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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第6巻(巳の巻)
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第11巻(戌の巻)
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第13巻(子の巻)
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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
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第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
01 主一無適
〔867〕
02 大地震
〔868〕
03 救世神
〔869〕
04 不知恋
〔870〕
05 秋鹿の叫
〔871〕
06 女弟子
〔872〕
第2篇 紅裙隊
07 妻の選挙
〔873〕
08 人獣
〔874〕
09 誤神託
〔875〕
10 噂の影
〔876〕
11 売言買辞
〔877〕
12 冷い親切
〔878〕
13 姉妹教
〔879〕
第3篇 千里万行
14 樹下の宿
〔880〕
15 丸木橋
〔881〕
16 天狂坊
〔882〕
17 新しき女
〔883〕
18 シーズンの流
〔884〕
19 怪原野
〔885〕
20 脱皮婆
〔886〕
21 白毫の光
〔887〕
第4篇 言霊将軍
22 神の試
〔888〕
23 化老爺
〔889〕
24 魔違
〔890〕
25 会合
〔891〕
余白歌
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第九章
誤神託
(
ごしんたく
)
〔八七五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第2篇 紅裙隊
よみ(新仮名遣い):
こうくんたい
章:
第9章 誤神託
よみ(新仮名遣い):
ごしんたく
通し章番号:
875
口述日:
1922(大正11)年08月19日(旧06月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-03-15 22:09:31
OBC :
rm3109
愛善世界社版:
102頁
八幡書店版:
第6輯 79頁
修補版:
校定版:
105頁
普及版:
46頁
初版:
ページ備考:
001
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
002
モリスの
両人
(
りやうにん
)
は、
003
日暮
(
ひぐら
)
シ
河
(
がは
)
の
南岸
(
なんがん
)
の
萱野原
(
かやのはら
)
に
休息
(
きうそく
)
する
折
(
をり
)
忽
(
たちま
)
ち
暗
(
くら
)
がりより
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
の
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
りしに
怖気
(
おぢけ
)
付
(
づ
)
き、
004
四這
(
よつばい
)
となつて
其処
(
そこ
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
し、
005
二三丁
(
にさんちやう
)
計
(
ばか
)
り
引返
(
ひつかや
)
し、
006
やうやうここに
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
でおろし、
007
それより
再
(
ふたた
)
びアラシカ
山
(
やま
)
を
駆登
(
かけのぼ
)
り、
008
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
に
到着
(
たうちやく
)
し、
009
神勅
(
しんちよく
)
を
受
(
うけ
)
て、
010
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
伺
(
うかが
)
ふ
事
(
こと
)
となしぬ。
011
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
012
神主
(
かむぬし
)
となり、
013
モリスは
審神者
(
さには
)
となつて、
014
翌日
(
あくるひ
)
の
真夜中
(
まよなか
)
頃
(
ごろ
)
に
神占
(
しんせん
)
を
奉伺
(
ほうし
)
する
事
(
こと
)
とはなりぬ。
015
古
(
ふる
)
ぼけた
祠
(
ほこら
)
の
床
(
ゆか
)
の
上
(
うへ
)
に
三四
(
さんし
)
尺
(
しやく
)
間隔
(
かんかく
)
を
置
(
お
)
いて、
016
神主
(
かむぬし
)
、
017
審神者
(
さには
)
は
向
(
むか
)
ひ
合
(
あ
)
ひ、
018
モリスは
双手
(
もろで
)
を
組
(
く
)
み、
019
不整調
(
ふせいてう
)
な
音調
(
おんてう
)
もて
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
上
(
あ
)
ぐる。
020
モリス
『
人
(
ひと
)
、
021
二人
(
ふたり
)
、
022
見
(
み
)
つけて、
023
四
(
よ
)
るでも
昼
(
ひる
)
でも、
024
五
(
い
)
ちやつきまはし、
025
六
(
む
)
りやりに
押
(
お
)
さへつけて、
026
七
(
な
)
んでもかでも
八
(
や
)
り
倒
(
たふ
)
し、
027
九
(
こ
)
ころに
思
(
おも
)
ふ
丈
(
だけ
)
十
(
と
)
く
心
(
しん
)
する
迄
(
まで
)
、
028
百千万
(
ひやくせんまん
)
遍
(
べん
)
でも、
029
思惑
(
おもわく
)
を
立
(
た
)
てさせ
玉
(
たま
)
はねば、
030
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
は
離
(
はな
)
れませぬぞや』
031
秋山別
『コラ、
032
モリス、
033
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ。
034
そんな
事
(
こと
)
で
霊
(
れい
)
がかかるかい。
035
馬鹿
(
ばか
)
らしくつて、
036
きばつて
居
(
を
)
れぬぢやないかい。
037
モ
一遍
(
いつぺん
)
やり
直
(
なほ
)
せ』
038
モリス
『
専売
(
せんばい
)
特許
(
とくきよ
)
の
新規
(
しんき
)
発明
(
はつめい
)
だ。
039
特許
(
とくきよ
)
意匠
(
いしやう
)
登録
(
とうろく
)
の
手続
(
てつづ
)
き
中
(
ちう
)
だから、
040
マア
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
らう。
041
何
(
なん
)
でも
新
(
あたら
)
しい
事
(
こと
)
が
流行
(
りうかう
)
する
時節
(
じせつ
)
だから、
042
開闢
(
かいびやく
)
の
初
(
はじめ
)
から
襲用
(
しふよう
)
して
来
(
き
)
た
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
……も
余
(
あま
)
り
苔
(
こけ
)
が
生
(
は
)
えて
面白
(
おもしろ
)
くないからなア。
043
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
も
今迄
(
いままで
)
の
数歌
(
かずうた
)
はモウ
聞
(
き
)
き
飽
(
あ
)
いてゐらつしやるから、
044
チツと
珍
(
めづ
)
らしい
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げて、
045
此方
(
こちら
)
を
向
(
む
)
かすと
云
(
い
)
ふ
俺
(
おれ
)
の
一厘
(
いちりん
)
の
秘密
(
ひみつ
)
だ』
046
秋山別
『お
前
(
まへ
)
神主
(
かむぬし
)
になれ、
047
秋山別
(
あきやまわけ
)
が
審神者
(
さには
)
をしてやらう。
048
お
前
(
まへ
)
の
審神者
(
さには
)
では
根
(
ね
)
つから
気乗
(
きの
)
りがせぬワイ。
049
審神者
(
さには
)
さへよければ、
050
どンな
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
でも
憑
(
うつ
)
り
玉
(
たま
)
ふのだからなア。
051
併
(
しか
)
し
何
(
なん
)
ぼモリスだつて、
052
モリ
住居
(
すまゐ
)
の
烏
(
からす
)
の
神懸
(
かむがか
)
りは
御免
(
ごめん
)
だから、
053
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
に
心
(
こころ
)
を
納
(
をさ
)
めて、
054
無我
(
むが
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
入
(
い
)
らねば
駄目
(
だめ
)
だよ。
055
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
一切
(
いつさい
)
の
夢想
(
むさう
)
を
除去
(
ぢよきよ
)
する
事
(
こと
)
。
056
身体
(
しんたい
)
衣服
(
いふく
)
を
清潔
(
せいけつ
)
にする
事
(
こと
)
。
057
併
(
しか
)
し
旅行中
(
りよかうちう
)
だから
衣服
(
いふく
)
を
清潔
(
せいけつ
)
にする
事
(
こと
)
丈
(
だけ
)
は
免除
(
めんぢよ
)
しておかう。
058
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
で
水行
(
すいぎやう
)
する
所
(
ところ
)
がないから、
059
身体
(
しんたい
)
の
清潔
(
せいけつ
)
も
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずとして、
060
是
(
これ
)
も
免除
(
めんぢよ
)
する。
061
次
(
つぎ
)
に
感覚
(
かんかく
)
を
蕩尽
(
たうじん
)
し、
062
意念
(
いねん
)
を
断滅
(
だんめつ
)
する
事
(
こと
)
、
063
大死
(
たいし
)
一番
(
いちばん
)
の
境
(
きやう
)
に
入
(
い
)
る
事
(
こと
)
。
064
姿勢
(
しせい
)
を
正
(
ただ
)
しうして
瞑目
(
めいもく
)
静座
(
せいざ
)
する
事
(
こと
)
。
065
次
(
つぎ
)
に
審神者
(
さには
)
が
何
(
なに
)
を
尋
(
たづ
)
ねるか……
何
(
なん
)
ぞと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
疑惑
(
ぎわく
)
を
持
(
も
)
たぬ
事
(
こと
)
。
066
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
を
致
(
いた
)
さぬ
事
(
こと
)
。
067
過越
(
すぎこし
)
苦労
(
くらう
)
を
致
(
いた
)
さぬ
事
(
こと
)
。
068
刹那心
(
せつなしん
)
を
楽
(
たのし
)
むこと。
069
それから
最
(
もつと
)
も
大切
(
たいせつ
)
な
心得
(
こころえ
)
は、
070
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
に
対
(
たい
)
して
少
(
すこ
)
しも
執着
(
しふちやく
)
のなき
事
(
こと
)
。
071
これ
丈
(
だけ
)
の
心得
(
こころえ
)
がなければ、
072
正
(
ただ
)
しい
神
(
かみ
)
が
憑
(
うつ
)
つて
来
(
き
)
て、
073
正
(
ただ
)
しい
判断
(
はんだん
)
を
与
(
あた
)
へてくれぬから、
074
其
(
その
)
積
(
つ
)
もりで
心身
(
しんしん
)
を
澄清
(
ちようせい
)
にし、
075
感触
(
かんしよく
)
の
為
(
ため
)
に
乱
(
みだ
)
れざる
事
(
こと
)
を
慎
(
つつし
)
むべし……マアこンなものだ』
076
モリス
『
大変
(
たいへん
)
に
六
(
む
)
つかしい
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うのだね。
077
モツと
平
(
ひら
)
たく
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れないか』
078
秋山別
『
俺
(
おれ
)
だつて
平
(
ひら
)
たく
言
(
い
)
ふこた
出来
(
でき
)
ぬワイ。
079
現在
(
げんざい
)
どンな
意味
(
いみ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
080
俺
(
おれ
)
も
分
(
わか
)
らぬのだからな。
081
楓別
(
かえでわけの
)
命
(
みこと
)
さまが
何時
(
いつ
)
も
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
を
無意識
(
むいしき
)
に
腹
(
はら
)
へ
詰
(
つ
)
め
込
(
こ
)
みた
丈
(
だけ
)
だ。
082
併
(
しか
)
し
分
(
わか
)
らぬのが
有難
(
ありがた
)
いのだよ。
083
お
経
(
きやう
)
だつてさうぢやないか。
084
唱
(
とな
)
へてる
坊主
(
ぼうづ
)
でさへもテンデ
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
か
分
(
わか
)
らず、
085
聞
(
き
)
いてる
連中
(
れんぢう
)
にも
分
(
わか
)
らぬとこに
有難味
(
ありがたみ
)
があるのだからのウ。
086
分
(
わか
)
つて
見
(
み
)
ての
後
(
のち
)
の
心
(
こころ
)
に
比
(
くら
)
ぶれば、
087
分
(
わか
)
らぬ
昔
(
むかし
)
ぞ
有難
(
ありがた
)
かりけり
088
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なものだな。
089
サア
早
(
はや
)
く
瞑目
(
めいもく
)
静座
(
せいざ
)
せぬかい』
090
モリス
『サア、
091
どンなエライ
神
(
かみ
)
さまが、
092
お
憑
(
うつ
)
りになるか
知
(
し
)
れぬぞ。
093
ビツクリするなよ』
094
秋山別
『
何
(
なん
)
だ
其
(
その
)
スタイルは、
095
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
肱
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
りよつて、
096
馬鹿
(
ばか
)
に
威張
(
ゐば
)
つとるぢやないか。
097
丸
(
まる
)
で
鉛
(
なまり
)
の
天神
(
てんじん
)
さま
見
(
み
)
たいに、
098
見
(
み
)
つともないぞ。
099
モウちつと
肩
(
かた
)
を
下
(
さげ
)
て、
100
品
(
ひん
)
のよい
地蔵肩
(
ぢざうかた
)
にせぬかい』
101
モリスは
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
手
(
て
)
を
振
(
ふ
)
り、
102
首
(
くび
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
103
口
(
くち
)
をパクパクさせ
乍
(
なが
)
ら、
104
歯糞
(
はくそ
)
だらけの
不整律
(
ふせいりつ
)
な
田螺
(
たにし
)
の
様
(
やう
)
な
歯
(
は
)
を
剥
(
む
)
き
出
(
だ
)
し、
105
モリス
『ウーウーウー』
106
ドスンドスンドスンと
床
(
ゆか
)
をふるはせ
乍
(
なが
)
ら
飛
(
と
)
びあがり
出
(
だ
)
した。
107
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
108
随分
(
ずいぶん
)
烈
(
はげ
)
しい
神懸
(
かむがか
)
りだナアと
小声
(
こごゑ
)
に
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
109
ポンポンと
二拍手
(
にはくしゆ
)
し、
110
恭
(
うやうや
)
しく
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ、
111
秋山別
『
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いますか?
何卒
(
なにとぞ
)
御名
(
みな
)
を
告
(
つ
)
げさせ
玉
(
たま
)
へ。
112
及
(
およ
)
ばず
乍
(
なが
)
ら
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
113
審神者
(
さには
)
を
仕
(
つかまつ
)
りまする』
114
モリス
『
ア
ハー アハー アハー、
115
阿
(
あ
)
呆
(
はう
)
らしいワイ。
116
ア
キもせぬ
恋路
(
こひぢ
)
に
あ
くせくと
致
(
いた
)
して、
117
そこら
あ
たりを
歩
(
あ
る
)
き
廻
(
まは
)
し、
118
憐
(
あ
は
)
れな
面
(
つら
)
を
致
(
いた
)
して、
119
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
ひたい
会
(
あ
)
ひたいと
憧憬
(
あ
こがれ
)
歩
(
あ
る
)
く、
120
安本丹
(
あ
んぽんたん
)
、
121
悪人
(
あ
くにん
)
の
癖
(
くせ
)
に
女
(
をんな
)
に
対
(
たい
)
しては、
122
随分
(
ずいぶん
)
涙
(
なみだ
)
脆
(
もろ
)
い
奴
(
やつ
)
ぢやのう。
123
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
に、
124
年古
(
としふる
)
く
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
す
悪魔
(
あ
くま
)
大王
(
だいわう
)
と
申
(
まを
)
す
大天狗
(
だいてんぐ
)
であるぞよ』
125
秋山別
『アヽヽ
余
(
あ
ま
)
りぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか。
126
ア
タ
悪性
(
あくしやう
)
な
人
(
ひと
)
の
欠点
(
あ
ら
)
計
(
ばか
)
り
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
てて、
127
あ
られもない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
ります。
128
余
(
あ
んま
)
りのこつて、
129
秋山別
(
あ
きやまわけ
)
も
呆
(
あ
き
)
れてものが
言
(
い
)
はれませぬワイ、
130
ア
フンとして
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
早速
(
さつそく
)
には
塞
(
ふさ
)
がりませぬ。
131
悪魔
(
あ
くま
)
大王
(
だいわう
)
様
(
さま
)
、
132
モウちつと
色
(
いろ
)
よい
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
をして
下
(
くだ
)
さつたら
如何
(
どう
)
です』
133
モリス
『
イ
ヒヽヽヽ
色
(
い
ろ
)
よい
返事
(
へんじ
)
をせいと
申
(
まを
)
すが、
134
此
(
この
)
大天狗
(
だいてんぐ
)
は
男
(
をとこ
)
であるぞよ。
135
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
色
(
い
ろ
)
よい
返事
(
へんじ
)
がして
欲
(
ほ
)
しいのは、
136
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
の
口
(
くち
)
からであらう。
137
い
ろいろと
工夫
(
くふう
)
を
致
(
いた
)
し、
138
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
し、
139
足
(
あし
)
を
働
(
はたら
)
かせ、
140
幾年
(
い
くねん
)
掛
(
かか
)
つても
意思
(
い
し
)
互
(
たがひ
)
に
疏通
(
そつう
)
するまで
行
(
ゆ
)
くのだ、
141
さうすれば
色
(
い
ろ
)
よい
返事
(
へんじ
)
が
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れぬぞよ。
142
い
らつでないぞよ。
143
勢
(
い
きほひ
)
に
任
(
まか
)
して
早
(
はや
)
く
盛物
(
もりもの
)
に
手
(
て
)
をかけようと
致
(
い
た
)
すと、
144
サツパリ
可
(
い
)
かぬぞよ。
145
何事
(
なにごと
)
もイヽ
因縁
(
い
んねん
)
づくぢや。
146
力一杯
(
ちから
い
つぱい
)
意茶
(
い
ちや
)
つく
様
(
やう
)
になるのは、
147
一二
(
い
ちに
)
年
(
ねん
)
先
(
さき
)
かも
知
(
し
)
れぬぞよ。
148
一
(
い
ち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
添
(
そ
)
ひたくば、
149
イ
モリの
黒焼
(
くろやき
)
を
拵
(
こしら
)
へてふりかけたが、
150
一番
(
い
ちばん
)
著
(
い
ちじる
)
しい
偉効
(
ゐ
かう
)
があるぞよ。
151
要
(
い
)
らぬことに
何時
(
い
つ
)
までも
心配
(
しんぱい
)
を
致
(
いた
)
すでないぞよ。
152
い
けすかない
面
(
つら
)
をして、
153
余
(
あま
)
り
威張
(
ゐ
ば
)
るものだから、
154
厭
(
い
や
)
がられて
了
(
しま
)
ふのだ。
155
俺
(
おれ
)
の
意見
(
い
けん
)
に
異議
(
い
ぎ
)
があれば、
156
どこ
迄
(
まで
)
でも
尋
(
たづ
)
ねたがよいぞよ。
157
委細
(
ゐ
さい
)
の
様子
(
やうす
)
を
一伍
(
い
ちぶ
)
一什
(
しじふ
)
、
158
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
してやるぞよ』
159
秋山別
『
イ
ヽヽ
意茶
(
い
ちや
)
つかさずに、
160
モツと
一
(
い
つ
)
さくにとつとと
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
161
心
(
こころ
)
が、
162
い
らいらして、
163
意思
(
い
し
)
が
固
(
かた
)
まりませぬ。
164
石
(
い
し
)
よりも
固
(
かた
)
い
私
(
わたくし
)
の
決心
(
けつしん
)
、
165
い
つかないつかな、
166
何時
(
い
つ
)
になつても
動
(
うご
)
く
様
(
やう
)
なチヨロ
臭
(
くさ
)
い
恋
(
こひ
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ。
167
意地
(
い
ぢ
)
づくでも
目的
(
もくてき
)
を
立
(
た
)
てねば
置
(
お
)
かぬので
御座
(
ござ
)
いますが、
168
一体
(
い
つたい
)
此
(
この
)
恋
(
こひ
)
は
何時
(
い
つ
)
になつたら
成就
(
じやうじゆ
)
するもので
御座
(
ござ
)
いませうかな。
169
一
(
い
ち
)
年
(
ねん
)
も
二
(
に
)
年
(
ねん
)
も
待
(
ま
)
てと
仰有
(
おつしや
)
つても、
170
到底
(
たうてい
)
さう
永
(
なが
)
くは
待
(
ま
)
てませぬワ』
171
モリス
『
ウ
フヽヽヽ
う
るさがられて、
172
肱鉄
(
ひぢてつ
)
を
乱射
(
らんしや
)
され
乍
(
なが
)
ら、
173
まだ
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めぬか。
174
う
ろたへ
者
(
もの
)
奴
(
め
)
、
175
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
もお
前
(
まへ
)
の
迂濶
(
う
くわつ
)
な
智慧
(
ちゑ
)
には
ウ
ンザリしてゐるぞよ。
176
何程
(
なにほど
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
が
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つても、
177
膿
(
う
)
んだ
鼻
(
はな
)
が
潰
(
つぶ
)
れたとも、
178
言
(
い
)
つて
来
(
く
)
る
気遣
(
きづか
)
ひはあるまい。
179
う
ぶの
心
(
こころ
)
になつて
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
悟
(
さと
)
り、
180
普
(
あまね
)
く
人
(
ひと
)
を
愛
(
あい
)
し、
181
牛
(
う
し
)
の
様
(
やう
)
に
俯
(
う
つ
)
むいて
働
(
はたら
)
きさへすれば、
182
美
(
う
つく
)
しい
女
(
をんな
)
が
う
るさい
程
(
ほど
)
、
183
ウ
ザウザと
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
側
(
そば
)
へ
集
(
あつ
)
まつて
来
(
く
)
るぞよ。
184
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
運
(
う
ん
)
の
循
(
めぐ
)
つて
来
(
く
)
る
迄
(
まで
)
、
185
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
して
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るが
良
(
よ
)
からう』
186
秋山別
『
ウ
ヽヽ
う
つかり
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
らうものなら、
187
此
(
この
)
天狗
(
てんぐ
)
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すか
分
(
わか
)
つたものぢやないワ。
188
モウ
御
(
お
)
引取
(
ひきと
)
り
下
(
くだ
)
さい……』
189
ポンポンと
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つ。
190
モリス
『
エ
ツヘヽヽヽ、
191
まだまだ
言
(
い
)
はねばならぬ
事
(
こと
)
がある。
192
縁
(
え
ん
)
と
月日
(
つきひ
)
は
待
(
ま
)
つがよいと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があらうがなア。
193
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
方
(
はう
)
と
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
との
縁
(
え
ん
)
は
余
(
あま
)
り
遠方
(
ゑ
んぱう
)
過
(
す
)
ぎて、
194
届
(
とど
)
き
兼
(
か
)
ねるから、
195
其
(
その
)
方
(
はう
)
から
遠慮
(
ゑ
んりよ
)
を
致
(
いた
)
したが
得
(
とく
)
だらう。
196
絵
(
ゑ
)
にもかけない
様
(
やう
)
な
美人
(
びじん
)
を、
197
鳥羽絵
(
とば
ゑ
)
の
如
(
や
)
うな
面
(
つら
)
をした
其
(
その
)
方
(
はう
)
が、
198
女房
(
にようばう
)
に
選
(
え
ら
)
ぶとは、
199
チツと
提灯
(
ちやうちん
)
に
釣鐘
(
つりがね
)
だ。
200
閻魔
(
え
んま
)
の
帳面
(
ちやうめん
)
を
拝借
(
はいしやく
)
して
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
い、
201
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
はモリスの
妻
(
つま
)
なりと、
202
ハツキリと
附
(
つ
)
け
止
(
と
)
めてあるぞよ』
203
秋山別
『エヽ
此奴
(
こいつ
)
ア
偽神懸
(
にせかむがか
)
りをやつてやがるのだな。
204
感覚
(
かんかく
)
を
蕩尽
(
たうじん
)
し、
205
意念
(
いねん
)
を
断滅
(
だんめつ
)
した
神懸
(
かむがか
)
りがモリスの
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
すと
云
(
い
)
ふのが
怪
(
あや
)
しい……オイ、
206
モリス、
207
もう
駄目
(
だめ
)
だ。
208
サツパリ
化
(
ば
)
けが
現
(
あら
)
はれたぞ。
209
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
審神者
(
さには
)
を
瞞
(
だま
)
さうと
思
(
おも
)
つても、
210
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
を
欺
(
あざむ
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
211
頭到
(
とうたう
)
狐
(
きつね
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
を
出
(
だ
)
しよつたぢやないか』
212
モリス
『
オ
ツホヽヽヽ、
213
尾
(
を
)
を
出
(
だ
)
したと
申
(
まを
)
すが、
214
其
(
その
)
方
(
はう
)
に
尾
(
を
)
が
見
(
み
)
えるか、
215
見
(
み
)
えるなら
一
(
ひと
)
つ
掴
(
つか
)
まへて
見
(
み
)
よ。
216
横道者
(
わ
うだうもの
)
奴
(
め
)
、
217
大天狗
(
だいてんぐ
)
を
掴
(
つか
)
まへて
狐
(
きつね
)
などとは
能
(
よ
)
くも
大
(
お
ほ
)
きな
口
(
くち
)
で
申
(
まを
)
したなア』
218
秋山別
『
オ
ヽヽ
お
きやがれ。
219
脅
(
お
ど
)
し
文句
(
もんく
)
計
(
ばか
)
り
並
(
なら
)
べて、
220
往生
(
わ
うじやう
)
さそうと
思
(
お
も
)
つて、
221
そンな
事
(
こと
)
に
尾
(
を
)
を
巻
(
ま
)
いて、
222
ヘーヘー
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
俺
(
お
れ
)
ぢやないワイ』
223
モリス
『
カ
ツカツヽヽヽ
烏
(
か
らす
)
の
婿
(
むこ
)
に
孔雀
(
くじやく
)
の
嫁
(
よめ
)
とは、
224
チツと
釣合
(
つりあは
)
ぬぢやないか。
225
能
(
よ
)
く
考
(
か
んが
)
へて
見
(
み
)
い』
226
秋山別
『
カ
ヽ
構
(
かま
)
うない、
227
俺
(
おれ
)
の
嬶
(
か
か
)
の
事
(
こと
)
まで
干渉
(
か
んせふ
)
する
権利
(
けんり
)
がどこにあるか』
228
モリス
『
キ
ツヽヽヽ
貴様
(
き
さま
)
、
229
それでも
嬶
(
かかあ
)
の
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いて
神勅
(
しんちよく
)
を
伺
(
うかが
)
ふと
申
(
まを
)
し、
230
モリスを
神主
(
かむぬし
)
として
尋
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
るのではないか。
231
チツと
き
まり
悪
(
わる
)
うなり、
232
気味
(
き
み
)
が
良
(
よ
)
くない
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
す
気
(
き
)
にくはぬ、
233
気障
(
き
ざ
)
な
大天狗
(
だいてんぐ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
るであらうのウ。
234
ク
ヽヽ
黒
(
く
ろ
)
い
面
(
つら
)
をして、
235
雪
(
ゆき
)
の
如
(
や
)
うな
姫
(
ひめ
)
に
恋
(
こひ
)
だの
鮒
(
ふな
)
だのと、
236
何
(
なに
)
を
洒落
(
しやれ
)
るのだ』
237
秋山別
『ハテ、
238
どうしても
此奴
(
こいつ
)
ア
怪
(
あや
)
しいぞ。
239
オーイ、
240
モリス、
241
いい
加減
(
かげん
)
に
止
(
や
)
めたら
如何
(
どう
)
だい。
242
そンな
偽神懸
(
にせかむがか
)
りをやつたつて、
243
駄目
(
だめ
)
だぞ』
244
モリス
『
ケ
ツ ケツ ケツ
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
の
悪
(
わる
)
い、
245
とうとう
尻尾
(
しつぽ
)
を
掴
(
つか
)
みよつたな、
246
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
はモリス
大明神
(
だいみやうじん
)
だ。
247
烏
(
からす
)
一匹
(
いつぴき
)
の
霊
(
れい
)
も
蜥蜴
(
とかげ
)
の
霊
(
れい
)
も、
248
実
(
じつ
)
は
懸
(
かか
)
つてゐないのだよ。
249
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
俺
(
おれ
)
の
霊
(
れい
)
が
皆
(
みな
)
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
にかかつてるものだから、
250
サツパリ
脱殻
(
ぬけがら
)
だ。
251
受
(
う
)
ける
霊
(
れい
)
がないものだから、
252
大天狗
(
だいてんぐ
)
も
懸
(
かか
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぞよ。
253
アツハヽヽヽ』
254
秋山別
『コツコヽ
斯
(
こ
)
んな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
255
何時
(
いつ
)
までも
果
(
は
)
てぬから、
256
是
(
こ
れ
)
から
口占
(
くちうら
)
を
行
(
や
)
つて、
257
吾々
(
われわれ
)
の
進退
(
しんたい
)
をきめる
事
(
こと
)
にせうかい、
258
のう、
259
モリ
公
(
こう
)
』
260
モリス
『モリスも
同感
(
どうかん
)
だ、
261
サヽヽ
早速
(
さ
つそく
)
口占
(
くちうら
)
で
決定
(
きめ
)
て
了
(
しま
)
はう。
262
シヽヽ
確
(
し
つか
)
りと
腹帯
(
はらおび
)
を
締
(
し
)
めて
掛
(
かか
)
らぬと、
263
又
(
また
)
国依別
(
くによりわけ
)
にスヽヽ
す
つぱ
抜
(
ぬけ
)
を
喰
(
く
)
はされて
了
(
しま
)
ふぞ。
264
国依別
(
くによりわけ
)
の
奴
(
やつ
)
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
をしよつて、
265
セヽヽ
雪隠
(
せ
ついん
)
で
饅頭
(
まんぢう
)
食
(
く
)
たよな
面
(
つら
)
をしてゐやがるのが
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
つて
堪
(
たま
)
らぬぢやないか?』
266
秋山別
『ソヽヽ
そ
らさうぢや。
267
互
(
たがひ
)
にしつかりせぬと、
268
タヽヽ
忽
(
た
ちま
)
ち……
忽
(
た
ちま
)
ちぢや。
269
チヽヽ
血道
(
ち
みち
)
を
分
(
わ
)
けて、
270
ツヽヽ
附
(
つ
)
き
纒
(
まと
)
うた、
271
テヽヽ、
272
天女
(
て
んによ
)
の
様
(
やう
)
な
御
(
お
)
姫
(
ひめ
)
さまを、
273
トヽヽ
取
(
と
)
られて
了
(
しま
)
うて、
274
ナヽヽ、
275
情
(
な
さけ
)
ないぢなないか。
276
ニヽヽ
二
(
に
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
能
(
よ
)
い
面
(
つら
)
曝
(
さらし
)
て、
277
月夜
(
つきよ
)
に
釜
(
かま
)
を、
278
ヌヽヽ
抜
(
ぬ
)
かれて
了
(
しま
)
ひ、
279
ネヽヽ
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから、
280
糞面白
(
くそおもしろ
)
くもない。
281
斯
(
こ
)
んな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
うて、
282
ノヽヽ
呑気
(
の
んき
)
な
顔
(
かほ
)
しても
居
(
を
)
られぬワイ。
283
ハヽヽ
早
(
は
や
)
う
何
(
なん
)
とか
良
(
よ
)
い
智慧
(
ちゑ
)
をめぐらし、
284
ヒヽヽ
秘密
(
ひ
みつ
)
の
奥
(
おく
)
を
探
(
さぐ
)
り、
285
妙
(
めう
)
を
尽
(
つく
)
し、
286
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
くフヽヽ
夫婦
(
ふ
うふ
)
になつて、
287
ヘヽヽ
平和
(
へ
いわ
)
な
家庭
(
かてい
)
を
作
(
つく
)
り、
288
姫
(
ひめ
)
をホヽヽ
ホ
ームの
女王
(
ぢよわう
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ
奉
(
たてまつ
)
り、
289
マヽヽ
ま
めやかに、
290
ミヽヽ
身
(
み
)
を
粉
(
こ
)
にして、
291
一言
(
ひとこと
)
も
背
(
そむ
)
かず、
292
女王
(
ぢよわう
)
さまのムヽヽ
無理
(
む
り
)
を
無理
(
む
り
)
と
思
(
おも
)
はずに
喜
(
よろこ
)
ンで
参
(
まゐ
)
り、
293
メヽヽ
滅多
(
め
つた
)
に
怒
(
おこ
)
らぬ
様
(
やう
)
にせなくては、
294
折角
(
せつかく
)
モヽヽ
貰
(
も
ら
)
うた
奥
(
おく
)
さまもサツパリ
駄目
(
だめ
)
になつて
了
(
しま
)
うかも
知
(
し
)
れないぞ』
295
モリスは
又
(
また
)
喋
(
しやべ
)
り
出
(
だ
)
した。
296
モリス
『ヤヽヽ
喧
(
や
かま
)
しワイ、
297
イヽヽ
い
ろいろとらつちもないことを、
298
ユヽヽ
言
(
ゆ
)
やがつて、
299
エヽヽ
縁起
(
え
んぎ
)
の
悪
(
わる
)
い、
300
ヨヽヽ
ヨ
タリスクを、
301
ラヽヽ
乱発
(
ら
んぱつ
)
し、
302
リヽヽ
理窟
(
り
くつ
)
にも
合
(
あは
)
ぬ
事
(
こと
)
を、
303
ルヽヽ
縷々
(
る
る
)
数万言
(
すうまんげん
)
を
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
て、
304
レヽヽ
廉恥心
(
れ
んちしん
)
を
一寸
(
ちよつと
)
弁
(
わきま
)
へぬか、
305
ロヽヽ
碌
(
ろ
く
)
でなし
奴
(
め
)
、
306
ワヽヽ
笑
(
わ
ら
)
はしやがる、
307
ヰヽヽ
何時迄
(
い
つまで
)
も
女
(
をんな
)
の
尻
(
しり
)
を、
308
ウヽヽ
迂路
(
う
ろ
)
々々
(
うろ
)
と、
309
うろつき
廻
(
まは
)
り、
310
エヽヽ
エ
ツパツパを
喰
(
く
)
はされても、
311
オヽヽ
お
前
(
まへ
)
はまだ
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めぬのか、
312
ガヽヽ
餓鬼
(
が
き
)
ぢやなア、
313
我利
(
が
り
)
我利
(
がり
)
亡者
(
まうじや
)
の、
314
ギヽヽ
義理
(
ぎ
り
)
知
(
し
)
らず
奴
(
め
)
、
315
グヽヽ
愚
(
ぐ
)
にもつかぬ
事
(
こと
)
を、
316
何時迄
(
いつまで
)
もグヅグヅと、
317
ゲヽヽ
げ
ん
糞
(
くそ
)
の
悪
(
わる
)
い、
318
ゴ
ヽヽ
御託
(
が
ふたく
)
を
並
(
なら
)
べ、
319
ザヽヽ
ザ
マが
悪
(
わる
)
いぞ。
320
ジヽヽ
ジ
つと
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
てて
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
い、
321
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
なズヽヽ
づ
法螺
(
ぼら
)
に
誰
(
たれ
)
がエリナだつて、
322
ゼヽヽ
膳
(
ぜ
ん
)
を
据
(
す
)
ゑるものかい、
323
ゾヽヽ
ぞ
ぞ
髪
(
かみ
)
が
立
(
た
)
つと
云
(
い
)
うて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すぞよ』
324
秋山別
(
あきやまわけ
)
も
又
(
また
)
負
(
まけ
)
ぬ
気
(
き
)
になり、
325
秋山別
『ダヽヽ
黙
(
だ
ま
)
れ、
326
矢釜
(
やかま
)
しいワイ。
327
ヂヽヽ
ぢ
つとして
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
328
ヅヽヽ
図々
(
づ
うづう
)
しくも
止
(
と
)
め
度
(
ど
)
もなく
喋
(
しや
)
べり
立
(
た
)
てよつて、
329
モウ
俺
(
おれ
)
もウンザリした。
330
勝手
(
かつて
)
に
喋
(
しやべ
)
つておけ、
331
デヽヽ
で
んでん
虫
(
むし
)
でさへも
家
(
いへ
)
を
持
(
も
)
つてるのに、
332
宿無
(
やどな
)
し
坊
(
ばう
)
奴
(
め
)
が、
333
ドヽヽ
ど
こまでも
毒
(
ど
く
)
つきよつて、
334
バヽヽ
馬鹿
(
ば
か
)
にするも
程
(
ほど
)
があるワイ。
335
此
(
この
)
上
(
うへ
)
何
(
なん
)
なつと
吐
(
ほざ
)
いて
見
(
み
)
よ、
336
ビヽヽ
貧乏
(
び
んばふ
)
揺
(
ゆる
)
ぎもならぬよに
霊
(
れい
)
をかけて
封
(
ふう
)
じてやろか。
337
ブヽヽ
無細工
(
ぶ
さいく
)
な
鯱面
(
しやちつら
)
をし
依
(
よ
)
つて、
338
ベヽヽ
べ
らべらと
色男
(
いろをとこ
)
気取
(
きどり
)
で、
339
何
(
なに
)
を
吐
(
ほざ
)
くのだい、
340
ボヽヽ
ぼ
けの
粕
(
かす
)
奴
(
め
)
が』
341
モリスは
又
(
また
)
喋
(
しやべ
)
り
出
(
だ
)
す。
342
モリス
『パヽピヽプヽペヽポヽと
庇
(
へ
)
をこいた
様
(
やう
)
な
庇理窟
(
へりくつ
)
をやめて、
343
是
(
これ
)
から
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
を
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
アイウエオだ。
344
さうすれば
向方
(
むかう
)
だつて
結局
(
しまひ
)
にはお
前
(
まへ
)
さま
私
(
わたし
)
に
向
(
むか
)
つてナニヌネノなさると
言
(
い
)
はれまい。
345
終
(
しま
)
ひの
果
(
はて
)
にやサシスセソだ。
346
彼奴
(
あいつ
)
の
事
(
こと
)
思
(
おも
)
うと、
347
何時
(
いつ
)
も
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
348
タチツテトだ。
349
暗
(
くら
)
がりに○○の○○へハヒフヘホして
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされ、
350
恥
(
はぢ
)
をカキクケコやるよりも、
351
あのナイスをワヰウヱヲにして
了
(
しま
)
うのだなア。
352
サア
神懸
(
かむがか
)
りや
口卜
(
くちうら
)
で
伺
(
うかが
)
つて
居
(
を
)
つても
根
(
ね
)
つからマミムメモな
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らして
呉
(
く
)
れないから、
353
実地
(
じつち
)
が
一番
(
いちばん
)
早道
(
はやみち
)
だ。
354
キツと
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
で
陥穽
(
おとしあな
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
355
誰
(
たれ
)
か
強
(
つよ
)
い
人
(
ひと
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て
私
(
わたし
)
を
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けて
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
かなア……と
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
をついてるかも
知
(
し
)
れないよ。
356
サア
天狗
(
てんぐ
)
の
託宣
(
たくせん
)
ぢやないが、
357
マラソン
競争
(
きやうそう
)
で
決勝点
(
けつしようてん
)
を
得
(
え
)
た
者
(
もの
)
が
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
のハズバンドだ。
358
スヰートハートし
切
(
き
)
つたナイスを
無下
(
むげ
)
に
見殺
(
みごろ
)
しにするのも、
359
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
たない。
360
都合
(
つがふ
)
よく
陥
(
はま
)
つて
居
(
を
)
れば
良
(
よ
)
いがなア、
361
秋公
(
あきこう
)
』
362
秋山別
『さうすれば
此
(
この
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
が、
363
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
さまをグツと
抱上
(
だきあ
)
げ……これはこれはどなたかと
思
(
おも
)
へば、
364
ヒルの
館
(
やかた
)
の
楓別
(
かへでわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
妹
(
いもうと
)
の
紅井
(
くれなゐ
)
の
君
(
きみ
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
365
誠
(
まこと
)
に
危
(
あやふ
)
いとこで
御座
(
ござ
)
いましたが、
366
マアマア
結構
(
けつこう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
367
是
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふのも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
かげ、
368
第一
(
だいいち
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
舎身
(
しやしん
)
的
(
てき
)
活動
(
くわつどう
)
の
結果
(
けつくわ
)
で
御座
(
ござ
)
いますワイ……と
円滑
(
ゑんくわつ
)
に
高飛車
(
たかびしや
)
に
言霊車
(
ことたまぐるま
)
を
運転
(
うんてん
)
さす、
369
さうすると
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
玉
(
たま
)
の
涙
(
なみだ
)
を
泛
(
うか
)
べ
給
(
たま
)
ひ……
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へばお
前
(
まへ
)
は
秋山別
(
あきやまわけ
)
であつたか、
370
これ
程
(
ほど
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
人
(
ひと
)
があつても、
371
妾
(
わたし
)
に
命
(
いのち
)
がけの
同情
(
どうじやう
)
をして
呉
(
く
)
れる
者
(
もの
)
はお
前
(
まへ
)
より
無
(
な
)
い、
372
あゝ
済
(
す
)
まなかつた。
373
そンな
親切
(
しんせつ
)
な
男
(
をとこ
)
と
知
(
し
)
らずして、
374
今
(
いま
)
まで
飯
(
めし
)
の
上
(
うへ
)
の
蠅
(
はへ
)
を
追
(
お
)
うやうに
すげ
なうしたのは、
375
済
(
す
)
まなかつた。
376
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
377
相変
(
あひかは
)
らず
可愛
(
かあい
)
がつて
頂戴
(
ちやうだい
)
ね……なんて
反対
(
はんたい
)
に
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
さまの
方
(
はう
)
からラバーすると
云
(
い
)
ふ
段取
(
だんど
)
りだ。
378
イヒヽヽヽウフヽヽヽエヘヽヽヽオホヽヽヽおゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
いイヤお
芽出
(
めで
)
たい。
379
割
(
わり
)
なき
仲
(
なか
)
となつて
御
(
お
)
互
(
たがひ
)
に
面白
(
おもしろ
)
く
可笑
(
おか
)
しく
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
送
(
おく
)
るのだなア。
380
泣
(
な
)
いて
暮
(
くら
)
すも
一生
(
いつしやう
)
なら、
381
笑
(
わら
)
つて
暮
(
くら
)
すも
一生
(
いつしやう
)
だ。
382
アハヽヽヽ、
383
モリ
公
(
こう
)
、
384
どうだい』
385
モリス
『
勝手
(
かつて
)
に
何
(
なん
)
なつと
言
(
い
)
つて、
386
糠喜
(
ぬかよろこ
)
びをして
居
(
ゐ
)
るが
好
(
よ
)
いワ。
387
サア
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
決勝点
(
けつしようてん
)
に
達
(
たつ
)
した
者
(
もの
)
がハズバンドだ。
388
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
389
大天狗
(
だいてんぐ
)
の
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しだから、
390
……オイ、
391
グヅグヅしてると、
392
丸木橋
(
まるきばし
)
のあたりで
日
(
ひ
)
でも
暮
(
く
)
れようものなら、
393
例
(
れい
)
のホヽヽヽヽだよ。
394
サア
行
(
ゆ
)
かう』
395
と
尻
(
しり
)
ひつからげ、
396
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
を
後
(
あと
)
に、
397
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に、
398
又
(
また
)
もや
日暮
(
ひぐら
)
シ
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
399
(
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