ガリヤはサベル姫の口に血が付いているのを見てとり、耳に喰いつこうとしたときに腕をグッと握った。するとそれは毛だらけの古狸の手であった。ガリヤは前身の力をぐっと籠めて離さず、懐から取り出した細紐で四足を固くくくって天上裏に吊り下げてしまった。
狸の泣き叫ぶ声を聞いて、高宮彦と高宮姫が部屋にやってきた。ガリヤから化け狸の一件を聞いた高宮彦は、これは自分が手料理すると言ってしばられた狸を持ち去った。これはサベル姫に化けていた部下の幻相坊を助けるためであった。
高宮姫は、サベル姫が狸であったことを知らず、ガリヤの話に驚いていた。それからガリヤは、ケースと初公を助けようと密談の間の外にやってきて、壁に耳を当てて様子を探った。室内にいる初稚姫、宮野姫、ケース、初公は、たがいに取り合いに火花を散らしているようであった。
ケースと初公は、狸に化かされてすっかり現を抜かしている。ガリヤはたまらずドアをこじあけて部屋に押し入った。ケースと初は、狸に耳たぶをむしり取られて血みどろになって倒れている。ガリヤは二匹の狸を追いまわし、一匹を抑えたとたんに腕にかぶりつかれた。ガリヤが放したすきに二匹の狸は姿を隠してしまった。
しばらくすると、宣伝歌の声が涼しく聞こえてきた。猛犬の声もする。あたりを見れば、ガリヤは草ぼうぼうの萱野の真ん中に立っていた。ケース、初は血みどろになって呻いている。
宣伝歌の主は初稚姫であった。妖幻坊、幻魔坊、幻相坊らはスマートの勢いにたまらず、曲輪の術で高宮姫を雲に乗せて、東南の天を指して逃げ帰って行った。
竹藪のなかでは、ランチと片彦が蜘蛛の巣だらけになり青い顔をしてふるえていた。徳公は耳たぶをむしられて野原にのびていた。
ガリヤは初稚姫に助けてもらった感謝の意を述べた。ランチと片彦は、徳公を助けてやってきて、初稚姫に危難を救ってもらったことを涙と共に感謝した。
初稚姫は六人によくよく真理を説き諭した。六人は心を取り直し、祠の森を指して進んで行くことになった。初稚姫は六人を別れ、スマートを従え、宣伝歌を歌いながら西南指して進んで行った。