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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
01 主一無適
〔867〕
02 大地震
〔868〕
03 救世神
〔869〕
04 不知恋
〔870〕
05 秋鹿の叫
〔871〕
06 女弟子
〔872〕
第2篇 紅裙隊
07 妻の選挙
〔873〕
08 人獣
〔874〕
09 誤神託
〔875〕
10 噂の影
〔876〕
11 売言買辞
〔877〕
12 冷い親切
〔878〕
13 姉妹教
〔879〕
第3篇 千里万行
14 樹下の宿
〔880〕
15 丸木橋
〔881〕
16 天狂坊
〔882〕
17 新しき女
〔883〕
18 シーズンの流
〔884〕
19 怪原野
〔885〕
20 脱皮婆
〔886〕
21 白毫の光
〔887〕
第4篇 言霊将軍
22 神の試
〔888〕
23 化老爺
〔889〕
24 魔違
〔890〕
25 会合
〔891〕
余白歌
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> 第3篇 千里万行 > 第16章 天狂坊
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第一六章
天狂坊
(
てんきやうばう
)
〔八八二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第3篇 千里万行
よみ(新仮名遣い):
せんりばんこう
章:
第16章 天狂坊
よみ(新仮名遣い):
てんきょうぼう
通し章番号:
882
口述日:
1922(大正11)年08月19日(旧06月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
木の下で休息していた秋山別とモリスが木に登って来ようとしたので、国依別はにわかに天狗の声を出して驚かした。
国依別は二人に、紅井姫とエリナは日暮シ山の岩窟に居ると真実を告げるが、以前にやはり天狗の声色でだまされた二人は容易に信用しなかった。
そこへ、紅井姫とエリナがやってきて、秋山別とモリスの手を取ると、恋人気取りで行ってしまった。
安彦と宗彦は、日暮シ山に居るはずの紅井姫とエリナが突然ここにやってきたことを不審がるが、国依別は、あれは白狐の旭明神・月日明神が自分たちを助けてくれたのだ、と教えた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-10 18:39:33
OBC :
rm3116
愛善世界社版:
188頁
八幡書店版:
第6輯 112頁
修補版:
校定版:
193頁
普及版:
89頁
初版:
ページ備考:
001
国依別
(
くによりわけ
)
一行
(
いつかう
)
は
山桃
(
やまもも
)
の
木
(
き
)
の
頂点
(
ちやうてん
)
に
三
(
み
)
つ
巴
(
どもへ
)
となつて
息
(
いき
)
をころし、
002
早
(
はや
)
く
樹下
(
じゆか
)
の
二人
(
ふたり
)
の
此処
(
ここ
)
を
立去
(
たちさ
)
れかしと、
003
心中
(
しんちう
)
私
(
ひそ
)
かに
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
004
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
樹上
(
じゆじやう
)
に
隠
(
かく
)
れてゐるとは、
005
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
知
(
し
)
る
由
(
よし
)
もなく
秋
(
あき
)
、
006
モリ
二人
(
ふたり
)
は、
007
木
(
き
)
の
根株
(
ねかぶ
)
に
腰
(
こし
)
を
打
(
うち
)
かけ、
008
秋山別
『オイ、
009
モリス、
010
何
(
なん
)
と
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
があればあるものぢやないか。
011
現
(
げん
)
に
丸木橋
(
まるきばし
)
を
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つたり、
012
話
(
はなし
)
合
(
あ
)
つて
通
(
とほ
)
つたのも
確実
(
かくじつ
)
だ。
013
又
(
また
)
欅
(
けやき
)
の
木
(
き
)
に
書
(
かき
)
おきがしてあつたのも、
014
又
(
また
)
夢
(
ゆめ
)
でもなければ、
015
幻
(
まぼろし
)
でもない。
016
さうすれば
何
(
ど
)
うしても
此
(
この
)
道
(
みち
)
を
来
(
こ
)
なくてはならぬ
筈
(
はず
)
だ。
017
何程
(
なにほど
)
足
(
あし
)
が
早
(
はや
)
いと
云
(
い
)
つても、
018
女
(
をんな
)
の
足
(
あし
)
でさう
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
ける
道理
(
だうり
)
もなし、
019
大方
(
おほかた
)
天狗
(
てんぐ
)
にでも
抓
(
つま
)
まれたのではなからうかな』
020
モリス
『ナアニ
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
021
そンな
気遣
(
きづか
)
ひがあるものかい。
022
キツと
此処
(
ここ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るに
違
(
ちが
)
ひないワ。
023
それにしても、
024
小気味
(
こきみ
)
のよい
事
(
こと
)
ぢやないか。
025
国依別
(
くによりわけ
)
が
後
(
あと
)
追
(
お
)
つかけて
来
(
く
)
るとうるさいから、
026
秋
(
あき
)
さま、
027
モリさま、
028
あの
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
落
(
おと
)
して
下
(
くだ
)
さい……なんて、
029
小
(
こ
)
ましやくれた
事
(
こと
)
を
書
(
か
)
いてあつたぢやないか。
030
俺
(
おれ
)
やモウあの
一言
(
ひとこと
)
でサツパリ
得心
(
とくしん
)
して
了
(
しま
)
つたよ。
031
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大分
(
だいぶん
)
に
諦
(
あきら
)
めかけて
居
(
を
)
つた
俺
(
おれ
)
の
恋
(
こひ
)
は、
032
再燃
(
さいねん
)
して
炎々
(
えんえん
)
天
(
てん
)
を
焦
(
こが
)
し、
033
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
、
034
疾風
(
しつぷう
)
迅雷
(
じんらい
)
目
(
め
)
を
蔽
(
おほ
)
はれ、
035
耳
(
みみ
)
を
聾
(
ろふ
)
せられ、
036
精神
(
せいしん
)
恍惚
(
くわうこつ
)
として、
037
魔風
(
まかぜ
)
恋風
(
こひかぜ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
了
(
しま
)
つたようだ。
038
それにしてもあの
橋
(
はし
)
位
(
くらゐ
)
落
(
おと
)
した
所
(
ところ
)
で、
039
国依別
(
くによりわけ
)
の
奴
(
やつ
)
、
040
二人
(
ふたり
)
の
後
(
あと
)
を
嗅
(
か
)
ぎつけてやつて
来
(
く
)
るに
相違
(
さうゐ
)
ないワ。
041
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
042
国依別
(
くによりわけ
)
が
茲
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
るのを
待
(
ま
)
ち
受
(
う
)
けて
脅
(
おど
)
かしてボツ
返
(
かへ
)
してやらうか。
043
それに
付
(
つ
)
いては
幸
(
さいは
)
ひ、
044
此
(
この
)
山桃
(
やまもも
)
の
木
(
き
)
だ。
045
此
(
この
)
上
(
うへ
)
へあがつて
天狗
(
てんぐ
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
046
呶鳴
(
どな
)
りつけてやつたら、
047
流石
(
さすが
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
も
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
048
引返
(
ひつかへ
)
すに
違
(
ちがひ
)
ない。
049
なンと
妙案
(
めうあん
)
だらう。
050
サアやがて
来
(
く
)
る
時分
(
じぶん
)
だ。
051
登
(
のぼ
)
らう
登
(
のぼ
)
らう』
052
と
木
(
き
)
の
幹
(
みき
)
に
手
(
て
)
をかけ、
053
一間
(
いつけん
)
計
(
ばか
)
り
登
(
のぼ
)
りかけた。
054
国依別
(
くによりわけ
)
はコリヤ
面白
(
おもしろ
)
くない。
055
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
一
(
ひと
)
つ
天狗
(
てんぐ
)
になつてやらうと、
056
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
決心
(
けつしん
)
し、
057
破
(
わ
)
れ
鐘
(
がね
)
のやうな
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げて、
058
国依別
『ウー』
059
と
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
し、
060
国依別
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
はブラジル
山
(
やま
)
の
大天狗
(
だいてんぐ
)
、
061
天狂坊
(
てんきやうばう
)
であるぞよ。
062
数万
(
すうまん
)
年来
(
ねんらい
)
山桃
(
やまもも
)
の
木
(
き
)
を
住家
(
すみか
)
と
致
(
いた
)
し
居
(
ゐ
)
るにも
拘
(
かか
)
はらず、
063
汚
(
けが
)
れ
果
(
は
)
てたる
人間
(
にんげん
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
064
此
(
この
)
木
(
き
)
に
登
(
のぼ
)
れるなれば、
065
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
よ。
066
股
(
また
)
から
引裂
(
ひきさ
)
いて
了
(
しま
)
うぞよ。
067
ウー』
068
二人
(
ふたり
)
は
俄
(
にはか
)
に
顔
(
かほ
)
を
真青
(
まつさを
)
にし、
069
秋山別
『ヤア
此
(
この
)
天狗
(
てんぐ
)
は
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
の
天狗
(
てんぐ
)
とは
余程
(
よほど
)
実
(
み
)
のある
奴
(
やつ
)
だ。
070
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
るとどンな
目
(
め
)
に
合
(
あ
)
ふか
知
(
し
)
れぬぞ。
071
オイ、
072
モリ
公
(
こう
)
、
073
お
詫
(
わび
)
をせうぢやないか』
074
モリスは
慄
(
ふる
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
075
モリス
『モシモシ
天狗
(
てんぐ
)
様
(
さま
)
、
076
秋公
(
あきこう
)
が
登
(
のぼ
)
らうと
云
(
い
)
つたので
御座
(
ござ
)
います。
077
私
(
わたくし
)
は
決
(
けつ
)
してそンな
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
078
どうぞ
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
079
国依別
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
国依別
(
くによりわけ
)
が、
080
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
渡
(
わた
)
る
隙
(
すき
)
を
考
(
かんが
)
へ、
081
橋
(
はし
)
を
落
(
おと
)
さうと
致
(
いた
)
した
大悪人
(
だいあくにん
)
、
082
容赦
(
ようしや
)
はならぬぞ』
083
秋山別
『ハイハイ、
084
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しましたが、
085
これもヤツパリ
秋公
(
あきこう
)
の
恋
(
こひ
)
の
懸橋
(
かけはし
)
をおとした
国依別
(
くによりわけ
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
086
仕方
(
しかた
)
がなしに
落
(
おと
)
さうと
致
(
いた
)
しました。
087
併
(
しか
)
しそれが
為
(
ため
)
国依別
(
くによりわけ
)
が
怪我
(
けが
)
をしたのでも、
088
死
(
し
)
ンだのでもありませぬ。
089
どうぞ
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
して
下
(
くだ
)
さりますよう
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
090
国依別
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか』
091
秋山別
『ハイ、
092
確
(
たしか
)
にあの
丸木橋
(
まるきばし
)
を
渡
(
わた
)
り、
093
こちらへ
来
(
き
)
た
筈
(
はず
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
094
どこに
沈没
(
ちんぼつ
)
致
(
いた
)
しましたか、
095
未
(
いま
)
だに
行方
(
ゆくへ
)
不明
(
ふめい
)
にて
捜索
(
そうさく
)
の
最中
(
さいちう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
096
どうぞ
御
(
お
)
慈悲
(
じひ
)
を
以
(
もつ
)
て
彼
(
かれ
)
が
所在
(
ありか
)
を
御
(
お
)
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいますれば、
097
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
有難
(
ありがた
)
き
仕合
(
しあは
)
せと
存
(
ぞん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
ります』
098
国依別
『
汝
(
なんぢ
)
が
尋
(
たづ
)
ぬる
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
と
申
(
まを
)
すのは、
099
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
、
100
エリナの
事
(
こと
)
であらう』
101
秋山別
『ハイ
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
102
其
(
その
)
女
(
をんな
)
で
御座
(
ござ
)
います。
103
今
(
いま
)
はどの
辺
(
へん
)
に
居
(
を
)
りますか、
104
どうぞ
附
(
つ
)
け
上
(
あが
)
りました
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
105
一寸
(
ちよつと
)
お
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいますれば
大変
(
たいへん
)
に
都合
(
つがふ
)
が
宜
(
よ
)
ろしう
御座
(
ござ
)
ります』
106
国依別
『
其
(
その
)
女
(
をんな
)
は
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
山麓
(
さんろく
)
、
107
ウラル
教
(
けう
)
の
館
(
やかた
)
に、
108
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
機嫌
(
きげん
)
よく
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
るぞよ。
109
何
(
なに
)
を
踏迷
(
ふみまよ
)
うて
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのか。
110
大盲
(
おほめくら
)
奴
(
め
)
』
111
モリス
『オイ、
112
ヤツパリ
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ。
113
今
(
いま
)
天狗
(
てんぐ
)
さまが、
114
あゝ
仰有
(
おつしや
)
ると、
115
俺
(
おれ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
そンな
心持
(
こころもち
)
がして
来
(
き
)
だしたよ』
116
秋
(
あき
)
、
117
小声
(
こごゑ
)
で、
118
秋山別
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない、
119
あの
通
(
とほ
)
り
立派
(
りつぱ
)
に
女
(
をんな
)
の
手
(
て
)
で
書残
(
かきのこ
)
しもしてあるなり、
120
現
(
げん
)
に
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いたぢやないか。
121
此
(
この
)
天狗
(
てんぐ
)
さま、
122
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふか
分
(
わか
)
りやしないぞ。
123
野天狗
(
のてんぐ
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
嘘
(
うそ
)
計
(
ばか
)
りいふものだから、
124
ウツカリ
信用
(
しんよう
)
は
出来
(
でき
)
ないぞ』
125
国依別
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
をまだ
疑
(
うたが
)
うて
居
(
ゐ
)
るか。
126
それ
程
(
ほど
)
疑
(
うたが
)
ふのなら、
127
許
(
ゆる
)
してやるから、
128
トツトと
此
(
この
)
木
(
き
)
の
上
(
うへ
)
へあがつて
来
(
こ
)
い、
129
天狗
(
てんぐ
)
の
正体
(
しやうたい
)
をあらはし、
130
アフンとさしてやらうぞ』
131
秋山別
『メヽヽ
滅相
(
めつさう
)
な、
132
決
(
けつ
)
してウヽヽ
疑
(
うたがひ
)
は
致
(
いた
)
しませぬ。
133
天狗
(
てんぐ
)
さまに
間違
(
まちがひ
)
厶
(
ござ
)
いませぬ』
134
国依別
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
が
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
に
於
(
おい
)
て
出会
(
であ
)
うた
天狗
(
てんぐ
)
とは
種類
(
しゆるゐ
)
が
違
(
ちが
)
うぞよ。
135
天狗
(
てんぐ
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
働
(
はたら
)
きを
致
(
いた
)
すものだ。
136
又
(
また
)
其
(
その
)
国々
(
くにぐに
)
の、
137
国
(
くに
)
魂
(
たま
)
に
依
(
より
)
て
別
(
わけ
)
られてあるから、
138
チツとは
調子
(
てうし
)
も
違
(
ちが
)
うぞよ。
139
余
(
あま
)
り
口答
(
くちごた
)
へを
致
(
いた
)
すと、
140
一
(
ひと
)
つ
目
(
め
)
の
剥
(
む
)
ける
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はしてやらうか。
141
キジ
キジも
鳴
(
な
)
かねば
安彦
(
やすひこ
)
とうたれはせうまいぞ。
142
マチ
マチに
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
心
(
こころ
)
がなつて、
143
統一
(
とういつ
)
致
(
いた
)
さず
宗
(
むね
)
が
彦々
(
ひこひこ
)
、
144
宗彦
(
むねひこ
)
と
動
(
うご
)
いて
居
(
ゐ
)
るから、
145
チツと
気
(
き
)
を
落
(
おち
)
つけて
考
(
かんが
)
へたがよからう。
146
此
(
この
)
山桃
(
やまもも
)
の
モリス
に
立寄
(
たちよ
)
り、
147
口
(
くち
)
を
秋
(
あき
)
、
148
山
(
やま
)
をアフンと
致
(
いた
)
して
眺
(
なが
)
め、
149
別
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
面付
(
かほつき
)
で、
150
何程
(
なにほど
)
女
(
をんな
)
の
後
(
あと
)
を
捜
(
さが
)
したとて、
151
分
(
わか
)
りさうな
事
(
こと
)
はないぞよ。
152
サア
早
(
はや
)
く
迷
(
まよ
)
ひの
夢
(
ゆめ
)
を
醒
(
さ
)
まし、
153
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
くヒルの
国
(
くに
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
154
楓別
(
かえでわけの
)
命
(
みこと
)
にお
詫
(
わび
)
を
致
(
いた
)
して、
155
帰参
(
きさん
)
を
許
(
ゆる
)
して
貰
(
もら
)
ひ、
156
神妙
(
しんめう
)
に
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
を
致
(
いた
)
すがよからうぞ。
157
ウー』
158
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
見目
(
みめ
)
形
(
かたち
)
美
(
うる
)
はしき
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
、
159
スタスタと
谷
(
たに
)
を
伝
(
つた
)
ひ
来
(
きた
)
り、
160
森蔭
(
もりかげ
)
に
立寄
(
たちよ
)
り、
161
女・甲(紅井姫)
『
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へばお
前
(
まへ
)
さまは、
162
秋山別
(
あきやまわけ
)
さまであつたか。
163
あゝどれ
丈
(
だけ
)
捜
(
さが
)
した
事
(
こと
)
だか
分
(
わか
)
りやしないワ。
164
マアよう
無事
(
ぶじ
)
で
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
165
お
懐
(
なつ
)
かしう
存
(
ぞん
)
じます。
166
妾
(
わらは
)
はヒルの
館
(
やかた
)
で
別
(
わか
)
れてより、
167
今頃
(
いまごろ
)
はどうして
御座
(
ござ
)
るかと、
168
寝
(
ね
)
ても
醒
(
さ
)
めても
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
169
私
(
わたくし
)
は
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま、
170
あなたの
御
(
お
)
嫌
(
きら
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす
可憐
(
かれん
)
の
女
(
をんな
)
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
です。
171
アンアンアン』
172
と
目
(
め
)
に
袖
(
そで
)
をあて、
173
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
して
見
(
み
)
せる。
174
女・乙(エリナ)
『
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へばモリスさま、
175
私
(
わたくし
)
はエリナで
御座
(
ござ
)
ります。
176
一度
(
いちど
)
会
(
あ
)
うた
其
(
その
)
日
(
ひ
)
から、
177
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わたし
)
は
生別
(
いきわか
)
れ、
178
何
(
なん
)
の
便
(
たよ
)
りも
内証
(
ないしよう
)
の、
179
話
(
はなし
)
せうにも
言
(
こと
)
づけせうにも、
180
人目
(
ひとめ
)
の
関
(
せき
)
に
隔
(
へだ
)
てられ、
181
会
(
あ
)
ひたい
見
(
み
)
たいと
明
(
あけ
)
くれに、
182
こがれ
慕
(
した
)
つて
居
(
を
)
りました。
183
お
前
(
まへ
)
に
会
(
あ
)
うてさまざまの、
184
恨
(
うら
)
みも
言
(
い
)
はう、
185
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
も
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
はうと、
186
思
(
おも
)
ひつめては、
187
又
(
また
)
もや
起
(
おこ
)
る
持病
(
ぢびやう
)
の
癪
(
しやく
)
、
188
アイタタアイタタ
会
(
あ
)
ひたかつたわいなア。
189
モリスさま、
190
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わたし
)
と
暮
(
くら
)
すなら、
191
仮令
(
たとへ
)
アマゾン
河
(
がは
)
の
畔
(
ほとり
)
でも、
192
ブラジル
山
(
やま
)
の
谷
(
たに
)
あひでも、
193
厭
(
いと
)
ひはせぬ、
194
どうぞ
私
(
わたし
)
を
憐
(
あは
)
れの
女
(
をんな
)
と、
195
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さりませ。
196
コレのうモシ、
197
モリスさま』
198
モリス
『ヤアよう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
199
モリスとても
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
に
変
(
かは
)
りのあるべきぞ。
200
雨
(
あめ
)
のあした、
201
風
(
かぜ
)
の
夕
(
ゆふ
)
べ、
202
そなたは
何処
(
いづこ
)
の
果
(
は
)
てにさまよふかと、
203
思
(
おも
)
ひつめたるモリスの
厚
(
あつ
)
き
心
(
こころ
)
、
204
必
(
かなら
)
ず
恨
(
うら
)
ンでばし、
205
下
(
くだ
)
さるなや』
206
と
芝居
(
しばゐ
)
気取
(
きど
)
りになつて、
207
やつてゐる。
208
秋山別
(
あきやまわけ
)
も
負
(
まけ
)
ず
劣
(
おと
)
らず、
209
秋山別
『これはしたり
御
(
お
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
210
チトお
慎
(
つつし
)
みなされませ。
211
不義
(
ふぎ
)
は
御
(
お
)
家
(
いへ
)
の
御
(
ご
)
法度
(
はつと
)
、
212
何程
(
なにほど
)
惚
(
ほ
)
れた
男
(
をとこ
)
ぢやとて、
213
はるばるブラジル
山
(
やま
)
の
谷底
(
たにそこ
)
まで、
214
尋
(
たづ
)
ね
来
(
く
)
るとは、
215
チと
無分別
(
むふんべつ
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか。
216
某
(
それがし
)
とても
木石
(
ぼくせき
)
ならぬ
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
ゆる
男
(
をとこ
)
の
身
(
み
)
、
217
無下
(
むげ
)
に
返
(
かへ
)
したくはなけね
共
(
ども
)
、
218
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
を
思
(
おも
)
へばこそ、
219
情
(
つれ
)
ない
事
(
こと
)
を……
申
(
まを
)
しませぬ。
220
ホンに
可愛
(
かあい
)
い
姫
(
ひめ
)
ごぜの、
221
はるばる
茲
(
ここ
)
に
尋
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
て、
222
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
附
(
つ
)
け
狙
(
ねら
)
ひ、
223
来
(
く
)
る
心根
(
こころね
)
がいとしいわいのオンオンオンオン、
224
コレを
思
(
おも
)
へば
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
に、
225
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
の
罪
(
つみ
)
せしか、
226
千
(
せん
)
里
(
り
)
万里
(
ばんり
)
の
山坂
(
やまさか
)
越
(
こ
)
え、
227
一丈
(
いちぢやう
)
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
の
褌
(
まはし
)
を
締
(
し
)
めた、
228
此
(
この
)
荒男
(
あらをとこ
)
の
身
(
み
)
も
恥
(
はぢ
)
ず、
229
姫
(
ひめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
尋
(
たづ
)
ねむと、
230
さまよひ
巡
(
めぐ
)
りて
今
(
いま
)
茲
(
ここ
)
に、
231
お
前
(
まへ
)
に
会
(
あ
)
うた
嬉
(
うれ
)
しさは、
232
コレが
忘
(
わす
)
れてなるものか、
233
金勝要
(
きんかつかねの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
情
(
なさけ
)
深
(
ぶか
)
い
縁結
(
えんむす
)
び、
234
あゝ
有難
(
ありがた
)
や
勿体
(
もつたい
)
なやと、
235
大地
(
だいち
)
にカツパとひれ
伏
(
ふ
)
し
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
し、
236
男
(
をとこ
)
泣
(
な
)
きにぞ
泣
(
な
)
きゐたる』
237
紅井姫
『ホヽヽヽヽ』
238
エリナ
『ヒヽヽヽヽ』
239
モリス
『コレコレエリナ
殿
(
どの
)
、
240
ヒヽヽとは
何事
(
なにごと
)
で
御座
(
ござ
)
るか、
241
モツと
品
(
ひん
)
よくお
笑
(
わら
)
ひなさらぬか、
242
見
(
み
)
つともなう
御座
(
ござ
)
るぞや』
243
エリナ
『ホヽヽヽヽ
呆
(
はう
)
けしやますなや』
244
モリス
『
呆
(
はう
)
けたればこそ、
245
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
の
後
(
あと
)
逐
(
お
)
うて
恥
(
はぢ
)
も
外聞
(
ぐわいぶん
)
も
打忘
(
うちわす
)
れ、
246
茲
(
ここ
)
まで
苦労
(
くらう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
るのでないか、
247
コレ、
248
エリナ
姫
(
ひめ
)
、
249
野暮
(
やぼ
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
やるなや』
250
国依別
(
くによりわけ
)
は
樹上
(
じゆじやう
)
にて、
251
こばり
切
(
き
)
れず、
252
思
(
おも
)
はず、
253
口
(
くち
)
の
紐
(
ひも
)
を
千切
(
ちぎ
)
つて、
254
国依別
『ワツハヽヽヽ』
255
と
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
せば、
256
安彦
(
やすひこ
)
、
257
宗彦
(
むねひこ
)
も
同
(
おな
)
じく、
258
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
す。
259
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
260
秋山別
『ヘン
野天狗
(
のてんぐ
)
さま、
261
是
(
これ
)
でも
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
居
(
を
)
りますかい、
262
済
(
す
)
みませぬなア。
263
色男
(
いろをとこ
)
と
云
(
い
)
ふものはマア、
264
ザツとこンな
者
(
もの
)
ですワイ。
265
お
前
(
まへ
)
さまもチツとやけるでせう。
266
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
天狗
(
てんぐ
)
と
云
(
い
)
へば
偉
(
えら
)
いようだが、
267
ヤツパリ
畜生
(
ちくしやう
)
の
中
(
うち
)
だ。
268
早
(
はや
)
く
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
の
修業
(
しうげふ
)
を
了
(
を
)
へて、
269
人間
(
にんげん
)
に
生
(
うま
)
れて
来
(
き
)
さんせ。
270
こんなローマンスを
実地
(
じつち
)
にやらうとママだよ。
271
なア、
272
モリス、
273
何
(
な
)
んぼ
天狗
(
てんぐ
)
は
女
(
をんな
)
は
嫌
(
きら
)
ひだと
申
(
まを
)
しても、
274
閻魔
(
えんま
)
さまでも
女
(
をんな
)
の
白
(
しろ
)
い
手
(
て
)
で
肩
(
かた
)
をもンで
貰
(
もら
)
うて
嬉
(
うれ
)
しさうにして
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
275
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
の
始
(
はじ
)
めより、
276
女
(
をんな
)
ならでは
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けぬ
国
(
くに
)
だ。
277
エツヘヽヽヽ、
278
ちツと
野天狗
(
のてんぐ
)
さま、
279
けなりい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬか。
280
お
前
(
まへ
)
さまの
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
でこンなお
安
(
やす
)
うない
所
(
ところ
)
をお
目
(
め
)
にブラ
下
(
さ
)
げて、
281
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ですが、
282
これも
因縁
(
いんねん
)
づくぢやと
諦
(
あきら
)
めさンせ。
283
サア
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
ここへおぢや』
284
モリス
『エリナ
殿
(
どの
)
サアお
出
(
い
)
でなさいませ。
285
モリスが
案内
(
あんない
)
仕
(
つかまつ
)
りませう』
286
『アイ』『アイ』
287
と
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
288
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれ、
289
ドシドシと
東南
(
とうなん
)
を
指
(
さ
)
して
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
290
国依別
『サア、
291
もう
好加減
(
いいかげん
)
におりようぢやないか、
292
随分
(
ずいぶん
)
迷惑
(
めいわく
)
したねー。
293
今夜
(
こんや
)
木
(
き
)
の
下
(
した
)
で
寝
(
ね
)
でも
仕
(
し
)
よつた
位
(
くらゐ
)
なら、
294
下
(
を
)
りるにも
下
(
を
)
りられず、
295
大変
(
たいへん
)
に
困
(
こま
)
る
所
(
ところ
)
だつた。
296
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
手伝
(
てつだ
)
ひが
現
(
あら
)
はれて、
297
先
(
ま
)
づ
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
安心
(
あんしん
)
だ』
298
安彦
『どうして
又
(
また
)
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
さまやエリナさまが、
299
こンな
所迄
(
ところまで
)
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
て、
300
あれ
丈
(
だけ
)
あなたにホの
字
(
じ
)
とレの
字
(
じ
)
だつたのに、
301
俄
(
にはか
)
に
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
遊
(
あそ
)
ばしたと
見
(
み
)
え、
302
あンな
男
(
をとこ
)
と
意茶
(
いちや
)
ついて、
303
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて
行
(
ゆ
)
くなンて、
304
合点
(
がつてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬぢやありませぬか。
305
それだから
女
(
をんな
)
は
化者
(
ばけもの
)
だ、
306
油断
(
ゆだん
)
がならぬと
人
(
ひと
)
が
云
(
い
)
ふのですな』
307
国依別
『
本当
(
ほんたう
)
に
化者
(
ばけもの
)
だよ。
308
うつかり
鼻
(
はな
)
の
下
(
した
)
を
長
(
なが
)
うして
涎
(
よだれ
)
をくつてると、
309
眉毛
(
まゆげ
)
をよまれ、
310
尻
(
しり
)
の
毛
(
け
)
迄
(
まで
)
ぬかれてアフンとするのは、
311
ウスノロ
男
(
をとこ
)
の
常習
(
じやうしふ
)
だよ』
312
宗彦
『
何
(
なん
)
とマア
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
るものですなア。
313
この
宗彦
(
むねひこ
)
も
今度
(
こんど
)
計
(
ばか
)
りは
呆
(
あき
)
れて
了
(
しま
)
ひましたよ。
314
モウ
女
(
をんな
)
はゾツとしました。
315
女
(
をんな
)
が
是
(
これ
)
からは
何程
(
なにほど
)
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたとて、
316
うつかり
乗
(
の
)
れませぬ
哩
(
わい
)
』
317
安彦
『そンな
心配
(
しんぱい
)
すない。
318
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
に
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つてくれる
女
(
をんな
)
があるものかい。
319
俺
(
おれ
)
だつて、
320
仮令
(
たとへ
)
うそでも
良
(
よ
)
いから、
321
一口
(
ひとくち
)
位
(
くらゐ
)
惚
(
ほ
)
れたやうな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひたいと
思
(
おも
)
うのだが、
322
なかなか
言
(
い
)
つてくれぬなア。
323
まだ
彼奴
(
あいつ
)
ア、
324
瞞
(
だま
)
されてゐるか
何
(
ど
)
うか
知
(
し
)
らぬけれど、
325
俺
(
おれ
)
から
見
(
み
)
ると
余程
(
よつぽど
)
女
(
をんな
)
にもてると
見
(
み
)
えるワイ。
326
エヽ
怪体
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
327
本当
(
ほんたう
)
にのろけを
聞
(
き
)
かしよつて、
328
彼奴
(
あいつ
)
の
往
(
い
)
つた
後
(
あと
)
を
通
(
とほ
)
るのも
厭
(
いや
)
になつて
了
(
しま
)
つたワイ』
329
国依別
『アハヽヽヽ
矢張
(
やつぱり
)
悋
(
や
)
けると
見
(
み
)
えるなア。
330
勝手
(
かつて
)
に
男
(
をとこ
)
と
女
(
をんな
)
とが
勝手
(
かつて
)
な
事
(
こと
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
331
別
(
べつ
)
に
法界
(
はうかい
)
悋気
(
りんき
)
をする
必要
(
ひつえう
)
もないぢやないか。
332
そンな
事
(
こと
)
ではまだ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
をつとめる
所
(
ところ
)
へは
往
(
ゆ
)
かないぞ』
333
安彦
『おかみさまの
御用
(
ごよう
)
なつとさして
頂
(
いただ
)
けば
結構
(
けつこう
)
だが、
334
私
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
は
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
ですワイ。
335
女
(
をんな
)
に
嫌
(
きら
)
はれるやうな
事
(
こと
)
で、
336
何
(
ど
)
うして
神
(
かみ
)
さまに
好
(
す
)
かれる
道理
(
だうり
)
が
御座
(
ござ
)
いませう』
337
国依別
『アハヽヽヽ、
338
ありや
女
(
をんな
)
ぢやない
化者
(
ばけもの
)
だよ』
339
安彦
『
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
子
(
こ
)
はなす
共
(
とも
)
、
340
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
許
(
ゆる
)
すなとか
云
(
い
)
ひますなア。
341
本当
(
ほんたう
)
に
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
一寸
(
ちよつと
)
髪
(
かみ
)
を
結
(
ゆ
)
ひ、
342
白粉
(
おしろい
)
をつけ、
343
口紅
(
くちべに
)
でもすると、
344
鬼
(
おに
)
の
様
(
やう
)
な
洒面
(
しやつら
)
が
俄
(
にはか
)
に
天女
(
てんによ
)
の
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えるのだから、
345
堪
(
たま
)
りませぬワイ』
346
国依別
『あれは
本当
(
ほんたう
)
の
女
(
をんな
)
ぢやないよ』
347
宗彦
『さうでせうなア、
348
男
(
をとこ
)
でさへも
人三
(
にんさん
)
化七
(
ばけしち
)
と
云
(
い
)
ひますから、
349
何
(
いづ
)
れ
四足
(
よつあし
)
の
容物
(
いれもの
)
でせう。
350
お
姫
(
ひめ
)
さまもあこ
迄
(
まで
)
堕落
(
だらく
)
しちや、
351
モウ
駄目
(
だめ
)
ですな。
352
何程
(
なにほど
)
新
(
あたら
)
しい
女
(
をんな
)
が
流行
(
りうかう
)
すると
云
(
い
)
つても
余
(
あま
)
り
極端
(
きよくたん
)
ぢやありませぬか。
353
丸
(
まる
)
で
狐
(
きつね
)
が
化
(
ば
)
けとる
様
(
やう
)
なスタイルをしよつて、
354
吾々
(
われわれ
)
の
前
(
まへ
)
であのザマは
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だい』
355
国依別
『どこ
迄
(
まで
)
も
分
(
わか
)
らぬ
男
(
をとこ
)
だなア。
356
あの
御
(
お
)
方
(
かた
)
は
旭
(
あさひ
)
明神
(
みやうじん
)
、
357
月日
(
つきひ
)
明神
(
みやうじん
)
と
云
(
い
)
ふ
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
だよ。
358
吾々
(
われわれ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さつた
結構
(
けつこう
)
な
白狐
(
びやつこ
)
さまだよ』
359
安彦
『あゝそれで
安彦
(
やすひこ
)
も
分
(
わか
)
りました。
360
何
(
なん
)
だか
尻
(
しり
)
に
白
(
しろ
)
い
尾
(
を
)
のやうなものがブラ
下
(
さ
)
がつてゐましたワ。
361
是
(
これ
)
からあの
二人
(
ふたり
)
は
何
(
ど
)
うなるでせうかなア』
362
国依別
『どうせアフンとするのだらう。
363
サア
行
(
ゆ
)
かう』
364
と
国依別
(
くによりわけ
)
の
詞
(
ことば
)
に
二人
(
ふたり
)
は
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
め、
365
谷路
(
たにみち
)
を
東南
(
とうなん
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
366
(
大正一一・八・一九
旧六・二七
松村真澄
録)
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