霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 脱皮婆(だつぴばば)〔八八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第3篇 千里万行 よみ(新仮名遣い):せんりばんこう
章:第20章 脱皮婆 よみ(新仮名遣い):だっぴばば 通し章番号:886
口述日:1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
秋山別とモリスは、炎を避けて川辺にやってきたが、川幅が広く急流で渡ることができない。炎に追われて地団太を踏んでいると、おぞましいガリガリ亡者がやってきた。
秋山別はぞっとしたが、わけのわからないところへ来てしまって気を弱くしてはつけこまれると思い直し、強い口調で亡者にお前は誰かと問いかけた。
亡者たちは、現世では色と金にはまってこのような姿となり、河にはまった秋山別とモリスの命を奪ったのも自分たちだと答えた。秋山別とモリスは亡者たちと押し問答していたが、亡者たちは、二人が冥途へ来てまで二枚舌を使うと言って、やにわにくぎ抜きを持って二人に襲いかかってきた。
秋山別とモリスは命からがら河に飛び込んで急流を渡り、なんとか亡者たちの襲撃を免れた。二人はかやぶきの粗末な小屋を見つけ、中の婆に声をかけた。婆は、ここは焦熱地獄で自分は二人が来るのを閻魔大王の命で待っていたのだ、と告げた。
焼け野が原の脱皮婆と名乗る婆は、焦熱地獄はよほど罪の重い者がやってくる場所だと言い、鬼が火の車で二人を迎えに来ると告げた。そんな大罪を犯した覚えはないと訴える二人に対して、婆はあきらめるようにと諭す。
そこへガラガラと大きな音を立てて赤鬼と青鬼が二台の火の車を引き連れてやってきた。秋山別とモリスはあっと驚いてその場に倒れ伏した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-14 18:22:50 OBC :rm3120
愛善世界社版:231頁 八幡書店版:第6輯 127頁 修補版: 校定版:238頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 二人(ふたり)(やうや)(ひろ)(かは)(ふち)辿(たど)()いた。002()れば非常(ひじやう)(ひろ)(かは)(しか)急流(きふりう)である。003(はし)もなければ容易(ようい)(わた)(こと)出来(でき)ない。004(あと)引返(ひきかへ)さむとすれば、005岩石(がんせき)(ほのほ)(さかん)()えひろがり、006(みち)(ふさ)ぎ、007グヅグヅしてゐると、008(けぶり)(つつ)まれさうな(いきほひ)である。009『アヽ如何(いか)にせむ』と川端(かはばた)二人(ふたり)地団駄(ぢだんだ)をふみ、010(つひ)には泣声(なきごゑ)()して藻掻(もが)()した。011どこともなしに(いや)らしき(こゑ)(きこ)えて()る。012フツと()れば、013渋紙(しぶかみ)(やう)(はだ)をした赤裸(まつぱだか)人間(にんげん)肋骨(あばらぼね)一枚(いちまい)々々(いちまい)(あら)はしたガリガリ亡者(もうじや)である。014一目(ひとめ)()てもゾツとする(やう)な、015(いや)姿(すがた)であつた。016(この)亡者(もうじや)赤裸(まつぱだか)ではあるが、017(をとこ)とも(をんな)とも(すこ)しも見分(みわ)けがつかなかつた。018(ただ)骸骨(がいこつ)(うへ)渋紙(しぶかみ)(やう)(いろ)した(うす)ツペらな(かは)が、019義理(ぎり)(やく)かの(やう)(つつ)むでゐるのみである。
020 秋山別(あきやまわけ)(こころ)(うち)(おも)(やう)……どうせ、021こンな(わけ)(わか)らぬ(ところ)()たのだから、022ロクな(やつ)()()(はず)はない。023(あま)()(よわ)()つて()たならば、024先繰(せんぐ)先繰(せんぐ)りいろいろな(やつ)()()て、025(なに)をするか(わか)らない、026(つよ)くなくては……と(にはか)決心(けつしん)(ほぞ)(かた)め、027(こゑ)(たか)らかに、
028秋山別『オイ我利(がり)坊子(ばうし)029貴様(きさま)現世(げんせ)(やつ)幽界(いうかい)(やつ)か、030返答(へんたふ)をせい。031現世(げんせ)には貴様(きさま)(やう)(やつ)はメツタに()(こと)はないが、032大方(おほかた)娑婆(しやば)()つて()れよしの()(たけ)(つく)した我利(がり)我利(がり)亡者(もうじや)連中(れんぢう)が、033(よく)(かは)落込(おちこ)濁流(だくりう)()ンで、034こンな(ざま)になつたのだらう。035(ひと)(たび)(なぐさ)みに貴様(きさま)来歴(らいれき)()かしてくれないか』
036亡者(欲皮)(おれ)剛欲(がうよく)ハルの(くに)037身勝手(みかつて)(ぐん)038()れよし(むら)欲皮(よくかは)剥右衛門(はぎうゑもん)()(をとこ)だよ。039一人(ひとり)(をとこ)同国(どうこく)同郡(どうぐん)同村(どうそん)金借(かねかり)踏倒(ふみたふ)しといふ亡者(もうじや)だよ。040(いま)冥途(めいど)()てから、041()()へて、042骨皮(ほねかは)痩右衛門(やせうゑもん)043墓原(はかはら)骨左衛門(こつざゑもん)となつたのだ。044(まへ)はアノ自称(じしよう)色男(いろをとこ)秋山別(あきやまわけ)045モリスの両人(りやうにん)(ちが)いあるまいがな』
046秋山別貴様(きさま)どうして(おれ)素性(すじやう)()つてゐるのだ』
047欲皮『きまつた(こと)よ。048(あま)貴様(きさま)(この)川上(かはかみ)立派(りつぱ)なナイスの(やう)化者(ばけもの)(つか)まへて、049(うつつ)()かしてゐるから、050(おれ)(かね)(いろ)とにかけては、051現界(げんかい)()つた(とき)から、052天下(てんか)無双(むさう)豪傑(がうけつ)だつたが、053(おれ)()(まへ)で、054(あま)巫山戯(ふざけ)たことをしよるものだから、055チツと(ばか)(しやく)にさはり、056ナイスが(かは)(なか)へとつて()つたのを(さいは)ひ、057河童(がたらう)となつて、058貴様(きさま)睾丸(きんたま)(ひき)ちぎり、059冥途(めいど)(たび)をさしてやつたのだ。060アツハヽヽヽ』
061秋山別『オイ、062モリス、063此奴(こいつ)(おれ)(たち)(いのち)()つた餓鬼(がき)だと()えるワイ。064サウもう()白状(はくじやう)(いた)した以上(いじやう)は、065了見(れうけん)ならぬ。066バツチヨ(かさ)のやうな、067(ほね)(かは)との(からだ)をしよつて、068洒落(しやれ)たことを(いた)亡者(もうじや)だナア。069これから両人(りやうにん)()みにじつて()れるから覚悟(かくご)(いた)せ』
070欲皮『アツハヽヽヽ、071(をんな)(すて)られ、072(いのち)(まで)()てた腰抜(こしぬけ)亡者(もうじや)分際(ぶんざい)として、073(なに)(ぬか)すのだイ。074コリヤ(この)欲皮(よくかは)貴様(きさま)()(とほ)り、075壁下地(かべしたぢ)(あら)はれて、076ニクもない可愛(かあい)(をとこ)だが、077(しか)(おれ)(からだ)満身(まんしん)(ほね)(もつ)(かた)めてあるのだぞ。078亡者(もうじや)なぶりの(ほね)なぶり、079見事(みごと)相手(あひて)になるなら、080なつて()よ』
081 モリス(はじ)めて(くち)(ひら)き、
082モリス『コリヤ、083我利(がり)々々(がり)亡者(もうじや)084欲皮(よくかは)剥右衛門(はぎうゑもん)とやら、085(おれ)(なん)心得(こころえ)てゐるか』
086欲皮(なん)とも心得(こころえ)()らぬワイ。087失恋狂(しつれんきやう)(かは)はまり、088土左衛門(どざゑもん)()れの()て、089(こひ)(ほのほ)におひかけられて、090(その)情熱(じやうねつ)()すべく、091(この)川辺(かはべ)(まで)()げて()よつたモリスぢやない、092亡者(まうじや)だらう。093亡者(もじや)々々(もじや)(いた)して()ると、094(この)欲川(よくかは)はモウ容赦(ようしや)はならぬぞ。095(をんな)()引張(ひつぱ)つて、096(みやこ)見物(けんぶつ)亡者引(もさひき)(やう)に、097()つともない(なん)(ざま)だイ。098チツとは(はぢ)()つたが()からうぞ』
099モリス(なに)(ぬか)しよるのだイ。100貴様(きさま)(よく)(かは)()いで、101現界(げんかい)()つた(とき)は、102人鬼(ひとおに)()はれて()代物(しろもの)ぢやないか。103(その)天罰(てんばつ)(めぐ)つて()て、104河鹿(かじか)(なん)ぞの(やう)に、105川住居(かはずまゐ)をしよつて、106ガアガア(ぬか)すと、107本当(ほんたう)(かわづ)になつて(しま)うぞ。108(かわず)行列(ぎやうれつ)(むか)()ずと()(こと)があるぢやないか。109()(ぞこな)ひの饅頭(まんぢう)(やう)に、110かは(ばか)りにへばりつきよつて、111現界(げんかい)でも()へぬ(やつ)だつたが、112ヤツパリ(ここ)()ても(ほね)だらけで、113(あぢ)もシヤシヤリもない()へぬ代物(しろもの)だなア。114(しか)(なが)貴様(きさま)何時迄(いつまで)もこンな(ところ)()つても仕方(しかた)がないぢやないか。115モリスさまに()いて()ないか。116結構(けつこう)結構(けつこう)(はり)(やま)か、117()(いけ)か、118(いばら)(はやし)()れて()つて、119蜥蜴(とかげ)丸焼(まるやき)でも()()うてやるからのウ』
120金借『そんならこの金借(かねかり)()れて()つてくれないか。121(ただ)(もら)(こと)なら蜥蜴(とかげ)だつて、122(かへる)だつて(かま)うものか、123(また)(ただ)案内(あんない)してくれるのなら、124仮令(たとへ)(はり)(やま)でも()(いけ)地獄(ぢごく)でも(かま)やせぬワイ。125()(かく)(おれ)(もら)(こと)()きな性分(しやうぶん)だい。126()(こと)なら(した)()すのも()()すのも(きら)ひな亡者(もうじや)さまだよ。127サア(はや)()かう』
128モリス『こりや(うそ)だ、129貴様(きさま)(やう)(もの)道伴(みちづ)れにして如何(どう)なるものかい。130紅井姫(くれなゐひめ)がシーズン(がは)飛込(とびこ)ンで、131冥途(めいど)(みち)()つてゐるのだから、132(その)(やう)(もの)()れて()かうものなら、133それこそモリスの男前(をとこまへ)()がつて(しま)うワイ』
134金借貴様(きさま)冥途(めいど)()(まで)二枚舌(にまいじた)使(つか)うのだな。135徹底(てつてい)(てき)大悪人(だいあくにん)だ。136ヨシ(いま)金借(かねかり)さまが(その)二枚舌(にまいじた)()いてやらう』
137()ふより(はや)く、138川縁(かはべり)手頃(てごろ)(いし)をクレツとめくると、139(その)(した)から、140沢山(たくさん)釘抜(くぎぬき)がガチヤガチヤする(ほど)(あら)はれて()た。141金借(かねかり)亡者(もうじや)は、142矢庭(やには)(これ)()()り、143モリスに(むか)つて(おそ)(きた)猛烈(まうれつ)(いきほひ)に、144流石(さすが)のモリスも(たま)りかね、145(たちま)ちザンブと激流(げきりう)飛込(とびこ)み、
146モリス秋山別(あきやまわけ)(はや)(きた)れ』
147()(なが)ら、148抜手(ぬきで)()つて、149(なが)(わた)りに(むか)(ぎし)へヤツと()りつき、150着物(きもの)()()て、151(ちから)一杯(いつぱい)圧搾(あつさく)(はじ)めた。152秋山別(あきやまわけ)(から)うじて(およ)()き、153()(また)衣類(いるゐ)(しぼ)り、154二人(ふたり)川向(かはむか)うの二人(ふたり)亡者(もうじや)に、155(あご)をつき()拳骨(げんこつ)(かた)めて(くう)をなぐり、156十分(じふぶん)嘲弄(てうろう)(なが)ら、157一生(いつしやう)懸命(けんめい)何者(なにもの)にか()かるる(やう)心地(ここち)して、158(きた)(きた)へと(はし)()く。
159 (なん)とも(たと)(やう)のない不快(ふくわい)血腥(ちなまぐさ)(かぜ)()いて()る。160(あぶら)()られる(やう)(あつ)さを(かん)じて()た。161二人(ふたり)はヘタヘタになつて、162どつか()(かげ)があれば、163(やす)まうと、164()をキヨロつかせ、165そこらあたりを(なが)めて()ると、166(なん)とも形容(けいよう)出来(でき)ない一本(いつぽん)()枯葉(かれは)(さび)しげに宿(やど)して()つて()る。167せめては(この)木蔭(こかげ)にと立寄(たちよ)つて()れば、168(いや)らしい種々(いろいろ)毛虫(けむし)がウジヤつてゐる。169二人(ふたり)(きも)(つぶ)(なが)ら、170(また)もや()きつく(やう)大地(だいち)(うへ)(あゆ)()した。171(すこ)しく前方(ぜんぱう)(かや)(もつ)()いた(ちい)さい(いへ)が、172(めづら)しくも(ただ)一軒(いつけん)()つて()る。173これ(さいは)ひと立寄(たちよ)つてソツと(くさ)()ンだ()隙間(すきま)から、174(なか)(のぞ)くと、175(ぢい)とも(ばば)とも見当(けんたう)のつかぬ老人(らうじん)唯一人(ただひとり)176水涕(みづばな)をズーズーと()らし(なが)ら、177(しき)りに草鞋(わらぢ)(つく)つてゐる。178秋山別(あきやまわけ)(そと)から、
179秋山別『モシモシお()イさまかお()アさまか、180どちらかは()りませぬが、181吾々(われわれ)旅人(たびびと)御座(ござ)います。182(あま)(あつ)いので、183最早(もはや)やり()れなくなりました。184どうぞあなたの(すず)しい()(うち)で、185(しばら)(やす)まして(くだ)さいな』
186 小屋(ごや)(なか)より皺枯(しわが)れた(こゑ)で、
187(脱皮婆)『ここは焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)八丁目(はつちやうめ)だ。188()うマア()(まよ)うて御座(ござ)つた。189閻魔(えんま)大王(だいわう)(さま)から、190(まへ)(たち)二人(ふたり)(ここ)()るから、191(ここ)待伏(まちぶ)せして()れと()命令(めいれい)()けて、192二三(にさん)日前(にちまへ)から()つてゐたのだよ。193()(ところ)()()れた。194サアゆつくりと這入(はい)つて休息(きうそく)さつしやい。195やがて赤鬼(あかおに)黒鬼(くろおに)()(くるま)()つて、196(まへ)(たち)二人(ふたり)(むか)へに()るから、197マア(たのし)みて()つてゐるがよからう。198一度(いちど)()(くるま)()つて()るのも面白(おもしろ)からうぞや』
199秋山別『モシモシそりやちつと(こま)るぢやありませぬか。200如何(どう)して吾々(われわれ)がそンな()(くるま)()らねばならぬ(やう)(わる)(こと)(いた)しましたか。201そりや大方(おほかた)人違(ひとちが)ひぢや御座(ござ)いますまいかなア』
202(脱皮婆)(わし)焼野(やけの)(はら)脱皮婆(だつぴばば)アと()(もの)だ。203三途(さんづ)(かは)には脱衣婆(だついばば)()(もの)()つて着物(きもの)()がすが、204そこを(とほ)(やつ)(つみ)(かる)連中(れんぢう)だよ。205この焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)旅行(りよかう)する(やつ)(もつと)(わる)罪人(つみびと)()()(ところ)だ。206それだから、207(まへ)(にく)(かは)をスツカリ()()つて、208剥製(はくせい)にして黄泉(よみぢ)(みやこ)博物館(はくぶつくわん)陳列(ちんれつ)し、209(かは)()いだ(あと)肉体(にくたい)()(くるま)()せて、210閻魔(えんま)(ちやう)(おく)り、211(おに)(ども)(よろこ)びて、212塩焼(しほやき)にして()(しま)うのだから、213心配(しんぱい)することはない。214(いま)となつて心配(しんぱい)した(ところ)駄目(だめ)だよ。215チヤンときまり()つた運命(うんめい)だから……』
216モリス『お()アさま、217そりや本当(ほんたう)ですかい。218チツとモリスには合点(がてん)()きませぬがなア』
219脱皮婆合点(がてん)()かぬ(はず)だよ。220合点(がてん)()かぬ(こと)(ばか)りやつて()たのだから、221無理(むり)はなけね(ども)222もういい加減(かげん)因縁(いんねん)づくぢやと合点(がてん)をせなきやならなくなつて()たよ。223(まへ)(むか)へに()()(くるま)自惚車(うぬぼれぐるま)といふ(めう)脱線(だつせん)転覆(てんぷく)する(くるま)(あぶ)ないものだが、224紅井(くれなゐ)(やう)(あか)(かほ)をして、225()()いた(をんな)(おに)一人(ひとり)226(また)(すこ)年増(としま)のエリナと()女鬼(めおに)一人(ひとり)227()(くるま)(ふた)()つて、228(まへ)(むか)へに()段取(だんどり)がチヤンと出来(でき)てゐるのだから、229(いま)(うち)なりと気楽(きらく)(うた)でも(うた)つておかつしやい。230()(くるま)()たが最後(さいご)231(まへ)(からだ)不動(ふどう)さまのように、232(こひ)情火(じやうくわ)()()つて、233(あつ)()()はねばならぬのだからな。234あゝ(おも)へば(おも)へば不愍(ふびん)なものだワイ。
235()(くるま)(べつ)地獄(ぢごく)にやなけれ(ども)
236(おの)(つく)つて(おの)()()
237とか()つて、238(まへ)(つく)つた完全(くわんぜん)無欠(むけつ)()(くるま)だから、239(たれ)遠慮(ゑんりよ)()らぬ。240ドンドンと()つて()かつしやれや。241何事(なにごと)()(なか)自業(じごう)自得(じとく)だ。242善因(ぜんいん)善果(ぜんぐわ)243悪因(あくいん)悪果(あくくわ)244()かぬ(たね)()えぬとやら、245自分(じぶん)()いた(たね)成長(せいちやう)して、246(はな)()()がのり、247(また)自分(じぶん)収穫(しうくわく)をせなくちやならぬ天地(てんち)自然(しぜん)法則(はふそく)だからなア』
248秋山別『エー、249秋山別(あきやまわけ)(べつ)(をんな)(たい)し、250恋慕(れんぼ)(いた)しましたが、251まだ(うま)れてから、252(をんな)一人(ひとり)(をか)したことは御座(ござ)りませぬ。253(なに)(ため)にそれ(ほど)(おも)(つみ)(くわ)せられるのでせうか。254()(くらゐ)微罪(びざい)を、255さう()かましく詮議(せんぎ)()てをし、256処罰(しよばつ)をして()つたならば、257地獄(ぢごく)牢屋(らうや)もやり()れますまい』
258脱皮婆(かる)(つみ)(みな)()のがして、259三途(さんづ)(かは)(ころも)()がし、260それから(うま)赤子(あかご)赤裸(まつぱだか)にして、261(みたま)故郷(こきやう)(かへ)してやるのだが、262(まへ)(やう)罪人(ざいにん)()うしても(かへ)(こと)出来(でき)ないよ。263(また)何程(なにほど)立派(りつぱ)審判(さには)(おに)だとて、264(なか)には(めくら)もあるから、265(まへ)(つみ)(おれ)()いても、266ホンの(かる)(やう)(おも)ふが、267()(くるま)()せられて、268焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)(おと)してやらうと判決(はんけつ)されたのだから、269(この)(ばば)アの(ちから)ぢや如何(どう)する(こと)出来(でき)ない。270閻魔(えんま)さまだつて直接(ちよくせつ)調(しら)べるのぢやないから、271疎漏(そろう)もあるだらうし、272無実(むじつ)(つみ)()()(あは)れな人間(にんげん)もチヨイチヨイあるやうだ。273何程(なにほど)冥途(めいど)規則(きそく)立派(りつぱ)出来上(できあが)つて()つても、274それを運用(うんよう)する審判(さには)(おに)(めくら)だつたら駄目(だめ)だからな。275マア(あきら)めるより仕方(しかた)があるまいぞよ。276(うへ)大将(たいしやう)からして、277(めくら)幽霊(いうれい)(ばか)りだから(こま)つたものだよ。278(この)(ばば)アもお(まへ)には満腔(まんくう)同情(どうじやう)(へう)してゐるけれど、279(うへ)から(おさ)へられるのだから、280どうする(こと)出来(でき)やしない。281(まへ)言訳(いひわけ)(ひと)つでもせうものなら、282それこそ大変(たいへん)だ。283(した)(やく)(くせ)上役(うはやく)(さば)いた(こと)を、284(なに)ゴテゴテ()ふかと()つて、285一遍(いつぺん)免職(めんしよく)さされて(しま)うのだ。286さうすればお(まへ)(いま)(わた)つて()(よく)(かは)()つた我利(がり)々々(がり)亡者(もうじや)(やう)(ほね)(かは)とになつて(しま)はねばならぬ。287アーア(くら)がりの()(なか)()ふものは(なさけ)ないものだわい』
288()アさまは(はな)をすすり、289そろそろと()()した。
290 ()かる(ところ)へガラガラガラとけたたましき(おと)()て、291いかめしき(つら)した赤鬼(あかおに)292青鬼(あをおに)293金平糖(こんぺいたう)(なが)うした(やう)金棒(かなぼう)(たづさ)へ、294二台(にだい)()(くるま)(ひき)つれて、295(この)()(むか)つて(いきほひ)よく()けつけ(きた)る。296二人(ふたり)は『アツ』と(おどろ)(その)()(たふ)()しける。
297大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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