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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第七章
妻生
(
さいせい
)
〔一七七四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第1篇 花鳥山月
よみ(新仮名遣い):
かちょうさんげつ
章:
第7章 妻生
よみ(新仮名遣い):
さいせい
通し章番号:
1774
口述日:
1925(大正14)年08月23日(旧07月4日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
汚く醜いあばら家も、御霊の相応によって、高姫とキューバーには美しい御殿のように見えるのであった。
そして、いつのまにかキューバーの目には高姫が千草姫のように見えてきた。一方、高姫にはキューバーが時置師の杢助に見えてきた。お互いに思う人の幻影を見つつ、二人は辻褄の合わない勝手な応答をしながら、抱擁して眠ってしまった。
外にいたトンボは石を拾って手当たり次第に投げつける。キューバーと高姫は怒ってトンボを追いかける。トンボは八衢の関所の門につきあたって倒れ、つかまってしまう。
トンボは自棄になって二人の悪行をののしりたてる。その声に、八衢の門の守衛が出てきて、三人が居るのは冥土であることを諭す。そして、高姫の宿るべき肉体は千草姫であることを告げる。
途端に、キューバー・高姫ははっと気づくと、トルマン城の千草姫の部屋に倒れていた。こうして千草姫の肉体に高姫の精霊が入り込んだのである。これより姫の言行は一変する。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-11-30 15:11:07
OBC :
rm7007
愛善世界社版:
86頁
八幡書店版:
第12輯 421頁
修補版:
校定版:
88頁
普及版:
45頁
初版:
ページ備考:
001
軒
(
のき
)
は
傾
(
かたむ
)
き
屋根
(
やね
)
は
破
(
やぶ
)
れ、
002
蝶
(
てふ
)
も
蜻蛉
(
とんぼ
)
も
蜂
(
はち
)
も
雀
(
すずめ
)
も
雨
(
あめ
)
も、
003
屋根
(
やね
)
から
降
(
ふ
)
つて
来
(
く
)
る
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
茅葺
(
かやぶき
)
の
屋根
(
やね
)
が
煤竹
(
すすだけ
)
の
骨
(
ほね
)
を
出
(
だ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
004
雨戸
(
あまど
)
は
七分
(
しちぶ
)
三分
(
さんぶ
)
に
尻
(
しり
)
からげたやうに
風
(
かぜ
)
に
喰
(
く
)
ひ
取
(
と
)
られ、
005
障子
(
しやうじ
)
はづづ
黒
(
ぐろ
)
く
棧
(
さん
)
毎
(
ごと
)
に
瓔珞
(
ようらく
)
を
下
(
さ
)
げ、
006
風
(
かぜ
)
吹
(
ふ
)
く
度
(
たび
)
に
自由
(
じいう
)
に
舞踏
(
ぶたふ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
007
湿
(
しめ
)
つぽい
畳
(
たたみ
)
は、
008
表
(
おもて
)
はすつかり
破
(
やぶ
)
れ、
009
赤
(
あか
)
ずんだ
床
(
とこ
)
許
(
ばか
)
りが
僅
(
わづか
)
に
命脈
(
めいみやく
)
を
保
(
たも
)
ち
010
足
(
あし
)
踏
(
ふ
)
み
入
(
い
)
るるも
身
(
み
)
の
毛
(
け
)
のよだつやうに
見苦
(
みぐる
)
しい。
011
さうして
何
(
なん
)
とも
仮令
(
たとへ
)
やうのない
異様
(
いやう
)
な
臭気
(
しうき
)
が
鼻
(
はな
)
を
衝
(
つ
)
く。
012
されど、
013
高姫
(
たかひめ
)
やキユーバーの
目
(
め
)
には
此
(
この
)
茅屋
(
ばうをく
)
が
金殿
(
きんでん
)
玉楼
(
ぎよくろう
)
の
如
(
ごと
)
くに
見
(
み
)
え、
014
異様
(
いやう
)
な
臭気
(
しうき
)
は
麝香
(
じやかう
)
の
如
(
ごと
)
くに、
015
想念
(
さうねん
)
の
情動
(
じやうどう
)
によつて
感
(
かん
)
じ
得
(
え
)
らるるのも
妙
(
めう
)
である。
016
牛糞
(
うしぐそ
)
の
味
(
あぢ
)
も
牡丹餅
(
ぼたもち
)
の
如
(
ごと
)
く
感
(
かん
)
じ、
017
馬糞
(
うまぐそ
)
の
臭
(
にほひ
)
もお
萩
(
はぎ
)
の
如
(
ごと
)
く、
018
いと
満足
(
まんぞく
)
に
喉
(
のど
)
を
鳴
(
な
)
らしてしやぶるのだから
耐
(
たま
)
らない。
019
口
(
くち
)
の
欠
(
か
)
けた
燻
(
くす
)
ぼつた
土瓶
(
どびん
)
に
籐
(
とう
)
の
蔓
(
つる
)
の
柄
(
え
)
をつけ、
020
屋根
(
やね
)
から
釣
(
つ
)
るした
煤
(
すす
)
だらけの
てんどり
に
引
(
ひ
)
つかけ、
021
牛糞
(
うしぐそ
)
を
焚
(
た
)
いて
茶
(
ちや
)
を
温
(
あたた
)
め
乍
(
なが
)
ら、
022
二人
(
ふたり
)
は
嬉々
(
きき
)
として
他愛
(
たあい
)
もなくふざけて
居
(
ゐ
)
る。
023
御霊
(
みたま
)
の
相応
(
さうおう
)
と
云
(
い
)
ふものは
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
なものである。
024
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
さまは、
025
キユーバーの
目
(
め
)
には、
026
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
た
時
(
とき
)
には
婆
(
ばあ
)
さまのやうに
見
(
み
)
えたが、
027
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか、
028
トルマン
国
(
ごく
)
の
王妃
(
わうひ
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
のやうな
美人
(
びじん
)
に
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
た。
029
又
(
また
)
高姫
(
たかひめ
)
の
目
(
め
)
では
団栗眼
(
どんぐりまなこ
)
の
烏天狗
(
からすてんぐ
)
のやうな、
030
口
(
くち
)
の
尖
(
とが
)
つた
不細工
(
ぶさいく
)
なキユーバーの
顔
(
かほ
)
が
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
凛々
(
りり
)
しい、
031
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
に
見
(
み
)
えて
耐
(
たま
)
らない。
032
高姫
(
たかひめ
)
は
鼠髯
(
ねずみひげ
)
のやうに
皺
(
しわ
)
のよつた
口
(
くち
)
をつぼめ
乍
(
なが
)
ら、
033
しよな しよなと
体
(
からだ
)
をゆすり、
034
高
(
たか
)
『これ
杢助
(
もくすけ
)
さん、
035
否
(
いや
)
高宮彦
(
たかみやひこ
)
殿
(
どの
)
、
036
ようまあ
化
(
ば
)
けたものですなあ。
037
あの
四
(
よ
)
つ
辻
(
つじ
)
で
会
(
あ
)
つた
時
(
とき
)
は、
038
左程
(
さほど
)
でもない
遍路
(
へんろ
)
だと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
たに、
039
かうさし
向
(
むか
)
うて
篤
(
とつ
)
くりとお
顔
(
かほ
)
をみると、
040
まぎれもない
高宮彦
(
たかみやひこ
)
様
(
さま
)
だわ。
041
もし
私
(
わたし
)
は
高宮姫
(
たかみやひめ
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ。
042
何
(
なん
)
ですか
他々
(
よそよそ
)
しい。
043
他人
(
たにん
)
らしい
其
(
その
)
振舞
(
ふるまひ
)
は
措
(
を
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
044
何程
(
なにほど
)
貴方
(
あなた
)
が
出世
(
しゆつせ
)
して
偉
(
えら
)
くなつたつてやつぱり
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
ですよ』
045
キユ『お
前
(
まへ
)
は
高宮姫
(
たかみやひめ
)
と
改名
(
かいめい
)
したのか、
046
何
(
なん
)
でも
千草姫
(
ちぐさひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
だつたと
思
(
おも
)
ふがな』
047
高
(
たか
)
『あのまあ
杢
(
もく
)
チヤンの
白々
(
しらじら
)
しい
事
(
こと
)
。
048
それ
貴方
(
あなた
)
とあの
御殿
(
ごてん
)
でお
約束
(
やくそく
)
して
高宮姫
(
たかみやひめ
)
と
改名
(
かいめい
)
したぢやありませぬか。
049
貴方
(
あなた
)
だつて
其
(
その
)
時
(
とき
)
高宮彦
(
たかみやひこ
)
と
改名
(
かいめい
)
されたでせう』
050
キユ『ハテナ、
051
お
前
(
まへ
)
はどうしても
千草姫
(
ちぐさひめ
)
に
違
(
ちが
)
ひない。
052
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
053
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
054
名
(
な
)
はどうでもよい。
055
心
(
こころ
)
と
心
(
こころ
)
さへぴつたり
合
(
あ
)
うて
居
(
を
)
ればそれで
十分
(
じふぶん
)
だ』
056
と
二人
(
ふたり
)
は
互
(
たが
)
ひ
違
(
ちが
)
ひに
主
(
ぬし
)
をかへ、
057
嬉々
(
きき
)
として
意茶
(
いちや
)
つき
始
(
はじ
)
めた。
058
高
(
たか
)
『もし
貴方
(
あなた
)
、
059
あれから
私
(
わたし
)
に
別
(
わか
)
れて
何処
(
どこ
)
を
歩
(
ある
)
いてゐらしたの。
060
私
(
わたし
)
どれ
程
(
ほど
)
尋
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
たか
知
(
し
)
れませぬわ』
061
キユ『
私
(
わし
)
はな、
062
デカタン
高原
(
かうげん
)
のトルマン
国
(
ごく
)
へ
根拠
(
こんきよ
)
を
構
(
かま
)
へ、
063
お
前
(
まへ
)
を
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
てから
目
(
め
)
にちらついて
耐
(
たま
)
らず、
064
何
(
なん
)
とかして
会
(
あ
)
ひたい
会
(
あ
)
ひたいと
心
(
こころ
)
を
焦
(
こが
)
して
居
(
ゐ
)
る
矢先
(
やさき
)
、
065
お
前
(
まへ
)
がトルマン
王
(
わう
)
の
妃
(
きさき
)
になつて
居
(
ゐ
)
るものだから
手
(
て
)
の
附
(
つけ
)
やうがなく、
066
百方
(
ひやくぱう
)
手段
(
しゆだん
)
をもつてたうとうお
前
(
まへ
)
に
近
(
ちか
)
よる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
、
067
永
(
なが
)
らくの
恋
(
こひ
)
の
暗
(
やみ
)
を
晴
(
は
)
らす
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
たのだ。
068
サアこれからお
前
(
まへ
)
と
私
(
わし
)
と
心
(
こころ
)
を
合
(
あは
)
せ、
069
トルマン
国
(
ごく
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れ、
070
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
して
見
(
み
)
ようぢやないか。
071
到底
(
たうてい
)
科学
(
くわがく
)
的
(
てき
)
文明
(
ぶんめい
)
の
極点
(
きよくてん
)
とも
云
(
い
)
ふべき
現代
(
げんだい
)
を
救
(
すく
)
ふのには、
072
単
(
たん
)
なる
説教
(
せつけう
)
や
演説
(
えんぜつ
)
や
祈祷
(
きたう
)
のみにては
功
(
こう
)
を
奏
(
そう
)
しにくい。
073
自
(
みづか
)
ら
王者
(
わうじや
)
の
位置
(
ゐち
)
に
立
(
た
)
ち
軍隊
(
ぐんたい
)
を
片手
(
かたて
)
に
握
(
にぎ
)
り、
074
一方
(
いつぱう
)
には
剣
(
つるぎ
)
、
075
一方
(
いつぱう
)
にはコーランをもつて
人心
(
じんしん
)
を
治
(
をさ
)
めなくては
宗教
(
しうけう
)
も
政治
(
せいぢ
)
も
嘘
(
うそ
)
だ』
076
高
(
たか
)
『
成程
(
なるほど
)
、
077
貴方
(
あなた
)
のやうな
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
神人
(
しんじん
)
は
世界
(
せかい
)
に
御座
(
ござ
)
いますまい。
078
あゝ
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
が
間
(
あひだ
)
、
079
此
(
こ
)
の
山
(
やま
)
の
ほてら
で
苦労
(
くらう
)
したのも
貴方
(
あなた
)
に
会
(
あ
)
ひたい
許
(
ばか
)
り、
080
いよいよ
時節
(
じせつ
)
が
来
(
き
)
たのかなあ』
081
と
互
(
たがひ
)
に
辻褄
(
つじつま
)
の
合
(
あ
)
はぬ
勝手
(
かつて
)
な
応答
(
おうたふ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
082
八味
(
やみ
)
の
幕
(
まく
)
を
下
(
おろ
)
して
抱擁
(
はうよう
)
したまま
睡
(
ねむ
)
りについて
了
(
しま
)
つた。
083
外
(
そと
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
たトンボはやけて
耐
(
たま
)
らず、
084
小石
(
こいし
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
戸
(
と
)
の
破
(
やぶ
)
れから
幾
(
いく
)
つともなくボイボイと
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
085
小石
(
こいし
)
は
釣
(
つ
)
り
下
(
さ
)
げてある
土瓶
(
どびん
)
の
腹
(
はら
)
を
割
(
わ
)
つて、
086
二人
(
ふたり
)
の
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
足
(
あし
)
の
上
(
うへ
)
にパツと
小便
(
せうべん
)
を
垂
(
た
)
れた。
087
高姫
(
たかひめ
)
は
驚
(
おどろ
)
き
跳起
(
はねお
)
き
乍
(
なが
)
ら
声
(
こゑ
)
を
震
(
ふる
)
はせて、
088
『これや、
089
天下
(
てんか
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
が
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
きよるのに
何
(
なに
)
をするか。
090
何者
(
なにもの
)
だ、
091
名
(
な
)
を
名乗
(
なの
)
れ』
092
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てる。
093
トンボは
外
(
そと
)
から、
094
『ワハヽヽヽヽヽ
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げたのは
此
(
この
)
トンボさまだ。
095
これや
婆々
(
ばば
)
、
096
今
(
いま
)
にこの
家
(
いへ
)
を
叩
(
たた
)
き
壊
(
こは
)
してやるからさう
思
(
おも
)
へ。
097
俺
(
おれ
)
も
一
(
ひと
)
つは
性念
(
しやうねん
)
が
有
(
あ
)
るぞ』
098
と
又
(
また
)
もや
雨
(
あめ
)
の
如
(
ごと
)
く
両手
(
りやうて
)
に
小石
(
こいし
)
を
掴
(
つか
)
んで
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
む
危
(
あや
)
ふさ。
099
石
(
いし
)
は
戸棚
(
とだな
)
や
水屋
(
みづや
)
にぶつかつて、
100
カチヤカチヤ パチパチ ガランガランと
瀬戸物
(
せともの
)
迄
(
まで
)
が
滅茶
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
になる。
101
高姫
(
たかひめ
)
、
102
キユーバーの
二人
(
ふたり
)
は
危
(
あぶな
)
くて
成
(
な
)
らず、
103
表戸
(
おもてど
)
を
引
(
ひ
)
きあけ『コレヤー』と
呶鳴
(
どな
)
る
勢
(
いきほひ
)
に、
104
トンボは
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
との
体
(
からだ
)
を、
105
尻
(
しり
)
をまくりながら、
106
ドンドンドンと
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す。
107
高姫
(
たかひめ
)
とキユーバーは
追
(
おひ
)
ついて
素首
(
そつくび
)
引掴
(
ひつつか
)
み
懲
(
こら
)
して
呉
(
くれ
)
むと
真裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
、
108
トンボの
後
(
あと
)
を
息
(
いき
)
をはづませ、
109
青
(
あを
)
い
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
となつて
追
(
お
)
つかけ
行
(
ゆ
)
く。
110
トンボは
八衢
(
やちまた
)
の
関所
(
せきしよ
)
の
門口
(
もんぐち
)
に
来
(
きた
)
り、
111
慌
(
あわ
)
てて
黒門
(
くろもん
)
に
どん
とつきあたり、
112
アツと
云
(
い
)
つた
儘
(
まま
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れた。
113
キユーバー、
114
高姫
(
たかひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
皺枯声
(
しわがれごゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
115
ホーイホーイ、
116
ホイホイホイとド
拍子
(
びやうし
)
もない
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げて
追
(
おつ
)
かけ
来
(
きた
)
り、
117
トンボの
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
る
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
痛快
(
つうくわい
)
がり、
118
高
(
たか
)
『ホヽヽヽヽヽこれ
杢
(
もく
)
チヤン、
119
天罰
(
てんばつ
)
と
云
(
い
)
ふものは
怖
(
おそ
)
ろしいものでは
御座
(
ござ
)
いませぬか、
120
ねえ
貴方
(
あなた
)
。
121
私
(
わたし
)
と
貴方
(
あなた
)
が
神代
(
かみよ
)
から
伝
(
つた
)
はつた、
122
青人草
(
あをひとぐさ
)
の
種蒔
(
たねまき
)
の
御
(
お
)
神楽
(
かぐら
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
るのを
岡焼
(
をかやき
)
して、
123
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだトンマ
野郎
(
やらう
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか。
124
これやトンマ、
125
確
(
しつか
)
りせぬかい、
126
生宮
(
いきみや
)
さまの
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
には
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか』
127
トンボは
漸
(
やうや
)
く
気
(
き
)
がつき、
128
『お
前
(
まへ
)
さまは
生宮
(
いきみや
)
さまぢやないか。
129
こんな
役所
(
やくしよ
)
の
門前
(
もんぜん
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
て
人
(
ひと
)
の
恥
(
はぢ
)
をさらすものぢやありませぬぞや。
130
何卒
(
どうぞ
)
悪口
(
わるくち
)
だけは
耐
(
こら
)
へて
下
(
くだ
)
さい。
131
私
(
わたし
)
だつてまだ
末
(
すゑ
)
の
長
(
なが
)
い
人間
(
にんげん
)
、
132
これからまた
世
(
よ
)
に
立
(
た
)
つて
一働
(
ひとはたら
)
きせなくてはなりませぬ。
133
お
役人
(
やくにん
)
の
耳
(
みみ
)
へ
私
(
わたし
)
の
悪口
(
あくこう
)
が
入
(
い
)
つたら
最後
(
さいご
)
、
134
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つても
頭
(
あたま
)
は
上
(
あが
)
りませぬからねえ』
135
高
(
たか
)
『ヘン、
136
これや なーにをぬかして
居
(
ゐ
)
るのだい。
137
自業
(
じごふ
)
自得
(
じとく
)
ぢやないか。
138
お
前
(
まへ
)
のやうなものを
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げさせておこうものなら、
139
世界
(
せかい
)
は
暗雲
(
やみくも
)
になつて
了
(
しま
)
ふぢやないか。
140
それだからお
役人
(
やくにん
)
に
聞
(
きこ
)
えるやう、
141
一入
(
ひとしほ
)
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
つたのだよ。
142
何
(
なん
)
とまあ
情
(
なさけ
)
なささうな
顔
(
かほ
)
わいのう』
143
ト『これや
婆々
(
ばば
)
、
144
もう
俺
(
おれ
)
も
破
(
やぶ
)
れかぶれだ、
145
何
(
なん
)
なりと
悪口
(
わるくち
)
をつけ。
146
その
代
(
かは
)
り
貴様
(
きさま
)
の
秘密
(
ひみつ
)
をお
役人
(
やくにん
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
るやう
大声
(
おほごゑ
)
で
素
(
す
)
ツ
破
(
ぱ
)
ぬいてやる』
147
キユ『これやこれやトンボとやら
滅多
(
めつた
)
な
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
ふまいぞ。
148
貴様
(
きさま
)
のやうな
三文
(
さんもん
)
やつこなら、
149
仮令
(
たとへ
)
よく
云
(
い
)
はれても
悪
(
わる
)
く
云
(
い
)
はれても
余
(
あま
)
り
影響
(
えいきやう
)
はない
筈
(
はず
)
だ。
150
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
如
(
ごと
)
き
救世主
(
きうせいしゆ
)
の、
151
仮令
(
たとへ
)
嘘
(
うそ
)
にもせよ
悪口
(
わるくち
)
を
申
(
まを
)
すと、
152
世界
(
せかい
)
救済
(
きうさい
)
の
事業
(
じげふ
)
の
妨害
(
ばうがい
)
になるのみならず、
153
其
(
その
)
罪
(
つみ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
廻
(
まは
)
り
来
(
きた
)
つて
吊釣
(
てうきん
)
地獄
(
ぢごく
)
に
墜
(
お
)
ちるぞや』
154
ト『ヘン
放
(
ほ
)
つといて
下
(
くだ
)
さい。
155
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
婆々
(
ばば
)
と
炉
(
いろり
)
の
辺
(
はた
)
で、
156
とんでもない
種蒔
(
たねまき
)
行事
(
ぎやうじ
)
を
演
(
えん
)
じて
居
(
ゐ
)
たぢやないか。
157
それあの
醜体
(
しうたい
)
を……もしもしお
役人
(
やくにん
)
様
(
さま
)
、
158
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
の
大罪人
(
だいざいにん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
159
何卒
(
どう
)
か
御
(
ご
)
規則
(
きそく
)
に
照
(
てら
)
し、
160
地獄
(
ぢごく
)
へ
打
(
ぶ
)
ち
込
(
こ
)
んで
下
(
くだ
)
さい。
161
さうしてウラナイ
教
(
けう
)
とか、
162
スコ
教
(
けう
)
とか
云
(
い
)
つて
悪神
(
わるがみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
天下
(
てんか
)
に
拡
(
ひろ
)
めようとする
餓鬼
(
がき
)
畜生
(
ちくしやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
163
私
(
わたし
)
が
証拠人
(
しようこにん
)
になります。
164
何卒
(
どうぞ
)
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
厳
(
きび
)
しく
調
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さい』
165
と
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てる。
166
キユ『これやこれやトンボとやら、
167
教主
(
けうしゆ
)
や
生宮
(
いきみや
)
を
罵
(
ののし
)
る
罪
(
つみ
)
は
軽
(
かる
)
けれど、
168
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
を
罵
(
ののし
)
る
罪
(
つみ
)
は
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
許
(
ゆる
)
されないぞ。
169
謗法
(
ばうほふ
)
の
罪
(
つみ
)
の
重
(
おも
)
い
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか』
170
ト『ヘン
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない。
171
謗法
(
ばうほふ
)
の
罪
(
つみ
)
なんて
俺
(
おれ
)
やどこでもやつた
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いわ。
172
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
こそ
方々
(
はうばう
)
で
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をやつて
来
(
き
)
た
代物
(
しろもの
)
だ。
173
もしお
役人
(
やくにん
)
様
(
さま
)
、
174
大罪人
(
だいざいにん
)
を
二人
(
ふたり
)
茲
(
ここ
)
へ
引張
(
ひつぱ
)
つて
来
(
き
)
ました。
175
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さらないと
とんぼう
(
遁亡
(
とんばう
)
)
致
(
いた
)
します。
176
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
177
と
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
178
赤白
(
あかしろ
)
両人
(
りやうにん
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
訝
(
いぶか
)
り
乍
(
なが
)
ら、
179
門
(
もん
)
を
左右
(
さいう
)
に
開
(
ひら
)
き
外
(
そと
)
に
出
(
で
)
て
見
(
み
)
るとこの
体裁
(
ていさい
)
、
180
赤
(
あか
)
『これやこれや
今日
(
けふ
)
は
公休日
(
こうきうび
)
だ。
181
なぜ
矢釜
(
やかま
)
しく
申
(
まを
)
すか。
182
訴
(
うつた
)
へ
事
(
ごと
)
があるなら
明日
(
みやうにち
)
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い、
183
聞
(
き
)
いてやらう』
184
ト『もしお
役人
(
やくにん
)
さまに
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
185
天下
(
てんか
)
を
乱
(
みだ
)
す
彼様
(
かやう
)
な
大悪人
(
だいあくにん
)
を
現在
(
げんざい
)
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
186
公休日
(
こうきうび
)
だから
調
(
しら
)
べないなぞと、
187
そんなナマクラな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うてお
役人
(
やくにん
)
が
勤
(
つと
)
まりますか。
188
日曜
(
にちえう
)
迄
(
まで
)
月給
(
げつきふ
)
は
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
られませう。
189
一寸
(
ちよつと
)
でよいからお
調
(
しら
)
べ
下
(
くだ
)
さいませ』
190
赤
(
あか
)
『や、
191
お
前
(
まへ
)
はバラモンのリユーチナントではないか。
192
未
(
ま
)
だ
修養
(
しうやう
)
も
致
(
いた
)
さず、
193
八衢
(
やちまた
)
に
迷
(
まよ
)
ふて
居
(
ゐ
)
るのか、
194
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だなあ』
195
ト『もしお
役人
(
やくにん
)
さま、
196
面白
(
おもしろ
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますなあ。
197
冥途
(
めいど
)
かなんかのやうに
現界
(
げんかい
)
に
八衢
(
やちまた
)
が
御座
(
ござ
)
いますか』
198
赤
(
あか
)
『ここは
冥途
(
めいど
)
の
八衢
(
やちまた
)
だ。
199
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
一旦
(
いつたん
)
部下
(
ぶか
)
となり、
200
軍隊
(
ぐんたい
)
解散
(
かいさん
)
の
後
(
のち
)
、
201
泥棒
(
どろばう
)
となつて
四方
(
しはう
)
を
徘徊
(
はいくわい
)
致
(
いた
)
し、
202
或
(
ある
)
勇士
(
ゆうし
)
の
為
(
ため
)
に
殺
(
ころ
)
され、
203
精霊
(
せいれい
)
となつて
此所
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るのだ。
204
それが
未
(
ま
)
だ
気
(
き
)
が
附
(
つ
)
かぬのか』
205
ト『ヘン、
206
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな。
207
些
(
ちつ
)
と
真面目
(
まじめ
)
になつて
下
(
くだ
)
さい。
208
私
(
わたし
)
は
狂者
(
きちがひ
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬよ。
209
死
(
し
)
んだ
者
(
もの
)
がこの
如
(
や
)
うにものを
云
(
い
)
ひますか。
210
目
(
め
)
も
見
(
み
)
えず
耳
(
みみ
)
も
聞
(
きこ
)
えず、
211
口
(
くち
)
もたたけず、
212
手足
(
てあし
)
も
動
(
うご
)
けなくなつてこそ
死
(
し
)
んだのでせう。
213
ヘン
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
る。
214
こんな
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
つて
顔色
(
かほいろ
)
迄
(
まで
)
まつ
赤
(
か
)
にした
奴
(
やつ
)
の
酒
(
さけ
)
の
肴
(
さかな
)
になつて
居
(
ゐ
)
てもつまらない。
215
今日
(
けふ
)
は
帰
(
かへ
)
つてやらう。
216
その
代
(
かは
)
り
明日
(
あす
)
は
見
(
み
)
ておれ、
217
貴様
(
きさま
)
の
上官
(
じやうくわん
)
に
今日
(
けふ
)
の
事
(
こと
)
を
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
訴
(
うつた
)
へるぞ。
218
さうすると
貴様
(
きさま
)
は
忽
(
たちま
)
ち
足袋屋
(
たびや
)
の
看板
(
かんばん
)
足
(
あし
)
あがり、
219
妻子
(
さいし
)
のミイラが
出来
(
でき
)
るぞや、
220
ハヽヽヽヽヽ』
221
と
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
残
(
のこ
)
し、
222
道端
(
みちばた
)
の
石
(
いし
)
を
掴
(
つか
)
んでキユーバー、
223
高姫
(
たかひめ
)
目当
(
めあて
)
に
打
(
うち
)
かけ
乍
(
なが
)
ら、
224
入陽
(
いりひ
)
の
影坊師
(
かげばうし
)
見
(
み
)
たやうな
細長
(
ほそなが
)
い
骸骨
(
がいこつ
)
を
宙
(
ちう
)
に
浮
(
う
)
かせ、
225
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
226
赤
(
あか
)
『ヤ、
227
そこに
居
(
ゐ
)
るのは
高姫
(
たかひめ
)
ぢやないか。
228
お
前
(
まへ
)
は
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまに
頼
(
たの
)
まれ、
229
三
(
さん
)
年間
(
ねんかん
)
この
八衢
(
やちまた
)
に
放養
(
はうやう
)
して
置
(
お
)
いたが、
230
未
(
ま
)
だ
数十
(
すうじふ
)
年
(
ねん
)
の
寿命
(
じゆみやう
)
が
現界
(
げんかい
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
231
到底
(
たうてい
)
霊界
(
れいかい
)
の
生活
(
せいくわつ
)
は
許
(
ゆる
)
されない。
232
お
前
(
まへ
)
の
宿
(
やど
)
る
肉体
(
にくたい
)
はトルマン
王
(
わう
)
の
妃
(
きさき
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
だ。
233
サ
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
れ。
234
又
(
また
)
キユーバー、
235
汝
(
なんぢ
)
は
天下
(
てんか
)
無比
(
むひ
)
の
悪党
(
あくたう
)
であるが、
236
まだ
生死簿
(
せいしぼ
)
には
寿命
(
じゆみやう
)
がのこつて
居
(
ゐ
)
る。
237
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
現界
(
げんかい
)
へ
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
れ。
238
グヅグヅ
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
ると
肉体
(
にくたい
)
が
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はなくなるぞ』
239
と
厳
(
きび
)
しく
言
(
い
)
ひ
渡
(
わた
)
した。
240
二人
(
ふたり
)
はハツと
思
(
おも
)
ふ
途端
(
とたん
)
に
気
(
き
)
がつけばトルマン
城内
(
じやうない
)
、
241
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
一室
(
いつしつ
)
に
錠前
(
ぢやうまへ
)
を
卸
(
おろ
)
して
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
242
どことも
無
(
な
)
く
騒々
(
さうざう
)
しい
人馬
(
じんば
)
の
物音
(
ものおと
)
、
243
矢叫
(
やさけ
)
びの
声
(
こゑ
)
、
244
大砲
(
おほづつ
)
小銃
(
こづつ
)
の
音
(
おと
)
手
(
て
)
に
取
(
と
)
る
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る。
245
是
(
これ
)
より
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
言行
(
げんかう
)
は
一変
(
いつぺん
)
し、
246
又
(
また
)
もや
脱線
(
だつせん
)
だらけの
行動
(
かうどう
)
を
取
(
と
)
る
事
(
こと
)
となつた。
247
八衢
(
やちまた
)
に
居
(
ゐ
)
た
高姫
(
たかひめ
)
の
精霊
(
せいれい
)
は
己
(
おの
)
が
納
(
をさ
)
まるべき
肉体
(
にくたい
)
を
得
(
え
)
て
甦
(
よみがへ
)
つたのである。
248
(
大正一四・八・二三
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