霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 喃悶題(なんもんだい)〔一七八〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第2篇 千種蛮態 よみ(新仮名遣い):せんしゅばんたい
章:第13章 喃悶題 よみ(新仮名遣い):なんもんだい 通し章番号:1780
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
千草姫は自分の部屋に、故・左守の妻モクレン、娘のテイラ、故・右守の娘ハリスを集め、ご馳走を振舞っている。
千草姫は、3人に自分は今日から三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮であると宣言する。
3人はあまりのことに顔を見合わせるが、千草姫は一人一人詰問をはじめる。
3人とも、自分の主君である王妃の言葉とて、否みがたく、絶対服従を誓ってしまう。
千草姫は、テイラにキューバーの捜索を命じ、ハリスには自分の邪魔をする太子を誘惑するように命じ、散会する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-06-25 20:26:58 OBC :rm7013
愛善世界社版:162頁 八幡書店版:第12輯 449頁 修補版: 校定版:165頁 普及版:81頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)左守司(さもりのかみ)(つま)モクレン(おな)じく(むすめ)テイラ(ひめ)002右守(うもり)(むすめ)ハリスを膝下(しつか)(ちか)()()せ、003薬籠中(やくろうちう)のものとなしおかむと、004あらゆる歓待(くわんたい)(つく)してゐる。005モクレン、006テイラ、007ハリスの(さん)(にん)(おそ)(おそ)千草姫(ちぐさひめ)御殿(ごてん)(テーブル)(かこ)んで千草姫(ちぐさひめ)(こころ)からの馳走(ちそう)(いただ)いてゐた。008千草姫(ちぐさひめ)一同(いちどう)(むか)ひ、
009『これ、010モクレンさま、011其方(そなた)国家(こくか)(ため)一命(いちめい)()てた左守(さもり)(さま)奥様(おくさま)だから、012(をんな)とは()へトルマン(ごく)にとつては国家(こくか)柱石(ちうせき)013(たれ)よりも()よりも大切(たいせつ)にせなくてはならない(かた)だから、014今後(こんご)国家(こくか)のため(わたし)(とも)十分(じふぶん)(ちから)(つく)して(くだ)さいや』
015モクレン『ハイ、016()(がた)(ひめ)(さま)のお言葉(ことば)では御座(ござ)りまするが、017()かけ(どほ)り、018最早(もはや)老齢(らうれい)019(なん)(よう)にも()ちませぬのでお(はづか)しう御座(ござ)ります』
020千草(ちぐさ)『これこれそりや(なに)(また)021()(よわ)(こと)()ふのだい。022(まへ)さまもトルマン(ごく)(おい)第一人者(だいいちにんしや)たる左守司(さもりのかみ)未亡人(みばうじん)ぢやないか。023(をつと)討死(うちじに)された以上(いじやう)は、024賢母(けんぼ)良妻(りやうさい)(じつ)()げ、025(をつと)にまさる活動(くわつどう)をせなくちや()みますまい。026これから(この)千草姫(ちぐさひめ)其方(そなた)(たい)し、027無限(むげん)神徳(しんとく)(あた)へるから(ちから)一杯(いつぱい)千草姫(ちぐさひめ)(ため)活動(くわつどう)して(くだ)さい。028それが、029つまり(わう)(さま)(ため)ともなり、030(また)トルマン(ごく)一般(いつぱん)のためともなるのだからなア』
031モク『ハイ、032()(がた)御座(ござ)ります。033(わらは)のやうな(とし)をとつた老耄(おいぼれ)034(なん)(よう)にも()ちますまいが、035(ひめ)(さま)御用(ごよう)とあれば(いな)(わけ)には()きませぬ。036(なん)なりと御用(ごよう)(おほせ)()(くだ)さいますれば(ちから)のあらむ(かぎ)り、037屹度(きつと)おつとめ(いた)しませう』
038千草(ちぐさ)『イヤ、039満足(まんぞく)々々(まんぞく)040それでこそ左守(さもり)(つま)モクレン殿(どの)041この千草姫(ちぐさひめ)(いま)(まで)千草(ちぐさ)とは(いささ)(かは)つてゐますから、042その(かんが)へでゐて(くだ)さいや。043(けつ)して(この)千草姫(ちぐさひめ)発狂(はつきやう)はして()りませぬ。044(いよいよ)今日(こんにち)より三千(さんぜん)世界(せかい)救世主(きうせいしゆ)045底津(そこつ)岩根(いはね)(おほ)みろく霊体(れいたい)046第一(だいいち)霊国(れいごく)天人(てんにん)047()出神(でのかみ)生宮(いきみや)御座(ござ)るぞや。048今日(けふ)(まで)はトルマン(ごく)ガーデン(わう)王妃(わうひ)として内政(ないせい)干与(かんよ)(いた)して()つたが、049最早(もはや)左様(さやう)(ちひ)さい(こと)出来(でき)ませぬ。050(てん)根本(こつぽん)根本(こつぽん)(おほ)みろく霊体(れいたい)として、051(この)地上(ちじやう)(あら)はれた以上(いじやう)は、052七千(しちせん)余国(よこく)(つき)(くに)(まを)すに(およ)ばず、053三千(さんぜん)世界(せかい)立替(たてかへ)立直(たてなほ)(あそ)ばす()出神(でのかみ)活動(くわつどう)054其方(そなた)余程(よほど)しつかりして(くだ)さらぬと、055(この)()大望(たいまう)056立替(たてかへ)立直(たてなほ)しがおそくなりますからな』
057 千草姫(ちぐさひめ)(この)意外(いぐわい)(げん)にモクレンも、058テイラも、059ハリスも(あき)れはて、060(たがひ)(かほ)見合(みあは)せて(した)()き、061()(みは)つた。
062千草(ちぐさ)『これ、063ハリス、064(まへ)(いま)(した)()いてゐたぢやないか。065(わらは)()(こと)が、066それほど可笑(をか)しいのか。067なぜ真面目(まじめ)(かみ)(まを)(こと)をお()きなさらぬのだい』
068ハリス『ハイ、069(まこと)(おそ)()りまして御座(ござ)ります。070王妃(わうひ)(さま)(ばか)(いま)(いま)(まで)(ぞん)じましたのに、071途方(とはう)もない(おほ)きい(おほ)みろく(さま)()霊体(れいたい)とやら、072(こころ)(ちひ)さき吾々(われわれ)には真偽(しんぎ)(まよ)ひ、073茫然(ばうぜん)(いた)しました』
074千草(ちぐさ)『オツホヽヽヽ、075そらさうだろう。076三千(さんぜん)世界(せかい)救世主(きうせいしゆ)と、077トルマン(ごく)右守司(うもりのかみ)(むすめ)とを比較(ひかく)すれば、078(ざう)黴菌(ばいきん)とよりまだ懸隔(けんかく)があるのだから、079(わか)らぬのも無理(むり)はない。080(しか)(なが)(この)千草姫(ちぐさひめ)(なん)(おも)ひますか、081よもや狂人(きちがひ)とは(おも)はないでせうな』
082ハリ『勿体(もつたい)ない(ひめ)(さま)を、083どうして狂人(きちがひ)()られませう』
084千草(ちぐさ)『そんなら、085其方(そなた)(この)肉宮(にくみや)を、086どう(かんが)へるか』
087()つぎ()やに()ひつめられ、
088ハリ『ハイ、089到底(たうてい)黴菌(ばいきん)分際(ぶんざい)として宇宙大(うちうだい)(かみ)(さま)のこと、090()神徳(しんとく)(たか)王妃(わうひ)(さま)(おん)()(うへ)(わか)つて(たま)りませうか。091(ただ)有難(ありがた)勿体(もつたい)なしと(まを)すより(ほか)言葉(ことば)御座(ござ)りませぬ』
092千草(ちぐさ)『なるほどなるほど、093そら、0931さうだ。094(まへ)()(とほ)り、095(かみ)(こと)人間(にんげん)分際(ぶんざい)(わか)りさうな(こと)はないからな。096この千草姫(ちぐさひめ)みろく太柱(ふとばしら)097()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(しん)じた以上(いじやう)は、098何事(なにごと)でも絶対(ぜつたい)服従(ふくじう)(ちか)ふでせうな』
099ハリ『ハイ、100絶対(ぜつたい)服従(ふくじう)(ちか)ひます。101生宮(いきみや)(さま)のお言葉(ことば)ならば、102仮令(たとへ)(やま)逆様(さかさま)(のぼ)れと仰有(おつしや)つても(のぼ)つて()せませう』
103千草(ちぐさ)『ホヽヽヽ流石(さすが)右守(うもり)(わす)形見(がたみ)だけあつて(えら)いものだな。104これから(この)生宮(いきみや)三千(さんぜん)世界(せかい)救世主(きうせいしゆ)(あら)はれるについて、105其方(そなた)立派(りつぱ)三千(さんぜん)世界(せかい)(また)とない結構(けつこう)なお(かた)とし、106万古(まんご)末代(まつだい)()(のこ)御用(ごよう)(おほせ)()ける(ほど)に……』
107ハリ『ハイ、108有難(ありがた)御座(ござ)ります。109何分(なにぶん)よろしくお(ねが)(まを)しまする』
110千草(ちぐさ)『ウン、111よしよし、112(おほ)みろく太柱(ふとばしら)113(たしか)承知(しようち)(いた)したぞや。114(つぎ)には左守(さもり)(むすめ)テイラ殿(どの)(この)生宮(いきみや)(なん)心得(こころえ)御座(ござ)るか、115()意見(いけん)(うけたま)はり()いものだな』
116テイラ『ハイ、117(わらは)は、118どう(いた)しましても、119ガーデン(わう)王妃(わうひ)(さま)とより(おも)(こと)出来(でき)ませぬ。120()出神(でのかみ)とか底津(そこつ)岩根(いはね)みろくとか仰有(おつしや)りましたが、121今日(こんにち)(まで)一度(いちど)(うけたま)はつた(こと)御座(ござ)りませぬので、122(こころ)(うち)にて真偽(しんぎ)判別(はんべつ)(まよ)うて()ります』
123千草(ちぐさ)人間(にんげん)分際(ぶんざい)として(おそ)(おほ)くも(かみ)(たい)し、124真偽(しんぎ)判別(はんべつ)(まよ)ふとは、125(なん)たる不遜(ふそん)言葉(ことば)ぞや。126一寸先(いつすんさき)(わか)らぬ人間(にんげん)三千(さんぜん)世界(せかい)一目(ひとめ)見通(みとほ)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)審神(さには)(いた)(など)とは(もつ)ての(ほか)悪行(あくぎやう)127左様(さやう)不心得(ふこころえ)量見(りやうけん)では、128左守(さもり)(むすめ)とは()はせませぬぞや』
129テイ『ハイ、130(おそ)()りました。131あまり(にはか)(こと)吃驚(びつくり)(いた)しまして、132ツヒ粗相(そさう)(まを)しました。133どうぞ(ひろ)御心(みこころ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)しを(ねが)()げまする』
134千草(ちぐさ)『ウンさう柔順(おとなし)(こと)(わか)ればそれでよい。135この生宮(いきみや)正体(しやうたい)(わか)らぬのが本当(ほんたう)だ。136(なん)()つても三千(さんぜん)世界(せかい)(すく)(ため)に、137いろいろ雑多(ざつた)とヘグレてヘグレて()(この)(はう)138それぢやによつてヘグレのヘグレのヘグレ武者(むしや)139ヘグレ神社(じんしや)大神(おほかみ)と、140神界(しんかい)では(まを)すのぢやぞえ』
141テイ『ハイ、142有難(ありがた)御座(ござ)ります』
143千草(ちぐさ)(なに)有難(ありがた)いのだ。144(わらは)言葉(ことば)承知(しようち)()つたのか。145(ただ)王妃(わうひ)(さま)だから何事(なにごと)()無理(むり)御尤(ごもつと)も、146ヘイヘイハイハイと、147面従(めんじゆう)してさへ()ればいいと()ふやうなズルイ(かんが)へは駄目(だめ)ですよ。148人民(じんみん)(こころ)のドン(ぞこ)まで()えすく生神(いきがみ)だから』
149テイ『左様(さやう)御座(ござ)ります。150(わらは)(けつ)して(うたが)ひは(いた)しませぬ。151(ただ)(かみ)(さま)御心(みこころ)のまにまに御用(ごよう)(つか)(まつ)()けで御座(ござ)ります』
152千草(ちぐさ)『なるほど、153流石(さすが)左守(さもり)(わす)形見(がたみ)だけあつて、154よく(もの)(わか)るわい。155屹度(きつと)(この)千草姫(ちぐさひめ)肉宮(にくみや)(たい)して一言(いちごん)たりとも(そむ)きは(いた)しますまいな。156絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)(ちか)ふでせうな』
157テイ『ハイ、158何事(なにごと)主人(しゆじん)(まを)()け、159絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)(いた)しませう』
160千草(ちぐさ)『これこれ161それや(なに)()ふのぢやいな。162この生宮(いきみや)人間(にんげん)としての()挨拶(あいさつ)(いた)()る。163主人(しゆじん)命令(めいれい)(など)とは()しからぬ、164生宮(いきみや)(さま)()命令(めいれい)だと何故(なぜ)(まを)さないのか』
165テイ『ハイ、166粗相(そさう)(まを)しました。167生宮(いきみや)(さま)()命令(めいれい)ならば、168如何(いか)なる御用(ごよう)でも(いと)ひませぬ。169仮令(たとへ)()(なか)170(みづ)(そこ)でも、171(よろこ)んで御用(ごよう)(うけたま)はりませう』
172千草(ちぐさ)『ホヽヽヽヤレヤレ(うれ)しや(うれ)しや、173()出神(でのかみ)生宮(いきみや)174満足(まんぞく)(いた)したぞや。175命令(めいれい)とあれば(やま)逆様(さかさま)(ある)くハリス(ひめ)176()(なか)177(みづ)(そこ)へでも(よろこ)んで(とび)()むと()ふテイラ殿(どの)178これ()けの決死隊(けつしたい)出来(でき)(うへ)は、179(この)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)大磐石(だいばんじやく)180それに()いてはモクレン殿(どの)如何(いかが)()量見(りやうけん)か、181キツパリ、182それが(うけたま)はり()い』
183モク『(おほ)(まで)もなく絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)(ちか)ひます』
184千草(ちぐさ)絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)では、185(あま)答弁(たふべん)がボツとしてゐるぢやないか。186()(なか)(くぐ)るとか187(みづ)(そこ)(くぐ)るとか188(やま)逆様(さかさま)(のぼ)るとか189(なん)とか的確(てきかく)返答(へんたふ)がありさうなものぢやなア』
190モク『ハイ、191左様(さやう)ならば、192(わらは)()命令(めいれい)とあらば(かみ)(いけにえ)となつて(あたた)かい血潮(ちしほ)(たてまつ)りませう』
193千草(ちぐさ)『ウン、194よしよし、195其方(そなた)こそ秀逸(しういつ)だ。196流石(さすが)左守司(さもりのかみ)未亡人(みばうじん)197千草姫(ちぐさひめ)198否々(いやいや)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)199(かん)()りましたぞや。200サア早速(さつそく)201かう(はなし)(まと)まれば、202(いま)この生宮(いきみや)がテイラ、203ハリスの両人(りやうにん)御用(ごよう)(まをし)()ける』
204 テイラ、205ハリス両人(りやうにん)一度(いちど)に『ハツ』と(かしら)()げ、
206如何(いか)なる()命令(めいれい)なりとも(つつし)んで()()(つかまつ)ります』
207千草(ちぐさ)『ホヽヽ流石(さすが)賢女(けんぢよ)だ。208(しか)らば早速(さつそく)御用(ごよう)(まを)()ける。209其方(そなた)()いてゐる(とほ)り、210スコブツエン(しう)名僧(めいそう)キユーバー殿(どの)行衛(ゆくへ)を、211テイラ殿(どの)(さが)して()(くだ)さい』
212テイ『(いづ)れへ(まゐ)りましたら(よろ)しう御座(ござ)りますか。213どうか(かみ)(さま)214指図(さしづ)(くだ)さりませ』
215千草(ちぐさ)(さが)しに()くやうなものに、216方角(はうがく)(わか)道理(だうり)があらうか。217どちらに()けばよいか(わか)らぬから、218捜索(そうさく)()ようと(まを)すのだ』
219テイ『ハイ、220(かしこ)まりました。221(しか)らば、222これから直様(すぐさま)223()所在(ありか)(たづ)ねて(まゐ)りませう。224どうか(わう)(さま)にも太子(たいし)(さま)にも、225(よろ)しく()承諾(しようだく)(ねが)つて(くだ)さいませよ』
226千草(ちぐさ)『これ、227テイラ、228(なん)()(わか)らぬ(こと)(まを)すのだえ。229(わう)(さま)(わづ)かなトルマン(ごく)主権者(しゆけんじや)230三十万(さんじふまん)(にん)父上(ちちうへ)ぢやぞえ。231太子(たいし)(また)232その後継(あとつぎ)233(いま)(なん)権威(けんゐ)もない部屋住(へやずみ)ぢやぞや。234五十六(ごじふろく)(おく)七千万(しちせんまん)(にん)(みたま)(すく)三千(さんぜん)世界(せかい)生宮(いきみや)言葉(ことば)(なん)心得(こころえ)なさる』
235テイ『ハイ、236(おそ)()りました』
237(この)()匆々(さうさう)()ち、
238皆様(みなさま)239左様(さやう)ならば』
240挨拶(あいさつ)(のこ)()()かむとする。241(はは)モクレンは、
242『これテイラ(ひめ)243生宮(いきみや)(さま)()命令(めいれい)とは()(なが)ら、244其方(そなた)矢張(やはり)ガーデン(わう)(つか)(まつ)左守(さもり)(むすめ)なれば、245一応(いちおう)(わう)(さま)()挨拶(あいさつ)(まを)()げた(うへ)246キユーバー殿(どの)捜索(そうさく)においでなさるがよからう。247(はは)として一言(いちごん)248注意(ちうい)(いた)しますぞや』
249千草(ちぐさ)『これこれモクレン、250(なん)()(わか)らぬ(こと)(まを)すのだい。251テイラは(この)生宮(いきみや)(まを)(こと)絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)(いた)すと()つたではないか』
252モク『ハイ、253(まこと)()まない(こと)(まを)しました。254テイラ、255(はや)く、256サア、257おいでなさい』
258()(なが)ら、259(わう)(さま)一応(いちおう)(まを)()げよ」と、260(くち)には()さねど()(もつ)(これ)(つた)へた。
261 テイラは(はは)モクレンの(こころ)()みとり、262さあらぬ(てい)にて、
263左様(さやう)ならば(いよいよ)捜索(そうさく)(まゐ)ります。264生宮(いきみや)(さま)265()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
266(はや)くも(この)()立去(たちさ)つた。
267千草(ちぐさ)『オツホヽヽヽ、268ヤア、269流石(さすが)(えら)いテイラ殿(どの)270これモクレン、271(よろこ)びなさい。272底津(そこつ)岩根(いはね)(おほ)みろく太柱(ふとばしら)273()出神(でのかみ)御用(ごよう)第一番(だいいちばん)(いた)したのは、274其方(そなた)(むすめ)テイラで御座(ござ)るぞや。275サア(はや)(かみ)(さま)にお(れい)(まを)しや』
276 モクレンは仕方(しかた)なしに両掌(りやうて)(あは)せ、277(てん)(むか)つて暗祈(あんき)黙祷(もくたう)してゐる。
278千草(ちぐさ)『コレコレ、279あまり(わけ)(わか)らなさすぎるぢやないか。280モクレン281其方(そなた)は、2811どこを(をが)んで()るのぢや。282空虚(くうきよ)なる大空(おほぞら)(をが)んで(なん)になる。283(てん)にまします(おほ)みろく(かみ)(いま)地上(ちじやう)降臨(かうりん)し、284此処(ここ)御座(ござ)るぢやないか。285(かみ)(をが)めと(まを)すのは(この)生宮(いきみや)(をが)めと()ふのだよ。286ても(さて)も、287(わけ)(わか)らぬ代物(しろもの)だなア』
288 モクレンは(こころ)(うち)にて、289「エーこの狂人(きちがひ)女郎(めらう)290(なに)(ぬか)しやがる。291馬鹿(ばか)らしい」とは(おも)へども、292そこが主従(しゆじゆう)(かな)しさ、293(いろ)にも()さず、
294『ハイ、295左様(さやう)御座(ござ)りましたか。296何分(なにぶん)愚鈍(ぐどん)(わらは)297現在(げんざい)()(まへ)結構(けつこう)(かみ)(さま)()出現(しゆつげん)(あそ)ばして御座(ござ)るのに()がつかないとは、298(なん)()馬鹿(ばか)だらうかと、299(われ)(なが)(あき)れはてて御座(ござ)ります。300(しか)らば御免(ごめん)(くだ)さいませ、301生宮(いきみや)(さま)
302三拝(さんぱい)九拝(きうはい)303拍手(はくしゆ)した。
304 千草姫(ちぐさひめ)益々(ますます)得意(とくい)になり、305ツンとあげ(づら)をさらし(なが)ら、
306『ヤア、307善哉(ぜんざい)々々(ぜんざい)308其方(そなた)こそ(この)生宮(いきみや)(かみ)として(みと)めた第一人者(だいいちにんしや)ぢや、309(かなら)(かなら)信仰(しんかう)をかへてはなりませぬぞや。310サア、311かうきまつた(うへ)はモクレン殿(どの)(いとま)(つか)はす。312随意(ずいい)(わが)()にかへり休息(きうそく)なされ。313これからハリスに(むか)つて折入(をりい)つて特別(とくべつ)御用(ごよう)がある、314(わが)居間(ゐま)においでなさい。315結構(けつこう)結構(けつこう)三千(さんぜん)世界(せかい)(また)とない弥勒(みろく)成就(じやうじゆ)御用(ごよう)(おほせ)()けますぞや』
316ハリ『ハイ、317(おほ)せに(したが)(まゐ)ります』
318千草姫(ちぐさひめ)居間(ゐま)(ともな)はれ()く。319千草姫(ちぐさひめ)はドアの()(かた)()四方(しはう)(まど)()ぢ、320(こゑ)をひそめて、
321『これ、322ハリス殿(どの)323この生宮(いきみや)特別(とくべつ)大々々(だいだいだい)秘密(ひみつ)御用(ごよう)(おほせ)()けるからお()きなさい』
324ハリ『ハイ、325(つつし)んで(うけたま)はりませう。326如何(いか)なる御用(ごよう)なりとも()(かな)(こと)ならば』
327千草(ちぐさ)『ヤア、328ハリス殿(どの)(ほか)でもない。329其方(そなた)はトルマン(ごく)きつての美貌(びばう)()く、330その美貌(びばう)(たて)として、331太子(たいし)チウインの(こころ)(うば)ひ、332(かれ)(こひ)(ふち)(おとしい)れくれるならば、333其方(そなた)をチウイン太子(たいし)(きさき)となし、334このトルマン(じやう)(はな)(いた)すであらう。335どうだ(うれ)しいか、336よもや不足(ふそく)はあるまいがな』
337ハリ『何事(なにごと)かと(ぞん)じますれば()勿体(もつたい)ない。338左様(さやう)()命令(めいれい)339どうして臣下(しんか)()(もつ)て、340(おそ)(おほ)くも太子(たいし)(さま)に、341左様(さやう)(だい)それた(こと)(をんな)()として(まを)されませう。342第一(だいいち)身分(みぶん)懸隔(けんかく)御座(ござ)りまする。343(また)(わらは)右守司(うもりのかみ)一人娘(ひとりむすめ)344右守家(うもりけ)()がねばなりませぬ。345どうぞこれ(ばか)りは(ひとへ)()容赦(ようしや)(ねが)(たてまつ)りまする』
346千草(ちぐさ)『これこれハリス、347そんな遠慮(ゑんりよ)はチツとも()らぬ。348右守家(うもりけ)血統(ちすぢ)(てん)にも()にもお(まへ)(ただ)一人(ひとり)349成程(なるほど)(あと)()がねばならうまい。350それなれば尚更(なほさら)351其方(そなた)にとつては、352()つてすげたやうな(はなし)ではないか。353チウインをうまく(こひ)引入(ひきい)れたならば、354其方(そなた)(をつと)につかはす(ほど)に。355(なん)(うれ)しからうがな』
356ハリ『(おそ)(おほ)くもトルマン(ごく)継承者(けいしようしや)たる太子(たいし)(さま)右守(うもり)(いへ)(くだ)さるとは、357天地(てんち)顛倒(てんたう)同様(どうやう)358ガーデン(わう)(さま)(けつ)して(ゆる)しは(いた)されますまい。359(また)太子(たいし)(さま)とて顕要(けんえう)地位(ちゐ)()て、360臣下(しんか)(いへ)養子(やうし)におなり(あそ)ばすやうな道理(だうり)御座(ござ)りませぬ。361仮令(たとへ)右守家(うもりけ)(わらは)一代(いちだい)にて血統(ちすぢ)がきれませうとも、362王家(わうけ)には()へられませぬ。363この()(ばか)りは(ひら)()容赦(ようしや)(ねが)(たてまつ)りまする』
364千草(ちぐさ)『これこれハリス殿(どの)365其方(そなた)(この)生宮(いきみや)命令(めいれい)ならば、366(やま)でも逆様(さかさま)(のぼ)ると()つたぢやないか。367その(した)()(かわ)かぬ(うち)368(てのひら)かへしたやうな其方(そなた)変心(へんしん)369千草姫(ちぐさひめ)生宮(いきみや)370左様(さやう)(こと)承知(しようち)(いた)さぬぞや』
371ハリ『ハイ、372是非(ぜひ)御座(ござ)りませぬ。373万々一(まんまんいち)(わらは)(ちから)によつて太子(たいし)(さま)(こひ)(おと)(まつ)つた(うへ)は、374王家(わうけ)()世継(よつぎ)は、375どうなさいますか。376それが(わらは)心配(しんぱい)でなりませぬ』
377千草(ちぐさ)『ホヽヽヽ、378成程(なるほど)一応(いちおう)(もつと)もだ(もつと)もだ。379人間心(にんげんごころ)としては、380(じつ)(まをし)(ぶん)のないお(まへ)真心(まごころ)381(かん)()りました。382(しか)(なが)三千(さんぜん)世界(せかい)自由(じいう)(いた)底津(そこつ)岩根(いはね)(おほ)みろく太柱(ふとばしら)383(あら)はれた以上(いじやう)(みたま)親子(おやこ)たるものを()世継(よつぎ)(いた)(かんが)へだ。384左様(さやう)(こと)心配(しんぱい)はチツとも()らない。385其方(そなた)(みたま)はチウイン太子(たいし)夫婦(ふうふ)(みたま)だによつて、386()出神(でのかみ)生宮(いきみや)神界(しんかい)(おい)調(しら)べて調(しら)べて調(しら)()げた(うへ)387かう(まを)してゐるのだから、388(ちから)一杯(いつぱい)活動(くわつどう)して(くだ)さい。389屹度(きつと)成功(せいこう)(うたが)ひなしぢやぞえ』
390 ハリスは太子(たいし)(とも)大軍(たいぐん)(ひき)ゐ、391敵軍(てきぐん)()(なや)ましたる女武者(をんなむしや)である。392さうして太子(たいし)容色(ようしよく)胆力(たんりよく)には(こころ)(そこ)から感服(かんぷく)してゐた。393(しか)(なが)(をつと)()たう、394(つま)にならう(など)との野心(やしん)はチツトも()つてゐないのであるが、395千草姫(ちぐさひめ)言葉(ことば)(いな)みかね、396一先(ひとま)()()(のが)れむものと、397(こころ)にもなき言辞(げんじ)(ろう)し、398暫時(ざんじ)千草姫(ちぐさひめ)()(むか)へ、399(うれ)しさうな(かほ)をして()せたのである。400千草姫(ちぐさひめ)満足(まんぞく)(てい)にて、
401千草(ちぐさ)『ヤア、402ハリス殿(どの)403あつぱれ あつぱれ、404(かなら)成功(せいこう)(いの)るぞや。405これさへ承諾(しようだく)した(うへ)は、406最早(もはや)今日(こんにち)(これ)()用済(ようず)みだ。407これから(うち)(かへ)り、408あらむ(かぎ)りの盛装(せいさう)をなし、409(べに)410白粉(おしろい)411(あぶら)()しまず、412抜目(ぬけめ)なく立働(たちはたら)準備(じゆんび)をなさい』
413 ハリスは『ハイ、414有難(ありがた)う』と丁寧(ていねい)挨拶(あいさつ)をなし(この)()匆々(さうさう)()ちて()く。
415大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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