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第52巻(卯の巻)
序文
総説代用
第1篇 鶴首専念
01 真と偽
〔1337〕
02 哀別の歌
〔1338〕
03 楽屋内
〔1339〕
04 俄狂言
〔1340〕
05 森の怪
〔1341〕
06 梟の笑
〔1342〕
第2篇 文明盲者
07 玉返志
〔1343〕
08 巡拝
〔1344〕
09 黄泉帰
〔1345〕
10 霊界土産
〔1346〕
11 千代の菊
〔1347〕
第3篇 衡平無死
12 盲縞
〔1348〕
13 黒長姫
〔1349〕
14 天賊
〔1350〕
15 千引岩
〔1351〕
16 水車
〔1352〕
17 飴屋
〔1353〕
第4篇 怪妖蟠離
18 臭風
〔1354〕
19 屁口垂
〔1355〕
20 険学
〔1356〕
21 狸妻
〔1357〕
22 空走
〔1358〕
第5篇 洗判無料
23 盲動
〔1359〕
24 応対盗
〔1360〕
25 恋愛観
〔1361〕
26 姑根性
〔1362〕
27 胎蔵
〔1363〕
余白歌
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> 第4篇 怪妖蟠離 > 第18章 臭風
<<< 飴屋
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第一八章
臭風
(
しうふう
)
〔一三五四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
篇:
第4篇 怪妖蟠離
よみ(新仮名遣い):
かいようばんり
章:
第18章 臭風
よみ(新仮名遣い):
しゅうふう
通し章番号:
1354
口述日:
1923(大正12)年02月09日(旧12月24日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年1月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
浮木の森の火の見やぐら前の庭園で、狸にだまされて一夜を明かしたガリヤ、ケース、初、徳の四人は、あたりを見回しながら互いに苦笑していた。そこへ美しい女が一人現れて、四人の前後左右を丸に十を書いて回り、臭い屁を放ってどこかに姿を隠した。
一同はこの場の怪異を平定しなければと気焔を上げている。四人は物見やぐらの最上階に上り、座敷に陣取った。すると押入れの隅からコトコト音がする。戸を開けると、さきほどの屁こき女が小さくなってふるえていた。
女は、自分はおならというこの界隈で有名な屁こき女であり、そのために村においてもらえずに物見やぐらに追いやられているのだ、と語った。女は四人に自分の屁がいかにすごいか、そのためにどうして嫁ぎ先を追い出されたかなど身の上を面白おかしく語って聞かせた。
徳は、おならの耳が動くのに気付いて言い立てた。ガリヤは、自分は初めからこいつはイタチの化け物だと知っていたとおならを詰問する。
おならは、間違いないと自ら正体を明かし、最後っ屁を放った。四人は息がつまり、階段を降って逃げるうちに階下に転落して唸っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-12-15 16:23:01
OBC :
rm5218
愛善世界社版:
223頁
八幡書店版:
第9輯 459頁
修補版:
校定版:
231頁
普及版:
99頁
初版:
ページ備考:
001
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
の
火
(
ひ
)
の
見
(
み
)
櫓
(
やぐら
)
の
前
(
まへ
)
の
庭園
(
ていゑん
)
に、
002
悪狸
(
わるだぬき
)
に
騙
(
だま
)
されて
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
したガリヤ、
003
ケース、
004
初
(
はつ
)
、
005
徳
(
とく
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
006
瘧
(
おこり
)
のおちた
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
007
四辺
(
あたり
)
をキヨロ キヨロ
見廻
(
みまは
)
しながら、
008
互
(
たがひ
)
に
面
(
おもて
)
を
見合
(
みあは
)
せ
苦笑
(
くせう
)
してゐた。
009
そこへ
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
、
010
何処
(
どこ
)
からともなく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
011
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
を
○
(
まる
)
に
十
(
じふ
)
を
描
(
ゑが
)
いて
足跡
(
あしあと
)
を
印
(
いん
)
し、
012
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
尻
(
しり
)
から
欠伸
(
あくび
)
をしながら、
013
臭
(
くさ
)
い
匂
(
にほ
)
ひを
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
放出
(
はうしゆつ
)
し、
014
どこともなく
足早
(
あしばや
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
015
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
鼻
(
はな
)
を
撮
(
つま
)
んで、
016
息
(
いき
)
も
塞
(
ふさ
)
ぐばかりに
苦
(
くるし
)
んでゐた。
017
サツと
吹来
(
ふきく
)
る
一陣
(
いちぢん
)
の
風
(
かぜ
)
に、
018
四辺
(
あたり
)
の
臭気
(
しうき
)
はスツカリ
払拭
(
ふつしき
)
された。
019
ガリヤ『あああ、
020
エライ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うた。
021
狸
(
たぬき
)
にはつままれ、
022
鼬
(
いたち
)
のお
化
(
ばけ
)
には
屁
(
へ
)
を
嗅
(
か
)
がされ、
023
本当
(
ほんたう
)
に
踏
(
ふ
)
んだり
蹴
(
け
)
つたりな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うた。
024
オイ
皆
(
みな
)
の
連中
(
れんぢう
)
、
025
長居
(
ながゐ
)
は
恐
(
おそ
)
れだ、
026
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
しようぢやないか』
027
ケース『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
日
(
ひ
)
の
下
(
した
)
開山
(
かいざん
)
の
天下
(
てんか
)
の
力士
(
りきし
)
だ。
028
退却
(
たいきやく
)
は
断
(
だん
)
じてやらない。
029
退却
(
たいきやく
)
の
後
(
あと
)
にはキツト
追撃
(
つゐげき
)
が
伴
(
ともな
)
ふものだ。
030
宣教師
(
せんけうし
)
の
後
(
うしろ
)
には
必
(
かなら
)
ず
大砲
(
たいはう
)
ありだ。
031
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
一
(
ひと
)
つ
宣教師
(
せんけうし
)
となつた
以上
(
いじやう
)
は、
032
大砲
(
たいはう
)
でも
放射
(
はうしや
)
して、
033
鼬
(
いたち
)
のお
化
(
ばけ
)
に
応戦
(
おうせん
)
せなくちや、
034
此
(
この
)
儘
(
まま
)
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
は
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
035
幸
(
さいは
)
ひここに
物見櫓
(
ものみやぐら
)
がある。
036
此
(
この
)
櫓
(
やぐら
)
に
陣取
(
ぢんど
)
つて、
037
大
(
おほい
)
に
騙
(
だま
)
サレ
組
(
ぐみ
)
の
気焔
(
きえん
)
を
上
(
あ
)
げようぢやないか』
038
ガリヤ
『さうだな、
039
何
(
なん
)
とかせなくちや
馬鹿
(
ばか
)
らしくて
此
(
この
)
儘
(
まま
)
帰
(
かへ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かない。
040
マア
一
(
ひと
)
つ
上
(
うへ
)
へ
上
(
あが
)
つて
悪魔
(
あくま
)
を
平定
(
へいてい
)
するか、
041
或
(
あるひ
)
は
屁輪
(
へいわ
)
快議
(
くわいぎ
)
でも
開
(
ひら
)
かうかな』
042
ケース
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
043
吾々
(
われわれ
)
に
因縁
(
いんねん
)
のある
此
(
この
)
物見櫓
(
ものみやぐら
)
だ。
044
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
は
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
がここで
羽振
(
はぶり
)
を
利
(
き
)
かして
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
だから、
045
誰
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらぬ。
046
又
(
また
)
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
から
払下
(
はらひさげ
)
になつたのでもなし、
047
其
(
その
)
儘
(
まま
)
においてあるのだから、
048
特定
(
とくてい
)
の
持主
(
もちぬし
)
がある
筈
(
はず
)
もない。
049
サア
上
(
あが
)
つたり
上
(
あが
)
つたり』
050
と
茲
(
ここ
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
051
ランチ、
052
片彦
(
かたひこ
)
が
恋
(
こひ
)
の
伊達引
(
だてひき
)
をやつて、
053
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
をしたと
云
(
い
)
ふ
新
(
あたら
)
しい
歴史
(
れきし
)
の
残
(
のこ
)
つた
最高
(
さいかう
)
の
座敷
(
ざしき
)
に
陣取
(
ぢんど
)
つた。
054
上
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
るとコトコトと
押入
(
おしいれ
)
のスミから
音
(
おと
)
がするので、
055
ケースはコハゴハ
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けると、
056
以前
(
いぜん
)
の
屁
(
へ
)
こき
女
(
をんな
)
が
小
(
ちひ
)
さくなつて
慄
(
ふる
)
うてゐる。
057
ケースは
矢庭
(
やには
)
に
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
り、
058
押入
(
おしいれ
)
から
引張
(
ひつぱ
)
り
出
(
だ
)
して、
059
ケース
『コラあまつちよ、
060
失敬
(
しつけい
)
千万
(
せんばん
)
な、
061
武士
(
ぶし
)
の
前
(
まへ
)
に
屁
(
へ
)
を
嗅
(
か
)
がすといふ
事
(
こと
)
があるか。
062
何
(
なに
)
か
之
(
これ
)
には
理由
(
りいう
)
があらう、
063
サ、
064
一々
(
いちいち
)
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
せ』
065
女(おなら)
『ハイ、
066
私
(
わたし
)
はおならと
申
(
まを
)
します。
067
ここら
界隈
(
かいわい
)
切
(
き
)
つての
屁
(
へ
)
こき
女
(
をんな
)
で、
068
それが
為
(
ため
)
に
村
(
むら
)
にもおいて
貰
(
もら
)
へず、
069
此
(
この
)
物見櫓
(
ものみやぐら
)
が
空
(
あ
)
いてゐるのを
幸
(
さいは
)
ひ、
070
村
(
むら
)
の
衆
(
しう
)
に
送
(
おく
)
られて、
071
ここへ
放
(
はふ
)
り
込
(
こ
)
まれたのですよ。
072
そして
余
(
あま
)
り
物
(
もの
)
を
食
(
く
)
はすと、
073
屁
(
へ
)
をたれるからと
云
(
い
)
つて、
074
食
(
く
)
ふものもロクにくれず、
075
腹
(
はら
)
がへつてたまらないの。
076
そこへ
又
(
また
)
オナラが
止
(
と
)
め
度
(
ど
)
もなく
出
(
で
)
るものですから、
077
すいた
腹
(
はら
)
が
猶
(
なほ
)
すいてたまりませぬ』
078
ケース
『ハハハハア、
079
此奴
(
こいつ
)
アさうすると
鼬
(
いたち
)
の
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
りだな。
080
オイおならとやら、
081
貴様
(
きさま
)
随分
(
ずいぶん
)
綺麗
(
きれい
)
な
面
(
つら
)
をしてゐるが、
082
どこに
欠点
(
けつてん
)
はないけれど、
083
屁
(
へ
)
たれるだけが
尻点
(
けつてん
)
とみえるのう。
084
何
(
なん
)
とかして
此
(
この
)
病気
(
びやうき
)
を
直
(
なほ
)
してやりたいものだ、
085
否
(
いな
)
ヘーユさして
見
(
み
)
たいものだ。
086
オイ
初公
(
はつこう
)
、
087
徳公
(
とくこう
)
、
088
何
(
なに
)
かいい
考
(
かんが
)
へはあるまいかの。
089
こんな
奴
(
やつ
)
が
側
(
そば
)
に
居
(
ゐ
)
ると、
090
何時
(
いつ
)
屁
(
へ
)
をひられるか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
091
本当
(
ほんたう
)
に
最前
(
さいぜん
)
に
懲
(
こ
)
りてるからなア』
092
初
(
はつ
)
『これが
所謂
(
いはゆる
)
屁和
(
へーわ
)
の
女神
(
めがみ
)
といふのだらうかい。
093
屁
(
へ
)
といふものは
随分
(
ずいぶん
)
笑顔
(
ゑがほ
)
のいいものだからなア』
094
ケース『コリヤおならとやら、
095
お
前
(
まへ
)
はそれだけ
屁
(
へ
)
が
出
(
で
)
るといふと、
096
到底
(
たうてい
)
完全
(
くわんぜん
)
な
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
つ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
くまいのう』
097
おなら
『ハイ、
098
私
(
わたし
)
も
一度
(
いちど
)
は
嫁入
(
よめいり
)
を
致
(
いた
)
しましたが、
099
屁
(
へ
)
の
為
(
ため
)
に
失敗
(
しくじ
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのですよ』
100
一同
(
いちどう
)
は、
101
一同
『アハハハハハ』
102
と
倒
(
こ
)
けて
笑
(
わら
)
ふ。
103
ケース『ヤア
面白
(
おもしろ
)
い、
104
屁
(
へ
)
をこいて
離縁
(
りえん
)
されたとは
初耳
(
はつみみ
)
だ。
105
オイおならさま、
106
一寸
(
ちよつと
)
其
(
その
)
顛末
(
てんまつ
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
へまいかなア』
107
おなら
『へーへー、
108
今更
(
いまさら
)
隠
(
かく
)
した
所
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
がありませぬ、
109
随分
(
ずいぶん
)
名高
(
なだか
)
い
話
(
はなし
)
ですよ。
110
ヘコキのおならと
云
(
い
)
つたら、
111
此
(
この
)
界隈
(
かいわい
)
に
知
(
し
)
らぬ
者
(
もの
)
はありませぬ。
112
私
(
わたし
)
のお
父
(
とう
)
さまは
文助
(
ぶんすけ
)
、
113
お
母
(
かあ
)
さまはお
久
(
きう
)
と
云
(
い
)
ひまして、
114
私
(
わたし
)
がおならと
申
(
まを
)
します。
115
私
(
わたし
)
も
今年
(
ことし
)
は
十八
(
じふはち
)
になつたものだから、
116
一寸
(
ちよつと
)
渋皮
(
しぶかは
)
の
剥
(
む
)
けた
所
(
ところ
)
から、
117
屁
(
へ
)
こき
娘
(
むすめ
)
でも、
118
随分
(
ずいぶん
)
矢入
(
やい
)
れが
沢山
(
たくさん
)
あつて
困
(
こま
)
りましたのよ。
119
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
120
女
(
をんな
)
にスタリ
者
(
もの
)
はありませぬ。
121
……さて、
122
ピラトの
村
(
むら
)
の
平助
(
へいすけ
)
さまの
家
(
うち
)
へ
嫁入
(
よめい
)
ることにきまりました
所
(
ところ
)
、
123
家
(
うち
)
のお
母
(
かあ
)
さまが
今
(
いま
)
までは、
124
自分
(
じぶん
)
の
家
(
うち
)
だから、
125
何程
(
なにほど
)
屁
(
へ
)
をひつても
差支
(
さしつかへ
)
ないが、
126
他家
(
よそ
)
へ
行
(
い
)
つて
花嫁
(
はなよめ
)
が
屁
(
へ
)
を
こく
と
外聞
(
ぐわいぶん
)
が
悪
(
わる
)
い。
127
それが
不縁
(
ふえん
)
の
元
(
もと
)
になつちやならないから、
128
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
を
)
れと
仰有
(
おつしや
)
いました。
129
それで
私
(
わたし
)
も
正直
(
しやうぢき
)
に
親
(
おや
)
の
言葉
(
ことば
)
を
守
(
まも
)
り、
130
平助
(
へいすけ
)
さまの
嫁
(
よめ
)
になつても、
131
屁
(
へ
)
の
出
(
で
)
ないやう
屁
(
へ
)
の
出
(
で
)
ないやうと
尻
(
しり
)
に
詰
(
つめ
)
をしてきばつて
居
(
を
)
りましたが、
132
屁
(
へ
)
が
逆流
(
ぎやくりう
)
して
欠伸
(
あくび
)
となり、
133
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
い
息
(
いき
)
が
出
(
で
)
ますのよ。
134
それでもヤツパリ
屁
(
へ
)
ではないと
思
(
おも
)
うて、
135
ゴミを
濁
(
にご
)
して
居
(
を
)
りましたが、
136
体
(
からだ
)
はブウブウと
膨
(
ふく
)
れて
来
(
く
)
る、
137
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
顔
(
かほ
)
は
青
(
あを
)
うなる、
138
どうにもかうにもこらへ
切
(
き
)
れなくなつたので、
139
一遍
(
いつぺん
)
親
(
おや
)
の
家
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて、
140
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
屁
(
へ
)
をひつて
来
(
こ
)
ようと
思
(
おも
)
ひ、
141
お
福
(
ふく
)
といふ
姑
(
しうと
)
さまに、
142
何卒
(
どうぞ
)
一寸
(
ちよつと
)
帰
(
かへ
)
して
下
(
くだ
)
さいと
願
(
ねが
)
つた
所
(
ところ
)
、
143
お
福
(
ふく
)
さまの
仰有
(
おつしや
)
るには……コレおなら、
144
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わたし
)
の
家
(
うち
)
へ
来
(
き
)
てから、
145
私
(
わたし
)
に
親切
(
しんせつ
)
に
仕
(
つか
)
へて
下
(
くだ
)
さるなり、
146
平助
(
へいすけ
)
を
大事
(
だいじ
)
にしてくれるさうだから、
147
大変
(
たいへん
)
に
喜
(
よろこ
)
んでゐるのに、
148
家
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
りたいといふのは、
149
何
(
なに
)
が
気
(
き
)
にいらぬのだ……と
問
(
と
)
はれましたので
私
(
わたし
)
も
包
(
つつ
)
み
隠
(
かく
)
さず……
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
150
屁
(
へ
)
の
出
(
で
)
る
病
(
やまひ
)
があつて、
151
こき
たくて
こき
たくて
仕方
(
しかた
)
がありませぬけれど、
152
家
(
うち
)
のお
母
(
かあ
)
さまが、
153
嫁
(
よめ
)
にいつたら、
154
決
(
けつ
)
して
屁
(
へ
)
は
一
(
ひと
)
つも
こい
ちやならぬ。
155
もしそんな
事
(
こと
)
があつたら、
156
一遍
(
いつぺん
)
に
不縁
(
ふえん
)
になるぞと
仰有
(
おつしや
)
いましたから、
157
それでよう
こか
ずに
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
を
)
りましたら、
158
この
通
(
とほ
)
り
膨
(
ふく
)
れたので
厶
(
ござ
)
います……と、
159
コハゴハ
申上
(
まをしあ
)
げた
所
(
ところ
)
、
160
姑
(
しうと
)
のお
福
(
ふく
)
さまも
開
(
ひら
)
けた
人
(
ひと
)
で……ナアニおなら、
161
そんな
心配
(
しんぱい
)
はいるものか。
162
お
前
(
まへ
)
の
名
(
な
)
からしておならぢやないか。
163
屁
(
へ
)
といふものは
笑
(
わら
)
ひの
神
(
かみ
)
さまだから、
164
あいさに
屁
(
へ
)
の
一
(
ひと
)
つも
こい
て
貰
(
もら
)
はなくちや
家庭
(
かてい
)
が
面白
(
おもしろ
)
くない。
165
サアサア
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらぬ。
166
鳴物入
(
なりものい
)
りで
嫁
(
よめ
)
を
貰
(
もら
)
つたと
思
(
おも
)
へば
結構
(
けつこう
)
だ。
167
サアサア
こい
たり
こい
たり……と
気
(
き
)
よう
言
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さりました。
168
それを
聞
(
き
)
くと
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
もたまらず、
169
私
(
わたし
)
の
命令
(
めいれい
)
を
下
(
くだ
)
さぬ
先
(
さき
)
に、
170
屁
(
へ
)
の
奴
(
やつ
)
勝手
(
かつて
)
に
連発銃
(
れんぱつじう
)
の
様
(
やう
)
に、
171
ポンポンポンと
際限
(
さいげん
)
なく
放出
(
はうしゆつ
)
し、
172
屁風
(
へかぜ
)
の
勢
(
いきほひ
)
で、
173
とうとう
姑婆
(
しうとばあ
)
さまを
天井
(
てんじやう
)
まで
吹
(
ふ
)
き
上
(
あ
)
げて
了
(
しま
)
ひ、
174
姑
(
しうと
)
さまは
天井裏
(
てんじやううら
)
にヘバリついて
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ……コレコレおなら、
175
モウ
沢山
(
たくさん
)
だ、
176
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
屁口
(
へぐち
)
をとめてたも……と
仰有
(
おつしや
)
つたので、
177
俄
(
にはか
)
に
止
(
と
)
めようと
思
(
おも
)
つても
止
(
と
)
まらず、
178
仕方
(
しかた
)
なしに
平助
(
へいすけ
)
さまの
着物
(
きもの
)
を
尻
(
しり
)
につめて、
179
ヤツトの
事
(
こと
)
で
屁口
(
へぐち
)
をとめました。
180
そした
所
(
ところ
)
が、
181
俄
(
にはか
)
に
屁風
(
へかぜ
)
がやんだので、
182
吹上
(
ふきあ
)
げられてゐたお
婆
(
ばあ
)
さまが、
183
風
(
かぜ
)
の
抵抗力
(
ていかうりよく
)
が
取
(
と
)
れたとみえ、
184
パタツと
鼠
(
ねづみ
)
がおちたやうに、
185
座敷
(
ざしき
)
の
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
にふん
伸
(
の
)
びて
目
(
め
)
をまかして
了
(
しま
)
つた。
186
それから
又
(
また
)
もや
屁
(
へ
)
が
切
(
しき
)
りに
催
(
もよほ
)
して
来
(
き
)
た。
187
エエ
焼
(
や
)
け
糞
(
くそ
)
だと、
188
雪隠
(
せつちん
)
へ
飛込
(
とびこ
)
み、
189
尻
(
しり
)
ひんまくつて
放射
(
はうしや
)
した
所
(
ところ
)
、
190
出
(
で
)
るワ
出
(
で
)
るワ、
191
まるで
火事
(
くわじ
)
の
太鼓
(
たいこ
)
のやうな
音
(
おと
)
がして
来
(
き
)
ましたよ。
192
ホホホホ、
193
余
(
あま
)
りのことで、
194
吾
(
われ
)
ながらケツが
呆
(
あき
)
れて
雪隠
(
せつちん
)
は
踊
(
をど
)
る、
195
音
(
おと
)
はポンポンとするので、
196
近所
(
きんじよ
)
合壁
(
がつぺき
)
から
火事
(
くわじ
)
だと
思
(
おも
)
ひ、
197
杢平
(
もくへい
)
、
198
田吾作
(
たごさく
)
、
199
八助
(
はちすけ
)
どんや、
200
其
(
その
)
他
(
ほか
)
沢山
(
たくさん
)
の
連中
(
れんぢう
)
が
寄
(
よ
)
つて
来
(
き
)
て、
201
火元
(
ひもと
)
はどこぢやどこぢやと
駆
(
か
)
けまはる
可笑
(
をか
)
しさ。
202
仕方
(
しかた
)
がないので、
203
屁元
(
へもと
)
はここだと
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
つて
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
ました。
204
それつきり
平助
(
へいすけ
)
さまに
愛想
(
あいさう
)
をつかされ、
205
忽
(
たちま
)
ち
不縁
(
ふえん
)
となり、
206
平和
(
へいわ
)
の
家庭
(
かてい
)
は
破
(
やぶ
)
れて、
207
親
(
おや
)
の
家
(
うち
)
へつき
戻
(
もど
)
された
時
(
とき
)
の
残念
(
ざんねん
)
さ、
208
御
(
ご
)
推量
(
すゐりやう
)
して
下
(
くだ
)
さりませ、
209
アンアンアン ホホホホ』
210
と
泣
(
な
)
いたり、
211
笑
(
わら
)
うたりやつてゐる。
212
ケース『
成程
(
なるほど
)
、
213
随分
(
ずいぶん
)
豪
(
がう
)
ケツだな。
214
俺
(
おれ
)
も
豪傑
(
がうけつ
)
だと
思
(
おも
)
うてゐたが、
215
お
前
(
まへ
)
のケツは
又
(
また
)
格別
(
かくべつ
)
だ、
216
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
のケツ
物
(
ぶつ
)
だ。
217
俺
(
おれ
)
ならそんな
屁
(
へ
)
こきさまなら、
218
喜
(
よろこ
)
んで
妻君
(
さいくん
)
に
貰
(
もら
)
ふのだけれどなア』
219
おなら
『お
前
(
まへ
)
さまは
駄目
(
だめ
)
ですよ。
220
あの
位
(
くらゐ
)
な
屁
(
へ
)
を
嗅
(
か
)
がされて、
221
鼻
(
はな
)
が
曲
(
まが
)
るのどうのと
云
(
い
)
つて
悔
(
くや
)
むやうなこつては、
222
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
になる
資格
(
しかく
)
はありませぬよ。
223
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
物好
(
ものずき
)
があつて、
224
平助
(
へいすけ
)
さまの
家
(
うち
)
を
屁
(
へ
)
で
失敗
(
しくじ
)
つた
私
(
わたし
)
を
貰
(
もら
)
はうと
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
があつて、
225
同
(
おな
)
じ
在所
(
ざいしよ
)
のベコ
助
(
すけ
)
さまの
所
(
ところ
)
へ
貰
(
もら
)
はれて
行
(
ゆ
)
きました。
226
所
(
ところ
)
がそこの
姑婆
(
しうとばあ
)
さまがおキツというて、
227
本当
(
ほんたう
)
にキツくて、
228
悋気
(
りんき
)
がひどくて、
229
流石
(
さすが
)
のおならもやり
切
(
き
)
れない。
230
怪我
(
けが
)
の
拍子
(
ひやうし
)
に
屁
(
へ
)
でもひらうものなら、
231
スツたもんだと
云
(
い
)
つて
苦
(
くる
)
しめるので、
232
私
(
わたし
)
も
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つてたまらず、
233
飯
(
めし
)
を
焚
(
た
)
きよつた
所
(
ところ
)
へ、
234
婆
(
ばあ
)
さまがやつて
来
(
き
)
て、
235
しつこ しつこ
小言
(
こごと
)
をいふものだから、
236
正勝
(
まさか
)
姑
(
しうと
)
さまを
叩
(
たた
)
く
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬので、
237
傍
(
そば
)
に
居
(
を
)
つた
羊
(
ひつじ
)
を
婆
(
ばあ
)
さまに
当
(
あ
)
てつけて、
238
もえ
杭
(
ぐひ
)
でコン
畜生
(
ちくしやう
)
と
云
(
い
)
つてくらはした
所
(
ところ
)
、
239
羊
(
ひつじ
)
の
毛
(
け
)
に
火
(
ひ
)
がつき、
240
羊
(
ひつじ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
藁小屋
(
わらごや
)
の
中
(
うち
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
241
其
(
その
)
藁小屋
(
わらごや
)
に
火
(
ひ
)
がついて、
242
とうとうベコ
助
(
すけ
)
さまの
家
(
いへ
)
が
焼
(
や
)
けてしまひ、
243
又
(
また
)
も
放
(
はふ
)
り
出
(
だ
)
され、
244
こんな
所
(
ところ
)
へ
押込
(
おしこ
)
められて
居
(
を
)
るのだ。
245
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つたものですよ、
246
ヘヘヘヘ』
247
初
(
はつ
)
『プツプツプツプツ』
248
ガリヤ『イヤもう、
249
お
前
(
まへ
)
さまの
経歴
(
けいれき
)
は、
250
ガリヤもスツカリ
承
(
うけたま
)
はりました。
251
其処
(
そこ
)
まで
徹底
(
てつてい
)
すれば
偉
(
えら
)
いものだ』
252
おなら
『ねえ
貴方
(
あなた
)
、
253
さうでせう、
254
貴方
(
あなた
)
だつて、
255
へーたれさまと
云
(
い
)
つて、
256
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
プツプツプツと
口
(
くち
)
からラツパを
吹
(
ふ
)
いてゐたでせう。
257
男
(
をとこ
)
は
口
(
くち
)
から
屁
(
へ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
258
女
(
をんな
)
は
尻
(
しり
)
からラツパを
吹
(
ふ
)
くのは
当然
(
あたりまへ
)
ですわねえ』
259
徳
(
とく
)
『オイおならさま、
260
お
前
(
まへ
)
の
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くぢやないか、
261
チツと
徳
(
とく
)
さまには
可笑
(
をか
)
しいぞ』
262
おなら
『ホホホホ、
263
耳
(
みみ
)
が
動
(
うご
)
くのが
可笑
(
をか
)
しいのかいな。
264
今
(
いま
)
耳
(
みみ
)
から
屁
(
へ
)
を
殺
(
ころ
)
して
出
(
だ
)
してるから、
265
耳
(
みみ
)
たぶが
屁風
(
へかぜ
)
に
揺
(
ゆ
)
れて
動
(
うご
)
いとるのだよ』
266
徳
『まるで
化物
(
ばけもの
)
みたやうな
女
(
をんな
)
だなア』
267
ガリヤ『
徳公
(
とくこう
)
、
268
化物
(
ばけもの
)
は
始
(
はじ
)
めから
定
(
きま
)
つてるぢやないか。
269
此奴
(
こいつ
)
ア
古鼬
(
ふるいたち
)
の
化
(
ば
)
けたのだ。
270
マア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
271
俺
(
おれ
)
も
狸
(
たぬき
)
に
騙
(
だま
)
された
腹
(
はら
)
いせに、
272
此
(
この
)
化鼬
(
ばけいたち
)
を、
273
騙
(
だま
)
されたやうな
顔
(
かほ
)
して、
274
ガリヤが
反対
(
あべこべ
)
に
騙
(
だま
)
してやつたのだよ……コリヤ
鼬
(
いたち
)
、
275
どうだ、
276
間違
(
まちが
)
ひはあらうまいがな』
277
おなら
『
間違
(
まちがひ
)
ありませぬよ、
278
最後屁
(
さいごぺ
)
をひつて
上
(
あ
)
げませうか。
279
さうすりや、
280
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
の
息
(
いき
)
がとまつて
了
(
しま
)
ふがな、
281
ホホホホ』
282
と
云
(
い
)
ひながら、
283
ブスツと
臭
(
くさ
)
い
奴
(
やつ
)
をひつた。
284
そこら
一面
(
いちめん
)
黄色
(
きいろ
)
になつて、
285
鼻
(
はな
)
ふさがり
息
(
いき
)
つまり、
286
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
287
此奴
(
こいつ
)
はたまらぬと
階段
(
かいだん
)
を
下
(
くだ
)
るうち、
288
雪崩
(
なだれ
)
の
如
(
ごと
)
くなつて
階下
(
かいか
)
に
顛落
(
てんらく
)
し、
289
腕
(
うで
)
や
向脛
(
むかふずね
)
をうち、
290
四
(
よ
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
ウンウンと
唸
(
うな
)
つてゐる。
291
春風
(
はるかぜ
)
はかむばしき
花
(
はな
)
の
香
(
か
)
を
送
(
おく
)
つて、
292
あけつ
放
(
ぱな
)
しの
居間
(
ゐま
)
を
通
(
とほ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
293
(
大正一二・二・九
旧一一・一二・二四
松村真澄
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