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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第一九章
梅花団
(
ばいくわだん
)
〔一七八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第3篇 理想新政
よみ(新仮名遣い):
りそうしんせい
章:
第19章 梅花団
よみ(新仮名遣い):
ばいかだん
通し章番号:
1786
口述日:
1925(大正14)年08月25日(旧07月6日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
千草姫は王に、キューバーはもう死亡し、その代わりに第一天国の天人の霊を宿した若者がトルマン国の政治をつかさどるべく天より使わされた、と勝手に王に宣言する。
その若者(梅公)は、千草姫と話を合わせ、王や番僧たちに千草姫の話を信じ込ませてしまう。
千草姫は梅公を、自分の伴侶、高宮彦と思い違いをしていたのだた、梅公は話を合わせて千草姫に信じ込ませてしまう。
そうしておいて梅公は、囚人の恩赦を行い、まずは人気取りの政治を行って民衆の気を引くべきだと千草姫に勧める。
千草姫が囚人恩赦の命を王に伝えて部屋に戻ってくると、高宮彦(に化けた梅公)は寝ている。千草姫がゆり起こすと、梅公は、千草姫が高姫の再来、金毛九尾の狐であること、また自分の素性は、三五教の守護神・言霊別のエンゼルであることを明かし、大きな光となって窓の隙間より出で消えてしまった。
後に千草姫は驚きのあまり失神してしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7019
愛善世界社版:
237頁
八幡書店版:
第12輯 477頁
修補版:
校定版:
244頁
普及版:
120頁
初版:
ページ備考:
001
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として
城中
(
じやうちう
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
002
ガーデン
王
(
わう
)
の
居間
(
ゐま
)
に
入
(
い
)
り、
003
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
004
ガーデン
王
(
わう
)
に
申
(
まを
)
し
渡
(
わた
)
す
仔細
(
しさい
)
がある。
005
よつく
承
(
うけたま
)
はれ』
006
王
(
わう
)
『ハイ、
007
首尾
(
しゆび
)
よう
御
(
ご
)
下向
(
げかう
)
になりまして、
008
お
目出
(
めで
)
たう
御座
(
ござ
)
います。
009
御用
(
ごよう
)
の
趣
(
おもむき
)
、
010
慎
(
つつし
)
んで
承
(
うけたま
)
はりませう』
011
千草
(
ちぐさ
)
『
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
012
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
はウラル
彦
(
ひこの
)
命
(
みこと
)
、
013
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
等
(
ら
)
とジヤンクの
処置
(
しよち
)
に
就
(
つい
)
て、
014
長時間
(
ちやうじかん
)
協議
(
けうぎ
)
をこらせし
結果
(
けつくわ
)
、
015
ここ
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
間
(
あひだ
)
に
彼
(
かれ
)
が
命
(
めい
)
をたち、
016
教国
(
けうこく
)
の
害毒
(
がいどく
)
を
除
(
のぞ
)
くべく
評定
(
ひやうぢやう
)
がきはまつたぞや。
017
それ
迄
(
まで
)
は
汝
(
なんぢ
)
、
018
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず、
019
彼
(
かれ
)
に
暴虐
(
ばうぎやく
)
の
手
(
て
)
を
加
(
くは
)
ふる
勿
(
なか
)
れ。
020
自然
(
しぜん
)
に
消滅
(
せうめつ
)
致
(
いた
)
す
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
を
致
(
いた
)
しておいたから……』
021
王
(
わう
)
『ハイ、
022
其
(
その
)
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
023
大
(
おほい
)
に
安心
(
あんしん
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
024
就
(
つい
)
ては
教国
(
けうこく
)
の
枢機
(
すうき
)
に
任
(
にん
)
ずべき
重臣
(
ぢうしん
)
として
採用
(
さいよう
)
すべきキユーバーは、
025
神界
(
しんかい
)
に
於
(
おい
)
て、
026
何時
(
いつ
)
御
(
お
)
召
(
めし
)
出
(
だ
)
し
下
(
くだ
)
さいまするか』
027
千草
(
ちぐさ
)
『
否
(
いや
)
、
028
心配
(
しんぱい
)
は
致
(
いた
)
すに
及
(
およ
)
ばぬ。
029
彼
(
か
)
れキユーバーは
神界
(
しんかい
)
に
於
(
おい
)
て、
030
眷族
(
けんぞく
)
を
使
(
つか
)
ひ、
031
よくよく
査
(
しら
)
べみれば、
032
当城
(
たうじやう
)
の
牢獄
(
らうごく
)
を
破
(
やぶ
)
り、
033
逃
(
にげ
)
行
(
ゆ
)
く
途中
(
とちう
)
、
034
狼
(
おほかみ
)
に
追撃
(
つゐげき
)
され、
035
終
(
つひ
)
にはもろくも
全身
(
ぜんしん
)
を
群狼
(
ぐんらう
)
の
為
(
ため
)
に
喰
(
く
)
ひつぶされ、
036
非業
(
ひごふ
)
の
最後
(
さいご
)
をとげたとの、
037
眷族
(
けんぞく
)
共
(
ども
)
の
復命
(
ふくめい
)
。
038
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
039
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
と
相談
(
さうだん
)
致
(
いた
)
せし
所
(
ところ
)
、
040
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
を
天
(
てん
)
より
遣
(
つか
)
はすによつて、
041
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
殿
(
どの
)
、
042
其
(
その
)
身霊
(
みたま
)
を
城中
(
じやうちう
)
へ
伴
(
ともな
)
ひ
帰
(
かへ
)
り、
043
教政
(
けうせい
)
を
執
(
と
)
らば、
044
トルマン
国
(
ごく
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
045
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
支配者
(
しはいしや
)
として、
046
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
に
仰
(
あふ
)
がるべし、
047
――との
御
(
お
)
告
(
つ
)
げなれば、
048
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
心
(
こころ
)
も
勇
(
いさ
)
み、
049
役僧
(
やくそう
)
共
(
ども
)
に
守
(
まも
)
られて
帰途
(
きと
)
につく
其
(
そ
)
の
途
(
みち
)
すがら、
050
一介
(
いつかい
)
の
男子
(
だんし
)
と
化
(
くわ
)
し、
051
吾
(
わが
)
輿
(
こし
)
に
近
(
ちか
)
よらむとし
玉
(
たま
)
ふや、
052
心眼
(
しんがん
)
開
(
ひら
)
けざる
盲
(
めくら
)
同様
(
どうやう
)
の
番僧
(
ばんそう
)
共
(
ども
)
は、
053
輿
(
こし
)
に
危害
(
きがい
)
を
加
(
くは
)
へ
無礼
(
ぶれい
)
を
与
(
あた
)
ふる
者
(
もの
)
となし、
054
即座
(
そくざ
)
に
捕縛
(
ほばく
)
して
了
(
しま
)
つたのである。
055
てもさても
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
俗物
(
ぞくぶつ
)
位
(
くらゐ
)
困
(
こま
)
つた
者
(
もの
)
は
御座
(
ござ
)
らぬぞや。
056
オホヽヽヽ』
057
王
(
わう
)
『
其
(
その
)
身霊
(
みたま
)
の
宿
(
やど
)
つた
男子
(
だんし
)
は
如何
(
いかが
)
なされましたか』
058
千草
(
ちぐさ
)
『
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
番僧
(
ばんそう
)
付
(
つき
)
そひ、
059
待
(
ま
)
たせあれば、
060
汝
(
なんぢ
)
は
最敬礼
(
さいけいれい
)
を
以
(
もつ
)
てお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
して
来
(
きた
)
れ。
061
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
062
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
片腕
(
かたうで
)
ともなり、
063
汝
(
なんぢ
)
が
教政
(
けうせい
)
を
輔
(
たす
)
くる
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
ともなるべき、
064
現幽
(
げんいう
)
両用
(
りやうよう
)
の
大神人
(
だいしんじん
)
であるぞよ。
065
サ、
066
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
くお
迎
(
むか
)
へなされ』
067
王
(
わう
)
は『ハアハア』と
頭
(
あたま
)
をさげ
乍
(
なが
)
ら、
068
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
自
(
みづか
)
ら
走
(
はし
)
り
出
(
で
)
た。
069
警固
(
けいご
)
の
番僧
(
ばんそう
)
はハツと
驚
(
おどろ
)
き、
070
最敬礼
(
さいけいれい
)
を
施
(
ほどこ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
071
ガーデン
王
(
わう
)
は
捉
(
とら
)
はれ
人
(
びと
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき、
072
恐
(
おそ
)
れ
戦
(
おのの
)
き
乍
(
なが
)
ら、
073
王
(
わう
)
『これはこれは、
074
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
様
(
さま
)
、
075
分
(
わか
)
らぬ
臣下
(
しんか
)
共
(
ども
)
が、
076
いかい
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
仕
(
つかまつ
)
りました。
077
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
こちらへお
上
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
078
梅公
(
うめこう
)
は
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
ニコニコしてゐる。
079
護送
(
ごそう
)
の
番僧
(
ばんそう
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
080
手早
(
てばや
)
く
縄目
(
なはめ
)
をとき、
081
青
(
あを
)
くなり
無礼
(
ぶれい
)
を
陳謝
(
ちんしや
)
し、
082
猫
(
ねこ
)
に
追
(
お
)
はれし
鼠
(
ねずみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
0821
小
(
ちひ
)
さくなつて、
083
スゴスゴと
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
084
梅公
(
うめこう
)
『
拙者
(
せつしや
)
は、
085
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
より
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
の
命
(
めい
)
をうけ、
086
トルマン
国
(
ごく
)
を
救
(
すく
)
はむ
為
(
ため
)
、
087
人体
(
じんたい
)
を
顕
(
あら
)
はし
突然
(
とつぜん
)
現
(
あら
)
はれし
者
(
もの
)
、
088
当家
(
たうけ
)
には
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
089
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
090
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
091
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
の
筈
(
はず
)
、
092
どうか
其
(
その
)
居間
(
ゐま
)
へ
案内
(
あんない
)
めされ』
093
と
応揚
(
おうやう
)
にいふ。
094
ガーデン
王
(
わう
)
は
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が、
095
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
といふ
事
(
こと
)
は、
096
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
迄
(
まで
)
信
(
しん
)
じてゐたが、
097
今
(
いま
)
此
(
この
)
神人
(
しんじん
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて、
098
一層
(
いつそう
)
確信
(
かくしん
)
を
強
(
つよ
)
め、
099
ペコペコし
乍
(
なが
)
ら、
100
梅公
(
うめこう
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
101
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
を
指
(
さ
)
して
案内
(
あんない
)
する。
102
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
梅公
(
うめこう
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
103
益々
(
ますます
)
悦
(
えつ
)
に
入
(
い
)
り、
104
『ヤ、
105
これはこれは、
106
高宮彦
(
たかみやひこ
)
殿
(
どの
)
、
107
能
(
よ
)
くマア
妾
(
わらは
)
が
神業
(
しんげふ
)
を
助
(
たす
)
けむと、
108
お
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいました。
109
妾
(
わらは
)
は
神界
(
しんかい
)
に
於
(
おい
)
ては、
110
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
111
又
(
また
)
の
名
(
な
)
は
高宮姫
(
たかみやひめ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
112
ヨモヤお
忘
(
わす
)
れは
御座
(
ござ
)
いますまいなア』
113
梅
(
うめ
)
『いかにも、
114
某
(
それがし
)
は
高宮彦
(
たかみやひこ
)
に
間違
(
まちが
)
ひない。
115
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
余
(
よ
)
は
其
(
その
)
後
(
ご
)
天国
(
てんごく
)
に
昇
(
のぼ
)
り、
116
仙術
(
せんじゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
若返
(
わかがへ
)
り、
117
今
(
いま
)
は
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
絶世
(
ぜつせい
)
の
美男子
(
びだんし
)
となつて、
118
衆生
(
しゆじやう
)
を
済度
(
さいど
)
すべく
再臨
(
さいりん
)
したのだ。
119
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
殿
(
どの
)
、
120
最早
(
もはや
)
安心
(
あんしん
)
あつて
可
(
よ
)
からうぞ』
121
千草
(
ちぐさ
)
『
如何
(
いか
)
にも、
122
之
(
これ
)
にてトルマン
国
(
ごく
)
の
基礎
(
きそ
)
も
定
(
さだ
)
まり、
123
教王家
(
けうわうけ
)
の
祥兆
(
しやうてう
)
、
124
実
(
じつ
)
に
慶賀
(
けいが
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
125
ガーデン
王殿
(
わうどの
)
、
126
神界
(
しんかい
)
秘密
(
ひみつ
)
の
用事
(
ようじ
)
あれば、
127
暫
(
しばら
)
く
命令
(
めいれい
)
を
下
(
くだ
)
す
迄
(
まで
)
、
128
此
(
この
)
場
(
ば
)
をお
外
(
はづ
)
しなされ』
129
王
(
わう
)
『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりまして
御座
(
ござ
)
います。
130
御用
(
ごよう
)
が
御座
(
ござ
)
いましたら、
131
何時
(
いつ
)
なり
共
(
とも
)
、
132
お
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます。
133
左様
(
さやう
)
ならば、
134
高宮彦
(
たかみやひこ
)
様
(
さま
)
、
135
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
136
ゆつくりと
御
(
お
)
休
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
137
といひ
乍
(
なが
)
ら、
138
イソイソとして
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
139
梅公
(
うめこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
体
(
たい
)
を
崩
(
くづ
)
し、
140
大胡坐
(
おほあぐら
)
をかき
乍
(
なが
)
ら、
141
『オイ、
142
君
(
きみ
)
、
143
千草
(
ちぐさ
)
君
(
くん
)
、
144
否々
(
いないな
)
高姫
(
たかひめ
)
君
(
くん
)
、
145
能
(
よ
)
くもマア
化
(
ば
)
けたものだな。
146
どうだい、
147
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
又
(
また
)
一芝居
(
ひとしばゐ
)
打
(
う
)
たうぢやないか、
148
僕
(
ぼく
)
ア
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
だよ』
149
千草
(
ちぐさ
)
『
如何
(
いか
)
にも、
150
貴方
(
あなた
)
は
杢
(
もく
)
チヤンでしたかいな。
151
何
(
なん
)
とまア、
152
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
容色
(
きりよう
)
だ
事
(
こと
)
。
153
私
(
わたし
)
、
154
余
(
あま
)
り
変
(
かは
)
つてゐらつしやるので、
155
外
(
ほか
)
の
方
(
かた
)
だと
思
(
おも
)
つてゐましたよ』
156
梅
(
うめ
)
『
何
(
なん
)
とすごい
腕前
(
うでまへ
)
ぢやないか。
157
あれ
程
(
ほど
)
僕
(
ぼく
)
に
固
(
かた
)
い
約束
(
やくそく
)
をしておき
乍
(
なが
)
ら、
158
美
(
うつく
)
しい
男
(
をとこ
)
が
通
(
とほ
)
つたといつて、
159
其奴
(
そいつ
)
を
喰
(
くは
)
へ
込
(
こ
)
まうといふ
量見
(
りやうけん
)
だから、
160
本当
(
ほんたう
)
に
男
(
をとこ
)
は
可
(
よ
)
い
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
だ。
161
其
(
その
)
美貌
(
びばう
)
で、
162
なまめかしい
言葉
(
ことば
)
で、
163
あやかされて
了
(
しま
)
や、
164
どんな
硬骨
(
かうこつ
)
男子
(
だんし
)
でも、
1641
一
(
ひと
)
たまりもなく
参
(
まゐ
)
つて
了
(
しま
)
ふよ。
165
幸
(
さいは
)
ひ
僕
(
ぼく
)
は
時置師
(
ときおかし
)
の
本人
(
ほんにん
)
だから
可
(
よ
)
かつたものの、
166
さう
小口
(
こぐち
)
から
男
(
をとこ
)
を
喰
(
く
)
はへられちや
約
(
つま
)
らないからのう』
167
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽあれ
丈
(
だけ
)
、
168
固
(
かた
)
う
約束
(
やくそく
)
をしておいたものですもの……、
169
貴方
(
あなた
)
こそ、
170
可
(
よ
)
い
女
(
をんな
)
をみつけて、
171
妾
(
わらは
)
をみすて、
172
どつかへうろついて
居
(
を
)
つたのでせう。
173
本当
(
ほんたう
)
に
苛
(
ひど
)
いワ』
174
梅
(
うめ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
いふない。
175
僕
(
ぼく
)
ア、
176
お
前
(
まへ
)
の
所在
(
ありか
)
を
捜
(
さが
)
し
索
(
たづ
)
ねて、
177
殆
(
ほと
)
んど
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
、
178
彼方
(
かなた
)
此方
(
こなた
)
と
苦労
(
くらう
)
をして
居
(
を
)
つたが、
179
お
前
(
まへ
)
がハリマの
森
(
もり
)
の
神殿
(
しんでん
)
で
祈願
(
きぐわん
)
をこめてる
時
(
とき
)
、
180
後
(
うしろ
)
姿
(
すがた
)
をチラツと
見
(
み
)
て、
181
能
(
よ
)
くも
似
(
に
)
たりな
似
(
に
)
たりな、
182
高
(
たか
)
チヤンに
瓜二
(
うりふた
)
つ……だと
思
(
おも
)
ひ、
183
先
(
さき
)
へ
廻
(
まは
)
つて、
184
輿
(
こし
)
の
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
かうとした
時
(
とき
)
、
185
番僧
(
ばんそう
)
の
奴
(
やつ
)
に
取
(
と
)
つ
捕
(
つか
)
まつて
了
(
しま
)
つたのだ。
186
お
前
(
まへ
)
の
霊
(
みたま
)
は、
187
どこ
迄
(
まで
)
も
王妃
(
わうひ
)
の
霊
(
みたま
)
と
見
(
み
)
えて、
188
偉
(
えら
)
いものだのう』
189
千草
(
ちぐさ
)
『そらさうです
共
(
とも
)
、
190
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか。
191
ヤツパリ
上
(
うへ
)
になる
霊
(
みたま
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
上
(
うへ
)
にならねばなりませぬからな』
192
梅
(
うめ
)
『
時
(
とき
)
にお
前
(
まへ
)
、
193
之
(
これ
)
から
何
(
ど
)
うする
考
(
かんが
)
へだ。
194
俺
(
おれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
此処
(
ここ
)
を
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
し、
195
又
(
また
)
曲輪城
(
まがわじやう
)
でも
造
(
つく
)
つて
仲
(
なか
)
よう
暮
(
くら
)
す
気
(
き
)
はないか、
196
それが
聞
(
き
)
きたいのだ』
197
千草
(
ちぐさ
)
『そら、
198
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
なら
何
(
ど
)
うでも
致
(
いた
)
しますけれど、
199
これ
丈
(
だけ
)
立派
(
りつぱ
)
なトルマン
城
(
じやう
)
を
扣
(
ひか
)
え
乍
(
なが
)
ら、
200
別
(
べつ
)
に
曲輪城
(
まがわじやう
)
なんか
拵
(
こしら
)
へる
必要
(
ひつえう
)
はないぢやありませぬか。
201
これから
貴方
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
と、
202
此処
(
ここ
)
を
根拠
(
こんきよ
)
としてウラナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
となし、
203
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
天晴
(
あつぱれ
)
現
(
あら
)
はれたら
何
(
ど
)
うでせうかな』
204
梅
(
うめ
)
『あ、
205
それも
可
(
よ
)
からう。
206
そんなら
之
(
これ
)
から、
207
お
前
(
まへ
)
と
一
(
ひと
)
つ
内々
(
ないない
)
相談
(
さうだん
)
をしようか』
208
千草
(
ちぐさ
)
『どうか、
209
さう
願
(
ねが
)
ひませう』
210
梅
(
うめ
)
『
此
(
この
)
室
(
しつ
)
は
何
(
なん
)
だか
窮屈
(
きうくつ
)
でたまらない。
211
お
前
(
まへ
)
の
寝所
(
しんじよ
)
がないか。
212
どうか
其処
(
そこ
)
へ
案内
(
あんない
)
して
貰
(
もら
)
つて、
213
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
寝物語
(
ねものがたり
)
をやりたいものだがな』
214
千草
(
ちぐさ
)
『あ、
215
さう
願
(
ねが
)
ひませう。
216
ホヽヽ、
217
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづか
)
しいワ』
218
といひ
乍
(
なが
)
ら、
219
目尻
(
めじり
)
を
下
(
さ
)
げ、
220
梅公
(
うめこう
)
の
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて
己
(
おの
)
が
居間
(
ゐま
)
へと
伴
(
ともな
)
ひゆき、
221
ドアを
固
(
かた
)
くとざし、
2211
外
(
そと
)
から
開
(
あ
)
かない
様
(
やう
)
にして、
222
絹夜具
(
きぬやぐ
)
を
布
(
し
)
いて
二人
(
ふたり
)
は
枕
(
まくら
)
を
並
(
なら
)
べて
横
(
よこ
)
たはつて
了
(
しま
)
つた。
223
梅
(
うめ
)
『オイ
224
高
(
たか
)
チヤン、
225
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
だな』
226
千草
(
ちぐさ
)
『
本当
(
ほんたう
)
にお
久
(
ひさ
)
しう
御座
(
ござ
)
います』
227
梅
(
うめ
)
『お
前
(
まへ
)
が
自惚鏡
(
うぬぼれかがみ
)
の
前
(
まへ
)
で、
228
ウツトコを
映写
(
えいしや
)
してゐた
時分
(
じぶん
)
も
随分
(
ずいぶん
)
綺麗
(
きれい
)
だつたが、
229
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
比
(
くら
)
べてみて、
230
一入
(
ひとしほ
)
美
(
うつく
)
しうなつたぢやないか』
231
千草
(
ちぐさ
)
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
232
三十
(
さんじふ
)
年
(
ねん
)
も
若
(
わか
)
くなつたやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますワ。
233
これ
御覧
(
ごらん
)
なさい、
234
肌
(
はだ
)
の
艶
(
つや
)
なんか、
235
丸
(
まる
)
で
白金
(
はくきん
)
の
光
(
ひかり
)
のやうですわ。
236
併
(
しか
)
し
杢
(
もく
)
チヤンも
大変
(
たいへん
)
綺麗
(
きれい
)
になつたぢやありませぬか。
237
丸
(
まる
)
つ
切
(
き
)
り、
238
ダイヤモンドの
様
(
やう
)
な
239
体
(
からだ
)
から
光
(
ひかり
)
が
現
(
あら
)
はれるぢやありませぬか』
240
梅
(
うめ
)
『そらさうだらうかい。
241
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
の
天人
(
てんにん
)
の
霊
(
みたま
)
だもの、
242
併
(
しか
)
し
之
(
これ
)
から
大神業
(
だいしんげふ
)
を
開始
(
かいし
)
するに
就
(
つい
)
ては、
243
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
天下
(
てんか
)
に
向
(
むか
)
つて、
244
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わし
)
との
信用
(
しんよう
)
を
得
(
う
)
る
為
(
ため
)
、
245
仁恵令
(
じんけいれい
)
を
行
(
おこな
)
はねばなるまい。
246
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
247
牢獄
(
らうごく
)
の
囚人
(
しうじん
)
を
解放
(
かいはう
)
したらどうだ』
248
千草
(
ちぐさ
)
『ハイ、
249
恋
(
こひ
)
しき
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
250
否
(
いな
)
む
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
251
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
252
仁恵令
(
じんけいれい
)
を
行
(
おこな
)
ふ
様
(
やう
)
、
253
ガーデン
王
(
わう
)
に
申
(
まを
)
しつけませう。
254
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
特別
(
とくべつ
)
の
重大
(
ぢうだい
)
犯人
(
はんにん
)
丈
(
だけ
)
は
許
(
ゆる
)
すことは
出来
(
でき
)
ませぬ。
255
吾々
(
われわれ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
256
何時
(
いつ
)
危害
(
きがい
)
を
加
(
くは
)
へるか
知
(
し
)
れませぬからな』
257
梅
(
うめ
)
『ハヽヽヽ
高
(
たか
)
チヤン、
258
やつぱりお
前
(
まへ
)
は
女
(
をんな
)
だ。
259
そんな
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
をいふものぢやない。
260
牢獄
(
らうごく
)
に
一人
(
ひとり
)
の
囚人
(
しうじん
)
もゐない
様
(
やう
)
にするこそ、
261
仁恵
(
じんけい
)
といふものだ。
262
お
前
(
まへ
)
は
照国別
(
てるくにわけ
)
、
263
照公
(
てるこう
)
の
両
(
りやう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
気
(
き
)
にかけてゐる
様
(
やう
)
だが、
264
此
(
この
)
際
(
さい
)
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
放免
(
はうめん
)
した
方
(
はう
)
が、
265
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
お
前
(
まへ
)
の
信用
(
しんよう
)
が
上
(
あが
)
るか
知
(
し
)
れないよ。
266
城下
(
じやうか
)
の
噂
(
うはさ
)
を
聞
(
き
)
けば、
267
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
になつてゐるよ。
268
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
二人
(
ふたり
)
迄
(
まで
)
牢獄
(
らうごく
)
へ
打
(
うち
)
込
(
こ
)
むなんて、
269
怪
(
け
)
しからぬ
千草姫
(
ちぐさひめ
)
だ。
270
今
(
いま
)
クーデターを
行
(
おこな
)
ひ、
271
千草
(
ちぐさ
)
の
首
(
くび
)
を
取
(
と
)
り、
272
大衆
(
たいしう
)
の
怨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさにやおかぬ……とそれはそれはエライ
悪
(
わる
)
い
人気
(
にんき
)
だよ。
273
さうだから
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
274
お
前
(
まへ
)
がガーデン
王
(
わう
)
に
言
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
け、
275
仁恵
(
じんけい
)
を
行
(
おこな
)
ひ、
276
大衆
(
たいしう
)
の
疑
(
うたがひ
)
をはらせ…といふのだ。
277
之
(
これ
)
より
可
(
よ
)
い
方法
(
はうはふ
)
はないからなア』
278
千草
(
ちぐさ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
279
それも
一
(
ひと
)
つの
政策
(
せいさく
)
としては
可
(
よ
)
いかも
知
(
し
)
れませぬな。
280
時
(
とき
)
に
杢
(
もく
)
チヤンに
折入
(
をりい
)
つて
願
(
ねが
)
ひたいのは、
281
あのジヤンクといふ
奴
(
やつ
)
、
282
仲々
(
なかなか
)
の
したたか
者
(
もの
)
で、
283
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
神命
(
しんめい
)
でさへも
拒
(
こば
)
むといふ
剛腹者
(
がうばらもの
)
だから、
284
一寸
(
ちよつと
)
困
(
こま
)
つてゐるのよ。
285
何
(
なん
)
とかして
彼奴
(
あいつ
)
を
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
す
工夫
(
くふう
)
はありますまいかな』
286
梅
(
うめ
)
『ハヽヽ
吹
(
ふ
)
いたら
飛
(
と
)
ぶ
如
(
や
)
うなジヤンクが
何
(
なん
)
だ。
287
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
彼
(
かれ
)
を
放逐
(
はうちく
)
すると
却
(
かへつ
)
てお
前
(
まへ
)
の
人気
(
にんき
)
が
悪
(
わる
)
くなり、
288
大望
(
たいまう
)
の
邪魔
(
じやま
)
になるから、
289
あの
儘
(
まま
)
にしておけ。
290
今
(
いま
)
に
此
(
この
)
杢助
(
もくすけ
)
が
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げたが
最後
(
さいご
)
、
291
ジヤンク
何
(
なん
)
か、
292
谷底
(
たにぞこ
)
へ
一
(
ひと
)
けりに
蹴
(
け
)
り
落
(
おと
)
して
了
(
しま
)
ふ
考
(
かんが
)
へだからな』
293
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽ、
294
そらさうでせうな。
295
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
力量
(
りきりやう
)
はとつくに
承知
(
しようち
)
してをります。
296
広
(
ひろ
)
い
此
(
この
)
世界
(
せかい
)
に
貴方
(
あなた
)
に
優
(
まさ
)
る
豪傑
(
がうけつ
)
はないんですもの』
297
梅
(
うめ
)
『そらさうだ、
298
さ、
299
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
う
王
(
わう
)
を
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
して、
300
仁恵令
(
じんけいれい
)
を
行
(
おこな
)
ふべく
取計
(
とりはから
)
せたが
可
(
よ
)
からうぞ』
301
千草
(
ちぐさ
)
『
杢
(
もく
)
チヤン、
302
さう
急
(
せ
)
くにも
及
(
およ
)
ばぬぢやありませぬか。
303
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
焦
(
こが
)
れ
焦
(
こが
)
れた
男女
(
だんぢよ
)
が
面会
(
めんくわい
)
したのぢやありませぬか。
304
マア
今晩
(
こんばん
)
はゆつくりと
抱
(
だ
)
いて
寝
(
ね
)
て
下
(
くだ
)
さいな。
305
わたえモウ
杢
(
もく
)
チヤンの
面
(
かほ
)
みてから、
306
勇気
(
ゆうき
)
も
何
(
なに
)
もなくなり、
307
ヤヤ
子
(
こ
)
のやうになつて
了
(
しま
)
つたワ』
308
梅
(
うめ
)
『
人気
(
にんき
)
沸騰
(
ふつとう
)
し、
309
今
(
いま
)
やクーデターの
勃発
(
ぼつぱつ
)
せむとする
矢先
(
やさき
)
だもの、
310
一刻
(
いつこく
)
の
猶予
(
いうよ
)
も
出来
(
でき
)
ないよ。
311
早
(
はや
)
く
教王
(
けうわう
)
を
呼
(
よび
)
出
(
だ
)
して
仁恵令
(
じんけいれい
)
を
行
(
おこな
)
はしめなくちや、
312
安心
(
あんしん
)
して
寝
(
ね
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬぢやないか。
313
それさへ
済
(
す
)
めば、
314
十日
(
とをか
)
でも
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
でも、
315
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
でも
五
(
ご
)
年
(
ねん
)
でも、
316
お
前
(
まへ
)
にひつついて
放
(
はな
)
しやしないよ。
317
厭
(
いや
)
といふ
所
(
とこ
)
迄
(
まで
)
抱
(
だ
)
き
締
(
しめ
)
てやるからなア』
318
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽそんなら、
319
教王
(
けうわう
)
に
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
命令
(
めいれい
)
を
下
(
くだ
)
しておきます。
320
それさへ
済
(
す
)
めば
寝
(
ね
)
て
下
(
くだ
)
さるでせうな』
321
梅
(
うめ
)
『そらさうだ
共
(
とも
)
、
322
サ、
323
早
(
はや
)
くやつてくれ。
324
特別
(
とくべつ
)
急行
(
きふかう
)
で
頼
(
たの
)
むよ』
325
千草
(
ちぐさ
)
『
承知
(
しようち
)
しました。
326
飛行機
(
ひかうき
)
でやつつけませう、
327
ホヽヽヽ』
328
と
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
329
教王
(
けうわう
)
の
居間
(
ゐま
)
にソロリソロリと、
330
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げ、
331
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
羽搏
(
はばたき
)
し
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
332
教王
(
けうわう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にウラル
教
(
けう
)
の
経典
(
けうてん
)
を、
333
首
(
くび
)
をかたげて
調
(
しら
)
べてゐた。
334
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽ、
335
ガーデン
王殿
(
わうどの
)
、
336
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
勉強
(
べんきやう
)
、
337
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
338
誠
(
まこと
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つたぞや。
339
只今
(
ただいま
)
お
出
(
いで
)
遊
(
あそ
)
ばした
神人
(
しんじん
)
は、
340
天国
(
てんごく
)
にても
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
であつたぞや。
341
此
(
この
)
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
うた
上
(
うへ
)
は、
342
トルマン
城
(
じやう
)
は
大磐石
(
だいばんじやく
)
、
343
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なされ』
344
王
(
わう
)
『ハイ、
345
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
346
千草
(
ちぐさ
)
『
就
(
つい
)
ては
347
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
其方
(
そなた
)
に
申
(
まを
)
し
渡
(
わた
)
す
仔細
(
しさい
)
がある。
348
よつく
承
(
うけたま
)
はれ』
349
王
(
わう
)
『ハイ』と
俯
(
うつむ
)
く。
350
千草
(
ちぐさ
)
『
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
自
(
みづか
)
ら
教王
(
けうわう
)
の
居間
(
ゐま
)
に
現
(
あら
)
はれたのは、
351
余
(
よ
)
の
儀
(
ぎ
)
ではない。
352
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
五六七
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
開始
(
かいし
)
の
御
(
お
)
祝
(
いはひ
)
として、
353
牢獄
(
らうごく
)
の
囚人
(
しうじん
)
を、
354
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず、
355
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず、
356
仁恵令
(
じんけいれい
)
を
発布
(
はつぷ
)
して、
3561
放免
(
はうめん
)
せられよ。
357
之
(
これ
)
ぞ
全
(
まつた
)
く、
358
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
359
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
霊体
(
れいたい
)
、
360
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
361
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
神命
(
しんめい
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや』
362
ガーデン
王
(
わう
)
は『ハイ』と
答
(
こた
)
へて、
363
直
(
ただ
)
ちにジヤンクを
呼
(
よ
)
び、
364
牢獄
(
らうごく
)
の
囚人
(
しうじん
)
を
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
解放
(
かいはう
)
して
了
(
しま
)
つた。
365
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
366
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
つてみれば、
367
梅公
(
うめこう
)
はグウグウと
高鼾
(
たかいびき
)
をかいて、
368
他愛
(
たあい
)
もなく
眠
(
ねむ
)
つてゐる。
369
千草
(
ちぐさ
)
『コレ、
370
杢
(
もく
)
チヤン、
371
起
(
お
)
きて
下
(
くだ
)
さらぬかいな。
372
何
(
なん
)
ですか、
373
タマタマお
面
(
かほ
)
みせておいて、
374
本当
(
ほんたう
)
にスゲナイ
人
(
ひと
)
だワ。
375
もし、
376
杢
(
もく
)
チヤンつたら、
377
目
(
め
)
をあけて
下
(
くだ
)
さいな』
378
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
揺
(
ゆ
)
すつても、
379
呼
(
よ
)
んでも、
380
鱶
(
ふか
)
の
如
(
やう
)
な
高鼾
(
たかいびき
)
をかいて
一寸
(
ちよつと
)
も
気
(
き
)
がつかぬ。
381
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
382
梅公
(
うめこう
)
の
寝姿
(
ねすがた
)
を
少時
(
しばし
)
打
(
う
)
ち
見守
(
みまも
)
つてゐた。
383
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽ
何
(
なん
)
とマア、
384
気高
(
けだか
)
いお
面
(
かほ
)
だこと。
385
色
(
いろ
)
あく
迄
(
まで
)
も
白
(
しろ
)
く、
386
搗立
(
つきたて
)
の
餅
(
もち
)
のやうなお
面
(
かほ
)
の
生地
(
きぢ
)
、
387
眼許
(
めもと
)
涼
(
すず
)
しく、
388
鼻筋
(
はなすぢ
)
通
(
とほ
)
り、
389
口
(
くち
)
は
大
(
おほ
)
きくもなく、
390
小
(
ちひ
)
さくもなく、
391
お
髭
(
ひげ
)
の
具合
(
ぐあひ
)
といひ、
392
お
頭
(
つむ
)
の
髪
(
かみ
)
といひ、
393
肌
(
はだ
)
の
滑
(
なめ
)
らかさ、
394
お
爪
(
つめ
)
の
光沢
(
くわうたく
)
、
395
どこに
一
(
ひと
)
つ、
396
点
(
てん
)
の
打
(
う
)
ち
所
(
どころ
)
のない、
397
宇宙
(
うちう
)
第一
(
だいいち
)
の
美男子
(
びだんし
)
だワ。
398
こんな
美男子
(
びだんし
)
を
男
(
をとこ
)
に
持
(
も
)
つ
此
(
この
)
高
(
たか
)
チヤンは、
399
何
(
なん
)
といふ
仕合
(
しあはせ
)
者
(
もの
)
だらう。
400
ホヽヽヽ、
401
お
涎
(
よだれ
)
が
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
一合
(
いちがふ
)
許
(
ばか
)
り、
402
お
膝
(
ひざ
)
の
上
(
うへ
)
へこぼれよつたワ。
403
ガーデン
王
(
わう
)
のやうなド
茶瓶頭
(
ちやびんあたま
)
や、
404
キユーバーさまの
様
(
やう
)
な、
405
さいこ
槌頭
(
づちあたま
)
をみてゐた
目
(
め
)
には、
406
一入
(
ひとしほ
)
立派
(
りつぱ
)
に
見
(
み
)
えて
堪
(
たま
)
らないワ。
407
味
(
あぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
腐
(
くさ
)
つたドブ
漬
(
づけ
)
を
食
(
く
)
た
口
(
くち
)
で、
408
特製
(
とくせい
)
の
羊羹
(
やうかん
)
を
食
(
く
)
た
時
(
とき
)
の
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がするのだもの、
409
ホヽヽヽ。
410
ても
偖
(
さて
)
も
愛
(
あい
)
らしい、
411
凛々
(
りり
)
しい、
412
男
(
をとこ
)
らしい、
413
神
(
かみ
)
さまらしいお
姿
(
すがた
)
だこと』
414
と
面
(
かほ
)
を
撫
(
な
)
でたり、
415
目
(
め
)
をあけてみたり、
416
なぶり
物
(
もの
)
にして
楽
(
たのし
)
んでゐる。
417
時
(
とき
)
しも
城外
(
じやうぐわい
)
の
牢獄
(
らうごく
)
の
囚人
(
しうじん
)
を
解放
(
かいはう
)
した
為
(
ため
)
、
418
囚人
(
しうじん
)
が
一斉
(
いつせい
)
に『
万歳
(
ばんざい
)
々々
(
ばんざい
)
』と
叫
(
さけ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
、
419
窓
(
まど
)
ガラスを
通
(
とほ
)
して
響
(
ひび
)
き
来
(
く
)
る。
420
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽ
杢
(
もく
)
チヤンの
御
(
ご
)
発明
(
はつめい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
421
牢獄
(
らうごく
)
の
囚人
(
しうじん
)
が
解放
(
かいはう
)
され、
422
万歳
(
ばんざい
)
を
叫
(
さけ
)
んでゐる
様
(
やう
)
だ。
423
囚人
(
しうじん
)
も
万歳
(
ばんざい
)
だらうが、
424
此
(
この
)
高
(
たか
)
チヤンも
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
美男子
(
びだんし
)
に
会
(
あ
)
うて
万々歳
(
ばんばんざい
)
だワ、
425
オホヽヽヽ』
426
梅
(
うめ
)
『あーあーあ』
427
と
欠伸
(
あくび
)
し
乍
(
なが
)
ら、
428
両手
(
りやうて
)
をヌツと
伸
(
の
)
ばし、
429
梅
(
うめ
)
『ヤア、
430
高
(
たか
)
チヤン、
431
お
前
(
まへ
)
そこにゐたのか』
432
千草
(
ちぐさ
)
『ハイ、
433
ゐました
共
(
とも
)
、
434
貴方
(
あんた
)
どうですか。
435
何程
(
なんぼ
)
ゆり
起
(
おこ
)
しても、
436
喚
(
わめ
)
いても
起
(
おき
)
て
下
(
くだ
)
さらぬのだもの』
437
梅
(
うめ
)
『オイ、
438
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
容物
(
いれもの
)
、
439
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
亡
(
な
)
きがら、
440
高姫
(
たかひめ
)
の
再来
(
さいらい
)
、
441
しつかり
聞
(
き
)
け。
442
俺
(
おれ
)
は
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
でも
何
(
なん
)
でもない。
443
三五教
(
あななひけう
)
を
守護
(
しゆご
)
する
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
444
言霊別
(
ことたまわけ
)
のエンゼルだ』
445
といふより
早
(
はや
)
く、
446
大光団
(
だいくわうだん
)
となつて、
447
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
両眼
(
りやうがん
)
を
射
(
い
)
乍
(
なが
)
ら、
448
窓
(
まど
)
の
隙間
(
すきま
)
より、
449
音
(
おと
)
もなく
出
(
で
)
て
了
(
しま
)
つた。
450
依然
(
いぜん
)
として
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
万歳
(
ばんざい
)
の
声
(
こゑ
)
、
451
間断
(
かんだん
)
なく
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る。
452
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
余
(
あま
)
りの
驚
(
おどろ
)
きに
暫
(
しば
)
しの
間
(
あひだ
)
は
失心
(
しつしん
)
して
了
(
しま
)
つた。
453
(
大正一四・八・二五
旧七・六
於丹後由良秋田別荘
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