霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 (はる)(ひかり)〔一七八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第3篇 理想新政 よみ(新仮名遣い):りそうしんせい
章:第17章 春の光 よみ(新仮名遣い):はるのひかり 通し章番号:1784
口述日:1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
千草姫はキューバーの行方が依然としてわからないため、ますます逆上し、照国別、照公に残虐な扱いをするように獄卒に命じた。また、これまでの旧臣を殲滅しようと計ったりと、無道の行いがはなはだしくなってきた。
このさまを見て太子は、レール、マークに命じて、千草姫がハリマの森に参拝する所を襲って滅ぼそうと画策した。
レール、マークは千草姫を襲撃するが果たせず、捕縛されて牢獄に投げ込まれてしまった。牢獄で二人は、照国別、照公と出会う。
レール、マーク、照国別、照公の4人は、今の時勢を歌に歌って牢獄の時を過ごす。
と、そこへ一人の牢番がやってくる。実はその牢番は照国別の弟子、春公であった。春公は葵の沼で(第40巻第19章参照)師一行からはぐれた後、トルマン城下にやってきて、看守に身を変えて様子を探っていたところであった。
春公のおかげで、千草姫の通達も効をなさず、照国別たちは無事に過ごせることとなっていたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-09 03:54:42 OBC :rm7017
愛善世界社版:214頁 八幡書店版:第12輯 469頁 修補版: 校定版:220頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)は、002(こひ)しさ(なつか)しさ、003夢寐(むび)にも(わす)れぬキユーバーの所在(ありか)(わか)らぬので、004精神(せいしん)益々(ますます)混乱(こんらん)し、005照国別(てるくにわけ)006照公(てるこう)神司(かむづかさ)神勅(しんちよく)(しよう)して007無念(むねん)()らしの()無理(むり)やりに牢獄(らうごく)(わう)命令(めいれい)()りて(とう)ぜしめ、008所在(あらゆる)残虐(ざんぎやく)()(くは)ふべく獄卒(ごくそつ)厳命(げんめい)(くだ)した。009(また)チウイン太子(たいし)010チンレイを修行(しうぎやう)()めと(しよう)して城内(じやうない)より放逐(はうちく)し、011テイラには、012キユーバーの所在(ありか)(もと)むべく厳命(げんめい)し、013ハリスを好餌(かうじ)をもつて(あやま)たしめ、014(いま)(まで)旧臣(きうしん)系統(けいとう)殲滅(せんめつ)せむ(こと)(はか)るなぞ、015(じつ)悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)魔王(まわう)となつて(しま)つた。016千草姫(ちぐさひめ)(たちま)金毛(きんまう)九尾(きうび)悪狐(あくこ)精霊(せいれい)占領(せんりやう)され、017ガーデン(わう)八岐(やまた)大蛇(をろち)片割(かたわれ)(その)心魂(しんこん)占領(せんりやう)され、018千草姫(ちぐさひめ)頤使(いし)(あま)んじ、019キユーバーを(すく)()さむと八方(はつぱう)()(まは)し、020極力(きよくりよく)捜索(そうさく)全力(ぜんりよく)(そそ)(こと)となつた。021されどもチウイン太子(たいし)が、022荒井(あらゐ)(だけ)岩窟(がんくつ)()()めておいた(こと)は、023(さすが)()出神(でのかみ)肉宮(にくみや)(さと)(こと)()なかつた。024千草姫(ちぐさひめ)はハリマの(もり)に、025キユーバーの(いち)(にち)(はや)(かへ)(きた)らむ(こと)祈願(きぐわん)する()め、026数多(あまた)従臣(じゆうしん)(したが)警戒(けいかい)(きび)しく輿(こし)()つて、027朝夕(てうせき)二回(にくわい)参拝(さんぱい)(はげ)(こと)となつた。028マーク、029レールの両人(りやうにん)はチウイン太子(たいし)から、030千草姫(ちぐさひめ)肉体(にくたい)(すで)他界(たかい)し、031金毛(きんまう)九尾(きうび)悪霊(あくれい)()(かは)つて()(こと)懇々(こんこん)()()かされ、032()(また)新聞(しんぶん)号外(がうぐわい)によつて、033照国別(てるくにわけ)034照公(てるこう)牢獄(らうごく)()()まれ、035日夜(にちや)残虐(ざんぎやく)()見舞(みま)はれ、036生命(せいめい)危険(きけん)(かん)じ、037もはや()つても()ても()られなくなつたので、038レール、039マークの両人(りやうにん)耳打(みみう)ちし、040千草姫(ちぐさひめ)参拝(さんぱい)途中(とちう)()()せ、041石礫(いしつぶて)をもつて(かれ)(ほろ)ぼさむ(こと)(めい)じた。042両人(りやうにん)(よろこ)(いさ)み、043一身(いつしん)国家(こくか)()めに()つるは(いま)(この)(とき)石礫(いしつぶて)(ふところ)にし、044千草姫(ちぐさひめ)輿(こし)通過(つうくわ)(いま)(おそ)しと()つて()た。045千草姫(ちぐさひめ)首尾(しゆび)よく参拝(さんぱい)(をは)り、046七八町(しちはつちやう)(ばか)り、047数多(あまた)番僧(ばんそう)徒士(とし)(まも)られ(かへ)つて()ると、048路地口(ろぢぐち)より(をど)()でたる二人(ふたり)兇漢(きようかん)049(たちま)輿(こし)()がけて石礫(いしつぶて)二個(にこ)(まで)()げつけた。050石礫(いしつぶて)はどうしたものか()(くる)つて命中(めいちう)せず、051輿(こし)(その)(まま)城内(じやうない)さして悠然(いうぜん)(かへ)りゆく。052二人(ふたり)(たちま)(その)()番僧(ばんそう)捕縛(ほばく)され、053一応(いちおう)小本山(せうほんざん)取調(とりしら)べの(うへ)054重大(ぢうだい)犯人(はんにん)として城外(じやうぐわい)牢獄(らうごく)()()まるる(こと)となつた。055相当(さうたう)(ひろ)牢獄(らうごく)満員(まんゐん)売切(うりき)れの盛況(せいきやう)で、056定員(ていゐん)()(にん)牢獄(らうごく)(とう)ぜらるる(こと)となつた。057この監房(かんばう)には照国別(てるくにわけ)058照公(てるこう)両人(りやうにん)()(しば)られた(まま)収容(しうよう)されて()る。059レールは照国別(てるくにわけ)()て、
060『ヤ貴方(あなた)照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)(さま)ぢや御座(ござ)いませぬか。061どうして(また)この(やう)(ところ)()れられなさつたのです』
062照国別(てるくにわけ)(べつ)にこれと()(わる)(こと)はした(おぼ)えがありませぬが、063国王(こくわう)厳命(げんめい)だと()つて、064吾々(われわれ)両人(りやうにん)(きび)しく手足(てあし)(いましめ)られた(うへ)065昨夜(さくや)から()()まれて()ります。066(いづ)嫌疑(けんぎ)()れ、067晴天(せいてん)白日(はくじつ)()となつて(ちか)(うち)出獄(しゆつごく)()るだらうと(おも)つて()ます』
068レ『ハテ、069()しからぬ(こと)をやるものだ。070太子(たいし)(さま)(うけたま)はれば、071貴方(あなた)(さま)今度(こんど)(いくさ)応援(おうゑん)(くだ)さつた殊勲(しゆくん)第一人者(だいいちにんしや)()いて()りますのに、072姐己(だつき)千草姫(ちぐさひめ)073いよいよもつて()しからぬ(こと)をやりよつたのでせう』
074照国(てるくに)(なに)075チウイン太子(たいし)縁故(えんこ)のある(かた)ですか』
076レ『ハイ、077(じつ)(わたし)(たく)太子(たいし)078王女(わうぢよ)(さま)(はじ)左守(さもり)079右守(うもり)のお(ぢやう)さま(まで)(しの)んでおられます。080(この)(ごろ)千草姫(ちぐさひめ)金毛(きんまう)九尾(きうび)悪狐(あくこ)憑依(ひようい)し、081功臣(こうしん)退(しりぞ)所在(あらゆる)暴虐(ばうぎやく)()(くは)へむと(いた)しますので、082城下(じやうか)人気(にんき)(かなへ)()くが(ごと)く、083いつ大騒動(おほさうどう)勃発(ぼつぱつ)するか(わか)らぬやうになつて()ました。084チウイン太子(たいし)(さま)非常(ひじやう)(この)(こと)()心配(しんぱい)(あそ)ばし、085教政(けうせい)改革(かいかく)断行(だんかう)すべく、086(いま)大衆(たいしう)代表者(だいへうしや)(あつ)()計画中(けいくわくちう)御座(ござ)います。087やがて貴方(あなた)無事(ぶじ)出獄(しゆつごく)出来(でき)るでせう』
088照国(てるくに)成程(なるほど)089(うけたま)はればチウイン太子(たいし)(さま)聰明(そうめい)なる、090きつと教政(けうせい)改革(かいかく)(あそ)ばすでせう。091あの千草姫(ちぐさひめ)は、092(けつ)して(ほん)ものぢや御座(ござ)いませぬ。093()本人(ほんにん)(れい)(すで)(すで)脱殻(ぬけがら)となり、094金毛(きんまう)九尾(きうび)悪狐(あくこ)巣食(すぐ)つて()るのですから、095(この)(まま)にしておかうものならトルマン(ごく)混乱(こんらん)(ちまた)となり、096刹帝利(せつていり)()滅亡(めつぼう)(まぬが)れますまい。097てもさても(こま)つた(こと)出来(でき)たものですなあ。098(とき)貴方(あなた)(なん)嫌疑(けんぎ)によつてかやうな(ところ)()れられたのですか』
099レ『吾々(われわれ)両人(りやうにん)向上(かうじやう)運動(うんどう)主張者(しゆちやうしや)(けん)宗教(しうけう)改革(かいかく)運動(うんどう)代表者(だいへうしや)御座(ござ)いますが、100チウイン太子(たいし)内命(ないめい)により、101姐己(だつき)千草姫(ちぐさひめ)をベツトすべく、102石礫(いしつぶて)をもつて(くるま)(つじ)路地(ろぢ)にまちうけ、103輿(こし)()がけて石礫(いしつぶて)二個(にこ)(まで)()げつけた(ところ)104不幸(ふかう)にして命中(めいちう)せず、105残念(ざんねん)(なが)ら、106目的(もくてき)達成(たつせい)せないのみか、107(もろ)くも番僧(ばんそう)にふん(じば)られ、108重大(ぢうだい)犯人(はんにん)として、1081此所(ここ)(おく)られたのです。109(いづ)吾々(われわれ)(たす)かりますまいが、110(うん)(てん)(まか)して刹那心(せつなしん)(たの)しんで()ります。111(いづ)人間(にんげん)一度(いちど)()なねばならぬものですから、112国士(こくし)として大衆(たいしう)代表(だいへう)として(ころ)されるのは満足(まんぞく)です』
113照国(てるくに)『ヤア、114()精神(せいしん)(うけたま)はり、115感服(かんぷく)(いた)しました。116どうです、117これから(うた)でも(うた)つて、118面白(おもしろ)くもない時間(じかん)(つひや)さうぢやありませぬか』
119レ『ヤ、120それはいい(ところ)()がつきました。121()(にん)がかはるがはる(うた)ひませう。122()宣伝使(せんでんし)から口切(くちきり)をお(ねが)(いた)しませうかな』
123照国(てるくに)(しか)らばお(さき)失礼(しつれい)
124()(なが)四辺(あたり)()(くば)り、125獄卒(ごくそつ)(ちか)くに()ないのを()て、
126照国(てるくに)『ここはいづこぞ(つき)(くに)
127トルマン(ごく)城外(じやうぐわい)
128(さび)しく()てる牢獄(らうごく)
129数多(あまた)罪人(ざいにん)ひしひしと
130いづれの牢獄(ひとや)充満(じゆうまん)
131トルマン(ごく)滅亡(めつぼう)
132(さけ)()るこそ(うたて)けれ
133抑々(そもそも)これのトルマンは
134ウラルの(かみ)(ひら)きたる
135(つき)第一(だいいち)神国(しんこく)
136物質(ぶつしつ)文明(ぶんめい)()(かぜ)
137()()てられて大衆(たいしう)
138(かしら)()ちて御教(みをしへ)
139()神柱(かむばしら)(はじ)めとし
140それに(したが)従僧(じゆうそう)
141敬神(けいしん)尊祖(そんそ)愛国(あいこく)
142(まこと)(みち)忘却(ばうきやく)
143(ただ)自己愛(じこあい)耽溺(たんでき)
144(しも)大衆(たいしう)平安(へいあん)
145(のこ)(くま)なく(おびや)かし
146(にく)をばけずり(ほね)をそぎ
147(くに)(ちから)()(つき)
148日向(ひなた)(こほり)()えてゆく
149かかる(ところ)へバラモンの
150大足別(おほだるわけ)軍勢(ぐんぜい)
151妖僧(えうそう)キユーバーを先頭(せんとう)
152(この)神国(しんこく)(うば)はむと
153三千(さんぜん)()()(したが)へて
154(いきほひ)(たけ)()(きた)
155(この)国難(こくなん)()るよりも
156チウイン太子(たいし)逸早(いちはや)
157全国内(ぜんこくない)兵員(へいゐん)
158一度(いちど)召集(せうしふ)(あそ)ばして
159討伐軍(たうばつぐん)組織(そしき)なし
160在野(ざいや)英雄(えいゆう)ジヤンクをば
161抜擢(ばつてき)なして重用(ぢうよう)
162照国別(てるくにわけ)神軍(しんぐん)
163(くは)へてここに堂々(だうだう)
164(てき)(うしろ)をつきければ
165大足別(おほだるわけ)前後(まへうしろ)
166(てき)砲火(はうくわ)をあびながら
167軍馬(ぐんば)武器(ぶき)遺棄(ゐき)しつつ
168所在(あらゆる)民家(みんか)()(はな)
169(くも)(かすみ)()()りぬ
170この(たたか)ひに左守司(さもりがみ)
171右守(うもり)(とも)陣没(ぢんぼつ)
172トルマン(じやう)柱石(ちうせき)
173(いま)(まつた)(うしな)ひて
174教務(けうむ)運用(うんよう)中絶(ちうぜつ)
175国民(こくみん)不安(ふあん)()()たれ
176人心(じんしん)恟々(きようきよう)たりし(をり)
177千草(ちぐさ)(ひめ)(たちま)ちに
178天命(てんめい)()きて他界(たかい)され
179(その)肉体(にくたい)常世国(とこよくに)
180(うま)()でたる悪狐(あくこ)()
181巣喰(すぐ)ひて(わう)誑惑(きようわく)
182(すべ)ての智者(ちしや)忠義(ちうぎ)もの
183一人(ひとり)(のこ)らず排斥(はいせき)
184この神国(しんこく)()(くに)
185(みだ)さむものと(たく)むこそ
186()にも忌々(ゆゆ)しき次第(しだい)なり
187(われ)()(かみ)(めい)をうけ
188世界(せかい)所在(あらゆる)国々(くにぐに)
189(なやみ)(すく)(たす)けむと
190産土山(うぶすなやま)聖場(せいぢやう)
191()ちて(やうや)()()れば
192(おも)ひもよらぬ(この)(なや)
193()口惜(くちをし)次第(しだい)なり
194()はさりながら吾々(われわれ)
195(たふと)(かみ)(まも)りあり
196大空(おほぞら)つとふ(もち)(つき)
197(いつ)たん黒雲(くろくも)(つつ)むとも
198(たちま)科戸(しなど)(かぜ)()かば
199もろくも(くも)()りはてて
200(ふたた)びもとの満月(まんげつ)
201(かがや)(わた)下界(げかい)をば
202(くま)なく(てら)さむ(わが)御霊(みたま)
203(かなら)(あん)じたまふまじ
204(なんぢ)国家(こくか)大衆(たいしう)
205危急(ききふ)(すく)(その)()めに
206(かみ)(ひと)しき行動(かうどう)
207()らせたまひしものならば
208天地(てんち)(かみ)(なん)として
209(なれ)()二人(ふたり)見捨(みす)てむや
210一旦(いつたん)(くも)はかかれども
211やがては天地(あめつち)晴明(せいめい)
212日月(じつげつ)下界(げかい)()らす(ごと)
213(なや)みは()れて万民(ばんみん)
214(すく)ひの(ぬし)(あふ)がれて
215(とき)めきたまふは()(あた)
216(いさ)ませ(たま)惟神(かむながら)
217(かみ)(ちか)ひて神司(かむづかさ)
218(ここ)言挙(ことあ)(たてまつ)
219朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
220(つき)()つとも()くるとも
221印度(いんど)(うみ)はあするとも
222千草(ちぐさ)(ひめ)(ほろ)ぶとも
223(まこと)(ひと)つの(なんぢ)()
224(かなら)(かみ)御恵(みめぐみ)
225トルマン(ごく)御柱(みはしら)
226(かがや)きたまふも(ちか)からむ
227(われ)()二人(ふたり)牢獄(らうごく)
228(くる)しき日夜(にちや)(おく)れども
229(めぐみ)(かみ)()ならずに
230(あらは)れたまひて(すみや)かに
231(やす)(すく)はせたまふべし
232あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
233御霊(みたま)恩頼(ふゆ)()ぎまつる』
234 照公(てるこう)(また)(うた)ふ。
235(われ)照公(てるこう)神司(かむづかさ)
236(わが)()(きみ)(したが)ひて
237トルマン(ごく)()()れば
238(おも)ひもよらぬ大騒動(おほさうどう)
239(この)国難(こくなん)(すく)はむと
240大和心(やまとごころ)をふり(おこ)
241(かみ)(つかさ)(たちま)ちに
242(いくさ)(つかさ)(はや)がはり
243チウイン太子(たいし)諸共(もろとも)
244(いのち)(まと)(たたか)へば
245(かみ)(まも)りは(いちじる)
246トルマン(ごく)(おほ)ひたる
247(しこ)黒雲(くろくも)(たちま)ちに
248(くま)なく()れて日月(じつげつ)
249(ひかり)(きよ)()りにけり
250(しか)るに(なん)(はか)らむや
251(かみ)(ひと)しき勲功(いさをし)
252()てし吾々(われわれ)両人(りやうにん)
253金毛(きんまう)九尾(きうび)悪魔(あくま)()
254千草(ちぐさ)(ひめ)やガーデンの
255(きみ)御霊(みたま)誑惑(きやうわく)
256かかる(きたな)牢獄(らうごく)
257所在(あらゆる)恥辱(ちじよく)(あた)へつつ
258()()めおくぞ(うた)てけれ
259照公(てるこう)仮令(たとへ)()する(とも)
260(まこと)(みち)(つく)すもの
261(すこ)しも(いと)ひはせぬけれど
262一大(いちだい)使命(しめい)(おび)たまふ
263(わが)()(きみ)(くる)します
264(この)残念(ざんねん)如何(いか)にして
265()らさむよしもなきままに
266(こころ)をこめて大神(おほかみ)
267御救(みすく)(いの)(こゑ)あげて
268()をはく(おも)ひの(われ)(むね)
269推量(すいりやう)あれよ()両人(りやうにん)
270(かみ)(すく)ひの(いち)(にち)
271(はや)くあれよと()ぎまつる
272(すく)ひの(かみ)(いち)(にち)
273(はや)(あら)はれ(たま)へよと
274(かしこ)(かしこ)()ぎまつる
275あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
276御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
277レール『(われ)(いま)牢獄(ひとや)(うち)にありながら
278(わす)れざりけり(くに)行末(ゆくすゑ)
279マーク『(たま)()のよしや(いのち)()つるとも
280如何(いか)(をし)まむ(くに)()めには』
281照国別(てるくにわけ)『いさぎよしレール、マークの赤心(まごころ)
282()くにつけても(なみだ)こぼるる』
283照公(てるこう)梅公(うめこう)(うづ)(つかさ)(いま)いづこ
284()かま()しやと朝夕(あさゆふ)(いの)るも』
285照国別(てるくにわけ)梅公(うめこう)(うづ)(つかさ)吾々(われわれ)
286(すく)はむ()めに(ちか)(きた)らむ』
287 かかる(ところ)一人(ひとり)牢番(らうばん)288靴音(くつおと)(たか)()(きた)り、289四辺(あたり)見廻(みまは)し、2891(ひと)()きを()安心(あんしん)せしものの(ごと)く、
290『もし()君様(きみさま)291(わたくし)春公(はるこう)御座(ござ)います。292(あふひ)(ぬま)(おい)てお姿(すがた)見失(みうしな)ひ、293このトルマン城下(じやうか)(まゐ)りました(ところ)294(なん)手掛(てがか)りもなく、295()(きみ)一行(いつかう)所在(ありか)(わか)りませぬので、296看守(かんしゆ)出願(しゆつぐわん)し、297やつと十日(とをか)以前(いぜん)合格(がふかく)し、298かかる(いや)しき獄卒(ごくそつ)(つと)めて()ります。299どうか()心配(しんぱい)(くだ)さいますな。300時期(じき)(かんが)へて屹度(きつと)(たす)(いた)します。301(わう)(さま)からの厳命(げんめい)で、302()(みづ)(あた)へな、303食料(しよくれう)()一回(いつくわい)(いた)せ、304(かれ)()自然(しぜん)餓死(がし)する(まで)()ておけ」との(せう)ラマへの(たつ)しが(まゐ)つたさうで御座(ござ)います。305(しか)(なが)(わたくし)当番(たうばん)(あた)つて()ります以上(いじやう)306(けつ)して()心配(しんぱい)(くだ)さいますな』
307照国(てるくに)『ヤ、308(まへ)春公(はるこう)だつたか、309これも(まつた)(かみ)(さま)が、310かかる(こと)()(きた)るべきを前知(ぜんち)したまひ、311(まへ)牢番(らうばん)にするやう取計(とりはか)らつて(くだ)さつたのだらう。312春公(はるこう)313(さと)られないやうに()をつけよ』
314(はる)『ハイ、315心得(こころえ)まして御座(ござ)います。316どうか()一同(いちどう)(さま)317()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
318 ラマが巡視(じゆんし)()たと()え、319靴音(くつおと)がギウギウと(たか)(きこ)えて()る。320春公(はるこう)は、
321『オイ、322未決囚(みけつしう)(ども)323(しづか)(いた)さねば(きび)しき懲戒(ちようかい)(くは)へるぞ』
324()(なが)ら、325ラマに最敬礼(さいけいれい)をやつて()る。326高壁(たかべい)(そと)には新聞(しんぶん)号外(がうぐわい)配達(はいたつ)のリンが耳騒(みみさわ)がしく(ひび)いて()る。327デカタン高原(かうげん)名物(めいぶつ)328大暴風(だいばうふう)牢獄(らうごく)(けた)をギクギク(ゆす)つて(とほ)る。
329大正一四・八・二五 旧七・六 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)
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