いまの人間には抱容力があまりなさすぎる。胸が狭いから、ちょっとの事があればすぐ胸いっぱいになって、どうすることもできなくなる。抱容は抱擁で抱いてやることなのだ、鶏が雛を抱いてやるようなものだ。鶏が雛を抱いて温めてやる。あれが真の抱容だ。氷のようなつめたい心で、形の上でばっかり抱いてもらったってありがたくない。雛はすぐ脱けだしてしまう。あまり固く抱くとまたよくない。抱かれた雛が締めつけられて育たない。あまり寛く抱くと雛につつかれる憂いがある。抱容の仕方もなかなか、むつかしいものである。
(無題、「神の国」大正15年4月)