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第48巻(亥の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
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第78巻(巳の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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>
第69巻
> 第2篇 愛国の至情 > 第9章 迎酒
<<< 春乃愛
(B)
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第九章
迎酒
(
むかへざけ
)
〔一七五四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第2篇 愛国の至情
よみ(新仮名遣い):
あいこくのしじょう
章:
第9章 迎酒
よみ(新仮名遣い):
むかえざけ
通し章番号:
1754
口述日:
1924(大正13)年01月23日(旧12月18日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
愛州の子分たちは春乃姫の約束にしたがって、親分が帰ってくるのを待っていた。
すでに約束の十日目になっており、痺れを切らした子分たちが、牢獄へ押し寄せて腕ずくで愛州を取り戻そうと、出陣の酒盛りの準備を始める。そこへ、ひょっこりと愛州が戻ってくる。
出陣の酒盛りは、そのまま祝いの酒盛りとなり、愛州の館には万歳の声が響く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-11-14 10:54:18
OBC :
rm6909
愛善世界社版:
133頁
八幡書店版:
第12輯 322頁
修補版:
校定版:
139頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
横小路
(
よここうぢ
)
の
侠客
(
けふかく
)
愛州
(
あいしう
)
の
留守宅
(
るすたく
)
には、
002
源州
(
げんしう
)
、
003
平州
(
へいしう
)
、
004
藤州
(
とうしう
)
、
005
橘公
(
きちこう
)
、
006
三州
(
さんしう
)
、
007
泉州
(
せんしう
)
、
008
相州
(
さうしう
)
、
009
杢州
(
もくしう
)
の
兄分株
(
あにぶんかぶ
)
が
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
乾児共
(
こぶんども
)
を
集
(
あつ
)
めて、
010
親分
(
おやぶん
)
の
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
るの
遅
(
おそ
)
きに
稍
(
やや
)
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
を
起
(
おこ
)
し、
011
冷酒
(
ひやざけ
)
を
煽
(
あふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
善後策
(
ぜんごさく
)
に
就
(
つい
)
て
協議
(
けふぎ
)
を
凝
(
こ
)
らしてゐる。
012
平
(
へい
)
『オイ
源州
(
げんしう
)
の
兄貴
(
あにき
)
、
013
親分
(
おやぶん
)
が
捕
(
つか
)
まつてから
今日
(
けふ
)
で
十日目
(
とをかめ
)
になるが、
014
未
(
ま
)
だニヤンが
屁
(
へ
)
こいたとも
便
(
たよ
)
りがないぢやねいか。
015
吾々
(
われわれ
)
乾児
(
こぶん
)
として
此
(
この
)
儘
(
まま
)
坐視
(
ざし
)
するこたア
出来
(
でき
)
まい。
016
何
(
なん
)
とか
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
す
工夫
(
くふう
)
はあるめえかな』
017
源
(
げん
)
『まア
今日
(
けふ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
は
待
(
ま
)
つたが
可
(
よ
)
からうぞ。
018
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
が
仲裁
(
ちうさい
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
019
……
今
(
いま
)
直
(
すぐ
)
にと
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬが、
020
十日
(
とをか
)
の
間
(
あひだ
)
にはキツト
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
してやらう……と
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
立派
(
りつぱ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つたのだから、
021
滅多
(
めつた
)
に
間違
(
まちが
)
ひはあるめえ。
022
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
尊
(
たふと
)
いお
言葉
(
ことば
)
を
信
(
しん
)
じ、
023
おとなしく
待
(
ま
)
つてるのだ。
024
其
(
そ
)
の
代
(
かは
)
り
今日中
(
けふぢう
)
待
(
ま
)
つて
親分
(
おやぶん
)
が
帰
(
け
)
えれねえとすれば、
025
吾々
(
われわれ
)
も
安閑
(
あんかん
)
としては
居
(
を
)
られねえ。
026
味方
(
みかた
)
を
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
集
(
あつ
)
め、
027
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
と
出
(
で
)
かける
積
(
つも
)
りだ。
028
まア
少時
(
しばらく
)
の
所
(
ところ
)
俺
(
おれ
)
に
免
(
めん
)
じて
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ』
029
平
(
へい
)
『ウンそれもさうだが、
030
あんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
一
(
いち
)
時
(
じ
)
逃
(
のが
)
れに
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
を
胡魔
(
ごま
)
かしたのぢやあるめいかな。
031
それならそれで
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
にも
覚悟
(
かくご
)
があるからなア』
032
岩公
(
いはこう
)
は
側
(
そば
)
より、
033
岩
(
いは
)
『オイ
兄貴
(
あにき
)
心配
(
しんぱい
)
するな。
034
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
つたら、
035
仁慈
(
じんじ
)
深
(
ふか
)
い、
036
そして
時代
(
じだい
)
を
解
(
かい
)
した、
037
立派
(
りつぱ
)
な
思想
(
しさう
)
を
持
(
も
)
つた、
038
人類愛
(
じんるゐあい
)
主義
(
しゆぎ
)
の
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
だ。
039
仮令
(
たとへ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
や
二日
(
ふつか
)
遅
(
おく
)
れても、
040
キツト
仰有
(
おつしや
)
つた
言
(
こと
)
は、
041
命
(
いのち
)
に
代
(
か
)
へても
履行
(
りかう
)
して
下
(
くだ
)
さるから、
042
茲
(
ここ
)
はおとなしく
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るが
可
(
よ
)
からうぞ』
043
平
(
へい
)
『
老耄
(
おいぼれ
)
の
末席
(
まつせき
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
偉
(
えら
)
相
(
さう
)
なこと
云
(
い
)
ふない。
044
ナニ
汝
(
きさま
)
がそんな
事
(
こと
)
分
(
わか
)
らうかい。
045
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
なんて、
046
拝
(
をが
)
んだ
事
(
こと
)
もない
癖
(
くせ
)
に、
047
知
(
し
)
つたかぶりを
吐
(
ほざ
)
くない。
048
こんな
所
(
ところ
)
へチヨツカイを
出
(
だ
)
す
汝
(
きさま
)
の
幕
(
まく
)
ぢやない。
049
あつちへ
行
(
い
)
つて
便所
(
べんじよ
)
の
掃除
(
さうぢ
)
でもやつて
来
(
こ
)
い』
050
岩
(
いは
)
『ソリヤ、
051
兄貴
(
あにき
)
の
云
(
い
)
ふことに
反
(
そむ
)
く
訳
(
わけ
)
にや
行
(
ゆ
)
かぬから、
052
便所
(
べんじよ
)
の
掃除
(
さうぢ
)
もせぬことは
無
(
な
)
いが、
053
今日
(
けふ
)
は
乗
(
の
)
るか
反
(
そ
)
るかの
肝心要
(
かんじんかなめ
)
の
評定
(
ひやうじやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
ぢやないか。
054
如何
(
いか
)
に
末輩
(
まつぱい
)
の
俺
(
おれ
)
だつて、
055
大親分
(
おほおやぶん
)
の
身内
(
みうち
)
に
違
(
ちが
)
ひない。
056
親分
(
おやぶん
)
を
思
(
おも
)
ふ
赤心
(
まごころ
)
は
兄貴
(
あにき
)
だつて、
057
末輩
(
まつぱい
)
だつて、
058
チツとも
変
(
かは
)
りはないぞ。
059
外
(
ほか
)
の
問題
(
もんだい
)
ならば
順序
(
じゆんじよ
)
を
守
(
まも
)
り、
060
こんな
所
(
ところ
)
へツン
出
(
で
)
て
意見
(
いけん
)
は
述
(
の
)
べないが、
061
親分
(
おやぶん
)
の
一身
(
いつしん
)
上
(
じやう
)
に
関
(
くわん
)
する
大問題
(
だいもんだい
)
だから、
062
わつちの
意見
(
いけん
)
も
云
(
い
)
はして
呉
(
く
)
れ
玉
(
たま
)
へ』
063
平
(
へい
)
『
老耄爺
(
おいぼれぢい
)
の
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
で、
064
何
(
ど
)
うして
重要
(
ぢうえう
)
な
問題
(
もんだい
)
の
解決
(
かいけつ
)
が
着
(
つ
)
くものか。
065
チヨン
猪口才
(
ちよこざい
)
な、
066
そつちへ
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
れつたら……
本当
(
ほんたう
)
に
五月蠅
(
うるさい
)
奴
(
やつ
)
だな。
067
此
(
この
)
平
(
へい
)
さまはな、
068
汝
(
きさま
)
は
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
つてるか
知
(
し
)
らぬが、
069
背水会
(
はいすいくわい
)
の
創立者
(
さうりつしや
)
だぞ。
070
源州
(
げんしう
)
の
兄貴
(
あにき
)
と
両人
(
ふたり
)
が、
071
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
老中
(
らうぢう
)
に
頼
(
たの
)
まれて、
072
背水会
(
はいすいくわい
)
の
元
(
もと
)
を
作
(
つく
)
つたのだ。
073
大親分
(
おほおやぶん
)
の
愛州
(
あいしう
)
さまは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
頭
(
かしら
)
に
戴
(
いただ
)
いてるものの、
074
背水会
(
はいすいくわい
)
の
創立者
(
さうりつしや
)
は
矢張
(
やつぱ
)
り
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
だからな。
075
いはば
侠客
(
けふかく
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ。
076
侠客
(
けふかく
)
には
侠客
(
けふかく
)
の
法
(
はふ
)
があるのだから、
077
汝
(
きさま
)
等
(
たち
)
は
順序
(
じゆんじよ
)
を
守
(
まも
)
つて、
078
すつ
込
(
こ
)
んで
居
(
を
)
れ』
079
藤
(
とう
)
『オイ
平州
(
へいしう
)
の
兄貴
(
あにき
)
、
080
さう
没義道
(
もぎだう
)
にこき
下
(
お
)
ろすものぢやない。
081
此
(
この
)
岩州
(
いはしう
)
だつて、
082
普通
(
ふつう
)
の
乾児
(
こぶん
)
とは、
083
ちつたア
違
(
ちが
)
つた
所
(
とこ
)
があるよ。
084
斯
(
か
)
ふいふ
大切
(
だいじ
)
な
場合
(
ばあひ
)
には、
085
誰
(
たれ
)
の
意見
(
いけん
)
でも
参考
(
さんかう
)
の
為
(
ため
)
に
聞
(
き
)
いてみる
必要
(
ひつえう
)
があらうぞ』
086
平
(
へい
)
『さうかも
知
(
し
)
れねえが、
087
何
(
なん
)
だか
虫
(
むし
)
の
好
(
す
)
かねえ
面
(
つら
)
をしやがつて、
088
横合
(
よこあひ
)
から
茶々
(
ちやちや
)
を
入
(
い
)
れやがると、
089
ムカついて
堪
(
たま
)
らねえのだ。
090
此
(
この
)
岩州
(
いはしう
)
はヒヨツとしたら
寒犬
(
かんけん
)
かも
知
(
し
)
れないよ。
091
何
(
なん
)
だか
目付
(
めつき
)
が
怪
(
あや
)
しうて
仕方
(
しかた
)
がねえ。
092
然
(
しか
)
しながら
親分
(
おやぶん
)
が
何時
(
いつ
)
も「
岩々
(
いはいは
)
」と
云
(
い
)
つて、
0921
腰巾着
(
こしぎんちやく
)
の
様
(
やう
)
にどつこへ
行
(
ゆ
)
くにも
荷持
(
にもち
)
に
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くのだから、
093
親分
(
おやぶん
)
にどんなお
考
(
かんが
)
へがあるか
知
(
し
)
れぬと
思
(
おも
)
つて、
094
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
や
見逃
(
みのが
)
してるのだが、
095
実
(
じつ
)
に
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
る
奴
(
やつ
)
だ。
096
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
老中
(
らうぢう
)
見
(
み
)
た
様
(
やう
)
な
根性魂
(
こんじやうだま
)
を
下
(
さ
)
げてゐやがるのだからな』
097
藤
(
とう
)
『エライ
所
(
ところ
)
へ
又
(
また
)
舌鋒
(
ぜつぽう
)
が
脱線
(
だつせん
)
したものだな。
098
そんな
話
(
はなし
)
よりも
焦眉
(
せうび
)
の
急
(
きふ
)
を
要
(
えう
)
する
問題
(
もんだい
)
は
親分
(
おやぶん
)
の
一身
(
いつしん
)
上
(
じやう
)
に
関
(
くわん
)
する
事
(
こと
)
だ。
099
源州
(
げんしう
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
今晩
(
こんばん
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つて
見
(
み
)
て、
100
親方
(
おやかた
)
の
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
えないとすれば、
101
いよいよ
足装束
(
あししやうぞく
)
を
整
(
ととの
)
へ、
102
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
をオツ
初
(
ぱじ
)
めるのだなア』
103
平
(
へい
)
『そんならさうに
定
(
き
)
めておかう。
104
オイ
兄弟
(
きやうだい
)
、
105
乾児
(
こぶん
)
連中
(
れんぢう
)
に、
106
何時
(
いつ
)
でも
発足
(
はつそく
)
の
出来
(
でき
)
る
様
(
やう
)
に
準備
(
じゆんび
)
を
命
(
めい
)
じて
呉
(
く
)
れ。
107
そして
酒樽
(
さかだる
)
の
鏡
(
かがみ
)
を
抜
(
ぬ
)
いて、
108
今
(
いま
)
出立
(
しゆつたつ
)
と
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
呑
(
の
)
んで
出
(
で
)
る
様
(
やう
)
に
準備
(
じゆんび
)
をして
置
(
お
)
くのだなア』
109
三州
(
さんしう
)
、
110
泉州
(
せんしう
)
、
111
相州
(
さうしう
)
、
112
杢州
(
もくしう
)
の
幹部
(
かんぶ
)
連
(
れん
)
は、
1121
裏
(
うら
)
の
大部屋
(
おほべや
)
に
集
(
あつ
)
まつてる
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
向
(
むか
)
つて
右
(
みぎ
)
の
趣
(
おもむき
)
を
伝
(
つた
)
へ、
113
用意
(
ようい
)
にかからしめた。
114
源州
(
げんしう
)
、
115
平州
(
へいしう
)
、
116
藤州
(
とうしう
)
、
117
橘公
(
きちこう
)
の
幹部
(
かんぶ
)
連
(
れん
)
は
元気
(
げんき
)
をつける
為
(
ため
)
、
118
酒
(
さけ
)
を
燗
(
かん
)
し
乍
(
なが
)
ら
数
(
かず
)
の
子
(
こ
)
の
肴
(
さかな
)
でチヨビリチヨビリと
呑
(
の
)
み
始
(
はじ
)
めた。
119
段々
(
だんだん
)
酔
(
よひ
)
が
廻
(
まは
)
つて
来
(
き
)
て
互
(
たがひ
)
に
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
した。
120
橘公
(
きちこう
)
廻
(
まは
)
らぬ
舌
(
した
)
で、
121
『アーア、
122
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
侠客
(
けふかく
)
なんて、
123
つまらねえもなアありやしねえワ。
124
なア
兄弟
(
きやうだい
)
、
125
よく
考
(
かんが
)
へてみろ。
126
喧嘩
(
けんくわ
)
して
切
(
き
)
られても
痛
(
いた
)
いと
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にや
行
(
ゆ
)
かず、
127
殺
(
ころ
)
されても
逃
(
にげ
)
る
訳
(
わけ
)
にや
行
(
ゆ
)
かねえし、
128
本当
(
ほんたう
)
に
引合
(
ひきあ
)
はぬ
商売
(
しやうばい
)
ぢやねえか。
129
若
(
も
)
し
卑怯
(
ひけふ
)
な
言葉
(
ことば
)
でも
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
よ、
130
彼奴
(
あいつ
)
ア
なきがら
だと
云
(
い
)
つて、
131
仲間
(
なかま
)
の
奴
(
やつ
)
から
擯斥
(
ひんせき
)
され、
132
先代
(
せんだい
)
の
親分
(
おやぶん
)
の
名
(
な
)
まで
汚
(
けが
)
し、
133
又
(
また
)
乾児
(
こぶん
)
の
面
(
つら
)
に
泥
(
どろ
)
を
塗
(
ぬ
)
らねばならぬ。
134
さうすりや、
135
乾児
(
こぶん
)
の
巾
(
はば
)
が
利
(
き
)
かなくなつて
了
(
しま
)
ふ。
136
彼奴
(
あいつ
)
の
親分
(
おやぶん
)
は
切
(
き
)
られて
痛
(
いた
)
がつたとか、
137
死
(
し
)
にがけに
吠
(
ほ
)
えたとか
歌
(
うた
)
つたとか
云
(
い
)
はれて、
138
なきがら
なきがら
と
貶
(
けな
)
され、
139
乾児
(
こぶん
)
の
渡世
(
とせい
)
が
出来
(
でき
)
ねえ
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
ふ。
140
それを
思
(
おも
)
へば
喧嘩
(
けんくわ
)
して
腕
(
うで
)
の
一本
(
いつぽん
)
位
(
くらゐ
)
落
(
おと
)
されても、
141
痛
(
いた
)
さを
怺
(
こら
)
へて
無理
(
むり
)
に
笑顔
(
ゑがほ
)
を
作
(
つく
)
り、
142
劫託
(
ごふたく
)
を
並
(
なら
)
べて
胡魔
(
ごま
)
かさねばならず、
143
本当
(
ほんたう
)
に
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
此
(
こ
)
れ
位
(
くらゐ
)
つまらねえ
商売
(
しやうばい
)
はねえぢやねえか』
144
平州
(
へいしう
)
ヅブ
六
(
ろく
)
に
酔
(
よ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
145
『さうとも さうとも、
146
橘
(
きち
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
147
本当
(
ほんたう
)
に
詰
(
つま
)
らねえな。
148
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
149
対命舎
(
たいめいしや
)
や
投槍派
(
なげやりは
)
が
恐
(
おそ
)
ろしくなつたものだから、
150
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
甘
(
うま
)
く
釣
(
つ
)
り
込
(
こ
)
みやがつて……
国家
(
こくか
)
の
保護
(
ほご
)
に
任
(
にん
)
ずる
者
(
もの
)
は
151
腐敗
(
ふはい
)
堕落
(
だらく
)
の
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に、
152
侠客
(
けふかく
)
をおいて
他
(
た
)
に
無
(
な
)
し……
等
(
など
)
と
煽
(
おだ
)
て
上
(
あ
)
げ、
153
背水会
(
はいすいくわい
)
を
組織
(
そしき
)
して
呉
(
く
)
れたら
充分
(
じゆうぶん
)
の
保護
(
ほご
)
を
与
(
あた
)
へ、
154
凡
(
すべ
)
ての
便宜
(
べんぎ
)
を
与
(
あた
)
へてやると
吐
(
ぬ
)
かしやがつたものだから、
155
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
六十
(
ろくじふ
)
余
(
よ
)
人
(
にん
)
に
檄
(
げき
)
を
飛
(
と
)
ばし、
156
……
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中
(
らうぢう
)
の
請求
(
せいきう
)
だから、
157
一度
(
いちど
)
珍
(
うづ
)
の
城下
(
じやうか
)
へ
集
(
あつ
)
まつて、
158
背水会
(
はいすいくわい
)
の
組織
(
そしき
)
をして
呉
(
く
)
れまいか……と
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
、
159
どの
親分
(
おやぶん
)
も
二
(
ふた
)
つ
返事
(
へんじ
)
で
賛成
(
さんせい
)
をして
呉
(
く
)
れたのだ。
160
侠客
(
けふかく
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
161
時
(
とき
)
の
権威者
(
けんゐしや
)
の
鼻
(
はな
)
つ
柱
(
ぱしら
)
を
打挫
(
うちくじ
)
くのが
天職
(
てんしよく
)
だから、
162
ヨモヤ
老中
(
らうぢう
)
の
走狗
(
そうく
)
にならうと
云
(
い
)
ふ
親分
(
おやぶん
)
は
一人
(
ひとり
)
もなからうと
信
(
しん
)
じてゐたのに、
163
エーエ、
164
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむや
妹計
(
いもうとはか
)
らむやだ。
165
今
(
いま
)
の
侠客
(
けふかく
)
ア、
166
魂
(
たましひ
)
が
脱
(
ぬ
)
けてゐるから、
167
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中
(
らうぢう
)
のお
声
(
こゑ
)
がかりだと
聞
(
き
)
いて、
168
欣喜
(
きんき
)
雀躍
(
じやくやく
)
して
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
のスカタン・ホテルへ、
169
蟻
(
あり
)
の
甘
(
あま
)
きに
集
(
つど
)
ふ
如
(
ごと
)
くやつて
来
(
き
)
たのだ。
170
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
親分衆
(
おやぶんしう
)
の
勢
(
いきほひ
)
つたら
素晴
(
すば
)
らしいものだつた。
171
此
(
こ
)
れ
丈
(
だけ
)
の
者
(
もの
)
が
協心
(
けふしん
)
戮力
(
りくりよく
)
して
当
(
あた
)
らうものなら、
172
どんな
事
(
こと
)
でも
成功
(
せいこう
)
疑
(
うたが
)
ひ
無
(
な
)
し
173
と
思
(
おも
)
はれたよ』
174
源
(
げん
)
『
最前
(
さいぜん
)
から
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
175
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
が
背水会
(
はいすいくわい
)
を
組織
(
そしき
)
したやうに
云
(
い
)
つてるが、
176
其
(
その
)
衝
(
しよう
)
に
当
(
あた
)
つた
者
(
もの
)
は
汝
(
きさま
)
許
(
ばか
)
りぢやねえ、
177
俺
(
おれ
)
が
先頭
(
せんとう
)
ぢやねえか』
178
平
(
へい
)
『ウーン、
179
それもさうだ。
180
サア
之
(
これ
)
から
兄貴
(
あにき
)
の
番
(
ばん
)
だ。
181
酒
(
さけ
)
の
肴
(
さかな
)
に
一
(
ひと
)
つ
兄弟
(
きやうだい
)
の
前
(
まへ
)
で、
182
背水会
(
はいすいくわい
)
組織
(
そしき
)
の
顛末
(
てんまつ
)
を
聞
(
き
)
かしてやつて
呉
(
く
)
れ、
183
オイ
兄弟
(
きやうだい
)
、
184
随分
(
ずいぶん
)
面白
(
おもしろ
)
いぞ』
185
源
(
げん
)
『
望
(
のぞ
)
みとあらば
云
(
い
)
つてやらぬ
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
い。
186
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
勇気
(
ゆうき
)
と
云
(
い
)
ふものは
大
(
たい
)
したものだぞ。
187
エー
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
此
(
この
)
源州
(
げんしう
)
の
所
(
ところ
)
へ、
188
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中
(
らうぢう
)
の
所
(
ところ
)
から
頼
(
たの
)
みに
来
(
き
)
たのだ。
189
それで
平州
(
へいしう
)
と
相談
(
さうだん
)
した
上
(
うへ
)
、
190
珍
(
うづ
)
全国
(
ぜんこく
)
の
親分株
(
おやぶんかぶ
)
を
集
(
あつ
)
め、
191
スカタン・ホテルへ
行
(
い
)
つて、
192
それから
老中
(
らうぢう
)
へ
電話
(
でんわ
)
をかけ、
193
横波
(
よこなみ
)
局長
(
きよくちやう
)
に
照会
(
せうくわい
)
した
所
(
ところ
)
、
194
横波
(
よこなみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
195
吃驚
(
びつくり
)
しやがつて、
196
……
決
(
けつ
)
して
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
から
侠客
(
けふかく
)
なんか
依頼
(
いらい
)
したこたアない。
197
其方
(
そちら
)
の
方
(
はう
)
に
用
(
よう
)
があるなら、
198
老中局
(
らうぢうきよく
)
へやつて
来
(
こ
)
い……なんて、
199
木
(
き
)
で
鼻
(
はな
)
を
擦
(
こす
)
つた
様
(
やう
)
な
挨拶
(
あいさつ
)
をしやがるのだ。
200
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
六十
(
ろくじふ
)
余
(
よ
)
人
(
にん
)
の
親分
(
おやぶん
)
に
対
(
たい
)
し
横波
(
よこなみ
)
がそんなこと
云
(
い
)
つたと、
201
何
(
ど
)
うして
云
(
い
)
はれうか。
202
切腹
(
せつぷく
)
でもして
言訳
(
いひわけ
)
しなくちや
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
たねえ。
203
そこで
此
(
この
)
平州
(
へいしう
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
204
俺
(
おれ
)
はドスを
腰
(
こし
)
にブラ
下
(
さ
)
げ、
205
平州
(
へいしう
)
はピストルを
懐
(
ふところ
)
にして、
206
老中局
(
らうぢうきよく
)
の
玄関
(
げんくわん
)
にあばれ
込
(
こ
)
み……
横波
(
よこなみ
)
局長
(
きよくちやう
)
を
此所
(
ここ
)
へ
引
(
ひき
)
ずり
出
(
だ
)
せツ……と
呶鳴
(
どな
)
つた
所
(
ところ
)
、
207
横波
(
よこなみ
)
の
奴
(
やつ
)
吃驚
(
びつくり
)
しやがつて、
208
チツとも
面
(
つら
)
出
(
だ
)
しやがらぬ。
209
受付
(
うけつけ
)
に
萎
(
しな
)
びた
爺
(
ぢい
)
が
一疋
(
いつぴき
)
けつかつて、
210
……マアマア
何用
(
なによう
)
か
知
(
し
)
りませぬが
私
(
わたし
)
が
承
(
うけたま
)
はりませう……と
云
(
い
)
ひやがる。
211
……エー
薬鑵
(
やくわん
)
親爺
(
おやぢ
)
奴
(
め
)
212
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
さらしてると、
2121
捻
(
ひね
)
りつぶしてやる……と、
213
平州
(
へいしう
)
がやつた
所
(
ところ
)
、
214
親爺
(
おやぢ
)
奴
(
め
)
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
りやがつて、
215
……
私
(
わたし
)
は
大泡
(
おほあわ
)
吹造
(
ふくざう
)
と
申
(
まを
)
します……と
云
(
い
)
ひやがつて、
216
大泡
(
おほあわ
)
吹造
(
ふくざう
)
とは
醜偽院
(
しうぎゐん
)
の
偽長
(
ぎちやう
)
もやつてゐた
奴
(
やつ
)
だなアと
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
217
……そんなら
親爺
(
おやぢ
)
、
218
横波
(
よこなみ
)
に
俺
(
おれ
)
の
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
用件
(
ようけん
)
をトツクリと
話
(
はな
)
して、
219
侠客
(
けふかく
)
の
面
(
つら
)
を
立
(
た
)
てる
様
(
やう
)
にするか、
220
でなくちやこつちにも
覚悟
(
かくご
)
がある……と
槍
(
やり
)
を
一本
(
いつぽん
)
入
(
い
)
れて、
221
スカタン・ホテルへ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
ると、
222
老中局
(
らうぢうきよく
)
から
十数台
(
じふすうだい
)
の
自動車
(
じどうしや
)
を
持
(
も
)
つて、
223
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
一行
(
いつかう
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
やがつたのだ。
224
それから
始
(
はじ
)
めて、
225
局内
(
きよくない
)
の
評定所
(
ひやうぢやうしよ
)
へ
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ると、
226
生
(
うま
)
れてから
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
いやうな
美
(
うつく
)
しい
毛氈
(
まうせん
)
を
布
(
し
)
き、
227
真白
(
まつしろ
)
な
頭
(
あたま
)
をしたブルケーとかブルカーとか
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
がやつて
来
(
き
)
やがつて、
228
挨拶
(
あいさつ
)
をしやがる。
229
後
(
あと
)
から
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ると、
230
此奴
(
こいつ
)
が
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
231
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
の
政権
(
せいけん
)
を
握
(
にぎ
)
つてる
白頭翁
(
はくとうをう
)
だと
分
(
わか
)
つたので……
何
(
なん
)
だ
老中
(
らうぢう
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
はこんなものかい……と
稍
(
やや
)
軽悔
(
けいぶ
)
の
念
(
ねん
)
が
咄嗟
(
とつさ
)
に
湧
(
わ
)
いて
来
(
き
)
た。
232
そこへ
横波
(
よこなみ
)
が
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
るやつて
来
(
き
)
て、
233
米搗
(
こめつき
)
バツタの
様
(
やう
)
にペコペコ
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げ……
皆
(
みな
)
さま
遠方
(
ゑんぱう
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
います。
234
先刻
(
せんこく
)
はエライかけ
違
(
ちが
)
ひで
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました……と
挨拶
(
あいさつ
)
さらすものだから、
235
一国
(
いつこく
)
の
大老
(
たいらう
)
や
老中
(
らうぢう
)
が
頼
(
たの
)
むからと
思
(
おも
)
ひ、
236
ヤツと
虫
(
むし
)
を
殺
(
ころ
)
して
背水会
(
はいすいくわい
)
を
組織
(
そしき
)
する
事
(
こと
)
になつたのだ。
237
何
(
なん
)
と
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
だらう』
238
藤
(
とう
)
『それ
丈
(
だけ
)
上
(
うへ
)
の
奴
(
やつ
)
から
背水会
(
はいすいくわい
)
を
力
(
ちから
)
にしてる
以上
(
いじやう
)
は、
239
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
しても
余程
(
よほど
)
便宜
(
べんぎ
)
とか
特典
(
とくてん
)
とか
与
(
あた
)
へて
呉
(
く
)
れ
相
(
さう
)
なものだのに、
240
博奕
(
ばくち
)
を
打
(
う
)
てば
矢張
(
やはり
)
人並
(
ひとなみ
)
に
牢獄
(
らうごく
)
へブチ
込
(
こ
)
みやがるなり、
241
喧嘩
(
けんくわ
)
して
人
(
ひと
)
を
斬
(
き
)
れば、
242
刑法
(
けいはふ
)
だとか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて
刑場
(
けいぢやう
)
へやられるなり、
243
自分
(
じぶん
)
の
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
時
(
とき
)
は
背水会
(
はいすいくわい
)
背水会
(
はいすいくわい
)
と
云
(
い
)
つて、
244
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
扱
(
こ
)
き
使
(
つか
)
はれ、
245
本当
(
ほんたう
)
に
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
の
機械
(
きかい
)
に
使
(
つか
)
はれてる
様
(
やう
)
なものぢやないか。
246
今度
(
こんど
)
の
親分
(
おやぶん
)
だつて、
247
背水会
(
はいすいくわい
)
の
大頭
(
おほあたま
)
たる
以上
(
いじやう
)
は、
248
チツとは
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
さうなものだのに、
249
牢獄
(
らうごく
)
へブチ
込
(
こ
)
みやがつて
馬鹿
(
ばか
)
にしてる。
250
こんな
事
(
こと
)
ならモウ
背水会
(
はいすいくわい
)
を
叩
(
たた
)
き
潰
(
つぶ
)
し、
251
昔
(
むかし
)
の
儘
(
まま
)
の
侠客
(
けふかく
)
でやつて
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
252
本当
(
ほんたう
)
に
詰
(
つま
)
らねえからなア』
253
源
(
げん
)
『さうだ、
254
俺
(
おれ
)
も
同感
(
どうかん
)
だ。
255
なア
平州
(
へいしう
)
、
256
三州
(
さんしう
)
、
257
泉州
(
せんしう
)
、
258
相州
(
さうしう
)
、
259
杢州
(
もくしう
)
も
賛成
(
さんせい
)
だらう』
260
『
尤
(
もつと
)
も
尤
(
もつと
)
も、
261
賛成
(
さんせい
)
262
々々
(
さんせい
)
』
263
と
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
迎
(
むか
)
へた。
264
平
(
へい
)
『ウエー、
265
大分
(
だいぶ
)
に
酔
(
よひ
)
も
廻
(
まは
)
つたが、
266
最早
(
もう
)
子
(
ね
)
の
刻
(
こく
)
だ。
267
親分
(
おやぶん
)
がいよいよ
帰
(
かへ
)
らねえとすると、
268
全体
(
ぜんたい
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れて、
269
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
と
出
(
で
)
かけようぢやないか。
270
そして
序
(
ついで
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
詐
(
いつは
)
りやがつた
春乃姫
(
はるのひめ
)
を
血祭
(
ちまつり
)
にして
来
(
こ
)
うぢやないか。
271
それ
位
(
ぐらゐ
)
な
勇気
(
ゆうき
)
が
無
(
な
)
くては
侠客
(
けふかく
)
と
云
(
い
)
はれないワ』
272
と
荐
(
しき
)
りにメートルを
上
(
あ
)
げて
居
(
ゐ
)
る。
273
源
(
げん
)
『さう
急
(
いそ
)
ぐには
及
(
およ
)
ばぬぢやないか。
274
半日
(
はんにち
)
や
一
(
いち
)
日
(
にち
)
遅
(
おく
)
れたつて、
275
何
(
ど
)
う
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
があるか
知
(
し
)
れないワ。
276
斯
(
か
)
う
何時
(
なんどき
)
でも、
277
出動
(
しゆつどう
)
準備
(
じゆんび
)
が
出来
(
でき
)
てるのだから、
278
勢揃
(
せいぞろ
)
ひの
上
(
うへ
)
は
満
(
まん
)
を
持
(
ぢ
)
して
考
(
かんが
)
へねばなるまいぞ。
279
一旦
(
いつたん
)
弦
(
つる
)
を
離
(
はな
)
れた
矢
(
や
)
は
再
(
ふたた
)
び
帰
(
かへ
)
らないからの。
280
猪突
(
ちよとつ
)
主義
(
しゆぎ
)
も
結構
(
けつこう
)
だが、
281
却
(
かへつ
)
て
親分
(
おやぶん
)
に
迷惑
(
めいわく
)
を
及
(
およ
)
ぼす
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
があつては、
282
乾児
(
こぶん
)
としての
道
(
みち
)
が
立
(
た
)
たないからのう』
283
平
(
へい
)
『
卑怯
(
ひけふ
)
なことを
云
(
い
)
ふない。
284
最早
(
もはや
)
戦闘
(
せんとう
)
準備
(
じゆんび
)
が
整
(
ととの
)
うた
上
(
うへ
)
は
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐられない。
285
士気
(
しき
)
を
沮喪
(
そさう
)
する
虞
(
おそれ
)
がある。
286
サア
之
(
これ
)
から
鏡
(
かがみ
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
の
元気
(
げんき
)
をつけ、
287
暴虎
(
ばうこ
)
馮河
(
ひようが
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
出陣
(
しゆつぢん
)
することにしようかい』
288
源州
(
げんしう
)
も
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
289
平州
(
へいしう
)
の
舌剣
(
ぜつけん
)
に
切
(
きり
)
まくられ、
290
不承
(
ふしよう
)
不承
(
ぶしょう
)
に
賛成
(
さんせい
)
をしたので、
291
愈
(
いよいよ
)
出陣
(
しゆつぢん
)
の
準備
(
じゆんび
)
として
四斗樽
(
しとだる
)
の
詰
(
つめ
)
を
抜
(
ぬ
)
き、
292
乾児
(
こぶん
)
は
各
(
おのおの
)
杓
(
しやく
)
に
掬
(
すく
)
うては
呑
(
の
)
み
掬
(
すく
)
うては
呑
(
の
)
み、
293
部屋
(
へや
)
の
中
(
なか
)
は
山岳
(
さんがく
)
も
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばす
底
(
てい
)
の
活気
(
くわつき
)
が
漲
(
みなぎ
)
つて
来
(
き
)
た。
294
其所
(
そこ
)
へ
表戸
(
おもてど
)
を
叩
(
たた
)
く
者
(
もの
)
がある。
295
岩公
(
いはこう
)
は
戸
(
と
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
神妙
(
しんめう
)
に
番
(
ばん
)
をしてゐたが、
296
足音
(
あしおと
)
や
戸
(
と
)
の
叩
(
たたき
)
方
(
かた
)
に
仍
(
よ
)
つて
大親分
(
おほおやぶん
)
の
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
り、
297
錠
(
ぢやう
)
をはづして、
298
表戸
(
おもてど
)
をガラリと
引開
(
ひきあ
)
け、
299
岩
(
いは
)
『ヤ、
300
親分
(
おやぶん
)
、
301
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たか、
302
待
(
まち
)
兼
(
か
)
ねたよ』
303
と
小声
(
こごゑ
)
で
云
(
い
)
ふ。
304
愛州
(
あいしう
)
は、
305
愛州
『ヤ、
306
失礼
(
しつれい
)
しました。
307
漸
(
やうや
)
くの
事
(
こと
)
で、
308
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
の
計
(
はか
)
らひで
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
309
随分
(
ずいぶん
)
奥
(
おく
)
は
賑
(
にぎは
)
しい
様
(
やう
)
ですな』
310
岩
(
いは
)
『
実
(
じつ
)
の
所
(
とこ
)
は、
311
親分
(
おやぶん
)
が
今日
(
けふ
)
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
に
帰
(
かへ
)
らなかつたら、
312
乾児
(
こぶん
)
一同
(
いちどう
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ、
313
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
をやると
云
(
い
)
ふので
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
をしてるのです。
314
マア
危機
(
きき
)
一発
(
いつぱつ
)
の
所
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
頂
(
いただ
)
き
互
(
たがひ
)
に
結構
(
けつこう
)
です』
315
と
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
らズツト
奥
(
おく
)
へ
入
(
い
)
り、
316
岩
(
いは
)
『オイ
兄貴
(
あにき
)
連
(
れん
)
、
317
喜
(
よろこ
)
び
玉
(
たま
)
へ。
318
親分
(
おやぶん
)
が
無事
(
ぶじ
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
られたぞ』
319
源州
(
げんしう
)
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
は、
320
『ナニ、
321
親分
(
おやぶん
)
がお
帰
(
かへ
)
りと
云
(
い
)
ふのか、
322
ソラ
有難
(
ありがた
)
い。
323
門出
(
かどで
)
の
酒
(
さけ
)
が
歓迎
(
くわんげい
)
の
酒
(
さけ
)
となつたのか、
324
何
(
なん
)
とマア
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
たものだなア。
325
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
326
と
嬉
(
うれ
)
しさの
余
(
あま
)
り、
327
常
(
つね
)
には
神仏
(
しんぶつ
)
に
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
さなんだ
侠客
(
けふかく
)
連
(
れん
)
も
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
合掌
(
がつしやう
)
した。
328
少時
(
しばらく
)
すると
愛州
(
あいしう
)
の
館
(
やかた
)
は
山岳
(
さんがく
)
も
崩
(
くづ
)
るる
許
(
ばか
)
り
329
『
万歳
(
ばんざい
)
』の
声
(
こゑ
)
が
雷
(
らい
)
の
如
(
ごと
)
くに
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
つた。
330
(
大正一三・一・二三
旧一二・一二・一八
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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