人間は天の高天原であろうと地の高天原であろうと、霊域に昇りその内に入るにしたがい、智慧と証覚はいよいよ増して来て、かつて難解と思っていた問題もおいおいと感得することができるようになる。いずれも、大神より来る愛の力によるものである。
大神の御神格をその内分に受けることが多い人間を、天的人間、また内的天人、高処天人ともいうのである。天国にある天人がいるところの愛を天愛といい、霊国にある天人がいるところの愛を霊愛という。天国には大神は太陽と現れ給ひ、霊国には月と現れ給う。
初稚姫は天国天人の部類に属し、現の御魂にして太陽の熱すなわち愛を全部となし給う。言依別命は霊国にある天人にして、信の真におり、月の光をもってその全部となし給う。
ゆえに初稚姫はよく神を祭り、祝詞を奏上し、宣伝使や信者の模範となりたまう。言依別命は智的方面に住し、宇宙の真理を説き諭し、現幽神三界の真相を明らかにし、すべての原動力とならせ給う霊的天人である。
天国は大神の祭司的国土にして大神の御住所である。霊国は大神の王土にしてこれを王座または瑞の法座ともいう。天国と霊国の交通の機関は、大神の思し召しによって置かせられた媒介的天人団体の手によって行われている。
初稚姫はこの媒介的天人の手によってある時は天国と交通し、ある時は霊国と交通し、また天国霊国一度に交通し給うこともあった。初稚姫のような地上の天人であっても、肉体人の境遇に居る間は、どうしても媒介者を通じる必要があったのである。
初稚姫は、祠の森を立ち出でていよいよ遠征の途に就こうとした。珍彦夫婦をはじめとする幹部役員、信徒たちは親のごとく神のごとく慕っていた初稚姫と別れることを非常に嘆き悲しみ、今しばしの逗留を望んだが、神業のため初稚姫がさらに祠の森に留まる余地はなかった。
初稚姫は愛別離苦の情もあり、また自分が去った後に再び強烈な曲津神のために祠の森が惑わされることがあるまいかと案じていた。しかし斎苑の館からほど遠くないこの地点なら、まさかのときには宣伝使たちが応援に来てくれるだろうと思い直し自らの心を励まして、出立を決意した。
初稚姫は神殿の前にて、珍彦以下の神の僕たちが悪魔に狂惑されることがないようにと祈りの歌を歌い、また神業の使命を全うせんことを懇願して、送別の宴に臨んだ。珍彦は別れを惜しむ歌を歌い、以下祠の森の神司たちは、初稚姫と別れの歌を交わした。
別れを交換し哀別の涙を流しながら、初稚姫はスマートを従えて宣伝歌を歌いながら降って行った。至マートも祠の森の人々に別れを惜しむごとく、二声三声悲しげな声を残して、尾を振りながら初稚姫に従いゆく。