霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 性明(せいめい)〔一七五〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第1篇 清風涼雨 よみ(新仮名遣い):せいふうりょうう
章:第5章 性明 よみ(新仮名遣い):せいめい 通し章番号:1750
口述日:1924(大正13)年01月19日(旧12月14日) 口述場所:伊予 道後ホテル 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
国、愛、浅の三人が政治談義に気勢を上げているところへ、話を立ち聞きしていた取締りが入ってきます。
浅公は空とぼけて取締りを帰そうとしますが、この取締りはブルジョア階級に敵意を露にし、逆に三人の政談に乗ってきます。
ここにいたって愛公は自らの素性を明らかにします。自分は実はヒルの国の国司・楓別の倅、国愛別であり、珍の都で出会った国公と一緒に民衆のために活動している者である、と名乗ります。
取締り(松若彦の御家人で幾公)は、愛公・国公と意気投合し、仲間になってしまいます。そして、それぞれ愛公、国公を親分として結党し、都の南北に侠客として覇を利かせようと相談します。
そうしているうちに、外が騒がしくなり、「国司・国依別の倅、国照別(国公)が車夫となって帳場に潜伏」との号外が出てしまいます。夕暮れにまぎれて四人は裏口から姿をくらまします。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ:国公(国照別)、愛公(国愛別) データ凡例: データ最終更新日:2019-09-11 14:58:48 OBC :rm6905
愛善世界社版:79頁 八幡書店版:第12輯 300頁 修補版: 校定版:81頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 (うづ)(みやこ)(まち)はづれ、002深溝町(ふかみぞちやう)俥帳場(くるまちやうば)(くに)003(あい)004(あさ)(さん)(めい)輓子(ひきこ)大気焔(だいきえん)()げてゐる(ところ)へ、005交通(かうつう)取締(とりしまり)青白(あをじろ)(やせ)こけた先生(せんせい)(さん)(にん)(はなし)立聞(たちぎ)きした(うへ)006素知(そし)らぬ(かほ)してツツと這入(はい)つて()た。007そして(いや)らしい()をギヨロつかせてゐる。008(さん)(にん)(いま)(はなし)(この)取締(とりしまり)()かれたのではないかと、009(いささ)胸部(きやうぶ)動揺(どうえう)(かん)じたが、010キチンと行儀(ぎやうぎ)よく(すわ)(なほ)素知(そし)らぬ(かほ)
011(あさ)『ヘー、012旦那(だんな)何用(なによう)(ござ)います。013車体(しやたい)検査(けんさ)(ござ)いますか。014二三(にさん)日前(にちまへ)()役所(やくしよ)()つて(しら)べて(もら)つた(ばか)りの健康(けんかう)車体(しやたい)(ござ)いますから、015滅多(めつた)にお(きやく)さまを泥道(どろみち)転覆(てんぷく)させるやうな気遣(きづか)ひは(ござ)いやせぬ。016どうぞ(はや)(かへ)つて(くだ)さい。017貴方(あなた)(みせ)(なが)くゐられますと、018(なん)だか博奕(ばくち)でもうつてゐて、019(また)叱言(こごと)頂戴(ちやうだい)してるのぢやなからうかと、020(きやく)(こは)がつて()りつきませぬ。021さうすれば、022たアちまち、023吾々(われわれ)(はな)(した)干上(ひあが)つて(しま)ひます。024ドツサリと(あぶら)()られ、025車体(しやたい)修繕(しうぜん)(めい)ぜられ、026おまけに営業(えいげふ)妨害(ばうがい)をせられては、027俥夫(しやふ)だつてやり()れませぬからね』
028取締(とりしまり)『イヤ、029車体(しやたい)検査(けんさ)でも(なん)でもない、030(ぼく)交通(かうつう)取締(とりしまり)だ。031(あま)面白(おもしろ)さうに政治談(せいぢだん)流行(はや)つて()つたので、032(ぼく)(ひと)()きたいと(おも)つて這入(はい)つて()たのだ。033随分(ずいぶん)(えら)気焔(きえん)()げたものだな。034(ぼく)だつて稲田(いなだ)大学(だいがく)堕落生(だらくせい)だから、035(きみ)()(おな)仲間(なかま)だよ。036()安心(あんしん)して胸襟(きようきん)(ひら)いて、037(きみ)抱負(はうふ)()かして()(たま)へ、038アーン』
039(あさ)『ヘン、040(いま)取締(とりしまり)(なん)とかかんとか()つて衆生(しゆじやう)()()ふやうなお世辞(せじ)()ひ、041臓腑(はらわた)(そこ)(まで)(しやべ)らしておいて、042ソツと役頭(やくがしら)上申(じやうしん)し、043()褒美(ほうび)(もら)(こと)(ばか)(かんが)へてゐるのだから、044滅多(めつた)政治談(せいぢだん)などは(はな)せないのだ。045(なに)(ほど)取締(とりしまり)だつて(おれ)(たち)汗膏(あせあぶら)(めし)()つてゐるのだ。046()はば(おれ)(たち)旦那(だんな)さまだから、047(あま)横柄(わうへい)()はないやうにして()れ。048(これ)でもタツタ(いま)普選(ふせん)施行(しかう)になれば天下(てんか)代議士(だいぎし)だからなア』
049取締(とりしまり)『ハヽヽ、050ソロソロ臓腑(はらわた)()()したな。051面白(おもしろ)い、052(ぼく)賛成(さんせい)だ。053(きみ)立候補(りつこうほ)をやつたら、054(ぼく)買収(ばいしう)して()(たま)へ。055(ぼく)一票(いつぺう)権利(けんり)はあるんだからな』
056(あさ)『ヘン、057(きみ)(たち)一票(いつぺう)(なん)になる。058(きみ)(たち)投票(とうへう)して(もら)(ため)(かね)()すのならば、059モチツとらしい人間(にんげん)投票(とうへう)して(もら)ふワ、060ヘン、061()みまへんな』
062取締(とりしまり)大老(たいらう)だつて、063清家(せいか)だつて、064富豪(ふがう)だつて、065(おれ)だつて(きみ)だつて、066矢張(やつぱり)権利(けんり)一票(いつぺう)だ。067買喰(かひぐひ)大将(たいしやう)一票(いつぺう)も、068(おれ)(たち)一票(いつぺう)効能(ききめ)(おな)(こと)だ。069(あま)()くびつて()れない』
070(あさ)『フーン、071そんなものか。072さうすると、073(おれ)(たち)買喰(かひぐひ)大将(たいしやう)普選(ふせん)即行(そくかう)となれば同等(どうとう)だな。074ヨシうまい、075それでは労働者(らうどうしや)味方(みかた)につけ、076(おほ)いにやつて()ようかな、077大政党(だいせいたう)組織(そしき)して党首(たうしゆ)となり、078内閣(ないかく)をとつて衆生(しゆじやう)(ため)(おほ)いに経綸(けいりん)(おこな)(つも)りだ、079イツヒツヒ。080(その)(とき)には(きみ)滅多(めつた)交通(かうつう)取締(とりしまり)(ぐらゐ)はさしておかないよ。081ドツト抜擢(ばつてき)して大目付(おほめつけ)(ぐらゐ)には(にん)じてやるからな』
082取締(とりしまり)『アツハヽヽヽ面白(おもしろ)面白(おもしろ)い…(とき)083(きみ)(くに)さま、084(あい)さまでないか。085()うして(また)こんな(ところ)にこんな商売(しやうばい)をしてゐるのだ。086モウ(かく)しても駄目(だめ)だから、087(なに)もかも()つて(もら)ひたい』
088(くに)(ぼく)(くに)さまでも(なん)でもないよ、089(くろ)さまだよ。090だから下層(かそう)階級(かいきふ)帳場(ちやうば)哥兄(あにい)をして苦労(くらう)をして()るのだ。091(あま)見違(みちが)へて(もら)ふまいかい。092それよりも(はや)四辻(よつつじ)()たないか。093(また)田車(でんしや)児童車(じどうしや)衝突(しようとつ)があつちや、094(たちま)(おん)とか(めん)とかの()頂戴(ちやうだい)して、095おまけに煙多(けむた)(ところ)へブチ()まれねばならぬやうな羽目(はめ)(おちい)るぞ』
096取締(とりしまり)(なん)とマア、097(きみ)(えら)いものだね。098()変相(へんさう)した(もの)だ。099(かく)しても駄目(だめ)だよ。100(しか)(なが)(きみ)行動(かうどう)(ぼく)随分(ずいぶん)()()つたね。101児童車(じどうしや)田車(でんしや)衝突(しようとつ)したつて(なん)だい。102将来(しやうらい)見込(みこみ)のある(きみ)乾児(こぶん)になれば、103今日(けふ)から(この)十手(じつて)(ぼう)()つたつて(うら)むことはない。104あの児童車(じどうしや)には、105いつもブルブル階級(かいきふ)狸町(たぬきまち)芸者(げいしや)()せて、106そり(かへ)つてゐやがるのだから、107一遍(いつぺん)(ぐらゐ)衝突(しようとつ)さしてやつたら(かへつ)通街(つうかい)だ、108アツハヽヽヽ』
109(くに)『これは()しからぬ。110(おまへ)食務(しよくむ)不忠実(ふちうじつ)(やつ)だな』
111取締(とりしまり)『ナニ、112それが(かへつ)忠実(ちうじつ)になるのだよ』
113(あい)『ハヽア、114たうとう白状(はくじやう)しやがつたな。115交通(かうつう)取締(とりしまり)とは表面(うはべ)(いつは)口答鼠輩(ごとごと)だな。116(なん)だか(あや)しい()をしてゐると(おも)つた。117モウ()うなれば仕方(しかた)がない、118()つて()かしてやらう。119(おれ)はヒルの(みやこ)楓別(かへでわけ)(せがれ)国愛別(くにちかわけ)()(をとこ)だ。120愛州(あいしう)名乗(なの)つて民情(みんじやう)視察(しさつ)(ため)此処(ここ)()てゐるのだ。121さうした(ところ)122(この)国州(くにしう)にベツタリコと出会(でつくは)し、123(たがひ)胸襟(きようきん)(ひら)いて、124(おほ)いに天下(てんか)蛮衆(ばんしう)(ため)(つく)さむとしてゐる(ところ)だ。125(きさま)大方(おほかた)松若彦(まつわかひこ)のお(さき)だらうが、126あんな古親爺(ふるおやぢ)何時(いつ)(まで)ついて()つても(すゑ)見込(みこみ)がない。127社会(しやくわい)廃物(はいぶつ)だからな。128それよりも(この)(くに)さまの乾児(こぶん)になつて、129天下(てんか)刻下(こくか)(ため)大活動(だいくわつどう)をする()()いか。130()打明(うちあ)けた以上(いじやう)は、131ロハでは(かへ)さないのだ。132サア()うだ降参(かうさん)するか、133(したが)ふか、134(ふた)つに(ひと)つの返答(へんたふ)だ。135(おれ)(たち)自分(じぶん)素性(すじやう)()かした以上(いじやう)は、136(この)(まま)(まへ)(かへ)(わけ)には()かぬ、137返答(へんたふ)()かして(もら)はふかい』
138取締(とりしまり)『ヤ、139仕方(しかた)がない……ではない、140結構(けつこう)だ。141万事(ばんじ)(きみ)(まか)すから、142()(やう)にして()(たま)へ』
143(くに)(ぼく)(じつ)(ところ)普通(ふつう)人間(にんげん)では()いのだ。144(しか)(なが)本名(ほんみやう)()ふの(だけ)()つて(もら)はう。145何時(いつ)密告(みつこく)されるやら(わか)らないからな。146(しか)(なが)(この)(くに)さまは147(つよ)きを(たす)(よわ)きを(くじ)惑酔会(わくすゐくわい)(ゐん)でもなければ、148猜疑(さいぎ)嫉妬(しつと)()たされた三平(さんぺい)社員(しやゐん)でもないから安心(あんしん)(たま)へ』
149取締(とりしまり)『ヤ、150(わか)つてる。151()()かいでも、152(きみ)風采(ふうさい)()ひ、153言葉(ことば)()ひ、154大抵(たいてい)何処(どこ)(たぬき)(きつね)(ぐらゐ)呑込(のみこ)んでゐる。155名乗(なの)らなけや名乗(なの)らいでも()い。156マア()(かく)(たがひ)胸襟(きようきん)(ひら)いて刻下(こくか)(ため)157相提携(あひていけい)しようだないか』
158(くに)(じつ)(ところ)159刻下(こくか)々々(こくか)(にはとり)のやうに()ふのも結構(けつこう)だが、160(いつそ)人類愛(じんるゐあい)(ため)()つた(はう)時代(じだい)相応(さうおう)だらうよ』
161取締(とりしまり)(じつ)(ところ)(ぼく)は、162松若彦(まつわかひこ)()家人(けにん)幾公(いくこう)()(もの)だが、163何時(いつ)(まで)馬通族(ばつうぞく)提灯持(ちやうちんもち)をしてゐるのも()()かない、164()加減(かげん)(あし)(あら)つて時代(じだい)目覚(めざ)めねばならないと(おも)つてゐた(ところ)だ。165それでは(くに)さま、166如何(いか)なる(たふと)(かた)血統(ちすぢ)()らぬが、167()国州(くにしう)168愛州(あいしう)交際(つきあ)つて(もら)ひたい。169(きみ)誤大老(ごたいらう)になつた(とき)(また)敬語(けいご)使(つか)ふからな、170ワツハヽヽヽ』
171(くに)『ヨシ()()つた。172そんなら幾公(いくこう)173サア握手(あくしゆ)だ』
174(いく)『イクらでも握手(あくしゆ)ならして()れ。175何分(なにぶん)資本(しほん)()らぬのだからな』
176(くに)(ふた)()には資本(しほん)だとか(なん)とか、177そんなケチなこと()ふない。178(ぼく)はモウ資本(しほん)だとか清家(せいか)だとか、179そんな(こゑ)()くと、180(みみ)(いた)くなり(むね)(わる)くなり、181(はら)(なか)擾乱(ぜうらん)勃発(ぼつぱつ)するやうな()がしてならないワ。182(いま)資本家(しほんか)所謂(いはゆる)(あし)四本家(しほんか)だからなア』
183(あい)幾公(いくこう)(おれ)(たち)素性(すじやう)()ぎつける(やう)に、184寒犬(かんけん)(はな)()()した以上(いじやう)俥夫(しやふ)最早(もう)駄目(だめ)だ。185キツト(ほか)(やつ)()ぎつけて()よるに(ちが)ひないから、186()うだ、187(ひと)つ、188()れから侠客(けふかく)にでもなつたら、189将来(しやうらい)計画(けいくわく)(じやう)都合(つがふ)()いかも()れないぞ』
190(くに)『ソラ面白(おもしろ)い。191(しか)(たれ)親分(おやぶん)になるのだ』
192(いく)()親分(おやぶん)(くに)さまに(ねが)はうかな。193(しか)しモ(すこ)(とし)がいつてると(にら)みが()いて()いのだがなア』
194(くに)『そんなら(あさ)野郎(やらう)腰抜(こしぬけ)だから、195例外(れいぐわい)として(おれ)乾児(こぶん)にしてやる。196(きみ)愛州(あいしう)兄弟分(きやうだいぶん)となつては()うだ。197(この)(うづ)(みやこ)(きた)(みなみ)侠客(けふかく)親分(おやぶん)となり、198()()かさうぢやないか』
199(さん)(にん)賛成(さんせい)々々(さんせい)大賛成(だいさんせい)だ』
200(くに)『そんなら直様(すぐさま)此処(ここ)結党式(けつたうしき)……いな分列式(ぶんれつしき)()らうだないか……オイ浅公(あさこう)201横町(よこちやう)のお多福屋(たふくや)()つて、202豆腐(とうふ)(さけ)()つて()い。203湯豆腐(ゆどうふ)一杯(いつぱい)204(やはら)かう四角(しかく)(さかづき)をしよう。205(しか)浅州(あさしう)206(たれ)にも()つちやア()けないよ』
207(あさ)『ヨシ合点(がつてん)だ』
208徳利(とくり)をぶら()げ、209裏口(うらぐち)からチヨコチヨコ(ばし)りに()でて()く。
210 (おもて)大道(だいだう)にはどつかに馬鹿旦(ばかだん)事件(じけん)(おこ)つたと()ふので、211喧平隊(けんぺいたい)四五十(しごじふ)(にん)(れつ)(ただ)して(はし)つて()(くつ)(おと)が、212(さん)(にん)(みみ)異様(いやう)(ひび)く。
213 (しばら)くすると一升(いつしよう)徳利(どつくり)二本(にほん)ぶら()げて浅公(あさこう)(かへ)つて()た。
214(あさ)『ハアハア……、215エライ エライ、216(すずめ)()()つてゐると(おも)ふて、217一生(いつしやう)懸命(けんめい)(はし)つて()た。218サア一杯(いつぱい)やらう。219二升(にしよう)なれば、220四五(しご)二十(にじふ)だ。221五合(ごがふ)(あて)になるから一寸(ちよつと)()へるだらう。222(はや)くから(のど)(むし)()がギウギウ ゴウゴウと催促(さいそく)してゐやがらア、223ヘツヘツヘ』
224(いく)『オイ、225豆腐(とうふ)()うしたのだ』
226(あさ)酒呑(さけのみ)豆腐(とうふ)()るかい。227都府(とふ)()(あひだ)地震(ぢしん)滅茶(めちや)々々(めちや)になつたと()(こと)よ。228(いま)福幸院(ふくかうゐん)(おこ)して震議(しんぎ)最中(さいちう)だから、229(しばら)()つてゐるが()からう。230シロ都風(とうふ)焼豆腐(やきどうふ)もサツパリ滅茶(めちや)々々(めちや)だよ。231(なん)()つても松若彦(まつわかひこ)老体(らうたい)がナマクラの別荘(べつさう)梯子段(はしごだん)(あつ)せられて()んだとか至難(しなん)とか()問題(もんだい)で、232豆腐(とうふ)(どころ)(さわ)ぎぢやないワ。233()(さけ)さへあれば(なん)とか酒段(しゆだん)がつくだろ』
234(いく)()うも仕方(しかた)がないな。235オイ兄弟(きやうだい)236モウ仕方(しかた)がねい、237豆腐(とうふ)()くても、238(この)(まま)徳利(とつくり)(くち)から()(まは)してやらうかい』
239(くに)『エ、240邪魔(じやま)(くさ)い、241こんな()つポケな(くち)からチヨビチヨビやつてゐてもはづまないワ。242徳利(とつくり)(けつ)(たた)()つて(かぜ)(かよ)ふやうにすりや()()()るだらう。243(たまご)でも一方口(いつぱうぐち)では()へないから、244両方(りやうはう)(あな)()けるだないか』
245()(なが)ら、246(くるま)梶棒(かぢぼう)徳利(とくり)(しり)をコンと(ぶつ)つけた(はずみ)に、247徳利(とつくり)切腹(せつぷく)して(たちま)(には)(つち)一升(いつしよう)(さけ)()めて(しま)つた。
248(くに)『チエツ、249金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)(くに)さまの一撃(いちげき)()ふてサツパリ滅茶(めちや)々々(めちや)だ。250ヤツパリ(しゆ)たる徳利(とくり)(そな)はつて()らぬと()える(わい)251ハヽヽヽヽ』
252(あさ)『オイ国州(くにしう)253イヤ親分(おやぶん)254(なん)()勿体(もつたい)ないことをするのだい。255(つち)(みな)結構(けつこう)(さけ)()んで(しま)つたぢやないか。256本当(ほんたう)一生(いつしやう)(そん)をしたものだ』
257(くに)徳利(とくり)階級(かいきふ)(くち)(ばか)りへ()れてるのも勿体(もつたい)ないから、258チツとはズブ(した)(つち)にも()ましてやりたいと(おも)ふて爆発(ばくはつ)させたのだ。259タコマ(やま)でもチヨイ チヨイ爆発(ばくはつ)するだないか。260()だ、261ここに一本(いつぽん)(のこ)つてる、262(これ)(きさま)(たち)自由(じいう)にしたが()からう。263(おれ)はモウ()むよりも、264()うして(はら)打割(ぶちわ)つて(さけ)洪水(こうずい)(おこ)(はう)が、265(なに)(ほど)痛快(つうくわい)()れないワ、266アツハヽヽ』
267(あい)一升(いつしよう)(さけ)(これ)から()(にん)()つて(たひら)げることとせう。268さうすりや一人前(いちにんまへ)二合(にがふ)五勺(ごしやく)(くらゐ)だ。269マア(さかな)には公侯(こうこう)でも()つて()てバリバリとやるのだな。270そして芸者(げいしや)もなし、271一人(ひとり)()いで()めば私酌(ししやく)にもなり、272(をとこ)のお給仕(きふじ)()がせば男酌(だんしやく)にもなり、273小間物(こまもの)(みせ)()せば()(しやく)にもなるのだから、274(これ)(しやく)(やまひ)(なほ)し、275溜飲(りういん)()げることに仕様(しやう)かい』
276(あさ)私酌(ししやく)男酌(だんしやく)結構(けつこう)ですが、277()うです親分(おやぶん)278三筋(みすぢ)(いと)這入(はい)らないと(あま)面白(おもしろ)くないぢやありませぬか。279(わたし)(これ)から刑務所(けいむしよ)……オツとドツコイ……芸務所(げいむしよ)(はし)つて()つて、280生首(なまくび)でも白首(しろくび)でも引張(ひつぱ)つて()ませうかな』
281(くに)『おけおけ282芸務所(げいむしよ)梅害(ばいどく)養生所(やうせいしよ)だ。283(また)一筋縄(ひとすぢなは)二筋縄(ふたすぢなは)()へぬ(やつ)が、284三筋(みすぢ)(いと)(はな)(した)(なが)(やつ)(あやつ)つてゐるのだから、285そんな代物(しろもの)輸入(ゆにふ)されちや背水会(はいすいくわい)迷惑(めいわく)だ』
286 ()雑談(ざつだん)(ふけ)(なが)287()(にん)一升(いつしよう)(さけ)喇叭呑(らつぱのみ)にして(たひら)げて(しま)うた。
288 ()かる(ところ)289新聞(しんぶん)配達(はいたつ)(はげ)しき(りん)(おと)チリン チリンと(ひび)()る。
290(くに)『オイ(あさ)291号外(がうぐわい)(ひと)()うて()い、292キツと変事(へんじ)突発(とつぱつ)したに(ちが)ひないからな』
293 (あさ)言下(げんか)(しり)()(まく)り、294号外屋(がうぐわいや)(あと)()つかけ(なが)295『オーイ オーイ』と熊谷(くまがい)もどきに()いて()く。296(あと)(さん)(にん)(あさ)(かへ)るのを(いま)(おそ)しと()つてゐる。
297(くに)地震(ぢしん)でもなし、298政変(せいへん)でもなからうが、299(いま)号外(がうぐわい)(なん)だらうかな。300如何(どう)吾々(われわれ)気懸(きがか)りでならないワ』
301(あい)『さうだな、302此奴(こいつ)ア、303普通(ふつう)ぢやあるまい。304吾々(われわれ)一身(いつしん)(じやう)(くわん)する大問題(だいもんだい)(おこ)つたのだあるまいか。305コラ幾州(いくしう)306(きさま)(おれ)(たち)(はなし)立聞(たちぎき)しやがつて、307新聞(しんぶん)記者(きしや)(やつ)にでも、308(なに)(しやべ)つたのだらう』
309(いく)(なに)310(おれ)(なに)(しやべ)らない。311悪徳(あくとく)新聞(しんぶん)記者(きしや)此処(ここ)(のき)()つてペンを(はし)らしてゐるから、312此奴(こいつ)可怪(をか)しいと(おも)つて近寄(ちかよ)つて()れば、313記者(きしや)(やつ)314(めう)(つら)して、315どつかへ姿(すがた)(かく)しよつたのだ。316それから()(あと)(すこ)(ばか)(おれ)()いた(だけ)だ。317(あま)(おほ)きな(こゑ)(はな)してゐたものだから「国照別(くにてるわけ)俥帳場(くるまちやうば)(ひそ)む」(ぐらゐ)見出(みだ)しで号外(がうぐわい)でも()したのかも()れないよ。318さうすりや大変(たいへん)だ、319大目付(おほめつけ)(やつ)(おどろ)いて部下(ぶか)取締(とりしまり)(めい)じ、320(おれ)(たち)逮捕(たいほ)()るかも()れない。321サア()(かく)さう、322侠客(けふかく)()(はじ)めに(つか)まつては幸先(さいさき)(わる)いから……』
323 (さん)(にん)はサツと(かほ)(いろ)(かは)つた。324其処(そこ)(ころ)げる(やう)にして(かへ)つて()たのは浅公(あさこう)である。325浅公(あさこう)門口(かどぐち)から、
326『オイ、327タヽ大変(たいへん)だ。328クヽ国依別(くによりわけ)のセヽ(せがれ)329国照別(くにてるわけ)が、330此処(ここ)帳場(ちやうば)潜伏(せんぷく)してゐるから(その)(すぢ)()都下(とか)一面(いちめん)(まは)つたと、331ゴヽ号外(がうぐわい)()いてあるワ。332クヽ国照別(くにてるわけ)(つか)まへられたら、333オヽ(おれ)乾児(こぶん)だから同罪(どうざい)だ。334サア(なん)とかして(この)()()げようぢやないか』
335 国照別(くにてるわけ)平然(へいぜん)として、
336『ハヽヽ、337面白(おもしろ)面白(おもしろ)い、338(これ)でこそ願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)(とき)(いた)れりだ。339オイ愛州(あいしう)340幾公(いくこう)341(あさ)342(おれ)()いて()い。343第二(だいに)計画(けいくわく)(うつ)らうぢやないか』
344()(なが)悠々(いういう)として裏口(うらぐち)から、345一行(いつかう)()(にん)夕暮(ゆふぐれ)(やみ)(さいは)ひ、346何処(どこ)ともなく姿(すがた)(かく)した。
347大正一三・一・一九 旧一二・一二・一四 於伊予道後ホテル、松村真澄録)
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