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霊界物語
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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
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第51巻(寅の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第31巻(午の巻)
序歌
総説
第1篇 千状万態
01 主一無適
〔867〕
02 大地震
〔868〕
03 救世神
〔869〕
04 不知恋
〔870〕
05 秋鹿の叫
〔871〕
06 女弟子
〔872〕
第2篇 紅裙隊
07 妻の選挙
〔873〕
08 人獣
〔874〕
09 誤神託
〔875〕
10 噂の影
〔876〕
11 売言買辞
〔877〕
12 冷い親切
〔878〕
13 姉妹教
〔879〕
第3篇 千里万行
14 樹下の宿
〔880〕
15 丸木橋
〔881〕
16 天狂坊
〔882〕
17 新しき女
〔883〕
18 シーズンの流
〔884〕
19 怪原野
〔885〕
20 脱皮婆
〔886〕
21 白毫の光
〔887〕
第4篇 言霊将軍
22 神の試
〔888〕
23 化老爺
〔889〕
24 魔違
〔890〕
25 会合
〔891〕
余白歌
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第一七章
新
(
あたら
)
しき
女
(
をんな
)
〔八八三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
篇:
第3篇 千里万行
よみ(新仮名遣い):
せんりばんこう
章:
第17章 新しき女
よみ(新仮名遣い):
あたらしきおんな
通し章番号:
883
口述日:
1922(大正11)年08月20日(旧06月28日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
恋のとりことなった秋山別とモリスは、紅井姫とエリナ姫(実は旭明神と月日明神)に伴われて酷熱の太陽の下、大山脈のふもとを東南さして進んで行き、アマゾン河の支流である、シーズン河という大河の河堤にやってきた。
秋山別が紅井姫だと思っていた女は、河のほとりまで来ると、急に言動を変え、理詰めで秋山別を男として先見の明が無い古い人間だと非難を始めた。秋山別が何を言っても秋山別のこれまでの行動を非難し、秋山別が怒り出すと、河に飛び込んで消えてしまった。
秋山別は呆然としながらも、紅井姫の舌鋒や行動に辟易し、エリナを女房にしようとすればよかったなどと不謹慎なことを考えている。
そこへ、モリスとエリナが仲よさそうにやってきた。秋山別が、紅井姫が突然ハイカラな理屈を振りかざし出して、ついには河に身を投げてしまったと説明した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-11 19:36:50
OBC :
rm3117
愛善世界社版:
201頁
八幡書店版:
第6輯 116頁
修補版:
校定版:
206頁
普及版:
65頁
初版:
ページ備考:
001
恋
(
こひ
)
の
暗路
(
やみぢ
)
にふみ
迷
(
まよ
)
ひ
002
ブラジル
山
(
やま
)
の
谷底
(
たにそこ
)
迄
(
まで
)
003
情欲
(
じやうよく
)
の
鬼
(
おに
)
に
魅
(
み
)
せられて
004
モリス、
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
005
百津
(
ゆつ
)
常磐木
(
かつらぎ
)
の
山桃
(
やまもも
)
の
006
大木
(
たいぼく
)
の
株
(
かぶ
)
に
憩
(
いこ
)
ひつつ
007
悲
(
かな
)
しき
恋
(
こひ
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
008
山
(
やま
)
は
裂
(
さ
)
け
海
(
うみ
)
はあせなむ
世
(
よ
)
ありとも
009
いかで
忘
(
わす
)
れむ
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
010
エリナの
後
(
あと
)
をどこ
迄
(
まで
)
も
011
捜
(
さが
)
さにやおかぬと
雄健
(
をたけ
)
びし
012
俄
(
にはか
)
に
化
(
ばけ
)
た
木
(
き
)
の
上
(
うへ
)
の
013
天狗
(
てんぐ
)
相手
(
あひて
)
に
大問答
(
だいもんだう
)
014
烏鷺
(
うろ
)
闘
(
たたか
)
はす
最中
(
さいちう
)
に
015
夢
(
ゆめ
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
恋人
(
こひびと
)
が
016
不思議
(
ふしぎ
)
や
爰
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれて
017
恨
(
うらみ
)
の
数々
(
かずかず
)
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
て
018
お
前
(
まへ
)
は
情
(
つれ
)
ない
男
(
をとこ
)
ぞや
019
かよわき
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
020
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
や
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
の
021
伊猛
(
いたけ
)
り
叫
(
さけ
)
ぶ
山野原
(
やまのはら
)
022
慕
(
した
)
うて
尋
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
を
023
今迄
(
いままで
)
何処
(
どこ
)
にうろうろと
024
主
(
ぬし
)
なき
花
(
はな
)
を
手折
(
たお
)
りつつ
025
妾
(
わらは
)
二人
(
ふたり
)
を
振
(
ふ
)
り
棄
(
す
)
てて
026
こンな
所迄
(
とこまで
)
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ふ
027
情
(
つれ
)
ない
事
(
こと
)
がありませうか
028
男心
(
をとこごころ
)
と
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
029
空恐
(
そらおそ
)
ろしい
早変
(
はやがは
)
り
030
やいのやいのと
取
(
と
)
りついて
031
若
(
わか
)
い
男女
(
だんぢよ
)
の
囁
(
ささや
)
きも
032
二人
(
ふたり
)
は
遂
(
つひ
)
に
解
(
わ
)
け
合
(
あ
)
うて
033
お
前
(
まへ
)
の
優
(
やさ
)
しい
心根
(
こころね
)
を
034
モチいと
早
(
はや
)
く
知
(
し
)
つたなら
035
こンな
苦労
(
くらう
)
はせまいもの
036
恋
(
こひ
)
に
上下
(
じやうげ
)
の
隔
(
へだ
)
てない
037
さあさあお
出
(
い
)
でと
手
(
て
)
を
執
(
と
)
つて
038
怪
(
あや
)
しき
女
(
をんな
)
と
白雲
(
しらくも
)
の
039
山
(
やま
)
かき
分
(
わ
)
けて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
040
恋
(
こひ
)
の
擒
(
とりこ
)
となり
果
(
は
)
てし
041
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞ
042
憐
(
あはれ
)
なりける
次第
(
しだい
)
なり
043
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
044
神
(
かみ
)
の
御幸
(
みさち
)
を
蒙
(
かうむ
)
りて
045
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじゆう
)
の
情動
(
じやうだう
)
に
046
経験
(
けいけん
)
深
(
ふか
)
き
瑞月
(
ずゐげつ
)
や(
瑞月
(
ずゐげつ
)
)
047
浄写
(
じやうしや
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
048
狩野
(
かの
)
の
流
(
なが
)
れの
波
(
なみ
)
高
(
たか
)
く(波子)
049
杉
(
すぎ
)
の
林
(
はやし
)
を
村肝
(
むらきも
)
の
050
心
(
こころ
)
静
(
しづ
)
かに
眺
(
なが
)
めつつ(林静)
051
安楽
(
あんらく
)
椅子
(
いす
)
に
横
(
よこ
)
たはり
052
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
も
荒川
(
あらかは
)
の
053
飛沫
(
ひばつ
)
の
音
(
おと
)
もサワサワと
054
あたりの
人
(
ひと
)
を
敷島
(
しきしま
)
の
055
淡
(
あは
)
き
煙
(
けぶり
)
に
巻乍
(
まきなが
)
ら
056
国依別
(
くによりわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
が
057
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
のローマンス
058
いと
永々
(
ながなが
)
と
述
(
の
)
べたつる
059
此
(
この
)
物語
(
ものがたり
)
新
(
あたら
)
しき
060
歴史
(
れきし
)
の
様
(
やう
)
に
聞
(
きこ
)
ゆれど
061
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
五千
(
ごせん
)
年
(
ねん
)
062
万年筆
(
まんねんひつ
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
063
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
064
殆
(
ほとん
)
ど
三十万
(
さんじふまん
)
年
(
ねん
)
の
065
古
(
ふる
)
き
神代
(
かみよ
)
の
事
(
こと
)
ぞかし
066
二人
(
ふたり
)
に
憑
(
つ
)
いた
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
067
肉体
(
にくたい
)
かつて
経験
(
けいけん
)
を
068
喋
(
しやべ
)
つて
書
(
か
)
くと
思
(
おも
)
ふたら
069
非常
(
ひじやう
)
に
大
(
おほ
)
きな
間違
(
まちがひ
)
ぢや
070
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
071
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
見直
(
みなほ
)
して
072
すべてを
善意
(
ぜんい
)
に
解釈
(
かいしやく
)
し
073
此
(
この
)
物語
(
ものがたり
)
聞
(
き
)
いてたべ
074
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
誠
(
まこと
)
か
嘘
(
うそ
)
か
075
判断
(
はんだん
)
つかぬも
無理
(
むり
)
はない
076
今
(
いま
)
の
世人
(
よびと
)
の
心
(
こころ
)
では
077
神代
(
かみよ
)
の
人
(
ひと
)
は
押
(
お
)
し
並
(
な
)
べて
078
皆
(
みな
)
正直
(
しやうぢき
)
な
堅造
(
かたざう
)
で
079
情欲
(
じやうよく
)
などに
心
(
こころ
)
をば
080
奪
(
うば
)
はれ
苦
(
くる
)
しむ
人
(
ひと
)
なしと
081
誤解
(
ごかい
)
してゐる
眼
(
まなこ
)
より
082
此
(
この
)
物語
(
ものがたり
)
読
(
よ
)
むならば
083
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
であろ
084
過去
(
くわこ
)
と
現在
(
げんざい
)
未来
(
みらい
)
迄
(
まで
)
085
一貫
(
いつくわん
)
したる
神界
(
しんかい
)
の
086
真理
(
しんり
)
に
変
(
かは
)
りはなきものぞ
087
暫
(
しばら
)
くうぶの
心
(
こころ
)
もて
088
只
(
ただ
)
一片
(
いつぺん
)
の
神
(
かみ
)
の
代
(
よ
)
の
089
恋物語
(
こひものがたり
)
とけなさずに
090
心
(
こころ
)
をひそめて
読
(
よ
)
むならば
091
苦集
(
くしふ
)
滅道
(
めつだう
)
の
真諦
(
しんたい
)
を
092
確
(
たし
)
かに
悟
(
さと
)
り
村肝
(
むらきも
)
の
093
心
(
こころ
)
の
暗
(
やみ
)
の
明
(
あか
)
りとも
094
塩
(
しほ
)
ともなりて
諸々
(
もろもろ
)
の
095
罪
(
つみ
)
や
穢
(
けが
)
れを
清
(
きよ
)
め
得
(
う
)
る
096
清涼剤
(
せいりやうざい
)
と
信
(
しん
)
じつつ
097
あらあら
茲
(
ここ
)
に
述
(
の
)
べておく
098
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
099
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
100
恋
(
こひ
)
の
擒
(
とりこ
)
となつた
両人
(
りやうにん
)
は、
101
怪
(
あや
)
しき
女
(
をんな
)
に
伴
(
ともな
)
はれ、
102
茨
(
いばら
)
を
分
(
わ
)
け、
103
萱草
(
かやくさ
)
の
間
(
あひだ
)
を
潜
(
くぐ
)
り、
104
蜈蚣
(
むかで
)
、
105
大蜥蜴
(
おほとかげ
)
の
群
(
むれ
)
に
驚
(
をどろ
)
かされ、
106
蜂
(
はち
)
には
刺
(
さ
)
され、
107
虻
(
あぶ
)
には
咬
(
か
)
まれ、
108
蚋
(
ぶと
)
には
悩
(
なや
)
まされ、
109
酷熱
(
こくねつ
)
の
太陽
(
たいやう
)
に
曝
(
さら
)
され
乍
(
なが
)
ら、
110
果
(
は
)
てしも
知
(
し
)
らぬ
大山脈
(
だいさんみやく
)
の
麓
(
ふもと
)
を
東南
(
とうなん
)
指
(
さ
)
して、
111
当途
(
あてど
)
もなく
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
112
アマゾン
河
(
がは
)
の
支流
(
しりう
)
なる、
113
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
き
深
(
ふか
)
き、
114
シーズン
河
(
がは
)
と
云
(
い
)
ふ
河堤
(
かはづつみ
)
に、
115
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は、
116
漸
(
やうや
)
くにして
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
きぬ。
117
紅井姫
『
秋山別
(
あきやまわけ
)
さま、
118
あなたは
妾
(
わらは
)
を
何処迄
(
どこまで
)
つれて
往
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいますの』
119
秋山別
『あなたこそ、
120
私
(
わたし
)
を
何処迄
(
どこまで
)
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるのですか。
121
迷
(
まよ
)
ひ
迷
(
まよ
)
うた
恋
(
こひ
)
の
暗路
(
やみぢ
)
、
122
行手
(
ゆくて
)
が
知
(
し
)
れる
様
(
やう
)
なことなれば、
123
決
(
けつ
)
して
恋
(
こひ
)
とは
申
(
まを
)
しませぬワ。
124
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
後
(
うしろ
)
を
向
(
む
)
いては、
125
手招
(
てまね
)
きし、
126
早
(
はや
)
く
来
(
こ
)
い
来
(
こ
)
いと、
127
恋
(
こひ
)
の
手招
(
てまね
)
き
遊
(
あそ
)
ばしたのを
楽
(
たのし
)
みに、
128
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
はなく、
129
見失
(
みうしな
)
つては
大変
(
たいへん
)
と、
130
敏心
(
とごころ
)
の
勇
(
いさ
)
み
心
(
ごころ
)
を
振起
(
ふりおこ
)
し、
131
生命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
ました』
132
紅井姫
『あなたが
妾
(
わたし
)
を
妻
(
つま
)
にしてやらうとの
御
(
ご
)
熱心
(
ねつしん
)
には
妾
(
わらは
)
も
感謝
(
かんしや
)
に
堪
(
た
)
へませぬが、
133
男
(
をとこ
)
として
否
(
いな
)
人間
(
にんげん
)
として、
134
災
(
わざはひ
)
多
(
おほ
)
き
現世
(
うつしよ
)
に、
135
独立
(
どくりつ
)
独歩
(
どくぽ
)
相当
(
さうたう
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
営
(
いとな
)
まむとするならば
自分
(
じぶん
)
の
行
(
ゆ
)
くべき
所
(
ところ
)
、
136
又
(
また
)
進
(
すす
)
むべき
方針
(
はうしん
)
がつかなくてはならぬぢやありませぬか。
137
只
(
ただ
)
女
(
をんな
)
の
美貌
(
びぼう
)
に
恋着
(
れんちやく
)
して、
138
自分
(
じぶん
)
の
身
(
み
)
を
忘
(
わす
)
れ、
139
恋
(
こひ
)
の
荒野
(
あらの
)
に
彷徨
(
さまよ
)
ひ、
140
一寸先
(
いつすんさき
)
の
目当
(
めあて
)
も
付
(
つ
)
かぬ
様
(
やう
)
な
男子
(
だんし
)
は
妾
(
わたし
)
は
厭
(
いや
)
ですよ。
141
女
(
をんな
)
としては
男
(
をとこ
)
らしい
男
(
をとこ
)
、
142
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
前途
(
さき
)
の
見
(
み
)
える
人
(
ひと
)
ならば、
143
どンなヒヨツトコでも、
144
跛足
(
びつこ
)
でも
目
(
め
)
つかちでも、
145
鼻曲
(
はなまが
)
りでも、
146
菊目面
(
あばたづら
)
でも
構
(
かま
)
ひませぬ。
147
甲斐性
(
かひしやう
)
のある
男
(
をとこ
)
を、
148
女
(
をんな
)
は
好
(
すき
)
ます。
149
女
(
をんな
)
は
男
(
をとこ
)
に
一生
(
いつしやう
)
其
(
その
)
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
す
者
(
もの
)
ですから、
150
女
(
をんな
)
の
禍福
(
くわふく
)
は
夫
(
をつと
)
の
強弱
(
きやうじやく
)
、
151
正邪
(
せいじや
)
勝劣
(
しようれつ
)
、
152
賢愚
(
けんぐ
)
等
(
とう
)
にあります。
153
折角
(
せつかく
)
ここまで、
154
お
前
(
まへ
)
を
伴
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て、
155
試
(
ため
)
して
見
(
み
)
たが、
156
何
(
なん
)
とマア、
157
お
前
(
まへ
)
さまは、
158
交尾期
(
さかり
)
の
来
(
き
)
た、
159
犬猫
(
いぬねこ
)
の
様
(
やう
)
なものだワ。
160
エヽ
汚
(
けが
)
らはしい、
161
何卒
(
どうぞ
)
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り、
162
こンな
見
(
み
)
つともない
腰抜
(
こしぬけ
)
身魂
(
みたま
)
を、
163
妾
(
わたし
)
の
前
(
まへ
)
に
曝
(
さら
)
して
下
(
くだ
)
さるな。
164
エヽ
好
(
す
)
かンたらしい
腰抜
(
こしぬけ
)
男
(
をとこ
)
だなア』
165
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
166
秋山別
(
あきやまわけ
)
の
頭
(
あたま
)
を、
167
白
(
しろ
)
い
細
(
ほそ
)
い
手
(
て
)
にてピシヤピシヤと
打叩
(
うちたた
)
けば、
168
秋山別
(
あきやまわけ
)
は、
169
秋山別
『イヤ
何
(
なん
)
とお
前
(
まへ
)
にそれ
丈
(
だけ
)
の
考
(
かんが
)
へがあるとは、
170
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
知
(
し
)
らなかつたよ。
171
深窓
(
しんそう
)
に
育
(
そだ
)
つたお
嬢
(
ぢやう
)
さまだから、
172
何一
(
なにひと
)
つ
知
(
し
)
りはしよまい、
173
是
(
これ
)
から
此
(
この
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
が、
174
いろいろと
世間学
(
せけんがく
)
を
仕込
(
しこ
)
ンで、
175
立派
(
りつぱ
)
な
賢母
(
けんぼ
)
良妻
(
りやうさい
)
に
作
(
つく
)
り
上
(
あ
)
げ、
176
円満
(
ゑんまん
)
なホームを
作
(
つく
)
り、
177
世界
(
せかい
)
の
花
(
はな
)
と
謳
(
うた
)
はれて、
178
幾久
(
いくひさ
)
しく、
179
末永
(
すえなが
)
う、
180
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
ばうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
181
イヤもう
今
(
いま
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて、
182
ズーンと
感心
(
かんしん
)
した。
183
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
是
(
こ
)
れから、
184
大方針
(
だいはうしん
)
を
立
(
た
)
てて、
185
夫婦
(
ふうふ
)
の
水火
(
いき
)
を
合
(
あは
)
せ、
186
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
として、
187
大神業
(
だいしんげう
)
に
奉仕
(
ほうし
)
すると
云
(
い
)
ふ
大抱負
(
だいはうふ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
秋山別
(
あきやまわけ
)
だから、
188
姫
(
ひめ
)
さま、
189
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はして
下
(
くだ
)
さるな。
190
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も、
191
此
(
この
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
が
方寸
(
はうすん
)
に
止
(
とど
)
めてあるから……』
192
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
はツンとして、
193
紅井姫
『
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
凡
(
すべ
)
て
一生
(
いつしやう
)
の
方針
(
はうしん
)
を
立
(
た
)
てて、
194
是
(
これ
)
なれば
妻子
(
さいし
)
を
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
に
養
(
やしな
)
つて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
になつてから、
195
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つべきものぢやありませぬか。
196
それに
何
(
なん
)
ぞや、
197
是
(
これ
)
から
方針
(
はうしん
)
をきめると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
薄野呂
(
うすのろ
)
男
(
をとこ
)
に、
198
何程
(
なにほど
)
女
(
をんな
)
が
沢山
(
たくさん
)
ある
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
でも、
199
一人
(
ひとり
)
だつて
相手
(
あひて
)
になる
者
(
もの
)
が
御座
(
ござ
)
いますかい。
200
いい
加減
(
かげん
)
に
馬鹿
(
ばか
)
を
尽
(
つく
)
しておきなさいよ。
201
妾
(
わたし
)
は
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう。
202
其
(
その
)
代
(
かは
)
りお
前
(
まへ
)
さまが
一人前
(
いちにんまへ
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
にお
成
(
な
)
りになつた
暁
(
あかつき
)
は、
203
何程
(
なんぼ
)
お
前
(
まへ
)
が
妾
(
わらは
)
を
嫌
(
きら
)
つても、
204
今度
(
こんど
)
は
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
から
放
(
はな
)
しませぬから、
205
そこまで
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
をして
下
(
くだ
)
さい。
206
今
(
いま
)
から
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
られる
様
(
やう
)
な
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だつたら、
207
駄目
(
だめ
)
ですよ。
208
第一
(
だいいち
)
あなたの
身
(
み
)
が
立
(
た
)
たず
妾
(
わたし
)
も
約
(
つま
)
りませぬから、
209
どうぞ
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
はずに
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さい』
210
秋山別
『コレコレ
姫
(
ひめ
)
さま、
211
一応
(
いちおう
)
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
は
無理
(
むり
)
とは
思
(
おも
)
ひませぬが、
212
そりや
又
(
また
)
余
(
あんま
)
り
薄情
(
はくじやう
)
ぢやありませぬか。
213
貴女
(
あなた
)
を
慕
(
した
)
うてこンな
山奥
(
やまおく
)
迄
(
まで
)
ついて
来
(
き
)
た
男
(
をとこ
)
を、
214
今更
(
いまさら
)
、
215
一度
(
いちど
)
の
枕
(
まくら
)
も
交
(
かは
)
さず、
216
愛想
(
あいさう
)
づかしとは、
217
余
(
あま
)
りで
御座
(
ござ
)
います。
218
斯
(
こ
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は、
219
私
(
わたし
)
も
男
(
をとこ
)
の
意地
(
いぢ
)
、
220
生命
(
いのち
)
にかけても、
221
やり
遂
(
と
)
げねば
置
(
お
)
きませぬ。
222
サア
姫
(
ひめ
)
さま、
223
私
(
わたし
)
の
恋
(
こひ
)
は
命懸
(
いのちが
)
けだ。
224
返答
(
へんたふ
)
なさいませ。
225
御
(
ご
)
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
に
依
(
よ
)
つては、
226
此
(
この
)
儘
(
まま
)
ではおきませぬぞ』
227
紅井姫
『ホヽヽヽヽ、
228
あのマア
腰抜
(
こしぬけ
)
男
(
をとこ
)
わいのう。
229
多寡
(
たくわ
)
の
知
(
し
)
れた
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
を
捉
(
とら
)
まへて、
230
脅
(
おど
)
し
文句
(
もんく
)
を
並
(
なら
)
べしやます、
231
其
(
その
)
卑怯
(
ひけふ
)
さ。
232
何程
(
なにほど
)
脅喝
(
けふかつ
)
なされても、
233
そンな
事
(
こと
)
にビリつく
様
(
やう
)
な
女
(
をんな
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬわいなア。
234
ヘンお
前
(
まへ
)
さまの
様
(
やう
)
な
未練
(
みれん
)
男
(
をとこ
)
に
添
(
そ
)
う
位
(
くらゐ
)
なら、
235
一層
(
いつそう
)
此
(
この
)
シーズン
河
(
がは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
ンだが
得策
(
まし
)
で
御座
(
ござ
)
ンすぞえ』
236
秋山別
『
死
(
し
)
ぬ
死
(
し
)
ぬ
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
に
死
(
し
)
ンだ
例
(
ため
)
しなしだ。
237
そンな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
238
姫
(
ひめ
)
さまは
反対
(
はんたい
)
に
此
(
この
)
秋山別
(
あきやまわけ
)
を
脅喝
(
けふかつ
)
するのですなア。
239
油断
(
ゆだん
)
のならぬは
女
(
をんな
)
だ。
240
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にこンなお
転婆
(
てんば
)
にお
成
(
な
)
りなさつたのかなア』
241
紅井姫
『ホヽヽヽヽ、
242
婦人
(
ふじん
)
開放
(
かいはう
)
に
目覚
(
めざ
)
めた
新
(
あたら
)
しい
女
(
をんな
)
ですよ。
243
是
(
これ
)
でも
女子
(
ぢよし
)
大学
(
だいがく
)
の
優等
(
いうとう
)
卒業生
(
そつげふせい
)
ですから、
244
男
(
をとこ
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
や
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
、
245
喰
(
く
)
はへてふる
位
(
くらゐ
)
は
朝飯前
(
あさめしまへ
)
の
仕事
(
しごと
)
、
246
今迄
(
いままで
)
深窓
(
しんそう
)
に
育
(
そだ
)
つた
未通娘
(
おぼこむすめ
)
の
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたのが、
247
お
前
(
まへ
)
さまの
不覚
(
ふかく
)
だ。
248
オイ
君
(
きみ
)
、
249
チトしつかりせないと、
250
婦人
(
ふじん
)
同盟会
(
どうめいくわい
)
を
組織
(
そしき
)
し、
251
男子
(
だんし
)
放逐論
(
はうちくろん
)
を
主唱
(
しゆしやう
)
し、
252
女尊
(
ぢよそん
)
男卑
(
だんぴ
)
の
社会
(
しやくわい
)
にして
了
(
しま
)
ひますよ。
253
オツと、
254
君
(
きみ
)
も
僕
(
ぼく
)
のハズバンドに
成
(
な
)
りたいと
思
(
おも
)
ふなら、
255
それ
丈
(
だけ
)
の
資格
(
しかく
)
を
具備
(
ぐび
)
して
来
(
こ
)
なくては
駄目
(
だめ
)
だよ。
256
僕
(
ぼく
)
はもう、
257
是
(
これ
)
から
帰
(
かへ
)
るから、
258
君
(
きみ
)
はここでゆつくりと
思案
(
しあん
)
し
玉
(
たま
)
へ』
259
秋山別
『
何
(
なん
)
とマア、
260
呆
(
あき
)
れたお
嬢
(
ぢやう
)
さまだなア。
261
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
262
君
(
きみ
)
だの
僕
(
ぼく
)
だのと、
263
女
(
をんな
)
の
癖
(
くせ
)
に
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
264
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
265
さう
活溌
(
くわつぱつ
)
な
女
(
をんな
)
と
聞
(
き
)
けば、
266
なほなほ
恋
(
こひ
)
しくなる。
267
お
嬢
(
ぢやう
)
さま、
268
イヤイヤ
君
(
きみ
)
、
269
……
君
(
きみ
)
といつた
方
(
はう
)
がお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
るだらう……
君
(
きみ
)
と
僕
(
ぼく
)
と
二人
(
ふたり
)
相
(
あひ
)
提携
(
ていけい
)
して、
270
天下
(
てんか
)
の
経綸
(
けいりん
)
を
堂々
(
だうだう
)
と
遂行
(
すゐかう
)
したら
如何
(
どう
)
だね。
271
随分
(
ずいぶん
)
面白
(
おもしろ
)
からうよ』
272
紅井姫
『エー
好
(
す
)
かンたらしい
男
(
をとこ
)
だこと、
273
お
前
(
まへ
)
さまの
方
(
はう
)
から
吹
(
ふ
)
いて
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
も
厭
(
いや
)
になつた。
274
こンな
時代
(
じだい
)
遅
(
おく
)
れの
男
(
をとこ
)
とは
思
(
おも
)
はなかつたに、
275
選
(
よ
)
りに
選
(
よ
)
つて、
276
古
(
ふる
)
めかしい
頭脳
(
あたま
)
の
黴
(
かび
)
の
生
(
は
)
えた
骨董品
(
こつとうひん
)
、
277
斯
(
こ
)
んな
品物
(
しなもの
)
をウツカリ
買
(
か
)
ひ
込
(
こ
)
まうものなら、
278
それこそ
一生
(
いつしやう
)
僕
(
ぼく
)
の
浮
(
うか
)
ぶ
瀬
(
せ
)
がなくなる。
279
オウさうだ
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
280
此
(
この
)
シーズン
河
(
がは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
となり、
281
浮
(
う
)
き
上
(
あが
)
つて
川瀬
(
かはせ
)
を
流
(
なが
)
れたら、
282
それこそ
浮
(
うか
)
む
瀬
(
せ
)
があると
云
(
い
)
ふものだ。
283
オイ
君
(
きみ
)
、
284
僕
(
ぼく
)
は
是
(
これ
)
からザンブと
計
(
ばか
)
り、
285
投身
(
とうしん
)
するから、
286
君
(
きみ
)
は
娑婆
(
しやば
)
に
残
(
のこ
)
つて、
287
十分
(
じふぶん
)
の
馬鹿
(
ばか
)
を
尽
(
つく
)
し、
288
決
(
けつ
)
して
僕
(
ぼく
)
の
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
ちやならないよ。
289
アリヨース』
290
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
291
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らしてザンブと
計
(
ばか
)
り、
292
シーズン
河
(
がは
)
の
激流
(
げきりう
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
293
パツと
立
(
た
)
つ
水煙
(
みづけぶり
)
と
共
(
とも
)
に
後白波
(
あとしらなみ
)
と
消
(
き
)
えにける。
294
秋山別
(
あきやまわけ
)
は
水面
(
すゐめん
)
を
眺
(
なが
)
め、
295
アフンとして、
296
暫
(
しば
)
し
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れ
居
(
ゐ
)
たりしが、
297
秋山別
『あゝどうしたら
良
(
よ
)
からうかな。
298
こンな
事
(
こと
)
ならヤツパリ、
299
エリナの
方
(
はう
)
を
情婦
(
いろ
)
に
持
(
も
)
つのだつたに、
300
モリスの
奴
(
やつ
)
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
をしよつたナ。
301
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら、
302
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
目
(
め
)
を
掠
(
かす
)
め、
303
エリナを
伴
(
つ
)
れて、
304
どこかへ
伏艇
(
ふくてい
)
しよつたと
見
(
み
)
えるワイ。
305
潜航
(
せんかう
)
水雷艇
(
すゐらいてい
)
をどこへ
伴
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
きよつたかなア。
306
一
(
ひと
)
つ
俺
(
おれ
)
もエリナ
丸
(
まる
)
に
乗
(
の
)
り
替
(
か
)
へねば、
307
敵艦
(
てきかん
)
に
向
(
むか
)
つて
夜襲
(
やしふ
)
することが
出来
(
でき
)
まい。
308
アーア、
309
掌中
(
しやうちう
)
の
玉
(
たま
)
を
取
(
と
)
られたとは
此
(
この
)
事
(
こと
)
だ。
310
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
も
可哀相
(
かあいさう
)
に、
311
余
(
あま
)
り
暑
(
あつ
)
い
所
(
ところ
)
を
無理
(
むり
)
に
歩
(
ある
)
かしたものだから、
312
陽気
(
やうき
)
のせいで
精神
(
せいしん
)
逆上
(
ぎやくじやう
)
し、
313
そこへ
数十万
(
すふじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
のハイカラ
女
(
をんな
)
の
悪霊
(
あくれい
)
が
憑依
(
ひようい
)
し、
314
君
(
きみ
)
だの、
315
僕
(
ぼく
)
だのと、
316
取
(
とり
)
とめもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひ、
317
しまひの
果
(
はて
)
にや、
318
シーズン
河
(
がは
)
の
投身
(
とうしん
)
とお
出
(
で
)
かけなすつた。
319
どうも
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なものだ。
320
あゝ
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
も
斯
(
こ
)
うして、
321
一人
(
ひとり
)
こンな
所
(
ところ
)
に
溺死
(
できし
)
よけの
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
様
(
やう
)
に
川
(
かは
)
を
眺
(
なが
)
めて
立
(
た
)
つてゐてもつまらないワ』
322
と
呟
(
つぶや
)
いてゐる。
323
そこへエリナの
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて、
324
モリスはさも
嬉
(
うれ
)
し
相
(
さう
)
にニコニコと
辿
(
たど
)
り
来
(
きた
)
り、
325
モリス
『ヤア
秋
(
あき
)
さま、
326
お
前
(
まへ
)
はここに
居
(
を
)
つたのか。
327
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
さまにお
前
(
まへ
)
はモウ
秋
(
あき
)
さまだと
云
(
い
)
つて、
328
エツパツパを
喰
(
く
)
はされたのだなア、
329
アハヽヽヽ』
330
エリナ
『ホヽヽヽヽ』
331
秋山別
『エヽ
喧
(
やかま
)
しワイ、
332
余
(
あま
)
りハイカラ
女
(
をんな
)
で、
333
到底
(
たうてい
)
家庭
(
かてい
)
の
主婦
(
しゆふ
)
として
不適任
(
ふてきにん
)
だと
思
(
おも
)
つたから、
334
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
秋山風
(
あきやまかぜ
)
を
吹
(
ふ
)
かして、
335
どうぞ
是
(
これ
)
からお
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
女
(
をんな
)
は、
336
俺
(
おれ
)
に
顔
(
かほ
)
を
合
(
あは
)
して
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
だと
云
(
い
)
つて、
337
エツパツパとやつたら、
338
紅井姫
(
くれなゐひめ
)
が
云
(
い
)
ふのには……
君
(
きみ
)
それ
程
(
ほど
)
僕
(
ぼく
)
が
不信用
(
ふしんよう
)
なら、
339
僕
(
ぼく
)
も
君
(
きみ
)
に
対
(
たい
)
し、
340
強
(
た
)
つて
添
(
そ
)
うてくれとは
云
(
い
)
はないよ、
341
アリヨースと
云
(
い
)
つてあつたら
生命
(
いのち
)
を
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
にザンブと
計
(
ばか
)
り、
342
シーズン
河
(
がは
)
だ、
343
さすがの
俺
(
おれ
)
でもチツとは
憐
(
あは
)
れを
催
(
もよほ
)
し、
344
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
にシーズンで
居
(
を
)
るのだよ、
345
あゝゝゝとは
云
(
い
)
ふものの、
346
如何
(
どう
)
したら
姫
(
ひめ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るだらうかな、
347
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へばいぢらしいワイの、
348
オンオンオン』
349
エリナ
『
君
(
きみ
)
は
何
(
なに
)
かい、
350
紅井
(
くれなゐ
)
氏
(
し
)
をどうしたと
云
(
い
)
ふのだい。
351
僕
(
ぼく
)
に
詳細
(
しやうさい
)
なる
顛末
(
てんまつ
)
を
差支
(
さしつかへ
)
なくば
知
(
し
)
らして
呉
(
く
)
れないか。
352
僕
(
ぼく
)
大
(
おほ
)
いに
期
(
き
)
する
所
(
ところ
)
があるのだからね』
353
秋山別
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
も
又
(
また
)
伝染
(
でんせん
)
しよつたなア。
354
オイ、
355
モリス、
356
用心
(
ようじん
)
せいよ。
357
又
(
また
)
ドンブリコと
計画
(
けいくわく
)
に
取掛
(
とりかか
)
られるかも
知
(
し
)
れないぞ。
358
こンな
所
(
ところ
)
で、
359
舟
(
ふね
)
の
一艘
(
いつそう
)
や
二艘
(
にそう
)
沈
(
しづ
)
めたつて、
360
閉塞隊
(
へいそくたい
)
の
御用
(
ごよう
)
も
勤
(
つと
)
まるものでなし、
361
丸
(
まる
)
で
淵
(
ふち
)
へ
塩
(
しほ
)
をほり
込
(
こ
)
むやうな
不利益
(
ふりえき
)
だから、
362
シツカリエリナ
君
(
くん
)
を
捉
(
とら
)
まへてゐ
玉
(
たま
)
へ。
363
僕
(
ぼく
)
は
経験
(
けいけん
)
上
(
じやう
)
、
364
君
(
きみ
)
に
注意
(
ちうい
)
を
与
(
あた
)
へておくよ』
365
モリス
『あゝ、
366
モリスも
薩張
(
さつぱ
)
り
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
たワイ』
367
と
拍手
(
はくしゆ
)
し
終
(
をは
)
つて『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』を
三唱
(
さんしやう
)
し、
368
何事
(
なにごと
)
か
切
(
しき
)
りに
暗祈
(
あんき
)
黙祷
(
もくたう
)
を
久
(
ひさ
)
しうして
居
(
ゐ
)
る。
369
(
大正一一・八・二〇
旧六・二八
松村真澄
録)
370
(昭和九・一二・一九 王仁校正)
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