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第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第52巻(卯の巻)
序文
総説代用
第1篇 鶴首専念
01 真と偽
〔1337〕
02 哀別の歌
〔1338〕
03 楽屋内
〔1339〕
04 俄狂言
〔1340〕
05 森の怪
〔1341〕
06 梟の笑
〔1342〕
第2篇 文明盲者
07 玉返志
〔1343〕
08 巡拝
〔1344〕
09 黄泉帰
〔1345〕
10 霊界土産
〔1346〕
11 千代の菊
〔1347〕
第3篇 衡平無死
12 盲縞
〔1348〕
13 黒長姫
〔1349〕
14 天賊
〔1350〕
15 千引岩
〔1351〕
16 水車
〔1352〕
17 飴屋
〔1353〕
第4篇 怪妖蟠離
18 臭風
〔1354〕
19 屁口垂
〔1355〕
20 険学
〔1356〕
21 狸妻
〔1357〕
22 空走
〔1358〕
第5篇 洗判無料
23 盲動
〔1359〕
24 応対盗
〔1360〕
25 恋愛観
〔1361〕
26 姑根性
〔1362〕
27 胎蔵
〔1363〕
余白歌
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> 第3篇 衡平無死 > 第12章 盲縞
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第一二章
盲縞
(
めくらじま
)
〔一三四八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
篇:
第3篇 衡平無死
よみ(新仮名遣い):
こうへいむし
章:
第12章 盲縞
よみ(新仮名遣い):
めくらじま
通し章番号:
1348
口述日:
1923(大正12)年02月09日(旧12月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年1月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
灰色の暮色に包まれた野も山も静かでさびしい。文助の精霊は、山と山とにはさまれた枯草のぼうぼうと生え茂る細い谷道を、杖を力にとぼとぼと登って行った。
文助はほろ酔い機嫌で鼻歌を歌いながら、ボンヤリとした目の光をたよりに、当てもなく歩いていた。すると傍らの草むらから、盲を狙う強盗という若い男が現れて、文助を止めて持ち物を渡すように迫った。
文助は少しも恐れることなく、男の心は脅威を感じ、戦慄していると見抜いた。男は文助に、にわかに強盗がいやになったから、自分を連れて行ってくれるように頼んだ。文助が断ると、男は文助が世間の人間を誤った信仰に導いて地獄に落としていたことを責めはじめた。
男は、実は自分は地獄から文助を迎えに来た者だと答えた。文助はそんなはずはない、自分は天国に籍があることを前回の幽界旅行で確かめてあるのだ、と先に進んで行く。男は大声に笑って文助の地獄行きを叫んでいる。
文助が振り返ると、若い男は赤らが顔に耳まで裂けた大きな口を開けている。文助は惟神霊幸倍坐世を幾回も繰り返しながら、山と山の間の谷道を一目散に進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-11-23 15:51:29
OBC :
rm5212
愛善世界社版:
171頁
八幡書店版:
第9輯 439頁
修補版:
校定版:
179頁
普及版:
72頁
初版:
ページ備考:
001
灰白
(
くわいはく
)
の
暮色
(
ぼしよく
)
に
包
(
つつ
)
まれた
野
(
の
)
も
山
(
やま
)
も
凡
(
すべ
)
ては
静
(
しづ
)
かで
淋
(
さび
)
しい。
002
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
とに
挟
(
はさ
)
まれた
枯草
(
かれくさ
)
のぼうぼうと
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
る
細
(
ほそ
)
い
谷路
(
たにみち
)
を、
003
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
にトボトボと
爪先上
(
つまさきあ
)
がりに
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
一人
(
ひとり
)
の
盲者
(
まうじや
)
がある。
004
これは
小北山
(
こぎたやま
)
の
受付
(
うけつけ
)
にゐた
文助
(
ぶんすけ
)
の
精霊
(
せいれい
)
であることはいふまでもない。
005
文助
(
ぶんすけ
)
は
微酔
(
ほろよ
)
ひ
機嫌
(
きげん
)
で
鼻歌
(
はなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひながら、
006
ボンヤリとした
目
(
め
)
の
光
(
ひかり
)
を
頼
(
たよ
)
りに、
007
どこを
当
(
あて
)
ともなく
歩
(
ある
)
いてゐたのである。
008
傍
(
かたはら
)
の
叢
(
くさむら
)
にガサガサと
音
(
おと
)
がしたので、
009
ハテ
何者
(
なにもの
)
が
飛出
(
とびだ
)
すのかと
立止
(
たちど
)
まつて
考
(
かんが
)
へてゐた。
010
疎
(
うと
)
い
目
(
め
)
からよくよくすかして
見
(
み
)
れば、
011
労働服
(
らうどうふく
)
を
着
(
つ
)
けた
十七八
(
じふしちはつ
)
歳
(
さい
)
の
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
青年
(
せいねん
)
であつた。
012
文助
(
ぶんすけ
)
『コレお
若
(
わか
)
い
衆
(
しう
)
、
013
どうやら
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れかかつたさうだが、
014
お
前
(
まへ
)
さま
一人
(
ひとり
)
こんな
処
(
ところ
)
で
何
(
なに
)
をして
厶
(
ござ
)
るのだい』
015
青年
(
せいねん
)
『
俺
(
おれ
)
は
泥棒
(
どろばう
)
をやつてゐるのだ。
016
此
(
この
)
街道
(
かいだう
)
は
目
(
め
)
の
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
ばかりが
通過
(
つうくわ
)
する
処
(
ところ
)
だから、
017
俺
(
おれ
)
の
様
(
やう
)
な
甲斐性
(
かひしやう
)
のない
泥棒
(
どろばう
)
は、
018
盲
(
めくら
)
でないと
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
はぬから、
019
待
(
ま
)
つてゐたのだ』
020
文助
『ハハハハ、
021
私
(
わし
)
のやうなスカンピンの
盲
(
めくら
)
に
相手
(
あひて
)
になつた
所
(
ところ
)
で、
022
何
(
なに
)
があるものか。
023
それよりも
巨万
(
きよまん
)
の
金
(
かね
)
を
有
(
もつ
)
て
居
(
ゐ
)
る
盲
(
めくら
)
は
世界
(
せかい
)
に
何程
(
なにほど
)
あるか
知
(
し
)
れぬぢやないか。
024
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
でも、
025
博士
(
はかせ
)
でも、
026
富豪
(
ふうがう
)
でも、
027
大寺
(
おほでら
)
の
和尚
(
おせう
)
でも
皆
(
みな
)
盲
(
めくら
)
だ。
028
お
前
(
まへ
)
は
黒
(
くろ
)
い
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
へば、
029
盲縞
(
めくらじま
)
の
被衣
(
はつぴ
)
を
着
(
き
)
たりパツチをはいてるぢやないか、
030
さうすると
矢張
(
やつぱ
)
りお
前
(
まへ
)
も
盲
(
めくら
)
だな』
031
青年
『
盲
(
めくら
)
にも
色々
(
いろいろ
)
あつて、
032
其
(
その
)
盲
(
めくら
)
が
又
(
また
)
盲
(
めくら
)
を
騙
(
だま
)
す
力
(
ちから
)
のある
奴
(
やつ
)
だから、
033
俺
(
おれ
)
たちの
盲
(
めくら
)
には
手
(
て
)
に
合
(
あ
)
はぬのぢや。
034
お
前
(
まへ
)
も
随分
(
ずいぶん
)
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
を
盲
(
めくら
)
にして
来
(
き
)
た
男
(
をとこ
)
だが、
035
世間
(
せけん
)
の
盲
(
めくら
)
に
比
(
くら
)
べて
見
(
み
)
ると
余程
(
よほど
)
くみ
し
易
(
やす
)
いとみたから、
036
ここに
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へてゐたのだ。
037
サ、
038
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
を
渡
(
わた
)
して
貰
(
もら
)
はうかい』
039
文助
『ハハハハ、
040
盲
(
めくら
)
滅法界
(
めつぽふかい
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
だなア。
041
斯
(
か
)
うみえても、
042
此
(
この
)
文助
(
ぶんすけ
)
は
心
(
こころ
)
の
眼
(
め
)
が
光
(
ひか
)
つてゐるぞ。
043
世間
(
せけん
)
の
盲
(
めくら
)
は
肉眼
(
にくがん
)
は
開
(
あ
)
いて
居
(
を
)
つても
心
(
こころ
)
の
眼
(
め
)
は
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
だが、
044
此
(
この
)
文助
(
ぶんすけ
)
は
貴様
(
きさま
)
の
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
まで
鏡
(
かがみ
)
に
照
(
て
)
らした
如
(
ごと
)
く
分
(
わか
)
つてゐるのだ。
045
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
に
虚勢
(
きよせい
)
を
張
(
は
)
つて
恐喝
(
きようかつ
)
しようとしても、
046
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
は
既
(
すで
)
に
非常
(
ひじやう
)
なる
脅威
(
けふゐ
)
を
感
(
かん
)
じ、
047
戦慄
(
せんりつ
)
してるぢやないか、
048
そんなことで
盲
(
めくら
)
を
脅
(
おびや
)
かさうなんて、
049
チツと
過分
(
くわぶん
)
ぢやないか』
050
青年
『
何
(
なん
)
だか、
051
お
前
(
まへ
)
に
会
(
あ
)
うてから、
052
俺
(
おれ
)
も
泥棒
(
どろばう
)
が
厭
(
いや
)
になつた。
053
何卒
(
どうぞ
)
、
054
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのか
知
(
し
)
らぬが
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
て
貰
(
もら
)
へまいかな』
055
文助
『
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
を
道連
(
みちづ
)
れにしようものなら、
056
チツとも
安心
(
あんしん
)
するこたア
出来
(
でき
)
やしない。
057
送
(
おく
)
り
狼
(
おほかみ
)
と
道連
(
みちづ
)
れのやうなものだ、
058
何時
(
いつ
)
スキがあつたら
咬
(
か
)
み
殺
(
ころ
)
すか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
059
マア
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
つとこうかい。
060
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
061
青年
『オイ
盲爺
(
めくらぢい
)
さま、
062
お
前
(
まへ
)
は
世間
(
せけん
)
の
人間
(
にんげん
)
を
盲
(
めくら
)
にして、
063
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
地獄界
(
ぢごくかい
)
へ
案内
(
あんない
)
してゐた
癖
(
くせ
)
に、
064
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
の
盲
(
めくら
)
を
捨
(
す
)
てると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか』
065
文助
『
馬鹿
(
ばか
)
を
申
(
まを
)
せ、
066
俺
(
おれ
)
は
皆
(
みな
)
人間
(
にんげん
)
の
霊
(
れい
)
を
高天原
(
たかあまはら
)
へ
導
(
みちび
)
いてゐたのだ。
067
それだから
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
気絶
(
きぜつ
)
した
時
(
とき
)
に
天国
(
てんごく
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
来
(
き
)
たのだ。
068
俺
(
おれ
)
の
導
(
みちび
)
いた
連中
(
れんちう
)
は
皆
(
みな
)
高天原
(
たかあまはら
)
に
安住
(
あんぢゆう
)
してゐるのだぞ』
069
青年
『お
前
(
まへ
)
、
070
高天原
(
たかあまはら
)
へ
行
(
い
)
つた
時
(
とき
)
に
其
(
その
)
弟子
(
でし
)
に、
071
一人
(
ひとり
)
でも
出会
(
であ
)
つたか、
072
滅多
(
めつた
)
に
出会
(
であ
)
はせまい、
073
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
地獄
(
ぢごく
)
へ
墜
(
お
)
ちてるのだからな。
074
神
(
かみ
)
の
取次
(
とりつぎ
)
皆
(
みな
)
盲
(
めくら
)
ばかり、
075
その
又
(
また
)
盲
(
めくら
)
が
暗雲
(
やみくも
)
で、
076
世界
(
せかい
)
の
盲
(
めくら
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて、
077
インフエルノ(
地獄界
(
ぢごくかい
)
)の
底
(
そこ
)
へと
連
(
つ
)
れまゐる……といふのはお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だよ』
078
文助
『エ、
079
そんなこたア
聞
(
き
)
く
耳
(
みみ
)
持
(
も
)
たぬワイ。
080
何
(
なん
)
なと
勝手
(
かつて
)
にほざいておけ、
081
ゴマの
蠅
(
はへ
)
奴
(
め
)
が』
082
青年
『ヨーシ
俺
(
おれ
)
も
天下
(
てんか
)
の
青年
(
せいねん
)
だ。
083
青年
(
せいねん
)
重
(
かさ
)
ねて
来
(
きた
)
らず、
084
一日
(
いちじつ
)
再
(
ふたたび
)
晨
(
あした
)
なり
難
(
がた
)
しといふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つてゐるか、
085
俺
(
おれ
)
は
斯
(
か
)
う
労働服
(
らうどうふく
)
を
着
(
き
)
てゐるやうに
見
(
み
)
えても
赤裸
(
まつぱだか
)
だぞ。
086
それだから
青年
(
せいねん
)
重
(
かさ
)
ねて
着足
(
きた
)
らずといふのだ。
087
貴様
(
きさま
)
の
上着
(
うはぎ
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
所望
(
しよまう
)
するから、
088
キツパリと
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
せ、
089
裸
(
はだか
)
で
道中
(
だうちう
)
はならぬからのう』
090
文助
『
丸
(
まる
)
で
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
脱衣婆
(
だついばば
)
のやうな
事
(
こと
)
をぬかす
奴
(
やつ
)
だな。
091
エエ
仕方
(
しかた
)
がない、
092
そんなら
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
恵
(
めぐ
)
んでやろ。
093
どうせ
此
(
この
)
先
(
さき
)
で
婆
(
ばば
)
アに
取
(
と
)
られるのだから……』
094
青年
『オイ
爺
(
おやじ
)
、
095
お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
をしてゐるといふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つてゐるのか』
096
文助
『きまつた
事
(
こと
)
だ。
097
一度
(
いちど
)
経験
(
けいけん
)
がある。
098
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
体
(
からだ
)
がこんな
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
てるのだから、
099
夢
(
ゆめ
)
でなければ
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
だ。
100
夢
(
ゆめ
)
であらうが、
101
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
であらうが、
102
どちらもユーメ
旅行
(
りよかう
)
だ。
103
貴様
(
きさま
)
は
此処
(
ここ
)
を
現界
(
げんかい
)
と
思
(
おも
)
つてるのか、
104
オイ
黒助
(
くろすけ
)
』
105
青年
『コリヤ
黒助
(
くろすけ
)
とは
何
(
なん
)
だ。
106
これでも
中
(
なか
)
には
赤
(
あか
)
い
血
(
ち
)
が
通
(
かよ
)
つてるぞ』
107
文助
『エー、
108
邪魔
(
じやま
)
臭
(
くさ
)
い、
109
羽織
(
はおり
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
やつたら、
110
エエカゲンに
帰
(
かへ
)
つたらどうだ。
111
これから
長旅
(
ながたび
)
をせにやならぬのに、
112
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
がついてゐるとザマが
悪
(
わる
)
いワ』
113
青年
『ハハア、
114
ヤツパリ
貴様
(
きさま
)
は
偽善者
(
きぜんしや
)
だな。
115
餓鬼
(
がき
)
虫
(
むし
)
ケラまで
助
(
たす
)
けるのが
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
だと、
116
小北山
(
こぎたやま
)
で
吐
(
ほざ
)
いて
居
(
を
)
つたが、
117
とうと、
118
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はしよつたな。
119
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら、
120
何
(
ど
)
うしてもインフエルノ
行
(
ゆ
)
きの
代物
(
しろもの
)
だ、
121
エツヘヘヘヘ、
122
実
(
じつ
)
は
地獄界
(
ぢごくかい
)
から
貴様
(
きさま
)
を
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たのだぞ』
123
文助
『ヘン、
124
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
125
そんな
事
(
こと
)
に
驚
(
おどろ
)
く
俺
(
おれ
)
かい。
126
俺
(
おれ
)
は
前回
(
ぜんくわい
)
に
於
(
おい
)
て、
127
正
(
まさ
)
に
天国
(
てんごく
)
に
籍
(
せき
)
のある
事
(
こと
)
をチヤンとつきとめておいたのだ。
128
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
強迫
(
きやうはく
)
しても、
129
ゴマの
蠅
(
はへ
)
の
如
(
ごと
)
き
者
(
もの
)
の
慣用
(
くわんよう
)
手段
(
しゆだん
)
に
乗
(
の
)
るやうなチヤーチヤーぢやないぞ。
130
勿体
(
もつたい
)
なくも
大国治立
(
おほくにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
伝達
(
でんたつ
)
するグレーテスト(
最
(
もつと
)
も
偉大
(
ゐだい
)
な)プロバガンディストだ。
131
燕雀
(
えんじやく
)
何
(
なん
)
ぞ
大鵬
(
たいほう
)
の
志
(
こころざし
)
を
知
(
し
)
らむや、
132
そこのけツ』
133
と
杖
(
つゑ
)
を
以
(
もつ
)
て
四辺
(
あたり
)
の
芝草
(
しばくさ
)
をメツタ
矢鱈
(
やたら
)
にしばき
倒
(
たふ
)
しながら、
134
トントンと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
135
青年
(
せいねん
)
は
後姿
(
うしろすがた
)
を
見送
(
みおく
)
つて、
136
青年
『アハハハハハ
阿呆
(
あはう
)
阿呆
(
あはう
)
、
137
イヒヒヒヒヒインフエルノ
行
(
ゆ
)
きの
文助
(
ぶんすけ
)
爺
(
おやぢ
)
、
138
ウフフフフフうろたへ
者
(
もの
)
の
盲爺
(
めくらおやぢ
)
、
139
エヘヘヘヘヘエクスタシーを
知
(
し
)
らぬ
盲爺
(
めくらおやぢ
)
、
140
オホホホホホお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さま、
141
今度
(
こんど
)
は
地獄
(
ぢごく
)
の
定紋付
(
ぢやうもんつき
)
だ。
142
お
前
(
まへ
)
の
背中
(
せなか
)
を
見
(
み
)
い、
143
オツホホホホホ』
144
と
大声
(
おほごゑ
)
に
笑
(
わら
)
ふ。
145
文助
(
ぶんすけ
)
は
後
(
あと
)
振返
(
ふりかへ
)
つて
其
(
その
)
青年
(
せいねん
)
を
見
(
み
)
ると、
146
赤
(
あか
)
ら
顔
(
がほ
)
に
耳
(
みみ
)
までさけた
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
をあけ、
147
舌
(
した
)
を
五寸
(
ごすん
)
ばかりはみ
出
(
だ
)
して、
148
厭
(
いや
)
らしい
面
(
つら
)
して
腮
(
あご
)
をしやくつてゐる。
149
文助
(
ぶんすけ
)
は
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
と
幾回
(
いくくわい
)
となく
繰返
(
くりかへ
)
しながら、
150
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
との
谷道
(
たにみち
)
を
一目散
(
いちもくさん
)
に
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
151
(
大正一二・二・九
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松村真澄
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