霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 (ふくろ)(わらひ)〔一三四二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第1篇 鶴首専念 よみ(新仮名遣い):かくしゅせんねん
章:第6章 梟の笑 よみ(新仮名遣い):ふくろのわらい 通し章番号:1342
口述日:1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
二人が進んで行くと、道の傍らの木の下に一人の美人が黒犬を連れて首をうなだれ、何か思案に沈んでいる。二人が女の挙動を伺っていると、女はたちまち木に細帯を投げかけ、首を吊った。
二人は木の下にかけつけて助け下ろした。女は気が付いて、自分は死ぬのが目的だったのになぜ助けた、と二人に喰ってかかった。女はひとしきり二人を罵倒すると、突然イクの横面を張り飛ばした。
イクがよろめいて田んぼの中に倒れると、女の連れていた黒犬が懐の水晶玉をくわえて駆け出した。女はその様子を見て手を打って笑い、自分たちは昨夜、山口の森で二人を脅そうとした怪物であり、水晶玉を奪うために計略をしかけたのだ、と言うと、大狸の正体を表し、逃げて行った。
サールはイクを助け起こし、ともかくも小北山の聖場に参拝しようと、トボトボと力なく進んで行く。傍らの枝には梟がとまり、神宝をあっさり取られた二人に鳴き立てている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-18 06:45:42 OBC :rm5206
愛善世界社版:75頁 八幡書店版:第9輯 406頁 修補版: 校定版:79頁 普及版:35頁 初版: ページ備考:
001サール『初稚姫(はつわかひめ)(したが)ひて
002ハルナの(みやこ)(すす)まむと
003イクと二人(ふたり)()(あは)
004一足先(ひとあしさき)失敬(しつけい)して
005河鹿(かじか)(たうげ)(のぼ)(くち)
006(かし)大木(おほき)(ふもと)にて
007神算(しんさん)鬼謀(きぼう)(めぐ)らしつ
008否応(いやおう)()はさず(おん)(とも)
009(ゆる)しを()けむと三番叟(さんばそう)
010折角(せつかく)(たく)んだ芸当(げいたう)
011(たちま)画餅(ぐわへい)となりぬれば
012最後(さいご)手段(しゆだん)(くび)()
013初稚姫(はつわかひめ)(おどろ)かし
014有無(うむ)()はせず(おん)(とも)
015(つか)へむものと(おも)ひしが
016これも矢張(やつぱり)(あて)はづれ
017(たちま)(くま)変化(へんげ)して
018(にら)(たま)ひし(おそ)ろしさ
019(たましひ)(うば)はれ(はく)()えて
020()()るばかり(をのの)けど
021弱味(よわみ)をみせては(かな)はじと
022(われ)(こころ)(はげ)まして
023御後(みあと)(した)ひすたすたと
024曲神(まがみ)(つど)山口(やまぐち)
025(もり)手前(てまへ)にかかる(をり)
026()はずつぽりと()()てて
027黒白(あやめ)()かずなりにけり
028(たちま)()ゆる大火光(だいくわくわう)
029これぞ(まつた)大神(おほかみ)
030(われ)()(まも)りたまへるかと
031(よろこ)(いさ)(ちか)づけば
032形相(ぎやうさう)()にも(すさま)じき
033(ふた)つの(おに)()つて()
034これぞ(まつた)(ひめ)(さま)
035(われ)()(おど)して(かへ)さむと
036(たく)(たま)ひし(わざ)ならむ
037素性(すじやう)(わか)つた化物(ばけもの)
038如何(いか)でか(おそ)(ちぢ)まむや
039二人(ふたり)(そば)にかけよつて
040平気(へいき)平左(へいざ)でかけあへば
041初稚姫(はつわかひめ)(あら)ずして
042正体(えたい)()れぬ妖魅界(えうみかい)
043意想外(いさうぐわい)なる古狸(ふるだぬき)
044蜈蚣(むかで)(やつ)がやつて()
045(われ)()二人(ふたり)()(ころ)
046(なや)めむとして()()たる
047(あやふ)(ところ)をあら(たふと)
048(てん)()らして(くだ)りくる
049(ひかり)(まばゆ)大火光(だいくわくわう)
050(われ)()(まへ)(あら)はれて
051四辺(あたり)(くま)なく伊照(いて)らせば
052(さすが)魔神(まがみ)戦慄(せんりつ)
053(くも)(かすみ)()げて()
054火団(くわだん)(たちま)縮小(しゆくせう)
055一寸(いつすん)ばかりの(たま)となり
056(きよ)(ひかり)(あら)はして
057(われ)()(まも)りたまひけり
058ああ有難(ありがた)(たふと)やと
059感謝(かんしや)言葉(ことば)(ささ)げつつ
060()らず()らずに(ねむ)りけり
061(からす)(こゑ)(おどろ)きて
062(まなこ)をさまし(なが)むれば
063水晶玉(すいしやうだま)(ただ)一個(ひとつ)
064二人(ふたり)(あひだ)()いてある
065これぞ(まつた)皇神(すめかみ)
066闇夜(やみよ)()らす(おん)(たから)
067(われ)()二人(ふたり)赤心(まごころ)
068(かん)じて(てん)より宝玉(はうぎよく)
069(くだ)させ(たま)ひしものなりと
070()(いただ)いて(ふところ)
071いと叮嚀(ていねい)(をさ)めつつ
072勇気(ゆうき)(とみ)(くは)はりて
073百草(ももくさ)()ゆる(はる)()
074(こころ)いそいそ(すす)()
075ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
076()くも(たふと)(おん)(まも)
077(われ)()(くだ)らせ(たま)(うへ)
078如何(いか)でか(まが)(おそ)るべき
079闇夜(やみよ)()らす宝玉(はうぎよく)
080(ひかり)(とも)何処(どこ)までも
081初稚姫(はつわかひめ)(あと)()うて
082御供(みとも)(つか)(まつ)らねば
083(をとこ)(かほ)()つまいぞ
084イクの(つかさ)()をつけて
085サールの(あと)について()
086野中(のなか)(もり)(ちか)づいた
087それから(さき)小北山(こぎたやま)
088(うづ)聖場(せいぢやう)がありと()
089もしや初稚姫(はつわかひめ)(さま)
090(その)聖場(せいぢやう)道寄(みちよ)りを
091なさつて(ござ)るぢやあるまいか
092吾々(われわれ)二人(ふたり)()(かく)
093小北(こぎた)(やま)参詣(まゐまう)
094(かみ)(ねがひ)をかけまくも
095(かしこ)所在(ありか)(たづ)ねだし
096初心(しよしん)貫徹(くわんてつ)せにやならぬ
097ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
098三五教(あななひけう)大御神(おほみかみ)
099何卒(なにとぞ)(われ)()両人(りやうにん)
100(この)願望(ぐわんまう)逸早(いちはや)
101(ゆる)させたまへと()ぎまつる』
102(うた)ひつつ()く。
103イク『朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
104(つき)()つとも()つるとも
105(うみ)はあせなむ()ありとも
106大和(やまと)男子(をのこ)益良夫(ますらを)
107一旦(いつたん)(おも)()ちし(こと)
108(とほ)さにやおかぬ弓張(ゆみはり)
109(つき)(ちか)ひて()()かむ
110初稚姫(はつわかひめ)はスマートを
111(ともな)一人(ひとり)()でませど
112妖幻坊(えうげんばう)曲津見(まがつみ)
113高姫司(たかひめつかさ)がいろいろと
114姿(すがた)(へん)()(かま)
115もしも(なや)ませまつりなば
116大神業(だいしんげふ)如何(いか)にして
117完成(くわんせい)すべき(みち)やある
118(かみ)(つかさ)綺羅星(きらぼし)
119(ごと)くに数多(あまた)ましませど
120(この)姫君(ひめぎみ)(まさ)りたる
121(かみ)(つかさ)(まれ)なれば
122(われ)()はたとへ()すとても
123初稚姫(はつわかひめ)(おん)(まへ)
124(たす)(まも)らにや()らうまい
125()(たましひ)()()てて
126(かみ)(つか)ふる吾々(われわれ)
127如何(いか)なる(てき)(おそ)れむや
128()青々(あをあを)()(しげ)
129(かぜ)(あたた)かく(かを)りつつ
130(てふ)()(あそ)野辺(のべ)(はな)
131(すみれ)蒲公英(たんぽぽ)紫雲英(げんげばな)
132()(ほこ)りたる(みち)(うへ)
133(その)中心(ちうしん)(すす)()
134(われ)()天国(てんごく)浄土(じやうど)をば
135旅行(りよかう)なしつる心地(ここち)なり
136ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
137初稚姫(はつわかひめ)(おん)(うへ)
138(まも)らせたまへ大御神(おほみかみ)
139(うづ)御前(みまへ)()ぎまつる』
140(うた)ひつつ(みち)(いそ)()く。
141 (みち)片方(かたへ)(はり)()(もと)に、142一人(ひとり)美人(びじん)(くろ)(いぬ)をつれて(くび)をうなだれ、143真青(まつさを)(かほ)をして(なに)思案(しあん)(しづ)風情(ふぜい)であつた。144イク、145サールの両人(りやうにん)十間(じつけん)ばかり(みち)(へだ)てた()(むか)ふに(をんな)()つて()るのを(なが)め、146つと立留(たちど)まり、
147イク『オイ、148サール、149あの(をんな)初稚姫(はつわかひめ)(さま)によく()()るぢやないか。150そしてスマートによく()(いぬ)まで(そば)について()る。151(ひと)つお(たづ)ねして()ようぢやないか』
152サール『ウン、153一寸(ちよつと)()(ところ)ではよく()(ござ)るやうだが、154(すこ)(かほ)(なが)いなり、155()高過(たかす)ぎるぢやないか。156そしてあの(いぬ)もスマートから()れば、157どこともなしに容積(かさ)がないやうだ。158(また)昨夜(ゆうべ)曲神(まがかみ)()第二(だいに)作戦(さくせん)計画(けいくわく)()てよつて、159(われ)()(なや)めようとして()るのかも()れないぞ。160うつかり相手(あひて)になつては不利益(ふりえき)だから、161()(かほ)して()かうぢやないか』
162イク『それもさうだが、163(なん)だか心配(しんぱい)さうな(かほ)をして()るぞ。164彼処(あすこ)川側(かはぶち)だから、165身投(みな)げでもする(つも)りぢやなからうかな』
166サール『サア、167あの様子(やうす)では(なん)とも判別(はんべつ)がつかないよ。168まア(しばら)此処(ここ)様子(やうす)(かんが)へようぢやないか』
169イク『ウン、170よからう』
171と、172二人(ふたり)(しば)(をんな)挙動(きよどう)看守(みまも)つて()た。173(たちま)(をんな)(はり)()細帯(ほそおび)()げかけ、174プリンプリンとぶら(さが)つた。175(そば)()黒犬(くろいぬ)悲鳴(ひめい)をあげ、176二人(ふたり)(はう)(むか)ひ、177前足(まへあし)(くう)をかきながら(すく)ひを(もと)むるものの(ごと)くであつた。
178イク『オイ、179サール、180(おれ)(たち)後継(あとつぎ)出来(でき)たぢやないか、181随分(ずいぶん)(くる)しさうにやつてけつかる。182(なん)無細工(ぶさいく)なものだなア、183あれを()い、184(はな)()らしよつて、185あの(ざま)つたら()られたものぢやない。186初稚姫(はつわかひめ)(さま)(われ)()のブリブリして(はな)をたらした姿(すがた)(なが)められた(とき)にや、187(なん)とした馬鹿(ばか)(やつ)だ、188(なさけ)ない(をとこ)だとキツト(おも)はれたに(ちが)ひないぞ。189(ひと)姿(ふり)()(わが)姿(ふり)(なほ)せと()(こと)があるからなア』
190サール『オイ、191イク、192そんな気楽(きらく)(こと)()うて()(ところ)ぢやないよ。193(ひと)危難(きなん)()批評(ひひやう)(どころ)ぢやない。194グヅグヅして()ると絶命(ことき)れて(しま)ふから、195サア貴様(きさま)二人(ふたり)(たす)けてやらうぢやないか』
196イク初稚姫(はつわかひめ)(さま)は、197(をんな)()として荒男(あらをとこ)首吊(くびつ)二人(ふたり)まで()(たす)けなさつたのだ、198(たか)(をんな)首吊(くびつ)一人(ひとり)(をとこ)二人(ふたり)まで()かなくても貴様(きさま)一人(ひとり)結構(けつこう)ぢや。199(おれ)此処(ここ)水晶玉(すいしやうだま)()守護(しゆご)をして()るから……(けが)れたものに(さは)ると(たま)(けが)れるからのう、200貴様(きさま)()つて(たす)けて()い』
201サール(なん)だか気分(きぶん)(わる)くて仕方(しかた)がない、202イクよ、203せめて(そば)までついて()()れないか。204さうしたら(おれ)一人(ひとり)(たす)けてやるから』
205イク『エエ意気地(いくぢ)のない(をとこ)だなア、206サア()かう』
207とサールを(うなが)(はり)()(もと)(あし)(いそ)いだ。208(をんな)真青(まつさを)になつて、209最早(もはや)手足(てあし)(うご)かず、210ブラリと吊柿(つるし)のやうに(さが)つて()る。211サールは、212手早(てばや)(をんな)(いだ)き、
213サール『アヽ(なん)(がら)にも似合(にあ)はぬ(おも)(をんな)だなア、214此奴(こいつ)化州(ばけしう)かも()れぬぞ』
215()ひながら(たす)(おろ)した。216(をんな)(やうや)くにして()がついたらしく、217キヨロキヨロ其処辺(そこら)見廻(みまは)し、
218『ああお(まへ)さまは何処(どこ)のお(かた)()らぬが、219(わし)折角(せつかく)天国(てんごく)(たび)をしかけて()(ところ)を、220殺生(せつしやう)な、221なぜ邪魔(じやま)をするのだい。222よい加減(かげん)(ひと)(たす)ける宣伝使(せんでんし)悪戯(いたづら)をして()きなさいよ』
223(れい)()ふかと(おも)へば、224反対(はんたい)(をんな)仏頂面(ぶつちやうづら)をして(おこ)()した。
225サール『オイ、226何処(どこ)(をんな)()らぬが、227(いのち)(たす)けて(もら)うて不足(ふそく)()ふものが何処(どこ)にあるかい、228のうイク、229こんな(こと)なら(たす)けてやるぢやなかつたに、230チエー馬鹿(ばか)にしてけつかる。231ハハ此奴(こいつ)はキ(じるし)だな』
232『キ(じるし)でも(かま)うて(くだ)さるな。233朋友(ともだち)でもなければ親類(しんるゐ)でもなし、234(まへ)さまに(たす)けられる理由(りいう)()いぢやないか』
235サール『それだつて(この)(いぬ)()236一生(いつしやう)懸命(けんめい)(おれ)(はう)()いて(すく)ひを(もと)めたものだから、237(いそが)しい道中(だうちう)繰合(くりあは)せて(たす)けに()てやつたのだ』
238『ヘン阿呆(あはう)らしい、239(いぬ)(もの)()ひますか。240(まへ)さまも()()りとは馬鹿(ばか)だな。241(ひと)目的(もくてき)邪魔(じやま)をして()きながら、242(れい)()へなどとは(もつ)ての(ほか)だ。243これ(ぐらゐ)(わか)らぬ馬鹿(ばか)野郎(やらう)(また)世界(せかい)にあるだらうかなア、244(わたし)()ぬのが目的(もくてき)だ。245その目的(もくてき)妨害(ばうがい)して()いて(なん)だ、246(れい)()ふの()はぬのと……謝罪(あやま)りなさい、247()しからぬ人足(にんそく)だ』
248イク『こりや(をんな)249(おれ)(たち)馬鹿(ばか)だとは(なん)だ。250(あま)(くち)()ぎるぢやないか。251貴様(きさま)()ぬのが目的(もくてき)だと(まを)したが、252()んでどうする(つも)りだ。253エーン、254(なん)ぞいい目的(もくてき)があるのか』
255『ヘン馬鹿(ばか)だなア、256(まへ)(たち)霊界(れいかい)(こと)(わか)つて(たま)らうかい。257馬鹿(ばか)()うたのは(ほか)でもないが、258(いま)()(なか)(いのち)がけの(こと)をして(ひと)(たす)け、259さうして世界(せかい)人間(にんげん)から()めて(もら)はうと(かんが)へたり、260一口(ひとくち)(れい)でも()つて(もら)はうと(かんが)へる(やつ)ばかりだ。261それだから馬鹿(ばか)()ふのだよ。262(いのち)(たす)けてやつた(をんな)に、263眉毛(まゆげ)()まれ、264(しり)()をぬかれ、265(うつつ)をぬかし、266(よだれ)()り、267(しまひ)には先祖譲(せんぞゆづ)りの財産(ざいさん)(まで)すつかり()られる馬鹿(ばか)(おほ)()(なか)だよ。268貴様(きさま)(たち)(おれ)(をんな)だと(おも)うて(たす)けに()たのだらう。269どうだ、270これから(ほね)()()り、271章魚(たこ)のやうにグニヤグニヤに(とろ)かしてやらうか。272(おれ)()千両目(せんりやうめ)()うて、273一瞥(いちべつ)よく(しろ)(かたむ)け、274山林(さんりん)()()ばす威力(ゐりよく)()つて()るのだぞ。275(おれ)のやうな(もの)娑婆(しやば)(はな)れて霊界(れいかい)()つたならば、276娑婆(しやば)邪魔者(じやまもの)がなくなつて、277人民(じんみん)がどれ(くらゐ)(よろこ)ぶか()れないのだ。278また()かしやがるものだから、279この(すず)しい()をもつて腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)(かた)(ぱし)から(ほね)()き、280足腰(あしこし)()たぬやうに殺生(せつしやう)をしなくてはならぬワイ。281貴様(きさま)一人(ひとり)(たす)けて(おほ)きな(がい)()(なか)(ひろ)げようとする頓馬(とんま)だから馬鹿(ばか)()つたのだ。282これ二人(ふたり)馬鹿(ばか)野郎(やらう)283(わか)つたか。284(わか)つたら犬蹲(いぬつくばひ)となつてお(ことわ)りを(まを)せ』
285サール(なん)とまア、286理窟(りくつ)()ふものは、287どんなにでもつくものだなア。288まるで高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)のやうな(こと)(ぬか)すぢやないか、289のうイク』
290 イクは、
291イク『フン』
292(あき)()て、293(をんな)(かほ)()(なが)め、
294イク『こんな(やさ)しい(かほ)をしながら、295どこを(おさ)へたら、296あんな悪垂口(あくたれぐち)()るのだらうか』
297(しき)りにみつめて()ると、298(をんな)は、
299馬鹿(ばか)
300一声(いつせい)イクの横面(よこづら)()(たふ)した。301イクはヨロヨロとよろめいて田圃(たんぼ)(なか)(たふ)れた。302(いぬ)はイクの(ふところ)水晶玉(すいしやうだま)をくはへるや(いな)や、303一生(いつしやう)懸命(けんめい)駆出(かけだ)した。304サールは、
305サール『こりや畜生(ちくしやう)()て』
306(さけ)ぶのを()て、307(をんな)()()つて(わら)ひ、
308『ホホホホホ、309馬鹿(ばか)だな、310(おれ)昨夜(さくや)山口(やまぐち)(もり)貴様(きさま)(おど)さうとした怪物(くわいぶつ)だ。311貴様(きさま)水晶玉(すいしやうだま)()たせて()くと(おれ)(たち)邪魔(じやま)になるから、312計略(けいりやく)(もつ)()つてやつたのだ。313アバヨ、314イヒヒヒヒ』
315(しろ)()()し、316(あご)をしやくりながら大狸(おほだぬき)正体(しやうたい)(あら)はし、317(みなみ)をさして(くも)(かすみ)()()した。318サールはイクを抱起(だきおこ)し、319ブツブツ小言(こごと)()ひながら、320()(かく)小北山(こぎたやま)聖場(せいぢやう)参拝(さんぱい)せむと、321間抜(まぬ)けた(つら)をして(ちから)なげにトボトボと(すす)()く。322(かたはら)密樹(みつじゆ)(えだ)(ふくろ)がとまつて、
323『ホー、324ホー、325ホー(すけ)326ホー(すけ)327ころりと()られたなア、328ホー、329ホー、330ホー(すけ)331アツポー アツポー』
332()いて()る。
333大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 加藤明子録)
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