第一五章 地位転変〔一七八二〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:第2篇 千種蛮態
よみ(新仮名遣い):せんしゅばんたい
章:第15章 地位転変
よみ(新仮名遣い):ちいてんぺん
通し章番号:1782
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日)
口述場所:丹後由良 秋田別荘
筆録者:松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:千草姫は王に対して、自分を神として崇めるように強要している。王は姫が発狂したと思い、狂人に下手に逆らってますます病気を強めてしまわないようにと、黙っていうことを聞いている。
千草姫は平伏した王の頭に左右の足を交互に乗せてうーんと唸った。千草姫は、つま先から王に悪霊を注入したのである。これによって王はがらりと心気一転し、千草姫を活き神と信じるようになってしまった。
千草姫は、三五教の宣伝使、照国別・照公を投獄すること、太子と王女チンレイを修行という名目で城から追い出すこと、またジャンクを数日のうちに追放するように、と命じる。
太子と王女は、レールとマークをたよって城を出る。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7015
愛善世界社版:189頁
八幡書店版:第12輯 460頁
修補版:
校定版:194頁
普及版:96頁
初版:
ページ備考:
001 千草姫は王の居間に羽搏きし乍ら、002仕舞でも舞ふやうなスタイルで横柄面をさらして入り来り、003言も荘重に、
004『トルマン国の国王、005ガーデン王殿、006三千世界の救世主、007底津岩根の大みろくの太柱、008第一霊国の天人日の出神の生宮の託宣を、009耳をさらへてお聞下され。010肉体は千草姫であつても、011霊は日の出神の誠生粋の水晶魂、012此世の救主として現はれたので御座るぞや。013其方の目から見た時は、014此生宮を気違ひと思ふであらう。015誠の神に間違ひは御座らぬぞや』
016 ガーデン王は千草姫の此態を見て、017不審の眉をひそめ、018あゝ困つた事が出来たわい。019たうとう王妃は発狂して了つた。020併し乍ら気のたつてる時に逆らふは、021益々病気を強める道理、022少時彼が云ふ事を黙つて聞いてやらう……と決心し、
023王『成程其方は日の出神の生宮であらう。024如何なる用か、025聞かしてくれ』
026千草『これは怪しからぬ汝が言葉、027無礼であらうぞや。028日の出神に対して聞かしてくれ……とは何たる暴言、029頭が高い、030お坐りなされ。031三千世界の因縁を説いて聞かしてやらうぞや』
033と不承不承に椅子を離れて座に着けば、034千草姫はニコニコし乍ら、
035千草『ホヽヽヽヽヽ、036流石はトルマン国の王ぢや、037此日の出神をよく見届けた。038褒美には之をつかはす。039有難ふ頂戴召され』
040と云ひ乍ら、041刹帝利のピカピカ光つた禿頭の上へ、042左の片足をドツカと載せ『ウーン ウーン』と二声唸り乍ら、043左の足を下ろし、044又右の足を同じく頭上にのせ『ウーン ウーン』と又もや二声……『ホヽヽヽヽヽ』と笑ひ悠々として床の間に直立し、
045千草『如何にガーデン王、046よつく承はれ。047セーロン島の浄飯王が太子悉達は壇特山や霊鷲山に上り、048五ケ年の修業の後仏果を得て帰国し、049父の浄飯王に仏足を頂礼せしめた例しがある。050畏れ多くも底津岩根の大みろくの太柱、051第一霊国の天人、052日の出神の御神足を、053両足共頂戴致したる汝こそは、054三千世界の果報者、055有難く感謝致されよ。056日の出神に間違ひは御座らぬぞや』
057 ガーデン王は始めの間は何だか怪しいと思つてゐたが、058千草姫の足を頭にのせられてから、059ガラリと心機一転し、060全くの活神と固く固く信ずる様になつた。061サア斯うなつては、062最早城内の整理は中心を失ひ、063手のつけやうもなくなつて了つた。
064千草『ガーデン王殿、065此千草姫の肉体は、066今日迄は汝が妃として、067神界より許しありしも、068いよいよ天の時節到来し、069三千世界の救世主と現はれたれば、070最早汝の妃ではない程に、071汝は之より日の出神の肉宮が弟子となり、072絶対服従を誓つて、073何事にも違背せず尽すであらうなア』
074王『ハイ、075仰せ迄もなく、076どんな御用でも承はりませう』
077千草『オホヽヽヽヽ、078満足々々、079上が下になり、080下が上になり、081天地がかへる神の仕組、082今迄の夫は妻の弟子となり、083今迄の妻は其夫を弟子として使ふ神の経綸、084斯くなる上はガーデン王、085其方は日の出神の神勅を奉じ、086三千世界の救世主が副柱なる名僧キユーバーを、087一時も早く捜し出し、088此城内に伴れ帰れよ。089違反に及ばば神罰立所に至るであらう』
090王『ハイ、091委細承知致しましたが、092彼れキユーバーは如何なりしか、093破獄逃走致しました故、094内々人を派し、095捜索致して居りまするが、096未だ何の吉報も得ませぬ。097少時の御猶予を願ひ奉りまする』
098千草『汝の言にして間違ひなくば、099大方ジヤンクが隠して居るのだらう』
100王『いやいや決して決して、101左様な道理は御座いませぬ。102彼はキユーバーを一時も早く救はむと、103私かに相談致しました。104早速ジヤンクの願ひを許し、105牢獄に人を派し査べ見れば、106彼れキユーバーは早くも何者にかさらはれ、107行方不明となつて居りました』
108千草『あ、109さうであらう さうであらう、110ヤ分つた分つた。111此張本人は三五教の宣伝使照国別、112照公の両人に間違ひはなからう。113一時も早く彼をふん縛り、114キユーバーを押込めありし牢獄へ、115時を移さず打込めよ。116これ決して肉体の千草姫が言葉でない。117底津岩根の大みろくが神勅で御座るぞや』
118王『御神勅は恐れ入りまするが、119何と云つても、120国家の危急を救ひ下された照国別の宣伝使を、121何の科もなく牢屋に押込むなど云ふことは情に置て出来ませぬ。122之許りは御容赦を願ひます』
123千草『オホヽヽヽヽ、124何馬鹿な事を申すか、125三千世界一度に見えすく生神の目で一目睨んだならば、126決して間違ひは御座らぬぞ。127汝頑強にも吾神勅を拒むに於ては、128立所に汝が生命をとるが、129それでも可いか、130返答聞かう』
131王『いや、132少時御待ち下さいませ。133然らば御神勅の通り、134照国別、135照公神司を、136手段を以てふん縛り、137牢獄へ投込んでお目にかけませう』
138千草『ウ、139よしよし、140それで神は満足致した。141トルマン城は万々歳、142七千余国の月の国は申すに及ばず、143此地の上にありとあらゆる国は、144残らず汝の支配にしてやらう。145僅三十万の人民の父として、146可惜一生を暮すも惜しいでないか。147どうぢや合点がいつたか』
148王『ハイ、149委細承知致しまして御座います』
150千草『ヤ、151満足々々。152次に其方に申し渡すことがある。153太子チウイン、154王女チンレイを修行の為155一笠一蓑の旅人として一杖を与へ、156一時も早く当城を出立せしめられよ』
157王『仰せには御座いまするが158私も老年、159太子がゐなくては、160国家の中心人物を失ふ道理、161又王女チンレイは少し許り病身で御座いますれば、162之許りはモ一度御考への上御猶予を願ひたう御座います』
163千草『愚なり、164ガーデン王。165日の出神の生宮が底津岩根の大みろくと現はれた以上は、166三千世界を一つに丸め、167汝が支配の下におかむとす。168汝は已に老齢、169後継者の太子には広く世間を見聞せしめおく必要あり。170諺にも可愛い子には旅をさせと申すでないか。171汝は子の愛に溺れて、172大切な吾子の幸福を抹殺せむと致すか、173不届至極の腰抜爺イ奴』
174王『イヤ分りまして御座ります。175太子は修行の為、176神勅に従ひ、177旅に出すことと致しませうが、178病身なる妹に旅の苦労を致させるのは親として忍びませぬ。179どうぞこれ許りは御猶予を御願ひ申したう御座ります』
180千草『ハテ偖、181分らぬ爺イだな。182神に絶対服従を誓つたでないか。183王女チンレイは此門を出づるや否や、184病魔は忽ち退散し、185金鉄の如き壮健な肉体となるであらう。186神の言葉に間違ひはないぞ。187返答は何うだ』
188王『左様ならば御神勅に従ひ、189両人に其由を伝へませう』
190千草『ガーデン王、191天晴々々、192汝の改慎に仍つて、193速かに神政成就、194ミロクの世が出現致すであらうぞ』
195王『ハイ有難う存じまする』
196千草『モ一つ其方に申し渡す事がある。197之も絶対服従致すであらうなア』
199千草『汝はジヤンクを以て、200政治の枢機に任じてゐるが、201彼が如き田舎者、202どうして神の創りしトルマン国の政治が出来ようぞ。203彼は吾国家の爆裂弾だ。204八岐大蛇の霊だ。205一時も早く当城を逐ひ出せ』
206王『これ許りは必要な人物で御座いますから、207どうぞ御猶予を願ひたう御座います』
208千草『三日の猶予を致すに仍つて、209それ迄に篤と云ひ聞かせ、210城内を追つ払ふべし。211併し乍ら彼れジヤンクに於て、212キユーバー上人の在所を尋ね、213城内に御迎ひ申し来るに於ては、214国政の一部を其褒美として任しても差支なからう。215イヤ刹帝利殿、216御苦労で御座つた。217居間へ下つて休息召され。218最前から神の申し渡した一伍一什、219必ず落度のなき様、220明日迄に実行せよ』
221と云ひ乍ら、222又もや両手を一の字に開き、223反り返つて床の間を下り、224悠々として吾寝室指して帰り行く。
225 ガーデン王は千草姫に足の爪先から悪霊を注入され、226俄に心機一転し、227殆ど邪神の神憑状態となつて了つた。228金毛九尾の悪狐は首尾よくトルマン城を占領したのである。
229 太子と王女は父母両親の厳命を拒む術もなく、230旅に出かけると称し、231数万の金を用意し遍路姿となつて、232日の暮るる頃、233レール、234マークの住家を指して訪ね行き、235門口に立つて、236チリンチリンと鈴を振つてゐる。237レール、238マークは昼は互に岩窟の番人をやつてゐたが、239丁度此時、240男女四人食卓を共にしてゐる真最中であつた。241太子は門に立つて、242鈴を振り乍ら『頼まう頼まう』とおとなへば、243マークは戸の隙間より外面を窺ひて、
244マ『ヤ、245夫婦の巡礼さま、246何用か知らないが、247斯様な貧民窟へ来た所で、248何一つ上げる物はない、249トツトと帰つて下さい。250斯様な狭い家へ、251今頃に来た所で泊めてやる訳にも行かず、252お断り申します』
253太『イヤ、254愚僧は決して怪しき者で御座らぬ。255レール、256マーク殿の知人で御座れば、257どうか此の戸を開けて貰ひたい』
258レ『ヤ、259スパイの奴、260化けて来やがつたな、261コラ大変だ。262姫さまを隠さねばなるまい。263サア姫さま、264済みませぬが、265此戸棚の中へ一寸入つてゐて下さいませ』
266テイラ『ホヽヽヽヽヽ、267さう慌るには及びませぬよ。268何か城内に急変が起つたと見え、269太子様が変装してお出になつたので御座いますワ。270あのお声は太子様に間違ひ御座いませぬ』
271と云ひ乍ら、272テイラはガラガラと破戸を開き、
273『ヤ、274太子様275よう御越し下さいました』
276 太子は『ウン』と云つた切り、277チンレイと共に内に入る。
278(大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)