霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 血臭姫(ちぐさひめ)〔一七七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第2篇 千種蛮態 よみ(新仮名遣い):せんしゅばんたい
章:第11章 血臭姫 よみ(新仮名遣い):ちぐさひめ 通し章番号:1778
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
突然宴の間に現れた千草姫は、キューバーの投獄の沙汰について、王、太子、ジャンク、照国別を非難し、皆にさんざん悪態をついて退出する。
あまりのことに王は怒り心頭に達し、また照国別に無作法をわびるが、逆に照国別は、慈悲の道に従い、キューバーを釈放するように提案する。
明日、ジャンクが牢獄に行ってキューバーを解放する手はずとなって参会するが、太子はひとり心のうちで、悪人キューバー釈放が気に入らない様子である。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-05-28 01:40:24 OBC :rm7011
愛善世界社版:136頁 八幡書店版:第12輯 439頁 修補版: 校定版:139頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)満座(まんざ)をキヨロキヨロ()まはし(なが)ら、002瞋恚(しんい)にもゆる(むね)()をジツと(おさ)へ、003わざと笑顔(ゑがほ)(つく)り、004(とく)慇懃(いんぎん)両手(りやうて)をつかへて、005(くび)(ふた)(みつ)左右(さいう)()(なが)ら、006(かが)んだ(まま)(かほ)()げ、007(ひたひ)(あご)とを(ほと)んど平行線(へいかうせん)にし(なが)ら、
008『これはこれは(わが)(つま)ガーデン(わう)(さま)(はじ)め、009智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)勇士(ゆうし)チウイン太子(たいし)010野武士(のぶし)蛮勇(ばんゆう)ジヤンクの(ぢい)さま、011三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)雲国別(くもくにわけ)オツト(ちが)つたピカ国別(くにわけ)012(また)(ちが)つたデルクイ(わけ)とか()神司(かむづかさ)013(その)()のお歴々(れきれき)方々(かたがた)今日(こんにち)()祝儀(しうぎ)014目出(めで)たう()(いはひ)(まを)しまする。015いよいよ(これ)にてトルマン(ごく)天下(てんか)泰平(たいへい)016万代(ばんだい)不易(ふえき)基礎(きそ)(さだ)まることと慶賀(けいが)()へませぬ。017(とき)にスコブツエン(しう)名僧(めいそう)トルマン(ごく)(すく)(ぬし)018キユーバー殿(どの)如何(いかが)(いた)されたか。019チウイン太子(たいし)(たい)し、020(この)(はは)(おそ)(なが)一言(いちごん)訊問(じんもん)(およ)びまする。021(なん)()つても(おや)()(なか)022(けつ)して遠慮(ゑんりよ)()りませぬ。023サ、024(はや)実状(じつじやう)()べさせられよ』
025 (この)言葉(ことば)にチウイン太子(たいし)言句(げんく)()でず、026ハアハアと()つたきり(うつ)むひて(しま)つた。
027千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽヽ、028これ(せがれ)チウイン殿(どの)029最前(さいぜん)もいふ(とほ)り、030(おや)()(なか)031(へだ)てがあつては家内(かない)(むつ)まじう(をさ)まりませぬ。032其方(そなた)(この)(はは)(たい)し、033(かなら)(かなら)不孝(ふかう)振舞(ふるまひ)御座(ござ)いますまいな』
034 チウイン太子(たいし)益々(ますます)言句(げんく)(つま)り、035『ハ、036ハ』と()つたきり、037(うつ)むひて(しま)つた。038ガーデン(わう)はキリリと()釣上(つりあ)げ、
039『ヤ、040千草姫(ちぐさひめ)041(せがれ)()(まで)もなく()逐一(ちくいち)説明(せつめい)しよう、042トクと()け。043()れキユーバーなる(もの)不敵(ふてき)曲者(くせもの)044神聖(しんせい)無比(むひ)なる大神(おほかみ)祭典(さいてん)(さい)し、045照国別(てるくにわけ)(さま)大切(たいせつ)()(かんむり)()をかけ、046群衆(ぐんしう)(まへ)にて赤恥(あかはぢ)をかかさむとしたる乱暴者(らんばうもの)047()(その)()()いて()つて()てむかと(おも)ひしか(ども)048(なに)をいつても大神(おほかみ)(おん)(まへ)049()(もつ)聖場(せいぢやう)(けが)すも(おそ)(おほ)し、050(とき)()つて誅伐(ちうばつ)せむと(ひか)えをる(をり)しも、051キユーバーが不敵(ふてき)行動(かうどう)益々(ますます)(はなは)だしく、052(くち)(きは)めて宣伝使(せんでんし)罵詈(ばり)讒謗(ざんばう)し、053両手(りやうて)(ひろ)げて行列(ぎやうれつ)妨害(ばうがい)をなすなど、054言語(げんご)(ぜつ)したる(その)振舞(ふるまひ)055()るに()かねてチウイン太子(たいし)はジヤンクに(めい)じ、056キユーバーを捕縛(ほばく)し、057(ごく)(とう)じておいたのだ。058城内(じやうない)安寧(あんねい)秩序(ちつじよ)(たも)(ため)059(もつと)時宜(じぎ)(てき)した処置(しよち)()心得(こころえ)てゐる』
060千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽヽ、061如何(いか)にも乱暴者(らんばうもの)(しば)()げ、062(ごく)(とう)(たま)ふは国法(こくはふ)(さだ)むる(ところ)063(これ)について千草姫(ちぐさひめ)一言(ひとこと)異存(いぞん)御座(ござ)いませぬが、064()れキユーバーだつて、065もとより悪人(あくにん)でもなく、066狂乱者(きやうらんしや)でもなからうと(ぞん)じます。067(かれ)としてかかる暴挙(ばうきよ)()でしめたるに()いては、068(なに)(ふか)原因(げんいん)がなければなりませぬ。069軽卒(けいそつ)外面(ぐわいめん)(てき)行動(かうどう)のみをみて、070一応(いちおう)(とり)調(しらべ)もなく、071(ところ)もあらうに大神(おほかみ)御前(みまへ)(おい)て、072不遜(ふそん)(きは)まる罪人(ざいにん)(いだ)(たま)ふとは千草姫(ちぐさひめ)心得(こころえ)ませぬ。073刹帝利(せつていり)(さま)074愚鈍(ぐどん)なる(わらは)得心(とくしん)()(まで)()説明(せつめい)(ねが)ひませう』
075(わう)(やかま)しう()ふな、076(なんぢ)()(ところ)でない。077()()としての(かんが)へがある。078(をんな)()しやばる(まく)でない。079サ、080トツトと(なんぢ)居間(ゐま)(たち)(かへ)れよ』
081千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽヽ(をんな)()しやばる場合(ばあひ)でないとは刹帝利(せつていり)(さま)082ソラ(なん)といふ暴言(ばうげん)御座(ござ)います。083(わう)(さま)国民(こくみん)(ちち)084王妃(わうひ)国民(こくみん)(はは)御座(ござ)いますよ。085(むかし)神代(かみよ)(おい)ても伊弉諾(いざなぎの)(みこと)伊弉冊(いざなみの)(みこと)二柱(ふたはしら)086(あめ)御柱(みはしら)(めぐ)()ひ、087なり(あま)れる(ところ)と、088なり()はざる(ところ)抱擁(はうよう)帰一(きいつ)(あそ)ばし、089天下(てんか)神人(しんじん)()(たま)ふたでは御座(ござ)いませぬか。090男子(だんし)(そと)(まも)(もの)091女子(ぢよし)(うち)(まも)(もの)092(なん)仰有(おつしや)つても(この)城内(じやうない)出来事(できごと)093千草姫(ちぐさひめ)権限(けんげん)御座(ござ)いますよ。094もし(わらは)排斥(はいせき)(あそ)ばすならば、095トルマンの国家(こくか)風前(ふうぜん)灯火(ともしび)096何程(なにほど)立派(りつぱ)国王(こくわう)(さま)だとて王妃(わうひ)内助(ないじよ)なくして、097(いち)(にち)(くに)(たも)たれまするか。098()()()(かんが)へなされませ。099それにも(かかは)らず、100ウラルの(かみ)(さま)()祭典(さいてん)(あた)り、101ウラルの宣伝使(せんでんし)一人(ひとり)(もち)(たま)はず、102大神(おほかみ)()みきらひ(たま)曲神(まがかみ)(をしへ)(ほう)ずる三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)抜擢(ばつてき)して斎主(さいしゆ)となし(たま)ふは、103(じつ)天地(てんち)道理(だうり)(みだ)したりといふもの。104(ひそ)かに(うけたま)はれば()照国別(てるくにわけ)はウラル(けう)謀叛人(むほんにん)105中途(ちうと)(おい)三五(あななひ)邪教(じやけう)沈溺(ちんでき)せし(もの)106益々(ますます)(かみ)()(いか)りは(はなは)だしかるべく、107何時(いつ)如何(いか)なる(わざはひ)の、108神罰(しんばつ)()つて突発(とつぱつ)するかも()れますまい。109(また)ウラル(けう)以外(いぐわい)異教徒(いけうと)(もつ)て、110斎主(さいしゆ)となすの()むを()ざる場合(ばあひ)ありとせば、111何故(なぜ)国難(こくなん)(すく)ひたる()れキユーバーを重用(ぢうよう)し、112斎主(さいしゆ)()(めい)じなされませぬか。113邪臣(じやしん)(しやう)「邪臣を賞し」は「忠臣を賞し」の誤字か?114逆臣(ぎやくしん)(いまし)むるは政治(せいぢ)要訣(えうけつ)115霊界(れいかい)さへも天国(てんごく)地獄(ぢごく)御座(ござ)いまするぞ。116今度(こんど)(たたか)ひに()ける第一(だいいち)勲功者(くんこうしや)除外(ぢよぐわい)し、117(かみ)御前(みまへ)(おい)()れに(はぢ)(あた)へしを(もつ)て、118()れキユーバーは悲憤(ひふん)(あま)り、119かかる暴挙(ばうきよ)()でたものと(かんが)へるより(ほか)余地(よち)はありますまい。120(いや)(けつ)して(けつ)してキユーバーの意志(いし)ではなく、121ウラル(けう)大神(おほかみ)122盤古(ばんこ)神王(しんわう)(かれ)(たい)()つての()(いまし)めに相違(さうゐ)御座(ござ)いますまい。123かかる忠臣(ちうしん)義士(ぎし)牢獄(らうごく)(とう)ずるとは(もつ)ての(ほか)124千草姫(ちぐさひめ)一向(いつかう)合点(がてん)(まゐ)(まを)しませぬ。125キユーバーを牢獄(らうごく)(とう)(たま)ふに先立(さきだ)ち、126何故(なにゆゑ)照国別(てるくにわけ)一派(いつぱ)投獄(とうごく)なさりませぬか。127かかる明白(めいはく)理由(りいう)無視(むし)し、128一国(いつこく)王者(わうじや)依怙(えこ)沙汰(さた)(あそ)ばすに(おい)ては、129(これ)より賞罰(しやうばつ)(みち)(みだ)れ、130刑政(けいせい)(おこな)はれず、131国家(こくか)(ふたた)混乱(こんらん)(ちまた)となるで御座(ござ)いませう。132照国別(てるくにわけ)(じつ)微弱(びじやく)なる教派(けうは)(いち)宣伝使(せんでんし)133キユーバーは大黒主(おほくろぬし)(おん)(おぼえ)目出(めで)たしといふスコブツエン(しう)大教祖(だいけうそ)御座(ござ)いませぬか。134万々一(ばんばんいち)(わが)国運(こくうん)(おとろ)へ、135(ふたた)大黒主(おほくろぬし)136(この)(たび)戦争(せんそう)恥辱(ちじよく)(そそ)がむと、137数万(すうまん)(へい)(ひき)つれ(おし)よせ(きた)らば(なん)となされます。138(その)(とき)(あた)つて(もつと)必要(ひつえう)なる人物(じんぶつ)は、139キユーバーを()いて(ほか)には御座(ござ)いますまい。140それ(ゆゑ)(わらは)()(まで)(かれ)懐柔(くわいじう)し、141まさかの(とき)用意(ようい)にと、142平素(へいそ)より歓心(くわんしん)()ひおき、143国難(こくなん)(すく)ふべく取計(とりはか)らひをるので御座(ござ)います。144かかる(わらは)深遠(しんゑん)なる神謀(しんぼう)鬼策(きさく)御存(ごぞん)じなく、145(いきほひ)(まか)せて、146照国別(てるくにわけ)(かた)をもち、147キユーバーを(ごく)(とう)ずるとは、148(なん)といふ(まづ)()(かた)御座(ござ)いませうか。149(わらは)仮令(たとへ)キユーバーに少々(せうせう)欠点(けつてん)ありとて、150邪悪(じやあく)分子(ぶんし)ありとて、151左様(さやう)些細(ささい)(てん)(まで)詮索(せんさく)する必要(ひつえう)はありますまい。152(かれ)さへ薬籠中(やくろうちう)(もの)として優待(いうたい)優待(いうたい)(かさ)ねて城内(じやうない)()めおかば、153大黒主(おほくろぬし)なりとて、154さうムザムザと本城(ほんじやう)()めても()られますまい。155仮令(たとへ)不幸(ふかう)にして国難(こくなん)勃発(ぼつぱつ)する(とも)156大黒主(おほくろぬし)(おん)(おぼえ)めでたきキユーバーを派遣(はけん)せば、157(なん)()もなく平和(へいわ)(をさ)まる道理(だうり)ぢや御座(ござ)いませぬか。158トルマン(ごく)永遠(えいゑん)平和(へいわ)(ため)にはキユーバーを(ごく)より引出(ひきだ)し、159刹帝利(せつていり)(はじ)めチウイン太子(たいし)160ジヤンク()161九拝(きうはい)百拝(ひやつぱい)して(その)(つみ)(しや)し、162照国別(てるくにわけ)面前(めんぜん)(おい)(しば)りあげ、163キユーバーの遺恨(ゐこん)をはらし(たま)はねば、164(わが)国家(こくか)(ため)由々(ゆゆ)しき大事(だいじ)御座(ござ)りまするぞ。165(また)ウラル(けう)三五教(あななひけう)聯合(れんがふ)国策(こくさく)(じやう)(もつと)不利益(ふりえき)千万(せんばん)御座(ござ)います。166(すみやか)(この)聯合(れんがふ)破壊(はくわい)し、167スコブツエン(しう)聯合(れんがふ)提携(ていけい)するに(おい)ては、168ハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)(いか)りも()け、169(わが)国家(こくか)安穏(あんおん)170国民(こくみん)(こぞ)つて平和(へいわ)(ゆめ)(むさぼ)ることを()るで御座(ござ)いませう。171千草姫(ちぐさひめ)言葉(ことば)()れでも異存(いぞん)御座(ござ)いまするか』
172(わう)『だまれ、173千草姫(ちぐさひめ)174国家(こくか)危急(ききふ)(すく)(たま)ひし照国別(てるくにわけ)()一行(いつかう)(たい)し、175無礼(ぶれい)(きは)まる(その)雑言(ざふごん)176最早(もはや)聞捨(ききずて)ならぬぞ』
177千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽヽ、178青瓢箪(あをべうたん)干瓢(かんぺう)西瓜(すいくわ)(やう)()からびた(あを)(あたま)(なら)べて、179歴々(れきれき)()相談(さうだん)180よくマア国家(こくか)(ほろ)ぼす(ため)立派(りつぱ)()行動(かうどう)を、181(この)千草姫(ちぐさひめ)(はるか)(なが)めて(じつ)にカンチン(つかまつ)りますワイ。182刹帝利(せつていり)(さま)老齢(らうれい)のこととて(いささ)精神(せいしん)(おん)(なや)みあり、183一々(いちいち)(おほ)せらるることは正鵠(せいこう)()(たま)ふは無理(むり)なけれ(ども)184(せがれ)チウインの(ごと)きは血気(けつき)若者(わかもの)185()やうな道理(だうり)(わか)らずして、186どうして(この)国家(こくか)(たも)つことが出来(でき)ようぞ。187いざ(これ)よりは(わう)(さま)退隠(たいいん)(ねが)ひ、188(はばか)(なが)千草姫(ちぐさひめ)女帝(によてい)となつてトルマン(ごく)(をさ)めるで御座(ござ)いませう。189まだ(くち)のはたに(ちち)(にほひ)がしてゐるチウイン(ごと)きは、190到底(たうてい)(わらは)相談(さうだん)相手(あひて)にはあきたらない、191ホヽヽヽヽヽ』
192チウ『母上(ははうへ)(まを)(あげ)ます。193(ちち)ガーデン(わう)があつてこそ貴女(あなた)王妃(わうひ)位置(ゐち)()いて、194(くに)(はは)として政治(せいぢ)干与(かんよ)(あそ)ばし(たま)ふことを()るのでは御座(ござ)いませぬか。195父王(ちちわう)退隠(たいいん)されるとならば、196母君(ははぎみ)政治(せいぢ)干与(かんよ)する権利(けんり)御座(ござ)いませぬぞ。197そこをトクと()(かんが)へなさいませ』
198千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヽヽ小賢(こざか)しい、199コレ(せがれ)200(なん)といふ(わか)らぬことを(まを)すのだ。201(をんな)政治(せいぢ)主権者(しゆけんじや)となることが出来(でき)ぬとは、202ソリヤ(たれ)(をそ)はつたのだい。203()(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。204天照(あまてらす)大神(おほかみ)(さま)女神(めがみ)でいらつしやるぢやないか。205英国(えいこく)皇帝(くわうてい)はエリザベスといふ女帝(によてい)206太陽(たいやう)(ぼつ)するを()らぬ(まで)大版図(だいはんと)主権者(しゆけんじや)となつてゐられたでないか。207()分際(ぶんざい)として(はは)口答(くちごた)へするとは不孝(ふかう)(この)(うへ)もなし。208其方(そなた)(この)(うへ)一言(いちごん)でも()つてみなさい。209(はは)職権(しよくけん)(もつ)牢獄(らうごく)投込(なげこ)みますぞ』
210といひ(なが)ら、211ツと立上(たちあが)り、212(たたみ)ざわりも荒々(あらあら)しく(わが)居間(ゐま)さして(かへ)()く。
213 刹帝利(せつていり)(あま)りの腹立(はらだ)たしさと、214照国別(てるくにわけ)(たい)する義理(ぎり)から、215千草姫(ちぐさひめ)手討(てうち)にせむとまで覚悟(かくご)をきめてゐたが、216(また)(おも)(なほ)して、2161グツと(むね)(おさ)へ、217()をくひしばり(ふる)ひつつあつた。218チウイン太子(たいし)(ちち)様子(やうす)(つね)ならぬを()てとり、219いよいよとならば、220(ちち)両腕(りやううで)取縋(とりすが)つて千草姫(ちぐさひめ)(たす)けむものと、221心中(しんちう)覚悟(かくご)をきめてゐた。222刹帝利(せつていり)(やうや)(くち)(ひら)き、
223照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)(さま)224()千草姫(ちぐさひめ)は、225先日来(せんじつらい)戦争(せんそう)脳漿(なうせう)(しぼ)つた結果(けつくわ)226精神(せいしん)異状(いじやう)(きた)してをりますれば、227何卒(なにとぞ)神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)228寛大(くわんだい)()(みゆる)しの(ほど)(ねがひ)(たてまつ)りまする。229(あな)でもあらば(もぐ)()みたくなりました』
230()(どく)さうにいふ。231照国別(てるくにわけ)平然(へいぜん)として、
232刹帝利(せつていり)(さま)233(その)()心配(しんぱい)()無用(むよう)御座(ござ)います。234(けつ)して千草姫(ちぐさひめ)(さま)()本心(ほんしん)から(おほ)せられたのでは御座(ござ)いませぬ。235(これ)には(すこ)理由(りいう)御座(ござ)いまするが、236今日(こんにち)(まを)()ぐる(わけ)には()きませぬ。237(けつ)して(わたし)千草姫(ちぐさひめ)(さま)のお言葉(ことば)(たい)し、238毛頭(まうとう)()(かい)して()りませぬ。239どうか()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
240(わう)『ヤ、241それ(うけたま)はつて安心(あんしん)(いた)しました。242何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)末永(すえなが)()指導(しだう)(ねが)(たてまつ)ります。243(とき)照国別(てるくにわけ)(さま)244如何(いかが)御座(ござ)いませうか、245()れキユーバーを厳罰(げんばつ)(しよ)して、246禍根(くわこん)()たむと(ぞん)じまするが』
247照国(てるくに)(わたし)(ひと)(たす)くる宣伝使(せんでんし)248仮令(たとへ)(おに)でも(じや)でも悪魔(あくま)でも赤心(まごころ)(もつ)(のぞ)み、249(まこと)(かぎり)(つく)し、250(まこと)(みち)帰順(きじゆん)させるが(かみ)(みち)251刑罰(けいばつ)などは不必要(ふひつえう)かと(ぞん)じます。252(ひと)(いづ)れも(かみ)精霊(せいれい)宿(やど)したもの、253人間(にんげん)人間(にんげん)(さば)くなどとは僣上(せんじやう)至極(しごく)行方(やりかた)254一刻(いつこく)(はや)くキユーバーを()(たす)けなさるが()からうかと(ぞん)じます。255さすれば千草姫(ちぐさひめ)(さま)(こころ)(やは)らぎ、256家庭(かてい)円満(ゑんまん)曙光(しよくわう)(みと)むるに(いた)るで御座(ござ)いませう』
257(わう)成程(なるほど)258一応(いちおう)御尤(ごもつと)もかと(ぞん)じます。259チウイン、260其方(そなた)()(かんが)へるか』
261太子(たいし)『ハイ、262(わたし)(てん)にも()にも()へがたい(わが)(はは)意志(いし)(そむ)き、263()れキユーバーを国民(こくみん)面前(めんぜん)(おい)捕縛(ほばく)(いた)しました。264(これ)()いては非常(ひじやう)決心(けつしん)()つて()ります。265(かれ)(ふたた)城内(じやうない)()り、266(はは)結託(けつたく)して権威(けんゐ)(ふる)ふに(おい)ては、267(わが)王室(わうしつ)風前(ふうぜん)灯火(ともしび)同様(どうやう)御座(ござ)いませう。268宣伝使(せんでんし)()言葉(ことば)なれど、269(これ)(ばか)りは即答(そくたふ)する(わけ)には(まゐ)りませぬ』
270ジヤンク『(おそ)(なが)ら、271(わう)(さま)(はじ)太子(たいし)(さま)(まを)()げます。272(なに)()()れ、273千草姫(ちぐさひめ)(さま)()(こころ)汲取(くみと)り、274()れキユーバーをお(ゆる)しなさつたが()からうかと(ぞん)じます。275万々一(まんまんいち)(ふたた)脱線(だつせん)(てき)行動(かうどう)()るに(おい)ては、276容赦(ようしや)なく(ふたた)投獄(とうごく)すれば()いぢや御座(ござ)いませぬか。277(およ)ばず(なが)ら、278(この)ジヤンク、279余生(よせい)王室(わうしつ)(ささ)げ、280一身(いつしん)()して国家(こくか)(まも)(かんが)へで御座(ござ)いますから』
281(わう)『イヤ、282それを()いて安心(あんしん)(いた)した。283左守(さもり)284右守(うもり)両柱(ふたはしら)(とも)に、285(この)(たび)(たたか)ひに(おい)他界(たかい)なし、286棟梁(とうりやう)(しん)なきを(こころ)(ひそ)かに(なげ)いてゐた矢先(やさき)287智勇(ちゆう)絶倫(ぜつりん)なる(なんぢ)が、288一身(いつしん)()して(みやこ)(とど)まり、289(わが)国家(こくか)(まも)つてくれるとあらば(なに)をか()はむ。290キユーバーの処置(しよち)(なんぢ)一任(いちにん)する。291()きに(とり)(はか)らへよ』
292ジヤ『早速(さつそく)()承知(しようち)293有難(ありがた)(ぞん)じまする。294太子(たいし)(さま)295ジヤンクの(この)処置(しよち)()いては、296チツと(ばか)りお()()りますまいが、297ここは少時(しばらく)(この)老臣(らうしん)()(まか)(くだ)さいませ』
298チウ『()(この)問題(もんだい)(つい)ては(なに)()はない。299()()としての(ひと)つの(かんが)へを()つてゐる』
300 照国別(てるくにわけ)(たち)(あが)り、301音吐(おんと)朗々(らうらう)として(うた)()した。
302(かみ)(おもて)(あら)はれて
303善悪(ぜんあく)邪正(じやせい)立分(たてわ)ける
304(この)()(つく)りし神直日(かむなほひ)
305(こころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)
306(ただ)何事(なにごと)(ひと)()
307直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)
308()(あやま)ちは()(なほ)
309三千(さんぜん)世界(せかい)(うめ)(はな)
310一度(いちど)(ひら)(かみ)(くに)
311(ひら)いて()りて()(むす)
312月日(つきひ)(つち)(おん)()
313(この)()(すく)生神(いきがみ)
314高天原(たかあまはら)神集(かむつど)
315あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
316御霊(みたま)(さきは)ひましませよ
317(あさひ)(てる)とも(くも)(とも)
318(つき)()(とも)()くる(とも)
319仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)(とも)
320(まこと)(ちから)()(すく)
321(まこと)(ちから)()(すく)
322あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
323御霊(みたま)(さきは)ひましませよ』
324(うた)(をは)り、325()ひをさめた。326(この)言霊(ことたま)一同(いちどう)(いさ)()ち、327何事(なにごと)(かみ)のまにまに(まか)すこととなり、328(この)宴席(えんせき)無事(ぶじ)()づることとなつた。
329大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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