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霊界物語
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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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如意宝珠
第13巻(子の巻)
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第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
01 主一無適
〔867〕
02 大地震
〔868〕
03 救世神
〔869〕
04 不知恋
〔870〕
05 秋鹿の叫
〔871〕
06 女弟子
〔872〕
第2篇 紅裙隊
07 妻の選挙
〔873〕
08 人獣
〔874〕
09 誤神託
〔875〕
10 噂の影
〔876〕
11 売言買辞
〔877〕
12 冷い親切
〔878〕
13 姉妹教
〔879〕
第3篇 千里万行
14 樹下の宿
〔880〕
15 丸木橋
〔881〕
16 天狂坊
〔882〕
17 新しき女
〔883〕
18 シーズンの流
〔884〕
19 怪原野
〔885〕
20 脱皮婆
〔886〕
21 白毫の光
〔887〕
第4篇 言霊将軍
22 神の試
〔888〕
23 化老爺
〔889〕
24 魔違
〔890〕
25 会合
〔891〕
余白歌
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第31巻
> 第1篇 千状万態 > 第2章 大地震
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第二章
大地震
(
だいぢしん
)
〔八六八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第1篇 千状万態
よみ(新仮名遣い):
せんじょうばんたい
章:
第2章 大地震
よみ(新仮名遣い):
だいじしん
通し章番号:
868
口述日:
1922(大正11)年08月18日(旧06月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-03-06 19:01:31
OBC :
rm3102
愛善世界社版:
19頁
八幡書店版:
第6輯 47頁
修補版:
校定版:
19頁
普及版:
7頁
初版:
ページ備考:
001
国依別
(
くによりわけ
)
の
立去
(
たちさ
)
つた
後
(
あと
)
のエリナは、
002
掌中
(
しやうちう
)
の
玉
(
たま
)
を
何者
(
なにもの
)
にか
奪
(
うば
)
はれたるが
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
し
乍
(
なが
)
ら、
003
門
(
かど
)
に
立出
(
たちい
)
でて、
004
宣伝使
(
せんでんし
)
の
姿
(
すがた
)
の
広
(
ひろ
)
き
原野
(
げんや
)
に
見
(
み
)
えなくなる
迄
(
まで
)
打見
(
うちみ
)
まもり、
005
エリナ
『アヽ
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
であつたナ。
006
どうぞモウ
暫
(
しばら
)
く
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さればよかつたのに……
俄
(
にはか
)
に
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねたと
見
(
み
)
えて、
007
とうとう
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
はれた。
008
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
見放
(
みはな
)
されたに
違
(
ちがひ
)
ない。
009
ヤツパリ
昔
(
むかし
)
から
信仰
(
しんかう
)
して
来
(
き
)
た
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
を、
010
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
信仰
(
しんかう
)
致
(
いた
)
しませう。
011
お
父
(
とう
)
さまが
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に
囚
(
とら
)
はれて、
012
あるにあられぬ
責苦
(
せめく
)
に
会
(
あ
)
ひ、
013
お
苦
(
くる
)
しみ
遊
(
あそ
)
ばすのも、
014
其
(
その
)
元
(
もと
)
を
尋
(
たづ
)
ぬれば、
015
ウラル
教
(
けう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
016
ブールの
教主
(
けうしゆ
)
様
(
さま
)
が
常
(
つね
)
に
異端
(
いたん
)
とし、
017
外道
(
げだう
)
としてお
嫌
(
きら
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
吾家
(
わがや
)
に
泊
(
と
)
めたり、
018
又
(
また
)
ウラル
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
に
対
(
たい
)
し、
019
異端
(
いたん
)
外道
(
げだう
)
の
教
(
をしへ
)
を
御
(
お
)
勧
(
すす
)
め
遊
(
あそ
)
ばした
天罰
(
てんばつ
)
が
酬
(
むく
)
うたのであらう。
020
何程
(
なにほど
)
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
でも、
021
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
022
二心
(
ふたごころ
)
を
出
(
だ
)
して
他
(
た
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
信仰
(
しんかう
)
すれば、
023
神罰
(
しんばつ
)
が
当
(
あた
)
るのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
024
アヽ
是
(
これ
)
から
心
(
こころ
)
を
改
(
あらた
)
めて、
025
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し、
026
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
よりお
詫
(
わ
)
びを
致
(
いた
)
し、
027
主一
(
しゆいつ
)
無適
(
むてき
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
捧
(
ささ
)
げませう。
028
……あゝ
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
、
029
吾々
(
われわれ
)
教子
(
をしへご
)
の
重々
(
ぢうぢう
)
の
罪
(
つみ
)
、
030
何卒
(
なにとぞ
)
御
(
お
)
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
031
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
032
家
(
いへ
)
に
入
(
い
)
り、
033
母親
(
ははおや
)
の
枕許
(
まくらもと
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り
見
(
み
)
れば、
034
母親
(
ははおや
)
は
少
(
すこ
)
しく
頭
(
あたま
)
を
擡
(
もた
)
げ、
035
ニコニコと
笑
(
わら
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
036
エリナ
『アヽお
母
(
か
)
アさま!
大変
(
たいへん
)
に
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
がよささうに
御座
(
ござ
)
いますなア。
037
こんな
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ』
038
母(テール)
『お
前
(
まへ
)
は
余
(
あま
)
り
両親
(
りやうしん
)
を
大切
(
たいせつ
)
に
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
より、
039
遂
(
つひ
)
にウラル
教
(
けう
)
の
有難
(
ありがた
)
い
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れ
又
(
また
)
お
父
(
とう
)
さまの
様
(
やう
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
吾家
(
わがや
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り、
040
外道
(
げだう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
信仰
(
しんかう
)
なさるものだから、
041
私
(
わたし
)
も
又
(
また
)
もやブールの
大将
(
たいしやう
)
に
睨
(
にら
)
まれ、
042
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わし
)
とが、
043
再
(
ふたた
)
びお
父
(
と
)
うさまの
様
(
やう
)
に、
044
水牢
(
みづろう
)
の
責苦
(
せめく
)
に
会
(
あ
)
はねばならぬかと、
045
それが
心配
(
しんぱい
)
になつて、
046
病気
(
びやうき
)
はだんだん
重
(
おも
)
る
計
(
ばか
)
り、
047
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で……
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
、
048
どうぞ
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
宣伝使
(
せんでんし
)
が
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れます
様
(
やう
)
……と、
049
祈願
(
きぐわん
)
をこらして
居
(
を
)
りました。
050
おかげに
依
(
よ
)
つて
外道
(
げだう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
051
吾家
(
わがや
)
を
立出
(
たちい
)
で、
052
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せなくなつたので、
053
ヤツと
安心
(
あんしん
)
し、
054
俄
(
にはか
)
に
気分
(
きぶん
)
も
良
(
よ
)
くなつて
来
(
き
)
たのよ。
055
モウ
是
(
これ
)
からどんな
事
(
こと
)
があつても、
056
外道
(
げだう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
吾家
(
わがや
)
へ
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
ることはなりませぬぞや。
057
お
前
(
まへ
)
は
親
(
おや
)
を
助
(
たす
)
けようと
思
(
おも
)
うて
焦
(
あせ
)
り、
058
却
(
かへつ
)
て、
059
外道
(
げだう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
060
親
(
おや
)
を
苦
(
くる
)
しめる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
になるから、
061
どうしても
斯
(
こ
)
うしても
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
疎外
(
そぐわい
)
し、
062
外道
(
げだう
)
に
迷
(
まよ
)
はぬ
様
(
やう
)
に
心得
(
こころえ
)
て
下
(
くだ
)
されや。
063
おかげは
忽
(
たちま
)
ち
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだから、
064
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
種々
(
いろいろ
)
として、
065
吾々
(
われわれ
)
親子
(
おやこ
)
の
信仰
(
しんかう
)
の
厚薄
(
こうはく
)
を
御
(
お
)
試
(
ため
)
し
遊
(
あそ
)
ばすのだから、
066
チツとも
油断
(
ゆだん
)
はなりませぬぞえ』
067
エリナ
『ハイ、
068
現当
(
げんたう
)
利益
(
りやく
)
と
言
(
い
)
ひ、
069
お
母
(
か
)
アさまのお
言葉
(
ことば
)
といひ、
070
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りスツパリと
心
(
こころ
)
を
改
(
あらた
)
め、
071
決
(
けつ
)
して
外
(
ほか
)
の
道
(
みち
)
へは
迷
(
まよ
)
ひませぬから、
072
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
073
母
『あゝそれを
聞
(
き
)
いて
母
(
はは
)
も
安心
(
あんしん
)
しました。
074
サア
早
(
はや
)
く
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げてお
呉
(
く
)
れ!』
075
エリナ
『ハイ、
076
只今
(
ただいま
)
直
(
すぐ
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
詞
(
ことば
)
を
捧
(
ささ
)
げませう』
077
と
直
(
ただ
)
ちに、
078
庭先
(
にはさき
)
を
流
(
なが
)
るる
細谷川
(
ほそたにがは
)
に
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
め、
079
衣類
(
いるゐ
)
を
着替
(
きか
)
へ、
080
恭
(
うやうや
)
しく
感謝
(
かんしや
)
祈願
(
きぐわん
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
居
(
ゐ
)
る。
081
かかる
所
(
ところ
)
へ
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
のブールの
使
(
つかい
)
として、
082
アナンは
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
引
(
ひき
)
つれ、
083
此
(
この
)
家
(
や
)
に
荒々
(
あらあら
)
しく
入来
(
いりきた
)
り、
084
いとも
声高
(
こわだか
)
にエリナに
向
(
むか
)
ひ、
085
アナン
『オイ、
086
エリナとやら、
087
貴様
(
きさま
)
は
又
(
また
)
しても、
088
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
を
吾家
(
わがや
)
に
引入
(
ひきい
)
れ、
089
朝夕
(
あさゆふ
)
……
親
(
おや
)
の
病気
(
びやうき
)
を
直
(
なほ
)
さうとか、
090
父
(
ちち
)
の
危難
(
きなん
)
を
遁
(
のが
)
れさせ
玉
(
たま
)
へとか
云
(
い
)
つて、
091
祈
(
いの
)
らして
居
(
を
)
つたではないか?
近所
(
きんじよ
)
の
者
(
もの
)
の
注進
(
ちうしん
)
によつて、
092
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もスツカリと
教主
(
けうしゆ
)
の
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
つてゐるぞ! それにも
拘
(
かか
)
はらず、
093
三五教
(
あななひけう
)
の
乱暴者
(
らんばうもの
)
キジ、
094
マチの
両人
(
りやうにん
)
を
差向
(
さしむ
)
け、
095
聖場
(
せいぢやう
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
せむと
致
(
いた
)
した
図太
(
づぶと
)
き
代物
(
しろもの
)
……サア
教主
(
けうしゆ
)
の
命令
(
めいれい
)
だ、
096
尋常
(
じんじやう
)
に
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
せ。
097
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
館
(
やかた
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り、
098
其
(
その
)
方
(
はう
)
もエスの
様
(
やう
)
に
水牢
(
みづろう
)
に
投込
(
なげこ
)
み、
099
戒
(
いまし
)
めてやらねばならぬ』
100
と
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く
呶鳴
(
どな
)
りつける。
101
母親
(
ははおや
)
はアナンの
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
又
(
また
)
もや
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め、
102
猛烈
(
まうれつ
)
なる
癪気
(
しやくき
)
を
起
(
おこ
)
し、
103
其
(
その
)
場
(
ば
)
に『ウン』と
倒
(
たふ
)
れて
人事
(
じんじ
)
不詳
(
ふしよう
)
の
体
(
てい
)
なり。
104
エリナは
身
(
み
)
も
世
(
よ
)
もあられぬ
心地
(
ここち
)
し
乍
(
なが
)
ら、
105
こわごわ
手
(
て
)
を
仕
(
つか
)
へ、
106
エリナ
『これはこれはアナンの
大将
(
たいしやう
)
様
(
さま
)
、
107
能
(
よ
)
くこそ
御
(
ご
)
入来
(
じゆらい
)
下
(
くだ
)
さいました。
108
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
109
父
(
ちち
)
は
館
(
やかた
)
に
囚
(
とら
)
はれ、
110
跡
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
一人
(
ひとり
)
の
母
(
はは
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りの
大病
(
たいびやう
)
、
111
今
(
いま
)
私
(
わたし
)
が
引
(
ひ
)
つ
立
(
た
)
てられて
参
(
まゐ
)
りますれば、
112
あとに
誰
(
たれ
)
が
母
(
はは
)
の
世話
(
せわ
)
を
致
(
いた
)
す
者
(
もの
)
が
御座
(
ござ
)
いませう。
113
是非
(
ぜひ
)
行
(
ゆ
)
かねばならぬ
者
(
もの
)
なれば
潔
(
いさぎよ
)
く
参
(
まゐ
)
りますが、
114
どうぞ
此
(
この
)
母
(
はは
)
の
病気
(
びやうき
)
が
直
(
なほ
)
りますまで、
115
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
116
アナンは
烈
(
はげ
)
しく
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
117
アナン
『あゝイヤイヤ、
118
其
(
その
)
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
りは
罷
(
まか
)
り
成
(
な
)
らぬ。
119
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
汝
(
なんぢ
)
を
召捕
(
めしとり
)
来
(
きた
)
れよとの
厳命
(
げんめい
)
、
120
到底
(
たうてい
)
吾々
(
われわれ
)
の
独断
(
どくだん
)
にて
其
(
その
)
方
(
はう
)
に
猶予
(
いうよ
)
を
与
(
あた
)
へる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
121
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
引捉
(
ひつとら
)
へて
帰
(
かへ
)
らねば、
122
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
役目
(
やくめ
)
が
済
(
す
)
まぬ。
123
そうして
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
何時
(
いつ
)
此処
(
ここ
)
を
立
(
た
)
つたか?』
124
エリナ
『
只今
(
ただいま
)
御
(
お
)
立
(
た
)
ちになりました』
125
アナン
『さうだらう。
126
最前
(
さいぜん
)
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つて
行
(
い
)
きよつたのが、
127
神力
(
しんりき
)
無双
(
むそう
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
だらう。
128
彼奴
(
あいつ
)
が
居
(
ゐ
)
やがると、
129
チツと
此方
(
こつち
)
も
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
くないのだ。
130
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
から、
131
此
(
この
)
家
(
いへ
)
を
遠巻
(
とほまき
)
に
巻
(
ま
)
いてゐたのだ。
132
サアもう
斯
(
か
)
うなる
上
(
うへ
)
は、
133
泣
(
な
)
いても
悔
(
くや
)
むでもおつつかぬ。
134
キリキリと
手
(
て
)
をまはさぬか』
135
エリナは
自棄
(
やけ
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
136
容
(
かたち
)
を
改
(
あらた
)
め、
137
悪胴
(
わるどう
)
を
据
(
す
)
ゑ、
138
エリナ
『コレ、
139
アナンさま! お
前
(
まへ
)
さまも
余程
(
よほど
)
良
(
よ
)
い
腰抜
(
こしぬけ
)
だなア。
140
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
では
脆
(
もろ
)
くも
一人
(
ひとり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
追
(
お
)
ひまくられ、
141
又
(
また
)
たつた
一人
(
ひとり
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
が
恐
(
おそ
)
ろしうて、
142
二晩
(
ふたばん
)
も
三晩
(
みばん
)
も、
143
此
(
この
)
暑
(
あつ
)
い、
144
蚊
(
か
)
の
喰
(
く
)
うのに、
145
頼
(
たの
)
みもせぬ
私
(
わたし
)
の
家
(
うち
)
の
夜警
(
やけい
)
をして
下
(
くだ
)
され、
146
渋茶
(
しぶちや
)
の
一杯
(
いつぱい
)
も
進
(
しん
)
ぜるのが
道
(
みち
)
かは
知
(
し
)
りませぬが、
147
餓鬼
(
がき
)
にやる
茶
(
ちや
)
があつても、
148
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
に
呑
(
の
)
ます
茶
(
ちや
)
はありませぬワ。
149
そこに
谷川
(
たにがは
)
の
水
(
みづ
)
が
流
(
なが
)
れてゐるから、
150
それなつと
呑
(
の
)
むで、
151
モウ
一
(
ひと
)
きり
御
(
ご
)
講演
(
かうえん
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
152
ラツパ
節
(
ぶし
)
でも
法螺貝
(
ほらがい
)
節
(
ぶし
)
でも
構
(
かま
)
ひませぬワ。
153
お
母
(
か
)
アさまの
冥途
(
めいど
)
の
土産
(
みやげ
)
に、
154
一
(
ひと
)
つ
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
吹
(
ふ
)
き
立
(
たて
)
て
下
(
くだ
)
さい』
155
アナンはクワツと
怒
(
いか
)
り、
156
巨眼
(
きよがん
)
を
見開
(
みひら
)
き、
157
アナン
『コリヤ
女
(
をんな
)
!
譬
(
たと
)
へがたなき
汝
(
なんぢ
)
の
雑言
(
ざふごん
)
無礼
(
ぶれい
)
、
158
最早
(
もはや
)
聞捨
(
ききすて
)
はならぬぞ』
159
エリナ
『お
父
(
と
)
うさまはお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
悪人
(
あくにん
)
の
為
(
ため
)
に
囚
(
とら
)
へられ、
160
お
母
(
か
)
アさまは
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りの
重病
(
ぢうびやう
)
、
161
たつた
今
(
いま
)
の
先
(
さき
)
、
162
余程
(
よほど
)
快方
(
くわいはう
)
にお
向
(
むか
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばし、
163
ヤツと
安心
(
あんしん
)
する
間
(
ま
)
もなく、
164
お
前
(
まへ
)
がここへふみ
込
(
こ
)
んで
大声
(
おほごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
165
お
母
(
か
)
アさまを
最早
(
もはや
)
取返
(
とりかへ
)
しのならぬ
様
(
やう
)
な
重態
(
ぢうたい
)
におとして
了
(
しま
)
ひよつた
以上
(
いじやう
)
は、
166
お
母
(
か
)
アさまの
御
(
ご
)
寿命
(
じゆめう
)
も
今日
(
けふ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
が
保
(
たも
)
ちかねる。
167
さうならば
此
(
この
)
エリナは
最早
(
もはや
)
自棄
(
やけ
)
くそだ。
168
たかが
男
(
をとこ
)
の
五匹
(
ごひき
)
や
十匹
(
じつぴき
)
、
169
何
(
なに
)
が
恐
(
おそ
)
ろしい……
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
より
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
授
(
さづ
)
かり、
170
最早
(
もはや
)
立派
(
りつぱ
)
な
三五教
(
あななひけう
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
171
指
(
ゆび
)
一本
(
いつぽん
)
でも
触
(
さ
)
へるなら、
172
見事
(
みごと
)
触
(
さ
)
へて
見
(
み
)
よ』
173
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
て、
174
睨
(
にら
)
み
付
(
つ
)
けたる。
175
其
(
その
)
権幕
(
けんまく
)
に
流石
(
さすが
)
剛情
(
がうじやう
)
我慢
(
がまん
)
のアナンも
辟易
(
へきえき
)
し、
176
エリナの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめて
稍
(
やや
)
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
に
沈
(
しづ
)
みゐる。
177
母親
(
ははおや
)
は『キヤツ』と
一声
(
ひとこゑ
)
悲鳴
(
ひめい
)
をあげた
儘
(
まま
)
、
178
縡切
(
ことぎ
)
れにける。
179
エリナは
驚
(
おどろ
)
いて、
180
エリナ
『お
母
(
か
)
アさま!モ
一度
(
いちど
)
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さいませ……エリナで
御座
(
ござ
)
います』
181
と
死骸
(
しがい
)
に
取付
(
とりつ
)
き、
182
あたり
構
(
かま
)
はず
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
183
アナンは
今
(
いま
)
こそと、
184
手早
(
てばや
)
く
捕縄
(
とりなは
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
185
エリナの
首
(
くび
)
にひつかけようとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
186
俄
(
にはか
)
に
轟々
(
ぐわうぐわう
)
ガタガタと
凄
(
すさま
)
じき
物音
(
ものおと
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たりければ、
187
アナンを
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は
驚
(
おどろ
)
き
戸外
(
こぐわい
)
に
駆出
(
かけだ
)
す
刹那
(
せつな
)
強烈
(
きやうれつ
)
なる
大地震
(
おほぢしん
)
起
(
おこ
)
り、
188
アナンを
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は
生命
(
いのち
)
カラガラ、
189
転
(
こ
)
けつまろびつ、
190
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんのう
)
の
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
を
指
(
さ
)
して、
191
四這
(
よつばい
)
となり
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
192
地震
(
ぢしん
)
は
益々
(
ますます
)
烈
(
はげ
)
しさの
度
(
ど
)
を
加
(
くは
)
へ
来
(
き
)
たる。
193
エリナは
母親
(
ははおや
)
の
死体
(
したい
)
を
抱
(
かか
)
へて
外
(
そと
)
へ
飛出
(
とびだ
)
さうとする
途端
(
とたん
)
、
194
家
(
いへ
)
はメキメキメキと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て、
195
バサリと
打
(
う
)
ち
倒
(
たふ
)
れける。
196
エリナは
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
197
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
逃
(
のが
)
れたるが、
198
忽
(
たちま
)
ち
火
(
ひ
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
199
エリナの
家
(
いへ
)
は
火煙
(
くわえん
)
濛々
(
もうもう
)
として
立上
(
たちのぼ
)
り、
200
母親
(
ははおや
)
の
死体
(
したい
)
は
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
火葬
(
くわさう
)
に
附
(
ふ
)
せられ
了
(
おは
)
りぬ。
201
上下動
(
じやうげどう
)
の
激震
(
げきしん
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
烈
(
はげ
)
しく、
202
エリナは
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
株
(
かぶ
)
にシカと
抱付
(
だきつ
)
き、
203
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ、
204
地震
(
ぢしん
)
の
歇
(
や
)
むのを
待
(
ま
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
205
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に『
国治立
(
くにはるたちの
)
大神
(
おほかみ
)
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へ
幸
(
さち
)
はひ
玉
(
たま
)
へ……』と
祈念
(
きねん
)
をこらしける。
206
……
漸
(
やうや
)
くにして
地震
(
ぢしん
)
は
止
(
と
)
まり、
207
エリナはホツと
一息
(
ひといき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
208
ここに
居
(
を
)
つては
又
(
また
)
何時
(
いつ
)
捕手
(
とりて
)
の
襲
(
おそ
)
ひ
来
(
く
)
るやも
計
(
はか
)
られずと、
209
俄
(
にはか
)
に
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
恋
(
こひ
)
しくなり、
210
ヒルの
都
(
みやこ
)
を
指
(
さ
)
して
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
211
ヒルの
都
(
みやこ
)
を
遠
(
とほ
)
く
見下
(
みお
)
ろせば、
212
大激震
(
だいげきしん
)
の
為
(
ため
)
火災
(
くわさい
)
起
(
おこ
)
り、
213
火
(
ひ
)
は
天
(
てん
)
に
冲
(
ちう
)
し、
214
空
(
そら
)
の
雲
(
くも
)
迄
(
まで
)
真赤
(
まつか
)
に
染
(
そ
)
まり、
215
所謂
(
いはゆる
)
雲焼
(
くもやけ
)
志
(
し
)
居
(
ゐ
)
たりける。
216
(
大正一一・八・一八
旧六・二六
松村真澄
録)
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