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茶道

インフォメーション
題名:茶道 著者:出口王仁三郎
ページ:210 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2016-11-28 13:38:55 OBC :B195303c336
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]『明光』昭和4年3月号
 裏表四十八手を叩き折る隻手の声の聞こえる人間でなければ、茶道の神髄は分からない。
 茶事はすなわち禅の具体化、俳味の生活化で、そこに俳茶一味の響きが味わえるのである。東漸してきた仏教が、民族的体験、人格的発揮によつて原形を破壊し、新しい生命を生みだしたのであつて、宗教であるとともに芸術であり、また科学ともみられる。形の上から見て茶道と呼び、内容に聞いて俳味ととなうが、究竟すれば同根で、日本文化の洗練されたる紅白二種の色である。
 維摩の方丈と月宮殿の宝座に大千世界を観ずるの人は、四畳半裡の閑寂を破る風炉の音に、天地の父音母音を聞く人である。一句、一歌にして、江山万里を髣髴せしむる大詩客である。紹鴎武野紹鴎は室町時代後期の茶人で、侘び茶の骨格を作り、千利休らに大きな影響を与えた。や利休は一代の詩客であり、躬恒や、西行は一世の茶人である。大威神力はすべて孤寂の相に潜んでいるものだ。孤節飄然として、鴫立つ沢の秋の夕暮れに寂寥を歌つた西行は、北面随一の荒武者義清であつたではなかつたか。無言の言に○○をひざまずかした国師大燈は、橋下塵上の流れを枯木叫風と観じたる乞食である。豊公が掻乱反正の深謀秘策も、利休の四畳半から叩きだしたというのも不可思議ではない。東風ひとたび荒野を撫すれは千紫万紅一時に匂えど、九旬の春過ぐれば青一色で、ただ一月の天半にあつて然するのである。千億万を知るよりも、この究竟の一事に参徴すればたる。水泳は鱗族と競い泳ぐためではない。牛馬と駢馳してその健脚を誇つてはならぬ。
 人世を茶化して一個半個を説得せんがために、茶を鬻ぎつつお経の文句を書いていた売茶翁の行為も、あまり徹底したとはいえないが、死にのぞんでまず茶器を荼毘に付した風懐や、十徳幇間とはいえ「浄らけき布巾だにあらば茶は飲めるものに候」と、茶器を購いくれと某藩主から送つてきた三百金に添えてかえした利休の風流にも、また一顧の価値はあると思う。西行や、芭煮の簔笠相に捉えられて、その残糟をすするの従や、達摩の不識や自隠の毒を喫するの輩や、道具好みに浮き身をやつす成り金茶客、比々形式に堕し言筌にもてあそばれる徒輩である。ゆえにどうして捨てることがつかむことであり、亡びるは得たと思う刹那と気注うぞ。栂尾の明恵が茶をつくつて弟子に飲ましたのは、千八百則の公案よりも、一服の茶が正眼を開かしめたからである。栄西の「興禅護国論」よりも「喫茶養生記」の方が、禅味があるようである。
 反省一番、真の俳味を復活せんとして、宗教家たる瑞月は茶器をつくり、茶道を奨励し、俳句、和歌、詩を弘通し、花壇、温室などを開いて、真の宗教すなわち俳道、茶道、芸術を専心唱導するゆえんである。
(「明光」昭和4年3月)
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