霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 針魔(はりま)(もり)〔一七七六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第2篇 千種蛮態 よみ(新仮名遣い):せんしゅばんたい
章:第9章 針魔の森 よみ(新仮名遣い):はりまのもり 通し章番号:1776
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
ガーデン王は忠義の英霊、左守・右守のためにハリマの森の奥深くに社殿を造営する。そして、照国別を斎主として祭典を執り行った。
同席していたキューバーは、三五教の照国別が斎主を務めたことに怒り、祭りの最中に祭壇に駆け上がり、照国別を罵倒した上、冠を叩き落す。
皆は、キューバーのあまりの行いに驚きあきれ、照国別がどうキューバーに対処するかと注目するが、照国別は冠を落としたまま、何事もなかったかのように悠然と祭りを執り行う。
照国別は退場するが、キューバーはその進路に両手を広げて立ちはだかり、またもや罵倒する。ついにチウイン太子はがまんできず、ジャンクに命じてキューバーを縛り上げ、城の牢獄に入れてしまう。
祭典に出席していた市民・場内の重臣たち一同、このさまに大いに喜び、溜飲を下げた。
以前、キューバーに詰問された向上運動主義者たちは、キューバーの投獄を喜びつつも、このまま生かしておいては後の災いになるだろうと、早くもその後のことを心配している。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm7009
愛善世界社版:113頁 八幡書店版:第12輯 431頁 修補版: 校定版:115頁 普及版:58頁 初版: ページ備考:
001東西南(とうざいなん)三方(さんぱう)
002大海原(おほうなばら)(めぐ)らして
003突出(とつしゆつ)したる(つき)(くに)
004世界(せかい)最古(さいこ)文明地(ぶんめいち)
005七千(しちせん)余国(よこく)国王(こくわう)
006(おのおの)(しのぎ)(けづ)りつつ
007バラモン(けう)印度教(いんどけう)
008三五教(あななひけう)やウラル(けう)
009その(ほか)数百(すうひやく)宗教(しうけう)
010(たがひ)()をば(あらそ)ひつ
011解脱(げだつ)涅槃(ねはん)()(くう)
012霊主(れいしゆ)体従(たいじう)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)
013弥勒(みろく)成就(じやうじゆ)神政(しんせい)
014再現(さいげん)(など)といろいろと
015主義(しゆぎ)主張(しゆちやう)をふりまはし
016思想(しさう)混乱(こんらん)()()なく
017(なか)にも大黒主(おほくろぬしの)(かみ)
018ハルナの(みやこ)割拠(かつきよ)して
019右手(めて)(つるぎ)(たづさ)へつ
020左手(ゆんで)にコーラン()(なが)
021難行(なんぎやう)苦行(くぎやう)のあり()けを
022信者(しんじや)()ゆる暴状(ばうじやう)
023天地(てんち)(ゆる)さぬ悪邪教(あくじやうけう)
024(あらた)めしめて国民(くにたみ)
025苦痛(くつう)(のぞ)(たす)けむと
026()大神(おほかみ)御言(みこと)もて
027照国別(てるくにわけ)梅公(うめこう)
028照公司(てるこうつかさ)(ともな)ひて
029河鹿(かじか)(たうげ)(うち)(わた)
030(あふひ)(ぬま)(たち)(むか)
031十五(じふご)(つき)心胆(しんたん)
032(あら)(きよ)めてデカタンの
033大暴風(だいばうふう)(おそ)はれつ
034大高原(だいかうげん)(すす)()
035デカタン高野(かうや)中心地(ちうしんち)
036トルマン(ごく)(むかし)より
037ウラルの(をしへ)信奉(しんぽう)
038(かみ)(をしへ)のそのままの
039政治(せいぢ)()きて(きた)りしが
040(つき)()(ほし)(うつろ)ひて
041思想(しさう)()()悪化(あくくわ)しつ
042ウラルの(をしへ)()(つき)
043(おとろ)へしより(きよ)(じやう)
044バラモン(けう)やスコ(けう)
045(さかん)跳梁(てうりやう)跋扈(ばつこ)して
046国民性(こくみんせい)三分(さんぶん)
047国運(こくうん)(あやふ)くなりければ
048あまり信仰(しんかう)(つよ)からぬ
049トルマン(わう)()()まし
050(やうや)(かみ)崇敬(すうけい)
051国人(くにびと)(たち)模範(もはん)をば
052(しめ)さむものと(おも)(をり)
053スコブツエン(しう)教祖(けうそ)
054(みづか)名乗(なの)妖僧(えうそう)
055大黒主(おほくろぬし)派遣(はけん)せし
056大足別(おほだるわけ)結託(けつたく)
057トルマン(じやう)粉砕(ふんさい)
058スコブツエンの根拠(こんきよ)をば
059常磐(ときは)堅磐(かきは)(かた)めむと
060あらゆる手段(しゆだん)(めぐ)らして
061警備(けいび)(すくな)国情(こくじやう)
062つけ()暴威(ばうゐ)(ふる)ふこそ
063()(おそ)ろしき(かぎ)りなり
064ガーデン(わう)千草姫(ちぐさひめ)
065右守(うもり)左守(さもり)老臣(らうしん)
066(こころ)(いた)めて国防(こくばう)
067協議(けふぎ)(あたま)(なや)めしが
068左守(さもり)右守(うもり)忠臣(ちうしん)
069(やいば)(さび)となりはてて
070トルマン(ごく)柱石(ちうせき)
071(うしな)ひたるぞ是非(ぜひ)なけれ
072照国別(てるくにわけ)(まも)られて
073チウイン太子(たいし)(ひき)ゐたる
074二千(にせん)五百(ごひやく)精兵(せいへい)
075トルマン(じやう)十重(とへ)二十重(はたへ)
076(かこ)みて王城(わうじやう)威喝(ゐかつ)せし
077大足別(おほだるわけ)全軍(ぜんぐん)
078背後(はいご)()いて一斉(いつせい)
079総攻撃(そうこうげき)(はじ)めける
080この有様(ありさま)()るよりも
081ガーデン(わう)雀躍(こをどり)
082城兵(じやうへい)五百(ごひやく)指揮(しき)しつつ
083大足別(おほだるわけ)大軍(たいぐん)
084前後(ぜんご)左右(さいう)より()ちまくる
085(おごり)きつたる敵軍(てきぐん)
086不意(ふい)援兵(ゑんぺい)襲来(しふらい)
087(あわ)てふためき(うま)()
088武器(ぶき)をも()てて四方(しはう)八方(はつぱう)
089(いのち)からがら()(なが)
090彼方(あちら)此方(こちら)家々(いへいへ)
091放火(はうくわ)(なが)野良犬(のらいぬ)
092遠吠(とほぼえ)なして(かく)れける
093トルマン(じやう)(つつ)みたる
094(しこ)村雲(むらくも)(やうや)くに
095()れて天日(てんじつ)晃々(くわうくわう)
096(かがや)(たま)神世(みよ)となり
097国民(こくみん)上下(じやうげ)歓声(くわんせい)
098一度(いちど)()きて天地(あめつち)
099(ゆる)がむ(ばか)りの(いさま)しさ
100風塵(ふうぢん)(まつた)(おさ)まりて
101ここにガーデン刹帝利(せつていり)
102忠義(ちうぎ)(ため)(たふ)れたる
103左守(さもり)右守(うもり)英霊(えいれい)
104()第一(だいいち)(なぐさ)めて
105感謝(かんしや)()をば(へう)せむと
106ハリマの(もり)(おく)(ふか)
107社殿(しやでん)(つく)りて(まつ)()
108ハリマの(みや)()づけける
109(そも)(この)(きよ)森林(しんりん)
110幾千(いくせん)(ねん)()たりてふ
111(こけ)むす老木(らうぼく)鬱蒼(うつさう)
112(ひる)(なほ)(くら)(おも)ふまで
113立並(たちなら)びつつ()(かぜ)
114ゴウゴウ(えだ)()らしつつ
115()太平(たいへい)(うた)ひゐる。
116ここに照国別(てるくにわけ)(つかさ)
117ガーデン(わう)太子(たいし)をば
118(ひき)ゐて(まつり)(をさ)となり
119祝詞(のりと)(こゑ)(ほがら)かに
120(とな)()げむとする(とき)
121千草(ちぐさ)(ひめ)寵愛(ちようあい)
122独占(どくせん)したるキユーバーは
123(かた)(かぜ)きり傲然(がうぜん)
124照国別(てるくにわけ)(まへ)()
125(くち)(きは)めて祭礼(さいれい)
126儀式(ぎしき)欠点(けつてん)ありとなし
127罵詈(ばり)嘲弄(てうろう)(きは)むれば
128チウイン太子(たいし)(はら)()
129妖僧(えうそう)キユーバーを引捕(ひきとら)
130(ばく)して籐丸籠(とうまるかご)()
131城内(じやうない)さして(かへ)りけり
132千草(ちぐさ)(ひめ)はチウインが
133この行動(かうどう)()くよりも
134(かみ)逆立(さかだ)てて(いか)()
135一旦(いつたん)平和(へいわ)(をさ)まりし
136トルマン(じやう)はここに(また)
137(ふたた)黒雲(こくうん)(ふさ)がりて
138(また)もやお(いへ)大騒動(おほさうどう)
139惹起(じやくき)したるぞ是非(ぜひ)なけれ
140あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
141(かみ)のまにまに瑞月(ずゐげつ)
142口述台(こうじゆつだい)浮船(うきぶね)
143安臥(あんぐわ)(なが)由良湊(ゆらみなと)
144日本海(につぽんかい)怒濤(どたう)をば
145(なが)(なが)らに()べて()
146(むかし)神代(かみよ)物語(ものがたり)
147(まも)らせ(たま)へと()(かみ)
148御前(みまへ)(いの)(たてまつ)
149あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
150御霊(みたま)恩頼(ふゆ)(たま)へかし。
151 ガーデン(わう)は、152不意(ふい)(おこ)つたバラモン(ぐん)攻撃(こうげき)周章(しうしやう)狼狽(らうばい)結果(けつくわ)153右守司(うもりのかみ)のスマンヂーを(あやま)つて()にかけ、154忠義(ちうぎ)一途(いちづ)老臣(らうしん)左守司(さもりのかみ)陣中(ぢんちう)(たふ)れ、155(さいはひ)敵軍(てきぐん)撃退(げきたい)し、156ヤヽ安堵(あんど)したりとは()へ、157ハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)この(はう)()かば、158(また)もや何時(いつ)捲土(けんど)重来(ぢうらい)159(わが)都城(とじやう)(ほふ)らむも(はか)(がた)し、160一旦(いつたん)照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)神護(しんご)とチウイン太子(たいし)智謀(ちぼう)と、161勇将(ゆうしやう)ジヤンクの活動(くわつどう)によつて、162大勝利(だいしようり)()たるも、163かかる戦国(せんごく)(くに)()つるは到底(たうてい)武力(ぶりよく)のみにては(かな)(がた)し、164()第一(だいいち)大神(おほかみ)(まつ)り、165()いで忠臣(ちうしん)義士(ぎし)霊魂(れいこん)(いつ)166国民(こくみん)信仰(しんかう)模範(もはん)(しめ)さむ……と照国別(てるくにわけ)()ひ、167ハリマの(もり)のウラル(ひこ)(まつ)りたるお(みや)(かたはら)に「国柱(きない)神社(じんしや)」と()(ほこら)()て、168左守(さもり)右守(うもり)英霊(えいれい)鎮祭(ちんさい)する(こと)となつた。
169 ガーデン(わう)170チウイン太子(たいし)171ジヤンクを(はじ)城内(じやうない)重臣(ぢうしん)各自(めいめい)玉串(たまぐし)(けん)じ、172照国別(てるくにわけ)斎主(さいしゆ)のもとに無事(ぶじ)祭典(さいてん)(しき)(をは)らむとするや、173キユーバーは三五教(あななひけう)神司(かむづかさ)照国別(てるくにわけ)斎主(さいしゆ)となりし(こと)非常(ひじやう)憤慨(ふんがい)し、174千草姫(ちぐさひめ)(ちよう)()たるを(ちから)として乱暴(らんばう)至極(しごく)にも祭壇(さいだん)()(のぼ)り、175照国別(てるくにわけ)(かむり)(たた)(おと)し、176(ほこら)(まへ)()ちはだかり、177大音声(だいおんじやう)
178『アツハヽヽヽヽ179トルマン(じやう)危急(ききふ)(すく)ひ、180神謀(しんぼう)鬼策(きさく)(めぐ)らし王家(わうけ)(すく)ひたるは181バラモン尊天(そんてん)神力(しんりき)(みた)したるスコブツエン(しう)教祖(けうそ)キユーバーで御座(ござ)る。182抑々(そもそも)このお(みや)はウラル(ひこ)(かみ)183盤古(ばんこ)神王(しんのう)(まつ)りあり、184(しか)るに天下(てんか)(みだ)悪神(あくがみ)(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)部下(ぶか)なるデモ宣伝使(せんでんし)をして斎主(さいしゆ)たらしむるとは合点(がてん)()かず、185神明(しんめい)(たい)(おそ)(おほ)からむ。186何者(なにもの)痴漢(ちかん)ぞ、187刹帝利(せつていり)聰明(そうめい)(おほ)ひまつりたる、188ウラルの(みや)はウラル(けう)宣伝使(せんでんし)(もつ)斎主(さいしゆ)とすべし。189万一(まんいち)異教(いけう)宣伝使(せんでんし)(もつ)斎主(さいしゆ)(あた)らしむるを()るとすれば、190(なに)(ゆゑ)今回(こんくわい)殊勲者(しゆくんしや)たる(この)キユーバーを除外(ぢよぐわい)し、191神意(しんい)(そむ)いて不法(ふはふ)祭事(さいじ)(おこな)ひたるか。192祭典(さいてん)主任(しゆにん)何人(なにびと)ぞ。193(いま)(この)()(あら)はれて(その)理由(りいう)説明(せつめい)せられよ。194照国別(てるくにわけ)(かむり)(もろ)くも地上(ちじやう)(おち)たるは、195神明(しんめい)(ゆる)させ(たま)はざる象徴(しやうちやう)なり。196これを霊的(れいてき)(かんが)ふれば、197国王(こくわう)殿下(でんか)(おん)()危険(きけん)意味(いみ)し、198国家(こくか)転覆(てんぷく)意味(いみ)するもので御座(ござ)る。199(いち)()(はや)照国別(てるくにわけ)一派(いつぱ)(しば)()げ、200(かれ)生血(いきち)大神(おほかみ)(まへ)(いけにへ)となし、201ウラル(ひこ)大神(おほかみ)謝罪(しやざい)(いた)されよ。202天来(てんらい)救世主(きうせいしゆ)203キユーバーここに忠告(ちうこく)(つかまつ)る』
204(よば)はつた。205ガーデン(わう)(はじ)居並(ゐなら)重臣(ぢうしん)(たち)は、206あまり大胆(だいたん)なるキユーバーの宣言(せんげん)(あき)れはて、207照国別(てるくにわけ)返答(へんたふ)如何(いかに)固唾(かたづ)()んで()つてゐる。
208 照国別(てるくにわけ)(すこ)しも(さわ)がず、209(かむり)打落(うちおと)されたるまま悠々(いういう)として玉串(たまぐし)(けん)じ、210祭官(さいくわん)一同(いちどう)(ひき)()し、211トルマン城内(じやうない)さして(かへ)らむとするや、212キユーバーは両手(りやうて)(ひろ)げてその進路(しんろ)(さへぎ)(なが)ら、
213『こりやヤイ、214デモ宣伝使(せんでんし)215(くび)がとんだ以上(いじやう)最早(もは)城内(じやうない)立入(たちい)(こと)(まか)りならぬぞ。216ヤアヤア城内(じやうない)兵卒(へいそつ)(ども)217(かれ)引捕(ひつとら)へて牢獄(らうごく)()()まれよ。218(かれ)はトルマン(ごく)仇敵(きうてき)御座(ござ)るぞ。219(かみ)(げん)間違(まちが)ひは御座(ござ)らぬ』
220(よば)はれども、221ガーデン(わう)やチウイン太子(たいし)一言(いちごん)命令(めいれい)もなければ、222誰一人(たれひとり)として()(くだ)すものもなく、223照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)はソロリソロリと(すす)()く。224キユーバーは両手(りやうて)(ひろ)(なが)(うしろ)()けに(ある)かねばならなくなつた。225(この)(とき)チウイン太子(たいし)()るに()かね、
226『ヤアヤア、227ジヤンク殿(どの)228狼藉者(らうぜきもの)のキユーバーをフン(じば)城外(じやうぐわい)牢獄(らうごく)()()めよ』
229下知(げち)すれば、230ジヤンクの部下(ぶか)()(たか)つてキユーバーを高手(たかて)小手(こて)(いまし)め、231牢獄(らうごく)さして引立(ひきた)てて()く。232群集(ぐんしふ)痛快(つうくわい)(さけ)(こゑ)233ハリマの(もり)()くる(ばか)りに(たか)(きこ)えて()た。
234 城内(じやうない)重臣(ぢうしん)(はじ)めトルマン()老若(らうにやく)男女(なんによ)(この)祭典(さいてん)参拝(さんぱい)してゐたが、235妖僧(えうそう)キユーバーが、236チウイン太子(たいし)(めい)によつて群集(ぐんしふ)(まへ)にて(いまし)めの(なは)()けたるを()(おほい)(よろこ)び、237口々(くちぐち)(ののし)()つてゐる。
238(かふ)『オイ、239(なん)痛快(つうくわい)ぢやないか、240何時(いつ)やらお(まへ)(おれ)と○○○の(はなし)をして()つた(とき)241あの妖僧(えうそう)()242どこからともなく(あら)はれ(きた)り、243「いや、244その(はう)(いま)(おだや)かならぬ(こと)()うて()つたぢやないか。245姓名(せいめい)(なん)()ふ、246住所(ぢうしよ)()かして(もら)ひたい」と()つた糞坊主(くそばうず)だよ。247ホントに、248いいザマぢやのう』
249(おつ)『ウン、250さうさうあの(とき)251(なん)だつたね、252(おれ)()(おれ)だ、253友人(いうじん)()友人(いうじん)だ、254坊主(ばうず)はヤツパリ坊主(ばうず)だ」と(かま)して一目散(いちもくさん)畔道(あぜみち)さして()げた(ところ)255執念深(しふねんぶか)くも何処(どこ)(まで)追跡(つゐせき)しやがつたぢやないか。256大黒主(おほくろぬし)(かさ)()て、257威張(ゐば)()らして()つたが、258今日(けふ)のザマつたら、259ないぢやないか。260こんな(こと)でも()せて(もら)はなくちや、261(おれ)(たち)胸中(きようちう)鬱積(うつせき)して()憤怒(ふんど)(ほのほ)が、262()える(こと)がないぢやないか、263ハツハヽヽヽ』
264(かふ)『そいつも痛快(つうくわい)だが、265あの妖僧(えうそう)()266一寸(ちよつと)(うはさ)()けば○○○に(こと)(ほか)寵愛(ちようあい)され、267刹帝利(せつていり)眼下(がんか)見下(みくだ)し、268大変(たいへん)威勢(ゐせい)だと()(こと)だよ。269戦争(せんそう)(をさ)まつてから十日(とをか)もならないのに、270最早(もはや)自分(じぶん)天下(てんか)のやうに振舞(ふるま)ふんだから、271あんな(やつ)(たす)けておいたらどんな(こと)をさらすか(わか)つたものぢやない。272彼奴(あいつ)屹度(きつと)○○○の保護(ほご)によつて()ならず出獄(しゆつごく)し、273(ふたた)城内(じやうない)暴威(ばうゐ)(ふる)ひ、274吾々(われわれ)国民(こくみん)層一層(そういつそう)(くる)しめ、275生血(いきち)(しぼ)るやうな(こと)をさらすだらう。276吾々(われわれ)主義(しゆぎ)のため、277同胞(どうはう)生活(せいくわつ)安定(あんてい)のため、278このままに見逃(みのが)(こと)出来(でき)ぬぢやないか』
279(おつ)『ウン、280そらさうぢや。281(しか)(なが)(あわ)てるには(およ)ばぬよ。282(また)機会(きくわい)到来(たうらい)するから。283(その)(とき)はその(とき)手段(しゆだん)(めぐ)らしさへすればいいぢやないか、284イツヒヽヽヽ』
285 ハリマの(もり)(やしろ)一直線(いつちよくせん)王城(わうじやう)(つづ)いてゐる。286その(あひだ)距離(きより)二十五(にじふご)(ちやう)287(みち)両方(りやうはう)には家屋(かをく)櫛比(しつぴ)し、288トルマン市中(しちう)(もつと)繁華(はんくわ)土地(とち)(しよう)せられてゐる。
289 (かふ)(おつ)二人(ふたり)はいつも、290これより(この)市街(しがい)出没(しゆつぼつ)し、291何事(なにごと)計画(けいくわく)しつつあつた。
292大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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