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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第一八章
鳳恋
(
ほうれん
)
〔一七八五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第3篇 理想新政
よみ(新仮名遣い):
りそうしんせい
章:
第18章 鳳恋
よみ(新仮名遣い):
ほうれん
通し章番号:
1785
口述日:
1925(大正14)年08月25日(旧07月6日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
千草姫は、王がなかなかジャンクの追放に踏み切れないでいるのを責めている。その場へジャンク本人がやってきて、国難を救った照国別たちを投獄した千草姫の処置を非難し、釈放するように上奏する。
千草姫はジャンクをたしなめるが、逆に矛盾だらけの言動をジャンクに指摘されてしまう。千草姫は「生命を取る」「地獄に落とす」とジャンクを脅すが、ジャンクはものともしない。
ジャンクは、人民が一致団結して、王妃の改心がなければクーデターを起こすつもりであることを告げ、逆に王妃に改心を促して去っていく。
千草姫はこれに怒り、ウラル彦命の神力でジャンクの命を取ろうと、ハリマの森に参拝し、わけのわからない儀式を行う。
その帰り道、千草姫の行列を横切ろうとした若者が、番僧に捕縛された。千草姫は輿の中からその若者を見たところ、たいへんな美男子であった。たちまち千草姫は恋慕の情にとらわれた。
千草姫は、その若者を自ら尋問するという名目で、城の中に連れ込む。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7018
愛善世界社版:
227頁
八幡書店版:
第12輯 473頁
修補版:
校定版:
234頁
普及版:
115頁
初版:
ページ備考:
001
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
傲然
(
がうぜん
)
と
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
気取
(
きどり
)
で、
002
刹帝利
(
せつていり
)
を
脚下
(
きやくか
)
に
跪
(
ひざまづ
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
003
『
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
004
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
005
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
006
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が、
007
汝
(
なんぢ
)
ガーデンに
申
(
まを
)
し
渡
(
わた
)
す
仔細
(
しさい
)
がある。
008
性根
(
しやうね
)
を
据
(
す
)
ゑてしつかり
聞
(
き
)
けよ』
009
王
(
わう
)
『ハイ
010
何事
(
なにごと
)
なり
共
(
とも
)
仰
(
おほ
)
せ
下
(
くだ
)
さりませ。
011
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
誓
(
ちか
)
つて
居
(
を
)
りまするから』
012
千草
(
ちぐさ
)
『
汝
(
なんぢ
)
が
言葉
(
ことば
)
、
013
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
014
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
。
015
汝
(
なんぢ
)
は
之
(
これ
)
より
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
覇者
(
はしや
)
となり、
016
世界
(
せかい
)
統一
(
とういつ
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
掛
(
かか
)
らねばならぬ
大責任
(
だいせきにん
)
があるぞや。
017
それに
就
(
つい
)
ては、
018
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
としては
如何
(
いかん
)
共
(
とも
)
することは
出来
(
でき
)
ない。
019
此
(
この
)
度
(
たび
)
天
(
てん
)
より
天降
(
あまくだ
)
りたる
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
020
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
宿
(
やど
)
と
致
(
いた
)
し、
021
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て、
022
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
にトルマン
国
(
ごく
)
の
足元
(
あしもと
)
を
浄
(
きよ
)
め、
023
逆臣
(
ぎやくしん
)
を
排除
(
はいぢよ
)
し、
024
水晶霊
(
すいしやうみたま
)
をよりぬいて
神
(
かみ
)
の
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
て、
025
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
基礎
(
きそ
)
を
固
(
かた
)
むべき
神界
(
しんかい
)
の
経綸
(
しぐみ
)
なれば、
026
一言
(
いちげん
)
一句
(
いつく
)
と
雖
(
いへど
)
、
027
決
(
けつ
)
して
反
(
そむ
)
いてはなりませぬぞ。
028
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
であらうなア』
029
王
(
わう
)
『ハイ、
030
謹
(
つつし
)
んで
御
(
ご
)
神命
(
しんめい
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう』
031
千草
(
ちぐさ
)
『
汝
(
なんぢ
)
は
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
を
用
(
もち
)
ひず、
032
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
霊
(
みたま
)
の
憑依
(
ひようい
)
せし、
033
田舎育
(
いなかそだち
)
のジヤンクを
依然
(
いぜん
)
として、
034
国政
(
こくせい
)
に
当
(
あた
)
らしむるのは、
035
神界
(
しんかい
)
の
大命
(
たいめい
)
に
反
(
そむ
)
き、
0351
反逆
(
はんぎやく
)
の
罪
(
つみ
)
最
(
もつと
)
も
重
(
おも
)
し。
036
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
勇猛心
(
ゆうまうしん
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
037
彼
(
か
)
れジヤンクを
放逐
(
はうちく
)
せよ』
038
王
(
わう
)
『ハイ、
039
御
(
ご
)
神命
(
しんめい
)
は
確
(
たしか
)
に
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますが、
040
トルマン
国
(
ごく
)
切
(
き
)
つての、
041
彼
(
かれ
)
は
人望家
(
じんばうか
)
。
042
三十万
(
さんじふまん
)
人
(
にん
)
の
国民
(
こくみん
)
は
彼
(
か
)
れ
一人
(
ひとり
)
を
力
(
ちから
)
と
致
(
いた
)
し、
043
三千騎
(
さんぜんき
)
の
兵士
(
つはもの
)
は
彼
(
かれ
)
を
大将軍
(
たいしやうぐん
)
と
尊敬
(
そんけい
)
して
居
(
を
)
りますれば、
044
如何
(
いか
)
に
神命
(
しんめい
)
なればとて
彼
(
かれ
)
が
頭上
(
づじやう
)
に
斧鉞
(
ふゑつ
)
を
加
(
くは
)
ふる
事
(
こと
)
は
045
国家
(
こくか
)
存立
(
そんりつ
)
上
(
じやう
)
否
(
いな
)
刹帝利
(
せつていり
)
家
(
け
)
存立
(
そんりつ
)
上
(
じやう
)
、
046
最
(
もつと
)
も
危険
(
きけん
)
至極
(
しごく
)
かと
存
(
ぞん
)
じます。
047
何卒
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
のみは
少時
(
しばし
)
保留
(
ほりう
)
を
願
(
ねが
)
ひたう
存
(
ぞん
)
じます』
048
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽヽヽ、
049
愚
(
おろか
)
なり、
050
ガーデン
王
(
わう
)
、
051
彼
(
かれ
)
が
如
(
ごと
)
き
野武士
(
のぶし
)
を
以
(
もつ
)
て、
052
トルマン
神国
(
しんこく
)
を
統理
(
とうり
)
せしめむとするは、
053
恰
(
あたか
)
も
巨岩
(
きよがん
)
を
抱
(
いだ
)
いて
海
(
うみ
)
に
投
(
とう
)
ずるより
危
(
あやふ
)
からむ。
054
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
055
天降
(
あまくだ
)
りたる
以上
(
いじやう
)
は、
056
何
(
なん
)
の
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
するところあらむ。
057
速
(
すみや
)
かに
英断
(
えいだん
)
を
以
(
もつ
)
て
彼
(
かれ
)
ジヤンクを
放逐
(
はうちく
)
せよ』
058
王
(
わう
)
『
然
(
しか
)
らば
是非
(
ぜひ
)
に
及
(
およ
)
びませぬ。
059
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
060
彼
(
かれ
)
を
放逐
(
はうちく
)
すれば、
061
教政
(
けうせい
)
を
輔弼
(
ほひつ
)
する
重僧
(
ぢうそう
)
が
御座
(
ござ
)
りませぬ。
062
沢山
(
たくさん
)
の
臣下
(
しんか
)
はあれ
共
(
ども
)
、
063
何
(
いづ
)
れも
大衆
(
たいしう
)
の
信望
(
しんばう
)
をつなぐに
足
(
た
)
らず、
064
国帑
(
こくど
)
を
私
(
わたくし
)
し、
065
各
(
おのおの
)
競
(
きそ
)
うて
金殿
(
きんでん
)
玉楼
(
ぎよくろう
)
を
造
(
つく
)
り、
066
豪奢
(
がうしや
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
り、
067
大衆
(
たいしう
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
となつて
居
(
を
)
りますれば、
068
ジヤンクに
代
(
かは
)
るべき
適当
(
てきたう
)
の
人物
(
じんぶつ
)
なきに
苦
(
くる
)
しみまする』
069
千草
(
ちぐさ
)
『ハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
が
信任
(
しんにん
)
厚
(
あつ
)
きキユーバーを
召出
(
めしいだ
)
し、
070
彼
(
かれ
)
に
国政
(
こくせい
)
を
任
(
まか
)
せなば、
071
国家
(
こくか
)
は
益々
(
ますます
)
栄
(
さか
)
え、
072
天下
(
てんか
)
は
太平
(
たいへい
)
、
073
民
(
たみ
)
は
鼓腹
(
こふく
)
撃壤
(
げきじやう
)
の
聖代
(
せいだい
)
を
来
(
きた
)
さむ
事
(
こと
)
、
074
鏡
(
かがみ
)
にかけて
見
(
み
)
る
如
(
ごと
)
くであるぞや』
075
王
(
わう
)
『
其
(
その
)
キユーバーを
召出
(
めしいだ
)
さむにも、
076
今
(
いま
)
に
於
(
おい
)
て
行方
(
ゆくへ
)
分
(
わか
)
らず、
077
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神眼
(
しんがん
)
にて、
078
在所
(
ありか
)
を
御
(
お
)
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さらば、
079
速
(
すみや
)
かに
彼
(
かれ
)
を
迎
(
むか
)
へ
取
(
と
)
り、
080
御
(
ご
)
神慮
(
しんりよ
)
に
叶
(
かな
)
ふ
様
(
やう
)
取計
(
とりはか
)
らうで
御座
(
ござ
)
りませう』
081
千草
(
ちぐさ
)
『
汝
(
なんぢ
)
に
於
(
おい
)
て
其
(
その
)
覚悟
(
かくご
)
がきまつた
上
(
うへ
)
は、
082
何
(
なに
)
をか
云
(
い
)
はむ。
083
神
(
かみ
)
が
引寄
(
ひきよ
)
せるに
仍
(
よ
)
つて、
084
速
(
すみや
)
かにジヤンクの
職
(
しよく
)
を
解
(
と
)
き、
085
国許
(
くにもと
)
へ
追
(
お
)
ひ
返
(
かへ
)
すべし』
086
王
(
わう
)
『ハハア、
087
確
(
たしか
)
に
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
りました』
088
千草
(
ちぐさ
)
『
流石
(
さすが
)
は
汝
(
なんぢ
)
は
名君
(
めいくん
)
、
089
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
叶
(
かな
)
ひし
者
(
もの
)
、
090
ヤ、
091
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
』
092
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
恭々
(
うやうや
)
しく
現
(
あら
)
はれ
来
(
き
)
たのは
093
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
のジヤンクであつた。
094
ジヤンク『
謹
(
つつし
)
んでお
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
します。
095
御
(
お
)
差支
(
さしつかへ
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬか』
096
千草
(
ちぐさ
)
『
決
(
けつ
)
して
遠慮
(
ゑんりよ
)
には
及
(
およ
)
ばぬ。
097
神
(
かみ
)
が
許
(
ゆる
)
す、
098
何
(
なん
)
なりと
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げて
見
(
み
)
よ』
099
ジヤ『
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
100
殿下
(
でんか
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
101
トルマン
国
(
ごく
)
の
危急
(
ききふ
)
を
救
(
すく
)
ひ
給
(
たま
)
ひし、
102
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
1021
照国別
(
てるくにわけ
)
、
103
照公
(
てるこう
)
の
神柱
(
かむばしら
)
を、
104
何
(
なん
)
の
罪
(
つみ
)
もなきに、
105
城外
(
じやうぐわい
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
なげ
)
込
(
こ
)
み
給
(
たま
)
ひしは、
106
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
のジヤンク、
107
合点
(
がてん
)
が
参
(
まゐ
)
り
申
(
まを
)
しませぬ。
108
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
の
間違
(
まちが
)
ひかは
存
(
ぞん
)
じませぬが、
109
彼
(
かれ
)
二柱
(
ふたはしら
)
の
神司
(
かむづかさ
)
に
於
(
おい
)
ては、
110
一点
(
いつてん
)
の
疑
(
うたが
)
ふべき
言行
(
げんかう
)
もなく、
111
全
(
まつた
)
く
冤罪
(
ゑんざい
)
で
御座
(
ござ
)
いまする。
112
何者
(
なにもの
)
が
讒言
(
ざんげん
)
致
(
いた
)
しましたか
存
(
ぞん
)
じませぬが、
113
賢明
(
けんめい
)
なる
殿下
(
でんか
)
の
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へを
以
(
もつ
)
て、
114
速
(
すみや
)
かに
解放
(
かいはう
)
遊
(
あそ
)
ばされ、
115
二柱
(
ふたはしら
)
の
前
(
まへ
)
に
其
(
その
)
無礼
(
ぶれい
)
を
陳謝
(
ちんしや
)
遊
(
あそ
)
ばさねば、
116
此
(
この
)
国土
(
こくど
)
は
永遠
(
えいゑん
)
に
保
(
たも
)
たれますまい。
117
此
(
この
)
儀
(
ぎ
)
とくと
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へを
願
(
ねが
)
ひます』
118
王
(
わう
)
『………』
119
千草
(
ちぐさ
)
『
愚
(
おろか
)
なり、
120
ジヤンク。
121
汝
(
なんぢ
)
は
今日
(
こんにち
)
唯
(
ただ
)
今
(
いま
)
より、
122
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が、
123
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
を
解職
(
かいしよく
)
する。
124
足元
(
あしもと
)
の
明
(
あか
)
るい
内
(
うち
)
、
125
旅装
(
りよさう
)
を
整
(
ととの
)
へ
国許
(
くにもと
)
へ
蟄居
(
ちつきよ
)
したが
可
(
よ
)
からう』
126
ジヤ『これは
心得
(
こころえ
)
ぬ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
127
トルマン
国
(
ごく
)
の
教政
(
けうせい
)
はガーデン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
統治
(
とうち
)
し
給
(
たま
)
ふ
所
(
ところ
)
、
128
其
(
その
)
教政
(
けうせい
)
を
内助
(
ないじよ
)
遊
(
あそ
)
ばすのは
王妃
(
わうひ
)
の
君
(
きみ
)
。
129
然
(
しか
)
るに
何
(
なん
)
ぞや、
130
王
(
わう
)
又
(
また
)
は
王妃
(
わうひ
)
の
名
(
な
)
を
用
(
もち
)
ひざる
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
131
国家
(
こくか
)
を
代表
(
だいへう
)
したる
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
の
解職
(
かいしよく
)
が
出来
(
でき
)
ませうか。
132
ジヤンク
断
(
だん
)
じて
辞職
(
じしよく
)
は
仕
(
つかまつ
)
らぬ。
133
尚々
(
なほなほ
)
不審
(
ふしん
)
に
堪
(
た
)
へざるは、
134
トルマンの
国土
(
こくど
)
を
将来
(
しやうらい
)
統治
(
とうち
)
し
給
(
たま
)
ふべき
地位
(
ちゐ
)
にあらせらるるチウイン
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め、
135
王女
(
わうぢよ
)
チンレイ
様
(
さま
)
を、
136
修行
(
しうぎやう
)
の
為
(
ため
)
と
称
(
しよう
)
し、
137
或
(
あるひ
)
は
神
(
かみ
)
の
命令
(
めいれい
)
と
称
(
しよう
)
し、
138
世界
(
せかい
)
視察
(
しさつ
)
の
名
(
な
)
の
下
(
もと
)
に
放逐
(
はうちく
)
遊
(
あそ
)
ばしたのは、
139
いよいよ
以
(
もつ
)
て
怪
(
け
)
しからぬ
次第
(
しだい
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか。
140
教務
(
けうむ
)
総監
(
そうかん
)
ジヤンクに
一言
(
いちごん
)
のお
答
(
こた
)
へもなく、
141
斯
(
か
)
かる
重大事
(
ぢうだいじ
)
を、
142
勝手
(
かつて
)
気儘
(
きまま
)
に
断行
(
だんかう
)
さるるは、
143
自
(
おのづか
)
ら
教国
(
けうこく
)
の
綱紀
(
かうき
)
を
紊乱
(
ぶんらん
)
し、
144
王家
(
わうけ
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
を
招
(
まね
)
くべき
因
(
いん
)
ともなるで
御座
(
ござ
)
りませう。
145
どうか
賢明
(
けんめい
)
なる
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
様
(
さま
)
、
146
ジヤンクの
言葉
(
ことば
)
に
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
147
冷静
(
れいせい
)
に
御
(
ご
)
思案
(
しあん
)
を
願
(
ねが
)
ひまする』
148
千草
(
ちぐさ
)
『
黙
(
だま
)
れジヤンク、
149
天地
(
てんち
)
神柱
(
かむばしら
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
はないぞ。
150
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
く
職
(
しよく
)
を
去
(
さ
)
つて
郷里
(
きやうり
)
へ
帰
(
かへ
)
れ』
151
ジヤ『ハヽヽヽヽヽ、
152
これは
怪
(
け
)
しからぬ。
153
未
(
いま
)
だ
教王
(
けうわう
)
殿下
(
でんか
)
より、
154
帰国
(
きこく
)
せよとの
命令
(
めいれい
)
は
受
(
う
)
けては
居
(
を
)
りませぬ。
155
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
156
王妃
(
わうひ
)
の
君
(
きみ
)
には
此
(
この
)
重臣
(
ぢうしん
)
を
任免
(
にんめん
)
黜陟
(
ちゆつちよく
)
遊
(
あそ
)
ばす
権能
(
けんのう
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
157
又
(
また
)
仮令
(
たとへ
)
教王
(
けうわう
)
殿下
(
でんか
)
より
解職
(
かいしよく
)
を
厳命
(
げんめい
)
さるる
共
(
とも
)
、
158
国家
(
こくか
)
危急
(
ききふ
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
159
此
(
この
)
ジヤンク、
160
一歩
(
いつぽ
)
も
動
(
うご
)
きませぬ』
161
千草
(
ちぐさ
)
『
左守
(
さもり
)
、
162
右守
(
うもり
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
が
他界
(
たかい
)
し、
163
邪魔者
(
じやまもの
)
が
無
(
な
)
くなつたと
思
(
おも
)
うての
汝
(
なんぢ
)
の
暴言
(
ばうげん
)
、
164
最早
(
もはや
)
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
さぬぞや、
165
覚悟
(
かくご
)
召
(
め
)
され』
166
ジヤ『
容赦
(
ようしや
)
致
(
いた
)
さぬとは、
167
どうしようと
仰
(
あふ
)
せらるるので
御座
(
ござ
)
りますか』
168
千草
(
ちぐさ
)
『
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
169
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
170
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
171
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が、
172
立所
(
たちどころ
)
に
汝
(
なんぢ
)
が
生命
(
せいめい
)
を
取
(
と
)
り、
173
其
(
その
)
肉体
(
にくたい
)
を
烏
(
からす
)
の
餌食
(
ゑじき
)
となし、
174
其
(
その
)
精霊
(
せいれい
)
を
最低
(
さいてい
)
の
地獄
(
ぢごく
)
に
墜
(
おと
)
してやるが
何
(
ど
)
うぢや。
175
それでも
辞職
(
じしよく
)
を
致
(
いた
)
さぬか』
176
ジヤ『アハヽヽヽ、
177
モウ
其
(
その
)
長
(
なが
)
たらしい
御
(
ご
)
神名
(
しんめい
)
は、
178
ジヤンク
聞
(
きき
)
飽
(
あ
)
きまして
御座
(
ござ
)
います。
179
王妃
(
わうひ
)
には
狂気
(
きやうき
)
召
(
め
)
されたか。
180
狂気
(
きやうき
)
とならば
危険
(
きけん
)
千万
(
せんばん
)
、
181
座敷牢
(
ざしきらう
)
を
造
(
つく
)
つて、
182
病気
(
びやうき
)
本復
(
ほんぷく
)
する
迄
(
まで
)
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めて
置
(
お
)
きますぞ』
183
千草
(
ちぐさ
)
『
汝
(
なんぢ
)
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
184
肉体
(
にくたい
)
上
(
じやう
)
から
云
(
い
)
へば、
185
王妃
(
わうひ
)
の
君
(
きみ
)
、
186
神界
(
しんかい
)
より
申
(
まを
)
さば、
187
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
188
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
……』
189
と
云
(
い
)
ひかけるのを、
190
ジヤンクは
手
(
て
)
を
振
(
ふ
)
り
面
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
めて、
191
『モウモウ
結構
(
けつこう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
192
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
は、
193
とつくに
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
194
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
能
(
よ
)
くお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さいませ。
195
大衆
(
たいしう
)
同盟会
(
どうめいくわい
)
なるものが
組織
(
そしき
)
され、
196
千草姫
(
ちぐさひめ
)
様
(
さま
)
に
於
(
おい
)
て
此
(
この
)
際
(
さい
)
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
なき
時
(
とき
)
は、
197
忽
(
たちま
)
ちクーデターを
行
(
おこな
)
ひ、
198
教政
(
けうせい
)
を
根本
(
こんぽん
)
的
(
てき
)
より
改革
(
かいかく
)
せむと、
199
拙者
(
せつしや
)
の
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
挙宗
(
きよしう
)
一致
(
いつち
)
的
(
てき
)
に
申
(
まを
)
し
出
(
い
)
でて
居
(
を
)
りまするぞ。
200
此
(
この
)
ジヤンクは
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく、
201
大衆
(
たいしう
)
同盟会
(
どうめいくわい
)
の
幹部
(
かんぶ
)
連
(
れん
)
をいろいろと、
202
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
説
(
とき
)
諭
(
さと
)
し、
203
宥
(
なだ
)
めてゐる
最中
(
さいちう
)
で
御座
(
ござ
)
りまするが、
204
最早
(
もはや
)
拙職
(
せつしよく
)
の
力
(
ちから
)
では
及
(
およ
)
ばない
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
、
205
衆心
(
しうしん
)
激昂
(
げきかう
)
し、
206
何時
(
いつ
)
大暴風
(
だいばうふう
)
大怒濤
(
だいどたう
)
の
襲来
(
しふらい
)
して、
207
此
(
この
)
殿堂
(
でんだう
)
を
根底
(
こんてい
)
より
覆
(
くつが
)
へすやも
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
られませぬ。
208
実
(
じつ
)
に
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
209
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
御
(
ご
)
熟考
(
じゆくかう
)
を
願
(
ねが
)
ひたう
存
(
ぞん
)
じます。
210
最早
(
もはや
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
ぐることは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
211
之
(
これ
)
にて
教務所
(
けうむしよ
)
に
引下
(
ひきさが
)
りまする。
212
左様
(
さやう
)
ならば、
213
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
共
(
とも
)
、
214
よき
御
(
ご
)
返詞
(
へんじ
)
を
下
(
くだ
)
さいます
様
(
やう
)
、
215
鶴首
(
くわくしゆ
)
してお
待
(
ま
)
ち
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
りまする』
216
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て、
217
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く
憤然
(
ふんぜん
)
として
教務所
(
けうむしよ
)
指
(
さ
)
して
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
218
後
(
あと
)
に
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
219
ガーデン
王
(
わう
)
は
少時
(
しばし
)
無言
(
むごん
)
の
幕
(
まく
)
を
下
(
おろ
)
してゐた。
220
千草
(
ちぐさ
)
『ガーデン
王殿
(
わうどの
)
、
221
汝
(
なんぢ
)
は
今
(
いま
)
ジヤンクの
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
き、
222
余程
(
よほど
)
心
(
こころ
)
を
悩
(
なや
)
ませてゐる
様子
(
やうす
)
に
見
(
み
)
えるが、
223
彼
(
かれ
)
が
如
(
ごと
)
き
悪魔
(
あくま
)
をして、
224
教政
(
けうせい
)
の
枢機
(
すうき
)
に
参与
(
さんよ
)
せしむるは
危険
(
きけん
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なし。
225
教王家
(
けうわうけ
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
226
天下
(
てんか
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
思
(
おも
)
はば、
227
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
に
従
(
したが
)
ひ、
228
彼
(
かれ
)
が
命
(
いのち
)
を
奪
(
と
)
る
工夫
(
くふう
)
を、
229
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
くめぐらされよ』
230
王
(
わう
)
『ハイ、
231
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
に
教王家
(
けうわうけ
)
に
危害
(
きがい
)
を
及
(
およ
)
ぼし、
232
天下
(
てんか
)
を
転覆
(
てんぷく
)
する
悪魔
(
あくま
)
とならば、
233
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
を
用
(
もち
)
ひ、
234
彼
(
かれ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさねばなりますまいが、
235
苟
(
いやし
)
くもウラルの
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
者
(
もの
)
、
236
斯
(
か
)
かる
暴虐
(
ばうぎやく
)
の
手
(
て
)
を
下
(
くだ
)
すことは、
237
私
(
わたくし
)
としては
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬ。
238
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
、
239
最前
(
さいぜん
)
仰
(
おほ
)
せられた
通
(
とほ
)
り、
240
神徳
(
しんとく
)
を
以
(
もつ
)
て、
241
彼
(
かれ
)
が
命
(
いのち
)
を
立所
(
たちどころ
)
に
御
(
お
)
断
(
た
)
ち
下
(
くだ
)
さらば、
242
実
(
じつ
)
に
仕合
(
しあは
)
せで
御座
(
ござ
)
りまする。
243
一国
(
いつこく
)
の
教王
(
けうわう
)
が
刺客
(
しきやく
)
を
用
(
もち
)
ひて、
244
重僧
(
ぢうそう
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼす
如
(
ごと
)
きは、
245
殷
(
いん
)
の
紂王
(
ちうわう
)
にもまさる
悪虐
(
あくぎやく
)
、
246
かかる
事
(
こと
)
が
大衆
(
たいしう
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
はい
)
りますれば、
247
到底
(
たうてい
)
大衆
(
たいしう
)
は
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しますまい。
248
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
より
命
(
いのち
)
をおめしになる
方法
(
はうはふ
)
を
御
(
お
)
取
(
と
)
りになれば、
249
之
(
これ
)
に
越
(
こ
)
したる
良策
(
りやうさく
)
は
御座
(
ござ
)
いますまい』
250
千草
(
ちぐさ
)
『
如何
(
いか
)
にも、
251
汝
(
なんぢ
)
の
言
(
げん
)
一理
(
いちり
)
あり。
252
いざ
之
(
これ
)
より
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
253
ハリマの
森
(
もり
)
に
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
し、
254
ウラル
彦
(
ひこの
)
命
(
みこと
)
と
協議
(
けふぎ
)
の
上
(
うへ
)
、
255
彼
(
かれ
)
が
命
(
いのち
)
を
召取
(
めしと
)
るであらう。
256
ガーデン
王殿
(
わうどの
)
、
257
臣下
(
しんか
)
に
輿
(
こし
)
の
用意
(
ようい
)
申
(
まを
)
しつけられよ』
258
王
(
わう
)
『
早速
(
さつそく
)
申
(
まを
)
しつけ、
259
準備
(
じゆんび
)
に
取
(
とり
)
かかりませう』
260
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
七
(
なな
)
つ
時
(
どき
)
、
261
又
(
また
)
もや
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
輿
(
こし
)
に
乗
(
の
)
り、
262
数多
(
あまた
)
の
番僧
(
ばんそう
)
に
護衛
(
ごゑい
)
され
乍
(
なが
)
ら、
263
ハリマの
宮
(
みや
)
に
詣
(
まう
)
で、
264
神殿
(
しんでん
)
にて
何事
(
なにごと
)
か
分
(
わか
)
らぬことをベチヤベチヤ
囀
(
さへづ
)
り、
265
狂態
(
きやうたい
)
を
演
(
えん
)
じ
乍
(
なが
)
ら、
266
再
(
ふたた
)
び
輿
(
こし
)
に
乗
(
の
)
つて
行列
(
ぎやうれつ
)
いかめしく
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る。
267
此
(
この
)
行列
(
ぎやうれつ
)
の
間
(
あひだ
)
は、
268
大衆
(
たいしう
)
の
通行
(
つうかう
)
を
禁
(
きん
)
じ、
269
一間
(
いつけん
)
毎
(
ごと
)
に
番僧
(
ばんそう
)
を
立
(
た
)
たせ、
270
物々
(
ものもの
)
しき
警戒
(
けいかい
)
をやる
事
(
こと
)
となつてゐる。
271
そこへ、
272
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
声
(
こゑ
)
高
(
たか
)
く
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
273
平然
(
へいぜん
)
として
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
274
輿
(
こし
)
の
前方
(
ぜんぱう
)
を
横切
(
よこぎ
)
らむとするや、
275
警固
(
けいご
)
の
番僧
(
ばんそう
)
は
苦
(
く
)
も
無
(
な
)
く
之
(
これ
)
を
取押
(
とりおさ
)
へた。
276
此
(
この
)
物音
(
ものおと
)
に
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は、
277
輿
(
こし
)
の
簾
(
みす
)
を
上
(
あ
)
げ
眺
(
なが
)
むれば、
278
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
の
一
(
いち
)
美男子
(
びだんし
)
である。
279
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
恋慕
(
れんぼ
)
の
情
(
じやう
)
起
(
おこ
)
り、
280
如何
(
いか
)
にもして、
281
此
(
この
)
美男子
(
びだんし
)
を
城内
(
じやうない
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
らむものと
煩悶
(
はんもん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
282
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
283
輿
(
こし
)
の
簾
(
みす
)
をあげ、
284
半身
(
はんしん
)
を
外
(
そと
)
に
現
(
あら
)
はし、
285
千草
(
ちぐさ
)
『ヤアヤア
番僧
(
ばんそう
)
共
(
ども
)
、
286
其
(
その
)
犯人
(
はんにん
)
は
妾
(
わらは
)
に
於
(
おい
)
て、
287
自
(
みづか
)
ら
取調
(
とりしら
)
べたき
仔細
(
しさい
)
あれば、
288
妾
(
わらは
)
と
共
(
とも
)
に
城内
(
じやうない
)
へ
引立
(
ひきた
)
て
来
(
きた
)
れよ』
289
と
厳命
(
げんめい
)
する。
290
番僧
(
ばんそう
)
は
王妃
(
わうひ
)
の
言葉
(
ことば
)
、
291
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
も
無
(
な
)
く
承諾
(
しようだく
)
し、
292
此
(
この
)
犯人
(
はんにん
)
を
縛
(
しば
)
つた
儘
(
まま
)
、
293
輿
(
こし
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
城内
(
じやうない
)
に
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
ける
事
(
こと
)
となりぬ。
294
(
大正一四・八・二五
旧七・六
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