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第四章 (にはか)狂言(きやうげん)〔一三四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第1篇 鶴首専念 よみ(新仮名遣い):かくしゅせんねん
章:第4章 俄狂言 よみ(新仮名遣い):にわかきょうげん 通し章番号:1340
口述日:1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
半時ばかりすると、初稚姫がスマートを伴い、宣伝歌を歌いながら降ってくる姿が木の間から見えだした。二人は互いに注意しながら身ぶり足ぶりなどして三番叟の下稽古をやっている。
初稚姫は、イクとサールが道連れを望んで待ち構えていることを見抜いており、自分の神業には供は許されないと宣伝歌に歌いこんで二人に言い聞かせた。
二人はこの歌を聞いて失望落胆の色を表したが、サールは気を取り直して口拍子をとって歌いだした。イクも引き出されて歌いながら踊りだした。両人は谷道をふさぎ、御供を従えて行くも神の恵みだと歌って踊り狂った。
スマートは顔を塗った二人を不審を抱いたが、イクとサールだとわかると、尾を振りながら二人の間に分け入って吠えたてた。イクとサールはそれを合図に三番叟を舞い終えた。
イクとサールは改めて初稚姫にお供を申し出たが、初稚姫は自分は一人旅を命じられており、またイクとサールは珍彦の配下とて勝手に連れて行くわけにはいかないと説き諭した。
イクとサールは目配せすると、懐に用意していた腰帯を樫の木の梢にかけて、あごを吊ってしまった。スマートはこれをみて驚き、二人を助けるように初稚姫を促す。初稚姫は手早く二人の体を抱えて持ち上げ、救い下ろした。
初稚姫は二人の熱烈なる願いを聞くわけにゆかず、しばし涙に暮れて考えていた。両人がやや正気になったのを幸い、初稚姫はたちまち神に祈ってその身を大熊と変じた。スマートは唐獅子となって二人に向かって目を怒らし、唸って見せた。
二人は驚いて両手を合わせ、一言も発せずその場にうつむいて震えている。初稚姫は元の姿に戻り、スマートは巨大な獅子と化し、姫を背に乗せて荒野ケ原を一目散に進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-07 18:40:51 OBC :rm5204
愛善世界社版:49頁 八幡書店版:第9輯 397頁 修補版: 校定版:52頁 普及版:23頁 初版: ページ備考:
001 イク、002サールの両人(りやうにん)は、003三番叟(さんばそう)準備(じゆんび)(ととの)へて、004初稚姫(はつわかひめ)(きた)るを(いま)やおそしと()(かま)へて()た。005半時(はんとき)(ばか)()つて、006初稚姫(はつわかひめ)はスマートを(ともな)ひ、007(こゑ)(さはや)かに宣伝歌(せんでんか)(うた)ひながら(くだ)()姿(すがた)が、008()()をもれてちらりちらりと()()した。009二人(ふたり)は「サアこれからが性念場(しやうねんば)だ、010ぬかつてはならぬ」と(たがひ)注意(ちゆうい)しながら、011身振(みぶり)足振(あしぶり)などして三番叟(さんばさう)下稽古(したげいこ)をやつて()る。
012 初稚姫(はつわかひめ)(こゑ)(しとや)かに(うた)ふ。
013初稚姫産土山(うぶすなやま)聖場(せいぢやう)
014(あと)(なが)めて大神(おほかみ)
015()けのまにまに(すす)()
016(われ)初稚姫(はつわかひめ)(つかさ)
017(ほこら)(もり)立寄(たちよ)りて
018(しこ)魔神(まがみ)につかれたる
019高姫司(たかひめつかさ)(はじ)めとし
020妖幻坊(えうげんばう)曲津(まがつ)(かみ)
021(ちち)(みこと)(いつは)りて
022あらゆる(まが)遂行(すゐかう)
023(うづ)聖場(せいぢやう)蹂躙(じうりん)
024曲津(まがつ)棲家(すみか)(つく)らむと
025(たく)()たりし忌々(ゆゆ)しさよ
026(かみ)(めぐみ)(まも)られて
027(わらは)(ほこら)(もり)()
028(かみ)()さしの神業(かむわざ)
029(こころ)(つく)()(つく)
030(まが)身霊(みたま)言向(ことむ)けて
031天国(てんごく)浄土(じやうど)(すく)はむと
032(おも)ひし(こと)(みづ)(あわ)
033(いま)はあへなくなりにけり
034(すめ)大神(おほかみ)(おん)(まへ)
035前途(ぜんと)(さち)(いの)りつつ
036珍彦(うづひこ)夫婦(ふうふ)楓姫(かへでひめ)
037(もも)(つかさ)信徒(まめひと)
038()しき(たもと)をわかちつつ
039(かみ)のたまひしスマートを
040長途(ちやうと)(たび)(ちから)とし
041(かみ)(めぐみ)(つゑ)として
042(やうや)此処(ここ)(すす)()
043(たに)(なが)れは淙々(そうそう)
044自然(しぜん)音楽(おんがく)(そう)しつつ
045木々(きぎ)若芽(わかめ)春風(はるかぜ)
046そよぎて自然(しぜん)舞踏(ぶたふ)なし
047人跡(じんせき)(まれ)なる谷間(たにあひ)
048さも(にぎは)しき(とり)(こゑ)
049(みどり)(くれなゐ)(あを)黄色(きいろ)
050(その)(ほか)(もも)(はな)()
051(わらは)(まなこ)(なぐさ)めつ
052()にも長閑(のどか)(はる)(そら)
053ホーホケキヨーの(うぐひす)
054(その)()(ごゑ)(なん)となく
055(かみ)(すく)ひの御声(みこゑ)あり
056(わらは)(もと)より一人旅(ひとりたび)
057(をしへ)(つかさ)(ともな)ひて
058長途(ちやうと)(たび)(ゆる)されず
059(また)(われ)とても(かみ)(みち)
060(すす)()()供人(ともびと)
061(たづさ)()かむすべもなし
062如何(いか)なる(まが)(きた)るとも
063絶対(ぜつたい)無限(むげん)大神(おほかみ)
064御稜威(みいづ)(まも)られ()(うへ)
065(おそ)るるものは()にあらじ
066ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
067(かみ)(めぐみ)有難(ありがた)
068朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
069(つき)()つとも()くるとも
070(しこ)曲津(まがつ)(たけ)ぶとも
071(おも)(さだ)めし一人旅(ひとりたび)
072如何(いか)でか(とも)(ゆる)さむや
073さはさりながら山口(やまぐち)
074(かし)根元(ねもと)にイク、サール
075()白黒(しろくろ)(かほ)()
076(われ)(したが)(すす)まむと
077手具脛(てぐすね)ひいて()()たる
078(その)赤心(まごころ)(よみ)すれど
079(かみ)(ゆる)さぬ道連(みちづ)れを
080如何(いか)でか(わらは)(ゆる)()
081ああ、イク、サール両人(りやうにん)
082(わらは)(こころ)()(はか)
083()かる(のぞ)みを()()てて
084(いち)()(はや)聖場(せいぢやう)
085(かへ)りて(かみ)(つか)へませ
086(かみ)(なんぢ)(とも)にあり
087たとへ(われ)()(したが)ひて
088いづくの(はて)(きた)るとも
089(かみ)(ゆる)しのなき(うへ)
090如何(いか)でか(のぞ)みの(たつ)すべき
091(あきら)めたまへ二柱(ふたはしら)
092初稚姫(はつわかひめ)(つつし)みて
093(こころ)(たけ)(くま)もなく
094()()(まへ)()(あか)
095その赤心(まごころ)(あつ)きをば
096(つつし)感謝(かんしや)(たてまつ)
097ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
098御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
099(うた)ひながら急坂(きふはん)(くだ)り、100一歩(ひとあし)々々(ひとあし)(ちか)づき(きた)る。101二人(ふたり)(この)(うた)()いて失望(しつばう)落胆(らくたん)(いろ)(あら)はしながら、
102イク『オイ、103(いろ)(くろ)尉殿(じやうどの)104あの(うた)()いたか、105(さすが)初稚姫(はつわかひめ)(さま)だ、106ちやんと(おれ)(たち)(かほ)(しろ)いものや(くろ)いものまで()けて、107此処(ここ)()つて()(こと)まで御存(ごぞん)じと()えて、108()白黒(しろくろ)109(かほ)()()てて」と仰有(おつしや)つたぢやないか。110こいつは駄目(だめ)かも()れぬぞ』
111サール『イヤ、112(いろ)(しろ)尉殿(じやうどの)113(かなら)(かなら)()心配(しんぱい)()さるな』
114()ひながら片手(かたて)(あふぎ)()ち、115片手(かたて)(こずゑ)(たづさ)へ、116(めう)腰付(こしつき)をして足拍子(あしびやうし)(そろ)へ、117サールは、
118サール『トートータラリ、119トータラリ、120タラリーリ、121トータラリヤー、122タラリ、123トータラリ、124朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも、125オンハ、126カッタカタ、127エンヤハ、128オイ、129カッタカタ』
130口拍子(くちびやうし)()りながら(うた)ひだした。131イクも(また)()()されて真白(まつしろ)(かほ)をさらしながら、
132イク『(つき)()つとも()くるとも、133仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも』
134サール『初稚姫(はつわかひめ)(おん)(とも)
135 エンヤ、136カッタカタ
137 オンハ、138カッタカタ
139 (つか)へまつらで()くべきか
140 抑々(そもそも)三五(あななひ)(かみ)(をしへ)
141 (てき)でも餓鬼(がき)でも虫族(むしけら)でも
142 (たす)くるー(みち)なりー(たす)くるー(みち)なり』
143イク『かるが(ゆゑ)
144 如何(いか)初稚姫(はつわかひめ)(かみ)なりとて
145 (この)(いろ)(しろ)尉殿(じやうどの)
146 まつた この(いろ)(くろ)尉殿(じやうどの)
147 赤心(まごころ)こめて()ぎまつる
148 ハルナの(みやこ)(おん)(とも)
149 (ゆる)させたまはぬ
150 (こと)やあるべき。
151如何(いか)(いろ)(くろ)尉殿(じやうどの)152ここは吾々(われわれ)両人(りやうにん)153天津(あまつ)乙女(をとめ)(まひ)(かな)でて初稚姫(はつわかひめ)御心(みこころ)(やは)らげ、154(ゆる)され(がた)(おん)(とも)に、155たつて(つか)へまつらうでは(ござ)らぬか』
156サール『されば(さふらふ)157天津(あまつ)乙女(をとめ)(まひ)158(すみやか)(おん)()(さふら)へ、159かく()(とき)天女(てんによ)(ひと)しき初稚姫(はつわかひめ)160(ほこら)(もり)(もと)屋敷(やしき)(おん)(なほ)(さふら)ふべし。161オンハ、162カッタカタ、163エンハ、164カッタカタ、165カッタリコ カッタリコ、166カッタ カッタ カッタリコ、167エンヤ、168オンハ、169(この)()(つく)(たま)ひし神直日(かむなほひ)(かみ)170御心(みこころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)(かみ)171(ただ)何事(なにごと)(ひと)()は、172直日(なほひ)見直(みなほ)()(なほ)し、173如何(いか)なる(こと)()(なほ)(たま)ふ、174(たふと)(かみ)御使(みつかひ)と、175(あら)はれ(たま)初稚姫(はつわかひめ)176世人(よびと)(すく)宣伝使(せんでんし)と、177(あら)はれ(たま)(おん)()なれば、178如何(いか)でか(われ)()熱心(ねつしん)なる(ねがひ)(ゆる)(たま)はざる(こと)のあるべき。179朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも、180四辺(あたり)(ひび)(たき)(みづ)181(そもそも)これの滝水(たきみづ)は、182産土山(うぶすなやま)山麓(さんろく)より()(きた)(めぐみ)(つゆ)(しば)()()下潜(したくぐ)りつつ、183河鹿(かじか)(かは)(なが)()て、184此処(ここ)(たき)とぞなりにける。185(そもそも)これの(なが)れは、186産土山(うぶすなやま)()()でし(とき)は、187(わづ)かの(つゆ)にてありしもの、188(なが)(なが)れて谷々(たにだに)の、189小川(をがは)(みづ)(ひと)つになし、190()くも目出度(めでた)(うるは)しき(みづ)御霊(みたま)(たき)とぞなりにける』
191イク『初稚姫(はつわかひめ)もその(ごと)く、192産土山(うぶすなやま)()(たま)ひし(とき)こそ、193()()(つゆ)(ひと)しき(おん)出立(いでた)ち、194繊弱(かよわ)乙女(をとめ)旅衣(たびごろも)195(かた)らふ(とも)もなかりしに、196(かみ)(めぐみ)のあら(たふと)197畜生(ちくしやう)()をもつて、198(その)(おん)(とも)(つか)へまつりたる、199スマートを()(ここ)征途(せいと)(のぼ)らせ(たま)ふ、200(その)有様(ありさま)(たと)ふれば、201この滝水(たきみづ)次第(しだい)々々(しだい)に、202()くに(したが)水量(みづかさ)(まさ)り、203小川(をがは)(あは)せて(ふと)()(ごと)く、204御供(みとも)(かみ)数多(あまた)(したが)へ、205()でますべきは天地(てんち)道理(だうり)ならめ、206あら有難(ありがた)(たふと)しやな、207(いま)(わが)()(まへ)御姿(みすがた)(あら)はし(たま)ひし初稚姫(はつわかひめ)208御供(みとも)(つか)へさしてたび(たま)へ、209(いろ)(しろ)尉殿(じやうどの)(くろ)尉殿(じやうどの)が、210黒白(あやめ)(わか)(やみ)()(すく)ひのために、211天地(あめつち)(かみ)(ちか)ひまつりて、212(ひめ)御前(みまへ)()ぎまつる。213オンハ、214カッタカタ、215エンハ、216カッタカタ、217カッタ カッタ カッタリコ、218カッタリ カッタリ カッタリコ、219エンヤ、220オンハ』
221両人(りやうにん)谷道(たにみち)(ふさ)ぎ、222一生(いつしやう)懸命(けんめい)(をど)(くる)ふ。223(さすが)初稚姫(はつわかひめ)二人(ふたり)理詰(りづめ)(こた)ふる言葉(ことば)もなく、224少時(しばし)茫然(ばうぜん)として二人(ふたり)(まひ)(なが)()たりき。225スマートは二人(ふたり)(かほ)(かは)つたのに不審(ふしん)(いだ)き、226(くび)(かた)げて(かんが)へて()たが、227やつとの(こと)でイク、228サールの両人(りやうにん)(たはむ)れなる(こと)()り、229二人(ふたり)(なか)()()つて、230()()りながら、231ワンワンワンと二声(ふたこゑ)三声(みこゑ)()(たけ)るや、232イク、233サールの両人(りやうにん)は、234やつとの(こと)三番叟(さんばそう)()(をさ)めた。235一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ここ)先途(せんど)(をど)(くる)うたのだから、236ビツシヨリ(あせ)()れ、237(なん)とも形容(けいよう)出来(でき)化物面(ばけものづら)になつて仕舞(しま)つた。
238初稚姫『ホホホホホ、239貴方(あなた)はイク、240サールの(つかさ)ぢやありませぬか。241何時(いつ)()斯様(かやう)(ところ)にお(いで)になつたのです。242珍彦(うづひこ)さまが(さぞ)心配(しんぱい)をしてゐらつしやるでせう。243サア(はや)(かへ)つて(かみ)(さま)御用(ごよう)をして(くだ)さい。244さうして(また)(その)(かほ)はどうなさつたのですか。245本当(ほんたう)にみつともない、246(ばけ)のやうですわ。247三番叟(さんばさう)()みましたら、248(はや)(この)谷川(たにがは)でお(かほ)をお(あら)ひなさいませ。249どこの(かた)(とほ)られるか()れませぬよ。250(たび)のお(かた)貴方(あなた)(がた)のお(かほ)()たら、251キツト吃驚(びつくり)せられますからなア』
252イク『イヤモウ大変(たいへん)目出度(めでた)(こと)(ござ)いました。253貴女(あなた)()旅行(りよかう)について、254(てん)大神(おほかみ)(さま)吾々(われわれ)にお(とも)をせいと仰有(おつしや)つての(こと)か、255(おも)はず()らず此処(ここ)まで(からだ)(ちう)()んで(まゐ)りまして、256(うま)れてから(はじ)めての三番叟(さんばさう)()まされました。257何卒(なにとぞ)惟神(かむながら)思召(おぼしめ)して、258何処(どこ)までもお(とも)にお()(くだ)さいますやう、259(ひとへ)にお(ねが)(まを)します』
260サール『どうぞ、261(わたし)もイクの(まを)した(とほ)り、262是非(ぜひ)ともお(とも)をさして(いただ)きたう(ぞん)じます』
263初稚姫折角(せつかく)思召(おぼしめし)()にするのも(くる)しう(ござ)いますが、264最前(さいぜん)(まを)した(とほ)り、265(わらは)(とも)(ゆる)されないのですから、266どうぞそれだけは(こら)へて(いただ)きたう(ぞん)じます』
267イク『そこを、268たつてお(ねが)(まを)したいと(ぞん)じ、269(あは)(かほ)(ござ)いませぬので、270(この)(とほ)(しろ)(くろ)()りまして、271(ねが)(まを)したので(ござ)います。272(なん)仰有(おつしや)つても(わたくし)はお(とも)(いた)します。273珍彦(うづひこ)(さま)(ゆる)しも()けず、274勝手(かつて)()()して()たので(ござ)いますから、275(この)(まま)(かへ)(こと)出来(でき)ませぬ。276吾々(われわれ)(たす)けると(おも)うて何卒(どうぞ)(ゆる)しを(ねが)ひます。277何程(なにほど)(かみ)(さま)のお(みち)だと(まを)しても、278特別(とくべつ)のお取扱(とりあつか)破格(はかく)思召(おぼしめし)()(こと)(ござ)いませう。279其処(そこ)神直日(かむなほひ)280大直日(おほなほひ)見直(みなほ)しまして、281(ゆる)(くだ)さるが(ひと)(たす)ける宣伝使(せんでんし)(やく)ぢや(ござ)いませぬか』
282初稚姫本当(ほんたう)(こま)りましたなア。283(しか)しながら、284貴方(あなた)(ほこら)(もり)神司(かむつかさ)珍彦(うづひこ)(さま)支配(しはい)()けねばならぬお(かた)(ゆゑ)285(わたし)勝手(かつて)につれて(まゐ)(わけ)には(まゐ)りませぬ。286そんな無理(むり)仰有(おつしや)らずに、287(はや)(かへ)つて(くだ)さい。288それが(かみ)(さま)(たい)する第一(だいいち)(つと)めで(ござ)いますからなア』
289イク『アヽ(これ)(ほど)(たの)んでも()いて(くだ)さらねば、290最早(もはや)是非(ぜひ)がない。291オイ、292サール、293(いよいよ)決死隊(けつしたい)だ』
294目配(めくば)せする。295(ここ)両人(りやうにん)(ふところ)用意(ようい)して()いた腰帯(こしおび)(かし)()(こずゑ)にパツと手早(てばや)()つかけ、296(あご)()つてプリンプリンと三番叟(さんばさう)(まひ)は、297(たちま)住吉踊(すみよしをど)りの人形(にんぎやう)とヘグレて仕舞(しま)つた。298スマートは(この)(てい)()(おどろ)き、299ワンワンと吠立(ほえた)て、300初稚姫(はつわかひめ)()(まは)りをウロウロしながら(そで)をくはへて「(はや)両人(りやうにん)(たす)けて(くだ)さい」と、301(くち)には()はねど(その)形容(けいよう)(あら)はし、302(かな)しき(こゑ)(しぼ)つて()く。303初稚姫(はつわかひめ)手早(てばや)くブラ(さが)つた(からだ)をグツと(かか)へ、304五寸(ごすん)ばかり()ちあげて二人(ふたり)とも(すく)(おろ)した。305二人(ふたり)()(とほ)くなつて呆然(ばうぜん)として()る。306初稚姫(はつわかひめ)二人(ふたり)熱烈(ねつれつ)なる(ねが)ひを()(わけ)にもゆかず、307(ことわ)(わけ)にもゆかず、308(しば)(なみだ)()れて(かんが)へて()たが、309やや両人(りやうにん)正気(しやうき)になつたのを(さいは)ひ、310(たちま)(かみ)(いの)り、311()(へん)じて大熊(おほくま)となり、312スマートは唐獅子(からじし)となり、313()(いか)らし足掻(あがき)をしながら、314ウーウーと二人(ふたり)(うな)つて()せた。315二人(ふたり)吃驚(びつくり)して両手(りやうて)(あは)一言(ひとこと)(はつ)()ず、316(その)()俯向(うつむ)いて(ふる)うて()る。317初稚姫(はつわかひめ)(ふたた)(もと)姿(すがた)となり、318スマートは巨大(きよだい)なる獅子(しし)(くわ)し、319初稚姫(はつわかひめ)()()せて荒野(あらの)(はら)一目散(いちもくさん)(すす)()く。
320大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 加藤明子録)
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