霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 煽動(せんどう)〔一四五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第1篇 照門山颪 よみ(新仮名遣い):てるもんざんおろし
章:第2章 煽動 よみ(新仮名遣い):せんどう 通し章番号:1452
口述日:1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
テルモン山の神館の奥の間には、小国別の病はすます重く、命は旦夕に迫ってきた。小国別は顕幽の弁別がつかない精神状態となってきた。三千彦は小国別の帰幽を遅らせてもらうよう神に願った。
小国別の意識が戻り眠りについたとき、館の周囲に老若男女の叫び声が聞こえてきた。オールスチンと三千彦は共に玄関口に出てみると、荒くれ男たちが酒に酔って押し掛け、オールスチンを突き飛ばし、三千彦を捕えてテルモン山の山奥に運んでしまった。
ワックスは驢馬にまたがって群衆を指揮しながら采配を振るっている。さすがの悪人ワックスも、父オールスチンが倒れているのを見逃せず、自分の悪行を見せないように目隠しをして応急手当てをして去って行った。
ワックスは、悪友のエキスとヘルマンに命じて三千彦を山奥の岩窟に閉じ込めておいた。ワックスは、デビス姫も三五教に通じているので町に戻ってきたら自分のところに連れてくるよう、群衆をたきつけた。
求道居士、ヘル、デビス姫、ケリナ姫の四人は、そんな騒動が起こっているとも知らず、宣伝歌を歌いながらテルモンの町に向かってやってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-09-01 18:28:30 OBC :rm5702
愛善世界社版:21頁 八幡書店版:第10輯 265頁 修補版: 校定版:22頁 普及版:9頁 初版: ページ備考:
001 テルモン(ざん)神館(かむやかた)(おく)()には、002小国別(をくにわけ)(やまひ)益々(ますます)(おも)く、003(めい)旦夕(たんせき)(せま)つて()た。004(やかた)(うち)(うへ)(した)へと(さわ)(まは)り、005小国姫(をくにひめ)006三千彦(みちひこ)(およ)家令(かれい)のオールスチンは、007二人(ふたり)看護婦(かんごふ)(とも)病床(びやうしやう)につききり、008()()(ひと)()(うへ)(あん)じ、009(むね)(をど)らせつつあつた。010三千彦(みちひこ)最早(もはや)是非(ぜひ)なしと(かみ)(むか)つて天国(てんごく)(すく)(たま)はむ(こと)祈願(きぐわん)した。011小国別(をくにわけ)顕幽(けんいう)弁別(べんべつ)のつかざる精神(せいしん)状態(じやうたい)となつた。012小国別(をくにわけ)(うれ)しさうな(かほ)して(そら)(なが)め、
013『アア貴方(あなた)はチヤンドラ・デーワブトラ(さま)月天子(ぐわつてんし))、014貴方(あなた)はスーラヤ(さま)日天子(につてんし))ようマア……只今(ただいま)(まゐ)ります。015(しか)(なが)らモウ一目(ひとめ)(わが)二人(ふたり)(むすめ)()ふまで()猶予(いうよ)(くだ)さいませ。016アア(なん)()ふマノーヂニヤスヷラ(楽音(がくおん))だらう。017女房(にようばう)にもあの(こゑ)()かしてやり()い。018これ小国姫(をくにひめ)019(まへ)はあのマノーヂニヤスヷラ(楽音(がくおん))が(きこ)えて()るか。020あの綺麗(きれい)なエンゼルが()につくか。021もしもしエンゼル(さま)022(しば)らく()猶予(いうよ)(ねが)ひます。023これが(この)()(わか)れで(ござ)いますから』
024(しき)りに()(あは)して()る。
025小国姫(をくにひめ)『モシ旦那(だんな)(さま)026(しつか)りして(くだ)さいませ。027貴方(あなた)病気(びやうき)のために左様(さやう)幻覚(げんかく)(かん)じて()られるのでせう。028マノーヂニヤガンダルヷ((がく))の(こゑ)(きこ)えては()ないぢやありませぬか。029そしてエンゼルのお姿(すがた)(けつ)して()えませぬよ。030(しつか)りなさいませ。031(やが)姉妹(きやうだい)二人(ふたり)(かへ)つて(まゐ)りますから』
032 小国別(をくにわけ)女房(にようばう)(こゑ)(みみ)這入(はい)らぬと()えて、033(なほ)言葉(ことば)をつづけ、
034(なん)とマア(うつく)しい(はな)だこと、035もしエンゼル(さま)036(これ)はダリヤの(はな)(ござ)いますか。037エ、038(もも)(はな)039こんな(おほ)きな(もも)(はな)が、040どうして(また)()いたのでせう。041(なん)仰有(おつしや)います、042第一(だいいち)天国(てんごく)桃林(たうりん)(もも)(はな)043ヘー、044(うつく)しいもので(ござ)いますなア。045(わたし)046それへ(まゐ)るのですか。047いや有難(ありがた)(ござ)います』
048小国姫(をくにひめ)『モシ三千彦(みちひこ)先生(せんせい)(さま)049どうで(ござ)いませうか。050到底(たうてい)主人(しゆじん)生命(いのち)駄目(だめ)(ござ)いませうな。051せめてデビスやケリナの(かへ)つて()(まで)052(なん)とかして(いのち)をとり()めて(いただ)()いものです』
053三千彦(みちひこ)『お(よろこ)びなさいませ。054(けつ)して幻覚(げんかく)でも(なん)でもありませぬ。055貴方(あなた)()には(わか)らぬか()りませぬが、056あの(とほ)りチヤンドラデーワブトラ(さま)やスーラヤ(さま)がエンゼルとなつて天国(てんごく)(すく)ふべくお()えになつて()ます。057(いま)(ねがひ)(いた)しますから、058親娘(おやこ)対面(たいめん)()(まで)059天国行(てんごくゆき)猶予(いうよ)(ねが)ひませう』
060三千彦(みちひこ)拍手(かしはで)をうち、061(あま)数歌(かずうた)(うた)祈願(きぐわん)()めた。062月天子(ぐわつてんし)063日天子(につてんし)(りやう)エンゼルは三千彦(みちひこ)(こひ)()れ、064四辺(あたり)芳香(はうかう)()げ、065微妙(びめう)音楽(おんがく)につれて一先(ひとま)天上(てんじやう)(かへ)(たま)うた。066(ほとん)帰幽(きいう)して()小国別(をくにわけ)(ふたた)正気(しやうき)になり、067()(しづ)かに(ひら)ひて四辺(あたり)打眺(うちなが)め、
068『ア、069女房(にようばう)070そこに()たか。071貴方(あなた)三千彦(みちひこ)(さま)072ア、073大変(たいへん)(うつく)しいエンゼル(さま)結構(けつこう)(ところ)(みちび)かれて()(ところ)だつた。074(むすめ)()(かへ)つて()ぬかな』
075小国姫(をくにひめ)『ハイ、076()(かへ)りませぬが、077(やが)(かみ)(さま)のお(かげ)無事(ぶじ)(かほ)()せるで(ござ)いませう。078()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
079自分(じぶん)二人(ふたり)姉妹(きやうだい)(こと)(あん)(なが)故意(わざ)とに気楽(きらく)さうに()つてゐる。080小国別(をくにわけ)は『()ひたいものだな』と(しき)りに(あこが)(なが)らスヤスヤと(ねむ)りに()いた。081(この)(とき)(やかた)周囲(しうゐ)(あた)つて老若(らうにやく)男女(なんによ)(さけ)(ごゑ)(きこ)えて()た。082小国姫(をくにひめ)(をつと)看護(かんご)()(はな)されないので、083ソファーの(かたは)らに看護婦(かんごふ)(とも)(つき)きつて()る。084オールスチンは三千彦(みちひこ)(とも)玄関口(げんくわんぐち)(あら)はれ()れば赤鉢巻(あかはちまき)赤襷(あかたすき)(あら)くれ(をとこ)(さけ)()(つぶ)れてヒヨロヒヨロし(なが)雪崩(なだれ)(ごと)(おし)かけ(きた)り、085矢場(やには)にオールスチンを突飛(つきと)ばし、086(その)(うへ)をドカドカと()みにじり、087三千彦(みちひこ)()つて(たか)つて()をとり、088(あし)をとり、089凱歌(がいか)()げてドンドンドンとテルモン(ざん)山奥(やまおく)()して、090数十(すうじふ)(にん)荒男(あらをとこ)がワツショワツショと()(ごゑ)諸共(もろとも)(はこ)()く。091オールスチンの(せがれ)ワックスは、092驢馬(ろば)(またが)群衆(ぐんしう)指揮(しき)(なが)采配(さいはい)()つて()る。093目的物(もくてきぶつ)三千彦(みちひこ)(やうや)(さら)はれた。094ワックスは()一安心(ひとあんしん)玄関口(げんくわんぐち)進入(しんにふ)()れば、095(ちち)のオールスチンが人事(じんじ)不省(ふせい)になつて(たふ)れてゐる。096矢場(やには)両眼(りやうがん)目隠(めかく)しを(ほどこ)し、097(みづ)(ふき)かけ()つけを()ませ、098(やうや)くにして蘇生(そせい)せしめた。099両眼(りやうがん)(ぬの)(くく)つて()いたのは(ちち)にワックスの姿(すがた)(さと)られぬための用意(ようい)であつた。100流石(さすが)悪人(あくにん)のワックスも(ちち)危難(きなん)()ては(すく)はずには()られなかつたからである。101ワックスは三千彦(みちひこ)悪友(あくいう)のエキス、102ヘルマンに(めい)山奥(やまおく)(らつ)()らしめ、103(つめ)たい岩窟(がんくつ)(なか)押込(おしこ)めて()いた。
104ワックス『サア、105(これ)からデビス(ひめ)生捕(いけどり)せねばならぬ。106さりとて(なん)とか群衆(ぐんしう)(たぶらか)さねば(この)目的(もくてき)(たつ)()ない』
107(ふたた)驢馬(ろば)引返(ひつかへ)十字(じふじ)街頭(がいとう)()ち、108豆太鼓(まめだいこ)(たた)(なが)ら、109(また)もや辻説法(つじせつぽふ)(はじ)()した。
110ワックス『宮町(みやまち)老若(らうにやく)男女(なんによ)諸君(しよくん)よ、111諸君(しよくん)尽力(じんりよく)によつてテルモン(ざん)神館(かむやかた)(わざはひ)する三五教(あななひけう)(あく)宣伝使(せんでんし)三千彦(みちひこ)(やうや)くの(こと)生捕(いけど)りました。112彼奴(あいつ)(やかた)嬢様(ぢやうさま)デビス(ひめ)(ひそ)かに(しめ)(あは)(この)神館(かむやかた)横領(わうりやう)し、113あらゆる魔法(まはふ)使(つか)つて町民(ちやうみん)諸氏(しよし)(くる)しめる準備(じゆんび)(いた)して()りましたぞ。114(この)(たび)小国別(をくにわけ)(さま)()病気(びやうき)(まつた)三千彦(みちひこ)がなす(わざ)115大恩(だいおん)ある生神(いきがみ)(さま)御恩(ごおん)(はう)ずるは(いま)この(とき)(ござ)る。116何程(なにほど)デビス(ひめ)大切(たいせつ)なお(ぢやう)さまとは()へ、117バラモン(けう)教敵(けうてき)なる三五教(あななひけう)(あく)宣伝使(せんでんし)(じやう)(つう)じ、118(ちち)のお(やかた)占領(せんりやう)し、119町民(ちやうみん)(くるし)めむと(いた)さるる以上(いじやう)は、120(いち)()改心(かいしん)出来(でき)るまでは吾々(われわれ)()(あづか)つて、121(やかた)(かへ)さないやうにせなくてはなりませぬ。122(いま)(こころ)(やかた)(かへ)られては大変(たいへん)(ござ)るぞ。123如意(によい)宝珠(ほつしゆ)のお(やかた)(たから)三千彦(みちひこ)両人(りやうにん)(しめ)(あは)(うば)()つたに相違(さうゐ)(ござ)いませぬ。124それで(みな)さまの(ちから)をかつて、125デビス(ひめ)(いま)ここに(かへ)(きた)らば、126有無(うむ)()はせず、127テルモン(ざん)岩窟(がんくつ)()()(こと)(いた)しませう。128(これ)(けつ)してワックスの私言(しげん)では(ござ)いませぬ。129(やかた)小国姫(をくにひめ)()命令(めいれい)(ござ)いますぞ。130(みな)さま、131(よろ)しく(たの)みます』
132呶鳴(どな)りつけた。133(ねつ)しきつたる群衆(ぐんしう)馬鹿(ばか)息子(むすこ)のワックスが言葉(ことば)を、134さまで信用(しんよう)するものはないが、135群衆(ぐんしう)心理(しんり)()ふものは不思議(ふしぎ)なもので、136三千彦(みちひこ)捕虜(ほりよ)とした(いきほひ)(じやう)じ、137(いち)()()くワックスの言葉(ことば)鵜呑(うの)みにし、138第二(だいに)計画(けいくわく)としてデビス(ひめ)捕縛(ほばく)せむと宮町(みやまち)(あと)郊外(かうぐわい)まで()()した。
139 (をり)から大原野(だいげんや)中央(まんなか)宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)ら、140男女(なんによ)四人(よにん)()此方(こなた)(むか)つて(すす)()るものがあつた。
141エミシ求道居士の旧名(かみ)(おもて)(あら)はれて
142善神(ぜんしん)邪神(じやしん)立分(たてわ)ける
143(この)()(つく)りし神直日(かむなほひ)
144(こころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)
145(ただ)何事(なにごと)(ひと)()
146直日(なほひ)見直(みなほ)()(なほ)
147()(あやま)ちは()(なほ)
148三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
149治国別(はるくにわけ)(たす)けられ
150バラモン(けう)のカーネルと
151(つか)(はべ)りし(この)エミシ
152現実界(げんじつかい)(よく)()
153一切(いつさい)万事(ばんじ)神界(しんかい)
154()(たましひ)(まか)せつつ
155比丘(びく)姿(すがた)相成(あひな)りて
156山川(やまかは)(わた)野路(のぢ)()
157(かみ)(をしへ)遠近(をちこち)
158()(つた)()(をり)もあれ
159エルシナ(がは)激流(げきりう)
160()()(ただよ)人々(ひとびと)
161(いのち)(まと)(すく)()
162(あらた)()ればこは如何(いか)
163バラモン(けう)(つか)へたる
164ベル、ヘル、シャルの軍人(いくさびと)
165ケリナの(ひめ)四人(よにん)()
166やうやう三人(みたり)(いのち)をば
167()(かへ)しつつ川岸(かはぎし)
168(つた)うて()たる草野原(くさのはら)
169ベルとヘルとの両人(りやうにん)
170(にはか)悪心(あくしん)萌芽(はうが)して
171(われ)()二人(ふたり)(いのち)をば
172()らむとしたる浅間(あさま)しさ
173月照彦(つきてるひこ)神力(しんりき)
174()らされ悪魔(あくま)(たちま)ちに
175(くも)(かすみ)()げて()
176(あと)二人(ふたり)(いさ)()
177(つき)(ひかり)()()びて
178露野(つゆの)(わた)(すす)(をり)
179(みち)(かたへ)方岩(はこいは)
180(にはか)(うめ)(ひと)(こゑ)
181はて(いぶ)かしと(うかが)へば
182デビスの(ひめ)やベル、ヘルの
183三人(みたり)男女(なんによ)()るよりも
184二度(にど)ビツクリの二人(ふたり)()
185種々(いろいろ)雑多(ざつた)介抱(かいはう)して
186三人(みたり)(いのち)相救(あひすく)
187(よろこ)()もなくベルの(やつ)
188デビスの(ひめ)()につけし
189七宝(しつほう)(ことごと)掠奪(りやくだつ)
190草野(くさの)姿(すがた)(かく)しける
191アア如何(いか)にせむ曲神(まがかみ)
192(のろ)はれきつた盗人(ぬすびと)
193如何(いか)(まこと)()くとても
194(さと)(すべ)なき(あは)れさよ
195手負(てお)(たま)ひしデビス(ひめ)
196ヘルの背中(せなか)()はせつつ
197テルモン(ざん)神館(かむやかた)
198目当(めあて)(すす)野路(のぢ)(うへ)
199(まも)らせ(たま)惟神(かむながら)
200(かみ)御前(みまへ)()(まつ)
201(この)()(つく)りし神直日(かむなほひ)
202(こころ)(ひろ)大直日(おほなほひ)
203(ただ)何事(なにごと)(ひと)()
204直日(なほひ)見直(みなほ)()(なほ)
205()(あやまち)()(なほ)
206(かみ)(われ)()(とも)にあり
207如何(いか)なる(まが)()()とも
208(まこと)(ひと)つの大道(おほみち)
209さやる(すべ)なき曲津(まがつ)(かみ)
210一日(ひとひ)(はや)(たましひ)
211(あら)(きよ)めて大神(おほかみ)
212(まこと)(みち)(かへ)れかし
213アア惟神(かむながら)々々(かむながら)
214御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
215 ヘルはデビス(ひめ)()()(なが)(いき)(くる)しげに一歩(ひとあし)々々(ひとあし)拍子(ひやうし)をとつて(うた)()した。
216『ウントコドツコイ ドツコイシヨ
217(あく)(むく)いは()のあたり
218バラモン(ぐん)解散(かいさん)
219同時(どうじ)(こころ)(ねぢ)()
220(たちま)魔道(まだう)逆転(ぎやくてん)
221覆面(ふくめん)頭巾(づきん)怪装(くわいさう)
222旅人(りよじん)(かす)(ふところ)
223(たから)(うば)追剥(おひはぎ)
224一度(いちど)はなりし果敢(はか)なさよ
225ベルとシャルとの悪友(あくいう)
226(そその)かされて(たちま)ちに
227(おも)ひもよらぬ泥坊(どろばう)
228仲間(なかま)となりて()(ひと)
229(ころも)()がせ(かね)()
230挙句(あげく)(はて)(いのち)まで
231()りて露命(ろめい)(つな)ぎつつ
232エルシナ(がは)(たもと)まで
233(しの)(しの)びに()()れば
234ザンブと()ちし水煙(みづけむり)
235如何(いか)なる(ひと)投身(みなげ)ぞや
236(いのち)(たす)けにやなるまいと
237()(をど)らして深淵(ふかぶち)
238()()二人(ふたり)(すく)()
239(また)もやベルの悪人(あくにん)
240つまらぬ(こと)(あらそ)ひつ
241(ふたた)(ふち)転落(てんらく)
242(たま)中空(ちうくう)()()して
243八衢(やちまた)街道(かいだう)(たび)をなし
244(やみ)(まよ)へる(とき)もあれ
245(たちま)(きこ)ゆる法螺(ほら)(こゑ)
246高姫館(たかひめやかた)危難(きなん)をば
247求道(きうだう)居士(こじ)(すく)はれて
248(ふたた)(この)()(ひと)となり
249(かみ)(めぐ)みを(よろこ)びつ
250居士(こじ)御後(みあと)(したが)ひて
251エルシナ(だに)山口(やまぐち)
252()かかる(をり)しも一万(いちまん)(りやう)
253所持(しよぢ)(たま)ふと()くよりも
254(こころ)(おに)(たちま)ちに
255(つの)()()てて(くる)()
256ベルと二人(ふたり)(しめ)()
257如何(いか)にもなしてこの(かね)
258(うば)はむものと四苦(しく)八苦(はつく)
259(つひ)には(かみ)(おどか)され
260(いのち)からがら(やま)()
261不動(ふどう)(たき)()()きて
262(あや)しき姿(すがた)(おどろ)きつ
263(ふる)(をのの)(をり)もあれ
264(あや)しの姿(すがた)滝壺(たきつぼ)
265(のぼ)りてトボトボ山坂(やまさか)
266()()(くぐ)(かへ)()
267()()()るる月影(つきかげ)
268(ひかり)(まばゆ)宝石(ほうせき)
269(ほし)(ごと)くにピカピカと
270(かがや)きわたる(ひと)(かほ)
271これ見逃(みのが)してなるものか
272(おれ)につづけと()(なが)
273ベルは一歩前(ひとあしさき)()
274(くら)谷間(たにま)(くぐ)()
275(つき)(しら)みし山口(やまぐち)
276(くさ)茫々(ばうばう)()(しげ)
277(なか)目立(めだ)ちていと(ひろ)
278(いはほ)(そば)()()れば
279以前(いぜん)(をんな)方岩(はこいは)
280(うへ)安坐(あんざ)月光(げつくわう)
281(むか)つて(なに)(いの)()
282(すき)(うかが)ひベルの(やつ)
283猿臂(ゑんぴ)()ばして宝玉(ほうぎよく)
284(ひかり)(ねら)つてムシらむと
285()びかかりたる一刹那(いつせつな)
286ズドンと(ばか)二三間(にさんげん)
287()()されたる浅間(あさま)しさ
288(これ)()るよりウントコシヨ
289四辺(あたり)(しろ)(ひか)りたる
290枯木杭(かれぼくくひ)(ひろ)()
291無性(むしやう)矢鱈(やたら)にウントコシヨ
292(ほね)(くだ)けと(をんな)をば
293()あてにウンと打下(うちおろ)
294キヤツと一声(ひとこゑ)断末魔(だんまつま)
295やれ安心(あんしん)(むね)()
296ベルに(みづ)をば(あた)へつつ
297種々(いろいろ)雑多(ざつた)介抱(かいはう)して
298(やうや)(いき)()(かへ)
299(また)もや(たから)奪合(とりあ)ひに
300一悶錯(ひともんさく)をおツ(ぱじ)
301二人(ふたり)(いき)絶々(たえだえ)
302(つゆ)おく(くさ)(たふ)れけり
303かかる(ところ)三五(あななひ)
304(をしへ)(みち)求道(きうだう)居士(こじ)
305ケリナの(ひめ)諸共(もろとも)
306(あら)はれまして吾々(われわれ)
307(いのち)(すく)(たま)ひてゆ
308ここに(こころ)をとり(なほ)
309罪亡(つみほろ)ぼしの(その)()めに
310デビスの(ひめ)(せな)()
311(おも)たき(あし)引摺(ひきず)りつ
312テルモン(ざん)神館(かむやかた)
313小国別(をくにのわけ)(おん)(まへ)
314(わび)(かたがた)(すす)()
315(わが)()(うへ)果敢(はか)なけれ
316アア惟神(かむながら)々々(かむながら)
317御霊(みたま)(さち)はひましまして
318ヘルが(おか)せし罪科(つみとが)
319一日(ひとひ)(はや)(ゆる)しまし
320()きては(かみ)御用(ごよう)()
321()しては(たふと)天国(てんごく)
322(きよ)生涯(しやうがい)(おく)るべく
323(まも)らせ(たま)惟神(かむながら)
324天地(てんち)()ぶる大神(おほかみ)
325御前(みまへ)(かしこ)()ぎまつる』
326(うた)(なが)らテルモン(ざん)中腹(ちうふく)327宮町(みやまち)()して爪先上(つまさきあが)りの原野(げんや)(かへ)()る。328種々(いろいろ)雑多(ざつた)(はた)()てた宮町(みやまち)老若(らうにやく)男女(なんによ)はワックスを隊長(たいちやう)とし、329デビス(ひめ)()(かく)生捕(いけど)らむものと、330町内(ちやうない)(くま)なく(さが)し、331(つひ)郊外(かうぐわい)にまで(あら)はれて()た。332求道(きうだう)居士(こじ)一行(いつかう)は、333そんな変事(へんじ)(おこ)つてゐるとは(ゆめ)にも()らず、334悠々(いういう)として宣伝歌(せんでんか)(うた)ひながら、335(みち)(かたへ)のパインの(もり)少時(しばし)(いき)(やす)めて()た。336群衆(ぐんしう)喊声(かんせい)時々(じじ)刻々(こくこく)(たか)まり(きた)る。
337大正一二・三・二四 旧二・八 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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