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第二六章 姑根性(しうとめこんじやう)〔一三六二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第5篇 洗判無料 よみ(新仮名遣い):せんばんむりょう
章:第26章 姑根性 よみ(新仮名遣い):しゅうとめこんじょう 通し章番号:1362
口述日:1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
次に文助の娘・お年とその弟が呼び出された。守衛たちは、二人は本来天国に行くところを親の罪によってこれまで中有界で修業をしていただけだ、と告げた。そして審判の必要はないと言い渡すと、門内から天男天女を呼び出した。姉弟は、霊光に包まれると、天人たちと共に光となって立ち去った。
次にひどい悋気の姑婆・お照がやってきた。お照は息子の嫁にずいぶんひどい仕打ちをしたが、それはすべて自分が正しかったと守衛たちの前で弁解した。守衛たちは、お照は地獄行きだと叱りつけて門をくぐらせたが、お照は、嫁の悪事をうったえるのだと息巻いている。
次に腕に入墨をした荒くれ男が引き出された。鳶の弁造と名乗る侠客は、守衛に促されて善悪の秤の上に乗せられた。秤は天国も地獄も指さずに水平になった。守衛は、口は悪いが比較的善人だと弁造を評した。
守衛は、弁造は今の状態では天国へも地獄へもいけないから、中有界でしばらく修業するように言いつけた。弁造は、侠客渡世の自分は地獄行きのはずだが、と冴えない顔をして中有界の荒野へ進んで行った。
それからも、たくさんの精霊が一々姓名を尋ねられ、記憶を繰られ、天国・地獄・中有界とそれぞれ主とするところの愛によって裁かれて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-23 17:59:59 OBC :rm5226
愛善世界社版:303頁 八幡書店版:第9輯 488頁 修補版: 校定版:311頁 普及版:137頁 初版: ページ備考:
001 (つぎ)()()されたのはお(とし)であつた。
002(あか)『お(まへ)文助(ぶんすけ)(むすめ)(とし)であつたなア』
003お年『ハイ、004左様(さやう)(ござ)います』
005赤の守衛『いつ霊界(れいかい)()たのか』
006お年『ハイ、007(みつ)つの(とし)現界(げんかい)()り、008八衢(やちまた)世界(せかい)(おい)今日(けふ)まで成長(せいちやう)して(まゐ)りました』
009赤の守衛其処(そこ)()るのはお(まへ)(おとうと)か』
010お年左様(さやう)(ござ)います。011両人(りやうにん)とも萱野(かやの)(はら)(さび)しい生活(せいくわつ)(つづ)けて()りました』
012赤の守衛『お(まへ)()姉弟(きやうだい)(おや)(つみ)によつて、013天国(てんごく)()くべき(ところ)(なが)らく修業(しゆげふ)(いた)したのだから、014これから(すぐ)天国(てんごく)にやつてやらう。015最早(もはや)審判廷(しんぱんてい)()必要(ひつえう)もない。016(しばら)()つて()るがよい』
017()(はな)(しろ)目配(めくば)せした。018(しろ)(ただち)門内(もんない)()()んだ。019(しばら)くして()()はれぬ(うるは)しい天男(てんなん)天女(てんによ)が、020琵琶(びは)胡弓(こきう)縦笛(たてぶえ)(など)をもつて、021どこからともなく(あら)はれ(きた)り、022両人(りやうにん)(うるは)しき衣類(いるゐ)(あた)へ、023不思議(ふしぎ)なる霊光(れいくわう)二人(ふたり)をパツと(つつ)み、024微妙(びめう)音楽(おんがく)(そう)しながら(ひがし)をさして(くも)()り、025(ひかり)となつて()()つて仕舞(しま)つた。026二人(ふたり)守衛(しゆゑい)(その)姿(すがた)見送(みおく)つて合掌(がつしやう)し、027(よろこ)びの(いろ)(かほ)(うか)べて()る。
028(あか)『いつもかふいふ精霊(せいれい)ばかりがやつて()ると気分(きぶん)がよいのだがなア。029高姫(たかひめ)のやうな死損(しにぞこな)ひの阿婆摺(あばず)(をんな)がやつて()ては、030サツパリ関所守(せきしよもり)手古摺(てこず)らざるを()ないワ。031それに(また)(つや)呆助(はうすけ)032極端(きよくたん)のデレ(すけ)だから(こひ)(やつこ)となり()て、033正邪(せいじや)理非(りひ)弁別(べんべつ)(ほとん)どつかない(まで)恋愛(れんあい)心酔(しんすゐ)して()るのだから、034伊吹戸主(いぶきどぬしの)(かみ)(さま)もさぞお(こま)りなさる(こと)だらうなア』
035白の守衛本当(ほんたう)(こま)つたものですなア。036サアこれから(また)037ボツボツ調(しら)べねばなりますまい』
038()ひながら、039(しろ)一番(いちばん)(ちか)くに()つた(ばば)()()いて(あか)(まへ)()たせた。
040赤の守衛『お(まへ)(ひひらぎ)(むら)のお(てる)ぢやないか、041どうして此処(ここ)()たのだ』
042お照『ハイよう()いて(くだ)さいませ。043(わたし)には(てん)にも()にも(ただ)一人(ひとり)息子(むすこ)(ござ)います。044その息子(むすこ)孝助(かうすけ)()うて、045ほんとうに孝行(かうかう)して()れました。046(わか)(とき)(をつと)(はな)れ、047(なが)(あひだ)後家(ごけ)()(とほ)し、048()へば()て、049()てば(あゆ)めと親心(おやごころ)050()ても()きても(わす)れた(ひま)はなく、051(ひと)(せき)をしても肺病(はいびやう)になつたのぢやないかと(おも)ひ、052寝息(ねいき)(あら)くても心臓病(しんざうびやう)ぢやないかと、053それはそれはえらい心配(しんぱい)して(やうや)成人(せいじん)させ、054(やさ)しい女房(にようばう)をもたせて老後(らうご)(たの)しまうと(おも)うて()ました。055(ところ)が、056(わたし)(めい)にあたるものにお(きよ)()(むすめ)がありましたので、057それと(めあ)はせました(ところ)058二三(にさん)(にち)(あひだ)夫婦(ふうふ)(とも)大切(たいせつ)にして()れましたが、059それから(のち)()ふものは孝助(かうすけ)(こころ)がすつかり(かは)り、060(いち)にもお(きよ)061()にもお(きよ)(まを)して、062(かあ)さま其処(そこ)()るかとも()うて()れませぬ。063そして(よる)になるとこの老人(らうじん)(べつ)()かせ、064自分(じぶん)()二人(ふたり)()()つてグツスリ()()るぢやありませぬか。065自分(じぶん)大事(だいじ)息子(むすこ)をお(きよ)()られる(くらゐ)なら、066女房(にようばう)(もら)ふぢやなかつたにと(くや)んでも最早(もはや)追付(おつつ)きませぬ。067そこで息子(むすこ)孝助(かうすけ)に、068(おや)()()らぬ女房(にようばう)はトツトと()()せと(まを)した(ところ)069孝助(かうすけ)()ひますのには「(いま)(まで)(おや)()(こと)(なん)でも()きましたが、070(きよ)(わたし)女房(にようばう)でお(まへ)さまの女房(にようばう)ぢやないから(かま)はいでもよろしい。071()いては()(したが)へと()(こと)がある。072(まへ)はおとなしうして(あそ)んで()れば、073(わたし)()夫婦(ふうふ)(はたら)いてお(まへ)さまを(やしな)ひます」と()うて(にく)(にく)(よめ)()()さうとも(まを)しませぬ。074(わたし)(ふところ)()いて(そだ)てた孝助(かうすけ)をお(きよ)自由(じいう)にされて、075どうして(わたし)(かほ)()ちますか。076()推量(すゐりやう)なさつて(くだ)さいませ、077アンアンアン』
078赤の守衛『ハテ、079(こま)つたものだなア』
080お照本当(ほんたう)(こま)つたもので(ござ)いませう。081(しか)しながら(わたし)息子(むすこ)(かぎ)つて、082あんな不孝(ふかう)(もの)ぢや(ござ)いませなんだが、083何分(なにぶん)(よめ)(わる)(やつ)(ござ)いますから、084何彼(なにか)(わる)知恵(ちゑ)をつけますので、085一人(ひとり)しかないこの(おや)不孝(ふかう)(いた)します。086それが残念(ざんねん)さに(うら)(かき)()(くび)()つてやりました。087さうした(ところ)088()にまんが(わる)いと()えて、089矢張(やつぱ)りこんな(ところ)(まよ)うて(まゐ)りました。090()にたうても()なれもせず、091本当(ほんたう)因果(いんぐわ)(ばば)(ござ)います、092オンオンオン』
093赤の守衛『お(まへ)息子(むすこ)夫婦(ふうふ)不孝(ふかう)したと()ふのは、094一体(いつたい)()ういふ(こと)をしたのだ』
095お照『ハイ、096(おや)()()らぬ(こと)ばかり(いた)します。097(きよ)()てからと()ふものは、098(ちつと)(わたし)()()れませぬ。099それが(はら)()つて(たま)りませぬ。100(おや)()()らぬ(こと)をするのは不孝(ふかう)ぢや(ござ)いませぬか』
101赤の守衛『そりや夫婦(ふうふ)同衾(どうきん)するのは当然(あたりまへ)ぢやないか。102(なん)でそれが不孝(ふかう)(あた)るのぢや。103(まへ)姑根性(しうとめこんじやう)(おこ)して法界(ほふかい)悋気(りんき)をして()るのだらう』
104お照滅相(めつさう)な、105なんでそんな(こと)(いた)しませう。106(わたし)孝助(かうすけ)()(うへ)(あん)じ、107夜分(やぶん)()ずに孝助(かうすけ)夫婦(ふうふ)()(うへ)(かんが)へて()りますれば、108(きよ)(やつ)109大事(だいじ)大事(だいじ)息子(むすこ)をハアハア()()()はせ、110虐待(いぢ)めて()かしますので(はら)()つて(たま)りませぬ。111どうしてあんな(こと)(おや)()()られませうか、112()推量(すゐりやう)(くだ)さいませ。113(わたし)のやうな不仕合(ふしあは)せなものはありませぬ。114(をつと)には(はや)(わか)れ、115一人(ひとり)()粗末(そまつ)にされ、116(よめ)には(つれ)なく(あた)られ、117どうして()きて()られませうかいなア、118アンアンアン』
119 (あか)守衛(しゆゑい)(くち)をへの()(むす)んだきり、120(よこ)(なが)帳面(ちやうめん)(ひら)いて()てニタリと(わら)ひ、
121赤の守衛『これこれお(てる)122(まへ)随分(ずいぶん)(よめ)をイヂつたなア』
123お照『ハイ、124イヂりました。125(むか)ふの()やうが()やうで(ござ)いますもの、126姑婆(しうとめばば)(はり)いぢりと(まを)して、127あまり(はら)()つと、128木綿針(もめんばり)(よめ)(しり)をチヨイチヨイと()いてやりました。129(しか)し、130これは(しうとめ)(はり)いぢりと(むかし)から(ことわざ)にも(のこ)つて()(ところ)(ござ)います。131(ちつ)(いた)()()はして(しつけ)をせねば(いへ)のためになりませぬから』
132赤の守衛『その(はう)随分(ずいぶん)悪党(あくたう)(ばば)だ。133息子(むすこ)女房(にようばう)親密(しんみつ)(くら)して()るのが(はら)()つと()えるな』
134お照(ちつ)とは(はら)()ちませうかい。135(まへ)さまだつて(しうと)身分(みぶん)になつて御覧(ごらん)なさい。136(まへ)さまは役人(やくにん)とみえるが、137チツとは老人(らうじん)贔屓(ひいき)もして、138(よめ)(しか)つて(くだ)さつたら()かりさうなものだがなア』
139赤の守衛(よめ)には(ちつと)(わる)(こと)はない、140(まへ)息子(むすこ)(わる)い、141これから(ひと)成敗(せいばい)をしてやらう』
142お照滅相(めつさう)な、143(わたし)息子(むすこ)(かぎ)つて(わる)いことは(ちり)(ほど)(いた)した(おぼ)えは(ござ)りませぬ。144(また)このお(てる)も、145(わか)(とき)から貞節(ていせつ)(まも)り、146(をつと)()(ぬす)んで(をとこ)(こしら)へたやうな(こと)もなし、147よく調(しら)べて(くだ)さいませ』
148赤の守衛『お(まへ)はお(きよ)朝寝(あさね)をしたと(まを)して、149(きよ)(には)土間(どま)(すわ)らせ、150戸棚(とだな)からありたけの瀬戸物(せともの)()し、151一口(ひとくち)小言(こごと)()つては(には)()ちつけ、152(また)一言(ひとこと)()つては()ちつけ、153(つひ)には土瓶(どびん)154燗徳利(かんどくり)155火鉢(ひばち)(まで)なげつけてメチヤ メチヤに(こは)したぢやないか。156(きよ)土間(どま)(あたま)()げて(あやま)つて()るのに、157なぜ左様(さやう)乱暴(らんばう)(いた)したか』
158お照『ハイ、159(なん)()つても自分(じぶん)(いへ)(たから)ですから()りたくはありませぬ。160(はじ)めの(あひだ)()けた茶碗(ちやわん)や、161ニウ()つた手塩皿(てしほざら)()げつけたのです。162その(とき)()()いた(よめ)なら(わたし)()()りついて「お(かあ)さま()つて(くだ)さい」と()いて()める(ところ)ですのに、163あのお(きよ)(うち)(おも)はぬ馬鹿(ばか)(をんな)ですから(ひと)つも()めはせず、164(あやま)つてばかり()るので、165()しいて(かな)はぬあの瀬戸物(せともの)を、166つひ()きがかり(じやう)167(こは)して仕舞(しま)つたのです。168本当(ほんたう)()しい(こと)(ござ)いました。169(けつ)してこの(ばば)(こは)したのぢやありませぬ、170(きよ)(やつ)がむかつかしたのが原動力(げんどうりよく)となつて、171つひあんな(こと)出来(でき)たので(ござ)います。172本当(ほんたう)心得(こころえ)(わる)(をんな)(ござ)います。173(わたし)(いさ)める(こと)はしないで、174おしまひには、175錦手(にしきで)立派(りつぱ)(はち)まで()つて()て、176(かあ)さま、177(ついで)にこれも()つて()れと(まを)しますので、178エ、179()つてやらうかと(おも)ひましたが、180(あま)()しいので上等品(じやうとうひん)だけは(のこ)して()きました。181そして(くび)()(とき)(かんが)へたのは、182こんな瀬戸物(せともの)やお(かね)まで(のこ)して()んでも、183(みな)あんな(にく)らしい(よめ)のものになるのが()しいから、184紙幣(しへい)(みな)()やして仕舞(しま)ひ、185瀬戸物(せともの)(みな)()つて(しま)つてやらうと(おも)ひましたが、186(なん)としても可愛(かあい)孝助(かうすけ)が、187(こま)るだらうと(おも)うて、188()らずと()きました。189(かね)臍繰(へそくり)五百(ごひやく)(りやう)ばかりありましたが、190この(かね)には()(のこ)して()きました。191「このお(かね)孝助(かうすけ)使(つか)ふべきもの、192(きよ)()()れる(こと)出来(でき)ない、193これをお(きよ)使(つか)ふと()けて()る」と()いておきましたから、194(なん)悪党(あくたう)(よめ)でも、195こればかりはよう使(つか)ひきりますまい、196オンオンオン』
197赤の守衛(なん)とまア、198(ごふ)(ふか)(ばば)だなア。199貴様(きさま)のやうな悪垂(あくた)(ばば)はキツと地獄行(ぢごくゆ)きだらう。200さア、201キリキリとこの(もん)(くぐ)れ』
202お照『お(まへ)さまの(やう)没分暁漢(わからずや)()つた(ところ)で、203老人(らうじん)精神(せいしん)(わか)りますまい。204さア、205これから()(ところ)()て、206(よめ)悪事(あくじ)(うつた)(あだ)()たねば()きませぬわいなア、207南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)208ああ(こし)(いた)(こと)だ。209ここは(なん)()ふお役所(やくしよ)だか()らないが、210こんな(わか)いお役人(やくにん)(なに)()るものか、211(いち)(にち)でも(さき)(うま)れたら()(なか)のお師匠(ししやう)さまだ。212どれどれ ちと(わか)(ひと)()うて、213この(わけ)()いて(もら)はう。214これ赤白(あかしろ)(わか)(しう)215(えら)いお邪魔(じやま)(いた)しました。216(みな)さま、217(さき)イ、218左様(さやう)なら』
219(あかざ)(つゑ)をついて海老(えび)のやうに(こし)()げ、220禿()げた(あたま)にお定目(ぢやうもく)ばかりの(かみ)(うしろ)(たば)ね、221エチエチと門内(もんない)さして(すす)()る。
222 (つぎ)()()されたのは、223(うで)入墨(いれずみ)をした(あら)くれ(をとこ)であつた。
224赤の守衛(その)(はう)のネームは(なん)(まを)すか』
225男(弁造)『ハイ(わつちや)ア、226(とび)弁造(べんざう)()つて()(なか)(ちつと)(をとこ)()つたものでござんす。227如何(いか)なる()(ごと)(おこ)つても、228(この)弁造(べんざう)さまが真裸(まつぱだか)となり、229捻鉢巻(ねじはちまき)をグツと()め「まつたまつた」とやつたが最後(さいご)230(つる)一声(ひとこゑ)231(なん)でも()でも(みづ)をうつた(ごと)く、232一度(いちど)(をさ)まると()男達(をとこだて)でござんす。233一体(いつたい)此処(ここ)(なん)()(ところ)(ござ)んすか。234ヘン、235(まへ)さま()にメモアルを調(しら)べらるると()ふのは()つから()つから()()ちませぬワイ』
236赤の守衛此処(ここ)八衢(やちまた)関所(せきしよ)だ。237随分(ずいぶん)(まへ)現世(げんせ)(おい)乱暴(らんばう)(こと)をやつて()(やつ)だから、238この(はかり)にかかれ。239さうして地獄行(ぢごくゆ)きの(はう)(さが)れば地獄行(ぢごくゆ)き、240天国行(てんごくゆ)きの(はう)(さが)れば天国(てんごく)にやつてやらう』
241弁造『ヤア、242有難(ありが)テエ、243地獄(ぢごく)(かま)のどん(ぞこ)でもビクとも(いた)さぬ(それがし)244()侠客(けふかく)渡世(とせい)(けん)(とび)親分(おやぶん)だから、245地獄行(ぢごくゆ)きが(わつち)(しやう)()つて()るでせう。246どうか(はかり)なんか面倒(めんだう)くせえ(こと)をせずに、247すぐ地獄(ぢごく)にやつて(くだ)せえな、248天国(てんごく)なんか(しやう)()はない、249地獄(ぢごく)には(さだ)めし喧嘩(けんくわ)もあるであらう、250(また)火事(くわじ)もあるであらう。251(その)(とき)(とび)弁造(べんざう)真裸(まつぱだか)となつて()()仲裁(ちうさい)をし、252(うま)(さけ)でも()むに便利(べんり)がいい。253喧嘩鳶(けんくわとび)の、254グヅ(とび)の、255グレン(とび)()はれて()た、256チヤキ チヤキの(あに)イだ』
257胡坐(あぐら)をかき、258侠客(けふかく)気分(きぶん)極端(きよくたん)発揮(はつき)して()る。
259赤の守衛()(かく)霊界(れいかい)規則(きそく)だから、260この(はかり)()つて()れ、261サア(はや)く』
262とせき()てる。
263弁造『よし、264幡随院(ばんずいゐん)長兵衛(ちやうべゑ)(やなぎ)(まないた)(うへ)(すわ)つて、265白鞘組(しらさやぐみ)から()きながら料理(れうり)をされた(ためし)もある。266(おれ)(たち)(その)幡随院(ばんずいゐん)理想(りさう)とするものだ。267(なん)でも(かま)はぬ()つてやらう。268(ちつ)(ぐらゐ)()(こと)があつても、269(けつ)して天国(てんごく)へやつてはいけないぞ』
270業託(ごふたく)()ひながら(はかり)にかかつた。271(はかり)両方(りやうはう)272水平(すいへい)になつて、273地獄(ぢごく)(はう)()さず、274天国(てんごく)(はう)()さず、275じつとして()る。
276赤の守衛『ハハこいつは比較(ひかく)(てき)善人(ぜんにん)だ。277(くち)悪垂(あくた)れを(ほざ)くが、278(ぜん)半分(はんぶん)279(あく)半分(はんぶん)280マアマアこれなら今日(こんにち)娑婆(しやば)では上等(じやうとう)()だ。281オイ弁造(べんざう)282()(どく)ながら(その)(はう)(のぞ)地獄(ぢごく)にやる(こと)出来(でき)ぬ。283さりとて天国(てんごく)にもやられず八衢(やちまた)人足(にんそく)だ。284まづ(しば)中有界(ちううかい)修業(しゆげふ)(いた)したがよからう。285(けつ)して地獄行(ぢごくゆ)きなどを(のぞ)むぢやないぞ。286(その)(はう)審判(しんぱん)必要(ひつえう)がない。287これから西北(せいほく)(はう)をさして勝手(かつて)()け。288(また)(その)(はう)相当(さうたう)相棒(あいぼう)()つて()るであらう』
289 弁造(べんざう)梟鳥(ふくろどり)夜食(やしよく)(はづ)れたやうな(つま)らぬ(かほ)をして、
290弁造『エエ中有界(ちううかい)なんて()がきかない、291なぜ(おれ)地獄(ぢごく)にやらないのかなア』
292(つぶや)きながらノソリノソリと両腕(りやううで)()荒野(あらの)をさして(すす)()く。
293 それから沢山(たくさん)精霊(せいれい)一々(いちいち)ネームを(たづ)ねられ、294メモアルを()られ、295(あるひ)天国(てんごく)へ、296(あるひ)中有界(ちううかい)へ、297(また)地獄(ぢごく)へと(おのおの)(その)所主(しよしゆ)(あい)()つて(さば)かれて()く。
298大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 加藤明子録)
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