世に猛獣使いというものがある。猛獣を猫のごとくあしらうには、それを馴らすに種々の手段方法が行なわれる。だけれど、もしここにいささかの恐怖を感ずることなく、絶対愛をそそぎうる人がありとすれば、その人はなんらの手段方法を用いずして、容易に猛獣をも手なづけうるであろう。
仁愛は世にいちばん強いものである。ゆえに愛をもってたいすれば、いかなるものも従ってくるものである。猛獣などと愛の交流を行なうには、目によってするのである。万有愛の心を目に物いわせてじっと見つめておれば、猛りたった猛獣もやがてだんだんやさしい目になり、つづいてその態度もまったく柔順になり、人間の思うままになるものである。しかし多くの人は恐怖と嫌悪とのため心が縮かんでしまって、その余裕がないからだめである。獣は正直であるから、こちらが愛に充たされておりさえすれば、きっとうけいれるものである。
(「神の国」昭和8年8月)