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第二五章 恋愛観(れんあいくわん)〔一三六一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第5篇 洗判無料 よみ(新仮名遣い):せんばんむりょう
章:第25章 恋愛観 よみ(新仮名遣い):れんあいかん 通し章番号:1361
口述日:1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は三人の悪人たちが絞られたのを見て痛快となり、ますます調子に乗って石の上に立ち上がり、大道演説を始め出した。
八衢の赤の守衛は、仕事の邪魔になると、高姫の演説をやめさせようと叱りつけた。高姫は自分は日の出神の生き宮だと赤の守衛を叱りかえした。
赤の守衛はとうとう高姫を縛って木に吊るしてしまった。しかし高姫は伊吹戸主を呼んで来いと怒鳴りたてる始末であった。口の減らない高姫に辟易した守衛たちは、門内に入れておとなしくさせることにした。高姫は得意げに大手を振って門の中に入って行った。
その後は、不倫心中をした男女がやってきて、赤と白の守衛の取り調べに対して、当世風の恋愛論を振りかざして、門内に入って行った。赤と白の守衛は現界の乱れを嘆いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-22 19:03:14 OBC :rm5225
愛善世界社版:292頁 八幡書店版:第9輯 484頁 修補版: 校定版:300頁 普及版:131頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)敬介(けいすけ)002狂介(きやうすけ)003悪次郎(あくじらう)(さん)(にん)手厳(てきび)しくコミ()られたのを()痛快(つうくわい)()(あた)はず、004益々(ますます)調子(てうし)にのつてロハ(だい)(うへ)(のぼ)り、005(また)もや大道(だいだう)演説(えんぜつ)(はじ)()した。
006高姫(みな)さま、007あれをお()きになりましたか。008泡沫(はうまつ)(ひと)しき権勢(けんせい)や、009地位(ちゐ)や、010財産(ざいさん)()りまはし、011社会(しやくわい)(おい)乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)(はたら)いた偽善者(きぜんしや)末路(まつろ)は、012(この)(とほ)りで(ござ)りませうがな。013(みな)さまはここを現界(げんかい)(おも)うてゐますか。014ここは霊界(れいかい)八衢(やちまた)015善悪(ぜんあく)調(しら)べる(ところ)ですよ。016(まへ)さま(たち)常平生(つねへいぜい)から結構(けつこう)()出神(でのかみ)(あら)はれてウラナイの(みち)(ひら)き、017万民(ばんみん)(すく)ふべく(あさ)(ゆふ)なに(くち)()うしてお(みちび)(あそ)ばしたのに……ヘン、018あの気違(きちが)ひが(なに)(ぬか)す、019冥土(めいど)があつて(たま)らうか、020地獄(ぢごく)極楽(ごくらく)(この)()(ござ)る……(など)(たか)(くく)つて(ござ)つたが、021(いま)(さん)(にん)()つた(やつ)(やう)に、022ここで十分(じふぶん)(あぶら)(しぼ)られ、023吠面(ほえづら)をかわかねばなりませぬぞや。024それだから現界(げんかい)(おい)(かみ)(さま)のお(はなし)をよく()きなされと()つたのだ。025如何(どう)です、026(これ)でもお(まへ)さま(たち)(この)高姫(たかひめ)演説(えんぜつ)()()はありませぬか。027義理(ぎり)天上(てんじやう)()出神(でのかみ)(さま)現界(げんかい)028幽界(いうかい)029神界(しんかい)救主(すくひぬし)(ござ)るぞや。030何程(なにほど)(ふか)(つみ)があらうとも、031(この)(はう)()(こと)さへ()けば、032神直日(かむなほひ)033大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)して(たす)けて()げるぞや』
034 (あか)守衛(しゆゑい)高姫(たかひめ)()をグツと(にぎ)り、
035赤の守衛『こりや高姫(たかひめ)036(かへ)れといつたら(かへ)らぬか。037大変(たいへん)邪魔(じやま)になる。038どうしても()かねば、039(その)(はう)(この)(まま)地獄(ぢごく)()とすが()いか』
040高姫『ヘン、041よう仰有(おつしや)いますワイ。042(なん)()つても神界(しんかい)043現界(げんかい)044幽界(いうかい)救主(すくひぬし)なる義理(ぎり)天上(てんじやう)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(ござ)りますぞや。045(あま)見違(みちが)ひをして(もら)ひますまいカイ。046これこれ(みな)さま、047何程(なにほど)(こは)(かほ)して(この)守衛(しゆゑい)(にら)んだ(ところ)で、048チツとも(おどろ)くに(およ)びませぬよ。049(しか)(この)高姫(たかひめ)(まを)(こと)(わか)らねば駄目(だめ)ですよ。050おい(あか)さま、051チツとお(まへ)高姫(たかひめ)()(こと)真面目(まじめ)()いたら如何(どう)だい』
052 (あか)守衛(しゆゑい)(うる)さくなつたと()え、053高姫(たかひめ)()をグツと(うしろ)へまはし、054(かたはら)梧桐(あをぎり)()(しば)りつけて(しま)つた。055高姫(たかひめ)(なほ)(くつ)せず、056(やや)怒気(どき)(ふく)んだ(こゑ)で、
057高姫『こりや、058罰当(ばちあた)()059三界(さんかい)救主(すくひぬし)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(なん)(いた)すか。060(もの)(わか)らぬにも(ほど)があるぞよ。061もう()うなつて貴様(きさま)(やう)蠅虫(はへむし)(はなし)をした(ところ)仕方(しかた)がない。062伊吹戸主(いぶきどぬし)()んで()い。063(この)高姫(たかひめ)()んで(くく)める(やう)(まこと)道理(だうり)()かしてやらう。064さうすればお(まへ)(はじ)めて(この)生宮(いきみや)()神力(しんりき)(わか)()()めるだらう』
065赤の守衛『エー、066仕方(しかた)がない。067(しろ)さま、068どうか(しばら)門内(もんない)()つこんでおいて(くだ)さい。069事務(じむ)邪魔(じやま)になつて仕方(しかた)がありませぬから』
070高姫『オホホホホホ、071出来(でか)した出来(でか)した、072到頭(たうとう)往生(わうじやう)(いた)したと()え、073杢助(もくすけ)さまの(ござ)門内(もんない)(はい)れと()ひよつたな。074ヤツパリ高姫(たかひめ)さまには(かな)ふまいがな、075オホホホホホ』
076(しろ)『さア高姫(たかひめ)077(いましめ)をほどいてやるから門内(もんない)這入(はい)れ』
078高姫『ハイ、079有難(ありがた)う。080順風(じゆんぷう)()をかけた(やう)なものだ。081(これ)(おも)へば熱心(ねつしん)()ふものは(えら)いものだな』
082(あか)『エー、083グヅグヅ(まを)さずとトツトと這入(はい)れ』
084高姫『ホホホホ、085這入(はい)りますわいな。086(その)(かは)(あか)のお(まへ)さま(たち)都合(つがふ)(わる)(こと)()()るかも()れませぬぞや。087勿体(もつたい)なくも()出神(でのかみ)生宮(いきみや)梧桐(あをぎり)(しば)りつけた大悪(だいあく)は、088伊吹戸主(いぶきどぬし)()うたら屹度(きつと)()げてやるから、089地獄行(ぢごくゆき)覚悟(かくご)(まへ)だらう。090まア(よろこ)んで()つて()なさい。091あの、092まア心配(しんぱい)さうな(かほ)ワイノー』
093 (しろ)(やさ)しい(かほ)(すこ)しく(いか)りを()(こゑ)(とが)らして、
094白の守衛『こりや高姫(たかひめ)095()(こと)があれば(あと)()へ。096さア(はや)這入(はい)らないか』
097高姫『ホホホホホ、098青瓢箪(あをぺうたん)()()がしたやうな営養(えいやう)不良(ふりやう)(かほ)をして、099(この)生宮(いきみや)(さま)を「高姫(たかひめ)()ひたい(こと)があるなら(あと)から()へ」……(なに)(ぬか)すのだ。100チツと身分(みぶん)(かんが)へたら如何(どう)だい、101オツホン』
102(をんな)似合(にあ)はず大手(おほて)()り、103大股(おほまた)(ある)いて門内(もんない)姿(すがた)(かく)した。
104 (あか)男女(だんぢよ)()れの精霊(せいれい)手招(てまね)きし住所(ぢゆうしよ)姓名(せいめい)(たづ)ねかけた。
105赤の守衛(その)(はう)(なん)(まを)姓名(せいめい)か』
106女(おつや)『ハイ、107(わたし)はおつやと(まを)します』
108赤の守衛(その)(はう)(なん)(まを)すか』
109男(呆助)『ハイ、110(わたし)呆助(はうすけ)(まを)します』
111赤の守衛『おつや、112(その)(はう)(をつと)のある()(もつ)て、113(この)呆助(はうすけ)(ひそ)かに(じやう)(つう)じ、114斯様(かやう)(ところ)へやつて()たのだな』
115おつや『ハイ、116理想(りさう)(をつと)がないものですから、117()むを()ずこんな破目(はめ)になつたのですよ。118今日(こんにち)結婚(けつこん)問題(もんだい)(あい)結婚(けつこん)でなくて財産(ざいさん)結婚(けつこん)119門閥(もんばつ)結婚(けつこん)120強迫(きやうはく)結婚(けつこん)121強姦(がうかん)結婚(けつこん)122往生(わうじやう)づくめの無理(むり)無体(むたい)結婚(けつこん)()ひる()(なか)ですから、123離婚(りこん)沙汰(ざた)頻々(ひんぴん)として(おこ)つてゐます。124恋愛(れんあい)無視(むし)した因襲(いんしふ)(てき)結婚法(けつこんはふ)は、125斯様(かやう)問題(もんだい)惹起(じやくき)する(もつと)重大(ぢうだい)なる原因(げんいん)(ひと)つとなるのです。126自分(じぶん)()いて自分(じぶん)(えら)んだ結婚(けつこん)関係(くわんけい)ならば、127それが仮令(たとへ)うまく()かなくても自分(じぶん)自身(じしん)(その)全責任(ぜんせきにん)があります。128出来得(できう)るだけの努力(どりよく)をして現在(げんざい)結婚(けつこん)生活(せいくわつ)をもつともつと()きものにしなければなりませぬ。129最初(さいしよ)から自分(じぶん)以外(いぐわい)(もの)取計(とりはか)らつた結婚(けつこん)()ふものは、130(すこ)しも恋愛味(れんあいみ)存在(そんざい)しませぬ。131(いづ)(あは)せものは(はな)れものだと()流儀(りうぎ)ですから、132離婚(りこん)不祥事(ふしやうじ)や、133()情夫(じやうふ)(こしら)へて三角(さんかく)生活(せいくわつ)(おく)(やう)になるのは()むを()ませぬ。134(みな)社会(しやくわい)制度(せいど)(わる)いのだから、135自分(じぶん)意思(いし)()うたもの同志(どうし)結婚(けつこん)自由(じいう)にしたと()つて、136(まへ)さま()にゴテゴテ()はれて(たま)りますか。137(をんな)(けつ)して(をとこ)玩弄物(おもちや)ぢやありませぬ。138ヤツパリ一人前(いちにんまへ)人格者(じんかくしや)である以上(いじやう)男子(だんし)圧迫(あつぱく)強圧(きやうあつ)(ゆる)しませぬ。139それだから無理(むり)結婚(けつこん)(をつと)()てて最愛(さいあい)呆助(はうすけ)さまと(かく)(しの)んで、140耽美(たんび)生活(せいくわつ)(あぢ)はつてゐたのです。141(これ)(ほど)(わか)()つた道理(だうり)社会(しやくわい)(やつ)(みな)盲目(めくら)だから、142嫉妬(やきもち)半分(はんぶん)に、143あのおつやは不貞腐(ふてくさ)れだの、144ホームの破壊者(はくわいしや)だの、145阿婆摺(あばずれ)(をんな)張本(ちやうほん)(など)(くだ)らぬ(こと)(ほざ)きやがるので(うる)さくて(たま)らず、146呆助(はうすけ)さまと相談(さうだん)(うへ)147()()()つてライオン(がは)投身(とうしん)し、148霊界(れいかい)(おい)完全(くわんぜん)なるホームを(つく)恋愛味(れんあいみ)(あぢ)ははうと(おも)つてやつて()賢明(けんめい)(あたら)しい(をんな)ですよ。149コンモンセンスを()いた社会(しやくわい)馬鹿(ばか)人間(にんげん)は、150トランセンデンタルな恋愛(れんあい)権利(けんり)(かい)せない馬鹿者(ばかもの)ばかりですから、151サツパリ社会(しやくわい)(いや)になつて(しま)つたのです。152想思(さうし)男女(だんぢよ)をして自由(じいう)結婚(けつこん)せしむるのがワイズ・ペアレントフツドでせう。153今日(こんにち)(おや)()ふものは(わが)()恋愛(れんあい)までも抹殺(まつさつ)しようとするのだから(たま)らないですよ。154吾々(われわれ)はチヤスティティなラブを(もつ)人生(じんせい)最大(さいだい)要件(えうけん)(みと)めてゐるのです。155イケ()かない男子(だんし)結婚(けつこん)する(くらゐ)なら、156(むし)ろセリバシイ生活(せいくわつ)(おく)(はう)何程(なにほど)ましだか()れませぬわ。157(まへ)さまも、158()(とし)がお(わか)いが屹度(きつと)妻君(さいくん)があるでせう。159()()つた妻君(さいくん)()うてゐらつしやいますかな』
160赤の守衛『こりやこりや(をんな)161こんな(ところ)変愛論(れんあいろん)をふりかざす(ところ)ぢやないぞ。162(これ)から(その)(はう)罪悪(ざいあく)調(しら)べるのだ』
163おつや高竹寺(かうちくじ)女学校(ぢよがくかう)卒業生(そつげふせい)で、164天才(てんさい)(ほまれ)をとつたおつやで(ござ)ります。165天才(てんさい)秀才(しうさい)()ねた(あたら)しい(をんな)だから、166到底(たうてい)(まへ)さまの(あたま)へは(はい)りますまい。167ホーム・ウエーゼリ・ゼヤリーベの(わか)らない、168()(おく)れた人間(にんげん)にはテンで(はなし)にはなりませぬワ。169ラブ・イズ・ベストを(もつ)吾々(われわれ)目覚(めざ)めた婦人(ふじん)大理想(だいりさう)としてゐるのですよ。170(なん)とまア()()かない(かほ)して()りますね、171ホホホホホ』
172赤の守衛(この)(ごろ)女性(ぢよせい)には冥官(めいくわん)(じつ)往生(わうじやう)だ。173(なに)()もあれ、174(その)(はう)のメモアルを調(しら)べてやるから此方(こちら)()い。175高等(かうとう)女学校(ぢよがくかう)高竹寺(かうちくじ)女学校(ぢよがくかう)とは(なに)()ふか』
176おつや(わたし)行状(ぎやうじやう)調(しら)べるとは、177そいつは面白(おもしろ)い。178純潔(じゆんけつ)婦人(ふじん)ですよ。179サンナム・ボーナムの(おこな)ひを(つく)して()才媛(さいえん)ですから、180旧道徳(きうだうとく)(ふる)(あたま)御覧(ごらん)になれば罪悪(ざいあく)かは()りませぬが、181(こひ)目覚(めざ)めたニユー・スピリツトを(いう)する(わたし)主義(しゆぎ)は、182()(おく)れた、183失敬(しつけい)ながらお(まへ)さまでは(わか)りますまい。184(なん)()つても人間(にんげん)世界(せかい)ではラ・ヴイ・セクシユエルと()つて性的(せいてき)生活(せいくわつ)(もつ)第一(だいいち)とするのですから、185(この)(くらゐ)最善(さいぜん)方法(はうはふ)はありますまい。186無理解(むりかい)(おや)(しひた)げられて、187良心(りやうしん)()結婚(けつこん)した夫婦(ふうふ)は、188()はば罪悪(ざいあく)(さい)なるものと(おも)ひます。189(あい)なき結婚(けつこん)()ひられて、190(あさ)から(ばん)まで、191夫婦(ふうふ)がアンタゴーニズムの悲劇(ひげき)(えん)じて()るよりも、192想思(さうし)男女(だんぢよ)(たがひ)にホーリ・グレールを(かたむ)けて天国(てんごく)法悦(ほふえつ)()ふのが(もつと)賢明(けんめい)()めた婦人(ふじん)のやり(かた)です。193(まへ)さまは到底(たうてい)吾々(われわれ)審判(しんぱん)するだけの権能(けんのう)はありませぬよ。194何卒(どうぞ)もう(この)問題(もんだい)には(この)(うへ)クエーストして(くだ)さるな』
195 (あか)はあまりの(こと)(あき)()て、196呆助(はうすけ)(はう)言葉(ことば)()けた。
197赤の守衛『おい呆助(はうすけ)198(まへ)(この)おつやを(しん)から(あい)してゐるのか』
199呆助『ハイ、200(わたくし)はおつやの意見(いけん)共鳴(きようめい)して()ります。201よく(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。202恋愛(れんあい)()ふものは至高(しかう)至上(しじやう)のものでせう。203恋愛(れんあい)至上(しじやう)思想(しさう)があつて(ここ)(はじ)めて一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)制度(せいど)的確(てきかく)なる精神(せいしん)(てき)204道徳(だうとく)(てき)205合理(がふり)(てき)基礎(きそ)(あた)ふる(こと)出来(でき)るのです。206それ以外(いぐわい)一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)(ろん)は、207所謂(いはゆる)偽善説(ぎぜんせつ)(あら)ざれば、208(たん)なる便宜(べんぎ)(てき)209因襲(いんしふ)(てき)210実理(じつり)(てき)()都合主義(つがふしゆぎ)か、211(また)形式(けいしき)主義(しゆぎ)たるものに()ぎませぬ。212(かく)(ごと)きは(すくな)くとも人間(にんげん)として第二義(だいにぎ)(てき)考察(かうさつ)として取扱(とりあつか)はるべき問題(もんだい)となると(おも)ひます。213至上(しじやう)至高(しかう)性的(せいてき)道徳(だうとく)としての恋愛(れんあい)(ふた)つの人格(じんかく)全的(ぜんてき)結合(けつがふ)なるが(ゆゑ)に、214そこに一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)原則(げんそく)確認(かくにん)されたとすれば、215必然(ひつぜん)(てき)(これ)相即(さうそく)不離(ふり)関係(くわんけい)をなして(しやう)ずるものは所謂(いはゆる)貞操(ていさう)観念(くわんねん)でせう。216男女(だんぢよ)(たがひ)貞操(ていさう)厳守(げんしゆ)格守(かくしゆ)する(こと)によつてのみ、217(この)一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)完全(くわんぜん)実現(じつげん)せられ()るものです。218(ゆゑ)貞操(ていさう)恋愛(れんあい)神聖(しんせい)なる擁護者(ようごしや)たると(とも)に、219(また)(しん)恋愛(れんあい)(かなら)貞操(ていさう)(ともな)ふものです』
220赤の守衛随分(ずいぶん)猛烈(まうれつ)恋愛(れんあい)関係(くわんけい)だのう。221嫉妬(やきもち)悋気(りんき)随分(ずいぶん)(はな)()かしただらうのう』
222呆助世間(せけん)(てき)物質(ぶつしつ)(てき)欲望(よくばう)(わづら)はされてゐない純真(じゆんしん)恋愛(れんあい)場合(ばあひ)(おい)ては、223嫉妬(しつと)なるものは(かなら)ずしも悪徳(あくとく)として非難(ひなん)せらるべきものでなく、224(むし)双方(さうはう)純潔(じゆんけつ)(たも)たむとする貞操(ていさう)観念(くわんねん)副作用(ふくさよう)とも()られるのです。225悋気(りんき)をせない(をんな)(あきら)かに不貞(ふてい)(をんな)である場合(ばあひ)(もつと)(おほ)いものです。226それ(ゆゑ)吾々(われわれ)悋気(りんき)もしたり、227イチヤついてもみたり、228低気圧(ていきあつ)両人(りやうにん)(あひだ)(おこ)つたりする(こと)は、229幾度(いくたび)出現(しゆつげん)しますが、230(これ)所謂(いはゆる)貞操(ていさう)観念(くわんねん)濃厚(のうこう)なる証拠(しようこ)であらうと(おも)ひます、231エヘヘヘヘヘ』
232赤の守衛『アーア、233サツパリ(けむり)()かれて(しま)つた。234()両人(りやうにん)235目出度(めでた)う。236(この)(さき)はどうなるか()りませぬが、237()伊吹戸主(いぶきどぬしの)(かみ)(さま)(まへ)諄々(じゆんじゆん)恋愛(れんあい)神聖論(しんせいろん)でもまくし()てなさるが(よろ)しからう。238(しか)しおつやの(をつと)昨日(さくじつ)ここを通過(つうくわ)したから、239(さぞ)今頃(いまごろ)伊吹戸主(いぶきどぬしの)(かみ)(まへ)でお(まへ)()両人(りやうにん)現界(げんかい)()ける一切(いつさい)行動(かうどう)陳述(ちんじゆつ)したであらう。240さア(はや)(とほ)りなさい』
241おつや『ハイ、242(くだ)らぬ(こと)(まを)しまして(まこと)()みませぬ。243(しか)しながら吾々(われわれ)両人(りやうにん)結合力(けつがふりよく)(きは)めて硬固(かうこ)なもので(ござ)りますから、244仮令(たとへ)地獄(ぢごく)(そこ)(おと)されても滅多(めつた)分離(ぶんり)などは(いた)しませぬワ』
245赤の守衛『エー、246八釜(やかま)しい。247そんな問題(もんだい)審判廷(しんぱんてい)喋々(てふてふ)とまくし()てたが()からう。248(はや)(とほ)れ』
249一喝(いつかつ)した。250二人(ふたり)(むつま)じさうに()()きながら、251いそいそとして(もん)(くぐ)()る。
252白の守衛(なん)とまア脱線(だつせん)した(をんな)()たものだなア。253(あか)さま、254(これ)からチツと方針(はうしん)()へなくちやなりますまいぞや』
255赤の守衛如何(いか)にも(しろ)さま、256非常(ひじやう)現界(げんかい)には魔風(まかぜ)恋風(こひかぜ)()(すさ)んでゐると()えますな。257(これ)では到底(たうてい)社会(しやくわい)秩序(ちつじよ)(たも)たれますまい。258ああ(こま)つた(こと)だなア』
259大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 北村隆光録)
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