足腰
(
あしこし
)
立
(
た
)
たぬ
今日
(
けふ
)
の
苦
(
くる
)
しさ』
317
モ『
身体
(
からたま
)
はよし
老
(
お
)
ゆる
共
(
とも
)
精霊
(
せいれい
)
は
318
いと
美
(
うる
)
はしく
若
(
わか
)
やぎ
栄
(
さか
)
ゆ』
319
秋山
(
あきやま
)
『
脛腰
(
すねこし
)
も
立
(
た
)
たぬ
身
(
み
)
乍
(
なが
)
ら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふ
320
清麗
(
せいれい
)
の
水
(
みづ
)
でも
呑
(
の
)
んで
息
(
いき
)
せよ』
321
モ『そらさうだ
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
元気
(
げんき
)
に
云
(
い
)
ふたとて
322
争
(
あらそ
)
はれない
年
(
とし
)
の
阪路
(
さかみち
)
』
323
秋山
(
あきやま
)
『
海老腰
(
えびごし
)
に、なつてピンピンはねたとて
324
買
(
か
)
うてくれねば
店曝
(
たなざら
)
しかな。
325
又
(
また
)
しても
清香
(
きよか
)
の
姫
(
ひめ
)
に
逃
(
に
)
げられて
326
二人
(
ふたり
)
はここに
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
くかな』
327
かく
口
(
くち
)
ずさみ
乍
(
なが
)
ら、
328
漸
(
やうや
)
くにして
一町
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
引
(
ひき
)
返
(
かへ
)
し、
329
谷川
(
たにがは
)
から
流
(
なが
)
れてくる
清水
(
せいすい
)
の
溜
(
たまり
)
の
側
(
そば
)
へと
着
(
つ
)
いた。
330
モ『
老
(
おい
)
の
身
(
み
)
の
霊
(
みたま
)
うるほす
清水
(
しみづ
)
かな。
331
此
(
この
)
清水
(
しみづ
)
人
(
ひと
)
の
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
ふらむ』
332
秋山
(
あきやま
)
『われも
亦
(
また
)
清水
(
しみづ
)
むすばむ
夏
(
なつ
)
の
朝
(
あさ
)
。
333
汗
(
あせ
)
となり
力
(
ちから
)
ともなる
清水
(
しみづ
)
かな。
334
年寄
(
としよ
)
りの
皺
(
しわ
)
迄
(
まで
)
伸
(
の
)
びる
清水
(
しみづ
)
かな。
335
此
(
こ
)
の
上
(
うへ
)
は
帰
(
かへ
)
りて
何
(
なに
)
も
岩清水
(
いはしみづ
)
』
336
モ『
水臭
(
みづくさ
)
い
姫
(
ひめ
)
に
逃
(
に
)
げられ
清水
(
しみづ
)
呑
(
の
)
む。
337
春子姫
(
はるこひめ
)
吾
(
われ
)
を
救
(
すく
)
ふて
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く』
338
秋山
(
あきやま
)
『サア
早
(
はや
)
く
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
らむ
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ』
339
かく
口
(
くち
)
ずさみ
乍
(
なが
)
ら
両老
(
りやうらう
)
は
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
城
(
しろ
)
の
馬場
(
ばんば
)
の
間道
(
ぬけみち
)
から、
340
力
(
ちから
)
なげにトボトボと
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
341
(
大正一三・一・二五
旧一二・一二・二〇
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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