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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第二章
折衝戦
(
せつしようせん
)
〔一七六九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第1篇 花鳥山月
よみ(新仮名遣い):
かちょうさんげつ
章:
第2章 折衝戦
よみ(新仮名遣い):
せっしょうせん
通し章番号:
1769
口述日:
1925(大正14)年08月23日(旧07月4日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
キューバーは、大足別の使者と称してトルマン城にやってきて、スコブツエン宗に国を挙げて改宗しなければ、軍隊を差し向ける、と脅す。
王をはじめ左守フーラン・右守スマンヂーら重臣が集まり、善後策を協議していた。
王妃千草姫・右守は慎重派であったが、主戦派の王と左守は慎重論を受け入れない。右守はかえって王妃と不義の疑いを受けてしまう。そして王と左守は戦の準備を始めてしまったのであった。
キューバーは護衛を引き連れて城の奥に入り来たり、返答を強要する。千草姫はキューバーをなだめ置いて時間を稼ぎ、一方右守は再び王と左守に慎重論を採るよう、説得に走る。
しかし、右守は王の逆鱗に触れ、手打ちとなり絶命してしまう。
千草姫は形成不穏を感じ、キューバーを釘付けにするためにキューバーを密室に伴った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7002
愛善世界社版:
22頁
八幡書店版:
第12輯 397頁
修補版:
校定版:
22頁
普及版:
11頁
初版:
ページ備考:
001
トルマン
城
(
じやう
)
の
会議室
(
くわいぎしつ
)
には、
002
王
(
わう
)
のガーデンを
始
(
はじ
)
め、
003
王妃
(
わうひ
)
千草
(
ちぐさ
)
、
004
左守司
(
さもりのかみ
)
フーラン、
005
右守司
(
うもりのかみ
)
スマンヂーの
首脳部
(
しゆなうぶ
)
が
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めてヒソビソ
重要
(
ぢうえう
)
会議
(
くわいぎ
)
を
開
(
ひら
)
いてゐる。
006
ガーデン『エー、
007
左守
(
さもり
)
、
008
右守
(
うもり
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
009
突然
(
とつぜん
)
重大
(
ぢうだい
)
問題
(
もんだい
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
したので、
010
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
を
急使
(
きふし
)
を
以
(
もつ
)
て
引寄
(
ひきよ
)
せたのだが、
011
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
智慧
(
ちゑ
)
を
貸
(
か
)
して
貰
(
もら
)
ひたい。
012
トルマン
国
(
ごく
)
にとつては
国家
(
こくか
)
興亡
(
こうばう
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
だから……』
013
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
は
一度
(
いちど
)
にハツと
頭
(
かうべ
)
を
下
(
さ
)
げ、
014
畏
(
かしこ
)
まつて、
015
王
(
わう
)
の
第二
(
だいに
)
の
発言
(
はつげん
)
を
待
(
ま
)
つてゐる。
016
王
(
わう
)
は
目
(
め
)
をしばたたき
乍
(
なが
)
ら、
017
『
外
(
ほか
)
でもないが、
018
昨夜
(
さくよ
)
半
(
なか
)
頃
(
ごろ
)
頻
(
しき
)
りに
門戸
(
もんこ
)
を
叩
(
たた
)
く
者
(
もの
)
あり。
019
門番
(
もんばん
)
のタマ、
020
タルの
両人
(
りやうにん
)
よりの
急使
(
きふし
)
に
仍
(
よ
)
り、
021
寝所
(
しんじよ
)
を
立出
(
たちい
)
で、
022
応接間
(
おうせつま
)
に
至
(
いた
)
り
見
(
み
)
れば、
023
大足別
(
おほだるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
使者
(
ししや
)
と
称
(
しよう
)
し、
024
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
淫祠
(
いんし
)
邪教
(
じやけう
)
を、
025
吾
(
わが
)
国内
(
こくない
)
に
布教
(
ふけう
)
宣伝
(
せんでん
)
致
(
いた
)
し
居
(
を
)
るスコブツエン
宗
(
しう
)
のキユーバーと
申
(
まを
)
す
妖僧
(
えうそう
)
、
026
吾
(
わが
)
面前
(
めんぜん
)
をも
憚
(
はばか
)
らず
威丈高
(
ゐだけだか
)
となり、
027
……
貴国
(
きこく
)
は
従来
(
じゆうらい
)
ウラル
教
(
けう
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
028
国政
(
こくせい
)
の
補助
(
ほじよ
)
となし
居
(
を
)
らるる
由
(
よし
)
、
029
最早
(
もはや
)
命脈
(
めいみやく
)
の
絶
(
た
)
えたるウラル
教
(
けう
)
を
以
(
もつ
)
て、
030
人心
(
じんしん
)
を
収
(
をさ
)
めむとするは
危険
(
きけん
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なかるべし。
031
此
(
この
)
度
(
たび
)
大足別
(
おほだるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
、
032
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大命
(
たいめい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
033
印度
(
いんど
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
をスコブツエン
宗
(
しう
)
に
改宗
(
かいしう
)
せしむとの
御
(
ご
)
上意
(
じやうい
)
、
034
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
を
塗炭
(
とたん
)
の
苦
(
く
)
より
救
(
すく
)
ひ、
035
安養
(
あんやう
)
浄土
(
じやうど
)
に
蘇生
(
そせい
)
せしめむとの
有難
(
ありがた
)
き
御心
(
みこころ
)
なれば、
036
謹
(
つつし
)
んでお
受
(
う
)
けなされ。
037
万一
(
まんいち
)
違背
(
ゐはい
)
に
及
(
およ
)
ばば、
038
仁義
(
じんぎ
)
の
軍
(
ぐん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
虎狼
(
こらう
)
の
爪牙
(
さうが
)
を
現
(
あら
)
はし、
039
トルマン
城
(
じやう
)
を
屠
(
ほふ
)
り、
040
王
(
わう
)
を
始
(
はじ
)
め、
041
一般
(
いつぱん
)
民衆
(
みんしう
)
の
目
(
め
)
をさまし
呉
(
く
)
れむ。
042
王
(
わう
)
の
御
(
ご
)
答弁
(
たふべん
)
如何
(
いかん
)
に
依
(
よ
)
つて、
043
国家
(
こくか
)
の
安危
(
あんき
)
の
分
(
わか
)
るる
所
(
ところ
)
、
044
速
(
すみやか
)
に
返答
(
へんたふ
)
召
(
め
)
され……との
強談
(
がうだん
)
、
045
其
(
その
)
暴状
(
ばうじやう
)
は
言語
(
げんご
)
に
絶
(
ぜつ
)
し、
046
立腹
(
りつぷく
)
の
余
(
あま
)
り
卒倒
(
そつたう
)
せむ
許
(
ばか
)
りに
存
(
ぞん
)
じたが、
047
いや
待
(
ま
)
て
少時
(
しばし
)
、
0471
何
(
なん
)
とか
斯
(
か
)
とか
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
言葉
(
ことば
)
を
濁
(
にご
)
し、
048
汝
(
なんぢ
)
重臣
(
ぢうしん
)
共
(
ども
)
に
親
(
した
)
しく
協議
(
けふぎ
)
を
遂
(
と
)
げ、
049
其
(
その
)
上
(
うへ
)
諾否
(
だくひ
)
を
決
(
けつ
)
せむと、
050
キユーバーに
向
(
むか
)
ひ、
051
三日間
(
みつかかん
)
の
猶予
(
いうよ
)
を
与
(
あた
)
ふべく
申
(
まをし
)
渡
(
わた
)
せし
所
(
ところ
)
、
052
彼
(
かれ
)
妖僧
(
えうそう
)
の
勢
(
いきほひ
)
、
053
仲々
(
なかなか
)
猛烈
(
まうれつ
)
にして、
054
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
055
……
只今
(
ただいま
)
返答
(
へんたふ
)
承
(
うけたま
)
はらむ……との
厳談
(
げんだん
)
、
056
仮
(
かり
)
にも
一国
(
いつこく
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
が、
057
僅
(
わづか
)
一人
(
ひとり
)
の
妖僧
(
えうそう
)
に
圧迫
(
あつぱく
)
さるべき
理由
(
りいう
)
なし。
058
さり
乍
(
なが
)
ら、
059
只
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
の
下
(
もと
)
に
叱咤
(
しつた
)
せむか、
060
彼
(
かれ
)
は
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず、
061
大足別
(
おほだるわけ
)
の
軍
(
ぐん
)
を
率
(
ひき
)
ゐて
当城
(
たうじやう
)
を
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取囲
(
とりかこ
)
まむず
鼻息
(
はないき
)
062
残念
(
ざんねん
)
乍
(
なが
)
ら、
0621
千言
(
せんげん
)
万語
(
ばんご
)
を
費
(
つひや
)
し、
063
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
猶予
(
いうよ
)
を
請
(
こ
)
ひ、
064
返答
(
へんたふ
)
すべき
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しておいた。
065
左守
(
さもり
)
066
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
067
如何
(
いかが
)
致
(
いた
)
さば
可
(
よ
)
からうかな』
068
左守
(
さもり
)
『
何事
(
なにごと
)
かと
存
(
ぞん
)
じ、
069
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
り
敢
(
あへ
)
ず、
070
登城
(
とじやう
)
致
(
いた
)
し、
071
承
(
うけたま
)
はれば
容易
(
ようい
)
ならざる
出来事
(
できごと
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
072
仮
(
かり
)
にも
一天
(
いつてん
)
万乗
(
ばんじやう
)
の
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
に
対
(
たい
)
し、
073
素性
(
すじやう
)
も
分
(
わか
)
らぬ
怪僧
(
くわいそう
)
の
暴言
(
ばうげん
)
、
074
聞捨
(
ききすて
)
なり
申
(
まを
)
さぬ。
075
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
折衝
(
せつしやう
)
も
答弁
(
たふべん
)
も
無用
(
むよう
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
076
速
(
すみやか
)
に
国内
(
こくない
)
の
兵
(
へい
)
を
集
(
あつ
)
め、
077
大足別
(
おほだるわけ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
致
(
いた
)
し、
078
国家
(
こくか
)
の
災
(
わざはひ
)
を
艾除
(
がいぢよ
)
致
(
いた
)
したく
存
(
ぞん
)
じます』
079
王
(
わう
)
『
成程
(
なるほど
)
、
080
汝
(
なんぢ
)
が
言
(
げん
)
、
081
余
(
よ
)
の
意
(
い
)
に
叶
(
かな
)
へたり。
082
サア、
083
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
募兵
(
ぼへい
)
の
用意
(
ようい
)
を
致
(
いた
)
せ。
084
城内
(
じやうない
)
の
兵士
(
へいし
)
にも
厳命
(
げんめい
)
を
下
(
くだ
)
し、
085
防備
(
ばうび
)
の
用意
(
ようい
)
に
取
(
とり
)
かからしめよ』
086
左守
(
さもり
)
『ハイ、
087
殿下
(
でんか
)
の
御
(
ご
)
上意
(
じやうい
)
、
088
謹
(
つつし
)
んで
御
(
お
)
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
します。
089
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
090
貴殿
(
きでん
)
は
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
国内
(
こくない
)
に
伝令使
(
でんれいし
)
を
派
(
は
)
し、
091
国家
(
こくか
)
の
危急
(
ききふ
)
を
救
(
すく
)
ふべく
軍隊
(
ぐんたい
)
をお
集
(
あつ
)
めなさい』
092
右守
(
うもり
)
『これはこれは
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
のお
言葉
(
ことば
)
とも
覚
(
おぼ
)
えぬ。
093
左様
(
さやう
)
な
無謀
(
むぼう
)
な
戦
(
たたかひ
)
を
致
(
いた
)
して、
094
天壤
(
てんじやう
)
無窮
(
むきう
)
のトルマン
国
(
ごく
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼす
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
の
拙策
(
せつさく
)
。
095
最早
(
もはや
)
かくなる
上
(
うへ
)
は、
096
暫時
(
ざんじ
)
キユーバーの
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
ひ、
097
王家
(
わうけ
)
を
始
(
はじ
)
め、
098
国民
(
こくみん
)
一般
(
いつぱん
)
、
099
彼
(
かれ
)
が
唱
(
とな
)
ふる
宗旨
(
しうし
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せば、
100
天下
(
てんか
)
は
無事
(
ぶじ
)
泰平
(
たいへい
)
、
101
国民
(
こくみん
)
は
塗炭
(
とたん
)
の
苦
(
く
)
より
免
(
まぬが
)
れ、
102
仁君
(
じんくん
)
と
仰
(
あふ
)
がれ
給
(
たま
)
ふで
御座
(
ござ
)
らう。
103
万々一
(
まんまんいち
)
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
大軍
(
たいぐん
)
を
向方
(
むかふ
)
へ
廻
(
まは
)
し、
104
全敗
(
ぜんぱい
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
はば
105
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
取返
(
とりかへ
)
しのつかざる
大失敗
(
だいしつぱい
)
で
御座
(
ござ
)
らう。
106
殿下
(
でんか
)
を
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
、
107
此所
(
ここ
)
をトクとお
考
(
かんが
)
へ
下
(
くだ
)
され。
108
王家
(
わうけ
)
の
為
(
ため
)
、
109
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
、
110
右守
(
うもり
)
身命
(
しんめい
)
を
賭
(
と
)
して
諫言
(
かんげん
)
仕
(
つかまつ
)
ります』
111
王
(
わう
)
『
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
及
(
およ
)
んで、
112
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
右守
(
うもり
)
の
言条
(
いひでう
)
、
113
国帑
(
こくど
)
を
消費
(
せうひ
)
して、
114
平素
(
へいそ
)
軍隊
(
ぐんたい
)
を
養
(
やしな
)
ひおきしは
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
だ。
115
かかる
国難
(
こくなん
)
に
際
(
さい
)
し、
116
挙国
(
きよこく
)
一致
(
いつち
)
的
(
てき
)
活動
(
くわつどう
)
をなし、
117
外敵
(
ぐわいてき
)
を
防
(
ふせ
)
ぐべき
用意
(
ようい
)
の
為
(
ため
)
ではないか。
118
かかる
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
魂
(
たましひ
)
を
以
(
もつ
)
て、
119
優勝
(
いうしよう
)
劣敗
(
れつぱい
)
の
現代
(
げんだい
)
、
120
殊
(
こと
)
に
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
国王
(
こくわう
)
は
各
(
おのおの
)
軍備
(
ぐんび
)
を
整
(
ととの
)
へ、
121
虎視
(
こし
)
耽々
(
たんたん
)
として、
122
国防
(
こくばう
)
に
余念
(
よねん
)
なき
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
123
祖先
(
そせん
)
伝来
(
でんらい
)
のウラルの
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
放擲
(
はうてき
)
する
如
(
ごと
)
きは
124
神
(
かみ
)
の
威厳
(
ゐげん
)
を
損
(
そこな
)
ひ
破
(
やぶ
)
り、
125
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なく、
126
却
(
かへつ
)
て
国家
(
こくか
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
を
早
(
はや
)
めるであらう。
127
此
(
この
)
トルマン
国
(
ごく
)
はウラルの
神
(
かみ
)
の
厚
(
あつ
)
き
守護
(
しゆご
)
あり、
128
何
(
なに
)
を
苦
(
くるし
)
んで、
129
かかる
妖教
(
えうけう
)
に
腰
(
こし
)
を
曲
(
ま
)
げむ。
130
しつかりと
性根
(
しやうね
)
を
据
(
す
)
えて、
131
所存
(
しよぞん
)
の
臍
(
ほぞ
)
を
固
(
かた
)
めよ』
132
右
(
う
)
『
君
(
きみ
)
の
仰
(
あふ
)
せでは
御座
(
ござ
)
いまするが、
133
此
(
この
)
際
(
さい
)
余程
(
よほど
)
冷静
(
れいせい
)
にお
考
(
かんが
)
へを
願
(
ねが
)
はねばなりませぬ。
134
取返
(
とりかへ
)
しのつかぬ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますから』
135
王
(
わう
)
『
然
(
しか
)
らば
汝
(
なんぢ
)
の
意見
(
いけん
)
は、
136
何
(
ど
)
うせうと
云
(
い
)
ふのだ、
137
腹蔵
(
ふくざう
)
なく
申
(
まを
)
して
見
(
み
)
よ』
138
右
(
う
)
『ハイ、
139
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます。
140
敵
(
てき
)
は
目
(
め
)
に
余
(
あま
)
る
大軍
(
たいぐん
)
、
141
城下
(
じやうか
)
近
(
ちか
)
く
押寄
(
おしよ
)
せ
来
(
きた
)
る
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
142
遅
(
おく
)
れ
走
(
ば
)
せに
軍隊
(
ぐんたい
)
を
召集
(
せうしふ
)
すればとて、
143
何
(
なん
)
の
役
(
やく
)
に
立
(
た
)
ちませうぞ。
144
城内
(
じやうない
)
の
守兵
(
しゆへい
)
は
僅
(
わづか
)
に
五百
(
ごひやく
)
人
(
にん
)
、
145
敵
(
てき
)
の
総勢
(
そうぜい
)
三千騎
(
さんぜんき
)
、
146
国内
(
こくない
)
全部
(
ぜんぶ
)
の
兵員
(
へいゐん
)
を
集
(
あつ
)
めた
所
(
ところ
)
で、
147
漸
(
やうや
)
く
二千
(
にせん
)
五百
(
ごひやく
)
人
(
にん
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか。
148
五百
(
ごひやく
)
人
(
にん
)
の
兵
(
へい
)
を
以
(
もつ
)
て
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
精鋭
(
せいえい
)
に
当
(
あた
)
るは、
149
恰
(
あたか
)
も
蟷螂
(
たうらう
)
の
斧
(
をの
)
を
揮
(
ふる
)
つて
竜車
(
りうしや
)
に
向
(
むか
)
ふがごときもので
御座
(
ござ
)
ります。
150
国内
(
こくない
)
の
総動員
(
そうどうゐん
)
を
行
(
おこな
)
ひ、
151
いよいよ
戦闘
(
せんとう
)
準備
(
じゆんび
)
の
整
(
ととの
)
ふ
迄
(
まで
)
には、
152
何程
(
なにほど
)
早
(
はや
)
く
共
(
とも
)
三日間
(
みつかかん
)
の
時日
(
じじつ
)
を
要
(
えう
)
します。
153
さすれば、
154
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
戦争
(
せんそう
)
の
済
(
す
)
んだ
後
(
あと
)
、
155
六菖
(
ろくしやう
)
十菊
(
じつきく
)
の
無駄
(
むだ
)
な
仕業
(
しわざ
)
と
存
(
ぞん
)
じます。
156
かかる
見易
(
みやす
)
き
道理
(
だうり
)
を
無視
(
むし
)
し
戦
(
たたか
)
ふに
於
(
おい
)
ては、
157
国家
(
こくか
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
、
158
風前
(
ふうぜん
)
の
灯火
(
ともしび
)
よりも
危
(
あやふ
)
う
御座
(
ござ
)
います。
159
何卒
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
際
(
さい
)
右守
(
うもり
)
の
進言
(
しんげん
)
を
御
(
ご
)
採用
(
さいよう
)
下
(
くだ
)
さらば、
160
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
、
161
実
(
じつ
)
に
幸福
(
かうふく
)
と
存
(
ぞん
)
じます』
162
千草姫
(
ちぐさひめ
)
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はれば、
163
何
(
いづ
)
れも
御尤
(
ごもつと
)
も
千万
(
せんばん
)
、
164
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
妾
(
わらは
)
は
右守
(
うもり
)
の
説
(
せつ
)
を
以
(
もつ
)
て、
165
最
(
もつと
)
も
時宜
(
じぎ
)
に
適
(
てき
)
した
方法
(
はうはふ
)
と
考
(
かんが
)
へまする。
166
殿下
(
でんか
)
何卒
(
なにとぞ
)
、
167
右守
(
うもり
)
の
説
(
せつ
)
を
御
(
ご
)
採用
(
さいよう
)
あらむ
事
(
こと
)
を
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
しまする』
168
王
(
わう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
申
(
まを
)
せ、
169
其方
(
そち
)
迄
(
まで
)
が
夫
(
をつと
)
の
説
(
せつ
)
を
抹殺
(
まつさつ
)
せむと
致
(
いた
)
すか。
170
其方
(
そち
)
の
平素
(
へいそ
)
の
挙動
(
きよどう
)
は
腋
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちぬと
思
(
おも
)
つてゐた。
171
国家
(
こくか
)
滅亡
(
めつぼう
)
の
原因
(
げんいん
)
は
女性
(
ぢよせい
)
にありといふ
事
(
こと
)
だ。
172
殷
(
いん
)
の
紂王
(
ちゆうわう
)
が
国
(
くに
)
を
失
(
うしな
)
ふたのも
矢張
(
やはり
)
女性
(
ぢよせい
)
の
横暴
(
わうばう
)
からだ。
173
女童
(
をんなわらべ
)
の
知
(
し
)
る
事
(
こと
)
でない、
174
下
(
さ
)
がり
居
(
を
)
らうツ』
175
と
百雷
(
ひやくらい
)
の
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
落下
(
らくか
)
したる
如
(
ごと
)
き
怒声
(
どせい
)
、
176
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
つて
顔色
(
がんしよく
)
蒼白
(
さうはく
)
となり、
177
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
慄
(
ふる
)
ひつつ
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
178
王
(
わう
)
は
此
(
この
)
有様
(
ありさま
)
を
目
(
め
)
にもかけず、
179
尚
(
なほ
)
も
言葉
(
ことば
)
を
続
(
つづ
)
けて、
180
『ヤ、
181
左守
(
さもり
)
、
182
最早
(
もはや
)
かうなる
上
(
うへ
)
は、
183
余
(
よ
)
と
汝
(
なんぢ
)
と
両人
(
りやうにん
)
力
(
ちから
)
を
併
(
あは
)
せ、
184
外敵
(
ぐわいてき
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
致
(
いた
)
さう。
185
余
(
よ
)
は
之
(
これ
)
より
陣頭
(
ぢんとう
)
に
立
(
た
)
ち、
186
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
するであらう。
187
サ、
188
左守
(
さもり
)
、
189
其
(
その
)
準備
(
じゆんび
)
に
取
(
とり
)
かかれよ』
190
左
(
さ
)
『
年
(
とし
)
は
寄
(
と
)
つても、
191
武術
(
ぶじゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
鍛
(
きた
)
へた
此
(
この
)
腕
(
うで
)
つ
節
(
ぷし
)
、
192
仮令
(
たとへ
)
大足別
(
おほだるわけ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
、
193
百万騎
(
ひやくまんき
)
を
以
(
もつ
)
て
押
(
おし
)
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
、
1931
何
(
なに
)
かあらむ、
194
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
頭
(
かしら
)
に
頂
(
いただ
)
き、
195
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
悪魔
(
あくま
)
の
守
(
まも
)
る
大足別
(
おほだるわけ
)
が
軍勢
(
ぐんぜい
)
を、
196
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
秘術
(
ひじゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
駆
(
か
)
け
悩
(
なや
)
まし、
197
奇兵
(
きへい
)
を
放
(
はな
)
つて
殲滅
(
せんめつ
)
し
呉
(
く
)
れむ。
198
いざ
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
199
用意
(
ようい
)
を
召
(
め
)
され』
200
右
(
う
)
『これは
心得
(
こころえ
)
ぬ、
2001
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
201
薪
(
たきぎ
)
に
油
(
あぶら
)
を
注
(
そそ
)
ぎ、
202
之
(
これ
)
を
抱
(
いだ
)
いて
火中
(
くわちう
)
に
投
(
とう
)
ずる
如
(
ごと
)
き
危険
(
きけん
)
極
(
きは
)
まる
無謀
(
むぼう
)
の
抗戦
(
かうせん
)
、
203
いかでか
功
(
こう
)
を
奏
(
そう
)
せむ。
204
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
思
(
おも
)
ひ
止
(
とど
)
まらせ
給
(
たま
)
へ』
205
王
(
わう
)
『
左守
(
さもり
)
、
206
右守
(
うもり
)
の
如
(
ごと
)
き
逆臣
(
ぎやくしん
)
を
相手
(
あひて
)
に
致
(
いた
)
すな。
207
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
平素
(
へいそ
)
余
(
よ
)
が
目
(
め
)
をぬすみ、
208
右守
(
うもり
)
と……を
結
(
むす
)
んでゐるといふ
事
(
こと
)
は、
209
某々
(
ぼうぼう
)
等
(
ら
)
の
注進
(
ちうしん
)
によつて、
210
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
以前
(
いぜん
)
より
余
(
よ
)
は
承知
(
しようち
)
してゐる。
211
かかる
逆賊
(
ぎやくぞく
)
を
城内
(
じやうない
)
に
放養
(
はうやう
)
するは、
212
恰
(
あたか
)
も
虎
(
とら
)
の
子
(
こ
)
を
養
(
やしな
)
ふに
等
(
ひと
)
しからむ。
213
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げよ』
214
千草
(
ちぐさ
)
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
情
(
なさけ
)
ないお
言葉
(
ことば
)
、
215
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
妾
(
わらは
)
は
左様
(
さやう
)
な
疑
(
うたがひ
)
を
受
(
う
)
けやうとは
夢
(
ゆめ
)
にも
存
(
ぞん
)
じませぬ。
216
良薬
(
りやうやく
)
は
口
(
くち
)
に
苦
(
にが
)
く、
217
忠言
(
ちうげん
)
は
耳
(
みみ
)
に
逆
(
さから
)
ふとかや。
218
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
は
王家
(
わうけ
)
の
為
(
ため
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
、
219
命
(
いのち
)
を
捧
(
ささ
)
げて
居
(
を
)
りまする。
220
時代
(
じだい
)
の
推移
(
すいい
)
を
明知
(
めいち
)
し、
221
政治
(
せいぢ
)
の
大本
(
たいほん
)
を
弁
(
わきま
)
へ
居
(
を
)
る
者
(
もの
)
は、
222
右守
(
うもり
)
をおいて
外
(
ほか
)
には
御座
(
ござ
)
いませぬ。
223
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は、
224
余程
(
よほど
)
変
(
かは
)
つて
居
(
を
)
りまする。
225
徒
(
いたづら
)
に
旧套
(
きうたう
)
を
墨守
(
ぼくしゆ
)
し、
2251
国家
(
こくか
)
を
立
(
た
)
てむとするは
愚
(
ぐ
)
の
骨頂
(
こつちやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
226
何者
(
なにもの
)
の
誣言
(
ぶげん
)
かは
存
(
ぞん
)
じませぬが、
227
妾
(
わらは
)
に
対
(
たい
)
して
不義
(
ふぎ
)
の
行為
(
かうゐ
)
あるが
如
(
ごと
)
く
内奏
(
ないそう
)
致
(
いた
)
すとは、
228
言語
(
ごんご
)
道断
(
だうだん
)
、
229
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
230
かかる
乱臣
(
らんしん
)
賊子
(
ぞくし
)
の
言
(
げん
)
に
御
(
お
)
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
け
給
(
たま
)
はず、
231
妾
(
わらは
)
が
進言
(
しんげん
)
を
冷静
(
れいせい
)
に
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
232
最早
(
もはや
)
かくなる
上
(
うへ
)
は
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
も
何
(
なん
)
の
効果
(
かうくわ
)
もありますまい。
233
落
(
お
)
ちついた
上
(
うへ
)
にも
落
(
おち
)
ついて、
234
国家
(
こくか
)
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
の
大計
(
たいけい
)
をめぐらさねばなりますまい』
235
王
(
わう
)
『
汝
(
なんぢ
)
こそ、
236
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
霊
(
れい
)
に
魅
(
み
)
せられたる
亡国
(
ばうこく
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
だ。
237
綸言
(
りんげん
)
汗
(
あせ
)
の
如
(
ごと
)
し、
238
一度
(
ひとたび
)
出
(
い
)
でては
再
(
ふたた
)
び
復
(
かへ
)
らず。
239
汝
(
なんぢ
)
が
如
(
ごと
)
き
亡国
(
ばうこく
)
の
世迷言
(
よまひごと
)
、
240
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
持
(
も
)
たぬ』
241
と
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り、
242
弓矢
(
ゆみや
)
を
執
(
と
)
つて、
243
左守
(
さもり
)
と
共
(
とも
)
に
立出
(
たちい
)
でむとする。
244
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
245
スコブツエン
宗
(
しう
)
の
妖僧
(
えうそう
)
キユーバーは
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
武装
(
ぶさう
)
せる
兵士
(
へいし
)
に
守
(
まも
)
られ
乍
(
なが
)
ら、
246
悠々
(
いういう
)
と
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
247
『スコブツエン
宗
(
しう
)
の
大棟梁
(
だいとうりやう
)
キユーバー、
248
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命
(
めい
)
により、
249
大足別
(
おほだるわけ
)
の
軍
(
ぐん
)
を
率
(
ひき
)
ゐて
向
(
むか
)
ふたり、
250
速
(
すみやか
)
に
返答
(
へんたふ
)
致
(
いた
)
せツ』
251
と
呼
(
よば
)
はつてゐる。
252
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
253
右守司
(
うもりのかみ
)
は
矢庭
(
やには
)
に
玄関
(
げんくわん
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で、
254
千草
(
ちぐさ
)
『これはこれは、
255
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
救世主
(
きうせいしゆ
)
様
(
さま
)
、
256
よくこそお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいました。
257
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
思召
(
おぼしめし
)
、
258
何条
(
なんでう
)
以
(
もつ
)
て
反
(
そむ
)
きませう。
259
祖先
(
そせん
)
以来
(
いらい
)
のウラル
教
(
けう
)
を、
2591
放擲
(
はうてき
)
し、
260
貴僧
(
きそう
)
のお
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ、
261
スコブツエン
宗
(
しう
)
に
国内
(
こくない
)
挙
(
こぞ
)
つてなりませう。
262
どうか
軍隊
(
ぐんたい
)
を
以
(
もつ
)
て
向
(
むか
)
はせらるるは
穏
(
おだや
)
かならぬ
御
(
お
)
仕打
(
しうち
)
、
263
兵
(
へい
)
を
引上
(
ひきあ
)
げ
下
(
くだ
)
さいませ。
264
妾
(
わらは
)
が
身命
(
しんめい
)
を
賭
(
と
)
して、
265
御
(
お
)
請合
(
うけあひ
)
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げます』
266
キユ『アハヽヽヽヽヽ、
267
流石
(
さすが
)
頑強
(
ぐわんきやう
)
なガーデン
王
(
わう
)
も
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
したか、
268
左守
(
さもり
)
はどうだ。
269
異存
(
いぞん
)
は
無
(
な
)
からうか、
270
両人
(
りやうにん
)
の
確
(
たしか
)
なる
降服状
(
かうふくじやう
)
を
渡
(
わた
)
して
貰
(
もら
)
ひたい。
271
さもなくば
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
272
大足別
(
おほだるわけ
)
に
対
(
たい
)
しても、
273
愚僧
(
ぐそう
)
の
言訳
(
いひわけ
)
が
立
(
た
)
ち
申
(
まを
)
さぬ。
274
サ、
275
早
(
はや
)
く
屈服状
(
くつぷくじやう
)
を
御
(
お
)
渡
(
わた
)
し
召
(
め
)
され』
276
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
してゐる
内
(
うち
)
に、
277
ガーデン
王
(
わう
)
、
278
左守
(
さもり
)
は
兵営
(
へいえい
)
に
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
き、
2781
数多
(
あまた
)
の
将士
(
しやうし
)
に
厳命
(
げんめい
)
を
伝
(
つた
)
へ、
279
敵
(
てき
)
を
撃退
(
げきたい
)
すべく
準備
(
じゆんび
)
に
取
(
とり
)
かかつてゐた。
280
キユーバーは
王
(
わう
)
を
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
は
奥殿
(
おくでん
)
に
戦慄
(
せんりつ
)
し、
281
蚤
(
のみ
)
の
如
(
ごと
)
く
虱
(
しらみ
)
の
如
(
ごと
)
く
寝所
(
しんじよ
)
に
忍
(
しの
)
んでゐるものとのみ
慢心
(
まんしん
)
して
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
し、
282
降服状
(
かうふくじやう
)
を
受取
(
うけと
)
らむと
応接
(
おうせつ
)
の
間
(
ま
)
にどつかと
尻
(
しり
)
を
卸
(
おろ
)
し、
283
椅子
(
いす
)
にかかり
茶
(
ちや
)
を
啜
(
すす
)
りつつ、
284
『アハヽヽヽ、
285
これこれ
千草姫
(
ちぐさひめ
)
殿
(
どの
)
、
286
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
287
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
は
大
(
たい
)
したもので
御座
(
ござ
)
らうがな。
288
其方
(
そなた
)
の
計
(
はか
)
らひ
一
(
ひと
)
つによつて、
289
此
(
この
)
トルマン
城
(
じやう
)
も
無事
(
ぶじ
)
に
助
(
たす
)
かり、
290
耄碌爺
(
まうろくぢぢ
)
のガーデン
王
(
わう
)
も、
291
左守
(
さもり
)
のフーランも
先
(
ま
)
づ
之
(
これ
)
で
首
(
くび
)
がつなげると
云
(
い
)
ふもの、
292
まづまづお
目出
(
めで
)
たう
存
(
ぞん
)
ずる』
293
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
王
(
わう
)
や
左守
(
さもり
)
の
主戦論
(
しゆせんろん
)
者
(
しや
)
たる
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
られては
一大事
(
いちだいじ
)
、
294
何
(
なん
)
とかして
二人
(
ふたり
)
の
我
(
が
)
が
折
(
を
)
れる
様
(
やう
)
と、
295
心中
(
しんちう
)
深
(
ふか
)
く
祈
(
いの
)
りつつ、
296
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
にて、
297
『キユーバー
様
(
さま
)
、
298
貴方
(
あなた
)
はトルマン
国
(
ごく
)
に
対
(
たい
)
し、
299
救世
(
きうせい
)
の
恩人
(
おんじん
)
、
300
億万
(
おくまん
)
年
(
ねん
)
の
後
(
のち
)
迄
(
まで
)
も
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れませぬ。
301
これこれ
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
302
王
(
わう
)
様
(
さま
)
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
に、
303
此
(
この
)
由
(
よし
)
を
御
(
お
)
伝
(
つた
)
へ
下
(
くだ
)
さい。
304
キユーバー
様
(
さま
)
は
妾
(
わらは
)
が
御
(
ご
)
接待
(
せつたい
)
申
(
まを
)
して
居
(
ゐ
)
るから……』
305
右守
(
うもり
)
は
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
心
(
こころ
)
を
推知
(
すいち
)
し、
306
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
に
王
(
わう
)
及
(
および
)
左守
(
さもり
)
の
心
(
こころ
)
を
和
(
やは
)
らげ、
307
後
(
あと
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
キユーバーを
欺
(
あざむ
)
いて、
308
帰順
(
きじゆん
)
した
如
(
ごと
)
くに
見
(
み
)
せかけ、
309
徐
(
おもむろ
)
に
策
(
さく
)
をめぐらさむと、
310
王
(
わう
)
の
居間
(
ゐま
)
に
入
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば
藻脱
(
もぬ
)
けの
殻
(
から
)
、
311
コラ
大変
(
たいへん
)
と、
3111
軍務署
(
ぐんむしよ
)
へかけつけて
見
(
み
)
れば、
312
既
(
すで
)
に
城内
(
じやうない
)
の
兵士
(
へいし
)
は
武装
(
ぶさう
)
を
整
(
ととの
)
へ、
313
王
(
わう
)
も
亦
(
また
)
甲冑
(
かつちう
)
をよろひ、
314
槍
(
やり
)
を
杖
(
つゑ
)
について、
315
今
(
いま
)
や、
316
一斉
(
いつせい
)
に
総攻撃
(
そうこうげき
)
に
出
(
い
)
でむとする
間際
(
まぎは
)
であつた。
317
右守
(
うもり
)
『
若
(
も
)
し
若
(
も
)
し
殿下
(
でんか
)
、
318
話
(
はなし
)
は
甘
(
うま
)
く
纒
(
まと
)
まりました。
319
どうか
暫
(
しばら
)
く
御
(
お
)
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
320
王
(
わう
)
『キユーバーが
降服
(
かうふく
)
致
(
いた
)
したのか、
321
如何
(
どう
)
纒
(
まと
)
まつたのだ』
322
右守
(
うもり
)
『ハイ、
323
キユーバーは
数十
(
すうじふ
)
の
精兵
(
せいへい
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
324
厳然
(
げんぜん
)
と
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
りまする。
325
それにも
拘
(
かかは
)
らず、
326
大足別
(
おほだるわけ
)
の
大軍
(
たいぐん
)
は
今
(
いま
)
や
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
によつて、
327
本城
(
ほんじやう
)
を
屠
(
ほふ
)
らむとして
居
(
を
)
りまする。
328
一
(
いち
)
時
(
じ
)
敵
(
てき
)
を
欺
(
あざむ
)
いて、
329
油断
(
ゆだん
)
させ、
330
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
国内
(
こくない
)
の
総動員
(
そうどうゐん
)
を
行
(
おこな
)
ひ、
331
城
(
しろ
)
の
内外
(
ないぐわい
)
より
挟
(
はさみ
)
撃
(
うち
)
にするのが、
332
軍術
(
ぐんじゆつ
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
と
存
(
ぞん
)
じ、
333
詐
(
いつは
)
つてスコブツエン
宗
(
しう
)
に
降伏
(
かうふく
)
致
(
いた
)
しておきました。
334
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
武装
(
ぶさう
)
を
解
(
と
)
き、
335
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
と
共
(
とも
)
にキユーバーにお
会
(
あ
)
ひ
下
(
くだ
)
さいませ』
336
王
(
わう
)
はクワツと
怒
(
いか
)
り、
337
『
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
曲者
(
くせもの
)
右守
(
うもり
)
奴
(
め
)
、
338
吾
(
わが
)
許
(
ゆる
)
しも
無
(
な
)
く
勝手
(
かつて
)
に
左様
(
さやう
)
な
国辱
(
こくじよく
)
的
(
てき
)
行動
(
かうどう
)
をなすとは、
339
鬼畜
(
きちく
)
に
等
(
ひと
)
しき
其
(
その
)
方
(
はう
)
、
340
最早
(
もはや
)
勘忍
(
かんにん
)
ならぬ、
341
覚悟
(
かくご
)
せよ』
342
と
言
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
343
槍
(
やり
)
をしごいて、
344
右守
(
うもり
)
の
脇腹
(
わきばら
)
に
骨
(
ほね
)
も
徹
(
とほ
)
れとつつ
込
(
こ
)
めば、
345
何条
(
なんでう
)
以
(
もつ
)
て
堪
(
たま
)
るべき、
346
右守
(
うもり
)
は
其
(
その
)
場
(
ば
)
にドツと
倒
(
たふ
)
れ
伏
(
ふ
)
し、
347
虚空
(
こくう
)
を
掴
(
つか
)
んで
息
(
いき
)
絶
(
た
)
えて
了
(
しま
)
つた。
348
王
(
わう
)
『アハヽヽヽヽ、
349
首途
(
かどで
)
の
血祭
(
ちまつり
)
に
国賊
(
こくぞく
)
を
誅
(
ちう
)
したのは
幸先
(
さいさき
)
よし。
350
サ、
351
之
(
これ
)
より
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
352
キユーバーの
両人
(
りやうにん
)
を
血祭
(
ちまつり
)
にせむ』
353
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
354
左守
(
さもり
)
に
軍隊
(
ぐんたい
)
を
監督
(
かんとく
)
させおき、
355
自
(
みづか
)
ら
数十
(
すうじふ
)
名
(
めい
)
の
精兵
(
せいへい
)
を
従
(
したが
)
へ、
356
応接間
(
おうせつま
)
を
指
(
さ
)
して
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
く
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
357
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
何
(
なん
)
となく、
358
形勢
(
けいせい
)
不穏
(
ふおん
)
の
気
(
き
)
がしたので、
359
キユーバーに
対
(
たい
)
し、
3591
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
り
乍
(
なが
)
ら、
360
密室
(
みつしつ
)
に
伴
(
ともな
)
ひ、
361
ドアの
錠
(
ぢやう
)
を
中
(
なか
)
から
卸
(
おろ
)
し、
362
声
(
こゑ
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
乍
(
なが
)
ら、
363
王
(
わう
)
始
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
の
強硬
(
きやうかう
)
なる
意思
(
いし
)
を
伝
(
つた
)
へ、
364
キユーバーの
身
(
み
)
の
危険
(
きけん
)
なる
事
(
こと
)
を
告
(
つ
)
げた。
365
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
決
(
けつ
)
して
右守司
(
うもりのかみ
)
と
醜関係
(
しうくわんけい
)
を
結
(
むす
)
んでゐなかつた。
366
只
(
ただ
)
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ
一念
(
いちねん
)
より、
367
時代
(
じだい
)
を
解
(
かい
)
する
彼
(
かれ
)
を
厚
(
あつ
)
く
信
(
しん
)
じてゐたのみである。
368
智慧
(
ちゑ
)
深
(
ふか
)
き
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
369
仮令
(
たとへ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
キユーバーを
亡
(
ほろ
)
ぼす
共
(
とも
)
、
370
後
(
あと
)
には
大足別
(
おほだるわけ
)
控
(
ひか
)
へ
居
(
を
)
れば、
371
最後
(
さいご
)
の
勝利
(
しようり
)
は
覚束
(
おぼつか
)
なし。
372
若
(
し
)
かず
373
キユーバーの
歓心
(
くわんしん
)
を
買
(
か
)
ひおき、
374
国家
(
こくか
)
の
安泰
(
あんたい
)
を
守
(
まも
)
らむには……と、
375
自分
(
じぶん
)
が
国内
(
こくない
)
切
(
き
)
つての
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
たるを
幸
(
さいは
)
ひ、
376
彼
(
かれ
)
を
薬籠中
(
やくろうちう
)
の
者
(
もの
)
として
了
(
しま
)
つたのである。
377
暴悪
(
ばうあく
)
無道
(
ぶだう
)
のキユーバーも
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
一瞥
(
いちべつ
)
に
会
(
あ
)
ふて
骨
(
ほね
)
迄
(
まで
)
和
(
やは
)
らぎ、
378
まんまと
姫
(
ひめ
)
の
術中
(
じゆつちう
)
に
陥
(
おちい
)
つたのは
幸
(
かう
)
か
不幸
(
ふかう
)
か、
379
神
(
かみ
)
の
審判
(
さばき
)
を
以
(
もつ
)
て
処決
(
しよけつ
)
さるるであらう。
380
(
大正一四・八・二三
旧七・四
於丹後由良秋田別荘
松村真澄
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