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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第六章
鬼遊婆
(
きいうば
)
〔一七七三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第1篇 花鳥山月
よみ(新仮名遣い):
かちょうさんげつ
章:
第6章 鬼遊婆
よみ(新仮名遣い):
きゆうば
通し章番号:
1773
口述日:
1925(大正14)年08月23日(旧07月4日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
場面は変わって、気味の悪い黄昏時の情景。一面の枯草に血生臭い風。烏は鳴き、不気味な虫が草原一面に人の血を吸おうと潜んでいる。
そこへ高姫がやってくる。高姫は、三年間、中有界にとめおかれて、修行を命ぜられていたのであった。高姫は一人の亡者を弟子に連れ、自分は現界に立ち働いているつもりで、道行く人をウラナイ教にひっぱりこもうと待ち構えていたのであった。
弟子のトンボはあまりの閑古鳥と高姫の人使いの荒さに文句を言い、逃げようとしたところをつかまれて、ばったり倒れてしまった。
そこへやってきたのは、八衢に彷徨っているキューバーであった。高姫はこれ幸いとキューバーに宣伝をはじめ、自分のあばら家に引っ張り込もうとする。
キューバーは宿を探していたところへ、渡りに舟と、高姫についていく。トンボは、二人がどんな相談を始めるやら窺いに、高姫の破れ屋に足音を忍ばせてつけていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7006
愛善世界社版:
72頁
八幡書店版:
第12輯 416頁
修補版:
校定版:
73頁
普及版:
38頁
初版:
ページ備考:
001
黄昏時
(
たそがれどき
)
に
頭
(
あたま
)
から
壺
(
つぼ
)
をかぶつたやうな
空
(
そら
)
の
色
(
いろ
)
、
002
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
血腥
(
ちなまぐ
)
さい、
003
腸
(
はらわた
)
の
抉
(
えぐ
)
れる
如
(
や
)
うな
風
(
かぜ
)
がピユーピユーと
吹
(
ふ
)
いてゐる。
004
痩
(
やせ
)
こけた
烏
(
からす
)
が
二三羽
(
にさんば
)
、
005
羽衣
(
はごろも
)
を
脱
(
ぬ
)
いだ
柿
(
かき
)
の
木
(
き
)
の
枝
(
えだ
)
に
梢
(
こずゑ
)
諸共
(
もろとも
)
空腹
(
すきばら
)
を
抱
(
かか
)
へて
慄
(
ふる
)
ふてゐる。
006
地上
(
ちじやう
)
は
枯草
(
かれくさ
)
が
一面
(
いちめん
)
に
生
(
お
)
ひ
立
(
た
)
ち、
007
処
(
ところ
)
まんだら
赤
(
あか
)
い
生地
(
きぢ
)
を
現
(
あら
)
はしてゐる。
008
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ、
009
いやらしい
虫
(
むし
)
が
枯草
(
かれくさ
)
を
一面
(
いちめん
)
に
取
(
と
)
りかこみ、
010
人
(
ひと
)
の
香
(
にほひ
)
がすると
一斉
(
いつせい
)
に
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
り、
011
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
を
吸
(
す
)
はうとして
待
(
ま
)
ちかまへてゐる。
012
そこへ
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
たのは、
013
三
(
さん
)
年間
(
ねんかん
)
中有界
(
ちううかい
)
にとめおかれ、
014
修業
(
しうぎやう
)
を
命
(
めい
)
ぜられたウラナイ
教
(
けう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
であつた。
015
高姫
(
たかひめ
)
は
新規
(
しんき
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
一人
(
ひとり
)
伴
(
ともな
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
016
自分
(
じぶん
)
はヤツパリ
現界
(
げんかい
)
に
立
(
たち
)
働
(
はたら
)
いてゐるつもりで、
017
野分
(
のわけ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
乍
(
なが
)
ら、
018
東海道
(
とうかいだう
)
五十三
(
ごじふさん
)
次
(
つぎ
)
のやうな
弊衣
(
へいい
)
を
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
ひ、
019
新弟子
(
しんでし
)
のトンボと
一緒
(
いつしよ
)
に
道
(
みち
)
行
(
ゆ
)
く
人
(
ひと
)
を
引張
(
ひつぱり
)
込
(
こ
)
まむと
待
(
まち
)
構
(
かま
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
020
トンボ『もし
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
、
021
もういい
加減
(
かげん
)
に
帰
(
かへ
)
らうぢやありませぬか。
022
何
(
なん
)
だか
此
(
この
)
街道
(
かいだう
)
は
淋
(
さび
)
しくて
淋
(
さび
)
しくて
犬
(
いぬ
)
の
子
(
こ
)
一匹
(
いつぴき
)
通
(
とほ
)
らぬぢやありませぬか。
023
何時
(
いつ
)
まで
蜘蛛
(
くも
)
が
巣
(
す
)
をかけて
蝉
(
せみ
)
がとまるのを
待
(
ま
)
つやうにして
居
(
を
)
つても、
024
蝉
(
せみ
)
が
来
(
こ
)
なくちや
駄目
(
だめ
)
でせう』
025
高姫
(
たかひめ
)
『これ、
026
トンボ、
027
お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
028
仮令
(
たとへ
)
人間
(
にんげん
)
が
通
(
とほ
)
らなくても、
029
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
が
此処
(
ここ
)
に
出張
(
しゆつちやう
)
して
居
(
を
)
れば、
030
沢山
(
たくさん
)
の
霊
(
みたま
)
が
通
(
とほ
)
つて
大弥勒
(
おほみろく
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
に
触
(
ふ
)
れ、
031
御光
(
ごくわう
)
に
照
(
てら
)
され、
032
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
が
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
乍
(
なが
)
ら、
033
お
蔭
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
天国
(
てんごく
)
へ
上
(
のぼ
)
るのだぞえ。
034
それだから
肉体人
(
にくたいじん
)
が
来
(
こ
)
なくても、
035
霊界人
(
れいかいじん
)
が
来
(
き
)
さへすればいいのだ。
036
お
前
(
まへ
)
の
俗眼
(
ぞくがん
)
では
一人
(
ひとり
)
も
人間
(
にんげん
)
が
来
(
こ
)
ないやうに
見
(
み
)
えるだらうが、
037
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
の
目
(
め
)
には、
038
今朝
(
けさ
)
から
八万
(
はちまん
)
人
(
にん
)
許
(
ばか
)
り
来
(
き
)
たのだよ。
039
それはそれは
忙
(
いそが
)
しい
事
(
こと
)
だよ。
040
お
前
(
まへ
)
も
肉体
(
にくたい
)
が
曇
(
くも
)
つてゐるので、
041
あれ
丈
(
だ
)
けの
亡者
(
まうじや
)
が
一人
(
ひとり
)
も
目
(
め
)
につかぬのは
無理
(
むり
)
もない。
042
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今朝
(
けさ
)
から
通
(
とほ
)
つた
八万
(
はちまん
)
人
(
にん
)
の
亡者
(
まうじや
)
が、
043
お
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て
羨
(
うらや
)
ましさうにしてゐたよ』
044
ト『
何故
(
なぜ
)
又
(
また
)
私
(
わたし
)
のやうな
不幸者
(
ふしあわせもの
)
を
羨
(
うらや
)
ましさうにして
通
(
とほ
)
るのでせうか。
045
サツパリ
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
きませぬがな』
046
高
(
たか
)
『それだからお
前
(
まへ
)
は
盲
(
めくら
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
047
目
(
め
)
が
見
(
み
)
えぬと
黄金
(
こがね
)
の
台
(
うてな
)
に
坐
(
すわ
)
つて
居
(
を
)
つても、
048
泥
(
どろ
)
の
中
(
なか
)
に
突込
(
つきこ
)
まれて
居
(
を
)
るやうな
気
(
き
)
がするものだよ。
049
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
050
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大弥勒
(
おほみろく
)
、
051
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
直々
(
ぢきぢき
)
の
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
052
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
勿体
(
もつたい
)
ないお
前
(
まへ
)
は
量見
(
れうけん
)
だえ。
053
お
前
(
まへ
)
のやうな
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
をさして
貰
(
もら
)
ふものは、
054
何処
(
どこ
)
にあるものか。
055
それだから
八万
(
はちまん
)
人
(
にん
)
の
精霊
(
せいれい
)
が
羨
(
うらや
)
ましさうにして
通
(
とほ
)
つたのだよ』
056
ト『ヘーン、
057
妙
(
めう
)
ですな』
058
高
(
たか
)
『これ、
059
トンボ、
060
トンボーもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさるな。
061
「ヘーン、
062
妙
(
めう
)
ですな」とは
何
(
なん
)
だい。
063
この
生宮
(
いきみや
)
さまをお
前
(
まへ
)
さまは
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
を
)
るのだな。
064
そんな
量見
(
れうけん
)
で
生宮
(
いきみや
)
の
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
を
)
ると
神罰
(
しんばつ
)
が
立所
(
たちどころ
)
に
当
(
あた
)
つて、
065
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
にし、
066
足
(
あし
)
を
上
(
うへ
)
にしてトンボ
返
(
がへ
)
りをせねばならぬぞや。
067
チツト
心得
(
こころえ
)
なされ』
068
ト『
私
(
わたし
)
やこの
間
(
あひだ
)
から、
069
余
(
あま
)
り
辛
(
つら
)
いのと
馬鹿
(
ばか
)
らしいので
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
の
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
070
うまくトンボ(
遁亡
(
とんぼう
)
)しようかと
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
りましたが、
071
私
(
わたし
)
を
羨
(
うらや
)
むやうな
人物
(
じんぶつ
)
が
八万
(
はちまん
)
人
(
にん
)
も
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
通
(
とほ
)
るかと
思
(
おも
)
へば、
072
何処
(
どこ
)
に
行
(
い
)
つても
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
073
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
のお
側
(
そば
)
にマアしばらく
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
きませう』
074
高
(
たか
)
『これ、
075
トンボ、
076
そら
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふぢやいな。
077
暫
(
しばら
)
く
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
くとは
罰当
(
ばちあた
)
り
奴
(
め
)
、
078
そんな
量見
(
れうけん
)
で
居
(
を
)
るやうな
ガラクタ
なら、
079
今日
(
けふ
)
から
暇
(
ひま
)
をやる。
080
サア、
081
トツトと
帰
(
かへ
)
つておくれ。
082
お
前
(
まへ
)
が
居
(
を
)
らなくても
肉体
(
にくたい
)
は
女
(
をんな
)
だから
炊事
(
すゐじ
)
万端
(
ばんたん
)
お
手
(
て
)
のものだよ。
083
無用
(
むよう
)
の
長物
(
ちやうぶつ
)
、
084
ウドの
大木
(
たいぼく
)
、
085
体見
(
がらみ
)
倒
(
だふ
)
しの
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
だな。
086
之
(
これ
)
からトンボと
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
を
改名
(
かいめい
)
して、
087
トンマ
野郎
(
やらう
)
と
云
(
い
)
ふてやらう。
088
それがお
前
(
まへ
)
の
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うてるだろ』
089
ト『
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
090
トンマ
野郎
(
やらう
)
とは、
0901
ひどいぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか』
091
高
(
たか
)
『ヘン、
092
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
093
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大弥勒
(
おほみろく
)
、
094
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
095
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
のお
側
(
そば
)
に
御用
(
ごよう
)
さして
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
るのぢやないか、
096
何程
(
なにほど
)
賢
(
かしこ
)
い
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
でも、
097
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
の
目
(
め
)
から
見
(
み
)
れば、
098
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
皆
(
みな
)
トンマ
野郎
(
やらう
)
だよ。
099
大学
(
だいがく
)
の
博士
(
はかせ
)
だつてトンマ
野郎
(
やらう
)
だ。
100
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
や
衆議院
(
しうぎゐん
)
議員
(
ぎゐん
)
になるやうな
奴
(
やつ
)
は
101
尚々
(
なほなほ
)
トンマ
野郎
(
やらう
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だ。
102
お
前
(
まへ
)
も
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
や
博士
(
はかせ
)
と
同
(
おな
)
じ
称号
(
しようがう
)
を
生宮
(
いきみや
)
から
与
(
あた
)
へられたのだから、
103
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
しなさい』
104
ト『
生宮
(
いきみや
)
さま、
105
それでもあまりぢや
御座
(
ござ
)
りませぬか。
106
どうか
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りトンボと
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
107
高
(
たか
)
『さうだ。
108
そんならお
前
(
まへ
)
は
ドン
臭
(
くさ
)
い
男
(
をとこ
)
だから、
109
ドンボと
呼
(
よ
)
んで
上
(
あ
)
げよう。
110
トンマ
野郎
(
やらう
)
とは
少
(
すこ
)
し
マシ
だからな。
111
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大弥勒
(
おほみろく
)
様
(
さま
)
、
112
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
113
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢやぞえ』
114
ト『もしもし
生宮
(
いきみや
)
さま、
115
もうその
長
(
なが
)
たらしいお
名前
(
なまへ
)
は
聞
(
き
)
き
たんのう
致
(
いた
)
しました。
116
どうぞ
簡単
(
かんたん
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな。
117
法性寺
(
ほふじやうじ
)
入道
(
にふだう
)
と
間違
(
まちが
)
ひますがな』
118
高
(
たか
)
『こりや、
119
トンマ
野郎
(
やらう
)
、
120
そらナーン
吐
(
ぬ
)
かしてけつかるのだ。
121
トンマ
野郎
(
やらう
)
が
嫌
(
いや
)
なら、
122
ドンマ
野郎
(
やらう
)
にして
上
(
あ
)
げよう。
123
ああア、
124
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
碌
(
ろく
)
な
奴
(
やつ
)
は
一匹
(
いつぴき
)
も
居
(
ゐ
)
やアしないわ。
125
アゝゝゝゝ
呆
(
あき
)
れた。
126
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
早速
(
さつそく
)
には
塞
(
ふさ
)
がりませぬわい、
127
イヽヽヽヽ
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
経
(
た
)
つても
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
経
(
た
)
つても
生宮
(
いきみや
)
の
申
(
まを
)
すことが
分
(
わか
)
らず、
128
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ず、
129
イケ
好
(
す
)
かない
野郎
(
やらう
)
だな。
130
ウヽヽヽヽ
煩
(
うる
)
さい
程
(
ほど
)
、
131
口
(
くち
)
が
酸
(
すつぱ
)
くなる
程
(
ほど
)
、
132
毎日
(
まいにち
)
日々
(
ひにち
)
烏
(
からす
)
の
啼
(
な
)
かぬ
日
(
ひ
)
があつてもコケコーが
歌
(
うた
)
はぬ
朝
(
あさ
)
があるとも、
133
撓
(
たゆ
)
まず
屈
(
くつ
)
せず
御
(
お
)
説教
(
せつけう
)
してやるのに、
134
エヽヽヽヽ
会得
(
ゑとく
)
が
行
(
ゆ
)
かぬとは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
135
オヽヽヽヽおそろしう
大馬鹿
(
おほばか
)
だろ。
136
カヽヽヽヽ
噛
(
か
)
んでくくめるやうに、
137
日夜
(
にちや
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
説教
(
せつけう
)
も、
138
馬
(
うま
)
の
耳
(
みみ
)
に
風
(
かぜ
)
吹
(
ふ
)
く
如
(
ごと
)
く、
139
キヽヽヽヽ
聞
(
き
)
いては
呉
(
く
)
れず、
140
キマリの
悪
(
わる
)
い
面付
(
つらつき
)
をして、
141
クヽヽヽヽ
喰
(
く
)
ひ
物
(
もの
)
許
(
ばか
)
り
目
(
め
)
をつけ、
142
苦労
(
くらう
)
許
(
ばか
)
り
人
(
ひと
)
にかけやがつて、
143
ケヽヽヽヽ
怪
(
け
)
しからぬ
怪体
(
けつたい
)
な
獣
(
けもの
)
だよ。
144
コヽヽヽヽこんな
事
(
こと
)
でどうして
此
(
この
)
法城
(
ほふじやう
)
が
保
(
たも
)
てると
思
(
おも
)
ふかい。
145
サヽヽヽヽ
扨
(
さて
)
も
扨
(
さて
)
も
困
(
こま
)
つた、
146
シヽヽヽヽしぶとい
代物
(
しろもの
)
だな。
147
死
(
しに
)
損
(
ぞこな
)
ひの
腰抜
(
こしぬ
)
けと
云
(
い
)
ふのはお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だぞえ。
148
スヽヽヽヽ
少
(
すこ
)
しは
生宮
(
いきみや
)
の
心
(
こころ
)
も
推量
(
すいりやう
)
し、
149
進
(
すす
)
んで
神国
(
しんこく
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
為
(
ため
)
に
大活動
(
だいくわつどう
)
をしたらどうだい。
150
セヽヽヽヽ
雪隠
(
せつちん
)
で
饅頭
(
まんぢゆう
)
喰
(
く
)
たやうな
面
(
つら
)
して
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
の
脛
(
すね
)
を
噛
(
かじ
)
り、
151
トンマ
野郎
(
やらう
)
が
気
(
き
)
に
喰
(
く
)
はぬなどと
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
152
ソヽヽヽヽそんな
奴根性
(
どこんじやう
)
を
持
(
も
)
つてゐる
粗末
(
そまつ
)
の
代物
(
しろもの
)
を、
153
高
(
たか
)
い
米
(
こめ
)
を
喰
(
く
)
はして
養
(
やしな
)
ふてゐる
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
も、
154
並大抵
(
なみたいてい
)
の
事
(
こと
)
ぢやないぞえ。
155
タヽヽヽヽ
誰
(
たれ
)
がこんなトンマ
野郎
(
やらう
)
を、
156
仮令
(
たとへ
)
三日
(
みつか
)
でも
世話
(
せわ
)
するものが
御座
(
ござ
)
りませうかい』
157
ト『チヽヽヽヽチツト
無理
(
むり
)
ぢや
御座
(
ござ
)
りませぬか、
158
畜生
(
ちくしやう
)
か
何
(
なん
)
ぞのやうに、
159
トンマ
野郎
(
やらう
)
だのドンマだのと、
160
あまりひどいです。
161
ツヽヽヽヽ
月
(
つき
)
に
一
(
いつ
)
ぺん
位
(
くらゐ
)
、
162
蛙
(
かへる
)
の
附焼
(
つけやき
)
位
(
ぐらゐ
)
頂
(
いただ
)
いて、
163
どうして
荒男
(
あらをとこ
)
の
体
(
からだ
)
が
保
(
たも
)
てませう。
164
テヽヽヽヽ
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
筋張
(
すぢば
)
つて
来
(
き
)
ました。
165
丸
(
まる
)
ツきり
扇
(
あふぎ
)
の
骨
(
ほね
)
に
濡
(
ぬ
)
れ
紙
(
がみ
)
を
張
(
は
)
つたやうな
手
(
て
)
の
甲
(
かふ
)
になつて
了
(
しま
)
つたぢや
御座
(
ござ
)
りませぬか。
166
トヽヽヽヽトンボだつて、
167
どうして
貴女
(
あなた
)
と
共
(
とも
)
に、
168
活動
(
くわつどう
)
が
出来
(
でき
)
ませうぞ。
169
チツとは
私
(
わたし
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
も
憐
(
あは
)
れんで
下
(
くだ
)
さい。
170
貴女
(
あなた
)
計
(
ばか
)
り
美味
(
うま
)
い
物
(
もの
)
を
喰
(
く
)
て、
171
いつも
私
(
わたし
)
には
芋
(
いも
)
の
皮
(
かは
)
や
大根
(
だいこん
)
の
鬚
(
ひげ
)
や
172
水菜
(
みづな
)
の
赤葉
(
あかば
)
許
(
ばか
)
り、
1721
当
(
あ
)
てがつて
居
(
を
)
るぢやありませぬか』
173
高
(
たか
)
『ナヽヽヽヽ
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのぢやいな。
174
勿体
(
もつたい
)
ない、
175
その
心
(
こころ
)
では
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
るぞや、
176
ニヽヽヽヽ
西
(
にし
)
も
東
(
ひがし
)
も
南
(
みなみ
)
も
北
(
きた
)
も
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
曇
(
くも
)
り
切
(
き
)
つた
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
177
お
土
(
つち
)
の
上
(
うへ
)
に、
178
何
(
なに
)
を
蒔
(
ま
)
いても
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
179
菜葉
(
なつぱ
)
一
(
ひと
)
つ
満足
(
まんぞく
)
に
出来
(
でき
)
ない
暗
(
くら
)
がりの
世
(
よ
)
ぢやないか。
180
赤
(
あか
)
ツ
葉
(
ぱ
)
の
一
(
ひと
)
つも
頂
(
いただ
)
いたら
結構
(
けつこう
)
ぢやと
思
(
おも
)
つて
喜
(
よろこ
)
びなさい。
181
こんな
寒
(
さむ
)
い
風
(
かぜ
)
の
吹
(
ふ
)
く
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に、
182
夜分
(
やぶん
)
はヌヽヽヽヽぬつくりと
温
(
ぬく
)
い
茶
(
ちや
)
を
呑
(
の
)
んで、
183
煎餅
(
せんべい
)
布団
(
ぶとん
)
の
中
(
なか
)
へ、
184
潜
(
もぐ
)
り
込
(
こ
)
んで
居
(
を
)
れるぢやないか。
185
ネヽヽヽヽ
年
(
ねん
)
が
年中
(
ねんぢう
)
何一
(
なにひと
)
つ、
186
これと
云
(
い
)
ふ
働
(
はたら
)
きもせず、
187
ノヽヽヽヽノラクラと
野良
(
のら
)
仕事
(
しごと
)
さしても
188
烏
(
からす
)
の
威
(
おど
)
しのやうに、
1881
立
(
た
)
つて
許
(
ばか
)
り
居
(
を
)
るなり、
189
ラヽヽヽヽ
埒
(
らつち
)
もない
皺枯声
(
しわがれごゑ
)
を
出
(
だ
)
して
190
頭
(
あたま
)
の
痛
(
いた
)
むやうな
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひ、
191
リヽヽヽヽ
悧巧
(
りかう
)
さうにトンマ
野郎
(
やらう
)
と
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れな
等
(
など
)
とは
192
お
尻
(
けつ
)
が
呆
(
あき
)
れますぞや。
193
ルヽヽヽヽ
流浪
(
るらう
)
して
行
(
ゆ
)
く
処
(
ところ
)
がないから
使
(
つか
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
194
と
泣
(
な
)
いて
頼
(
たの
)
んだぢやないか、
195
レヽヽヽヽ
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れて、
196
不足
(
ふそく
)
許
(
ばか
)
り
申
(
まを
)
すとはホントにホントによい
罰当
(
ばちあた
)
りだよ。
197
お
前
(
まへ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
警
(
いまし
)
めで、
198
ロヽヽヽヽ
牢獄
(
らうごく
)
へ
突込
(
つつこ
)
まれてゐるのだ。
199
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
が
構
(
かま
)
ふてゐるが、
200
その
魂
(
たましひ
)
は、
201
喰
(
く
)
ひ
度
(
た
)
い
喰
(
く
)
ひ
度
(
た
)
い
遊
(
あそ
)
び
度
(
た
)
い
遊
(
あそ
)
び
度
(
た
)
いと
云
(
い
)
ふ、
202
大牢
(
たいらう
)
に
這入
(
はい
)
つてゐるのだよ、
203
フツフヽヽヽヽ』
204
ト『ワヽヽヽヽ
笑
(
わら
)
うて
下
(
くだ
)
さるな。
205
私
(
わたし
)
はお
前
(
まへ
)
さまの
云
(
い
)
ふやうな
勘
(
かん
)
の
悪
(
わる
)
い
人間
(
にんげん
)
ぢや
御座
(
ござ
)
りませぬぞや。
206
これでも
一
(
いち
)
時
(
じ
)
はバラモン
軍
(
ぐん
)
のリユーチナント
迄
(
まで
)
勤
(
つと
)
めて
来
(
き
)
た
武士
(
もののふ
)
ですよ。
207
ヰヽヽヽヽ
何時
(
いつ
)
までもお
前
(
まへ
)
さまの
側
(
そば
)
へ
居
(
を
)
らうとは
思
(
おも
)
ひませぬから、
208
ウヽヽヽヽ
煩
(
うる
)
さうても、
209
売口
(
うれくち
)
がある
迄
(
まで
)
辛抱
(
しんばう
)
してやつてゐるのですよ。
210
ヱヽヽヽヽえぐたらしい
事
(
こと
)
を
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
聞
(
き
)
かされて、
211
なんぼ
軍人
(
ぐんじん
)
だつてお
尻
(
けつ
)
が
呆
(
あき
)
れますよ。
212
私
(
わたし
)
はもう
貴女
(
あなた
)
のお
供
(
とも
)
は
之
(
これ
)
でヲヽヽヽヽをしまひですよ』
213
と
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さうとする。
214
高姫
(
たかひめ
)
は
後
(
あと
)
から
痩
(
やせ
)
こけた
手
(
て
)
をグツと
出
(
だ
)
し、
215
襟首
(
えりくび
)
を
掴
(
つか
)
み
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
後
(
うしろ
)
に
引
(
ひ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
216
高
(
たか
)
『こりや
灸箸
(
やいとばし
)
、
217
麻幹
(
をがら
)
人足
(
にんそく
)
、
218
逃
(
に
)
げるなら
逃
(
に
)
げて
見
(
み
)
い。
219
燈心
(
とうしん
)
の
幽霊
(
いうれい
)
見
(
み
)
たやうな
腕
(
うで
)
をしやがつて、
220
線香
(
せんかう
)
の
様
(
やう
)
な
足
(
あし
)
をして、
221
かれい
のやうな
薄
(
うす
)
つぺたい
体
(
からだ
)
をして、
222
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
に
口答
(
くちごた
)
へするとは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
だ。
223
サア
動
(
うご
)
くなら
動
(
うご
)
いて
見
(
み
)
よれ』
224
ト『イヤもう、
225
えらい
灸
(
やいと
)
を
据
(
す
)
ゑられました。
226
どうぞ
かれい
これ
云
(
い
)
はずに
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さい。
227
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さらなもう
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
228
あの
谷川
(
たにがは
)
へ
とうしん
(
投身
(
とうしん
)
)と
出掛
(
でか
)
けます』
229
高
(
たか
)
『エーしやれ
処
(
どころ
)
かい』
230
とパツと
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した
途端
(
とたん
)
にヒヨロ ヒヨロ ヒヨロと
餓鬼
(
がき
)
の
如
(
ごと
)
くヒヨロつき、
231
枯
(
か
)
れた
萱草
(
かやぐさ
)
の
中
(
なか
)
にパタリと
倒
(
こ
)
けて
了
(
しま
)
つた。
232
高
(
たか
)
『ホヽヽヽヽ
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
にかかつたら、
233
バラモンのリユーチナントも
脆
(
もろ
)
いものだな。
234
サアサア
之
(
これ
)
から
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
235
夕御飯
(
ゆふごはん
)
の
用意
(
ようい
)
でも
致
(
いた
)
しませう』
236
とダン
尻
(
じり
)
を
中空
(
ちうくう
)
にたわつかせ
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
らむとする。
237
時
(
とき
)
しもあれ、
238
珍
(
めづ
)
らしくも
歌
(
うた
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
239
高姫
(
たかひめ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くや
否
(
いな
)
や、
240
操
(
あやつ
)
り
人形
(
にんぎやう
)
の
如
(
ごと
)
くクレリと
体
(
たい
)
を
交
(
かは
)
し、
241
『ヤア
来
(
き
)
た
来
(
き
)
た、
242
これから
私
(
わし
)
の
正念場
(
しやうねんば
)
だ』
243
と
大地
(
だいち
)
に
二三回
(
にさんくわい
)
も
石搗
(
いしつ
)
きを
始
(
はじ
)
めて
勇
(
いさ
)
んでゐる。
244
『
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
245
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
246
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
247
神
(
かみ
)
や
仏
(
ほとけ
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
248
青人草
(
あをひとぐさ
)
や
草木
(
くさき
)
まで
249
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
を
垂
(
た
)
れ
給
(
たま
)
ひ
250
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
ふ
尊
(
たふと
)
さよ
251
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
大棟梁
(
だいとうりやう
)
252
清
(
きよ
)
き
教
(
をしへ
)
を
受
(
う
)
け
給
(
たま
)
ひ
253
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
254
一
(
ひと
)
つに
丸
(
まる
)
めて
治
(
をさ
)
めむと
255
バラモン
教
(
けう
)
を
遠近
(
をちこち
)
に
256
開
(
ひら
)
き
給
(
たま
)
へど
如何
(
いか
)
にせむ
257
三五教
(
あななひけう
)
やウラル
教
(
けう
)
258
勢
(
いきほ
)
ひ
仲々
(
なかなか
)
強
(
つよ
)
くして
259
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
260
蹂躙
(
じうりん
)
するこそ
是非
(
ぜひ
)
なけれ
261
未
(
いま
)
だ
時節
(
じせつ
)
の
到
(
いた
)
らぬか
262
これ
程
(
ほど
)
尊
(
たふと
)
い
御教
(
みをしへ
)
も
263
数多
(
あまた
)
の
人
(
ひと
)
に
仰
(
あふ
)
がれず
264
誹毀
(
ひき
)
讒謗
(
ざんばう
)
の
的
(
まと
)
となり
265
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
教
(
をしへ
)
は
淋
(
さび
)
れ
行
(
ゆ
)
く
266
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
権力
(
けんりよく
)
に
267
押
(
お
)
されて
表面
(
へうめん
)
バラモンの
268
信者
(
しんじや
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
を
)
るなれど
269
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
はウラル
教
(
けう
)
270
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
り
271
こんな
事
(
こと
)
ではならないと
272
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
273
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
軍隊
(
ぐんたい
)
を
274
用
(
もち
)
ゐて
信徒
(
しんと
)
を
召集
(
せうしふ
)
し
275
否
(
いや
)
が
応
(
おう
)
でもバラモンの
276
教
(
をしへ
)
に
靡
(
なび
)
かせくれんづと
277
大足別
(
おほだるわけ
)
の
将軍
(
しやうぐん
)
に
278
三千
(
さんぜん
)
余
(
よ
)
騎
(
き
)
の
兵士
(
つはもの
)
を
279
引率
(
いんそつ
)
させてデカタンの
280
大高原
(
だいかうげん
)
に
進軍
(
しんぐん
)
し
281
トルマン
国
(
ごく
)
を
屠
(
ほふ
)
らむと
282
吾
(
われ
)
にスコブツエン
宗
(
しう
)
を
283
開
(
ひら
)
かせ
給
(
たま
)
へどその
実
(
じつ
)
は
284
異名
(
いめい
)
同宗
(
どうしう
)
バラモンの
285
教
(
をしへ
)
に
少
(
すこ
)
しも
変
(
かは
)
らない
286
只々
(
ただただ
)
相違
(
さうゐ
)
の
一点
(
いつてん
)
は
287
バラモン
教
(
けう
)
より
劇烈
(
げきれつ
)
な
288
信徒
(
しんと
)
に
修行
(
しゆぎやう
)
を
強
(
し
)
ゆるのみ
289
こんな
事
(
こと
)
でもしておかにや
290
虎狼
(
こらう
)
に
等
(
ひと
)
しい
人心
(
じんしん
)
を
291
緩和
(
くわんわ
)
し
御国
(
みくに
)
を
保
(
たも
)
つこと
292
容易
(
ようい
)
に
出来
(
でき
)
るものでない
293
かてて
加
(
くは
)
へて
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
294
思想
(
しさう
)
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
混乱
(
こんらん
)
し
295
アナアキズムやソシヤリズムが
296
到
(
いた
)
る
処
(
ところ
)
に
出没
(
しゆつぼつ
)
し
297
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
此
(
この
)
天下
(
てんか
)
298
愈
(
いよいよ
)
危
(
あやふ
)
くなつて
来
(
き
)
た
299
吾
(
われ
)
は
此
(
この
)
間
(
ま
)
に
教線
(
けうせん
)
を
300
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
に
拡張
(
くわくちやう
)
し
301
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
失脚
(
しつきやく
)
を
302
見届
(
みとど
)
け
済
(
す
)
まして
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
303
いや
永遠
(
とこしへ
)
に
統治
(
とうち
)
なし
304
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
と
305
世
(
よ
)
に
謳
(
うた
)
はれむ
面白
(
おもしろ
)
や
306
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
にあり
307
吾
(
われ
)
こそ
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
ぞや
308
神
(
かみ
)
に
刃向
(
はむ
)
かふ
奴輩
(
やつばら
)
は
309
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
容赦
(
ようしや
)
なく
310
亡
(
ほろ
)
ぼし
呉
(
く
)
れむ
吾
(
わが
)
宗旨
(
しうし
)
311
アヽ
面白
(
おもしろ
)
や
面白
(
おもしろ
)
や
312
いかなる
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
をも
313
言向
(
ことむけ
)
和
(
やは
)
し
大野原
(
おほのはら
)
314
風
(
かぜ
)
に
草木
(
くさき
)
の
靡
(
なび
)
く
如
(
ごと
)
315
振舞
(
ふるま
)
ひ
呉
(
く
)
れむ
吾
(
わが
)
力
(
ちから
)
316
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
なり
317
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
力
(
ちから
)
の
根元
(
こんげん
)
ぞ
318
来
(
きた
)
れよ
来
(
きた
)
れ
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
319
鳥
(
とり
)
獣
(
けだもの
)
の
分
(
わか
)
ちなく
320
キユーバーが
配下
(
はいか
)
としてやらう
321
イツヒヽヽヽイツヒヽヽヽ
322
実
(
げ
)
に
面白
(
おもしろ
)
くなつて
来
(
き
)
た
323
天
(
てん
)
は
曇
(
くも
)
りて
光
(
ひかり
)
なく
324
地上
(
ちじやう
)
は
冷
(
ひ
)
えて
草木
(
くさき
)
さへ
325
皆
(
みな
)
枯
(
か
)
れ
萎
(
しぼ
)
む
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
326
スコブツエン
宗
(
しう
)
只
(
ただ
)
独
(
ひと
)
り
327
旭日
(
あさひ
)
の
天
(
てん
)
に
昇
(
のぼ
)
るごと
328
日々
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
栄
(
さか
)
え
行
(
ゆ
)
く
329
ウツフヽヽヽヽウツフヽヽヽヽ』
330
と
大法螺
(
おほぼら
)
を
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
て
乍
(
なが
)
ら
四辻
(
よつつじ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た。
331
高姫
(
たかひめ
)
はキユーバーの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより、
332
カン
走
(
ばし
)
つた
声
(
こゑ
)
にて、
333
『これこれ
遍路
(
へんろ
)
さま、
334
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
335
お
前
(
まへ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ても、
336
物
(
もの
)
の
分
(
わか
)
りさうな
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
らしい。
337
私
(
わたし
)
は
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
338
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
339
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
340
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢやぞえ。
341
サア
一寸
(
ちよつと
)
、
342
私
(
わたし
)
の
館
(
やかた
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
343
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
なお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
上
(
あ
)
げませうぞや』
344
キユーバー『
何
(
なに
)
、
345
お
前
(
まへ
)
が
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
云
(
い
)
ふのか、
346
フヽヽヽフーン、
347
はてな』
348
高
(
たか
)
『これ、
349
遍路
(
へんろ
)
さま、
350
何
(
なに
)
がフヽヽヽフンだい。
351
はてな……
処
(
どころ
)
か、
352
これから
世
(
よ
)
の
初
(
はじ
)
まり、
353
弥勒
(
みろく
)
出現
(
しゆつげん
)
、
354
神代
(
かみよ
)
の
樹立
(
じゆりつ
)
、
355
世
(
よ
)
の
終
(
しま
)
ひの
世
(
よ
)
の
始
(
はじ
)
まりぢやぞえ』
356
キユ『ハヽヽヽヽヽ
何
(
なん
)
と
面白
(
おもしろ
)
い
婆
(
ばあ
)
さまだな。
357
幸
(
さいは
)
ひ
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
の
事
(
こと
)
でもあり、
358
そこらに
宿
(
やど
)
もなし、
359
一
(
ひと
)
つ
宿
(
と
)
めて
頂
(
いただ
)
かうかな』
360
高
(
たか
)
『サアサア
宿
(
とま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
361
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
なお
話
(
はなし
)
をして
上
(
あ
)
げますぞや、
362
ホヽヽヽヽヽ。
363
トンボの
奴
(
やつ
)
到頭
(
たうとう
)
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
へ
埋
(
うづ
)
もつて
了
(
しま
)
ひよつた。
364
あんな
奴
(
やつ
)
アどうならふと
構
(
かま
)
ふ
事
(
こと
)
はない。
365
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
理窟
(
りくつ
)
許
(
ばか
)
り
吐
(
ほざ
)
くのだもの。
366
何
(
なん
)
と
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
妙
(
めう
)
なものだな。
367
一人
(
ひとり
)
の
奴
(
やつ
)
が
愛想
(
あいさう
)
づかして
逃
(
に
)
げたと
思
(
おも
)
へば、
368
チヤーンと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
代
(
かは
)
りを
拵
(
こしら
)
へて
下
(
くだ
)
さる。
369
この
遍路
(
へんろ
)
は、
370
どうやら
生宮
(
いきみや
)
の
片腕
(
かたうで
)
になるかも
知
(
し
)
れぬぞ。
371
ホヽヽヽヽヽ』
372
トンボは
最前
(
さいぜん
)
から
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
して
高姫
(
たかひめ
)
の
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてゐたが、
373
……こんな
奴
(
やつ
)
に
来
(
こ
)
られちや
自分
(
じぶん
)
はもう
足上
(
あしあが
)
りだ。
374
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
高姫
(
たかひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
375
あんな
男
(
をとこ
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んで、
376
どんな
相談
(
さうだん
)
をしとるか
知
(
し
)
れぬ。
377
今晩
(
こんばん
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
378
館
(
やかた
)
の
外
(
そと
)
から
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いてやらねばなるまい…………と
思案
(
しあん
)
を
定
(
さだ
)
め、
379
両人
(
りやうにん
)
が
岩山
(
いはやま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
破
(
やぶ
)
れ
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く
後
(
うしろ
)
から、
380
闇
(
やみ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせついて
行
(
ゆ
)
く。
381
(
大正一四・八・二三
旧七・四
於由良秋田別荘
北村隆光
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