霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 聖子(せいし)〔一七五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第2篇 愛国の至情 よみ(新仮名遣い):あいこくのしじょう
章:第7章 聖子 よみ(新仮名遣い):せいし 通し章番号:1752
口述日:1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台:高砂城 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
進歩派の老中・岩治別が、守旧派の追及を逃れて城を飛び出して以来、社会の不安が増し、世の中の立替が起こるとの流言が飛び交い、容易ならぬ雰囲気になってきた。
実は岩治別は侠客・愛州のもとに潜んでいた。
さて、高砂城内では、世継の国照別が城を飛び出し、行方をくらましてしまった件について、協議がなされていた。
結論:監督責任のあった老中伊佐彦、松若彦は今回の件おとがめなし、そして、国照別の代わりに妹の春乃姫を世継に立てる。
ただし、春乃姫は世継になるにあたって、城の出入りの自由、結婚相手選択の自由、進退の自由、老中任免権、を要求する。老中もしぶしぶこれを認めざるをえなかった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-11-07 09:35:38 OBC :rm6907
愛善世界社版:105頁 八幡書店版:第12輯 311頁 修補版: 校定版:109頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 (うづ)(みやこ)高砂(たかさご)城内(じやうない)(おい)て、002進歩(しんぽ)老中(らうぢう)(あるひ)投槍(なげやり)老中(らうぢう)仇名(あだな)()つてゐた岩治別(いははるわけ)が、003(かぜ)(くら)つて何処(いづこ)ともなく姿(すがた)(かく)せしより、004(かれ)何事(なにごと)大望(たいまう)画策(くわくさく)し、005酒偽者(しゆぎしや)(かた)らひ捲土(けんど)重来(ぢうらい)して、006一挙(いつきよ)松若彦(まつわかひこ)007伊佐彦(いさひこ)両老(りやうらう)引退(いんたい)させ、008(うづ)天地(てんち)空気(くうき)一掃(いつさう)し、009(ふたた)正鹿(まさか)山津見(やまづみの)(かみ)聖代(せいだい)()立直(たてなほ)るならむと、010種々(しゆじゆ)流言(りうげん)蜚語(ひご)(さかん)(おこな)はれ、011人心(じんしん)恟々(きようきよう)として(やす)からず、012よるとさはると、013どこの大路(おほぢ)も、014裏町(うらまち)も、015長屋(ながや)(かかあ)(れん)井戸端(ゐどばた)会議(くわいぎ)にも喧伝(けんでん)さるる(やう)になつて()た。016松若彦(まつわかひこ)事態(じたい)容易(ようい)ならずとして、017老衰(らうすゐ)()(おこ)し、018賢平(けんぺい)取締(とりしまり)などを市中(しちう)(くま)なく配置(はいち)し、019(あるひ)私服(しふく)取締(とりしまり)辻々(つじつじ)横行(わうかう)せしめ、020(あや)しき(げん)をなす(もの)(かた)(ぱし)から検挙(けんきよ)せしめ、021夜中(やちう)になれば(おそ)れて一人(ひとり)外出(ぐわいしゆつ)する(もの)なく、022さしも繁華(はんくわ)都大路(みやこおほぢ)曠野(くわうや)(くわん)(てい)し、023()()えたる(ごと)(さび)しくなつて()た。
024 岩治別(いははるわけ)(その)(じつ)岩公(いはこう)()(へん)じ、025侠客(けふかく)愛州(あいしう)(やかた)(おく)(ふか)普通(ふつう)侠客(けふかく)となつて()()んでゐた。026命知(いのちし)らずの若者(わかもの)(ばか)数百(すうひやく)(にん)027(はち)()(ごと)(かた)まつてゐるので、028流石(さすが)賢平(けんぺい)取締(とりしまり)(この)(やかた)のみは一指(いつし)()むる(こと)だも躊躇(ちうちよ)してゐたのである。029愛州(あいしう)親分(おやぶん)岩公(いはこう)岩治別(いははるわけ)老中(らうぢう)なることは当人(たうにん)懇請(こんせい)()つて、030万事(ばんじ)呑込(のみこ)んでゐたが、031(しか)(なが)胸中(きようちう)(ふか)()()いて、032(ほか)乾児(こぶん)(ども)には一言(ひとこと)(しめ)さなかつた。033それ(ゆゑ)数多(あまた)乾児(こぶん)老耄(おいぼれ)親爺(おやぢ)岩州(いはしう)口汚(くちぎたな)()使(つか)ひ、034よその()()()(どく)次第(しだい)であつた。
035 (はなし)(かは)つて高砂城(たかさごじやう)大奥(おほおく)には、036国依別(くによりわけ)国司(こくし)(はじ)め、037末子姫(すゑこひめ)038春乃姫(はるのひめ)039松若彦(まつわかひこ)040伊佐彦(いさひこ)五柱(いつはしら)(たく)(かこ)んで、041何事(なにごと)重要(ぢうえう)会議(くわいぎ)(ひら)いてゐた。
042国依(くにより)松若彦(まつわかひこ)殿(どの)043(なんぢ)老齢(らうれい)()()(なが)ら、044昼夜(ちうや)寝食(しんしよく)(わす)れて国務(こくむ)鞅掌(おうしやう)する(その)誠実(せいじつ)(じつ)感歎(かんたん)(いた)りだ。045()末子姫(すゑこひめ)(つね)(なんぢ)至誠(しせい)至実(しじつ)なる行動(かうどう)について時々(ときどき)感謝(かんしや)()(へう)し、046(なに)よりも(さき)(なんぢ)(うはさ)をしてゐるのだよ。047(しか)今日(こんにち)(なんぢ)請求(せいきう)()つて、048()妻子(さいし)(とも)(なんぢ)両人(りやうにん)何事(なにごと)協議(けふぎ)する(はこ)びに(いた)つたのは、049(えう)するに(かみ)摂理(せつり)であらう。050今日(こんにち)真面目(まじめ)()(みみ)(かたむ)けるから、051忌憚(きたん)なく両人(りやうにん)とも意見(いけん)吐露(とろ)せよ』
052 松若彦(まつわかひこ)(うれ)しげに(ゑみ)(うか)べて、
053松若(まつわか)(つね)になき(わが)(きみ)のお言葉(ことば)054(この)老体(らうたい)(はじ)めて(よみがへ)つた(ごと)心地(ここち)(いた)しまする。055(まこと)(まをし)(あげ)にくい(こと)(なが)ら、056()世子(せいし)国照別(くにてるわけ)(さま)()行衛(ゆくへ)(わか)らなくなりましたので、057大責任(だいせきにん)地位(ちゐ)にある微臣(びしん)058(わが)(きみ)(たい)して(まをし)(わけ)なく、059(また)衆生(しゆじやう)(たい)しても()はす(かほ)(ござ)いませぬ。060()(ゆゑ)(わが)君様(きみさま)には()まぬ(こと)(なが)ら、061内々(ないない)(さぐ)りを市中(しちう)(くば)り、062捜索(そうさく)(いた)させましたなれど、063(いま)にお行衛(ゆくへ)(わか)りませぬ。064(まこと)監督(かんとく)不行届(ふゆきとどき)(つみ)065万死(ばんし)(あたひ)(いた)しますれば、066松若彦(まつわかひこ)(この)責任(せきにん)()ふて、067大老職(たいらうしよく)拝辞(はいじ)し、068一切(いつさい)政務(せいむ)伊佐彦(いさひこ)殿(どの)(ゆづ)らうと(ぞん)じまする。069何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)(この)()()聴許(ちやうきよ)(くだ)さいますれば有難(ありがた)(ぞん)じまする』
070国依(くにより)『ハツハヽヽヽ、071(せがれ)行衛(ゆくへ)(くら)ましたのは、072()はとつくに(ぞん)じてゐる。073(べつ)心配(しんぱい)する必要(ひつえう)はない。074如何(いか)(おや)なればとて、075(わが)()思想(しさう)(まで)束縛(そくばく)する(わけ)にも()かない。076(その)(こと)については(けつ)して心配(しんぱい)(いた)すな』
077平然(へいぜん)として(わら)つてゐる。078松若彦(まつわかひこ)国司(こくし)(いかり)()れ、079(らい)(ごと)くに叱咤(しつた)さるるかと(おも)ひの(ほか)080(あま)平然(へいぜん)たる態度(たいど)(あき)()て、081(かへ)言葉(ことば)()なかつた。
082伊佐(いさ)(わが)君様(きみさま)083()かる重要(ぢうえう)問題(もんだい)突発(とつぱつ)(いた)しましたのは、084(まつた)微臣(びしん)()(つみ)(いた)(ところ)085何卒(なにとぞ)厳重(げんぢう)なる()処分(しよぶん)(ねが)ひたう(ござ)ります』
086国依(くにより)()(もの)()はず(きた)(もの)(こば)まずだ。087(なに)(ほど)引止(ひきと)めようとしても、088()げよう()げようと(かんが)へてゐる(もの)駄目(だめ)だ。089(せがれ)比較(ひかく)(てき)大人物(だいじんぶつ)になつたと()えて、090(この)狭苦(せまくる)しい鳥屋(とや)(なか)(いや)になつたと()えるワイ。091そして(なんぢ)()両人(りやうにん)骸骨(がいこつ)()はむと(まをし)()()るが、092(なんぢ)()両人(りやうにん)幽霊(いうれい)となれば(あと)国政(こくせい)()(いた)(かんが)へだ。093後任者(こうにんしや)推薦(すいせん)して、094向後(かうご)国政(こくせい)(じやう)支障(ししやう)なき(まで)準備(じゆんび)(ととの)へ、095(しか)して(のち)骸骨(がいこつ)()へよ。096後継者(こうけいしや)物色(ぶつしよく)()んだのか、097それが()先決(せんけつ)問題(もんだい)だ』
098松若(まつわか)『ハイ、099(おそ)()りました。100(しか)(なが)(この)(うづ)(くに)におきまして寡聞(くわぶん)なる吾々(われわれ)()より(うかが)ひますれば、101一人(ひとり)として国家(こくか)重職(ぢうしよく)適当(てきたう)人物(じんぶつ)はない(やう)(ござ)ります。102(いづ)れの役人(やくにん)(みな)ハイカラ(てき)気分(きぶん)(おそ)はれ、103真面目(まじめ)国家(こくか)(おも)(もの)一人(ひとり)として見当(みあた)りませぬ。104(じつ)国家(こくか)前途(ぜんと)寒心(かんしん)()へませぬ』
105国依(くにより)『あゝさうすると、106後継者(こうけいしや)適当(てきたう)(もの)()いと()ふのか。107(なんぢ)()両人(りやうにん)(じつ)不忠(ふちう)不義(ふぎ)(はなはだ)しき(もの)だ。108(さが)()れツ』
109雷声(らいせい)(はつ)して(きび)しく叱咤(しつた)した。110両人(りやうにん)(ちぢ)(あが)(なみだ)(おさ)(なが)ら、111(くち)(そろ)へて、
112両人(りやうにん)吾々(われわれ)不肖(ふせう)(なが)ら、113主家(しゆか)(ため)国家(こくか)(ため)身命(しんめい)()して国務(こくむ)鞅掌(おうしやう)(いた)して()りまする。114(しか)るに只今(ただいま)のお言葉(ことば)115不忠(ふちう)不義(ふぎ)とは心得(こころえ)ませぬ。116仮令(たとへ)国司(こくし)なればとて、117(この)言葉(ことば)(たい)しては何処(どこ)(まで)(あか)りを()てて(いただ)かねば、118吾々(われわれ)一歩(いつぽ)(この)()退(しりぞ)きませぬ』
119国依(くにより)(なんぢ)()120()(いつは)つて()るではないか。121老齢(らうれい)(しよく)()へずとか、122責任(せきにん)()ひて辞任(じにん)するとか()(なが)ら、123国家(こくか)柱石(ちうせき)たる人物(じんぶつ)がないと()つたでないか。124後継者(こうけいしや)()きを()(なが)辞任(じにん)(まをし)()づるは、125(まつた)国司家(こくしけ)(おびや)かす(もの)だ。126(いな)()をして困惑(こんわく)せしむる(もの)だ。127()かる心理(しんり)抱持(はうぢ)してゐる(なんぢ)両人(りやうにん)(たい)し、128不忠(ふちう)不義(ふぎ)()つたのが、129何処(どこ)(わる)い』
130一層(いつそう)(つよ)怒鳴(どな)()てられ、131両人(りやうにん)(ひと)たまりもなく(ちぢ)(あが)つて(しま)つた。132末子姫(すゑこひめ)(この)(てい)()()(どく)がり、
133(わが)君様(きみさま)134(しばら)くお()(くだ)さいませ。135(かれ)()両人(りやうにん)国家(こくか)(おも)ふの(あま)り、136(きみ)決心(けつしん)(うなが)さむと、137(いま)(ごと)詭弁(きべん)(ろう)(たてまつ)つたので(ござ)いませう。138(なん)()つても(うづ)一国(いつこく)柱石(ちうせき)139少々(せうせう)(あやまち)(ゆる)しておやりなさいませ』
140国依(くにより)(ゆる)されぬ(この)()仕儀(しぎ)なれ(ども)141最愛(さいあい)末子姫(すゑこひめ)殿(どの)()仲裁(ちうさい)とあらば()むを()ない、142()盲従(まうじゆう)しておかうかい、143アツハヽヽヽ』
144最前(さいぜん)(いかり)(ごゑ)何処(どこ)へやら、145気楽(きらく)(さう)大口(おほぐち)()けて(わら)()した。146両人(りやうにん)はハツと(いき)をつぎ、147(ちぢ)(あが)つた睾丸(きんたま)(しわ)(やうや)(のば)(はじ)めた。
148松若(まつわか)(とし)にも似合(にあ)はず(わが)(きみ)(たい)し、149不都合(ふつがふ)(こと)(まをし)()(おそれ)()りまして(ござ)います。150何卒(どうぞ)唯今(ただいま)(わたくし)失言(しつげん)は、151(ひろ)仁慈(じんじ)御心(みこころ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)(くだ)さいまして、152従前(じゆうぜん)(とほ)りお召使(めしつかひ)(ねが)()(ぞん)じます』
153伊佐(いさ)微臣(びしん)同様(どうやう)154()使用(しよう)(ほど)()(ねがひ)(まをし)()げます』
155国依(くにより)『ウン、156ヨシヨシ、157(わか)れば(べつ)文句(もんく)()いのだ。158モウ(これ)からは(こころ)にも()辞令(じれい)()りまはすな。159(なんぢ)()両人(りやうにん)内心(ないしん)何処(どこ)(まで)政権(せいけん)恋々(れんれん)として、160(その)執着(しふちやく)()(こと)出来(でき)ないであらうがな』
161 両人(りやうにん)『ハツ』と(かほ)(あか)らめ、162無言(むごん)(まま)(うつむ)く。
163末子(すゑこ)(とき)(わが)君様(きみさま)164今日(こんにち)両老(りやうらう)(きみ)()出場(しゆつぢやう)(ねが)ひましたる要件(えうけん)(まを)しますのは、165(すで)()承知(しようち)(とほ)り、166世子(せいし)国照別(くにてるわけ)行衛(ゆくへ)(わか)りませぬので、167一層(いつそ)(こと)168春乃姫(はるのひめ)後継者(こうけいしや)となし、169上下(じやうげ)人心(じんしん)安定(あんてい)(はか)らねばならないと両老(りやうらう)から(まをし)()でまして、170(その)()承認(しようにん)()たい(ため)(ござ)いますれば、171よく()熟考(じゆくかう)(くだ)さいまして(いづ)れなり(とも)172都合(つがふ)()()命令(めいれい)(あふ)ぎたいので(ござ)います』
173 国依別(くによりわけ)無頓着(むとんちやく)に、
174『ウンさうだ、175春乃姫(はるのひめ)さへ承認(しようにん)すればそれで()い。176(ひめ)意思(いし)(まで)強圧(きやうあつ)(てき)()げる(こと)出来(でき)ぬ。177(この)問題(もんだい)(ひめ)()いたが早道(はやみち)だらう』
178末子(すゑこ)(をんな)(あと)()ぐとは前代(ぜんだい)未聞(みもん)では(ござ)いませぬか、179養子(やうし)でもせなくちやなりますまい。180さうすれば万代(ばんだい)不易(ふえき)国司家(こくしけ)断絶(だんぜつ)するぢやありませぬか』
181国依(くにより)三五教(あななひけう)(をしへ)にも(をんな)()世継(よつぎ)()いと(しめ)されてあるではないか。182(をんな)世継(よつぎ)としておけば、183(はら)から(はら)(つた)はつて()くのだから、184(その)血統(けつとう)(すこ)しも間違(まちが)ひはない。185()男子(だんし)世継(よつぎ)とすれば、186一方(いつぱう)(つま)(はう)(おい)て、187(をつと)()らさず第二(だいに)(をつと)(こしら)へてゐた場合(ばあひ)188(その)(うま)れた()何方(どちら)()(わか)らぬやうになつて()る。189それだから(かへつ)(をんな)(はう)確実(かくじつ)だ、190(げん)国照別(くにてるわけ)だつて、191()正胤(せいいん)であるか、192(あるひ)末子姫(すゑこひめ)殿(どの)第二(だいに)(をつと)(ひそ)かに(こしら)へて(その)(たね)宿(やど)したのか、193(わか)つたものぢやないからのう、194ハツハヽヽヽ』
195 末子姫(すゑこひめ)泣声(なきごゑ)になつて、
196『お(なさけ)ない(わが)(きみ)のお言葉(ことば)197(わらは)がそれ(だけ)不信用(ふしんよう)(ござ)いますか。198(また)(たれ)かと姦通(かんつう)をしたと仰有(おつしや)るので(ござ)いますか、199残念(ざんねん)(ござ)います』
200()()して()く。
201国依(くにより)『ハヽヽ、202(うそ)(うそ)だ、203比喩(たとへ)にひいた(まで)だ。204貞操(ていさう)(かみ)(まで)尊敬(そんけい)されてゐる、205家庭(かてい)女神(めがみ)(さま)だ。206()(けつ)して毛筋(けすぢ)横巾(よこはば)(ほど)も、207(そなた)行状(ぎやうじやう)(つい)(うたが)つてはゐない。208(いな)209(おほ)いに感謝(かんしや)してゐるのだ。210マア心配(しんぱい)するな、211比喩(たとへ)だからのう』
212背中(せなか)二三遍(にさんぺん)()でさする。213末子姫(すゑこひめ)(やうや)機嫌(きげん)(なほ)し、214(なみだ)笑顔(ゑがほ)一緒(いつしよ)手巾(はんけち)()(なが)ら、
215『ホヽヽそれで安心(あんしん)(いた)しました。216そんなら(わが)君様(きみさま)217(わらは)をどこ(まで)信用(しんよう)して(くだ)さいますね』
218国依(くにより)(すずめ)(ひやく)(まで)牝鳥(めんどり)(わす)れぬと()つて、219(いま)夫婦(めうと)(とも)皺苦茶(しわくちや)だらけの爺婆(ぢぢばば)になつて(しま)つたが、220時々(ときどき)(むかし)のあでやかなお(まへ)姿(すがた)(こころ)(ゑが)いて、221笑壺(ゑつぼ)()つてゐるのだ。222(その)(とき)(だけ)(じつ)にはなやかな(おも)ひがするよ』
223末子(すゑこ)『そりや(ちが)ひませう。224(むかし)(こと)(おも)()し、225はなやかな気分(きぶん)()なりなさる肝心(かんじん)(たま)はお(かつ)さまぢや(ござ)いませぬか』
226国依(くにより)『ウン、227(かつ)もヤツパリ追想中(つゐさうちう)一人(ひとり)だ。228乍併(しかしながら)(もつと)(すぐ)れて印象(いんしやう)(のこ)つてゐるのはヤツパリお(まへ)結婚(けつこん)当時(たうじ)艶麗(えんれい)姿(すがた)だよ、229ハツハヽヽヽヽ』
230(むすめ)老臣(らうしん)(まへ)夫婦(めうと)が、231あどけなき意茶(いちや)つき()ひを(はじ)めてゐる。232松若彦(まつわかひこ)233伊佐彦(いさひこ)もつい(はなし)(ひき)ずられて(あご)(ひも)をとき、234粘着性(ねんちやくせい)(つよ)(よだれ)七八寸(しちはちすん)(ばか)り、235天井(てんじやう)から蜘蛛(くも)(さが)つたやうに(いと)()れてゐる。
236国依(くにより)春乃姫(はるのひめ)さま、237最前(さいぜん)から一同(いちどう)(はなし)()いて(ほぼ)承知(しようち)だらうが、238どうだ、239世継(よつぎ)になる()はないかな』
240春乃(はるの)(いや)ですよ、241人生(じんせい)長者(ちやうじや)となる(なか)れといふ(ことわざ)(ござ)いませう。242窮屈(きうくつ)(かご)(なか)(まつ)()まれて、243(こころ)にもなき追従(つゐしよう)(あめ)をあびせかけられ、244敬遠(けいゑん)主義(しゆぎ)()られ、245二三(にさん)政治家(せいぢか)傀儡(くわいらい)となつて一生(いつしやう)(おく)るといふ(やう)不幸(ふかう)(こと)(ござ)いませぬワ。246(わらは)はお(とう)さまやお()アさまのお()(うへ)()て、247(じつ)にお()(どく)境遇(きやうぐう)だと同情(どうじやう)(なみだ)にくれてゐるのですよ。248(にい)さまも(また)(とう)さまの()(まひ)をなさるかと(おも)へば、249()(どく)(たま)らなかつたのですよ。250流石(さすが)(にい)さまも二三(にさん)政治家(せいぢか)傀儡(くわいらい)(まつ)()まれるのは人間(にんげん)として()()かないと()つて、251(かぜ)をくらつてどつかへ(にげ)()し、252自由(じいう)天地(てんち)横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)する幸福(かうふく)身分(みぶん)となつてゐられます。253本当(ほんたう)賢明(けんめい)(にい)さまですワ。254(わらは)(にい)さまの兄妹(きやうだい)255(みづか)()つて窮屈(きうくつ)不自由(ふじゆう)身分(みぶん)となりたくはありませぬ。256(これ)(ばか)りは()赦免(ゆるし)(ねが)いたいもので(ござ)いますワ』
257国依(くにより)『ハヽヽヽ、258さうだらう 259さうだらう、260(ちち)もかねて覚悟(かくご)してゐたのだ。261(いや)がる(もの)無理(むり)(おさ)へつけるのは無慈悲(むじひ)だ。262(おや)たる(もの)のなすべき(こと)ではない。263(まへ)()きな(やう)にしたが()からうぞ』
264末子(すゑこ)『モシ(わが)君様(きみさま)265(あに)国照別(くにてるわけ)家出(いへで)をするなり、266(いもうと)春乃姫(はるのひめ)世継(よつぎ)(いや)だと(まをし)ましたならば、267国司家(こくしけ)(ここ)断絶(だんぜつ)するぢやありませぬか。268貴方(あなた)如何(いか)なる()(かんが)へで左様(さやう)気楽(きらく)なことを(あふ)せられます。269(ここ)可哀相(かあいさう)でも春乃姫(はるのひめ)にトツクと(いひ)()かせ、270国柱(こくちう)保存(ほぞん)(じやう)271(いや)でも(おう)でも、272世継(よつぎ)になつて(もら)はねばなりますまい』
273国依(くにより)『フン、274(べつ)春乃姫(はるのひめ)(かぎ)つた(こと)はない。275松若彦(まつわかひこ)にも(せがれ)もあり(むすめ)もある(こと)だから、276一層(いつそ)(こと)松若彦(まつわかひこ)(せがれ)松依別(まつよりわけ)(わが)養子(やうし)として(あと)をつがせたら()うだ。277それも本人(ほんにん)意思(いし)(まか)すより仕方(しかた)がない。278松若彦(まつわかひこ)279(まへ)はどう(おも)ふか』
280 松若彦(まつわかひこ)はおどろいて、
281『これはこれは、282(わが)君様(きみさま)とも(おぼ)えぬお言葉(ことば)283(いま)(しん)(もつ)(きみ)となした(ためし)(ござ)いませぬ。284左様(さやう)(こと)(あふ)せられずに、285(ここ)春乃姫(はるのひめ)(さま)()(ねがひ)(まをし)()げ、286()世継(よつぎ)となつて(いただ)きたいもので(ござ)います。287ましてや愚鈍(ぐどん)(せがれ)288左様(さやう)(こと)()うして(つと)まりませう。289(これ)(ばか)りは(ひら)()(ことわり)(まをし)()げます』
290国依(くにより)何事(なにごと)惟神(かむながら)(まか)すのだなア』
291末子(すゑこ)『いつも貴方(あなた)惟神(かむながら)々々(かむながら)()つて、292(すべ)ての問題(もんだい)(はうむ)らうとなさいますが、293()かる重要(ぢうえう)事件(じけん)はさう惟神(かむながら)(ばか)りでは()きますまい』
294国依(くにより)『サアそこが惟神(かむながら)だよ。295身魂(みたま)(にご)つた国依別(くによりわけ)血統(ちすぢ)(もつ)(とこ)置物(おきもの)にせなくても置物(おきもの)になりたがつてるお人好(ひとよ)しは三千万(さんぜんまん)(にん)(うち)には(さん)(にん)()(にん)はキツトある。296そんな心配(しんぱい)()らぬ。297……どんな身魂(みたま)がおとしてあるか(わか)らぬぞよ……と()神諭(しんゆ)にも(あら)はれてるぢやないか。298観報(くわんぱう)(もつ)(とこ)置物(おきもの)召集令(せうしふれい)(はつ)するか、299新聞(しんぶん)記者(きしや)()んで広告欄(くわうこくらん)()せさすか、300(いく)らでも方法(はうはふ)がある。301それで()かねば、302(かみ)(ちから)(もつ)て、303()()人物(じんぶつ)物色(ぶつしよく)するのだ』
304気楽(きらく)(さう)()つてのける。
305末子(すゑこ)『それでは()(をさ)まりますまい。306匹夫(ひつぷ)下郎(げらう)(にはか)(たか)(ところ)(のぼ)つた(ところ)で、307国民(こくみん)信用(しんよう)(たも)てますまい』
308国依(くにより)国民(こくみん)(おまえ)(たち)(おも)(ごと)吾々(われわれ)尊敬(そんけい)しては()ないよ。309(また)吾々(われわれ)(はら)から()(むすめ)だと()つて、310(こころ)(そこ)から敬意(けいい)(はら)つてゐるのではない。311バラモン(てき)色彩(しきさい)(もつ)(つつ)んでゐるから、312()むを()ず、313畏敬(いけい)(ねん)(はら)つてゐるのだ。314そんな(こと)(おも)つてゐると、315時勢(じせい)()のない馬鹿者(ばかもの)と、316衆生(しゆじやう)から馬鹿(ばか)にされるよ、317アツハヽヽヽヽ』
318松若(まつわか)(なん)(おほ)せられましても、319かうなる(うへ)春乃姫(はるのひめ)(さま)()(ねが)(まを)さねばなりませぬ』
320春乃(はるの)(いや)だよ(いや)だよ、321(こら)へて頂戴(ちやうだい)よ』
322伊佐(いさ)是非(ぜひ)(とも)323(ひめ)(さま)()(ねがひ)(まをし)()げまする』
324春乃(はるの)『エヽ()かんたらしい(ぢい)だね。325一度(いちど)(いや)()つたら(いや)だのに、326………ねーお(かあ)さま、327(とう)さま、328(ひと)意思(いし)束縛(そくばく)することは罪悪(ざいあく)ですからねえ』
329末子(すゑこ)(なん)()つても(この)場合(ばあひ)330国司家(こくしけ)国家(こくか)(ため)犠牲(ぎせい)(てき)精神(せいしん)発揮(はつき)して、331世継(よつぎ)になつて(くだ)さい。332(はは)一生(いつしやう)()(ねがひ)だから……』
333春乃(はるの)(わらは)註文(ちうもん)(ござ)いますが、334それを承諾(しようだく)して(くだ)されば、335世子(せいし)になつても(よろ)しい』
336末子(すゑこ)『どんな(こと)でも、337貴女(あなた)要求(えうきう)()れますから、338世子(せいし)になつて(くだ)さるでせうな。339そして(その)註文(ちうもん)とはどんな用件(ようけん)ですか』
340春乃(はるの)『一、341自由(じいう)自在(じざい)(しろ)内外(ないぐわい)()はず出入(しゆつにふ)()(こと)
342 一、343(わが)身辺(しんぺん)侍女(じぢよ)(また)(いかめ)しき(さむらい)附随(ふずい)せしめざる(こと)
344 一、345自分(じぶん)(をつと)自分(じぶん)にて選定(せんてい)する(こと)
346 一、347化儀(けぎ)()りては世子(せいし)()し、348理想(りさう)生活(せいくわつ)(いとな)むやも()れざる(こと)
349 一、350(つみ)寛恕(くわんじよ)する(こと)
351 一、352大老(たいらう)353老中(らうぢう)以下(いか)任免(にんめん)黜陟(ちゆつちよく)をなす実権(じつけん)(いう)する(こと)
354以上(いじやう)マアざつと()(だけ)条件(でうけん)は、355()承知(しようち)()両親(りやうしん)(ねが)つて()きたう(ござ)います』
356国依(くにより)面白(おもしろ)面白(おもしろ)い、357(わが)()()たりと()ふべしだ。358流石(さすが)春乃姫(はるのひめ)359(えら)いものだな。360(これ)には両老(りやうらう)(まゐ)つただらう、361アツハヽヽヽヽヽ』
362 松若彦(まつわかひこ)363伊佐彦(いさひこ)両人(りやうにん)渋々(しぶしぶ)(なが)ら、364()むを()ずとして春乃姫(はるのひめ)条件(でうけん)()れ、365世子(せいし)(さだ)吐息(といき)をつき(なが)ら、366神殿(しんでん)感謝(かんしや)祈願(きぐわん)(ことば)奏上(そうじやう)し、367国司(こくし)夫妻(ふさい)慇懃(いんぎん)挨拶(あいさつ)をなし、368(わが)(やかた)()して(かへ)()く。
369 (この)()蒼空(さうくう)一点(いつてん)雲翳(うんえい)もなく、370太陽(たいやう)(ひかり)殊更(ことさら)(きよ)く、371(あか)く、372涼風(りやうふう)(おもむ)ろに(ふき)(きた)り、373百鳥(ももどり)()(こゑ)もいと(さは)やかに(きこ)え、374四辺(あたり)雰囲気(ふんゐき)(なん)となく爽快(さうくわい)に、375天空(てんくう)よりは微妙(びめう)音楽(おんがく)(ひび)(わた)り、376芳香(はうかう)四方(よも)(くん)じ、377(あたか)第一(だいいち)天国(てんごく)紫微宮(しびきう)にあるの面持(おももち)であつた。378あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
379大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
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