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第70巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 花鳥山月
01 信人権
〔1768〕
02 折衝戦
〔1769〕
03 恋戦連笑
〔1770〕
04 共倒れ
〔1771〕
05 花鳥山
〔1772〕
06 鬼遊婆
〔1773〕
07 妻生
〔1774〕
08 大勝
〔1775〕
第2篇 千種蛮態
09 針魔の森
〔1776〕
10 二教聯合
〔1777〕
11 血臭姫
〔1778〕
12 大魅勒
〔1779〕
13 喃悶題
〔1780〕
14 賓民窟
〔1781〕
15 地位転変
〔1782〕
第3篇 理想新政
16 天降里
〔1783〕
17 春の光
〔1784〕
18 鳳恋
〔1785〕
19 梅花団
〔1786〕
20 千代の声
〔1787〕
21 三婚
〔1788〕
22 優秀美
〔1789〕
附 記念撮影
余白歌
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第一三章
喃悶題
(
なんもんだい
)
〔一七八〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
篇:
第2篇 千種蛮態
よみ(新仮名遣い):
せんしゅばんたい
章:
第13章 喃悶題
よみ(新仮名遣い):
なんもんだい
通し章番号:
1780
口述日:
1925(大正14)年08月24日(旧07月5日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年10月16日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
千草姫は自分の部屋に、故・左守の妻モクレン、娘のテイラ、故・右守の娘ハリスを集め、ご馳走を振舞っている。
千草姫は、3人に自分は今日から三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮であると宣言する。
3人はあまりのことに顔を見合わせるが、千草姫は一人一人詰問をはじめる。
3人とも、自分の主君である王妃の言葉とて、否みがたく、絶対服従を誓ってしまう。
千草姫は、テイラにキューバーの捜索を命じ、ハリスには自分の邪魔をする太子を誘惑するように命じ、散会する。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-25 20:26:58
OBC :
rm7013
愛善世界社版:
162頁
八幡書店版:
第12輯 449頁
修補版:
校定版:
165頁
普及版:
81頁
初版:
ページ備考:
001
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
左守司
(
さもりのかみ
)
の
妻
(
つま
)
モクレン
同
(
おな
)
じく
娘
(
むすめ
)
テイラ
姫
(
ひめ
)
、
002
右守
(
うもり
)
の
娘
(
むすめ
)
ハリスを
膝下
(
しつか
)
近
(
ちか
)
く
呼
(
よ
)
び
寄
(
よ
)
せ、
003
薬籠中
(
やくろうちう
)
のものとなしおかむと、
004
あらゆる
歓待
(
くわんたい
)
を
尽
(
つく
)
してゐる。
005
モクレン、
006
テイラ、
007
ハリスの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
御殿
(
ごてん
)
に
卓
(
テーブル
)
を
囲
(
かこ
)
んで
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
心
(
こころ
)
からの
馳走
(
ちそう
)
を
頂
(
いただ
)
いてゐた。
008
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
009
『これ、
010
モクレンさま、
011
其方
(
そなた
)
は
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
一命
(
いちめい
)
を
捨
(
す
)
てた
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
の
奥様
(
おくさま
)
だから、
012
女
(
をんな
)
とは
云
(
い
)
へトルマン
国
(
ごく
)
にとつては
国家
(
こくか
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
013
誰
(
たれ
)
よりも
彼
(
か
)
よりも
大切
(
たいせつ
)
にせなくてはならない
方
(
かた
)
だから、
014
今後
(
こんご
)
も
国家
(
こくか
)
のため
妾
(
わたし
)
と
共
(
とも
)
に
十分
(
じふぶん
)
の
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
して
下
(
くだ
)
さいや』
015
モクレン『ハイ、
016
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
き
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
では
御座
(
ござ
)
りまするが、
017
お
見
(
み
)
かけ
通
(
どほ
)
り、
018
最早
(
もはや
)
老齢
(
らうれい
)
、
019
何
(
なん
)
の
用
(
よう
)
にも
立
(
た
)
ちませぬのでお
恥
(
はづか
)
しう
御座
(
ござ
)
ります』
020
千草
(
ちぐさ
)
『これこれそりや
何
(
なに
)
を
又
(
また
)
、
021
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
022
お
前
(
まへ
)
さまもトルマン
国
(
ごく
)
に
於
(
おい
)
て
第一人者
(
だいいちにんしや
)
たる
左守司
(
さもりのかみ
)
の
未亡人
(
みばうじん
)
ぢやないか。
023
夫
(
をつと
)
が
討死
(
うちじに
)
された
以上
(
いじやう
)
は、
024
賢母
(
けんぼ
)
良妻
(
りやうさい
)
の
実
(
じつ
)
を
挙
(
あ
)
げ、
025
夫
(
をつと
)
にまさる
活動
(
くわつどう
)
をせなくちや
済
(
す
)
みますまい。
026
これから
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
其方
(
そなた
)
に
対
(
たい
)
し、
027
無限
(
むげん
)
の
神徳
(
しんとく
)
を
与
(
あた
)
へるから
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
為
(
ため
)
活動
(
くわつどう
)
して
下
(
くだ
)
さい。
028
それが、
029
つまり
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
ともなり、
030
又
(
また
)
トルマン
国
(
ごく
)
一般
(
いつぱん
)
のためともなるのだからなア』
031
モク『ハイ、
032
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
ります。
033
妾
(
わらは
)
のやうな
年
(
とし
)
をとつた
老耄
(
おいぼれ
)
、
034
何
(
なん
)
の
用
(
よう
)
にも
立
(
た
)
ちますまいが、
035
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
とあれば
否
(
いな
)
む
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
036
何
(
なん
)
なりと
御用
(
ごよう
)
仰
(
おほせ
)
付
(
つ
)
け
下
(
くだ
)
さいますれば
力
(
ちから
)
のあらむ
限
(
かぎ
)
り、
037
屹度
(
きつと
)
おつとめ
致
(
いた
)
しませう』
038
千草
(
ちぐさ
)
『イヤ、
039
満足
(
まんぞく
)
々々
(
まんぞく
)
、
040
それでこそ
左守
(
さもり
)
の
妻
(
つま
)
モクレン
殿
(
どの
)
、
041
この
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
千草
(
ちぐさ
)
とは
聊
(
いささ
)
か
変
(
かは
)
つてゐますから、
042
その
考
(
かんが
)
へでゐて
下
(
くだ
)
さいや。
043
決
(
けつ
)
して
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
発狂
(
はつきやう
)
はして
居
(
を
)
りませぬ。
044
愈
(
いよいよ
)
今日
(
こんにち
)
より
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
045
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
霊体
(
れいたい
)
、
046
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
047
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや。
048
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
はトルマン
国
(
ごく
)
ガーデン
王
(
わう
)
の
王妃
(
わうひ
)
として
内政
(
ないせい
)
に
干与
(
かんよ
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
つたが、
049
最早
(
もはや
)
左様
(
さやう
)
な
小
(
ちひ
)
さい
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
050
天
(
てん
)
の
根本
(
こつぽん
)
の
根本
(
こつぽん
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
霊体
(
れいたい
)
として、
051
此
(
この
)
地上
(
ちじやう
)
に
現
(
あら
)
はれた
以上
(
いじやう
)
は、
052
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
053
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
立替
(
たてかへ
)
立直
(
たてなほ
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
活動
(
くわつどう
)
。
054
其方
(
そなた
)
も
余程
(
よほど
)
しつかりして
下
(
くだ
)
さらぬと、
055
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
大望
(
たいまう
)
、
056
立替
(
たてかへ
)
立直
(
たてなほ
)
しがおそくなりますからな』
057
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
此
(
この
)
意外
(
いぐわい
)
の
言
(
げん
)
にモクレンも、
058
テイラも、
059
ハリスも
呆
(
あき
)
れはて、
060
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せて
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
き、
061
目
(
め
)
を
瞠
(
みは
)
つた。
062
千草
(
ちぐさ
)
『これ、
063
ハリス、
064
お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
いてゐたぢやないか。
065
妾
(
わらは
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が、
066
それほど
可笑
(
をか
)
しいのか。
067
なぜ
真面目
(
まじめ
)
に
神
(
かみ
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
をお
聞
(
き
)
きなさらぬのだい』
068
ハリス『ハイ、
069
誠
(
まこと
)
に
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りまして
御座
(
ござ
)
ります。
070
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
と
許
(
ばか
)
り
今
(
いま
)
の
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
存
(
ぞん
)
じましたのに、
071
途方
(
とはう
)
もない
大
(
おほ
)
きい
大
(
おほ
)
みろく
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
霊体
(
れいたい
)
とやら、
072
心
(
こころ
)
小
(
ちひ
)
さき
吾々
(
われわれ
)
には
真偽
(
しんぎ
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
073
茫然
(
ばうぜん
)
と
致
(
いた
)
しました』
074
千草
(
ちぐさ
)
『オツホヽヽヽ、
075
そらさうだろう。
076
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と、
077
トルマン
国
(
ごく
)
の
右守司
(
うもりのかみ
)
の
娘
(
むすめ
)
とを
比較
(
ひかく
)
すれば、
078
象
(
ざう
)
と
黴菌
(
ばいきん
)
とよりまだ
懸隔
(
けんかく
)
があるのだから、
079
分
(
わか
)
らぬのも
無理
(
むり
)
はない。
080
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
を
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ひますか、
081
よもや
狂人
(
きちがひ
)
とは
思
(
おも
)
はないでせうな』
082
ハリ『
勿体
(
もつたい
)
ない
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を、
083
どうして
狂人
(
きちがひ
)
と
見
(
み
)
られませう』
084
千草
(
ちぐさ
)
『そんなら、
085
其方
(
そなた
)
此
(
この
)
肉宮
(
にくみや
)
を、
086
どう
考
(
かんが
)
へるか』
087
と
矢
(
や
)
つぎ
早
(
ば
)
やに
問
(
と
)
ひつめられ、
088
ハリ『ハイ、
089
到底
(
たうてい
)
黴菌
(
ばいきん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
宇宙大
(
うちうだい
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のこと、
090
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
が
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
りませうか。
091
只
(
ただ
)
有難
(
ありがた
)
し
勿体
(
もつたい
)
なしと
申
(
まを
)
すより
外
(
ほか
)
に
言葉
(
ことば
)
は
御座
(
ござ
)
りませぬ』
092
千草
(
ちぐさ
)
『なるほどなるほど、
093
そら、
0931
さうだ。
094
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
095
神
(
かみ
)
の
事
(
こと
)
は
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
で
分
(
わか
)
りさうな
事
(
こと
)
はないからな。
096
この
千草姫
(
ちぐさひめ
)
を
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
097
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
信
(
しん
)
じた
以上
(
いじやう
)
は、
098
何事
(
なにごと
)
でも
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじう
)
を
誓
(
ちか
)
ふでせうな』
099
ハリ『ハイ、
100
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじう
)
を
誓
(
ちか
)
ひます。
101
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
ならば、
102
仮令
(
たとへ
)
山
(
やま
)
を
逆様
(
さかさま
)
に
登
(
のぼ
)
れと
仰有
(
おつしや
)
つても
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
せませう』
103
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽ
流石
(
さすが
)
は
右守
(
うもり
)
の
忘
(
わす
)
れ
形見
(
がたみ
)
だけあつて
偉
(
えら
)
いものだな。
104
これから
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
が
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
現
(
あら
)
はれるについて、
105
其方
(
そなた
)
を
立派
(
りつぱ
)
な
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
に
又
(
また
)
とない
結構
(
けつこう
)
なお
方
(
かた
)
とし、
106
万古
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
名
(
な
)
の
残
(
のこ
)
る
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
おほせ
)
付
(
つ
)
ける
程
(
ほど
)
に……』
107
ハリ『ハイ、
108
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
ります。
109
何分
(
なにぶん
)
よろしくお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
しまする』
110
千草
(
ちぐさ
)
『ウン、
111
よしよし、
112
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
113
確
(
たしか
)
に
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
したぞや。
114
次
(
つぎ
)
には
左守
(
さもり
)
の
娘
(
むすめ
)
テイラ
殿
(
どの
)
は
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
御座
(
ござ
)
るか、
115
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はり
度
(
た
)
いものだな』
116
テイラ『ハイ、
117
妾
(
わらは
)
は、
118
どう
致
(
いた
)
しましても、
119
ガーデン
王
(
わう
)
の
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
とより
思
(
おも
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ。
120
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
とか
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
みろく
とか
仰有
(
おつしや
)
りましたが、
121
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
一度
(
いちど
)
も
承
(
うけたま
)
はつた
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
りませぬので、
122
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて
真偽
(
しんぎ
)
の
判別
(
はんべつ
)
に
迷
(
まよ
)
うて
居
(
を
)
ります』
123
千草
(
ちぐさ
)
『
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
神
(
かみ
)
に
対
(
たい
)
し、
124
真偽
(
しんぎ
)
の
判別
(
はんべつ
)
に
迷
(
まよ
)
ふとは、
125
何
(
なん
)
たる
不遜
(
ふそん
)
の
言葉
(
ことば
)
ぞや。
126
一寸先
(
いつすんさき
)
も
分
(
わか
)
らぬ
人間
(
にんげん
)
が
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
一目
(
ひとめ
)
に
見通
(
みとほ
)
す
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
審神
(
さには
)
致
(
いた
)
す
等
(
など
)
とは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
の
悪行
(
あくぎやう
)
、
127
左様
(
さやう
)
な
不心得
(
ふこころえ
)
な
量見
(
りやうけん
)
では、
128
左守
(
さもり
)
の
娘
(
むすめ
)
とは
云
(
い
)
はせませぬぞや』
129
テイ『ハイ、
130
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました。
131
あまり
俄
(
にはか
)
の
事
(
こと
)
で
吃驚
(
びつくり
)
致
(
いた
)
しまして、
132
ツヒ
粗相
(
そさう
)
を
申
(
まを
)
しました。
133
どうぞ
広
(
ひろ
)
き
御心
(
みこころ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひ
上
(
あ
)
げまする』
134
千草
(
ちぐさ
)
『ウンさう
柔順
(
おとなし
)
く
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
ればそれでよい。
135
この
生宮
(
いきみや
)
の
正体
(
しやうたい
)
が
分
(
わか
)
らぬのが
本当
(
ほんたう
)
だ。
136
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
救
(
すく
)
ふ
為
(
ため
)
に、
137
いろいろ
雑多
(
ざつた
)
とヘグレてヘグレて
来
(
き
)
た
此
(
この
)
方
(
はう
)
、
138
それぢやによつてヘグレのヘグレのヘグレ
武者
(
むしや
)
、
139
ヘグレ
神社
(
じんしや
)
の
大神
(
おほかみ
)
と、
140
神界
(
しんかい
)
では
申
(
まを
)
すのぢやぞえ』
141
テイ『ハイ、
142
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
ります』
143
千草
(
ちぐさ
)
『
何
(
なに
)
が
有難
(
ありがた
)
いのだ。
144
妾
(
わらは
)
の
言葉
(
ことば
)
が
承知
(
しようち
)
が
行
(
い
)
つたのか。
145
只
(
ただ
)
王妃
(
わうひ
)
様
(
さま
)
だから
何事
(
なにごと
)
も
御
(
ご
)
無理
(
むり
)
御尤
(
ごもつと
)
も、
146
ヘイヘイハイハイと、
147
面従
(
めんじゆう
)
してさへ
居
(
を
)
ればいいと
云
(
い
)
ふやうなズルイ
考
(
かんが
)
へは
駄目
(
だめ
)
ですよ。
148
人民
(
じんみん
)
の
心
(
こころ
)
のドン
底
(
ぞこ
)
まで
見
(
み
)
えすく
生神
(
いきがみ
)
だから』
149
テイ『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
150
妾
(
わらは
)
は
決
(
けつ
)
して
疑
(
うたが
)
ひは
致
(
いた
)
しませぬ。
151
只
(
ただ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
のまにまに
御用
(
ごよう
)
に
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
る
丈
(
だ
)
けで
御座
(
ござ
)
ります』
152
千草
(
ちぐさ
)
『なるほど、
153
流石
(
さすが
)
は
左守
(
さもり
)
の
忘
(
わす
)
れ
形見
(
がたみ
)
だけあつて、
154
よく
物
(
もの
)
が
分
(
わか
)
るわい。
155
屹度
(
きつと
)
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
肉宮
(
にくみや
)
に
対
(
たい
)
して
一言
(
いちごん
)
たりとも
反
(
そむ
)
きは
致
(
いた
)
しますまいな。
156
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
誓
(
ちか
)
ふでせうな』
157
テイ『ハイ、
158
何事
(
なにごと
)
も
主人
(
しゆじん
)
の
申
(
まを
)
し
付
(
つ
)
け、
159
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
致
(
いた
)
しませう』
160
千草
(
ちぐさ
)
『これこれ
161
それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのぢやいな。
162
この
生宮
(
いきみや
)
を
人間
(
にんげん
)
としての
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
は
痛
(
いた
)
み
入
(
い
)
る。
163
主人
(
しゆじん
)
の
命令
(
めいれい
)
等
(
など
)
とは
怪
(
け
)
しからぬ、
164
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
だと
何故
(
なぜ
)
申
(
まを
)
さないのか』
165
テイ『ハイ、
166
粗相
(
そさう
)
申
(
まを
)
しました。
167
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
ならば、
168
如何
(
いか
)
なる
御用
(
ごよう
)
でも
厭
(
いと
)
ひませぬ。
169
仮令
(
たとへ
)
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
、
170
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
でも、
171
喜
(
よろこ
)
んで
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう』
172
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽヤレヤレ
嬉
(
うれ
)
しや
嬉
(
うれ
)
しや、
173
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
174
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
したぞや。
175
命令
(
めいれい
)
とあれば
山
(
やま
)
を
逆様
(
さかさま
)
に
歩
(
ある
)
くハリス
姫
(
ひめ
)
、
176
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
、
177
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
へでも
喜
(
よろこ
)
んで
飛
(
とび
)
込
(
こ
)
むと
云
(
い
)
ふテイラ
殿
(
どの
)
、
178
これ
丈
(
だ
)
けの
決死隊
(
けつしたい
)
が
出来
(
でき
)
た
上
(
うへ
)
は、
179
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
も
大磐石
(
だいばんじやく
)
。
180
それに
就
(
つ
)
いてはモクレン
殿
(
どの
)
は
如何
(
いかが
)
の
御
(
ご
)
量見
(
りやうけん
)
か、
181
キツパリ、
182
それが
承
(
うけたま
)
はり
度
(
た
)
い』
183
モク『
仰
(
おほ
)
せ
迄
(
まで
)
もなく
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
誓
(
ちか
)
ひます』
184
千草
(
ちぐさ
)
『
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
では、
185
余
(
あま
)
り
答弁
(
たふべん
)
がボツとしてゐるぢやないか。
186
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
を
潜
(
くぐ
)
るとか
187
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
を
潜
(
くぐ
)
るとか
188
山
(
やま
)
を
逆様
(
さかさま
)
に
登
(
のぼ
)
るとか
189
何
(
なん
)
とか
的確
(
てきかく
)
な
返答
(
へんたふ
)
がありさうなものぢやなア』
190
モク『ハイ、
191
左様
(
さやう
)
ならば、
192
妾
(
わらは
)
は
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
とあらば
神
(
かみ
)
の
贄
(
いけにえ
)
となつて
暖
(
あたた
)
かい
血潮
(
ちしほ
)
を
奉
(
たてまつ
)
りませう』
193
千草
(
ちぐさ
)
『ウン、
194
よしよし、
195
其方
(
そなた
)
こそ
秀逸
(
しういつ
)
だ。
196
流石
(
さすが
)
は
左守司
(
さもりのかみ
)
の
未亡人
(
みばうじん
)
、
197
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
198
否々
(
いやいや
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
199
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りましたぞや。
200
サア
早速
(
さつそく
)
、
201
かう
話
(
はなし
)
が
纏
(
まと
)
まれば、
202
今
(
いま
)
この
生宮
(
いきみや
)
がテイラ、
203
ハリスの
両人
(
りやうにん
)
に
御用
(
ごよう
)
を
申
(
まをし
)
付
(
つ
)
ける』
204
テイラ、
205
ハリス
両人
(
りやうにん
)
は
一度
(
いちど
)
に『ハツ』と
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ、
206
『
如何
(
いか
)
なる
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
なりとも
謹
(
つつし
)
んで
御
(
お
)
受
(
う
)
け
仕
(
つかまつ
)
ります』
207
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽ
流石
(
さすが
)
は
賢女
(
けんぢよ
)
だ。
208
然
(
しか
)
らば
早速
(
さつそく
)
御用
(
ごよう
)
を
申
(
まを
)
し
付
(
つ
)
ける。
209
其方
(
そなた
)
も
聞
(
き
)
いてゐる
通
(
とほ
)
り、
210
スコブツエン
宗
(
しう
)
の
名僧
(
めいそう
)
キユーバー
殿
(
どの
)
の
行衛
(
ゆくへ
)
を、
211
テイラ
殿
(
どの
)
は
探
(
さが
)
して
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
212
テイ『
何
(
いづ
)
れへ
参
(
まゐ
)
りましたら
宜
(
よろ
)
しう
御座
(
ござ
)
りますか。
213
どうか
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
214
お
指図
(
さしづ
)
を
下
(
くだ
)
さりませ』
215
千草
(
ちぐさ
)
『
探
(
さが
)
しに
行
(
ゆ
)
くやうなものに、
216
方角
(
はうがく
)
が
分
(
わか
)
る
道理
(
だうり
)
があらうか。
217
どちらに
行
(
ゆ
)
けばよいか
分
(
わか
)
らぬから、
218
捜索
(
そうさく
)
に
出
(
で
)
ようと
申
(
まを
)
すのだ』
219
テイ『ハイ、
220
畏
(
かしこ
)
まりました。
221
然
(
しか
)
らば、
222
これから
直様
(
すぐさま
)
、
223
御
(
お
)
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
参
(
まゐ
)
りませう。
224
どうか
王
(
わう
)
様
(
さま
)
にも
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
にも、
225
宜
(
よろ
)
しく
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
を
願
(
ねが
)
つて
下
(
くだ
)
さいませよ』
226
千草
(
ちぐさ
)
『これ、
227
テイラ、
228
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すのだえ。
229
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
僅
(
わづ
)
かなトルマン
国
(
ごく
)
の
主権者
(
しゆけんじや
)
、
230
三十万
(
さんじふまん
)
人
(
にん
)
の
父上
(
ちちうへ
)
ぢやぞえ。
231
太子
(
たいし
)
は
又
(
また
)
、
232
その
後継
(
あとつぎ
)
、
233
今
(
いま
)
は
何
(
なん
)
の
権威
(
けんゐ
)
もない
部屋住
(
へやずみ
)
ぢやぞや。
234
五十六
(
ごじふろく
)
億
(
おく
)
七千万
(
しちせんまん
)
人
(
にん
)
の
霊
(
みたま
)
を
救
(
すく
)
ふ
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
言葉
(
ことば
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
なさる』
235
テイ『ハイ、
236
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました』
237
と
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
匆々
(
さうさう
)
に
立
(
た
)
ち、
238
『
皆様
(
みなさま
)
、
239
左様
(
さやう
)
ならば』
240
と
挨拶
(
あいさつ
)
を
残
(
のこ
)
し
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
かむとする。
241
母
(
はは
)
モクレンは、
242
『これテイラ
姫
(
ひめ
)
、
243
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
244
其方
(
そなた
)
も
矢張
(
やはり
)
ガーデン
王
(
わう
)
に
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
る
左守
(
さもり
)
の
娘
(
むすめ
)
なれば、
245
一応
(
いちおう
)
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げた
上
(
うへ
)
、
246
キユーバー
殿
(
どの
)
の
捜索
(
そうさく
)
においでなさるがよからう。
247
母
(
はは
)
として
一言
(
いちごん
)
、
248
注意
(
ちうい
)
致
(
いた
)
しますぞや』
249
千草
(
ちぐさ
)
『これこれモクレン、
250
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すのだい。
251
テイラは
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
を
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
すと
云
(
い
)
つたではないか』
252
モク『ハイ、
253
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しました。
254
テイラ、
255
早
(
はや
)
く、
256
サア、
257
おいでなさい』
258
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
259
「
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
一応
(
いちおう
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げよ」と、
260
口
(
くち
)
には
出
(
だ
)
さねど
目
(
め
)
を
以
(
もつ
)
て
之
(
これ
)
を
伝
(
つた
)
へた。
261
テイラは
母
(
はは
)
モクレンの
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
みとり、
262
さあらぬ
態
(
てい
)
にて、
263
『
左様
(
さやう
)
ならば
愈
(
いよいよ
)
捜索
(
そうさく
)
に
参
(
まゐ
)
ります。
264
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
、
265
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
266
と
早
(
はや
)
くも
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
つた。
267
千草
(
ちぐさ
)
『オツホヽヽヽ、
268
ヤア、
269
流石
(
さすが
)
は
偉
(
えら
)
いテイラ
殿
(
どの
)
。
270
これモクレン、
271
お
喜
(
よろこ
)
びなさい。
272
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
273
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
第一番
(
だいいちばん
)
に
致
(
いた
)
したのは、
274
其方
(
そなた
)
の
娘
(
むすめ
)
テイラで
御座
(
ござ
)
るぞや。
275
サア
早
(
はや
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しや』
276
モクレンは
仕方
(
しかた
)
なしに
両掌
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
277
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
暗祈
(
あんき
)
黙祷
(
もくたう
)
してゐる。
278
千草
(
ちぐさ
)
『コレコレ、
279
あまり
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らなさすぎるぢやないか。
280
モクレン
281
其方
(
そなた
)
は、
2811
どこを
拝
(
をが
)
んで
居
(
を
)
るのぢや。
282
空虚
(
くうきよ
)
なる
大空
(
おほぞら
)
を
拝
(
をが
)
んで
何
(
なん
)
になる。
283
天
(
てん
)
にまします
大
(
おほ
)
みろく
の
神
(
かみ
)
は
今
(
いま
)
や
地上
(
ちじやう
)
に
降臨
(
かうりん
)
し、
284
此処
(
ここ
)
に
御座
(
ござ
)
るぢやないか。
285
神
(
かみ
)
を
拝
(
をが
)
めと
申
(
まを
)
すのは
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
を
拝
(
をが
)
めと
云
(
い
)
ふのだよ。
286
ても
扨
(
さて
)
も、
287
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
代物
(
しろもの
)
だなア』
288
モクレンは
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて、
289
「エーこの
狂人
(
きちがひ
)
女郎
(
めらう
)
、
290
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがる。
291
馬鹿
(
ばか
)
らしい」とは
思
(
おも
)
へども、
292
そこが
主従
(
しゆじゆう
)
の
悲
(
かな
)
しさ、
293
色
(
いろ
)
にも
出
(
だ
)
さず、
294
『ハイ、
295
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
りましたか。
296
何分
(
なにぶん
)
愚鈍
(
ぐどん
)
の
妾
(
わらは
)
、
297
現在
(
げんざい
)
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
出現
(
しゆつげん
)
遊
(
あそ
)
ばして
御座
(
ござ
)
るのに
気
(
き
)
がつかないとは、
298
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
馬鹿
(
ばか
)
だらうかと、
299
吾
(
われ
)
乍
(
なが
)
ら
呆
(
あき
)
れはてて
御座
(
ござ
)
ります。
300
然
(
しか
)
らば
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ、
301
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
』
302
と
三拝
(
さんぱい
)
九拝
(
きうはい
)
、
303
拍手
(
はくしゆ
)
した。
304
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
益々
(
ますます
)
得意
(
とくい
)
になり、
305
ツンとあげ
面
(
づら
)
をさらし
乍
(
なが
)
ら、
306
『ヤア、
307
善哉
(
ぜんざい
)
々々
(
ぜんざい
)
。
308
其方
(
そなた
)
こそ
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
を
神
(
かみ
)
として
認
(
みと
)
めた
第一人者
(
だいいちにんしや
)
ぢや、
309
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
信仰
(
しんかう
)
をかへてはなりませぬぞや。
310
サア、
311
かうきまつた
上
(
うへ
)
はモクレン
殿
(
どの
)
は
暇
(
いとま
)
を
遣
(
つか
)
はす。
312
随意
(
ずいい
)
に
吾
(
わが
)
家
(
や
)
にかへり
休息
(
きうそく
)
なされ。
313
これからハリスに
向
(
むか
)
つて
折入
(
をりい
)
つて
特別
(
とくべつ
)
の
御用
(
ごよう
)
がある、
314
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
においでなさい。
315
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
に
又
(
また
)
とない
弥勒
(
みろく
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
おほせ
)
付
(
つ
)
けますぞや』
316
ハリ『ハイ、
317
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ
参
(
まゐ
)
ります』
318
と
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
伴
(
ともな
)
はれ
行
(
ゆ
)
く。
319
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はドアの
戸
(
と
)
を
堅
(
かた
)
く
締
(
し
)
め
四方
(
しはう
)
の
窓
(
まど
)
を
閉
(
と
)
ぢ、
320
声
(
こゑ
)
をひそめて、
321
『これ、
322
ハリス
殿
(
どの
)
、
323
この
生宮
(
いきみや
)
が
特別
(
とくべつ
)
の
大々々
(
だいだいだい
)
の
秘密
(
ひみつ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
仰
(
おほせ
)
付
(
つ
)
けるからお
聞
(
き
)
きなさい』
324
ハリ『ハイ、
325
謹
(
つつし
)
んで
承
(
うけたま
)
はりませう。
326
如何
(
いか
)
なる
御用
(
ごよう
)
なりとも
身
(
み
)
に
叶
(
かな
)
ふ
事
(
こと
)
ならば』
327
千草
(
ちぐさ
)
『ヤア、
328
ハリス
殿
(
どの
)
外
(
ほか
)
でもない。
329
其方
(
そなた
)
はトルマン
国
(
ごく
)
きつての
美貌
(
びばう
)
と
聞
(
き
)
く、
330
その
美貌
(
びばう
)
を
楯
(
たて
)
として、
331
太子
(
たいし
)
チウインの
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
332
彼
(
かれ
)
を
恋
(
こひ
)
の
淵
(
ふち
)
に
陥
(
おとしい
)
れくれるならば、
333
其方
(
そなた
)
をチウイン
太子
(
たいし
)
の
妃
(
きさき
)
となし、
334
このトルマン
城
(
じやう
)
の
花
(
はな
)
と
致
(
いた
)
すであらう。
335
どうだ
嬉
(
うれ
)
しいか、
336
よもや
不足
(
ふそく
)
はあるまいがな』
337
ハリ『
何事
(
なにごと
)
かと
存
(
ぞん
)
じますれば
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない。
338
左様
(
さやう
)
な
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
、
339
どうして
臣下
(
しんか
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
340
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
に、
341
左様
(
さやう
)
に
大
(
だい
)
それた
事
(
こと
)
が
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
申
(
まを
)
されませう。
342
第一
(
だいいち
)
身分
(
みぶん
)
に
懸隔
(
けんかく
)
が
御座
(
ござ
)
りまする。
343
又
(
また
)
妾
(
わらは
)
は
右守司
(
うもりのかみ
)
の
一人娘
(
ひとりむすめ
)
、
344
右守家
(
うもりけ
)
を
継
(
つ
)
がねばなりませぬ。
345
どうぞこれ
許
(
ばか
)
りは
偏
(
ひとへ
)
に
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
を
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
りまする』
346
千草
(
ちぐさ
)
『これこれハリス、
347
そんな
遠慮
(
ゑんりよ
)
はチツとも
要
(
い
)
らぬ。
348
右守家
(
うもりけ
)
の
血統
(
ちすぢ
)
は
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にもお
前
(
まへ
)
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
349
成程
(
なるほど
)
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がねばならうまい。
350
それなれば
尚更
(
なほさら
)
、
351
其方
(
そなた
)
にとつては、
352
打
(
う
)
つて
すげ
たやうな
話
(
はなし
)
ではないか。
353
チウインをうまく
恋
(
こひ
)
に
引入
(
ひきい
)
れたならば、
354
其方
(
そなた
)
の
夫
(
をつと
)
につかはす
程
(
ほど
)
に。
355
何
(
なん
)
と
嬉
(
うれ
)
しからうがな』
356
ハリ『
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くもトルマン
国
(
ごく
)
の
継承者
(
けいしようしや
)
たる
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
を
右守
(
うもり
)
の
家
(
いへ
)
に
下
(
くだ
)
さるとは、
357
天地
(
てんち
)
顛倒
(
てんたう
)
も
同様
(
どうやう
)
、
358
ガーデン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
決
(
けつ
)
して
許
(
ゆる
)
しは
致
(
いた
)
されますまい。
359
又
(
また
)
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
とて
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
捨
(
す
)
て、
360
臣下
(
しんか
)
の
家
(
いへ
)
に
養子
(
やうし
)
におなり
遊
(
あそ
)
ばすやうな
道理
(
だうり
)
は
御座
(
ござ
)
りませぬ。
361
仮令
(
たとへ
)
右守家
(
うもりけ
)
は
妾
(
わらは
)
一代
(
いちだい
)
にて
血統
(
ちすぢ
)
がきれませうとも、
362
王家
(
わうけ
)
には
替
(
か
)
へられませぬ。
363
この
儀
(
ぎ
)
許
(
ばか
)
りは
平
(
ひら
)
に
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
を
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
りまする』
364
千草
(
ちぐさ
)
『これこれハリス
殿
(
どの
)
、
365
其方
(
そなた
)
は
此
(
この
)
生宮
(
いきみや
)
の
命令
(
めいれい
)
ならば、
366
山
(
やま
)
でも
逆様
(
さかさま
)
に
登
(
のぼ
)
ると
云
(
い
)
つたぢやないか。
367
その
舌
(
した
)
の
根
(
ね
)
の
乾
(
かわ
)
かぬ
中
(
うち
)
、
368
掌
(
てのひら
)
かへしたやうな
其方
(
そなた
)
の
変心
(
へんしん
)
、
369
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
370
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
で
承知
(
しようち
)
は
致
(
いた
)
さぬぞや』
371
ハリ『ハイ、
372
是非
(
ぜひ
)
は
御座
(
ござ
)
りませぬ。
373
万々一
(
まんまんいち
)
妾
(
わらは
)
の
力
(
ちから
)
によつて
太子
(
たいし
)
様
(
さま
)
を
恋
(
こひ
)
に
陥
(
おと
)
し
奉
(
まつ
)
つた
上
(
うへ
)
は、
374
王家
(
わうけ
)
の
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
は、
375
どうなさいますか。
376
それが
妾
(
わらは
)
は
心配
(
しんぱい
)
でなりませぬ』
377
千草
(
ちぐさ
)
『ホヽヽヽ、
378
成程
(
なるほど
)
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
もだ
尤
(
もつと
)
もだ。
379
人間心
(
にんげんごころ
)
としては、
380
実
(
じつ
)
に
申
(
まをし
)
分
(
ぶん
)
のないお
前
(
まへ
)
の
真心
(
まごころ
)
、
381
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りました。
382
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
自由
(
じいう
)
に
致
(
いた
)
す
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
みろく
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
383
現
(
あら
)
はれた
以上
(
いじやう
)
は
霊
(
みたま
)
の
親子
(
おやこ
)
たるものを
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
に
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へだ。
384
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
に
心配
(
しんぱい
)
はチツとも
要
(
い
)
らない。
385
其方
(
そなた
)
の
霊
(
みたま
)
はチウイン
太子
(
たいし
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
の
霊
(
みたま
)
だによつて、
386
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
神界
(
しんかい
)
に
於
(
おい
)
て
調
(
しら
)
べて
調
(
しら
)
べて
調
(
しら
)
べ
上
(
あ
)
げた
上
(
うへ
)
、
387
かう
申
(
まを
)
してゐるのだから、
388
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
活動
(
くわつどう
)
して
下
(
くだ
)
さい。
389
屹度
(
きつと
)
成功
(
せいこう
)
疑
(
うたが
)
ひなしぢやぞえ』
390
ハリスは
太子
(
たいし
)
と
共
(
とも
)
に
大軍
(
たいぐん
)
を
率
(
ひき
)
ゐ、
391
敵軍
(
てきぐん
)
を
駆
(
か
)
け
悩
(
なや
)
ましたる
女武者
(
をんなむしや
)
である。
392
さうして
太子
(
たいし
)
の
容色
(
ようしよく
)
や
胆力
(
たんりよく
)
には
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
感服
(
かんぷく
)
してゐた。
393
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
たう、
394
妻
(
つま
)
にならう
等
(
など
)
との
野心
(
やしん
)
はチツトも
持
(
も
)
つてゐないのであるが、
395
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
否
(
いな
)
みかね、
396
一先
(
ひとま
)
づ
此
(
こ
)
の
場
(
ば
)
を
逃
(
のが
)
れむものと、
397
心
(
こころ
)
にもなき
言辞
(
げんじ
)
を
弄
(
ろう
)
し、
398
暫時
(
ざんじ
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
意
(
い
)
を
迎
(
むか
)
へ、
399
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
をして
見
(
み
)
せたのである。
400
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
満足
(
まんぞく
)
の
態
(
てい
)
にて、
401
千草
(
ちぐさ
)
『ヤア、
402
ハリス
殿
(
どの
)
、
403
あつぱれ あつぱれ、
404
必
(
かなら
)
ず
成功
(
せいこう
)
祈
(
いの
)
るぞや。
405
これさへ
承諾
(
しようだく
)
した
上
(
うへ
)
は、
406
最早
(
もはや
)
今日
(
こんにち
)
は
之
(
これ
)
で
御
(
ご
)
用済
(
ようず
)
みだ。
407
これから
家
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
408
あらむ
限
(
かぎ
)
りの
盛装
(
せいさう
)
をなし、
409
紅
(
べに
)
、
410
白粉
(
おしろい
)
、
411
油
(
あぶら
)
を
惜
(
を
)
しまず、
412
抜目
(
ぬけめ
)
なく
立働
(
たちはたら
)
く
準備
(
じゆんび
)
をなさい』
413
ハリスは『ハイ、
414
有難
(
ありがた
)
う』と
丁寧
(
ていねい
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
をなし
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
匆々
(
さうさう
)
立
(
た
)
ちて
行
(
ゆ
)
く。
415
(
大正一四・八・二四
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