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第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
01 主一無適
〔867〕
02 大地震
〔868〕
03 救世神
〔869〕
04 不知恋
〔870〕
05 秋鹿の叫
〔871〕
06 女弟子
〔872〕
第2篇 紅裙隊
07 妻の選挙
〔873〕
08 人獣
〔874〕
09 誤神託
〔875〕
10 噂の影
〔876〕
11 売言買辞
〔877〕
12 冷い親切
〔878〕
13 姉妹教
〔879〕
第3篇 千里万行
14 樹下の宿
〔880〕
15 丸木橋
〔881〕
16 天狂坊
〔882〕
17 新しき女
〔883〕
18 シーズンの流
〔884〕
19 怪原野
〔885〕
20 脱皮婆
〔886〕
21 白毫の光
〔887〕
第4篇 言霊将軍
22 神の試
〔888〕
23 化老爺
〔889〕
24 魔違
〔890〕
25 会合
〔891〕
余白歌
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第一五章
丸木橋
(
まるきばし
)
〔八八一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第3篇 千里万行
よみ(新仮名遣い):
せんりばんこう
章:
第15章 丸木橋
よみ(新仮名遣い):
まるきばし
通し章番号:
881
口述日:
1922(大正11)年08月19日(旧06月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
国依別は丸木橋に近づくと、安彦と宗彦に気合を入れ、自ら鶯のような女性の声色で宣伝歌を歌いだした。
その歌は、紅井姫もエリナも国依別に振られたように見せかけ、それぞれ秋山別、モリスに惚れて追ってきたかのように歌っていた。秋山別とモリスは、紅井姫とエリナが自分たちに惚れていたのだと思い込んでしまった。
三人は丸木橋を渡りきると、念入りにも森の木の皮に、紅井姫とエリナから秋山別とモリスに宛てたかのような恋文を書き込んだ。
秋山別とモリスは、国依別たちの偽の歌を聞いて、待ち構えていた橋の下の谷から上がってきた。そして紅井姫とエリナを追いかけ、国依別たちの偽の恋文を見つけ、有頂天になって追いかけ始めた。
国依別たちは、秋山別とモリスが追いかけてくるだろうと踏んで道を急ぎ、大木の上に上って休息した。
秋山別とモリスは、男の足で急いで来たのに女たちに追いつかないことを不審に思い、追い越してしまったのだろうと考えた。そして国依別らが休んでいる木の下にやってきて、そこで休息してしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-09 16:14:43
OBC :
rm3115
愛善世界社版:
176頁
八幡書店版:
第6輯 107頁
修補版:
校定版:
181頁
普及版:
83頁
初版:
ページ備考:
001
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
勢
(
いきほひ
)
込
(
こ
)
ンで、
002
秋
(
あき
)
、
003
モリ
二人
(
ふたり
)
の
計略
(
けいりやく
)
の
裏
(
うら
)
をかいてやらむと、
004
ホクホクし
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
ンで
行
(
ゆ
)
く。
005
此方
(
こちら
)
の
山裾
(
やますそ
)
から
向方
(
むかう
)
の
山裾
(
やますそ
)
に
渡
(
わた
)
る
相当
(
さうたう
)
に
深
(
ふか
)
い
谷川
(
たにがは
)
に、
006
長
(
なが
)
さ
四間
(
よんけん
)
位
(
くらゐ
)
な
丸木橋
(
まるきばし
)
が
架
(
か
)
かつてゐる。
007
国依別
『サア
戦場
(
せんじやう
)
に
近寄
(
ちかよ
)
つた。
008
両人共
(
りやうにんとも
)
に、
009
ここで
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
高
(
たか
)
らかに
歌
(
うた
)
うのだぞ』
010
安彦
『
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
さうと
思
(
おも
)
へば、
011
自然
(
しぜん
)
低
(
ひく
)
く
細
(
ほそ
)
くなるなり、
012
向方
(
むかう
)
の
奴
(
やつ
)
に
聞
(
きこ
)
える
様
(
やう
)
にせうと
思
(
おも
)
へば
地声
(
ぢごゑ
)
が
出
(
で
)
るなり、
013
安彦
(
やすひこ
)
も
困
(
こま
)
つたものですワ』
014
国依別
『ナニ、
015
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
守護
(
しゆご
)
で、
016
キツと
鶯
(
うぐひす
)
の
谷渡
(
たにわた
)
りの
様
(
やう
)
な
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るよ。
017
そこが
言霊
(
ことたま
)
の
妙用
(
めうよう
)
だ。
018
……サア
行
(
ゆ
)
かう、
019
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
から
出
(
だ
)
さず、
020
乳
(
ちち
)
のあたりから
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
すのだ』
021
と
細
(
ほそ
)
き
涼
(
すず
)
しき
松虫
(
まつむし
)
のやうな
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
で、
022
一本橋
(
いつぽんばし
)
の
袂
(
たもと
)
に
差
(
さし
)
かかり、
023
国依別
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
024
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立分
(
たてわ
)
ける
025
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
026
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
027
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
028
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
029
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
030
恋
(
こひ
)
しと
思
(
おも
)
ふ
国
(
くに
)
さまは
031
どこにどうして
御座
(
ござ
)
るやら
032
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
俺
(
おれ
)
よりも
033
一足先
(
ひとあしさき
)
へと
言
(
い
)
はしやつた
034
さぞ
今頃
(
いまごろ
)
はどこやらの
035
ナイスに
袂
(
たもと
)
を
引
(
ひ
)
つぱられ
036
放
(
はな
)
してお
呉
(
く
)
れと
国
(
くに
)
さまは
037
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
やエリナ
姫
(
ひめ
)
038
天女
(
てんによ
)
の
様
(
やう
)
な
妻
(
つま
)
がある
039
お
門
(
かど
)
が
広
(
ひろ
)
い
早放
(
はやはな
)
せ
040
なぞと
困
(
こま
)
つて
御座
(
ござ
)
るだらう
041
私
(
わたし
)
の
恋
(
こひ
)
は
奥山
(
おくやま
)
の
042
細谷川
(
ほそたにがは
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
043
渡
(
わた
)
るはこわし
渡
(
わた
)
らねば
044
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
惚切
(
ほれき
)
つた
045
秋山別
(
あきやまわけ
)
に
会
(
あ
)
はれない
046
秋山
(
あきやま
)
さまも
情
(
なさけ
)
ない
047
惚
(
ほれ
)
た
弱味
(
よわみ
)
で
厭
(
いや
)
さうに
048
ピンとはねたら
真
(
ま
)
にうけて
049
怒
(
おこ
)
つて
御座
(
ござ
)
るか
自烈
(
じれつ
)
たい
050
私
(
わたし
)
の
誠
(
まこと
)
の
心根
(
こころね
)
は
051
国依別
(
くによりわけ
)
の
四十
(
しじふ
)
男
(
をとこ
)
052
親
(
おや
)
と
子
(
こ
)
程
(
ほど
)
違
(
ちが
)
ふのに
053
どうしてそれが
惚
(
ほれ
)
られよ
054
惚
(
ほれ
)
たと
云
(
い
)
ふは
表向
(
おもてむ
)
き
055
又
(
また
)
モリさまも
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かぬ
056
仮令
(
たとへ
)
田舎
(
ゐなか
)
の
娘
(
むすめ
)
でも
057
エリナと
云
(
い
)
つたら
界隈
(
かいわい
)
で
058
指
(
ゆび
)
をさされた
此
(
この
)
ナイス
059
男心
(
をとこごころ
)
と
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
060
私
(
わたし
)
の
腹
(
はら
)
が
知
(
し
)
らしたい
061
秋山
(
あきやま
)
さまも
余
(
あんま
)
りぢや
062
モリスさままで
私
(
わたし
)
をば
063
情
(
つれ
)
ない
女
(
をなご
)
と
誤解
(
ごかい
)
して
064
怒
(
おこ
)
つて
御座
(
ござ
)
るか
情
(
なさけ
)
ない
065
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
八百万
(
やほよろづ
)
066
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
八百万
(
やほよろづ
)
067
仮令
(
たとへ
)
野山
(
のやま
)
の
果
(
はて
)
までも
068
秋山
(
あきやま
)
さまやモリスさま
069
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
うて
尋
(
たづ
)
ね
行
(
ゆ
)
き
070
嫌
(
いや
)
と
言
(
い
)
はれよが
如何
(
どう
)
せうが
071
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
みたる
此
(
この
)
恋路
(
こひぢ
)
072
石
(
いし
)
の
唐柩
(
からと
)
にかくるとも
073
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
さねばおくものか
074
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
075
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
はひて
076
秋山
(
あきやま
)
さまやモリスさま
077
尊
(
たふと
)
き
御
(
お
)
顔
(
かほ
)
を
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
078
手
(
て
)
を
引合
(
ひきあ
)
うて
行
(
い
)
けるなら
079
此
(
この
)
橋
(
はし
)
無事
(
ぶじ
)
にやすやすと
080
向方
(
むかう
)
へ
渡
(
わた
)
して
下
(
くだ
)
されや
081
私
(
わたし
)
が
恋
(
こひ
)
を
仕遂
(
しと
)
げるか
082
仕
(
し
)
とげられぬか
此
(
この
)
橋
(
はし
)
が
083
私
(
わたし
)
に
取
(
と
)
つての
辻占
(
つじうら
)
ぢや
084
もしも
渡
(
わた
)
れぬ
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
085
秋山
(
あきやま
)
さまに
添
(
そ
)
はれない
086
モリスさまにも
会
(
あ
)
はれない
087
女
(
をんな
)
の
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふものは
088
好
(
す
)
きで
叶
(
かな
)
はぬ
男
(
をとこ
)
をば
089
厭
(
いや
)
ぢや
厭
(
いや
)
ぢやとはねつける
090
これが
私
(
わたし
)
の
弱点
(
じやくてん
)
ぢや
091
一
(
いつ
)
そ
肝玉
(
きもだま
)
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
して
092
秋山
(
あきやま
)
さまが
言
(
い
)
ひよつた
093
時
(
とき
)
に
頭
(
あたま
)
を
縦
(
たて
)
に
振
(
ふ
)
り
094
ウンと
云
(
い
)
ふときやよかつたに
095
どうやら
男
(
をとこ
)
の
居
(
を
)
りさうな
096
香
(
にほひ
)
がプンとして
来
(
き
)
たぞ
097
ホンに
危
(
あぶ
)
ない
丸木橋
(
まるきばし
)
098
エリナ
用心
(
ようじん
)
なさりませ』
099
安彦
(
やすひこ
)
は
又
(
また
)
唄
(
うた
)
ふ。
100
安彦
『いえいえ
私
(
わたし
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
101
姫
(
ひめ
)
さまあなたは
足弱
(
あしよわ
)
ぢや
102
どうぞ
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなされませ
103
もしも
誤
(
あやま
)
り
谷川
(
たにがは
)
に
104
落
(
お
)
ちて
生命
(
いのち
)
を
棄
(
す
)
てたなら
105
秋山
(
あきやま
)
さまに
申訳
(
まをしわけ
)
106
どうしてどうして
立
(
た
)
ちませう
107
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
108
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
109
秋
(
あき
)
、
110
モリの
二人
(
ふたり
)
は
丸木橋
(
まるきばし
)
に
太
(
ふと
)
い
藤
(
ふぢ
)
づるを
括
(
くく
)
りつけ、
111
国依別
(
くによりわけ
)
の
声
(
こゑ
)
を
合図
(
あひづ
)
に『
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
み
)
イ』で
引張
(
ひつぱ
)
りおとさうと、
112
手具脛
(
てぐすね
)
ひいて
待
(
ま
)
つてゐる。
113
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
に
立
(
た
)
ち
止
(
と
)
まつて
女
(
をんな
)
の
歌
(
うた
)
が
聞
(
きこ
)
えてゐる。
114
よくよく
歌
(
うた
)
の
文句
(
もんく
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
115
思
(
おも
)
ひがけなきかぐはしい
歌
(
うた
)
である。
116
秋山別
『ヤツパリ
女
(
をんな
)
はこンなものかいな、
117
モリス。
118
モ
一
(
ひと
)
つ
押強
(
おしつよ
)
く
行
(
い
)
けば
成功
(
せいこう
)
したのだけれど、
119
余
(
あんま
)
りスヰートハートした
弱味
(
よわみ
)
に、
120
ヨウ
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
りやらなかつたのが
此方
(
こちら
)
の
不調法
(
ぶてうほう
)
だ。
121
流石
(
さすが
)
は
俺
(
おれ
)
が
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
む
丈
(
だけ
)
あつて、
122
優
(
やさ
)
しい
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
だワイ。
123
始
(
はじ
)
めて
美
(
うる
)
はしい
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
を
承
(
うけたま
)
はり、
124
これで
死
(
し
)
ンでも
得心
(
とくしん
)
だ。
125
あの
歌
(
うた
)
の
文句
(
もんく
)
で
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ると、
126
国依別
(
くによりわけ
)
の
奴
(
やつ
)
、
127
どつかで
又
(
また
)
道草
(
みちくさ
)
を
食
(
く
)
ひよつて、
128
スベタ
女
(
をんな
)
にチヤホヤされて、
129
涎
(
よだれ
)
をくつて、
130
脂下
(
やにさ
)
がつて
居
(
ゐ
)
よるのだらう。
131
見切
(
みき
)
りのよい、
132
前
(
さき
)
の
見
(
み
)
えるお
姫
(
ひめ
)
さまは、
133
たうとう
国依別
(
くによりわけ
)
に
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
134
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
が
先
(
さき
)
に
行
(
い
)
つたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
135
誰
(
たれ
)
かに
聞
(
き
)
いて、
136
はるばるとやつて
御座
(
ござ
)
つたのだな。
137
併
(
しか
)
しあンな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
138
国依別
(
くによりわけ
)
が
交
(
まじ
)
つて
居
(
ゐ
)
るかも
知
(
し
)
れぬ。
139
何分
(
なにぶん
)
斯
(
こ
)
う
樹木
(
じゆもく
)
が
茂
(
しげ
)
つて
居
(
を
)
つては、
140
声
(
こゑ
)
は
聞
(
きこ
)
えても
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えぬのだから、
141
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
がある
代
(
かは
)
りには、
142
又
(
また
)
都合
(
つがふ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
があるワイ。
143
のうモリ
公
(
こう
)
』
144
と
小
(
ちい
)
さい
声
(
こゑ
)
でブツブツ
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
145
国依別
(
くによりわけ
)
は
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
にて、
146
国依
(
くにより
)
『エリナさま、
147
私
(
わたし
)
、
148
此
(
この
)
一本橋
(
いつぽんばし
)
、
149
どうして
渡
(
わた
)
りませうかね。
150
足
(
あし
)
が
慄
(
ふる
)
ひますワ』
151
安彦
(
やすひこ
)
『
嬢
(
ぢやう
)
さま、
152
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
153
エリナがついてをります。
154
此
(
この
)
丸木橋
(
まるきばし
)
さへ
御
(
お
)
渡
(
わた
)
りになれば、
155
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
御
(
お
)
慕
(
した
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす、
156
秋山
(
あきやま
)
さまにキツと
会
(
あ
)
はれますよ。
157
私
(
わたし
)
だつて
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
そめたモリスさまに
会
(
あ
)
うて、
158
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げねば、
159
どうして
此
(
この
)
儘
(
まま
)
帰
(
かへ
)
れませう。
160
あの
好
(
よ
)
い
男
(
をとこ
)
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
て、
161
外
(
ほか
)
の
女
(
をんな
)
に
取
(
と
)
られて
了
(
しま
)
つちや
大変
(
たいへん
)
ですからねイ』
162
国依
(
くにより
)
『さうねい、
163
さうなら、
164
そつと
渡
(
わた
)
りませうか。
165
何
(
なん
)
だかグキグキして
怖
(
こわ
)
い
橋
(
はし
)
だワ』
166
安彦
(
やすひこ
)
『
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
167
国依別
(
くによりわけ
)
のやうな
悪人
(
あくにん
)
が
通
(
とほ
)
つたら、
168
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
綱
(
つな
)
を
引
(
ひつ
)
ぱつておとし
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れませぬが、
169
女
(
をんな
)
が
可愛
(
かあい
)
い
男
(
をとこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
行
(
ゆ
)
くのですもの、
170
丸木橋
(
まるきばし
)
だつて、
171
落
(
おち
)
さうな
事
(
こと
)
はありませぬワ。
172
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま、
173
モリスさまの
一心
(
いつしん
)
でも、
174
落
(
おと
)
さぬやうに
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さいますこと
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
ますワ』
175
国依
(
くにより
)
『
此
(
この
)
橋
(
はし
)
渡
(
わた
)
ると
秋山
(
あきやま
)
さまに
会
(
あ
)
へるの……、
176
私
(
わたし
)
嬉
(
うれ
)
しいワ』
177
安彦
(
やすひこ
)
『それは
其
(
その
)
筈
(
はず
)
で
御座
(
ござ
)
います。
178
私
(
わたし
)
だつて、
179
あの
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
いモリスさまにさへも
是丈
(
これだけ
)
こがれて
居
(
ゐ
)
るのですもの。
180
秋山
(
あきやま
)
さまのやうな
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
に
御
(
お
)
惚
(
ほれ
)
遊
(
あそ
)
ばしますのは
無理
(
むり
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬワ。
181
ホヽヽヽヽ』
182
国依
(
くにより
)
『ホヽヽヽヽおゝ
恥
(
はづ
)
かしい、
183
モシ、
184
エリナさま、
185
是
(
これ
)
きりで
云
(
い
)
はないやうにして
下
(
くだ
)
さいや。
186
サア
早
(
はや
)
う
参
(
まゐ
)
りませう』
187
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
188
国依別
(
くによりわけ
)
一行
(
いつかう
)
は
恙
(
つつが
)
なく
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
り、
189
谷路
(
たにみち
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みにかくれて
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
に
鞭
(
むち
)
をうち、
190
四五
(
しご
)
丁
(
ちやう
)
計
(
ばか
)
り
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したり。
191
国依別
『アハヽヽヽ、
192
ズイ
分
(
ぶん
)
甘
(
うま
)
く
行
(
い
)
つたねい。
193
ヤツパリ
吾々
(
われわれ
)
を
女
(
をんな
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るらしいよ、
194
一
(
ひと
)
つ
此
(
この
)
木
(
き
)
の
皮
(
かは
)
を
削
(
けづ
)
つて、
195
何
(
なん
)
とか
印
(
しるし
)
をしておかうかいナア、
196
両人
(
りやうにん
)
』
197
安彦
(
やすひこ
)
は、
198
『ハイ、
199
宜
(
よろ
)
しう
御座
(
ござ
)
います』と
短刀
(
たんたう
)
を
取出
(
とりいだ
)
し、
200
若
(
わか
)
き
欅
(
けやき
)
の
皮
(
かは
)
を
少
(
すこ
)
しく
削
(
けづ
)
り、
201
あたりに
実
(
みの
)
つて
居
(
ゐ
)
る
烏羽玉
(
うばたま
)
の
実
(
み
)
を
手
(
て
)
に
取
(
と
)
り、
202
其
(
その
)
汁
(
しる
)
にて、
203
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
、
204
エリナの
両人
(
りやうにん
)
ここを
通
(
とほ
)
りました。
205
万一
(
まんいち
)
、
206
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま、
207
モリスさま、
208
妾
(
わたし
)
よりお
後
(
あと
)
で
御座
(
ござ
)
いましたら、
209
どうぞ
追
(
お
)
つかけて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ。
210
さうして
橋
(
はし
)
を
国依別
(
くによりわけ
)
の
来
(
こ
)
ない
様
(
やう
)
に
落
(
おと
)
して
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいますれば、
211
尚々
(
なほなほ
)
安心
(
あんしん
)
です。
212
……
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
様
(
さま
)
……かよわき
女
(
をんな
)
より
213
と
書
(
か
)
きしるした。
214
国依別
『アハー
此奴
(
こいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
215
国依別
(
くによりわけ
)
が
先繰
(
せんぐ
)
り
先繰
(
せんぐ
)
り
剥
(
む
)
き
木
(
ぎ
)
をして、
216
至
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
印
(
しるし
)
を
入
(
い
)
れ、
217
どこ
迄
(
まで
)
もお
伴
(
とも
)
をさしてやらうかな。
218
さうすれば
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にかは
改心
(
かいしん
)
するだらう。
219
アハヽヽヽ』
220
秋
(
あき
)
、
221
モリの
二人
(
ふたり
)
はあわてて
谷底
(
たにそこ
)
より
橋
(
はし
)
の
向
(
むか
)
ふ
側
(
がは
)
にかけ
上
(
のぼ
)
り、
222
秋山別
『オイ、
223
モリス、
224
確
(
たしか
)
に
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
にエリナの
声
(
こゑ
)
だつたが、
225
併
(
しか
)
しスウスウと
渡
(
わた
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
226
何
(
なん
)
とはなしに
変哲
(
へんてつ
)
がないぢやないか。
227
時鳥
(
ほととぎす
)
お
声
(
こゑ
)
は
聞
(
き
)
けど
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えぬ、
228
秋
(
あき
)
モリの
金神
(
こんじん
)
蔭
(
かげ
)
から
守
(
まも
)
りてをりたぞよ。
229
此
(
この
)
事
(
こと
)
分
(
わか
)
りて
来
(
き
)
たら、
230
いかな
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
も、
231
エリナもアフンと
致
(
いた
)
して
改心
(
かいしん
)
を
遊
(
あそ
)
ばすぞよ……そないしてまで
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さつたか、
232
ここは
世界
(
せかい
)
の
大橋
(
おおはし
)
、
233
此処
(
ここ
)
を
渡
(
わた
)
らねば
誠
(
まこと
)
の
男
(
をとこ
)
には
会
(
あ
)
へぬぞよ。
234
西
(
にし
)
と
東
(
ひがし
)
とに
立
(
たて
)
わけて、
235
神
(
かみ
)
が
守護
(
しゆご
)
がしてあるぞよ、
236
神
(
かみ
)
は
嘘
(
うそ
)
を
申
(
まを
)
さぬぞよと、
237
三五教
(
あななひけう
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
もどきに、
238
キツとお
姫
(
ひめ
)
さまが
秋
(
あき
)
モリの
金神
(
こんじん
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
讃歎
(
さんたん
)
し、
239
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばすにきまつてるワ、
240
今
(
いま
)
聞
(
きこ
)
えた、
241
あの
声
(
こゑ
)
、
242
さう
遠
(
とほ
)
くは、
243
女
(
をんな
)
の
足
(
あし
)
で、
244
行
(
い
)
つては
居
(
を
)
られまい。
245
サア
早
(
はや
)
く
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
に
鞭
(
むち
)
をうつて
進
(
すす
)
まうぢやないか。
246
谷間
(
たにあひ
)
の
一筋道
(
ひとすぢみち
)
、
247
メツタに
間違
(
まちが
)
う
気遣
(
きづか
)
ひはあるまいて、
248
君
(
きみ
)
はまだ
遠
(
とほ
)
くは
行
(
ゆ
)
かじ
吾
(
わが
)
袖
(
そで
)
の
袂
(
たもと
)
の
涙
(
なみだ
)
かわき
果
(
は
)
てねば
249
とか
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
があるぢやないか。
250
キツと
遠
(
とほ
)
くに
行
(
ゆ
)
くまい。
251
サア
駆足
(
かけあし
)
々々
(
かけあし
)
』
252
オツチニオツチニと
四股
(
しこ
)
ふみ
乍
(
なが
)
ら、
253
僅
(
わづか
)
に
足
(
あし
)
を
入
(
い
)
るる
計
(
ばか
)
り、
254
細
(
ほそ
)
くついた
谷道
(
たにみち
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
255
三
(
さん
)
尺
(
しやく
)
計
(
ばか
)
り
廻
(
まは
)
つた、
256
欅
(
けやき
)
の
若木
(
わかぎ
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
いて、
257
何
(
なん
)
だかしるしてある。
258
能
(
よ
)
く
見
(
み
)
れば、
259
案
(
あん
)
に
違
(
たが
)
はず、
260
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
、
261
エリナの
二人
(
ふたり
)
がここを
通
(
とほ
)
り、
262
……どうぞお
二人共
(
ふたりとも
)
、
263
まだ
後
(
あと
)
ならば、
264
此
(
この
)
印
(
しるし
)
を
見
(
み
)
てついて
来
(
き
)
てくれ……と
云
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
の
文面
(
ぶんめん
)
を
見
(
み
)
て、
265
二人
(
ふたり
)
は
躍
(
をど
)
りあがり、
266
秋山別、モリス
『ヤア、
267
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
268
是
(
こ
)
れだから、
269
どこ
迄
(
まで
)
もやり
通
(
とほ
)
さねば、
270
恋
(
こひ
)
の
難関
(
なんくわん
)
は
越
(
こ
)
えられぬと
云
(
い
)
ふのだ。
271
サア、
272
グヅグヅしては
居
(
を
)
られまい、
273
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
274
モウ
一
(
ひと
)
きばりだ。
275
さうすればキツと
追
(
お
)
ひ
付
(
つ
)
けるにきまつてるワ』
276
と
又
(
また
)
もや
駆出
(
かけだ
)
す
其
(
その
)
可笑
(
おか
)
しさ。
277
国依別
(
くによりわけ
)
一行
(
いつかう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
必
(
かなら
)
ず
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけ
来
(
く
)
るに
相違
(
さうゐ
)
なしとコンパスに
油
(
あぶら
)
をさし、
278
喉
(
のど
)
の
汽笛
(
きてき
)
に
水
(
みづ
)
をドツサリ
注入
(
ちうにふ
)
し
巴奈馬
(
パナマ
)
運河
(
うんが
)
を
無事
(
ぶじ
)
通過
(
つうくわ
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
279
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆出
(
かけいだ
)
し、
280
コンモリとした
山桃
(
やまもも
)
の
大木
(
たいぼく
)
を
見
(
み
)
つけ、
281
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
駆
(
かけ
)
あがり、
282
樹上
(
じゆじやう
)
に
胡坐
(
あぐら
)
をかき
山桃
(
やまもも
)
の
水
(
みづ
)
の
垂
(
た
)
る
様
(
やう
)
なのを、
283
むし
り
取
(
と
)
つて
食
(
く
)
つて
居
(
を
)
る。
284
枝葉
(
しよう
)
密生
(
みつせい
)
し、
285
どうしても
下
(
した
)
から、
286
見
(
み
)
ることは
出来
(
でき
)
なかつた。
287
秋
(
あき
)
、
288
モリの
二人
(
ふたり
)
は
喉
(
のど
)
をかわかせ、
289
秋山別
『オイ、
290
モリス、
291
是
(
こ
)
れ
丈
(
だけ
)
急速力
(
きふそくりよく
)
でやつて
来
(
き
)
たのに、
292
追
(
お
)
つつかれない
筈
(
はず
)
はないぢやないか。
293
俺
(
おれ
)
やモウ
喉
(
のど
)
の
汽笛
(
きてき
)
が
鳴
(
な
)
り
出
(
だ
)
した。
294
此
(
この
)
上
(
うへ
)
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
だつて
歩
(
ある
)
けやしない。
295
幸
(
さいは
)
ひそこに
山桃
(
やまもも
)
の
甘
(
うま
)
さうな
奴
(
やつ
)
がなつてるぢやないか。
296
ここで
一
(
ひと
)
つ
山桃
(
やまもも
)
でも
取
(
と
)
つて
喉
(
のど
)
をうるほして
行
(
ゆ
)
かうかい』
297
モリス
『さうだなア、
298
秋山別
(
あきやまわけ
)
、
299
随分
(
ずいぶん
)
甘
(
うま
)
さうだ。
300
マアゆつくり
一服
(
いつぷく
)
して
往
(
ゆ
)
くことにせう。
301
姫
(
ひめ
)
さまだつて
足
(
あし
)
を
痛
(
いた
)
め、
302
傍
(
かたはら
)
の
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
で
休
(
やす
)
みて
御座
(
ござ
)
つたのを
知
(
し
)
らずに
此処
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
たのかも
知
(
し
)
れないよ。
303
さうでなくては、
304
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
息
(
いき
)
が
切
(
き
)
れる
程
(
ほど
)
始終苦
(
四十九
)
節
(
ノツト
)
の
大速力
(
だいそくりよく
)
大急行
(
だいきふかう
)
でやつて
来
(
き
)
たのに、
305
追
(
お
)
つつかぬ
筈
(
はず
)
がない。
306
マアゆつくりと
此処
(
ここ
)
で
待
(
ま
)
つことにせうかい。
307
キツと
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
にはお
出
(
いで
)
遊
(
あそ
)
ばすに
定
(
き
)
まつてゐるワ。
308
確
(
たしか
)
に
女
(
をんな
)
の
手
(
て
)
であの
通
(
とほ
)
り
書
(
か
)
いてあつたなり、
309
橋
(
はし
)
をお
渡
(
わた
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
時
(
とき
)
のあの
声
(
こゑ
)
つたら、
310
今
(
いま
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
しても
涎
(
よだれ
)
が
落
(
お
)
つるやうだ。
311
あゝ
本当
(
ほんたう
)
に
可愛
(
かあい
)
いお
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
だなア。
312
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
ここへお
通
(
とほ
)
りになる
迄
(
まで
)
、
313
此
(
この
)
木
(
き
)
の
下
(
した
)
で
休
(
やす
)
むことにせう。
314
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
たら、
315
ズイ
分
(
ぶん
)
甘
(
うま
)
いのがあるだらうけれど、
316
木登
(
きのぼ
)
りする
奴
(
やつ
)
と、
317
飛行機
(
ひかうき
)
に
乗
(
の
)
る
奴
(
やつ
)
と
広
(
ひろ
)
い
街道
(
かいだう
)
を
軒下
(
のきした
)
歩
(
ある
)
いて
看板
(
かんばん
)
で
頭
(
あたま
)
打
(
う
)
つ
奴
(
やつ
)
程
(
ほど
)
馬鹿
(
ばか
)
はないと
云
(
い
)
ふから、
318
マア
木登
(
きのぼ
)
りは
止
(
や
)
めにして、
319
低
(
ひく
)
く
垂
(
た
)
れ
下
(
さが
)
つた
甘
(
うま
)
さうな
山桃
(
やまもも
)
をとつて
辛抱
(
しんばう
)
せうかい』
320
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
321
低
(
ひく
)
き
枝
(
えだ
)
の
半熟
(
はんじゆく
)
の
山桃
(
やまもも
)
を
むし
り、
322
ムシヤムシヤと
喉
(
のど
)
をしめし、
323
腹
(
はら
)
をふくらせ、
324
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
首
(
くび
)
を
長
(
なが
)
うして
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
325
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
樹上
(
じゆじやう
)
にて
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
326
口
(
くち
)
を
押
(
おさ
)
へ、
327
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
ふなとの
合図
(
あひづ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
328
二人
(
ふたり
)
の
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
るのを、
329
もどかしげに
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たりける。
330
(
大正一一・八・一九
旧六・二七
松村真澄
録)
331
(昭和九・一二・一八 王仁校正)
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