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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
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第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
01 大評定
〔1746〕
02 老断
〔1747〕
03 喬育
〔1748〕
04 国の光
〔1749〕
05 性明
〔1750〕
06 背水会
〔1751〕
第2篇 愛国の至情
07 聖子
〔1752〕
08 春乃愛
〔1753〕
09 迎酒
〔1754〕
10 宣両
〔1755〕
11 気転使
〔1756〕
12 悪原眠衆
〔1757〕
第3篇 神柱国礎
13 国別
〔1758〕
14 暗枕
〔1759〕
15 四天王
〔1760〕
16 波動
〔1761〕
第4篇 新政復興
17 琴玉
〔1762〕
18 老狽
〔1763〕
19 老水
〔1764〕
20 声援
〔1765〕
21 貴遇
〔1766〕
22 有終
〔1767〕
余白歌
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第一七章
琴玉
(
ことたま
)
〔一七六二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第4篇 新政復興
よみ(新仮名遣い):
しんせいふっこう
章:
第17章 琴玉
よみ(新仮名遣い):
ことたま
通し章番号:
1762
口述日:
1924(大正13)年01月24日(旧12月19日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国愛別の祖国、ヒルの国(=インカ国=日の神の子孫の国)もまた、珍の国と同様、常世国より来た悪思想により人心動揺し、社会は不穏な形勢となっていた。
折りしも国司・楓別命の長子・国愛別が逐電したというので、長老秋山別・モリスは国内をくまなく捜索したが行方を得られなかった(実は珍の国で侠客として活躍していたことは、これまでの物語に述べられている)。
そこで、やむなく妹の清香姫を世継として立てていた。
清香姫は、兄がこの国家の危機を立て替えなおそうと、まずは世情の調査の為に城を抜け出したことを知っていた。城に居ては、昔かたぎの両親や長老たちが、新しい考え方をさえぎるばかりであったからである。
清香姫の意見も常に入れられず、国家の刷新を神明に祈って、ただ身はやせ衰えるばかりであった。
ところが、秋山別、モリスの両老は姫の様子を見て、恋の病と勘違いし、婿選びの準備をはじめてしまう。これに愛想をつかした清香姫はついに、兄と同じように城を出て国の改革に身を投じようと決心するに至る。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-11-20 15:29:34
OBC :
rm6917
愛善世界社版:
239頁
八幡書店版:
第12輯 360頁
修補版:
校定版:
251頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
蔭
(
かげ
)
もなき、
002
名
(
な
)
さへ
目出
(
めで
)
たきヒルの
国
(
くに
)
の
高倉山
(
たかくらやま
)
の
本城
(
ほんじやう
)
は
003
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
に
都
(
みやこ
)
の
中央
(
ちうあう
)
の
下津
(
したつ
)
岩根
(
いはね
)
に
厳然
(
げんぜん
)
と
立
(
たち
)
並
(
なら
)
び、
004
三五
(
あななひ
)
の
貴
(
うず
)
の
教
(
をしへ
)
と
共
(
とも
)
に
国家
(
こくか
)
は
益々
(
ますます
)
隆昌
(
りうしやう
)
に
赴
(
おもむ
)
き、
005
日暮河
(
ひぐらしがは
)
の
清流
(
せいりう
)
は
清
(
きよ
)
く
都
(
みやこ
)
の
中心
(
ちうしん
)
を
流
(
なが
)
れて、
006
交通
(
かうつう
)
運輸
(
うんゆ
)
の
便宜
(
べんぎ
)
よく、
007
げに
地上
(
ちじやう
)
の
天国
(
てんごく
)
と
称
(
たた
)
へらるるに
至
(
いた
)
つた。
008
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
、
009
清子姫
(
きよこひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
の
間
(
あひだ
)
に
国愛別
(
くにちかわけ
)
、
010
清香姫
(
きよかひめ
)
の
一男
(
いちなん
)
一女
(
いちぢよ
)
があつた。
011
祖先
(
そせん
)
の
清彦
(
きよひこ
)
が
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
神徳
(
しんとく
)
を
受
(
う
)
けて、
012
茲
(
ここ
)
にインカ
国
(
こく
)
なるものを
樹
(
た
)
て(
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
の
子孫
(
しそん
)
の
意
(
い
)
)
013
衆生
(
しゆじやう
)
崇敬
(
すうけい
)
の
的
(
まと
)
となつてゐた。
014
衆生
(
しゆじやう
)
は
楓別
(
かえでわけの
)
命
(
みこと
)
を
国司
(
こくし
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ、
015
大師
(
だいし
)
と
崇
(
あが
)
め、
016
親
(
おや
)
と
親
(
した
)
しみ、
017
上下
(
しやうか
)
一致
(
いつち
)
余
(
あま
)
り
煩
(
わづら
)
はしき
法規
(
はふき
)
もなく、
018
極
(
きは
)
めて
平穏
(
へいおん
)
無事
(
ぶじ
)
に
栄
(
さか
)
えてゐた。
019
然
(
しか
)
るに
常世国
(
とこよのくに
)
より
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
の
発達
(
はつたつ
)
につれて、
020
種々
(
しゆじゆ
)
の
悪思想
(
あくしさう
)
往来
(
わうらい
)
し、
021
比類
(
ひるゐ
)
なき
天国
(
てんごく
)
の
瑞祥
(
ずゐしやう
)
を
現
(
あら
)
はしたる
此
(
この
)
神国
(
しんこく
)
も、
022
今
(
いま
)
は
漸
(
やうや
)
く
人心
(
じんしん
)
動揺
(
どうえう
)
し、
023
個人
(
こじん
)
主義
(
しゆぎ
)
の
教
(
をしへ
)
発達
(
はつたつ
)
して、
024
遊惰
(
いうだ
)
の
者
(
もの
)
多
(
おほ
)
く
現
(
あら
)
はれ、
025
不良
(
ふりやう
)
老年
(
らうねん
)
、
026
不良
(
ふりやう
)
中年
(
ちうねん
)
少年
(
せうねん
)
は
上下
(
しやうか
)
に
充
(
み
)
ち、
027
義
(
ぎ
)
を
忘
(
わす
)
れ
利
(
り
)
に
走
(
はし
)
り、
028
恰
(
あたか
)
も
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
状態
(
じやうたい
)
となり、
029
国司
(
こくし
)
を
軽
(
かる
)
んじ、
030
役人
(
やくにん
)
を
卑
(
いや
)
しめ、
031
民心
(
みんしん
)
悪化
(
あくくわ
)
して
不安
(
ふあん
)
の
空気
(
くうき
)
は
国内
(
こくない
)
にみちて
来
(
き
)
た。
032
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
、
033
清子姫
(
きよこひめ
)
は
朝夕
(
てうせき
)
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
り、
034
国家
(
こくか
)
の
隆昌
(
りうしやう
)
と
衆生
(
しゆじやう
)
の
安寧
(
あんねい
)
を
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
国魂
(
くにたま
)
の
宮
(
みや
)
に
祈願
(
きぐわん
)
しつつあつた。
035
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
世子
(
せいし
)
たるべき
国愛別
(
くにちかわけの
)
命
(
みこと
)
は
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
036
行衛
(
ゆくへ
)
不明
(
ふめい
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
037
楓別
(
かへでわけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
038
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
039
モリスの
両老
(
りやうらう
)
は
額
(
ひたひ
)
に
青筋
(
あをすぢ
)
をたて、
040
部下
(
ぶか
)
の
役人
(
やくにん
)
を
督
(
とく
)
して
国内
(
こくない
)
隈
(
くま
)
なく
捜索
(
そうさく
)
すれ
共
(
ども
)
041
何
(
なん
)
の
手掛
(
てがか
)
りもなかつた。
042
茲
(
ここ
)
に
於
(
おい
)
てか
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
043
大会議
(
だいくわいぎ
)
を
開
(
ひら
)
いた
結果
(
けつくわ
)
、
044
妹
(
いもうと
)
の
清香姫
(
きよかひめ
)
をしてヒルの
国
(
くに
)
の
世子
(
せいし
)
とする
事
(
こと
)
となつた。
045
清香姫
(
きよかひめ
)
も
兄
(
あに
)
の
命
(
みこと
)
と
同様
(
どうやう
)
、
046
時勢
(
じせい
)
の
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
にブル
階級
(
かいきふ
)
に
非
(
ひ
)
なるを
知
(
し
)
り、
047
如何
(
いか
)
にもして
吾
(
わが
)
国家
(
こくか
)
を
救
(
すく
)
はむと
肝胆
(
かんたん
)
を
砕
(
くだ
)
きつつあつた。
048
されども
昔気質
(
むかしかたぎ
)
の
両親
(
りやうしん
)
を
始
(
はじ
)
め、
049
時勢
(
じせい
)
に
眼
(
まなこ
)
暗
(
くら
)
き
老臣
(
らうしん
)
等
(
ら
)
は
一々
(
いちいち
)
清香姫
(
きよかひめ
)
の
意見
(
いけん
)
に
反対
(
はんたい
)
し、
050
いつも
用
(
もち
)
ひられなかつた。
051
清香姫
(
きよかひめ
)
は
国家
(
こくか
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
思
(
おも
)
ひ
泛
(
うか
)
べて
夜
(
よ
)
もロクに
眼
(
ねむ
)
られず、
052
神明
(
しんめい
)
に
祈
(
いの
)
つて、
053
国家
(
こくか
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
妖雲
(
えううん
)
を
一掃
(
いつさう
)
し、
054
新
(
あたら
)
しき
天地
(
てんち
)
を
開
(
ひら
)
かむと、
055
それのみに
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
いて、
056
身
(
み
)
は
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
痩
(
やせ
)
衰
(
おとろ
)
ふる
許
(
ばか
)
りであつた。
057
モリス、
058
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
老臣
(
らうしん
)
は
城内
(
じやうない
)
の
評議所
(
ひやうぎしよ
)
に
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて、
059
心配気
(
しんぱいげ
)
に
何事
(
なにごと
)
か
囁
(
ささや
)
き
合
(
あ
)
つてゐる。
060
秋山
(
あきやま
)
『モリス
殿
(
どの
)
、
061
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
如
(
ごと
)
き
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
、
062
御
(
おん
)
身
(
み
)
は
何
(
ど
)
う
思
(
おも
)
はるるかな』
063
モリス『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
る、
064
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
065
気
(
き
)
の
病
(
やまひ
)
ではあるまいかと
御
(
お
)
案
(
あん
)
じ
申
(
まを
)
してゐるのだ。
066
貴殿
(
きでん
)
の
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へもヤハリ
気病
(
きやまひ
)
と
思
(
おも
)
はれるだらうな』
067
秋山
(
あきやま
)
『いーかにも、
068
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
らう。
069
今
(
いま
)
から
思
(
おも
)
ひ
出
(
いだ
)
せば、
070
拙者
(
せつしや
)
も
貴殿
(
きでん
)
も、
071
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
様
(
さま
)
、
072
エリナ
様
(
さま
)
について
恋
(
こひ
)
におち、
073
終
(
つひ
)
にはシーズン
河
(
がは
)
の
難
(
なん
)
に
遭
(
あ
)
つたと
云
(
い
)
ふ
歴史
(
れきし
)
も
厶
(
ござ
)
れば、
074
まして
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
、
075
恋病
(
こひやまひ
)
を
患
(
わづら
)
ひ
給
(
たま
)
ふは
当然
(
たうぜん
)
で
厶
(
ござ
)
らう。
076
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
適当
(
てきたう
)
な
御
(
ご
)
養子
(
やうし
)
を
迎
(
むか
)
へて
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めねばならうまい。
077
いつも
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が、
078
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
し、
079
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
爺
(
ぢい
)
だ、
080
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
爺
(
ぢい
)
だと
仰有
(
おつしや
)
るが、
081
今
(
いま
)
考
(
かんが
)
へてみれば、
082
早
(
はや
)
く
妾
(
わらは
)
に
夫
(
をつと
)
を
有
(
も
)
たせ、
083
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
奴
(
やつ
)
だ……との
謎
(
なぞ
)
であつたかも
知
(
し
)
れぬ、
084
恋
(
こひ
)
に
苦労
(
くらう
)
した
吾々
(
われわれ
)
に
似
(
に
)
ず
実
(
じつ
)
に
迂闊
(
うくわつ
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
つたワイ』
085
と
両人
(
りやうにん
)
は
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく、
086
そんな
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
を
廻
(
まは
)
して
了
(
しま
)
つたのである。
087
秋山
(
あきやま
)
『それにしても、
088
適当
(
てきたう
)
な
御
(
ご
)
養子
(
やうし
)
を
選
(
えら
)
まねばなるまいが、
089
露骨
(
ろこつ
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
へ
伺
(
うかがつ
)
てみたら
何
(
ど
)
うだらうかな』
090
モリス『マサカ、
091
貴女
(
あなた
)
の
夫
(
をつと
)
は
誰
(
たれ
)
に
致
(
いた
)
しませうか……などと、
092
余
(
あま
)
り
失礼
(
しつれい
)
で、
093
いふ
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
094
困
(
こま
)
つたぢやないか』
095
秋山
(
あきやま
)
『しかし、
096
候補者
(
こうほしや
)
を
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
物色
(
ぶつしよく
)
して、
097
写真
(
しやしん
)
でも
撮
(
と
)
り、
098
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
居間
(
ゐま
)
にソツト
散
(
ち
)
らしておき、
099
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
がお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
したら、
100
ソツト
机
(
つくゑ
)
の
引出
(
ひきだし
)
へ
収
(
をさ
)
めておかれるだらうし、
101
気
(
き
)
のくはぬ
写真
(
しやしん
)
は、
102
あの
御
(
ご
)
気象
(
きしやう
)
だから、
103
屹度
(
きつと
)
引裂
(
ひきさ
)
くか
墨
(
すみ
)
をぬらつしやるに
違
(
ちが
)
ひない。
104
そして
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
心
(
こころ
)
を
瀬踏
(
せぶみ
)
した
上
(
うへ
)
、
105
遠廻
(
とほまは
)
しにかけて
探
(
さぐ
)
つてみようでないか、
106
之
(
これ
)
が
老臣
(
らうしん
)
たる
者
(
もの
)
の
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
御用
(
ごよう
)
だらうと
思
(
おも
)
ふ』
107
モリス『
成程
(
なるほど
)
、
108
それでは
拙者
(
せつしや
)
が、
109
部下
(
ぶか
)
の
相当
(
さうたう
)
な
家庭
(
かてい
)
に
育
(
そだ
)
つた
清家
(
せいか
)
連
(
れん
)
の
倅
(
せがれ
)
の
写真
(
しやしん
)
を
集
(
あつ
)
めることに
致
(
いた
)
さう。
110
てもさても
善
(
い
)
い
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
がついたものだ。
111
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
112
と
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち、
113
両老
(
りやうらう
)
は
日
(
ひ
)
も
漸
(
やうや
)
く
下
(
さが
)
つたので
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
りゆく。
114
話
(
はなし
)
替
(
かは
)
つて
清香姫
(
きよかひめ
)
は
城内
(
じやうない
)
の
庭園
(
ていえん
)
を
侍女
(
じぢよ
)
と
共
(
とも
)
に
逍遥
(
せうえう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
115
ダリヤの
花
(
はな
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つちぎつて
手
(
て
)
に
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
116
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
へと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
117
見
(
み
)
れば
机
(
つくゑ
)
の
上
(
うへ
)
に、
118
なまめかしいハイカラ
男
(
をとこ
)
の
写真
(
しやしん
)
が
四五
(
しご
)
枚
(
まい
)
ズラリと
並
(
なら
)
んでゐる。
119
清香姫
(
きよかひめ
)
は
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより
侍女
(
じぢよ
)
を
遠
(
とほ
)
ざけ、
120
襖
(
ふすま
)
を
密閉
(
みつぺい
)
してよくよく
見
(
み
)
れば、
121
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
派
(
は
)
の
清家
(
せいか
)
の
悴
(
せがれ
)
の
小照
(
せうせう
)
であつた。
122
清香姫
(
きよかひめ
)
は
一々
(
いちいち
)
其
(
その
)
写真
(
しやしん
)
を
点検
(
てんけん
)
し
123
写真
(
しやしん
)
の
上
(
うへ
)
から
墨
(
すみ
)
黒々
(
くろぐろ
)
と
一首
(
いつしゆ
)
の
歌
(
うた
)
を
書添
(
かきそ
)
へておいた。
124
『
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
見
(
み
)
れば
見
(
み
)
る
程
(
ほど
)
厭
(
いや
)
らしき
125
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
の
亡者
(
まうじや
)
なるらむ』
126
又
(
また
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
写真
(
しやしん
)
に、
127
『さいこ
槌
(
づち
)
目鼻
(
めはな
)
をつけたやうな
面
(
つら
)
128
今
(
いま
)
打
(
うち
)
たたき
破
(
やぶ
)
り
捨
(
す
)
てたし』
129
又
(
また
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
写真
(
しやしん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
130
『
折角
(
せつかく
)
の
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
の
姿
(
すがた
)
に
生
(
うま
)
れ
来
(
き
)
て
131
女
(
をんな
)
に
似
(
に
)
たるあさましさかな』
132
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つの
写真
(
しやしん
)
に、
133
『どれ
見
(
み
)
ても
誠
(
まこと
)
の
魂
(
たま
)
は
一
(
ひと
)
つだに
134
なしと
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
しくなりぬ』
135
最後
(
さいご
)
の
写真
(
しやしん
)
に、
136
『チト
許
(
ばか
)
り
男
(
をとこ
)
らしくは
思
(
おも
)
へども
137
わが
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
となる
魂
(
たま
)
でなし』
138
と
楽書
(
らくがき
)
をして
状袋
(
じやうぶくろ
)
に
入
(
い
)
れ、
139
「
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
140
モリス
両老殿
(
りやうらうどの
)
」と
表面
(
へうめん
)
に
記
(
しる
)
し、
141
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
侍女
(
じぢよ
)
を
招
(
よ
)
んだ。
142
侍女
(
じぢよ
)
の
春子
(
はるこ
)
は
襖
(
ふすま
)
を
静
(
しづ
)
かに
押
(
おし
)
開
(
あ
)
け、
143
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
144
お
招
(
まね
)
きになりましたのは
何
(
なに
)
か
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
りますか』
145
清香
(
きよか
)
『
春
(
はる
)
、
146
お
前
(
まへ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
147
之
(
これ
)
を
持
(
も
)
つて
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
148
モリスの
所
(
ところ
)
へ
届
(
とど
)
けて
下
(
くだ
)
さい。
149
そして
返事
(
へんじ
)
を
聞
(
き
)
くに
及
(
およ
)
ばないから、
150
渡
(
わた
)
してさへおけばトツトと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るのだよ』
151
春子
(
はるこ
)
は「ハイ、
152
畏
(
かしこ
)
まりました」と
足早
(
あしばや
)
に
立
(
た
)
つて
出
(
い
)
でてゆく。
153
後
(
あと
)
に
清香姫
(
きよかひめ
)
は
一間
(
ひとま
)
を
密閉
(
みつぺい
)
し、
154
二絃琴
(
にげんきん
)
を
取出
(
とりだ
)
して
心
(
こころ
)
静
(
しづ
)
かに
述懐
(
じゆつくわい
)
を
歌
(
うた
)
つてゐる。
155
『
妾
(
わらは
)
は
夜
(
よる
)
なきヒルの
国
(
くに
)
156
高倉城
(
たかくらじやう
)
の
国司
(
こくし
)
の
娘
(
むすめ
)
157
清香
(
きよか
)
の
姫
(
ひめ
)
と
生
(
うま
)
れ
来
(
き
)
て
158
兄
(
あに
)
の
命
(
みこと
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
159
月
(
つき
)
よ
花
(
はな
)
よと
育
(
はぐ
)
くまれ
160
何
(
なん
)
の
不自由
(
ふじゆう
)
も
夏
(
なつ
)
の
宵
(
よひ
)
161
涼
(
すず
)
しき
浴衣
(
ゆかた
)
を
身
(
み
)
にまとひ
162
時雨
(
しぐれ
)
の
川
(
かは
)
に
船遊
(
ふなあそ
)
び
163
何
(
なに
)
不自由
(
ふじゆう
)
なき
上流
(
じやうりう
)
の
164
社会
(
しやくわい
)
に
育
(
そだ
)
ちし
身
(
み
)
の
因果
(
いんぐわ
)
165
世
(
よ
)
の
有様
(
ありさま
)
も
明
(
あきら
)
かに
166
悟
(
さと
)
り
能
(
あた
)
はぬ
目無鳥
(
めなしどり
)
167
ヒルの
御国
(
みくに
)
も
末
(
すゑ
)
遂
(
つひ
)
に
168
夜
(
よる
)
の
暗路
(
やみぢ
)
とならむかと
169
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
し
足乳根
(
たらちね
)
の
170
父
(
ちち
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
母
(
はは
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
171
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
に
兄妹
(
おとどい
)
は
172
互
(
たがひ
)
に
心
(
こころ
)
を
照
(
てら
)
し
合
(
あ
)
ひ
173
世
(
よ
)
の
潮流
(
てうりう
)
に
従
(
したが
)
ひて
174
危
(
あやふ
)
き
国家
(
こくか
)
を
救
(
すく
)
ふべく
175
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
りて
待
(
ま
)
つ
内
(
うち
)
に
176
嬉
(
うれ
)
しや
時
(
とき
)
の
廻
(
めぐ
)
り
来
(
き
)
て
177
兄
(
あに
)
の
命
(
みこと
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
178
これの
館
(
やかた
)
を
脱
(
ぬ
)
け
給
(
たま
)
ひ
179
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
霜
(
しも
)
をふみ
180
つぶさに
世情
(
せじやう
)
を
甞
(
な
)
め
給
(
たま
)
ふ
181
吾
(
われ
)
は
孱弱
(
かよわ
)
き
女子
(
をみなご
)
の
182
兄
(
あに
)
に
代
(
かは
)
りて
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
183
此
(
この
)
神国
(
かみくに
)
を
守
(
まも
)
らむと
184
心
(
こころ
)
を
千々
(
ちぢ
)
に
砕
(
くだ
)
けども
185
昔心
(
むかしごころ
)
の
取
(
と
)
れやらぬ
186
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
との
心意気
(
こころいき
)
187
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
老臣
(
らうしん
)
や
188
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
のモリス
等
(
ら
)
が
189
清家
(
せいか
)
とか
云
(
い
)
ふ
無機物
(
むきぶつ
)
を
190
此上
(
こよ
)
なき
物
(
もの
)
と
珍重
(
ちんちよう
)
し
191
国
(
くに
)
の
政治
(
せいぢ
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
192
日向
(
ひなた
)
に
氷
(
こほり
)
と
衰
(
おとろ
)
へて
193
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしのヒルの
国
(
くに
)
194
埋
(
うづ
)
もりゆくこそ
悲
(
かな
)
しけれ
195
又
(
また
)
何者
(
なにもの
)
の
悪戯
(
あくぎ
)
にや
196
吾
(
わが
)
心根
(
こころね
)
も
白雲
(
しらくも
)
の
197
霊
(
みたま
)
も
暗
(
くら
)
き
仇男
(
あだをとこ
)
198
怪
(
け
)
しき
姿
(
すがた
)
を
写
(
うつ
)
し
出
(
だ
)
し
199
わが
文机
(
ふづくゑ
)
に
並
(
なら
)
べおく
200
醜
(
しこ
)
の
企
(
たくみ
)
の
恐
(
おそ
)
ろしさ
201
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
や
202
モリスの
企
(
たく
)
みし
業
(
わざ
)
ならめ
203
斯
(
か
)
くなる
上
(
うへ
)
は
片時
(
かたとき
)
も
204
これの
館
(
やかた
)
に
住
(
す
)
むを
得
(
え
)
じ
205
又
(
また
)
誘惑
(
いうわく
)
の
魔神
(
まがみ
)
の
手
(
て
)
に
206
捉
(
とら
)
へられては
一大事
(
いちだいじ
)
207
兄
(
あに
)
と
誓
(
ちか
)
ひし
神業
(
かむわざ
)
は
208
いつの
世
(
よ
)
にかは
成
(
な
)
りとげむ
209
今宵
(
こよひ
)
の
暗
(
やみ
)
を
幸
(
さいはひ
)
に
210
用意
(
ようい
)
万端
(
ばんたん
)
ととのへて
211
侍女
(
じぢよ
)
をもつれず
只
(
ただ
)
一女
(
ひとり
)
212
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
かなむ
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
213
山
(
やま
)
は
嶮
(
けは
)
しく
川
(
かは
)
深
(
ふか
)
く
214
嵐
(
あらし
)
は
強
(
つよ
)
く
雨
(
あめ
)
しげく
215
魔神
(
まがみ
)
の
輩
(
やから
)
多
(
おほ
)
くとも
216
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
を
217
我
(
わが
)
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
218
必
(
かなら
)
ず
愛
(
めで
)
させ
給
(
たま
)
ひつつ
219
吾
(
わが
)
兄妹
(
おとどい
)
の
望
(
のぞ
)
みをば
220
必
(
かなら
)
ず
立
(
た
)
てさせ
給
(
たま
)
ふべし
221
今宵
(
こよひ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
此
(
この
)
館
(
やかた
)
222
出
(
い
)
でゆく
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
果敢
(
はか
)
なさよ
223
あゝ
足乳根
(
たらちね
)
の
父上
(
ちちうへ
)
よ
224
母上
(
ははうへ
)
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
にましまして
225
吾
(
わが
)
兄妹
(
おとどい
)
が
神業
(
しんげふ
)
の
226
完成
(
くわんせい
)
するのを
待
(
ま
)
たせませ
227
吾
(
わが
)
ゆく
後
(
あと
)
は
嘸
(
さぞ
)
やさぞ
228
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
の
老臣
(
らうしん
)
が
229
狼狽
(
うろた
)
へ
騒
(
さわ
)
ぐ
事
(
こと
)
だらう
230
其
(
その
)
有様
(
ありさま
)
が
目
(
ま
)
のあたり
231
目
(
め
)
にちらついて
憐
(
あは
)
れさも
232
一入
(
ひとしほ
)
深
(
ふか
)
き
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
233
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれし
234
悲
(
かな
)
しき
思
(
おも
)
ひの
浮
(
うか
)
ぶかな
235
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
236
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
237
清香
(
きよか
)
の
姫
(
ひめ
)
が
宣
(
の
)
り
言
(
ごと
)
を
238
いと
平
(
たひら
)
けく
安
(
やす
)
らけく
239
遂
(
と
)
げさせ
給
(
たま
)
へと
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
240
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
241
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
242
動
(
うご
)
かざらましヒルの
国
(
くに
)
243
地
(
つち
)
揺
(
ゆ
)
り
山
(
やま
)
裂
(
さ
)
け
河
(
かは
)
溢
(
あふ
)
れ
244
海嘯
(
つなみ
)
は
高
(
たか
)
く
襲
(
おそ
)
ふとも
245
下
(
した
)
つ
岩根
(
いはね
)
に
永久
(
とことは
)
に
246
築
(
きづ
)
き
上
(
あ
)
げたる
此
(
この
)
城
(
しろ
)
は
247
千代
(
ちよ
)
に
八千代
(
やちよ
)
に
砕
(
くだ
)
けまじ
248
あゝさり
乍
(
なが
)
らさり
乍
(
なが
)
ら
249
此
(
こ
)
の
衆生
(
しゆじやう
)
をば
如何
(
いか
)
にせむ
250
思想
(
しさう
)
の
洪水
(
こうずい
)
氾濫
(
はんらん
)
し
251
日暮河
(
ひぐらしがは
)
の
堤防
(
ていばう
)
は
252
将
(
まさ
)
に
崩壊
(
ほうくわい
)
せむとする
253
此
(
この
)
惨状
(
さんじやう
)
を
見
(
み
)
乍
(
なが
)
らも
254
尚
(
なほ
)
泰然
(
たいぜん
)
と
控
(
ひか
)
へゐる
255
老臣
(
らうしん
)
たちの
愚
(
おろ
)
かさよ
256
妾
(
わらは
)
兄妹
(
おとどい
)
無
(
な
)
かりせば
257
ヒルの
都
(
みやこ
)
も
衆生
(
しゆじやう
)
も
258
忽
(
たちま
)
ち
修羅
(
しゆら
)
と
畜生
(
ちくしやう
)
の
259
地獄
(
ぢごく
)
の
淵
(
ふち
)
に
陥
(
おちい
)
らむ
260
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
261
神
(
かみ
)
かけ
念
(
ねん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
る』
262
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
歌
(
うた
)
つてゐる。
263
其処
(
そこ
)
へ
襖
(
ふすま
)
の
外
(
そと
)
から
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
264
モリスの
両人
(
りやうにん
)
一度
(
いちど
)
に『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
々々
(
ひめさま
)
』と
呼
(
よ
)
ばはつた。
265
姫
(
ひめ
)
はあわてて
琴
(
こと
)
の
手
(
て
)
をやめ、
266
そ
知
(
し
)
らぬ
顔
(
かほ
)
にて、
267
『
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
は
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
268
モリス
殿
(
どの
)
ではないか、
269
何用
(
なによう
)
か
知
(
し
)
らないが、
270
襖
(
ふすま
)
を
開
(
あ
)
けてお
這入
(
はい
)
りなさい』
271
両人
(
りやうにん
)
は
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に、
2711
渡
(
わた
)
りに
舟
(
ふね
)
と
打
(
うち
)
喜
(
よろこ
)
び、
272
もみ
手
(
て
)
し
乍
(
なが
)
ら、
273
襖
(
ふすま
)
をあけて
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
274
丁寧
(
ていねい
)
に
辞儀
(
じぎ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
275
何事
(
なにごと
)
か
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
さむとしてモヂモヂしてゐる。
276
清香
(
きよか
)
『
最前
(
さいぜん
)
、
277
春子
(
はるこ
)
に
持
(
も
)
たしてやつた
品物
(
しなもの
)
は、
278
お
前
(
まへ
)
279
受取
(
うけと
)
つて
呉
(
く
)
れただらうな』
280
秋山
(
あきやま
)
『ハイ、
281
確
(
たしか
)
に
拝見
(
はいけん
)
致
(
いた
)
しました。
282
それに
就
(
つい
)
て
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
したいので
厶
(
ござ
)
いますが、
283
あの
五
(
ご
)
枚
(
まい
)
の
写真
(
しやしん
)
はヒルの
国
(
くに
)
に
於
(
おい
)
ては、
284
地位
(
ちゐ
)
といひ
門閥
(
もんばつ
)
と
云
(
い
)
ひ、
285
学問
(
がくもん
)
といひ
器量
(
きりやう
)
といひ、
286
最
(
もつと
)
も
選抜
(
せんばつ
)
された、
287
ヒルの
国
(
くに
)
の
五人
(
ごにん
)
男
(
をとこ
)
といはれてゐる
賢明
(
けんめい
)
な
名
(
な
)
を
取
(
と
)
つた
名物
(
めいぶつ
)
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
288
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
も
良
(
い
)
い
年頃
(
としごろ
)
、
289
余
(
あま
)
り
露骨
(
ろこつ
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げるも
如何
(
いかが
)
と
存
(
ぞん
)
じ、
290
モリスと
相談
(
さうだん
)
の
上
(
うへ
)
ソツト
写真
(
しやしん
)
を
集
(
あつ
)
めて
御意
(
ぎよい
)
を
伺
(
うかが
)
つた
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
291
然
(
しか
)
るに
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
無造作
(
むざうさ
)
に、
292
写真
(
しやしん
)
の
表
(
おもて
)
に
墨
(
すみ
)
くろぐろと
歌
(
うた
)
をお
書
(
か
)
きになりましたが、
293
一向
(
いつかう
)
其
(
その
)
意
(
い
)
を
得
(
え
)
ませぬので、
294
どうぞ
御心
(
みこころ
)
の
在
(
あ
)
る
所
(
ところ
)
を
忌憚
(
きたん
)
なく
仰
(
おほ
)
せ
聞
(
き
)
け
下
(
くだ
)
さらば、
295
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が
如何
(
いか
)
様
(
やう
)
とも
取計
(
とりはか
)
らふで
厶
(
ござ
)
りませう』
296
清香姫
(
きよかひめ
)
は
297
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
今晩
(
こんばん
)
は
都合
(
つがふ
)
よく
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
さねばならぬのだから、
298
余
(
あま
)
り
怒
(
おこ
)
らして
警戒
(
けいかい
)
を
厳
(
げん
)
にさせては
却
(
かへつ
)
て
不利益
(
ふりえき
)
と
早
(
はや
)
くも
合点
(
がてん
)
し、
299
ワザと
空呆
(
そらとぼ
)
けて、
300
清香
(
きよか
)
『ホツホヽヽヽ、
301
恥
(
はづか
)
しいワ、
302
どうかゆつくり
考
(
かんが
)
へさして
頂戴
(
ちやうだい
)
、
303
ねえ』
304
秋山
(
あきやま
)
『
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へなさるも
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
いませうが、
305
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
をきめなくては、
306
吾々
(
われわれ
)
老臣
(
らうしん
)
の
役
(
やく
)
が
済
(
す
)
みませぬ。
307
私
(
わたくし
)
が
裏
(
うら
)
に
一号
(
いちがう
)
二号
(
にがう
)
と
番号
(
ばんがう
)
をつけておきましたから、
308
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
口
(
くち
)
から、
309
一寸
(
ちよつと
)
何号
(
なんがう
)
だといふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
310
清香
(
きよか
)
『さうだなア、
311
一号
(
いちがう
)
でもよし、
312
二号
(
にがう
)
でもよし、
313
三号
(
さんがう
)
でも
四号
(
しがう
)
でも
五号
(
ごがう
)
でもよしだ、
314
どうでもよしだ、
315
ホヽヽヽヽ』
316
モ『モシ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
317
そんなアヤフヤの
御
(
ご
)
返辞
(
へんじ
)
をされちや
困
(
こま
)
るぢやありませぬか。
318
何号
(
なんがう
)
なら
何号
(
なんがう
)
とハツキリ
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
319
清香
(
きよか
)
『ホヽヽ、
320
一生
(
いつしやう
)
(
升
(
しよう
)
)の
事
(
こと
)
を
定
(
き
)
めるのに、
321
五号
(
ごがう
)
(
合
(
がふ
)
)では
足
(
た
)
らぬぢやないか、
322
モウ
五合
(
ごがふ
)
許
(
ばか
)
り
集
(
あつ
)
めて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
323
そしたら
返辞
(
へんじ
)
をするからねえ』
324
モ『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
325
之
(
これ
)
でまだ
足
(
た
)
らないと
仰有
(
おつしや
)
るのですか、
326
之
(
これ
)
はモウ
第一流
(
だいいちりう
)
ですよ。
327
後
(
あと
)
はモウ
第二流
(
だいにりう
)
になりますから、
328
迚
(
とて
)
もお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りませぬワ』
329
と、
330
丸
(
まる
)
で
小間物
(
こまもの
)
屋
(
や
)
が
店出
(
みせだ
)
しをしてるやうな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてゐる。
331
清香
(
きよか
)
『とも
角
(
かく
)
、
332
今日
(
けふ
)
は
余
(
あま
)
り
咄嗟
(
とつさ
)
の
事
(
こと
)
で
決
(
き
)
まらないから、
333
明日中
(
あすぢう
)
に、
334
之
(
これ
)
といふのをきめて
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
をする。
335
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
、
336
お
父
(
とう
)
さまお
母
(
かあ
)
さまの
手前
(
てまへ
)
、
337
宜
(
よろ
)
しく
頼
(
たの
)
んだぞや』
338
秋山別
(
あきやまわけ
)
339
モリスの
両人
(
りやうにん
)
は、
340
ヤレ
嬉
(
うれ
)
しや、
341
之
(
これ
)
で
一安心
(
ひとあんしん
)
と
笑顔
(
ゑがほ
)
をつくり
追従
(
つゐしよう
)
タラタラ
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
り
乍
(
なが
)
ら、
342
頭
(
あたま
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
掻
(
か
)
いて、
343
両人
(
りやうにん
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
344
左様
(
さやう
)
ならば、
345
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
をお
待
(
ま
)
ち
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
346
と
言葉
(
ことば
)
を
残
(
のこ
)
してスタスタと
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
去
(
さ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
347
清香姫
(
きよかひめ
)
はニタリと
笑
(
わら
)
ひ、
348
又
(
また
)
もや
琴
(
こと
)
を
取
(
とり
)
よせて
思
(
おも
)
ひの
丈
(
たけ
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めけり。
349
(
大正一三・一・二四
旧一二・一二・一九
伊予 於山口氏邸、
松村真澄
録)
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