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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
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第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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第七章
聖子
(
せいし
)
〔一七五二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第2篇 愛国の至情
よみ(新仮名遣い):
あいこくのしじょう
章:
第7章 聖子
よみ(新仮名遣い):
せいし
通し章番号:
1752
口述日:
1924(大正13)年01月23日(旧12月18日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
高砂城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
進歩派の老中・岩治別が、守旧派の追及を逃れて城を飛び出して以来、社会の不安が増し、世の中の立替が起こるとの流言が飛び交い、容易ならぬ雰囲気になってきた。
実は岩治別は侠客・愛州のもとに潜んでいた。
さて、高砂城内では、世継の国照別が城を飛び出し、行方をくらましてしまった件について、協議がなされていた。
結論:監督責任のあった老中伊佐彦、松若彦は今回の件おとがめなし、そして、国照別の代わりに妹の春乃姫を世継に立てる。
ただし、春乃姫は世継になるにあたって、城の出入りの自由、結婚相手選択の自由、進退の自由、老中任免権、を要求する。老中もしぶしぶこれを認めざるをえなかった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-11-07 09:35:38
OBC :
rm6907
愛善世界社版:
105頁
八幡書店版:
第12輯 311頁
修補版:
校定版:
109頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
高砂
(
たかさご
)
城内
(
じやうない
)
に
於
(
おい
)
て、
002
進歩
(
しんぽ
)
老中
(
らうぢう
)
或
(
あるひ
)
は
投槍
(
なげやり
)
老中
(
らうぢう
)
と
仇名
(
あだな
)
を
取
(
と
)
つてゐた
岩治別
(
いははるわけ
)
が、
003
風
(
かぜ
)
を
喰
(
くら
)
つて
何処
(
いづこ
)
ともなく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
せしより、
004
彼
(
かれ
)
は
何事
(
なにごと
)
か
大望
(
たいまう
)
を
画策
(
くわくさく
)
し、
005
酒偽者
(
しゆぎしや
)
と
語
(
かた
)
らひ
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
して、
006
一挙
(
いつきよ
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
007
伊佐彦
(
いさひこ
)
両老
(
りやうらう
)
を
引退
(
いんたい
)
させ、
008
珍
(
うづ
)
の
天地
(
てんち
)
の
空気
(
くうき
)
を
一掃
(
いつさう
)
し、
009
再
(
ふたた
)
び
正鹿
(
まさか
)
山津見
(
やまづみの
)
神
(
かみ
)
の
聖代
(
せいだい
)
に
世
(
よ
)
が
立直
(
たてなほ
)
るならむと、
010
種々
(
しゆじゆ
)
の
流言
(
りうげん
)
蜚語
(
ひご
)
が
盛
(
さかん
)
に
行
(
おこな
)
はれ、
011
人心
(
じんしん
)
恟々
(
きようきよう
)
として
安
(
やす
)
からず、
012
よるとさはると、
013
どこの
大路
(
おほぢ
)
も、
014
裏町
(
うらまち
)
も、
015
長屋
(
ながや
)
の
嬶
(
かかあ
)
連
(
れん
)
が
井戸端
(
ゐどばた
)
会議
(
くわいぎ
)
にも
喧伝
(
けんでん
)
さるる
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
た。
016
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
事態
(
じたい
)
容易
(
ようい
)
ならずとして、
017
老衰
(
らうすゐ
)
の
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
し、
018
賢平
(
けんぺい
)
や
取締
(
とりしまり
)
などを
市中
(
しちう
)
隈
(
くま
)
なく
配置
(
はいち
)
し、
019
或
(
あるひ
)
は
私服
(
しふく
)
取締
(
とりしまり
)
を
辻々
(
つじつじ
)
に
横行
(
わうかう
)
せしめ、
020
怪
(
あや
)
しき
言
(
げん
)
をなす
者
(
もの
)
は
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
検挙
(
けんきよ
)
せしめ、
021
夜中
(
やちう
)
になれば
恐
(
おそ
)
れて
一人
(
ひとり
)
も
外出
(
ぐわいしゆつ
)
する
者
(
もの
)
なく、
022
さしも
繁華
(
はんくわ
)
な
都大路
(
みやこおほぢ
)
は
曠野
(
くわうや
)
の
観
(
くわん
)
を
呈
(
てい
)
し、
023
火
(
ひ
)
の
消
(
き
)
えたる
如
(
ごと
)
く
淋
(
さび
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
024
岩治別
(
いははるわけ
)
は
其
(
その
)
実
(
じつ
)
岩公
(
いはこう
)
と
名
(
な
)
を
変
(
へん
)
じ、
025
侠客
(
けふかく
)
の
愛州
(
あいしう
)
が
館
(
やかた
)
の
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
普通
(
ふつう
)
の
侠客
(
けふかく
)
となつて
住
(
す
)
み
込
(
こ
)
んでゐた。
026
命知
(
いのちし
)
らずの
若者
(
わかもの
)
許
(
ばか
)
り
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
、
027
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
の
如
(
ごと
)
く
固
(
かた
)
まつてゐるので、
028
流石
(
さすが
)
の
賢平
(
けんぺい
)
も
取締
(
とりしまり
)
も
此
(
この
)
館
(
やかた
)
のみは
一指
(
いつし
)
を
染
(
そ
)
むる
事
(
こと
)
だも
躊躇
(
ちうちよ
)
してゐたのである。
029
愛州
(
あいしう
)
親分
(
おやぶん
)
は
岩公
(
いはこう
)
の
岩治別
(
いははるわけ
)
老中
(
らうぢう
)
なることは
当人
(
たうにん
)
の
懇請
(
こんせい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
030
万事
(
ばんじ
)
呑込
(
のみこ
)
んでゐたが、
031
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
胸中
(
きようちう
)
深
(
ふか
)
く
秘
(
ひ
)
め
置
(
お
)
いて、
032
他
(
ほか
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
には
一言
(
ひとこと
)
も
示
(
しめ
)
さなかつた。
033
それ
故
(
ゆゑ
)
数多
(
あまた
)
の
乾児
(
こぶん
)
は
老耄
(
おいぼれ
)
親爺
(
おやぢ
)
の
岩州
(
いはしう
)
と
口汚
(
くちぎたな
)
く
酷
(
こ
)
き
使
(
つか
)
ひ、
034
よその
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
次第
(
しだい
)
であつた。
035
話
(
はなし
)
替
(
かは
)
つて
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
大奥
(
おほおく
)
には、
036
国依別
(
くによりわけ
)
の
国司
(
こくし
)
を
始
(
はじ
)
め、
037
末子姫
(
すゑこひめ
)
、
038
春乃姫
(
はるのひめ
)
、
039
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
040
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
五柱
(
いつはしら
)
が
卓
(
たく
)
を
囲
(
かこ
)
んで、
041
何事
(
なにごと
)
か
重要
(
ぢうえう
)
会議
(
くわいぎ
)
を
開
(
ひら
)
いてゐた。
042
国依
(
くにより
)
『
松若彦
(
まつわかひこ
)
殿
(
どの
)
、
043
爾
(
なんぢ
)
も
老齢
(
らうれい
)
の
身
(
み
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
044
昼夜
(
ちうや
)
寝食
(
しんしよく
)
を
忘
(
わす
)
れて
国務
(
こくむ
)
に
鞅掌
(
おうしやう
)
する
其
(
その
)
誠実
(
せいじつ
)
は
実
(
じつ
)
に
感歎
(
かんたん
)
の
至
(
いた
)
りだ。
045
予
(
よ
)
も
末子姫
(
すゑこひめ
)
も
常
(
つね
)
に
爾
(
なんぢ
)
の
至誠
(
しせい
)
至実
(
しじつ
)
なる
行動
(
かうどう
)
について
時々
(
ときどき
)
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
046
何
(
なに
)
よりも
先
(
さき
)
に
爾
(
なんぢ
)
の
噂
(
うはさ
)
をしてゐるのだよ。
047
併
(
しか
)
し
今日
(
こんにち
)
爾
(
なんぢ
)
の
請求
(
せいきう
)
に
依
(
よ
)
つて、
048
予
(
よ
)
は
妻子
(
さいし
)
と
共
(
とも
)
に
爾
(
なんぢ
)
両人
(
りやうにん
)
と
何事
(
なにごと
)
か
協議
(
けふぎ
)
する
運
(
はこ
)
びに
至
(
いた
)
つたのは、
049
要
(
えう
)
するに
神
(
かみ
)
の
摂理
(
せつり
)
であらう。
050
今日
(
こんにち
)
は
真面目
(
まじめ
)
に
予
(
よ
)
も
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けるから、
051
忌憚
(
きたん
)
なく
両人
(
りやうにん
)
とも
意見
(
いけん
)
を
吐露
(
とろ
)
せよ』
052
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
嬉
(
うれ
)
しげに
笑
(
ゑみ
)
を
泛
(
うか
)
べて、
053
松若
(
まつわか
)
『
常
(
つね
)
になき
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
054
此
(
この
)
老体
(
らうたい
)
も
始
(
はじ
)
めて
甦
(
よみがへ
)
つた
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
が
致
(
いた
)
しまする。
055
誠
(
まこと
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
にくい
事
(
こと
)
乍
(
なが
)
ら、
056
御
(
ご
)
世子
(
せいし
)
国照別
(
くにてるわけ
)
様
(
さま
)
は
御
(
お
)
行衛
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
らなくなりましたので、
057
大責任
(
だいせきにん
)
の
地位
(
ちゐ
)
にある
微臣
(
びしん
)
、
058
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
に
対
(
たい
)
して
申
(
まをし
)
訳
(
わけ
)
なく、
059
又
(
また
)
衆生
(
しゆじやう
)
に
対
(
たい
)
しても
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
060
夫
(
そ
)
れ
故
(
ゆゑ
)
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
には
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
乍
(
なが
)
ら、
061
内々
(
ないない
)
探
(
さぐ
)
りを
市中
(
しちう
)
に
配
(
くば
)
り、
062
捜索
(
そうさく
)
致
(
いた
)
させましたなれど、
063
今
(
いま
)
にお
行衛
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
りませぬ。
064
誠
(
まこと
)
に
監督
(
かんとく
)
不行届
(
ふゆきとどき
)
の
罪
(
つみ
)
、
065
万死
(
ばんし
)
に
値
(
あたひ
)
致
(
いた
)
しますれば、
066
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
此
(
この
)
責任
(
せきにん
)
を
負
(
お
)
ふて、
067
大老職
(
たいらうしよく
)
を
拝辞
(
はいじ
)
し、
068
一切
(
いつさい
)
の
政務
(
せいむ
)
を
伊佐彦
(
いさひこ
)
殿
(
どの
)
に
譲
(
ゆづ
)
らうと
存
(
ぞん
)
じまする。
069
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
御
(
ご
)
聴許
(
ちやうきよ
)
下
(
くだ
)
さいますれば
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じまする』
070
国依
(
くにより
)
『ハツハヽヽヽ、
071
悴
(
せがれ
)
が
行衛
(
ゆくへ
)
を
晦
(
くら
)
ましたのは、
072
予
(
よ
)
はとつくに
存
(
ぞん
)
じてゐる。
073
別
(
べつ
)
に
心配
(
しんぱい
)
する
必要
(
ひつえう
)
はない。
074
如何
(
いか
)
に
親
(
おや
)
なればとて、
075
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
思想
(
しさう
)
迄
(
まで
)
束縛
(
そくばく
)
する
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かない。
076
其
(
その
)
事
(
こと
)
については
決
(
けつ
)
して
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
すな』
077
と
平然
(
へいぜん
)
として
笑
(
わら
)
つてゐる。
078
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
国司
(
こくし
)
の
怒
(
いかり
)
に
触
(
ふ
)
れ、
079
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
くに
叱咤
(
しつた
)
さるるかと
思
(
おも
)
ひの
外
(
ほか
)
、
080
余
(
あま
)
り
平然
(
へいぜん
)
たる
態度
(
たいど
)
に
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
081
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
も
出
(
で
)
なかつた。
082
伊佐
(
いさ
)
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
083
斯
(
か
)
かる
重要
(
ぢうえう
)
問題
(
もんだい
)
が
突発
(
とつぱつ
)
致
(
いた
)
しましたのは、
084
全
(
まつた
)
く
微臣
(
びしん
)
等
(
ら
)
の
罪
(
つみ
)
の
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
、
085
何卒
(
なにとぞ
)
厳重
(
げんぢう
)
なる
御
(
ご
)
処分
(
しよぶん
)
を
願
(
ねが
)
ひたう
厶
(
ござ
)
ります』
086
国依
(
くにより
)
『
去
(
さ
)
る
者
(
もの
)
は
逐
(
お
)
はず
来
(
きた
)
る
者
(
もの
)
は
拒
(
こば
)
まずだ。
087
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
引止
(
ひきと
)
めようとしても、
088
逃
(
に
)
げよう
逃
(
に
)
げようと
考
(
かんが
)
へてゐる
者
(
もの
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
089
悴
(
せがれ
)
も
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
大人物
(
だいじんぶつ
)
になつたと
見
(
み
)
えて、
090
此
(
この
)
狭苦
(
せまくる
)
しい
鳥屋
(
とや
)
の
中
(
なか
)
が
厭
(
いや
)
になつたと
見
(
み
)
えるワイ。
091
そして
爾
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
骸骨
(
がいこつ
)
を
乞
(
こ
)
はむと
申
(
まをし
)
出
(
で
)
て
居
(
を
)
るが、
092
爾
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
が
幽霊
(
いうれい
)
となれば
後
(
あと
)
の
国政
(
こくせい
)
は
何
(
ど
)
う
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へだ。
093
後任者
(
こうにんしや
)
を
推薦
(
すいせん
)
して、
094
向後
(
かうご
)
の
国政
(
こくせい
)
上
(
じやう
)
支障
(
ししやう
)
なき
迄
(
まで
)
に
準備
(
じゆんび
)
を
整
(
ととの
)
へ、
095
而
(
しか
)
して
後
(
のち
)
骸骨
(
がいこつ
)
を
請
(
こ
)
へよ。
096
後継者
(
こうけいしや
)
の
物色
(
ぶつしよく
)
は
済
(
す
)
んだのか、
097
それが
先
(
ま
)
づ
先決
(
せんけつ
)
問題
(
もんだい
)
だ』
098
松若
(
まつわか
)
『ハイ、
099
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
100
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
におきまして
寡聞
(
くわぶん
)
なる
吾々
(
われわれ
)
の
目
(
め
)
より
窺
(
うかが
)
ひますれば、
101
一人
(
ひとり
)
として
国家
(
こくか
)
の
重職
(
ぢうしよく
)
に
適当
(
てきたう
)
な
人物
(
じんぶつ
)
はない
様
(
やう
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
102
何
(
いづ
)
れの
役人
(
やくにん
)
も
皆
(
みな
)
ハイカラ
的
(
てき
)
気分
(
きぶん
)
に
襲
(
おそ
)
はれ、
103
真面目
(
まじめ
)
に
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ
者
(
もの
)
は
一人
(
ひとり
)
として
見当
(
みあた
)
りませぬ。
104
実
(
じつ
)
に
国家
(
こくか
)
の
前途
(
ぜんと
)
は
寒心
(
かんしん
)
に
堪
(
た
)
へませぬ』
105
国依
(
くにより
)
『あゝさうすると、
106
後継者
(
こうけいしや
)
の
適当
(
てきたう
)
な
者
(
もの
)
が
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
ふのか。
107
爾
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
は
実
(
じつ
)
に
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
甚
(
はなはだ
)
しき
者
(
もの
)
だ。
108
下
(
さが
)
り
居
(
を
)
れツ』
109
と
雷声
(
らいせい
)
を
発
(
はつ
)
して
厳
(
きび
)
しく
叱咤
(
しつた
)
した。
110
両人
(
りやうにん
)
は
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
り
涙
(
なみだ
)
を
押
(
おさ
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
111
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
112
両人
(
りやうにん
)
『
吾々
(
われわれ
)
は
不肖
(
ふせう
)
乍
(
なが
)
ら、
113
主家
(
しゆか
)
の
為
(
ため
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
身命
(
しんめい
)
を
賭
(
と
)
して
国務
(
こくむ
)
に
鞅掌
(
おうしやう
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りまする。
114
然
(
しか
)
るに
只今
(
ただいま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
115
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
とは
心得
(
こころえ
)
ませぬ。
116
仮令
(
たとへ
)
国司
(
こくし
)
なればとて、
117
此
(
この
)
お
言葉
(
ことば
)
に
対
(
たい
)
しては
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
明
(
あか
)
りを
立
(
た
)
てて
頂
(
いただ
)
かねば、
118
吾々
(
われわれ
)
は
一歩
(
いつぽ
)
も
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退
(
しりぞ
)
きませぬ』
119
国依
(
くにより
)
『
爾
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
、
120
予
(
よ
)
を
詐
(
いつは
)
つて
居
(
ゐ
)
るではないか。
121
老齢
(
らうれい
)
職
(
しよく
)
に
堪
(
た
)
へずとか、
122
責任
(
せきにん
)
を
負
(
お
)
ひて
辞任
(
じにん
)
するとか
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
123
国家
(
こくか
)
の
柱石
(
ちうせき
)
たる
人物
(
じんぶつ
)
がないと
云
(
い
)
つたでないか。
124
後継者
(
こうけいしや
)
無
(
な
)
きを
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら
辞任
(
じにん
)
を
申
(
まをし
)
出
(
い
)
づるは、
125
全
(
まつた
)
く
国司家
(
こくしけ
)
を
脅
(
おびや
)
かす
者
(
もの
)
だ。
126
否
(
いな
)
予
(
よ
)
をして
困惑
(
こんわく
)
せしむる
者
(
もの
)
だ。
127
斯
(
か
)
かる
心理
(
しんり
)
を
抱持
(
はうぢ
)
してゐる
爾
(
なんぢ
)
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
し、
128
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
と
云
(
い
)
つたのが、
129
何処
(
どこ
)
が
悪
(
わる
)
い』
130
と
一層
(
いつそう
)
強
(
つよ
)
く
怒鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てられ、
131
両人
(
りやうにん
)
は
一
(
ひと
)
たまりもなく
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
つて
了
(
しま
)
つた。
132
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
此
(
この
)
体
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
がり、
133
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
134
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ。
135
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
は
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふの
余
(
あま
)
り、
136
君
(
きみ
)
の
決心
(
けつしん
)
を
促
(
うなが
)
さむと、
137
今
(
いま
)
の
如
(
ごと
)
き
詭弁
(
きべん
)
を
弄
(
ろう
)
し
奉
(
たてまつ
)
つたので
厶
(
ござ
)
いませう。
138
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
珍
(
うづ
)
一国
(
いつこく
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
139
少々
(
せうせう
)
の
過
(
あやまち
)
は
赦
(
ゆる
)
しておやりなさいませ』
140
国依
(
くにより
)
『
赦
(
ゆる
)
されぬ
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
仕儀
(
しぎ
)
なれ
共
(
ども
)
、
141
最愛
(
さいあい
)
の
末子姫
(
すゑこひめ
)
殿
(
どの
)
の
御
(
ご
)
仲裁
(
ちうさい
)
とあらば
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ない、
142
先
(
ま
)
づ
盲従
(
まうじゆう
)
しておかうかい、
143
アツハヽヽヽ』
144
と
最前
(
さいぜん
)
の
怒
(
いかり
)
声
(
ごゑ
)
は
何処
(
どこ
)
へやら、
145
気楽
(
きらく
)
相
(
さう
)
に
大口
(
おほぐち
)
開
(
あ
)
けて
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
した。
146
両人
(
りやうにん
)
はハツと
息
(
いき
)
をつぎ、
147
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
つた
睾丸
(
きんたま
)
の
皺
(
しわ
)
を
漸
(
やうや
)
く
伸
(
のば
)
し
始
(
はじ
)
めた。
148
松若
(
まつわか
)
『
年
(
とし
)
にも
似合
(
にあ
)
はず
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
に
対
(
たい
)
し、
149
不都合
(
ふつがふ
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げ
恐
(
おそれ
)
入
(
い
)
りまして
厶
(
ござ
)
います。
150
何卒
(
どうぞ
)
唯今
(
ただいま
)
の
私
(
わたくし
)
の
失言
(
しつげん
)
は、
151
広
(
ひろ
)
き
仁慈
(
じんじ
)
の
御心
(
みこころ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
152
従前
(
じゆうぜん
)
の
通
(
とほ
)
りお
召使
(
めしつかひ
)
を
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
153
伊佐
(
いさ
)
『
微臣
(
びしん
)
も
同様
(
どうやう
)
、
154
御
(
ご
)
使用
(
しよう
)
の
程
(
ほど
)
を
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
155
国依
(
くにより
)
『ウン、
156
ヨシヨシ、
157
分
(
わか
)
れば
別
(
べつ
)
に
文句
(
もんく
)
は
無
(
な
)
いのだ。
158
モウ
之
(
これ
)
からは
心
(
こころ
)
にも
無
(
な
)
い
辞令
(
じれい
)
を
振
(
ふ
)
りまはすな。
159
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
の
内心
(
ないしん
)
は
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
政権
(
せいけん
)
に
恋々
(
れんれん
)
として、
160
其
(
その
)
執着
(
しふちやく
)
を
去
(
さ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないであらうがな』
161
両人
(
りやうにん
)
『ハツ』と
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
らめ、
162
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
俯
(
うつむ
)
く。
163
末子
(
すゑこ
)
『
時
(
とき
)
に
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
164
今日
(
こんにち
)
両老
(
りやうらう
)
が
君
(
きみ
)
の
御
(
ご
)
出場
(
しゆつぢやう
)
を
願
(
ねが
)
ひましたる
要件
(
えうけん
)
と
申
(
まを
)
しますのは、
165
既
(
すで
)
に
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
の
通
(
とほ
)
り、
166
世子
(
せいし
)
国照別
(
くにてるわけ
)
の
行衛
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
りませぬので、
167
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
、
168
春乃姫
(
はるのひめ
)
を
後継者
(
こうけいしや
)
となし、
169
上下
(
じやうげ
)
人心
(
じんしん
)
の
安定
(
あんてい
)
を
計
(
はか
)
らねばならないと
両老
(
りやうらう
)
から
申
(
まをし
)
出
(
い
)
でまして、
170
其
(
その
)
御
(
ご
)
承認
(
しようにん
)
を
得
(
え
)
たい
為
(
ため
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
171
よく
御
(
ご
)
熟考
(
じゆくかう
)
下
(
くだ
)
さいまして
何
(
いづ
)
れなり
共
(
とも
)
、
172
都合
(
つがふ
)
好
(
よ
)
き
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
仰
(
あふ
)
ぎたいので
厶
(
ござ
)
います』
173
国依別
(
くによりわけ
)
は
無頓着
(
むとんちやく
)
に、
174
『ウンさうだ、
175
春乃姫
(
はるのひめ
)
さへ
承認
(
しようにん
)
すればそれで
可
(
よ
)
い。
176
姫
(
ひめ
)
の
意思
(
いし
)
迄
(
まで
)
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
曲
(
ま
)
げる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
177
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
は
姫
(
ひめ
)
に
聞
(
き
)
いたが
早道
(
はやみち
)
だらう』
178
末子
(
すゑこ
)
『
女
(
をんな
)
が
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
ぐとは
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか、
179
養子
(
やうし
)
でもせなくちやなりますまい。
180
さうすれば
万代
(
ばんだい
)
不易
(
ふえき
)
の
国司家
(
こくしけ
)
は
断絶
(
だんぜつ
)
するぢやありませぬか』
181
国依
(
くにより
)
『
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
にも
女
(
をんな
)
の
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
が
良
(
よ
)
いと
示
(
しめ
)
されてあるではないか。
182
女
(
をんな
)
の
世継
(
よつぎ
)
としておけば、
183
腹
(
はら
)
から
腹
(
はら
)
へ
伝
(
つた
)
はつて
行
(
ゆ
)
くのだから、
184
其
(
その
)
血統
(
けつとう
)
に
少
(
すこ
)
しも
間違
(
まちが
)
ひはない。
185
若
(
も
)
し
男子
(
だんし
)
の
世継
(
よつぎ
)
とすれば、
186
一方
(
いつぱう
)
の
妻
(
つま
)
の
方
(
はう
)
に
於
(
おい
)
て、
187
夫
(
をつと
)
に
知
(
し
)
らさず
第二
(
だいに
)
の
夫
(
をつと
)
を
拵
(
こしら
)
へてゐた
場合
(
ばあひ
)
、
188
其
(
その
)
生
(
うま
)
れた
子
(
こ
)
は
何方
(
どちら
)
の
子
(
こ
)
か
分
(
わか
)
らぬやうになつて
来
(
く
)
る。
189
それだから
却
(
かへつ
)
て
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
が
確実
(
かくじつ
)
だ、
190
現
(
げん
)
に
国照別
(
くにてるわけ
)
だつて、
191
予
(
よ
)
の
正胤
(
せいいん
)
であるか、
192
或
(
あるひ
)
は
末子姫
(
すゑこひめ
)
殿
(
どの
)
が
第二
(
だいに
)
の
夫
(
をつと
)
を
私
(
ひそ
)
かに
拵
(
こしら
)
へて
其
(
その
)
胤
(
たね
)
を
宿
(
やど
)
したのか、
193
分
(
わか
)
つたものぢやないからのう、
194
ハツハヽヽヽ』
195
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
泣声
(
なきごゑ
)
になつて、
196
『お
情
(
なさけ
)
ない
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
197
妾
(
わらは
)
がそれ
丈
(
だけ
)
不信用
(
ふしんよう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
198
又
(
また
)
誰
(
たれ
)
かと
姦通
(
かんつう
)
をしたと
仰有
(
おつしや
)
るので
厶
(
ござ
)
いますか、
199
残念
(
ざんねん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
200
と
地
(
ち
)
に
伏
(
ふ
)
して
泣
(
な
)
く。
201
国依
(
くにより
)
『ハヽヽ、
202
嘘
(
うそ
)
だ
嘘
(
うそ
)
だ、
203
比喩
(
たとへ
)
にひいた
迄
(
まで
)
だ。
204
貞操
(
ていさう
)
の
神
(
かみ
)
と
迄
(
まで
)
尊敬
(
そんけい
)
されてゐる、
205
家庭
(
かてい
)
の
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
だ。
206
予
(
よ
)
は
決
(
けつ
)
して
毛筋
(
けすぢ
)
の
横巾
(
よこはば
)
程
(
ほど
)
も、
207
汝
(
そなた
)
の
行状
(
ぎやうじやう
)
に
就
(
つい
)
て
疑
(
うたが
)
つてはゐない。
208
否
(
いな
)
209
大
(
おほ
)
いに
感謝
(
かんしや
)
してゐるのだ。
210
マア
心配
(
しんぱい
)
するな、
211
比喩
(
たとへ
)
だからのう』
212
と
背中
(
せなか
)
を
二三遍
(
にさんぺん
)
撫
(
な
)
でさする。
213
末子姫
(
すゑこひめ
)
は
漸
(
やうや
)
く
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
し、
214
涙
(
なみだ
)
と
笑顔
(
ゑがほ
)
を
一緒
(
いつしよ
)
に
手巾
(
はんけち
)
で
拭
(
ふ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
215
『ホヽヽそれで
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
216
そんなら
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
217
妾
(
わらは
)
をどこ
迄
(
まで
)
も
信用
(
しんよう
)
して
下
(
くだ
)
さいますね』
218
国依
(
くにより
)
『
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
迄
(
まで
)
牝鳥
(
めんどり
)
を
忘
(
わす
)
れぬと
云
(
い
)
つて、
219
今
(
いま
)
は
夫婦
(
めうと
)
共
(
とも
)
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけの
爺婆
(
ぢぢばば
)
になつて
了
(
しま
)
つたが、
220
時々
(
ときどき
)
昔
(
むかし
)
のあでやかなお
前
(
まへ
)
の
姿
(
すがた
)
を
心
(
こころ
)
に
描
(
ゑが
)
いて、
221
笑壺
(
ゑつぼ
)
に
入
(
い
)
つてゐるのだ。
222
其
(
その
)
時
(
とき
)
丈
(
だけ
)
は
実
(
じつ
)
にはなやかな
思
(
おも
)
ひがするよ』
223
末子
(
すゑこ
)
『そりや
違
(
ちが
)
ひませう。
224
昔
(
むかし
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
225
はなやかな
気分
(
きぶん
)
に
御
(
お
)
なりなさる
肝心
(
かんじん
)
の
玉
(
たま
)
はお
勝
(
かつ
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
226
国依
(
くにより
)
『ウン、
227
お
勝
(
かつ
)
もヤツパリ
追想中
(
つゐさうちう
)
の
一人
(
ひとり
)
だ。
228
乍併
(
しかしながら
)
最
(
もつと
)
も
秀
(
すぐ
)
れて
印象
(
いんしやう
)
に
残
(
のこ
)
つてゐるのはヤツパリお
前
(
まへ
)
と
結婚
(
けつこん
)
当時
(
たうじ
)
の
艶麗
(
えんれい
)
な
姿
(
すがた
)
だよ、
229
ハツハヽヽヽヽ』
230
と
娘
(
むすめ
)
や
老臣
(
らうしん
)
の
前
(
まへ
)
で
夫婦
(
めうと
)
が、
231
あどけなき
意茶
(
いちや
)
つき
合
(
あ
)
ひを
始
(
はじ
)
めてゐる。
232
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
233
伊佐彦
(
いさひこ
)
もつい
話
(
はなし
)
に
引
(
ひき
)
ずられて
腮
(
あご
)
の
紐
(
ひも
)
をとき、
234
粘着性
(
ねんちやくせい
)
の
強
(
つよ
)
い
涎
(
よだれ
)
を
七八寸
(
しちはちすん
)
斗
(
ばか
)
り、
235
天井
(
てんじやう
)
から
蜘蛛
(
くも
)
が
下
(
さが
)
つたやうに
糸
(
いと
)
を
垂
(
た
)
れてゐる。
236
国依
(
くにより
)
『
春乃姫
(
はるのひめ
)
さま、
237
最前
(
さいぜん
)
から
一同
(
いちどう
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
略
(
ほぼ
)
承知
(
しようち
)
だらうが、
238
どうだ、
239
世継
(
よつぎ
)
になる
気
(
き
)
はないかな』
240
春乃
(
はるの
)
『
厭
(
いや
)
ですよ、
241
人生
(
じんせい
)
長者
(
ちやうじや
)
となる
勿
(
なか
)
れといふ
諺
(
ことわざ
)
も
厶
(
ござ
)
いませう。
242
窮屈
(
きうくつ
)
な
籠
(
かご
)
の
中
(
なか
)
へ
祭
(
まつ
)
り
込
(
こ
)
まれて、
243
心
(
こころ
)
にもなき
追従
(
つゐしよう
)
の
雨
(
あめ
)
をあびせかけられ、
244
敬遠
(
けいゑん
)
主義
(
しゆぎ
)
を
取
(
と
)
られ、
245
二三
(
にさん
)
政治家
(
せいぢか
)
の
傀儡
(
くわいらい
)
となつて
一生
(
いつしやう
)
を
送
(
おく
)
るといふ
様
(
やう
)
な
不幸
(
ふかう
)
な
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬワ。
246
妾
(
わらは
)
はお
父
(
とう
)
さまやお
母
(
か
)
アさまのお
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
見
(
み
)
て、
247
実
(
じつ
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
境遇
(
きやうぐう
)
だと
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれてゐるのですよ。
248
兄
(
にい
)
さまも
亦
(
また
)
お
父
(
とう
)
さまの
二
(
に
)
の
舞
(
まひ
)
をなさるかと
思
(
おも
)
へば、
249
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
堪
(
たま
)
らなかつたのですよ。
250
流石
(
さすが
)
の
兄
(
にい
)
さまも
二三
(
にさん
)
政治家
(
せいぢか
)
の
傀儡
(
くわいらい
)
に
祭
(
まつ
)
り
込
(
こ
)
まれるのは
人間
(
にんげん
)
として
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かないと
云
(
い
)
つて、
251
風
(
かぜ
)
をくらつてどつかへ
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
し、
252
自由
(
じいう
)
の
天地
(
てんち
)
に
横行
(
わうかう
)
濶歩
(
くわつぽ
)
する
幸福
(
かうふく
)
な
身分
(
みぶん
)
となつてゐられます。
253
本当
(
ほんたう
)
に
賢明
(
けんめい
)
な
兄
(
にい
)
さまですワ。
254
妾
(
わらは
)
も
兄
(
にい
)
さまの
兄妹
(
きやうだい
)
、
255
自
(
みづか
)
ら
知
(
し
)
つて
窮屈
(
きうくつ
)
な
不自由
(
ふじゆう
)
な
身分
(
みぶん
)
となりたくはありませぬ。
256
之
(
これ
)
斗
(
ばか
)
りは
御
(
お
)
赦免
(
ゆるし
)
を
願
(
ねが
)
いたいもので
厶
(
ござ
)
いますワ』
257
国依
(
くにより
)
『ハヽヽヽ、
258
さうだらう
259
さうだらう、
260
父
(
ちち
)
もかねて
覚悟
(
かくご
)
してゐたのだ。
261
厭
(
いや
)
がる
者
(
もの
)
を
無理
(
むり
)
に
押
(
おさ
)
へつけるのは
無慈悲
(
むじひ
)
だ。
262
親
(
おや
)
たる
者
(
もの
)
のなすべき
事
(
こと
)
ではない。
263
お
前
(
まへ
)
の
好
(
す
)
きな
様
(
やう
)
にしたが
可
(
よ
)
からうぞ』
264
末子
(
すゑこ
)
『モシ
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
265
兄
(
あに
)
の
国照別
(
くにてるわけ
)
は
家出
(
いへで
)
をするなり、
266
妹
(
いもうと
)
の
春乃姫
(
はるのひめ
)
は
世継
(
よつぎ
)
は
厭
(
いや
)
だと
申
(
まをし
)
ましたならば、
267
国司家
(
こくしけ
)
は
茲
(
ここ
)
に
断絶
(
だんぜつ
)
するぢやありませぬか。
268
貴方
(
あなた
)
は
如何
(
いか
)
なる
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へで
左様
(
さやう
)
な
気楽
(
きらく
)
なことを
仰
(
あふ
)
せられます。
269
茲
(
ここ
)
は
可哀相
(
かあいさう
)
でも
春乃姫
(
はるのひめ
)
にトツクと
言
(
いひ
)
聞
(
き
)
かせ、
270
国柱
(
こくちう
)
保存
(
ほぞん
)
上
(
じやう
)
、
271
厭
(
いや
)
でも
応
(
おう
)
でも、
272
世継
(
よつぎ
)
になつて
貰
(
もら
)
はねばなりますまい』
273
国依
(
くにより
)
『フン、
274
別
(
べつ
)
に
春乃姫
(
はるのひめ
)
に
限
(
かぎ
)
つた
事
(
こと
)
はない。
275
松若彦
(
まつわかひこ
)
にも
悴
(
せがれ
)
もあり
娘
(
むすめ
)
もある
事
(
こと
)
だから、
276
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
悴
(
せがれ
)
松依別
(
まつよりわけ
)
を
吾
(
わが
)
養子
(
やうし
)
として
後
(
あと
)
をつがせたら
何
(
ど
)
うだ。
277
それも
本人
(
ほんにん
)
の
意思
(
いし
)
に
任
(
まか
)
すより
仕方
(
しかた
)
がない。
278
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
279
お
前
(
まへ
)
はどう
思
(
おも
)
ふか』
280
松若彦
(
まつわかひこ
)
はおどろいて、
281
『これはこれは、
282
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
とも
覚
(
おぼ
)
えぬお
言葉
(
ことば
)
、
283
未
(
いま
)
だ
臣
(
しん
)
を
以
(
もつ
)
て
君
(
きみ
)
となした
例
(
ためし
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
284
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
あふ
)
せられずに、
285
茲
(
ここ
)
は
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げ、
286
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
となつて
頂
(
いただ
)
きたいもので
厶
(
ござ
)
います。
287
ましてや
愚鈍
(
ぐどん
)
な
悴
(
せがれ
)
、
288
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
何
(
ど
)
うして
勤
(
つと
)
まりませう。
289
之
(
これ
)
計
(
ばか
)
りは
平
(
ひら
)
に
御
(
お
)
断
(
ことわり
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
290
国依
(
くにより
)
『
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
すのだなア』
291
末子
(
すゑこ
)
『いつも
貴方
(
あなた
)
は
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
と
云
(
い
)
つて、
292
凡
(
すべ
)
ての
問題
(
もんだい
)
を
葬
(
はうむ
)
らうとなさいますが、
293
斯
(
か
)
かる
重要
(
ぢうえう
)
事件
(
じけん
)
はさう
惟神
(
かむながら
)
計
(
ばか
)
りでは
行
(
ゆ
)
きますまい』
294
国依
(
くにより
)
『サアそこが
惟神
(
かむながら
)
だよ。
295
身魂
(
みたま
)
の
濁
(
にご
)
つた
国依別
(
くによりわけ
)
の
血統
(
ちすぢ
)
を
以
(
もつ
)
て
床
(
とこ
)
の
置物
(
おきもの
)
にせなくても
置物
(
おきもの
)
になりたがつてるお
人好
(
ひとよ
)
しは
三千万
(
さんぜんまん
)
人
(
にん
)
の
中
(
うち
)
には
三
(
さん
)
人
(
にん
)
や
五
(
ご
)
人
(
にん
)
はキツトある。
296
そんな
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
らぬ。
297
……どんな
身魂
(
みたま
)
がおとしてあるか
分
(
わか
)
らぬぞよ……と
御
(
ご
)
神諭
(
しんゆ
)
にも
現
(
あら
)
はれてるぢやないか。
298
観報
(
くわんぱう
)
を
以
(
もつ
)
て
床
(
とこ
)
の
置物
(
おきもの
)
召集令
(
せうしふれい
)
を
発
(
はつ
)
するか、
299
新聞
(
しんぶん
)
記者
(
きしや
)
を
呼
(
よ
)
んで
広告欄
(
くわうこくらん
)
に
載
(
の
)
せさすか、
300
幾
(
いく
)
らでも
方法
(
はうはふ
)
がある。
301
それで
行
(
ゆ
)
かねば、
302
お
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
を
以
(
もつ
)
て、
303
気
(
き
)
の
善
(
よ
)
い
人物
(
じんぶつ
)
を
物色
(
ぶつしよく
)
するのだ』
304
と
気楽
(
きらく
)
相
(
さう
)
に
言
(
い
)
つてのける。
305
末子
(
すゑこ
)
『それでは
世
(
よ
)
が
治
(
をさ
)
まりますまい。
306
匹夫
(
ひつぷ
)
下郎
(
げらう
)
が
俄
(
にはか
)
に
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
へ
上
(
のぼ
)
つた
所
(
ところ
)
で、
307
国民
(
こくみん
)
の
信用
(
しんよう
)
が
保
(
たも
)
てますまい』
308
国依
(
くにより
)
『
国民
(
こくみん
)
は
汝
(
おまえ
)
等
(
たち
)
の
思
(
おも
)
ふ
如
(
ごと
)
く
吾々
(
われわれ
)
を
尊敬
(
そんけい
)
しては
居
(
ゐ
)
ないよ。
309
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
の
腹
(
はら
)
から
出
(
で
)
た
娘
(
むすめ
)
だと
云
(
い
)
つて、
310
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
敬意
(
けいい
)
を
払
(
はら
)
つてゐるのではない。
311
バラモン
的
(
てき
)
色彩
(
しきさい
)
を
以
(
もつ
)
て
包
(
つつ
)
んでゐるから、
312
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
313
畏敬
(
いけい
)
の
念
(
ねん
)
を
払
(
はら
)
つてゐるのだ。
314
そんな
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
つてゐると、
315
時勢
(
じせい
)
に
目
(
め
)
のない
馬鹿者
(
ばかもの
)
と、
316
衆生
(
しゆじやう
)
から
馬鹿
(
ばか
)
にされるよ、
317
アツハヽヽヽヽ』
318
松若
(
まつわか
)
『
何
(
なん
)
と
仰
(
おほ
)
せられましても、
319
かうなる
上
(
うへ
)
は
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
を
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
さねばなりませぬ』
320
春乃
(
はるの
)
『
厭
(
いや
)
だよ
厭
(
いや
)
だよ、
321
怺
(
こら
)
へて
頂戴
(
ちやうだい
)
よ』
322
伊佐
(
いさ
)
『
是非
(
ぜひ
)
共
(
とも
)
、
323
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げまする』
324
春乃
(
はるの
)
『エヽ
好
(
す
)
かんたらしい
爺
(
ぢい
)
だね。
325
一度
(
いちど
)
厭
(
いや
)
と
云
(
い
)
つたら
厭
(
いや
)
だのに、
326
………ねーお
母
(
かあ
)
さま、
327
お
父
(
とう
)
さま、
328
人
(
ひと
)
の
意思
(
いし
)
を
束縛
(
そくばく
)
することは
罪悪
(
ざいあく
)
ですからねえ』
329
末子
(
すゑこ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
330
国司家
(
こくしけ
)
と
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
犠牲
(
ぎせい
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
を
発揮
(
はつき
)
して、
331
世継
(
よつぎ
)
になつて
下
(
くだ
)
さい。
332
母
(
はは
)
が
一生
(
いつしやう
)
の
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
だから……』
333
春乃
(
はるの
)
『
妾
(
わらは
)
に
註文
(
ちうもん
)
が
厶
(
ござ
)
いますが、
334
それを
承諾
(
しようだく
)
して
下
(
くだ
)
されば、
335
世子
(
せいし
)
になつても
宜
(
よろ
)
しい』
336
末子
(
すゑこ
)
『どんな
事
(
こと
)
でも、
337
貴女
(
あなた
)
の
要求
(
えうきう
)
を
容
(
い
)
れますから、
338
世子
(
せいし
)
になつて
下
(
くだ
)
さるでせうな。
339
そして
其
(
その
)
註文
(
ちうもん
)
とはどんな
用件
(
ようけん
)
ですか』
340
春乃
(
はるの
)
『一、
341
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
城
(
しろ
)
の
内外
(
ないぐわい
)
を
問
(
と
)
はず
出入
(
しゆつにふ
)
し
得
(
う
)
る
事
(
こと
)
、
342
一、
343
吾
(
わが
)
身辺
(
しんぺん
)
に
侍女
(
じぢよ
)
又
(
また
)
は
厳
(
いかめ
)
しき
士
(
さむらい
)
を
附随
(
ふずい
)
せしめざる
事
(
こと
)
、
344
一、
345
自分
(
じぶん
)
の
夫
(
をつと
)
は
自分
(
じぶん
)
にて
選定
(
せんてい
)
する
事
(
こと
)
、
346
一、
347
化儀
(
けぎ
)
に
依
(
よ
)
りては
世子
(
せいし
)
を
辞
(
じ
)
し、
348
理想
(
りさう
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
営
(
いとな
)
むやも
知
(
し
)
れざる
事
(
こと
)
、
349
一、
350
罪
(
つみ
)
を
寛恕
(
くわんじよ
)
する
事
(
こと
)
、
351
一、
352
大老
(
たいらう
)
、
353
老中
(
らうぢう
)
以下
(
いか
)
の
任免
(
にんめん
)
黜陟
(
ちゆつちよく
)
をなす
実権
(
じつけん
)
を
有
(
いう
)
する
事
(
こと
)
、
354
以上
(
いじやう
)
マアざつと
之
(
こ
)
れ
丈
(
だけ
)
の
条件
(
でうけん
)
は、
355
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
を
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
に
願
(
ねが
)
つて
置
(
お
)
きたう
厶
(
ござ
)
います』
356
国依
(
くにより
)
『
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
357
吾
(
わが
)
意
(
い
)
を
得
(
え
)
たりと
云
(
い
)
ふべしだ。
358
流石
(
さすが
)
は
春乃姫
(
はるのひめ
)
、
359
偉
(
えら
)
いものだな。
360
之
(
これ
)
には
両老
(
りやうらう
)
も
参
(
まゐ
)
つただらう、
361
アツハヽヽヽヽヽ』
362
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
363
伊佐彦
(
いさひこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
渋々
(
しぶしぶ
)
乍
(
なが
)
ら、
364
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずとして
春乃姫
(
はるのひめ
)
の
条件
(
でうけん
)
を
容
(
い
)
れ、
365
世子
(
せいし
)
と
定
(
さだ
)
め
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
366
神殿
(
しんでん
)
に
感謝
(
かんしや
)
祈願
(
きぐわん
)
の
詞
(
ことば
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
367
国司
(
こくし
)
夫妻
(
ふさい
)
に
慇懃
(
いんぎん
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
をなし、
368
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
369
此
(
この
)
日
(
ひ
)
蒼空
(
さうくう
)
に
一点
(
いつてん
)
の
雲翳
(
うんえい
)
もなく、
370
太陽
(
たいやう
)
の
光
(
ひかり
)
は
殊更
(
ことさら
)
清
(
きよ
)
く、
371
赤
(
あか
)
く、
372
涼風
(
りやうふう
)
徐
(
おもむ
)
ろに
吹
(
ふき
)
来
(
きた
)
り、
373
百鳥
(
ももどり
)
の
鳴
(
な
)
く
声
(
こゑ
)
もいと
爽
(
さは
)
やかに
聞
(
きこ
)
え、
374
四辺
(
あたり
)
の
雰囲気
(
ふんゐき
)
は
何
(
なん
)
となく
爽快
(
さうくわい
)
に、
375
天空
(
てんくう
)
よりは
微妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
り、
376
芳香
(
はうかう
)
四方
(
よも
)
に
薫
(
くん
)
じ、
377
恰
(
あたか
)
も
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
紫微宮
(
しびきう
)
にあるの
面持
(
おももち
)
であつた。
378
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
379
(
大正一三・一・二三
旧一二・一二・一八
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
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【07 聖子|第69巻(申の巻)|霊界物語/rm6907】
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