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第62巻(丑の巻)
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第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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第一五章
四天王
(
してんわう
)
〔一七六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第3篇 神柱国礎
よみ(新仮名遣い):
しんちゅうこくそ
章:
第15章 四天王
よみ(新仮名遣い):
してんおう
通し章番号:
1760
口述日:
1924(大正13)年01月24日(旧12月19日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国州、浅州の二人は、アリナの滝の懸橋御殿にたどり着き、月次祭に参列し、滝の禊に行く。
すると、信者風の男たち十四五人に囲まれ、取り押さえられてしまう。国照別は息を整えて跳ね起き、たちまち四五人を取って投げ、啖呵を切る。
この勢いに、男たちの中の大将・駒治は平伏し、自分たちは伊佐彦老中の手下の捕り手で、世継である国照別を連れ戻しにやってきた者たちである、と白状する。
国照別はあべこべに、自分の子分となって珍の国の立て直しに協力するよう、捕り手たちに呼びかける。駒治、市公、馬公の三人だけが十手を捨てて国照別に従い、他の捕り手は一目散に逃げていった。
一行五人は捕り手たちは捨て置き、名にし負う霊跡、鏡の池へ禊に向かっていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-05-07 05:30:20
OBC :
rm6915
愛善世界社版:
214頁
八幡書店版:
第12輯 351頁
修補版:
校定版:
224頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
国州
(
くにしう
)
、
002
浅州
(
あさしう
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
午前
(
ごぜん
)
の
十時頃
(
じふじごろ
)
辛
(
から
)
うじて、
003
国玉依別
(
くにたまよりわけの
)
命
(
みこと
)
が
主管
(
しゆくわん
)
してゐるアリナの
滝
(
たき
)
の
懸橋
(
かけはし
)
御殿
(
ごてん
)
の
大広前
(
おほひろまへ
)
に
辿
(
たど
)
りついた。
004
国玉依別
(
くにたまよりわけ
)
、
005
玉竜姫
(
たまたつひめ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
祭服
(
さいふく
)
を
着
(
ちやく
)
し、
006
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
と
共
(
とも
)
に、
0061
月例
(
つきなみ
)
の
祭典
(
さいてん
)
を
了
(
をは
)
り、
007
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
奏上
(
そうじやう
)
してゐる。
008
国玉依
(
くにたまより
)
『アリナの
滝
(
たき
)
の
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
009
此
(
この
)
谷間
(
たにあひ
)
のいや
深
(
ふか
)
き
010
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
011
懸橋
(
かけはし
)
御殿
(
ごてん
)
に
朝夕
(
あさゆふ
)
に
012
真心
(
まごころ
)
ささげ
仕
(
つか
)
へゆく
013
吾
(
われ
)
は
国玉依別
(
くにたまよりわけ
)
の
014
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
宣伝使
(
せんでんし
)
015
玉竜姫
(
たまたつひめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
016
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
017
アリナの
山
(
やま
)
の
空
(
そら
)
高
(
たか
)
く
018
テルの
荒野
(
あらの
)
のいや
広
(
ひろ
)
く
019
海
(
うみ
)
の
外
(
そと
)
迄
(
まで
)
伝
(
つた
)
へゆく
020
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
021
世
(
よ
)
は
常暗
(
とこやみ
)
となりつれど
022
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
の
昔
(
むかし
)
より
023
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
変
(
かは
)
りなく
024
四方
(
よも
)
の
民草
(
たみぐさ
)
恵
(
めぐ
)
みまし
025
世
(
よ
)
の
荒風
(
あらかぜ
)
も
醜雨
(
しこあめ
)
も
026
凌
(
しの
)
ぎて
安
(
やす
)
く
世
(
よ
)
をわたる
027
テルの
国
(
くに
)
こそめでたけれ
028
旭
(
あさひ
)
は
清
(
きよ
)
くテルの
国
(
くに
)
029
夕日
(
ゆふひ
)
も
清
(
きよ
)
くテルの
国
(
くに
)
030
月
(
つき
)
は
御空
(
みそら
)
に
鮮
(
あざや
)
かに
031
天伝
(
あまつた
)
ひつつテルの
国
(
くに
)
032
浜
(
はま
)
の
真砂
(
まさご
)
の
数
(
かず
)
多
(
おほ
)
く
033
御空
(
みそら
)
の
星
(
ほし
)
もテルの
国
(
くに
)
034
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
皇神
(
すめかみ
)
の
035
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ひし
鏡池
(
かがみいけ
)
036
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らしつつ
037
稜威
(
みいづ
)
輝
(
かがや
)
くテルの
国
(
くに
)
038
天照
(
あまてる
)
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
にて
039
野山
(
のやま
)
は
青
(
あを
)
く
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
040
大海原
(
おほうなばら
)
より
打
(
うち
)
よする
041
波
(
なみ
)
も
静
(
しづか
)
に
漁
(
すなど
)
りの
042
わざも
豊
(
ゆたか
)
に
国原
(
くにはら
)
は
043
稲
(
いね
)
麦
(
むぎ
)
豆
(
まめ
)
粟
(
あは
)
よく
稔
(
みの
)
り
044
地上
(
ちじやう
)
に
生
(
お
)
ふる
人草
(
ひとぐさ
)
は
045
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
嬉
(
うれ
)
しみて
046
神
(
かみ
)
を
敬
(
うやま
)
はぬ
者
(
もの
)
ぞなし
047
げに
高砂
(
たかさご
)
の
名
(
な
)
に
負
(
お
)
へる
048
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
のテルの
国
(
くに
)
049
領有
(
うしはぎ
)
玉
(
たま
)
ふ
国魂
(
くにたま
)
の
050
聖
(
きよ
)
き
御前
(
みまへ
)
に
鹿児自
(
かごじ
)
物
(
もの
)
051
膝
(
ひざ
)
折
(
を
)
りふせて
大稜威
(
おほみいづ
)
052
神嘉
(
かみほ
)
ぎ
仕
(
つか
)
へ
奉
(
たてまつ
)
る
053
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
054
身魂
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
謝
(
しや
)
し
奉
(
まつ
)
る
055
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
056
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
つ
十
(
とを
)
たらり
057
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
の
国人
(
くにびと
)
が
058
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
大前
(
おほまへ
)
に
059
い
寄
(
よ
)
りつどひて
御恵
(
みめぐみ
)
の
060
千重
(
ちへ
)
の
一重
(
ひとへ
)
に
酬
(
むく
)
いむと
061
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
062
今日
(
けふ
)
の
生日
(
いくひ
)
に
月例
(
つきなみ
)
の
063
御祭
(
みまつり
)
仕
(
つか
)
へ
奉
(
たてまつ
)
り
064
海川
(
うみかは
)
山野
(
やまぬ
)
くさぐさの
065
うまし
物
(
もの
)
をば
横山
(
よこやま
)
の
066
いとさわさわに
置足
(
おきたら
)
ひ
067
真心
(
まごころ
)
捧
(
ささ
)
げ
仕
(
つか
)
へゆく
068
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
069
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
070
大西洋
(
たいせいやう
)
はあするとも
071
アリナの
山
(
やま
)
は
崩
(
くづ
)
るとも
072
滝
(
たき
)
の
流
(
ながれ
)
は
干
(
ひ
)
るとても
073
千代
(
ちよ
)
に
尽
(
つ
)
きせぬ
神恩
(
みめぐみ
)
の
074
露
(
つゆ
)
に
霑
(
うるほ
)
ふ
民草
(
たみぐさ
)
の
075
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
ぞ
麗
(
うる
)
はしき
076
心
(
こころ
)
の
花
(
はな
)
ぞ
麗
(
うるは
)
しき
077
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
り
玉
(
たま
)
ひたる
078
無限
(
むげん
)
絶対
(
ぜつたい
)
無始
(
むし
)
無終
(
むしう
)
079
神徳
(
しんとく
)
強
(
つよ
)
き
国
(
くに
)
の
祖
(
おや
)
080
国治立
(
くにはるたち
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
081
世人
(
よびと
)
を
洽
(
あまね
)
く
救
(
すく
)
ひます
082
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
083
貴
(
うづ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
畏
(
かしこ
)
みて
084
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
の
太祝詞
(
ふとのりと
)
085
たたへまつるぞ
嬉
(
うれ
)
しけれ
086
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
087
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
謝
(
しや
)
しまつる』
088
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
089
四拍手
(
しはくしゆ
)
して
神前
(
みまへ
)
を
退
(
しりぞ
)
き、
090
二柱
(
ふたはしら
)
は
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へて
目礼
(
もくれい
)
し
乍
(
なが
)
ら、
091
己
(
おの
)
が
居間
(
ゐま
)
へと
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
092
国
(
くに
)
、
093
浅
(
あさ
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
信徒
(
しんと
)
の
中
(
なか
)
に
交
(
まじ
)
はりて
此
(
この
)
祭典
(
さいてん
)
に
列
(
れつ
)
してゐた。
094
浅州
(
あさしう
)
は
国照別
(
くにてるわけ
)
の
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ、
095
『
何
(
なん
)
と
荘厳
(
さうごん
)
な
宣伝歌
(
せんでんか
)
だありませぬか。
096
そして
此処
(
ここ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
は
随分
(
ずいぶん
)
老耄
(
おいぼれ
)
の
様
(
やう
)
だが、
097
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
は
十七八
(
じふしちはち
)
の
若者
(
わかもの
)
の
様
(
やう
)
な
涼
(
すず
)
しい
清
(
きよ
)
らかな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
すだありませぬか。
098
あの
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
私
(
わたし
)
はふるひ
附
(
つ
)
く
程
(
ほど
)
好
(
すき
)
になりました』
099
国
(
くに
)
『
心
(
こころ
)
さへ
清浄
(
しやうじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
にあれば、
100
言霊
(
ことたま
)
も
濁
(
にご
)
らないから、
101
あゝいふ
美
(
うつく
)
しい
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
るのだ。
102
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
之
(
これ
)
からは
魂
(
みたま
)
を
清
(
きよ
)
めて
声
(
こゑ
)
の
年
(
とし
)
がよらないやうにしたいものだ。
103
ここは
昔
(
むかし
)
俺
(
おれ
)
の
親爺
(
おやぢ
)
から
聞
(
き
)
いてゐるが、
104
親爺
(
おやぢ
)
の
友達
(
ともだち
)
の
竜国別
(
たつくにわけ
)
といふ
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
105
自分
(
じぶん
)
の
母親
(
ははおや
)
や
弟子
(
でし
)
共
(
ども
)
と
共
(
とも
)
に、
106
玉
(
たま
)
よせの
芝居
(
しばゐ
)
をやつた
所
(
ところ
)
ださうな。
107
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
竜国別
(
たつくにわけ
)
母子
(
おやこ
)
がソツト
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
失敬
(
しつけい
)
して
108
アリナ
山
(
やま
)
を
遙々
(
はるばる
)
越
(
こ
)
え
珍
(
うづ
)
の
原野
(
げんや
)
迄
(
まで
)
いつた
所
(
ところ
)
、
109
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
戒
(
いましめ
)
に
会
(
あ
)
うて
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
め、
110
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
に
高姫
(
たかひめ
)
といふ
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い
宣伝使
(
せんでんし
)
がやつて
来
(
き
)
て、
111
又
(
また
)
其
(
その
)
玉
(
たま
)
の
為
(
ため
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
脂
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
られ
112
改心
(
かいしん
)
したといふ
歴史
(
れきし
)
の
残
(
のこ
)
つてゐるお
宮様
(
みやさま
)
だ。
113
竜国別
(
たつくにわけ
)
が
中途
(
ちうと
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
取上
(
とりあ
)
げられた
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
が
御
(
ご
)
神体
(
しんたい
)
となつて、
114
此
(
この
)
お
社
(
やしろ
)
に
祀
(
まつ
)
つてあるといふ
事
(
こと
)
だから、
115
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
たる
以上
(
いじやう
)
は、
116
満更
(
まんざら
)
縁
(
えん
)
のない
者
(
もの
)
でもない。
117
どうだ、
118
今晩
(
こんばん
)
此処
(
ここ
)
でお
通夜
(
つうや
)
でもやつて
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
頂
(
いただ
)
き、
119
アリナの
滝
(
たき
)
で
身
(
み
)
をうたれ、
120
それからボツボツ
目的地
(
もくてきち
)
へ
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
121
浅
(
あさ
)
『それは
誠
(
まこと
)
に
至極
(
しごく
)
結構
(
けつこう
)
でせう。
122
何
(
なん
)
なら
親分
(
おやぶん
)
、
123
ヒルの
国
(
くに
)
なんて、
124
山河
(
さんか
)
数百
(
すうひやく
)
里
(
り
)
も
隔
(
へだ
)
てた
遠国
(
ゑんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
くよりも、
125
山
(
やま
)
一
(
ひと
)
つ
越
(
こ
)
ゆれば、
126
自分
(
じぶん
)
の
生
(
うま
)
れた
国
(
くに
)
だから、
127
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
128
此処
(
ここ
)
で
暫
(
しばら
)
く
尻
(
しり
)
を
据
(
す
)
ゑたら
何
(
ど
)
うでせう。
129
別
(
べつ
)
にヒルの
国
(
くに
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かなくても、
130
侠客
(
けふかく
)
にはなれますよ』
131
国
(
くに
)
『
一旦
(
いつたん
)
男子
(
だんし
)
が
思
(
おもひ
)
立
(
た
)
つた
事
(
こと
)
は
中途
(
ちうと
)
にやめる
訳
(
わけ
)
には
行
(
い
)
かない。
132
絶壁
(
ぜつぺき
)
前
(
まへ
)
に
当
(
あた
)
るとも、
133
白刃
(
はくじん
)
頭上
(
づじやう
)
に
閃
(
ひらめ
)
くとも、
134
一旦
(
いつたん
)
言
(
こと
)
あげした
事
(
こと
)
は
実行
(
じつかう
)
せなくちや
男
(
をとこ
)
とはいはれない。
135
まして
男
(
をとこ
)
の
中
(
なか
)
の
男
(
をとこ
)
一匹
(
いつぴき
)
と、
136
世間
(
せけん
)
に
持
(
も
)
てはやされ、
137
仁侠
(
にんけふ
)
を
以
(
もつ
)
て
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
大望
(
たいまう
)
を
抱
(
いだ
)
いた
吾々
(
われわれ
)
、
138
そんな
腰
(
こし
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようか。
139
お
前
(
まへ
)
は
厭
(
いや
)
なら
厭
(
いや
)
で
可
(
よ
)
いから、
140
此処
(
ここ
)
に
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
固着
(
こちやく
)
してゐるが
良
(
よ
)
からう、
141
俺
(
おれ
)
は
一人
(
ひとり
)
でやつて
来
(
く
)
るからのう』
142
浅
(
あさ
)
『どこ
迄
(
まで
)
もお
供
(
とも
)
致
(
いた
)
します。
143
然
(
しか
)
し
三日
(
みつか
)
や
四日
(
よつか
)
はお
骨休
(
ほねやす
)
め、
144
足休
(
あしやす
)
めの
為
(
ため
)
、
145
此処
(
ここ
)
でお
籠
(
こも
)
りしたら
何
(
ど
)
うでせうか』
146
国
(
くに
)
『
先
(
ま
)
づ
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
滝
(
たき
)
に
打
(
う
)
たれて、
147
体
(
からだ
)
を
浄
(
きよ
)
め、
148
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
神勅
(
しんちよく
)
をうけ、
149
そしてボツボツ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にせう』
150
浅
(
あさ
)
『ヤ、
151
それで
安心
(
あんしん
)
しました。
152
そんなら
之
(
これ
)
からお
滝
(
たき
)
へ
参
(
まゐ
)
りませうか』
153
国
(
くに
)
『ヨーシ、
154
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
身禊
(
みそぎ
)
をやつて
来
(
こ
)
う』
155
といひ
乍
(
なが
)
ら、
156
拍手
(
はくしゆ
)
再拝
(
さいはい
)
し、
157
口
(
くち
)
の
奥
(
おく
)
で
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
称
(
とな
)
へてゐると、
158
信者
(
しんじや
)
の
風
(
ふう
)
をした
十四五
(
じふしご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
159
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
よりバラバラと
取囲
(
とりかこ
)
み、
160
両人
(
りやうにん
)
の
首筋
(
くびすぢ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
161
剛力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
して
押
(
おさ
)
へつけた。
162
浅公
(
あさこう
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
163
『アイタヽヽヽ、
164
ナヽ
何
(
なに
)
をさらすのだ。
165
コリヤお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
ア、
166
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
信心
(
しんじん
)
してる
信者
(
しんじや
)
ぢやないか。
167
人
(
ひと
)
の
首筋
(
くびすぢ
)
を
押
(
おさ
)
へて
何
(
ど
)
うするつもりだ。
168
イイ
痛
(
いた
)
いワイ、
169
何
(
なん
)
ぢやい。
170
人
(
ひと
)
の
手
(
て
)
を
後
(
うしろ
)
へ
廻
(
まは
)
しやがつて……
何
(
なに
)
俺
(
おれ
)
が
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
したか……モシ
親分
(
おやぶん
)
、
171
タヽ
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいな』
172
国照別
(
くにてるわけ
)
は
剛力
(
がうりき
)
に
押
(
おさ
)
へられ、
173
俯向
(
うつむ
)
いた
儘
(
まま
)
、
174
阿呍
(
あうん
)
の
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らし、
175
隙
(
すき
)
をねらつてゐた。
176
息
(
いき
)
の
調子
(
てうし
)
を
計
(
はか
)
つて、
177
パツとはね
起
(
お
)
き、
178
矢庭
(
やには
)
に
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
を
取
(
と
)
つて
投
(
な
)
げた。
179
浅公
(
あさこう
)
を
押
(
おさ
)
へてゐた
大男
(
おほをとこ
)
も
吃驚
(
びつくり
)
して
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した。
180
浅公
(
あさこう
)
は
矢庭
(
やには
)
に
座敷
(
ざしき
)
の
真中
(
まんなか
)
につつ
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り、
181
大手
(
おほて
)
をひろげ、
182
手
(
て
)
に
唾
(
つばき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
183
『サー
来
(
こ
)
い、
184
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
に
於
(
おい
)
て
隠
(
かく
)
れなき
白浪
(
しらなみ
)
男
(
をとこ
)
の
浅公
(
あさこう
)
さまとは、
185
こなはん
のことだ。
186
いらざる
ちよつかい
を
出
(
だ
)
して
後悔
(
こうくわい
)
を
致
(
いた
)
すな。
187
乾児
(
こぶん
)
の
俺
(
おれ
)
でさへも
此
(
この
)
通
(
とほり
)
だ、
188
俺
(
おれ
)
の
親分
(
おやぶん
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
てゐるか、
189
珍
(
うづ
)
の
一国
(
いつこく
)
の
国
(
くに
)
の
柱
(
はしら
)
の
国
(
くに
)
さまだぞ』
190
此
(
この
)
中
(
なか
)
の
最
(
もつと
)
も
大将
(
たいしやう
)
らしき
奴
(
やつ
)
、
191
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
にキチンと
坐
(
すわ
)
り
両手
(
りやうて
)
をついて、
192
男
(
をとこ
)
『
誠
(
まこと
)
に
失礼
(
しつれい
)
をいたしました。
193
私
(
わたし
)
は
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中
(
らうぢう
)
の
部下
(
ぶか
)
に
仕
(
つか
)
ふる、
194
はした
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
で
厶
(
ござ
)
いまするが、
195
国照別
(
くにてるわけ
)
の
世子
(
せいし
)
様
(
さま
)
が、
196
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
に
身
(
み
)
をおとして、
197
お
忍
(
しの
)
びになつたといふ
事
(
こと
)
が
城下
(
じやうか
)
一般
(
いつぱん
)
にひろがり、
198
それから
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
が
手配
(
てくば
)
りを
致
(
いた
)
しましたが、
199
どうしても
御
(
お
)
行衛
(
ゆくへ
)
が
知
(
し
)
れぬので、
200
ヒヨツとしたら
他国
(
たこく
)
へ
逐電
(
ちくでん
)
されるかも
知
(
し
)
れないと、
201
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
を
引
(
ひき
)
つれ、
202
一方口
(
いつばうぐち
)
の
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
信者
(
しんじや
)
と
化込
(
ばけこ
)
み、
203
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてゐた
所
(
ところ
)
、
204
今日
(
けふ
)
計
(
はか
)
らずも、
205
世子
(
せいし
)
様
(
さま
)
のお
出
(
い
)
で、
206
誠
(
まこと
)
に
恐
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
207
吾々
(
われわれ
)
がお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しますから、
208
どうぞ
国
(
くに
)
へお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
209
国
(
くに
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
な
役
(
やく
)
だ。
210
願
(
ねがひ
)
によつて
帰
(
かへ
)
つてやるのは
易
(
やす
)
い
事
(
こと
)
だが、
211
俺
(
おれ
)
も
最早
(
もはや
)
決心
(
けつしん
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
212
一歩
(
いつぽ
)
も
後
(
あと
)
へ
返
(
かへ
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない、
213
諦
(
あきら
)
めて
帰
(
かへ
)
つてくれ。
214
何
(
いづ
)
れ
永遠
(
えいゑん
)
に
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
を
見
(
み
)
すてるのではない。
215
俺
(
おれ
)
には
俺
(
おれ
)
の
考
(
かんが
)
へがあつての
事
(
こと
)
だから、
216
素直
(
すなほ
)
に
帰
(
かへ
)
つたが
可
(
よ
)
からう』
217
男
(
をとこ
)
『
私
(
わたくし
)
は
深溝
(
ふかみぞ
)
役所
(
やくしよ
)
の
目付
(
めつけ
)
で
厶
(
ござ
)
いまして、
218
駒治
(
こまはる
)
といふ
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
います。
219
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
おほ
)
せられずに、
220
一先
(
ひとま
)
づ
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
221
珍
(
うづ
)
の
城下
(
じやうか
)
は
大変
(
たいへん
)
な
騒
(
さわぎ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
222
一度
(
いちど
)
帰
(
かへ
)
つて
頂
(
いただ
)
かねば、
223
衆生
(
しゆじやう
)
が
塗炭
(
とたん
)
の
苦
(
くるし
)
みに
陥
(
おちい
)
ります。
224
衆生
(
しゆじやう
)
を
愛
(
あい
)
し
下
(
くだ
)
さる
真心
(
まごころ
)
があるなら、
225
どうぞ
私
(
わたくし
)
がお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しますから、
226
此
(
この
)
場
(
ば
)
より
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
りを
願
(
ねが
)
ひます。
227
貴方
(
あなた
)
が
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さらねば、
228
吾々
(
われわれ
)
は
再
(
ふたた
)
び
都
(
みやこ
)
へ
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ』
229
国
(
くに
)
『
別
(
べつ
)
に
都
(
みやこ
)
へ
帰
(
かへ
)
る
必要
(
ひつえう
)
はないぢやないか。
230
生活
(
せいくわつ
)
の
保証
(
ほしよう
)
は
俺
(
おれ
)
がしてやるから、
231
どうだ。
232
俺
(
おれ
)
は
国州
(
くにしう
)
といふ
侠客
(
けふかく
)
と
還俗
(
げんぞく
)
したのだから、
233
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
となり、
234
天下
(
てんか
)
の
男伊達
(
をとこだて
)
と
名
(
な
)
を
売
(
う
)
つたらどうだ。
235
そして
腕
(
うで
)
を
研
(
みが
)
いた
上
(
うへ
)
236
俺
(
おれ
)
は
故国
(
ここく
)
へ
帰
(
かへ
)
り
国
(
くに
)
の
真柱
(
まはしら
)
となる
積
(
つも
)
りだ。
237
其
(
その
)
時
(
とき
)
はお
前
(
まへ
)
も
抜擢
(
ばつてき
)
して、
238
大取締
(
おほとりしまり
)
位
(
ぐらゐ
)
に
使
(
つか
)
つてやるが、
239
ここは
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
の
仕所
(
しどころ
)
だ、
240
どうだ、
241
俺
(
おれ
)
のいふ
事
(
こと
)
が
合点
(
がてん
)
がいたら、
242
否応
(
いやおう
)
なしにすぐに
其
(
その
)
十手
(
じつて
)
をこの
谷川
(
たにがは
)
へ
捨
(
す
)
てて
了
(
しま
)
へ』
243
駒治
(
こまはる
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
にて……
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
244
侠客
(
けふかく
)
にならうかなア、
245
何
(
なん
)
といつても、
246
珍
(
うづ
)
一国
(
いつこく
)
の
御
(
ご
)
世子
(
せいし
)
だ。
247
其
(
その
)
方
(
かた
)
が
斯
(
か
)
うして
身
(
み
)
をおとし、
248
白浪
(
しらなみ
)
男
(
をとこ
)
になつて
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
救
(
すく
)
はうとなさるのだから、
249
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
役人
(
やくにん
)
の
端
(
はし
)
に
加
(
くは
)
はつて
居
(
を
)
つても、
250
先
(
さき
)
が
見
(
み
)
えてゐる。
251
一層
(
いつそ
)
潔
(
いさぎ
)
よく
降参
(
かうさん
)
せうかな……と
早
(
はや
)
くも
決心
(
けつしん
)
して
了
(
しま
)
つた。
252
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大勢
(
おほぜい
)
の
部下
(
ぶか
)
に
対
(
たい
)
し、
253
直
(
ただ
)
ちに
服従
(
ふくじゆう
)
する
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
254
部下
(
ぶか
)
の
顔色
(
かほいろ
)
をソツと
窺
(
うかが
)
つてゐる。
255
国
(
くに
)
『オイ
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
共
(
ども
)
、
256
今日
(
けふ
)
から
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
だ。
257
侠客
(
けふかく
)
でなくつても、
258
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
未来
(
みらい
)
の
国司
(
こくし
)
だ。
259
さうすりやお
前
(
まへ
)
たちは
皆
(
みな
)
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
だ。
260
どうだ
否応
(
いやおう
)
あるまい。
261
其
(
その
)
ペラペラした
十手
(
じつて
)
をねぢ
折
(
を
)
つて
谷川
(
たにがは
)
へ
放
(
ほ
)
る
気
(
き
)
はないか』
262
駒治
(
こまはる
)
『
何卒
(
なにとぞ
)
私
(
わたくし
)
を
貴方
(
あなた
)
の
直参
(
ぢきさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
にして
下
(
くだ
)
さいませ。
263
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
でも
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
します。
264
証拠
(
せうこ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほり
)
で
厶
(
ござ
)
います』
265
と
十手
(
じつて
)
を、
266
眼下
(
がんか
)
の
谷底
(
たにぞこ
)
へ
投
(
なげ
)
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
267
他
(
た
)
の
捕手
(
とりて
)
連中
(
れんちう
)
は
去就
(
きよしう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
268
目
(
め
)
を
白黒
(
しろくろ
)
させて
駒治
(
こまはる
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめてゐたが、
269
市公
(
いちこう
)
、
270
馬公
(
うまこう
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
除
(
のぞ
)
く
外
(
ほか
)
、
271
十手
(
じつて
)
に
手
(
て
)
をかけたまま、
272
列
(
れつ
)
をつくり、
273
駆足
(
かけあし
)
の
姿勢
(
しせい
)
で、
274
怖
(
こは
)
さうに
館
(
やかた
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
しアリナ
山
(
やま
)
を
指
(
さ
)
して
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
りゆく。
275
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
国照別
(
くにてるわけ
)
は、
276
『ハヽヽヽヽ
駒治
(
こまはる
)
、
277
市
(
いち
)
に
馬
(
うま
)
、
278
誠
(
まこと
)
の
者
(
もの
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
になるかも
知
(
し
)
れぬぞよ……とはよく
言
(
い
)
つた
事
(
こと
)
だ、
279
三
(
さん
)
人
(
にん
)
世
(
よ
)
の
元
(
もと
)
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
だ。
280
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
新帰順
(
しんきじゆん
)
新侠客
(
しんけふかく
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
281
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
を
合
(
あは
)
すれば
五
(
ご
)
人
(
にん
)
となる、
282
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
だ。
283
三五
(
さんご
)
の
明月
(
めいげつ
)
だ。
284
ヤ、
285
目出
(
めで
)
たい
目出
(
めで
)
たい、
286
サア
是
(
これ
)
から
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げやう』
287
駒治
(
こまはる
)
『
御
(
ご
)
世子
(
せいし
)
様
(
さま
)
、
288
そんなら
今日
(
けふ
)
から、
289
誠
(
まこと
)
にすみませぬが、
290
貴方
(
あなた
)
を
親分
(
おやぶん
)
と
申
(
まを
)
しても
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いますか』
291
国
(
くに
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ、
292
親分
(
おやぶん
)
国州
(
くにしう
)
さまと
云
(
い
)
つてくれ。
293
市
(
いち
)
も
馬
(
うま
)
も
其
(
その
)
通
(
とほり
)
だぞ。
294
窮屈
(
きうくつ
)
な
取締
(
とりしまり
)
をやめて
脛
(
すね
)
一本
(
いつぽん
)
、
295
沼矛
(
ぬぼこ
)
一本
(
いつぽん
)
の
男
(
をとこ
)
一匹
(
いつぴき
)
になるのは
男子
(
だんし
)
の
本懐
(
ほんくわい
)
だ。
296
汝
(
きさま
)
も
之
(
これ
)
で
救
(
すく
)
はれたのだ。
297
ヤツパリ
霊
(
みたま
)
がいいとみえて、
298
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
が
分
(
わか
)
つたと
見
(
み
)
えるワイ、
299
アツハヽヽヽヽ』
300
駒治
(
こまはる
)
『エー、
301
親分
(
おやぶん
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げますが、
302
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
らないと、
303
今
(
いま
)
帰
(
かへ
)
つた
十三
(
じふさん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
、
304
都
(
みやこ
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
305
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中
(
らうぢう
)
へ
報告
(
はうこく
)
するに
間違
(
まちが
)
ひありませぬ。
306
さうすりや
捕手
(
とりて
)
がやつて
来
(
く
)
る、
307
険呑
(
けんのん
)
ですから、
308
何
(
なん
)
とか
身隠
(
みがく
)
しをせななりますまい』
309
国
(
くに
)
『ナアニ、
310
心配
(
しんぱい
)
するな、
311
此
(
この
)
急阪
(
きふはん
)
を
登
(
のぼ
)
り
下
(
くだ
)
りして、
312
それから
広
(
ひろ
)
い
野
(
の
)
を
渡
(
わた
)
り、
313
都
(
みやこ
)
へ
帰
(
かへ
)
るにも
五日
(
いつか
)
や
六日
(
むいか
)
はかかる。
314
それからやつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
で、
315
又
(
また
)
五日
(
いつか
)
や
六日
(
むいか
)
は
時日
(
じじつ
)
が
要
(
い
)
る。
316
マアここ
十日
(
とをか
)
位
(
ぐらゐ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
317
ゆつくり
身禊
(
みそぎ
)
でもして
神勅
(
しんちよく
)
を
受
(
う
)
け、
318
それから
自分
(
じぶん
)
の
方針
(
はうしん
)
を
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
にきめるのだ。
319
そんな
事
(
こと
)
に
齷齪
(
あくせく
)
して
頭
(
あたま
)
を
痛
(
いた
)
めてゐるやうな
事
(
こと
)
では
320
到底
(
たうてい
)
侠客
(
けふかく
)
にはなれないぞ。
321
ヤ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
322
俺
(
おれ
)
も
〆
(
しめ
)
て
乾児
(
こぶん
)
が
四
(
よ
)
人
(
にん
)
出来
(
でき
)
たか、
323
四天王
(
してんわう
)
の
勇士
(
ゆうし
)
、
324
しつかり
頼
(
たの
)
むよ』
325
浅
(
あさ
)
『モシモシ
親分
(
おやぶん
)
さま、
326
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
中
(
なか
)
で
順序
(
じゆんじよ
)
を
立
(
た
)
てておかねばなりませぬが、
327
誰
(
たれ
)
が
此
(
この
)
中
(
なか
)
では
一番
(
いちばん
)
兄貴
(
あにき
)
になるのですか、
328
キツと
私
(
わたし
)
でせうね』
329
国
(
くに
)
『
時間
(
じかん
)
に
於
(
おい
)
てはお
前
(
まへ
)
が
兄貴
(
あにき
)
だ。
330
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
胆力
(
たんりよく
)
と
腕力
(
わんりよく
)
に
於
(
おい
)
ては
怪
(
あや
)
しいものだなア。
331
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
332
お
滝
(
たき
)
へ
身禊
(
みそぎ
)
に
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
にせう、
333
一
(
いち
)
二
(
に
)
三
(
さん
)
四
(
し
)
』
334
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
懸橋
(
かけはし
)
御殿
(
ごてん
)
を
後
(
あと
)
に、
335
水音
(
みなおと
)
轟々
(
ぐわうぐわう
)
として
響
(
ひび
)
きわたる
瀑布
(
ばくふ
)
の
傍
(
かたはら
)
に
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
辿
(
たど
)
りついた。
336
無心
(
むしん
)
の
滝水
(
たきみづ
)
は
何
(
なに
)
を
語
(
かた
)
るか。
337
囂々
(
がうがう
)
鼕々
(
たうとう
)
として
地
(
ち
)
をゆるがせ、
338
無数
(
むすう
)
の
飛沫
(
ひまつ
)
には
日光
(
につくわう
)
が
映
(
えい
)
じて、
339
えも
言
(
い
)
はれぬ
宝玉
(
ほうぎよく
)
の
雨
(
あめ
)
を
降
(
ふ
)
らしてゐる。
340
(
大正一三・一・二四
旧一二・一二・一九
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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