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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第一七章
春
(
はる
)
の
光
(
ひかり
)
〔一七八四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第3篇 理想新政
よみ(新仮名遣い):
りそうしんせい
章:
第17章 春の光
よみ(新仮名遣い):
はるのひかり
通し章番号:
1784
口述日:
1925(大正14)年08月25日(旧07月6日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
千草姫はキューバーの行方が依然としてわからないため、ますます逆上し、照国別、照公に残虐な扱いをするように獄卒に命じた。また、これまでの旧臣を殲滅しようと計ったりと、無道の行いがはなはだしくなってきた。
このさまを見て太子は、レール、マークに命じて、千草姫がハリマの森に参拝する所を襲って滅ぼそうと画策した。
レール、マークは千草姫を襲撃するが果たせず、捕縛されて牢獄に投げ込まれてしまった。牢獄で二人は、照国別、照公と出会う。
レール、マーク、照国別、照公の4人は、今の時勢を歌に歌って牢獄の時を過ごす。
と、そこへ一人の牢番がやってくる。実はその牢番は照国別の弟子、春公であった。春公は葵の沼で(第40巻第19章参照)師一行からはぐれた後、トルマン城下にやってきて、看守に身を変えて様子を探っていたところであった。
春公のおかげで、千草姫の通達も効をなさず、照国別たちは無事に過ごせることとなっていたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-09 03:54:42
OBC :
rm7017
愛善世界社版:
214頁
八幡書店版:
第12輯 469頁
修補版:
校定版:
220頁
普及版:
109頁
初版:
ページ備考:
001
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は、
002
恋
(
こひ
)
しさ
懐
(
なつか
)
しさ、
003
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬキユーバーの
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
らぬので、
004
精神
(
せいしん
)
益々
(
ますます
)
混乱
(
こんらん
)
し、
005
照国別
(
てるくにわけ
)
、
006
照公
(
てるこう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
を
神勅
(
しんちよく
)
と
称
(
しよう
)
して
007
無念
(
むねん
)
晴
(
ば
)
らしの
為
(
た
)
め
無理
(
むり
)
やりに
牢獄
(
らうごく
)
に
王
(
わう
)
の
命令
(
めいれい
)
を
藉
(
か
)
りて
投
(
とう
)
ぜしめ、
008
所在
(
あらゆる
)
残虐
(
ざんぎやく
)
の
手
(
て
)
を
加
(
くは
)
ふべく
獄卒
(
ごくそつ
)
に
厳命
(
げんめい
)
を
下
(
くだ
)
した。
009
又
(
また
)
チウイン
太子
(
たいし
)
、
010
チンレイを
修行
(
しうぎやう
)
の
為
(
た
)
めと
称
(
しよう
)
して
城内
(
じやうない
)
より
放逐
(
はうちく
)
し、
011
テイラには、
012
キユーバーの
所在
(
ありか
)
を
求
(
もと
)
むべく
厳命
(
げんめい
)
し、
013
ハリスを
好餌
(
かうじ
)
をもつて
過
(
あやま
)
たしめ、
014
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
旧臣
(
きうしん
)
系統
(
けいとう
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
せむ
事
(
こと
)
を
計
(
はか
)
るなぞ、
015
実
(
じつ
)
に
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
魔王
(
まわう
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
016
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
に
精霊
(
せいれい
)
を
占領
(
せんりやう
)
され、
017
ガーデン
王
(
わう
)
は
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
片割
(
かたわれ
)
に
其
(
その
)
心魂
(
しんこん
)
を
占領
(
せんりやう
)
され、
018
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
頤使
(
いし
)
に
甘
(
あま
)
んじ、
019
キユーバーを
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
さむと
八方
(
はつぱう
)
に
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
し、
020
極力
(
きよくりよく
)
捜索
(
そうさく
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
注
(
そそ
)
ぐ
事
(
こと
)
となつた。
021
されどもチウイン
太子
(
たいし
)
が、
022
荒井
(
あらゐ
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めておいた
事
(
こと
)
は、
023
遉
(
さすが
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
肉宮
(
にくみや
)
も
悟
(
さと
)
る
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
なかつた。
024
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はハリマの
森
(
もり
)
に、
025
キユーバーの
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
らむ
事
(
こと
)
を
祈願
(
きぐわん
)
する
為
(
た
)
め、
026
数多
(
あまた
)
の
従臣
(
じゆうしん
)
を
従
(
したが
)
へ
警戒
(
けいかい
)
厳
(
きび
)
しく
輿
(
こし
)
に
乗
(
の
)
つて、
027
朝夕
(
てうせき
)
二回
(
にくわい
)
参拝
(
さんぱい
)
を
励
(
はげ
)
む
事
(
こと
)
となつた。
028
マーク、
029
レールの
両人
(
りやうにん
)
はチウイン
太子
(
たいし
)
から、
030
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
既
(
すで
)
に
他界
(
たかい
)
し、
031
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪霊
(
あくれい
)
と
入
(
い
)
り
代
(
かは
)
つて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
を
懇々
(
こんこん
)
と
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かされ、
032
且
(
か
)
つ
又
(
また
)
新聞
(
しんぶん
)
の
号外
(
がうぐわい
)
によつて、
033
照国別
(
てるくにわけ
)
、
034
照公
(
てるこう
)
が
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれ、
035
日夜
(
にちや
)
残虐
(
ざんぎやく
)
の
手
(
て
)
に
見舞
(
みま
)
はれ、
036
生命
(
せいめい
)
の
危険
(
きけん
)
を
感
(
かん
)
じ、
037
もはや
立
(
た
)
つても
居
(
ゐ
)
ても
居
(
を
)
られなくなつたので、
038
レール、
039
マークの
両人
(
りやうにん
)
に
耳打
(
みみう
)
ちし、
040
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
参拝
(
さんぱい
)
の
途中
(
とちう
)
を
待
(
ま
)
ち
伏
(
ぶ
)
せ、
041
石礫
(
いしつぶて
)
をもつて
彼
(
かれ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさむ
事
(
こと
)
を
命
(
めい
)
じた。
042
両人
(
りやうにん
)
は
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
み、
043
一身
(
いつしん
)
を
国家
(
こくか
)
の
為
(
た
)
めに
捨
(
す
)
つるは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
と
石礫
(
いしつぶて
)
を
懐
(
ふところ
)
にし、
044
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
輿
(
こし
)
の
通過
(
つうくわ
)
を
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
045
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
首尾
(
しゆび
)
よく
参拝
(
さんぱい
)
を
終
(
をは
)
り、
046
七八町
(
しちはつちやう
)
許
(
ばか
)
り、
047
数多
(
あまた
)
の
番僧
(
ばんそう
)
や
徒士
(
とし
)
に
守
(
まも
)
られ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
ると、
048
路地口
(
ろぢぐち
)
より
躍
(
をど
)
り
出
(
い
)
でたる
二人
(
ふたり
)
の
兇漢
(
きようかん
)
、
049
忽
(
たちま
)
ち
輿
(
こし
)
を
目
(
め
)
がけて
石礫
(
いしつぶて
)
を
二個
(
にこ
)
迄
(
まで
)
投
(
な
)
げつけた。
050
石礫
(
いしつぶて
)
はどうしたものか
手
(
て
)
が
狂
(
くる
)
つて
命中
(
めいちう
)
せず、
051
輿
(
こし
)
は
其
(
その
)
儘
(
まま
)
城内
(
じやうない
)
さして
悠然
(
いうぜん
)
と
帰
(
かへ
)
りゆく。
052
二人
(
ふたり
)
は
忽
(
たちま
)
ち
其
(
その
)
場
(
ば
)
で
番僧
(
ばんそう
)
に
捕縛
(
ほばく
)
され、
053
一応
(
いちおう
)
小本山
(
せうほんざん
)
で
取調
(
とりしら
)
べの
上
(
うへ
)
、
054
重大
(
ぢうだい
)
犯人
(
はんにん
)
として
城外
(
じやうぐわい
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まるる
事
(
こと
)
となつた。
055
相当
(
さうたう
)
に
広
(
ひろ
)
い
牢獄
(
らうごく
)
も
満員
(
まんゐん
)
売切
(
うりき
)
れの
盛況
(
せいきやう
)
で、
056
定員
(
ていゐん
)
二
(
に
)
人
(
にん
)
の
牢獄
(
らうごく
)
へ
投
(
とう
)
ぜらるる
事
(
こと
)
となつた。
057
この
監房
(
かんばう
)
には
照国別
(
てるくにわけ
)
、
058
照公
(
てるこう
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
手
(
て
)
を
縛
(
しば
)
られた
儘
(
まま
)
収容
(
しうよう
)
されて
居
(
ゐ
)
る。
059
レールは
照国別
(
てるくにわけ
)
を
見
(
み
)
て、
060
『ヤ
貴方
(
あなた
)
は
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか。
061
どうして
又
(
また
)
この
様
(
やう
)
な
所
(
ところ
)
へ
入
(
い
)
れられなさつたのです』
062
照国別
(
てるくにわけ
)
『
別
(
べつ
)
にこれと
云
(
い
)
ふ
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
はした
覚
(
おぼ
)
えがありませぬが、
063
国王
(
こくわう
)
の
厳命
(
げんめい
)
だと
云
(
い
)
つて、
064
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
厳
(
きび
)
しく
手足
(
てあし
)
を
縛
(
いましめ
)
られた
上
(
うへ
)
、
065
昨夜
(
さくや
)
から
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれて
居
(
を
)
ります。
066
何
(
いづ
)
れ
嫌疑
(
けんぎ
)
が
晴
(
は
)
れ、
067
晴天
(
せいてん
)
白日
(
はくじつ
)
の
身
(
み
)
となつて
近
(
ちか
)
い
中
(
うち
)
に
出獄
(
しゆつごく
)
し
得
(
う
)
るだらうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ます』
068
レ『ハテ、
069
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
をやるものだ。
070
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
に
承
(
うけたま
)
はれば、
071
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
今度
(
こんど
)
の
軍
(
いくさ
)
を
応援
(
おうゑん
)
下
(
くだ
)
さつた
殊勲
(
しゆくん
)
の
第一人者
(
だいいちにんしや
)
と
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りますのに、
072
姐己
(
だつき
)
の
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
073
いよいよもつて
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
をやりよつたのでせう』
074
照国
(
てるくに
)
『
何
(
なに
)
、
075
チウイン
太子
(
たいし
)
に
縁故
(
えんこ
)
のある
方
(
かた
)
ですか』
076
レ『ハイ、
077
実
(
じつ
)
は
私
(
わたし
)
の
宅
(
たく
)
に
太子
(
たいし
)
、
078
王女
(
わうぢよ
)
様
(
さま
)
を
初
(
はじ
)
め
左守
(
さもり
)
、
079
右守
(
うもり
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さま
迄
(
まで
)
忍
(
しの
)
んでおられます。
080
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
千草姫
(
ちぐさひめ
)
に
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
が
憑依
(
ひようい
)
し、
081
功臣
(
こうしん
)
を
退
(
しりぞ
)
け
所在
(
あらゆる
)
暴虐
(
ばうぎやく
)
の
手
(
て
)
を
加
(
くは
)
へむと
致
(
いた
)
しますので、
082
城下
(
じやうか
)
の
人気
(
にんき
)
は
鼎
(
かなへ
)
の
湧
(
わ
)
くが
如
(
ごと
)
く、
083
いつ
大騒動
(
おほさうどう
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
するか
分
(
わか
)
らぬやうになつて
来
(
き
)
ました。
084
チウイン
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
此
(
この
)
事
(
こと
)
を
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばし、
085
教政
(
けうせい
)
の
改革
(
かいかく
)
を
断行
(
だんかう
)
すべく、
086
今
(
いま
)
や
大衆
(
たいしう
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
を
集
(
あつ
)
め
御
(
ご
)
計画中
(
けいくわくちう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
087
やがて
貴方
(
あなた
)
も
無事
(
ぶじ
)
出獄
(
しゆつごく
)
が
出来
(
でき
)
るでせう』
088
照国
(
てるくに
)
『
成程
(
なるほど
)
089
承
(
うけたま
)
はればチウイン
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
の
聰明
(
そうめい
)
なる、
090
きつと
教政
(
けうせい
)
の
改革
(
かいかく
)
を
遊
(
あそ
)
ばすでせう。
091
あの
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は、
092
決
(
けつ
)
して
本
(
ほん
)
ものぢや
御座
(
ござ
)
いませぬ。
093
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
の
霊
(
れい
)
は
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
脱殻
(
ぬけがら
)
となり、
094
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
が
巣食
(
すぐ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのですから、
095
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にしておかうものならトルマン
国
(
ごく
)
は
混乱
(
こんらん
)
の
巷
(
ちまた
)
となり、
096
刹帝利
(
せつていり
)
家
(
け
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
は
免
(
まぬが
)
れますまい。
097
てもさても
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものですなあ。
098
時
(
とき
)
に
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なん
)
の
嫌疑
(
けんぎ
)
によつてかやうな
処
(
ところ
)
へ
入
(
い
)
れられたのですか』
099
レ『
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
向上
(
かうじやう
)
運動
(
うんどう
)
の
主張者
(
しゆちやうしや
)
兼
(
けん
)
宗教
(
しうけう
)
改革
(
かいかく
)
運動
(
うんどう
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
100
チウイン
太子
(
たいし
)
の
内命
(
ないめい
)
により、
101
姐己
(
だつき
)
の
千草姫
(
ちぐさひめ
)
をベツトすべく、
102
石礫
(
いしつぶて
)
をもつて
車
(
くるま
)
の
辻
(
つじ
)
の
路地
(
ろぢ
)
にまちうけ、
103
輿
(
こし
)
を
目
(
め
)
がけて
石礫
(
いしつぶて
)
を
二個
(
にこ
)
迄
(
まで
)
投
(
な
)
げつけた
処
(
ところ
)
、
104
不幸
(
ふかう
)
にして
命中
(
めいちう
)
せず、
105
残念
(
ざんねん
)
乍
(
なが
)
ら、
106
目的
(
もくてき
)
が
達成
(
たつせい
)
せないのみか、
107
脆
(
もろ
)
くも
番僧
(
ばんそう
)
にふん
縛
(
じば
)
られ、
108
重大
(
ぢうだい
)
犯人
(
はんにん
)
として、
1081
此所
(
ここ
)
へ
送
(
おく
)
られたのです。
109
何
(
いづ
)
れ
吾々
(
われわれ
)
は
助
(
たす
)
かりますまいが、
110
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
に
委
(
まか
)
して
刹那心
(
せつなしん
)
を
楽
(
たの
)
しんで
居
(
を
)
ります。
111
何
(
いづ
)
れ
人間
(
にんげん
)
は
一度
(
いちど
)
は
死
(
し
)
なねばならぬものですから、
112
国士
(
こくし
)
として
大衆
(
たいしう
)
の
代表
(
だいへう
)
として
殺
(
ころ
)
されるのは
満足
(
まんぞく
)
です』
113
照国
(
てるくに
)
『ヤア、
114
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
115
感服
(
かんぷく
)
致
(
いた
)
しました。
116
どうです、
117
これから
歌
(
うた
)
でも
謡
(
うた
)
つて、
118
面白
(
おもしろ
)
くもない
時間
(
じかん
)
を
費
(
つひや
)
さうぢやありませぬか』
119
レ『ヤ、
120
それはいい
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
がつきました。
121
四
(
よ
)
人
(
にん
)
がかはるがはる
歌
(
うた
)
ひませう。
122
先
(
ま
)
づ
宣伝使
(
せんでんし
)
から
口切
(
くちきり
)
をお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
しませうかな』
123
照国
(
てるくに
)
『
然
(
しか
)
らばお
先
(
さき
)
へ
失礼
(
しつれい
)
』
124
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
四辺
(
あたり
)
に
目
(
め
)
を
配
(
くば
)
り、
125
獄卒
(
ごくそつ
)
の
近
(
ちか
)
くに
居
(
ゐ
)
ないのを
見
(
み
)
て、
126
照国
(
てるくに
)
『ここはいづこぞ
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
127
トルマン
国
(
ごく
)
の
城外
(
じやうぐわい
)
に
128
淋
(
さび
)
しく
立
(
た
)
てる
牢獄
(
らうごく
)
ぞ
129
数多
(
あまた
)
の
罪人
(
ざいにん
)
ひしひしと
130
いづれの
牢獄
(
ひとや
)
も
充満
(
じゆうまん
)
し
131
トルマン
国
(
ごく
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
を
132
叫
(
さけ
)
び
居
(
ゐ
)
るこそ
歎
(
うたて
)
けれ
133
抑々
(
そもそも
)
これのトルマンは
134
ウラルの
神
(
かみ
)
の
開
(
ひら
)
きたる
135
月
(
つき
)
第一
(
だいいち
)
の
神国
(
しんこく
)
ぞ
136
物質
(
ぶつしつ
)
文明
(
ぶんめい
)
の
魔
(
ま
)
の
風
(
かぜ
)
に
137
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
てられて
大衆
(
たいしう
)
の
138
頭
(
かしら
)
に
立
(
た
)
ちて
御教
(
みをしへ
)
を
139
布
(
し
)
く
神柱
(
かむばしら
)
初
(
はじ
)
めとし
140
それに
随
(
したが
)
ふ
従僧
(
じゆうそう
)
は
141
敬神
(
けいしん
)
尊祖
(
そんそ
)
愛国
(
あいこく
)
の
142
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
忘却
(
ばうきやく
)
し
143
唯
(
ただ
)
自己愛
(
じこあい
)
に
耽溺
(
たんでき
)
し
144
下
(
しも
)
大衆
(
たいしう
)
の
平安
(
へいあん
)
を
145
残
(
のこ
)
る
隈
(
くま
)
なく
脅
(
おびや
)
かし
146
肉
(
にく
)
をばけずり
骨
(
ほね
)
をそぎ
147
国
(
くに
)
の
力
(
ちから
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
148
日向
(
ひなた
)
に
氷
(
こほり
)
と
消
(
き
)
えてゆく
149
かかる
所
(
ところ
)
へバラモンの
150
大足別
(
おほだるわけ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
は
151
妖僧
(
えうそう
)
キユーバーを
先頭
(
せんとう
)
に
152
此
(
この
)
神国
(
しんこく
)
を
奪
(
うば
)
はむと
153
三千
(
さんぜん
)
余
(
よ
)
騎
(
き
)
を
従
(
したが
)
へて
154
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
く
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
155
此
(
この
)
国難
(
こくなん
)
を
見
(
み
)
るよりも
156
チウイン
太子
(
たいし
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
157
全国内
(
ぜんこくない
)
の
兵員
(
へいゐん
)
を
158
一度
(
いちど
)
に
召集
(
せうしふ
)
遊
(
あそ
)
ばして
159
討伐軍
(
たうばつぐん
)
を
組織
(
そしき
)
なし
160
在野
(
ざいや
)
の
英雄
(
えいゆう
)
ジヤンクをば
161
抜擢
(
ばつてき
)
なして
重用
(
ぢうよう
)
し
162
照国別
(
てるくにわけ
)
の
神軍
(
しんぐん
)
を
163
加
(
くは
)
へてここに
堂々
(
だうだう
)
と
164
敵
(
てき
)
の
後
(
うしろ
)
をつきければ
165
大足別
(
おほだるわけ
)
は
前後
(
まへうしろ
)
166
敵
(
てき
)
の
砲火
(
はうくわ
)
をあびながら
167
軍馬
(
ぐんば
)
や
武器
(
ぶき
)
を
遺棄
(
ゐき
)
しつつ
168
所在
(
あらゆる
)
民家
(
みんか
)
に
火
(
ひ
)
を
放
(
はな
)
ち
169
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
りぬ
170
この
戦
(
たたか
)
ひに
左守司
(
さもりがみ
)
171
右守
(
うもり
)
も
共
(
とも
)
に
陣没
(
ぢんぼつ
)
し
172
トルマン
城
(
じやう
)
は
柱石
(
ちうせき
)
を
173
今
(
いま
)
や
全
(
まつた
)
く
失
(
うしな
)
ひて
174
教務
(
けうむ
)
の
運用
(
うんよう
)
中絶
(
ちうぜつ
)
し
175
国民
(
こくみん
)
不安
(
ふあん
)
の
気
(
き
)
に
打
(
う
)
たれ
176
人心
(
じんしん
)
恟々
(
きようきよう
)
たりし
折
(
をり
)
177
千草
(
ちぐさ
)
の
姫
(
ひめ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
178
天命
(
てんめい
)
尽
(
つ
)
きて
他界
(
たかい
)
され
179
其
(
その
)
肉体
(
にくたい
)
に
常世国
(
とこよくに
)
180
生
(
うま
)
れ
出
(
い
)
でたる
悪狐
(
あくこ
)
奴
(
め
)
が
181
巣喰
(
すぐ
)
ひて
王
(
わう
)
を
誑惑
(
きようわく
)
し
182
総
(
すべ
)
ての
智者
(
ちしや
)
や
忠義
(
ちうぎ
)
もの
183
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
排斥
(
はいせき
)
し
184
この
神国
(
しんこく
)
を
魔
(
ま
)
の
国
(
くに
)
と
185
乱
(
みだ
)
さむものと
企
(
たく
)
むこそ
186
実
(
げ
)
にも
忌々
(
ゆゆ
)
しき
次第
(
しだい
)
なり
187
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
をうけ
188
世界
(
せかい
)
の
所在
(
あらゆる
)
国々
(
くにぐに
)
の
189
難
(
なやみ
)
を
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けむと
190
産土山
(
うぶすなやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
を
191
立
(
た
)
ちて
漸
(
やうや
)
く
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
192
思
(
おも
)
ひもよらぬ
此
(
この
)
難
(
なや
)
み
193
実
(
げ
)
に
口惜
(
くちをし
)
き
次第
(
しだい
)
なり
194
左
(
さ
)
はさりながら
吾々
(
われわれ
)
は
195
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りあり
196
大空
(
おほぞら
)
つとふ
望
(
もち
)
の
月
(
つき
)
197
一
(
いつ
)
たん
黒雲
(
くろくも
)
包
(
つつ
)
むとも
198
忽
(
たちま
)
ち
科戸
(
しなど
)
の
風
(
かぜ
)
吹
(
ふ
)
かば
199
もろくも
雲
(
くも
)
は
散
(
ち
)
りはてて
200
再
(
ふたた
)
びもとの
満月
(
まんげつ
)
と
201
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り
下界
(
げかい
)
をば
202
隈
(
くま
)
なく
照
(
てら
)
さむ
吾
(
わが
)
御霊
(
みたま
)
203
必
(
かなら
)
ず
案
(
あん
)
じたまふまじ
204
汝
(
なんぢ
)
も
国家
(
こくか
)
大衆
(
たいしう
)
の
205
危急
(
ききふ
)
を
救
(
すく
)
ふ
其
(
その
)
為
(
た
)
めに
206
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しき
行動
(
かうどう
)
を
207
取
(
と
)
らせたまひしものならば
208
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
は
何
(
なん
)
として
209
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
見捨
(
みす
)
てむや
210
一旦
(
いつたん
)
雲
(
くも
)
はかかれども
211
やがては
天地
(
あめつち
)
晴明
(
せいめい
)
の
212
日月
(
じつげつ
)
下界
(
げかい
)
を
照
(
て
)
らす
如
(
ごと
)
213
難
(
なや
)
みは
晴
(
は
)
れて
万民
(
ばんみん
)
の
214
救
(
すく
)
ひの
主
(
ぬし
)
と
仰
(
あふ
)
がれて
215
時
(
とき
)
めきたまふは
目
(
ま
)
の
前
(
あた
)
り
216
勇
(
いさ
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
217
神
(
かみ
)
に
誓
(
ちか
)
ひて
神司
(
かむづかさ
)
218
茲
(
ここ
)
に
言挙
(
ことあ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
る
219
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
220
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
221
印度
(
いんど
)
の
海
(
うみ
)
はあするとも
222
千草
(
ちぐさ
)
の
姫
(
ひめ
)
は
滅
(
ほろ
)
ぶとも
223
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
224
必
(
かなら
)
ず
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
に
225
トルマン
国
(
ごく
)
の
御柱
(
みはしら
)
と
226
輝
(
かがや
)
きたまふも
近
(
ちか
)
からむ
227
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
も
牢獄
(
らうごく
)
に
228
苦
(
くる
)
しき
日夜
(
にちや
)
を
送
(
おく
)
れども
229
恵
(
めぐみ
)
の
神
(
かみ
)
は
日
(
ひ
)
ならずに
230
現
(
あらは
)
れたまひて
速
(
すみや
)
かに
231
安
(
やす
)
く
救
(
すく
)
はせたまふべし
232
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
233
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
願
(
ね
)
ぎまつる』
234
照公
(
てるこう
)
は
又
(
また
)
歌
(
うた
)
ふ。
235
『
吾
(
われ
)
は
照公
(
てるこう
)
神司
(
かむづかさ
)
236
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
従
(
したが
)
ひて
237
トルマン
国
(
ごく
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
238
思
(
おも
)
ひもよらぬ
大騒動
(
おほさうどう
)
239
此
(
この
)
国難
(
こくなん
)
を
救
(
すく
)
はむと
240
大和心
(
やまとごころ
)
をふり
起
(
おこ
)
し
241
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
242
軍
(
いくさ
)
の
司
(
つかさ
)
と
早
(
はや
)
がはり
243
チウイン
太子
(
たいし
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
244
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
戦
(
たたか
)
へば
245
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りは
著
(
いちじる
)
く
246
トルマン
国
(
ごく
)
を
覆
(
おほ
)
ひたる
247
醜
(
しこ
)
の
黒雲
(
くろくも
)
忽
(
たちま
)
ちに
248
隈
(
くま
)
なく
晴
(
は
)
れて
日月
(
じつげつ
)
の
249
光
(
ひかり
)
も
清
(
きよ
)
く
照
(
て
)
りにけり
250
然
(
しか
)
るに
何
(
なん
)
ぞ
計
(
はか
)
らむや
251
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しき
勲功
(
いさをし
)
を
252
樹
(
た
)
てし
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
を
253
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪魔
(
あくま
)
等
(
ら
)
の
254
千草
(
ちぐさ
)
の
姫
(
ひめ
)
やガーデンの
255
王
(
きみ
)
の
御霊
(
みたま
)
を
誑惑
(
きやうわく
)
し
256
かかる
汚
(
きたな
)
き
牢獄
(
らうごく
)
に
257
所在
(
あらゆる
)
恥辱
(
ちじよく
)
を
与
(
あた
)
へつつ
258
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めおくぞ
歎
(
うた
)
てけれ
259
照公
(
てるこう
)
は
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
する
共
(
とも
)
260
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
尽
(
つく
)
すもの
261
些
(
すこ
)
しも
厭
(
いと
)
ひはせぬけれど
262
一大
(
いちだい
)
使命
(
しめい
)
を
帯
(
おび
)
たまふ
263
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
苦
(
くる
)
します
264
此
(
この
)
残念
(
ざんねん
)
を
如何
(
いか
)
にして
265
晴
(
は
)
らさむよしもなきままに
266
心
(
こころ
)
をこめて
大神
(
おほかみ
)
の
267
御救
(
みすく
)
ひ
祈
(
いの
)
り
声
(
こゑ
)
あげて
268
血
(
ち
)
をはく
思
(
おも
)
ひの
吾
(
われ
)
の
胸
(
むね
)
269
推量
(
すいりやう
)
あれよ
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
270
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひの
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
271
早
(
はや
)
くあれよと
願
(
ね
)
ぎまつる
272
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
の
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
273
早
(
はや
)
く
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
へよと
274
畏
(
かしこ
)
み
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる
275
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
276
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
277
レール『
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
牢獄
(
ひとや
)
の
内
(
うち
)
にありながら
278
忘
(
わす
)
れざりけり
国
(
くに
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
』
279
マーク『
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
のよしや
命
(
いのち
)
は
捨
(
す
)
つるとも
280
如何
(
いか
)
で
惜
(
をし
)
まむ
国
(
くに
)
の
為
(
た
)
めには』
281
照国別
(
てるくにわけ
)
『いさぎよしレール、マークの
赤心
(
まごころ
)
を
282
聞
(
き
)
くにつけても
涙
(
なみだ
)
こぼるる』
283
照公
(
てるこう
)
『
梅公
(
うめこう
)
の
珍
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
は
今
(
いま
)
いづこ
284
聞
(
き
)
かま
欲
(
ほ
)
しやと
朝夕
(
あさゆふ
)
祈
(
いの
)
るも』
285
照国別
(
てるくにわけ
)
『
梅公
(
うめこう
)
の
珍
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
は
吾々
(
われわれ
)
を
286
救
(
すく
)
はむ
為
(
た
)
めに
近
(
ちか
)
く
来
(
きた
)
らむ』
287
かかる
所
(
ところ
)
へ
一人
(
ひとり
)
の
牢番
(
らうばん
)
、
288
靴音
(
くつおと
)
高
(
たか
)
く
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
289
四辺
(
あたり
)
を
見廻
(
みまは
)
し、
2891
人
(
ひと
)
無
(
な
)
きを
見
(
み
)
て
安心
(
あんしん
)
せしものの
如
(
ごと
)
く、
290
『もし
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
、
291
私
(
わたくし
)
は
春公
(
はるこう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
292
葵
(
あふひ
)
の
沼
(
ぬま
)
に
於
(
おい
)
てお
姿
(
すがた
)
を
見失
(
みうしな
)
ひ、
293
このトルマン
城下
(
じやうか
)
へ
参
(
まゐ
)
りました
処
(
ところ
)
、
294
何
(
なん
)
の
手掛
(
てがか
)
りもなく、
295
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
一行
(
いつかう
)
の
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
りませぬので、
296
看守
(
かんしゆ
)
を
出願
(
しゆつぐわん
)
し、
297
やつと
十日
(
とをか
)
以前
(
いぜん
)
に
合格
(
がふかく
)
し、
298
かかる
卑
(
いや
)
しき
獄卒
(
ごくそつ
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
ります。
299
どうか
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
300
時期
(
じき
)
を
考
(
かんが
)
へて
屹度
(
きつと
)
お
助
(
たす
)
け
致
(
いた
)
します。
301
王
(
わう
)
様
(
さま
)
からの
厳命
(
げんめい
)
で、
302
「
湯
(
ゆ
)
も
水
(
みづ
)
も
与
(
あた
)
へな、
303
食料
(
しよくれう
)
は
日
(
ひ
)
に
一回
(
いつくわい
)
に
致
(
いた
)
せ、
304
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
自然
(
しぜん
)
に
餓死
(
がし
)
する
迄
(
まで
)
捨
(
す
)
ておけ」との
小
(
せう
)
ラマへの
達
(
たつ
)
しが
参
(
まゐ
)
つたさうで
御座
(
ござ
)
います。
305
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたくし
)
が
当番
(
たうばん
)
に
当
(
あた
)
つて
居
(
を
)
ります
以上
(
いじやう
)
、
306
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな』
307
照国
(
てるくに
)
『ヤ、
308
お
前
(
まへ
)
は
春公
(
はるこう
)
だつたか、
309
これも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が、
310
かかる
事
(
こと
)
の
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
るべきを
前知
(
ぜんち
)
したまひ、
311
お
前
(
まへ
)
を
牢番
(
らうばん
)
にするやう
取計
(
とりはか
)
らつて
下
(
くだ
)
さつたのだらう。
312
春公
(
はるこう
)
313
覚
(
さと
)
られないやうに
気
(
き
)
をつけよ』
314
春
(
はる
)
『ハイ、
315
心得
(
こころえ
)
まして
御座
(
ござ
)
います。
316
どうか
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
317
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
318
ラマが
巡視
(
じゆんし
)
に
来
(
き
)
たと
見
(
み
)
え、
319
靴音
(
くつおと
)
がギウギウと
高
(
たか
)
く
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
320
春公
(
はるこう
)
は、
321
『オイ、
322
未決囚
(
みけつしう
)
共
(
ども
)
、
323
静
(
しづか
)
に
致
(
いた
)
さねば
厳
(
きび
)
しき
懲戒
(
ちようかい
)
を
加
(
くは
)
へるぞ』
324
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
325
ラマに
最敬礼
(
さいけいれい
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
326
高壁
(
たかべい
)
の
外
(
そと
)
には
新聞
(
しんぶん
)
号外
(
がうぐわい
)
の
配達
(
はいたつ
)
のリンが
耳騒
(
みみさわ
)
がしく
響
(
ひび
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
327
デカタン
高原
(
かうげん
)
の
名物
(
めいぶつ
)
、
328
大暴風
(
だいばうふう
)
は
牢獄
(
らうごく
)
の
桁
(
けた
)
をギクギク
揺
(
ゆす
)
つて
通
(
とほ
)
る。
329
(
大正一四・八・二五
旧七・六
於由良海岸秋田別荘
加藤明子
録)
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