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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
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第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
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第一三章
国別
(
こくべつ
)
〔一七五八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第3篇 神柱国礎
よみ(新仮名遣い):
しんちゅうこくそ
章:
第13章 国別
よみ(新仮名遣い):
こくべつ
通し章番号:
1758
口述日:
1924(大正13)年01月24日(旧12月19日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国照別は、魂を磨き、真の神徳を治めるため、生まれ故郷の珍の国を出ていく。
共の浅公とともに、アリナ山を下り、最初の目的地、懸橋御殿を指して、歌を歌いながら進む。
霧は深く、太陽も沈み、やむを得ず山中にて一夜を明かすことになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6913
愛善世界社版:
187頁
八幡書店版:
第12輯 342頁
修補版:
校定版:
195頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
国照別
(
くにてるわけ
)
『われは
淋
(
さび
)
しき
冬
(
ふゆ
)
の
月
(
つき
)
002
御空
(
みそら
)
に
高
(
たか
)
く
打
(
うち
)
ふるひ
003
中空
(
ちうくう
)
遮
(
さへぎ
)
る
雲
(
くも
)
の
戸
(
と
)
の
004
開
(
ひら
)
くよしなき
悲
(
かな
)
しさに
005
苦
(
くるし
)
み
悶
(
もだ
)
ゆる
折
(
をり
)
もあれ
006
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
時津風
(
ときつかぜ
)
007
十重
(
とへ
)
に
二十重
(
はたへ
)
に
包
(
つつ
)
みたる
008
雲
(
くも
)
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
漸
(
やうや
)
くに
009
地上
(
ちじやう
)
に
降
(
くだ
)
る
道
(
みち
)
開
(
ひら
)
く
010
草
(
くさ
)
の
片葉
(
かきは
)
におく
霜
(
しも
)
の
011
冷
(
つめ
)
たき
宿
(
やど
)
を
借
(
か
)
り
乍
(
なが
)
ら
012
都
(
みやこ
)
を
後
(
あと
)
に
下
(
くだ
)
りゆく
013
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞ
頼
(
たの
)
もしき
014
遥
(
はるか
)
に
地上
(
ちじやう
)
を
見渡
(
みわた
)
せば
015
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
や
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
の
016
伊猛
(
いたけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
荒野原
(
あれのはら
)
017
正
(
ただ
)
しき
人
(
ひと
)
は
醜神
(
しこがみ
)
の
018
脚
(
あし
)
ににじられ
踏
(
ふ
)
まれつつ
019
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ
020
曲
(
まが
)
れる
人
(
ひと
)
は
揚々
(
やうやう
)
と
021
春野
(
はるの
)
に
蝶
(
てふ
)
の
舞
(
ま
)
ふ
如
(
ごと
)
く
022
地上
(
ちじやう
)
の
悩
(
なや
)
みを
他所
(
よそ
)
にして
023
歌舞
(
かぶ
)
音楽
(
おんがく
)
にひたりゐる
024
実
(
げ
)
にも
矛盾
(
むじゆん
)
の
天地
(
てんち
)
かな
025
いよいよ
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれて
026
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
引
(
ひき
)
ならし
027
草
(
くさ
)
の
片葉
(
かきは
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
028
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
にしたしつつ
029
救
(
すく
)
はむ
時
(
とき
)
ぞ
近
(
ちか
)
づきぬ
030
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
031
吾
(
わ
)
れは
国照別
(
くにてるわけ
)
司
(
つかさ
)
032
此
(
この
)
曇
(
くも
)
りたる
国土
(
くにつち
)
を
033
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
034
照
(
てら
)
し
清
(
きよ
)
めて
永久
(
とこしへ
)
に
035
国照別
(
くにてるわけ
)
の
御世
(
みよ
)
となし
036
草木
(
くさき
)
もめぐむ
春乃姫
(
はるのひめ
)
037
月
(
つき
)
と
花
(
はな
)
との
兄妹
(
おとどい
)
が
038
神
(
かみ
)
の
賜
(
たま
)
ひし
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
039
昔
(
むかし
)
の
神代
(
かみよ
)
に
引
(
ひき
)
戻
(
もど
)
し
040
憂
(
うき
)
に
悩
(
なや
)
める
人草
(
ひとぐさ
)
を
041
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けむ
吾
(
わが
)
願
(
ねが
)
ひ
042
達
(
たつ
)
せむ
為
(
ため
)
の
鹿島立
(
かしまだち
)
043
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
044
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎまつる
045
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
は
荒
(
あら
)
くとも
046
降
(
ふ
)
り
込
(
こ
)
む
雨
(
あめ
)
は
強
(
つよ
)
く
共
(
とも
)
047
仮令
(
たとへ
)
地
(
つち
)
揺
(
ゆ
)
り
雷
(
いかづち
)
の
048
頭上
(
づじやう
)
に
轟
(
とどろ
)
く
世
(
よ
)
あり
共
(
とも
)
049
いかでか
恐
(
おそ
)
れむ
敷島
(
しきしま
)
の
050
聖
(
きよ
)
き
国照別
(
くにてるわけ
)
の
魂
(
たま
)
051
如何
(
いか
)
なる
権威
(
けんゐ
)
も
物欲
(
ぶつよく
)
も
052
左右
(
さいう
)
し
得
(
う
)
べき
力
(
ちから
)
なし
053
珍
(
うづ
)
の
御国
(
みくに
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
054
高砂島
(
たかさごじま
)
に
国
(
くに
)
と
云
(
い
)
ふ
055
国
(
くに
)
のことごと
三五
(
あななひ
)
の
056
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
とねぢ
直
(
なほ
)
し
057
生
(
い
)
ける
真
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
として
058
降
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
くこそ
勇
(
いさ
)
ましき
059
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
060
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る』
061
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
062
アリナ
山
(
やま
)
の
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
着
(
つ
)
いた。
063
国照別
(
くにてるわけ
)
は
東方
(
とうはう
)
の
原野
(
げんや
)
を
遥
(
はるか
)
に
見
(
み
)
おろし
乍
(
なが
)
ら、
064
『あゝ
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
も
暫
(
しばら
)
くこれで
見
(
み
)
ることが
出来
(
でき
)
ないだらう。
065
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
今度
(
こんど
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
は、
066
此
(
この
)
広大
(
くわうだい
)
なる
荒野
(
あれの
)
ケ
原
(
はら
)
も
金銀
(
きんぎん
)
瑪瑙
(
めなう
)
、
067
瑠璃
(
るり
)
硨磲
(
しやこ
)
、
068
玻璃
(
はり
)
などの
七宝
(
しつぽう
)
に
飾
(
かざ
)
られた
地上
(
ちじやう
)
天国
(
てんごく
)
に
一変
(
いつぺん
)
するだらう。
069
雲
(
くも
)
深
(
ふか
)
き
城中
(
じやうちう
)
を
後
(
あと
)
に
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
家来
(
けらい
)
を
見
(
み
)
すてて、
070
鄙
(
ひな
)
に
下
(
くだ
)
り、
071
今
(
いま
)
又
(
また
)
吾
(
わが
)
城下
(
じやうか
)
にも
住
(
す
)
む
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
ず、
072
心
(
こころ
)
からとは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
073
生
(
うま
)
れ
故郷
(
こきやう
)
を
立
(
たち
)
去
(
さ
)
るは、
074
どこともなく
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しいやうだ。
075
あゝ
否々
(
いないな
)
、
076
そんな
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
いことで、
077
此
(
この
)
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まらうか。
078
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
国司
(
こくし
)
は
元
(
もと
)
は
三五
(
あななひ
)
の
教
(
をしへ
)
を
以
(
もつ
)
て
人草
(
ひとぐさ
)
を
教化
(
けうくわ
)
するのが
天職
(
てんしよく
)
であつた。
079
余
(
あま
)
り
政治
(
せいぢ
)
などに
心
(
こころ
)
を
用
(
もち
)
ひなくても
自然
(
しぜん
)
に
治
(
をさ
)
まつてゐたのだ。
080
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
こんにち
)
となつては
国外
(
こくぐわい
)
よりいろいろの
主義
(
しゆぎ
)
や
思想
(
しさう
)
や
無用
(
むよう
)
の
学術
(
がくじゆつ
)
が
流
(
なが
)
れ
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
て、
081
古
(
いにしへ
)
の
如
(
ごと
)
き
簡易
(
かんい
)
な
信仰
(
しんかう
)
のみを
以
(
もつ
)
て
国
(
くに
)
を
治
(
をさ
)
むる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なくなつて
了
(
しま
)
つた。
082
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
083
どうしても
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
知識
(
ちしき
)
や
学問
(
がくもん
)
の
力
(
ちから
)
では
治
(
をさ
)
まるものでない。
084
先
(
ま
)
づ
政
(
まつりごと
)
の
第一
(
だいいち
)
は
徳
(
とく
)
を
以
(
もつ
)
てするより
外
(
ほか
)
にない。
085
自分
(
じぶん
)
は
其
(
その
)
徳
(
とく
)
を
養
(
やしな
)
はむが
為
(
ため
)
に、
086
城中
(
じやうちう
)
をぬけ
出
(
だ
)
し、
087
最
(
もつと
)
も
卑
(
いや
)
しき
車夫
(
しやふ
)
の
仲間
(
なかま
)
に
入
(
い
)
り、
088
下層
(
かそう
)
社会
(
しやくわい
)
の
事情
(
じじやう
)
を
探
(
さぐ
)
り、
089
今
(
いま
)
又
(
また
)
侠客
(
けふかく
)
となつて、
090
市井
(
しせい
)
の
巷
(
ちまた
)
に
出没
(
しゆつぼつ
)
し、
091
吾
(
わが
)
霊魂
(
れいこん
)
をして
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
たらしめむと、
092
焦
(
あせ
)
れど
藻掻
(
もが
)
けど
如何
(
いか
)
にせむ、
093
永
(
なが
)
い
間
(
あひだ
)
嬢
(
ぢやう
)
や
坊
(
ぼん
)
にて
育
(
そだ
)
てられ、
094
少
(
すこ
)
しの
荒
(
あら
)
き
風
(
かぜ
)
にさへも
悩
(
なや
)
まされるやうな
弱
(
よわ
)
い
身体
(
からだ
)
で、
095
どうして
衆生
(
しゆじやう
)
を
安堵
(
あんど
)
せしむることが
出来
(
でき
)
ようか。
096
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
自分
(
じぶん
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
世子
(
せいし
)
、
097
清家
(
せいか
)
生活
(
せいくわつ
)
も
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
も
少
(
すこ
)
しも
望
(
のぞ
)
まぬけれど、
098
此
(
この
)
先
(
さき
)
自分
(
じぶん
)
が
此
(
この
)
国
(
くに
)
に
居
(
を
)
らなくなつたならば、
099
信仰
(
しんかう
)
の
中心
(
ちうしん
)
、
100
尊敬
(
そんけい
)
の
的
(
まと
)
、
101
思想
(
しさう
)
の
真柱
(
しんばしら
)
を
失
(
うしな
)
ふたも
同然
(
どうぜん
)
、
102
容易
(
ようい
)
に、
103
如何
(
いか
)
なる
賢者
(
けんじや
)
が
現
(
あら
)
はれても、
104
徳望者
(
とくばうしや
)
が
現
(
あら
)
はれても、
105
治
(
をさ
)
むることは
難
(
むつ
)
かしいだらう。
106
それを
思
(
おも
)
へば、
107
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
魂
(
たま
)
を
研
(
みが
)
き、
108
真
(
しん
)
の
神徳
(
しんとく
)
を
身
(
み
)
にうけて、
109
再
(
ふたた
)
び
此
(
この
)
国
(
くに
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
なくてはならうまい。
110
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
広
(
ひろ
)
き
原野
(
げんや
)
が
今
(
いま
)
吾
(
わが
)
視線
(
しせん
)
を
離
(
はな
)
れるに
望
(
のぞ
)
んで、
111
何
(
なん
)
となく、
112
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
を
始
(
はじ
)
め
吾
(
わが
)
国
(
くに
)
衆生
(
しゆじやう
)
が
恋
(
こひ
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
113
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一旦
(
いつたん
)
決心
(
けつしん
)
した
吾
(
わが
)
魂
(
たましひ
)
を
翻
(
ひるがへ
)
すことは
出来
(
でき
)
ぬ。
114
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
115
国治立
(
くにはるたちの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
116
何卒
(
なにとぞ
)
国照別
(
くにてるわけ
)
が
赤心
(
まごころ
)
を
御
(
ご
)
受納
(
じゆなふ
)
下
(
くだ
)
さいまして、
117
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
は
申
(
まを
)
すも
更
(
さら
)
なり、
118
高砂島
(
たかさごじま
)
の
天地
(
てんち
)
をして
119
昔
(
むかし
)
の
神代
(
かみよ
)
の
歓楽郷
(
くわんらくきやう
)
にねぢ
直
(
なほ
)
させて
下
(
くだ
)
さいませ。
120
又
(
また
)
両親
(
りやうしん
)
を
始
(
はじ
)
め
妹
(
いもうと
)
の
春乃姫
(
はるのひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
城中
(
じやうちう
)
の
老臣
(
らうしん
)
、
121
及
(
およ
)
び
友人
(
いうじん
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
特別
(
とくべつ
)
の
御
(
ご
)
恩寵
(
おんちよう
)
を
垂
(
た
)
れさせ
給
(
たま
)
ひて、
122
珍
(
うづ
)
の
国家
(
こくか
)
を
平安
(
へいあん
)
に
隆昌
(
りうしやう
)
に
進
(
すす
)
ませ
給
(
たま
)
ふ
様
(
やう
)
偏
(
ひとへ
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まをし
)
上
(
あげ
)
ます。
123
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
に
別
(
わか
)
るるに
臨
(
のぞ
)
んで、
124
国魂
(
くにたまの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御前
(
みまへ
)
に
謹
(
つつし
)
んで
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
125
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
126
と
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
の
態
(
てい
)
で、
127
太
(
ふと
)
い
息
(
いき
)
をついてゐる。
128
浅公
(
あさこう
)
は
珍
(
うづ
)
の
原野
(
げんや
)
を
見
(
み
)
おろし
乍
(
なが
)
ら、
129
『
親分
(
おやぶん
)
さま、
130
何
(
なん
)
とマア
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
も
広
(
ひろ
)
いものですなア、
131
そして
何
(
なん
)
だか
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
が……
浅公
(
あさこう
)
行
(
ゆ
)
くな
行
(
ゆ
)
くな
132
元
(
もと
)
へ
返
(
か
)
やせ……と
手招
(
てまね
)
きするやうな
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
しまして、
133
之
(
これ
)
から
先
(
さき
)
へ
行
(
ゆ
)
くのが、
134
何
(
なん
)
だか
おつくう
なやうな、
135
嬉
(
うれ
)
しくない
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
になりました。
136
今
(
いま
)
親方
(
おやかた
)
の
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
てゐると
二
(
ふた
)
つの
目
(
め
)
から
涙
(
なみだ
)
がポロリポロリと
落
(
お
)
ちてゐましたよ。
137
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
侠客
(
けふかく
)
の
親分
(
おやぶん
)
でも、
138
人情
(
にんじやう
)
に
変
(
かは
)
りはないとみえますな』
139
国照
(
くにてる
)
『ウン、
140
生
(
うま
)
れた
国
(
くに
)
といふものは、
141
何
(
なん
)
とはなしに
恋
(
こひ
)
しいものだ。
142
言
(
い
)
はば
自分
(
じぶん
)
等
(
たち
)
を
永
(
なが
)
らく
育
(
そだ
)
ててくれた
真
(
しん
)
の
母
(
はは
)
だからな。
143
幼子
(
をさなご
)
が
母
(
はは
)
の
懐
(
ふところ
)
をはなれて、
144
異郷
(
いきやう
)
の
空
(
そら
)
に
出
(
で
)
るのだもの、
145
俺
(
おれ
)
だつて、
146
チツトは
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれるのは
当然
(
あたりまへ
)
だ。
147
涙
(
なみだ
)
のない
人間
(
にんげん
)
は
鬼
(
おに
)
だ。
148
俺
(
おれ
)
も
先
(
ま
)
づ
鬼
(
おに
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
だけは
免
(
まぬが
)
れたとみえるワイ。
149
アツハヽヽヽヽ』
150
と
俄
(
にはか
)
に
笑
(
わら
)
ひに
紛
(
まぎ
)
らす。
151
浅公
(
あさこう
)
も
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
交
(
まじ
)
りに『アツハヽヽヽヽ』と
附合
(
つきあひ
)
笑
(
わら
)
ひをする。
152
国照
(
くにてる
)
『
浅公
(
あさこう
)
、
153
之
(
これ
)
から
先
(
さき
)
はつまりいへば、
154
他国
(
たこく
)
だ。
155
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
からいへば、
156
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
で
境界
(
きやうかい
)
もなければ
差別
(
さべつ
)
もないが、
157
地上
(
ちじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
共
(
ども
)
が、
158
之
(
これ
)
迄
(
まで
)
は
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
、
159
之
(
これ
)
から
先
(
さき
)
はテルの
国
(
くに
)
だとか、
160
カルの
国
(
くに
)
だとかヒルだとかハルだとか、
161
勝手
(
かつて
)
に
境界
(
きやうかい
)
をつけ、
162
互
(
たがひ
)
に
権勢
(
けんせい
)
を
争
(
あらそ
)
うてゐるのだから、
163
其
(
その
)
考
(
かんが
)
へでゐないと、
164
大変
(
たいへん
)
な
失敗
(
しつぱい
)
をするよ。
165
自分
(
じぶん
)
の
国内
(
こくない
)
では
侠客
(
けふかく
)
も
羽振
(
はぶり
)
が
利
(
き
)
くが、
166
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
らぬ
他国
(
たこく
)
では、
167
そういふ
訳
(
わけ
)
にはゆかぬからのう』
168
浅
(
あさ
)
『
所
(
ところ
)
で
吠
(
ほえ
)
ぬ
犬
(
いぬ
)
はないとかいひましてな』
169
国照
(
くにてる
)
『オイ
浅
(
あさ
)
、
170
犬
(
いぬ
)
に
喩
(
たとへ
)
るとは
殺生
(
せつしやう
)
ぢやないか、
171
ハヽヽ。
172
サアここを
降
(
くだ
)
つて、
173
懸橋
(
かけはし
)
御殿
(
ごてん
)
といふのがあるさうだから、
174
それへ
参拝
(
さんぱい
)
をして
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
借
(
か
)
り、
175
ゆつくり
行
(
ゆ
)
くことにせう』
176
浅
(
あさ
)
『ハイ、
177
お
伴
(
とも
)
致
(
いた
)
しませう、
178
あーあ、
179
之
(
これ
)
で
故郷
(
こきやう
)
の
空
(
そら
)
の
暫
(
しばら
)
く
見納
(
みをさ
)
めかなア………
180
去
(
さ
)
りかねて
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
見
(
み
)
ぬ
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
181
妻
(
つま
)
さへ
子
(
こ
)
さへなき
身
(
み
)
なれ
共
(
ども
)
。
182
何
(
なん
)
となく
恋
(
こひ
)
しくなりぬ
珍
(
うづ
)
の
空
(
そら
)
183
今
(
いま
)
別
(
わか
)
れむとして
涙
(
なみだ
)
こぼるる』
184
国照別
(
くにてるわけ
)
『
汝
(
なれ
)
も
又
(
また
)
人
(
ひと
)
の
御子
(
みこ
)
なれ
世
(
よ
)
のあはれ
185
よくも
悟
(
さと
)
れり
深
(
ふか
)
く
覚
(
さと
)
れり。
186
足乳根
(
たらちね
)
の
親
(
おや
)
のまします
珍
(
うづ
)
の
空
(
そら
)
187
打
(
う
)
ち
仰
(
あふ
)
ぎつつ
別
(
わか
)
れ
行
(
ゆ
)
く
哉
(
かな
)
。
188
国愛別
(
くにちかわけ
)
親
(
した
)
しき
友
(
とも
)
は
如何
(
いか
)
にして
189
吾
(
わが
)
ゆく
後
(
あと
)
に
活動
(
くわつどう
)
やせむ。
190
吾
(
わが
)
友
(
とも
)
よ
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
てよ
国照別
(
くにてるわけ
)
191
神
(
かみ
)
と
現
(
あら
)
はれ
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
。
192
吾
(
わが
)
行
(
ゆ
)
くは
御国
(
みくに
)
をすつる
為
(
ため
)
ならず
193
真
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
にせむ
為
(
ため
)
。
194
吾
(
わが
)
ゆくは
親
(
おや
)
を
苦
(
くるし
)
むる
為
(
ため
)
ならず
195
大御心
(
おほみこころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めむ
為
(
ため
)
。
196
吾
(
わが
)
ゆくは
国民
(
くにたみ
)
すつる
為
(
ため
)
ならず
197
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
救
(
すく
)
はむが
為
(
ため
)
』
198
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
り、
199
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
急坂
(
きふはん
)
を
下
(
くだ
)
りゆく。
200
国照別
(
くにてるわけ
)
『
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
のアリナ
山
(
やま
)
201
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
下
(
くだ
)
りゆく
202
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
203
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つ
共
(
とも
)
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
204
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
205
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
三五
(
あななひ
)
の
206
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
吾
(
わが
)
身魂
(
みたま
)
207
神
(
かみ
)
と
国
(
くに
)
とに
真心
(
まごころ
)
を
208
尽
(
つく
)
す
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
幸
(
さち
)
あれと
209
朝夕
(
あさゆふ
)
祈
(
いの
)
る
勇
(
いさ
)
ましさ
210
故国
(
ここく
)
の
空
(
そら
)
を
後
(
あと
)
にして
211
踏
(
ふ
)
みもならはぬ
山阪
(
やまざか
)
を
212
登
(
のぼ
)
りつ
下
(
くだ
)
りつ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
213
国魂神
(
くにたまがみ
)
の
竜世姫
(
たつよひめ
)
214
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
215
謹
(
つつし
)
み
敬
(
うや
)
まひ
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
216
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
り
給
(
たま
)
ひたる
217
国治立
(
くにはるたちの
)
大御神
(
おほみかみ
)
218
世人
(
よびと
)
を
教
(
をし
)
へ
諭
(
さと
)
しゆく
219
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
220
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
塵
(
ちり
)
を
打
(
うち
)
払
(
はら
)
ふ
221
科戸
(
しなど
)
の
風
(
かぜ
)
や
雨
(
あめ
)
となり
222
雪
(
ゆき
)
ともなりて
守
(
まも
)
ります
223
貴
(
うづ
)
の
力
(
ちから
)
を
頼
(
たよ
)
りとし
224
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
掛替
(
かけがへ
)
の
225
なき
垂乳根
(
たらちね
)
や
妹
(
いもうと
)
を
226
後
(
あと
)
に
見
(
み
)
すてて
出
(
い
)
でてゆく
227
涙
(
なみだ
)
の
雨
(
あめ
)
は
袖
(
そで
)
に
降
(
ふ
)
り
228
眼
(
まなこ
)
はかすむ
今日
(
けふ
)
の
空
(
そら
)
229
恵
(
めぐ
)
ませ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
230
神
(
かみ
)
かけ
念
(
ねん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
る』
231
と
歌
(
うた
)
ひつつ、
232
国照別
(
くにてるわけ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
233
浅公
(
あさこう
)
は
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
足拍子
(
あしびやうし
)
を
取
(
と
)
り
乍
(
なが
)
ら、
234
九十九
(
つづら
)
曲
(
まが
)
りの
石
(
いし
)
だらけの
道
(
みち
)
を
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
行
(
ゆ
)
く。
235
浅公
(
あさこう
)
『ウントコドツコイ、アリナ
山
(
やま
)
236
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いたきつい
阪
(
さか
)
237
いよいよ
恋
(
こひ
)
しい
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
238
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
立
(
たち
)
わかれ
239
ウントコドツコイ
危
(
あぶ
)
ないぞ
240
石
(
いし
)
のゴラゴラする
阪
(
さか
)
だ
241
親方
(
おやかた
)
用心
(
ようじん
)
なさいませ
242
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
阪
(
さか
)
を
243
無事
(
ぶじ
)
に
下
(
くだ
)
つてウントコシヨ
244
懸橋
(
かけはし
)
御殿
(
ごてん
)
にまゐ
詣
(
まう
)
で
245
足
(
あし
)
の
疲
(
つか
)
れを
休
(
やす
)
めませう
246
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
とて
名
(
な
)
の
高
(
たか
)
い
247
昔
(
むかし
)
の
神
(
かみ
)
の
霊跡
(
れいせき
)
が
248
今
(
いま
)
に
残
(
のこ
)
つてゐるといふ
249
名所
(
めいしよ
)
を
見
(
み
)
るのも
今
(
いま
)
少時
(
しばし
)
250
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
251
何卒
(
なにとぞ
)
無事
(
ぶじ
)
に
此
(
この
)
阪
(
さか
)
を
252
親方
(
おやかた
)
さまと
諸共
(
もろとも
)
に
253
下
(
くだ
)
らせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
254
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
願
(
ね
)
ぎまつる
255
旭
(
あさひ
)
もテルの
国野原
(
くにのはら
)
256
向
(
むか
)
つておりゆく
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
257
若
(
も
)
しも
国人
(
くにびと
)
吾
(
わが
)
姿
(
すがた
)
258
眺
(
なが
)
めて
空
(
そら
)
から
天人
(
てんにん
)
が
259
降
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
たかと
怪
(
あや
)
しんで
260
いと
珍
(
めづ
)
らしき
穀物
(
たなつもの
)
261
八足
(
やたり
)
の
机
(
つくゑ
)
におき
並
(
なら
)
べ
262
迎
(
むか
)
へてくれれば
嬉
(
うれ
)
しいが
263
ウントコドツコイ、アイタツタ
264
メツタに
左様
(
さやう
)
なうまい
事
(
こと
)
265
あらうと
思
(
おも
)
はぬボンの
糞
(
くそ
)
266
雨露
(
うろ
)
凌
(
しの
)
がしてドツコイシヨ
267
くれてもそれで
満足
(
まんぞく
)
だ
268
もうしもうし
親分
(
おやぶん
)
よ
269
俄
(
にはか
)
に
霧
(
きり
)
が
深
(
ふか
)
くなり
270
一間先
(
いつけんさき
)
は
靄
(
もや
)
の
海
(
うみ
)
271
だんだん
淋
(
さび
)
しうなつてくる
272
一足
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
阪路
(
さかみち
)
を
273
降
(
くだ
)
る
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
や
274
底
(
そこ
)
の
国
(
くに
)
へと
行
(
ゆ
)
く
様
(
やう
)
な
275
淋
(
さび
)
しい
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
た
276
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
277
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
宜
(
よろ
)
しく
頼
(
たの
)
みます
278
後
(
あと
)
へは
返
(
かへ
)
さぬ
男伊達
(
をとこだて
)
279
仮令
(
たとへ
)
命
(
いのち
)
はすつるとも
280
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
つたる
親分
(
おやぶん
)
の
281
気象
(
きしやう
)
はいつかな
怯
(
ひる
)
むまい
282
俺
(
わつち
)
も
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
お
伴
(
とも
)
して
283
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
に
引返
(
ひつかへ
)
す
284
訳
(
わけ
)
にはゆかぬ
男
(
をとこ
)
の
意気地
(
いくぢ
)
285
斯
(
か
)
うなりやホンに
侠客
(
けふかく
)
も
286
ウントコドツコイ
辛
(
つら
)
いもの
287
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
288
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
289
霧
(
きり
)
は
山路
(
やまぢ
)
を
包
(
つつ
)
むとも
290
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
が
行先
(
ゆくさき
)
に
291
道
(
みち
)
を
塞
(
ふさ
)
いで
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
292
弱
(
よわ
)
きを
扶
(
たす
)
け
強
(
つよ
)
きをば
293
挫
(
くじ
)
いて
通
(
とほ
)
る
男伊達
(
をとこだて
)
294
それを
兼
(
かね
)
たる
宣伝使
(
せんでんし
)
295
国照別
(
くにてるわけ
)
の
珍
(
うづ
)
の
御子
(
みこ
)
296
御供
(
みとも
)
に
仕
(
つか
)
へた
浅州
(
あさしう
)
は
297
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
してひるまない
298
あゝ
勇
(
いさ
)
ましや
勇
(
いさ
)
ましや
299
一足
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
ウントコシヨ
300
勝利
(
しようり
)
の
都
(
みやこ
)
へ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
301
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
にあり
302
親分
(
おやぶん
)
も
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
にあり
303
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
守
(
まも
)
るは
神
(
かみ
)
にまし
304
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
守
(
まも
)
るは
親分
(
おやぶん
)
だ
305
又
(
また
)
親分
(
おやぶん
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
306
守
(
まも
)
る
真
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
307
国治立
(
くにはるたちの
)
大御神
(
おほみかみ
)
308
次
(
つぎ
)
に
乾児
(
こぶん
)
の
浅州
(
あさしう
)
は
309
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
テクテクと
310
御後
(
みあと
)
に
従
(
したが
)
ひ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
311
どこを
当
(
あて
)
とも
白雲
(
しらくも
)
の
312
山路
(
やまぢ
)
を
別
(
わく
)
る
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
313
実
(
げ
)
に
面白
(
おもしろ
)
し
勇
(
いさ
)
ましし
314
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
315
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
316
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
317
ドツコイ ドツコイ ドツコイシヨ』
318
とちぎれちぎれに
山降
(
やまくだ
)
りの
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
319
漸
(
やうや
)
くにして
稍
(
やや
)
平坦
(
へいたん
)
な
緩勾配
(
くわんこうばい
)
の
阪道
(
さかみち
)
に
着
(
つ
)
いた。
320
霧
(
きり
)
は
益々
(
ますます
)
深
(
ふか
)
くして
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜず、
321
太陽
(
たいやう
)
は
西天
(
せいてん
)
にかくれしと
見
(
み
)
え、
322
暗
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
はチクチクと
二人
(
ふたり
)
を
包
(
つつ
)
んで
来
(
き
)
た。
323
二人
(
ふたり
)
はやむを
得
(
え
)
ず、
324
此処
(
ここ
)
に
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
すこととなつた。
325
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
326
(
大正一三・一・二四
旧一二・一二・一九
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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