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第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
01 大山
〔1451〕
02 煽動
〔1452〕
03 野探
〔1453〕
04 妖子
〔1454〕
05 糞闘
〔1455〕
06 強印
〔1456〕
07 暗闇
〔1457〕
08 愚摺
〔1458〕
第2篇 顕幽両通
09 婆娑
〔1459〕
10 転香
〔1460〕
11 鳥逃し
〔1461〕
12 三狂
〔1462〕
13 悪酔怪
〔1463〕
14 人畜
〔1464〕
15 糸瓜
〔1465〕
16 犬労
〔1466〕
第3篇 天上天下
17 涼窓
〔1467〕
18 翼琴
〔1468〕
19 抱月
〔1469〕
20 犬闘
〔1470〕
21 言触
〔1471〕
22 天葬
〔1472〕
23 薬鑵
〔1473〕
24 空縛
〔1474〕
25 天声
〔1475〕
余白歌
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> 第3篇 天上天下 > 第19章 抱月
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第一九章
抱月
(
だきつき
)
〔一四六九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第3篇 天上天下
よみ(新仮名遣い):
てんじょうてんか
章:
第19章 抱月
よみ(新仮名遣い):
だきつき
通し章番号:
1469
口述日:
1923(大正12)年03月26日(旧02月10日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
求道居士は月夜の庭園をケリナ姫に導かれて逍遥した。ケリナ姫は求道居士に思いのたけを打ち明けた。求道居士はのらりくらりとかわしていたが、ケリナ姫は次第に気焔が上がってきて、求道居士の不甲斐なさを攻め立ててきた。
求道居士はとうとう降伏し、たとえ神罰をこうむってもケリナ姫の熱愛に応えて夫婦の約束をすることに決心した。二人は歌を交わして手を固く握り、頬を合わせて千代のかためとした。
ヘルは退屈まぎれに月を眺めながらぶらぶらとこの場に現れ来たり、二人を見つけてからかっている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5719
愛善世界社版:
241頁
八幡書店版:
第10輯 347頁
修補版:
校定版:
250頁
普及版:
113頁
初版:
ページ備考:
001
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
は
月夜
(
つきよ
)
の
庭園
(
ていゑん
)
をブラリブラリとケリナ
姫
(
ひめ
)
に
導
(
みちび
)
かれ
逍遥
(
せうえう
)
した。
002
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
遥
(
はるか
)
に
西南方
(
せいなんぱう
)
を
指
(
さ
)
し、
003
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
求道
(
きうだう
)
さま
遥
(
はるか
)
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
に
霞
(
かすみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
004
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
く
白
(
しろ
)
く
光
(
ひか
)
つて
居
(
ゐ
)
る
物
(
もの
)
が
見
(
み
)
えませう。
005
あれはテルモン
湖水
(
こすゐ
)
と
申
(
まを
)
してアンブラック
川
(
がは
)
の
水
(
みづ
)
の
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
む
東西
(
とうざい
)
百
(
ひやく
)
里
(
り
)
、
006
南北
(
なんぽく
)
二百
(
にひやく
)
里
(
り
)
と
称
(
とな
)
へらるる
大湖水
(
だいこすゐ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
007
深
(
ふか
)
さは
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
迄
(
まで
)
届
(
とど
)
いて
居
(
を
)
ると
昔
(
むかし
)
から
申
(
まを
)
しますが、
008
どうかあの
湖水
(
こすゐ
)
の
様
(
やう
)
に
広
(
ひろ
)
く、
009
深
(
ふか
)
く、
010
清
(
きよ
)
き
者
(
もの
)
となり
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますなア。
011
それに
月
(
つき
)
の
影
(
かげ
)
が
水面
(
すいめん
)
に
浮
(
うか
)
んだ
時
(
とき
)
には、
012
得
(
え
)
も
云
(
い
)
はれぬ
絶景
(
ぜつけい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
013
常磐
(
ときは
)
堅磐
(
かきは
)
のパインの
老木
(
らうぼく
)
は
湖水
(
こすゐ
)
の
周囲
(
めぐり
)
に
環
(
わ
)
の
如
(
ごと
)
く
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
き、
014
白砂
(
はくしや
)
青松
(
せいしよう
)
の
得
(
え
)
も
云
(
い
)
はれぬ
風景
(
ふうけい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
015
一度
(
いちど
)
貴方
(
あなた
)
が
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばしたら
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申上
(
まをしあげ
)
たいもので
厶
(
ござ
)
いますわ』
016
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
017
嘸
(
さぞ
)
景色
(
けしき
)
のよい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませうなア』
018
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
、
019
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
を
永遠
(
ゑいゑん
)
に
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
020
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『これは
又
(
また
)
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はります。
021
貴女
(
あなた
)
に
限
(
かぎ
)
らず、
022
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
023
草
(
くさ
)
の
片葉
(
かきは
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
愛
(
あい
)
を
取
(
と
)
りつぐ
私
(
わたくし
)
は
比丘
(
びく
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
024
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
愛善
(
あいぜん
)
の
徳
(
とく
)
を
施
(
ほどこ
)
したいと
願
(
ねが
)
つて
居
(
を
)
ります』
025
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
の
中
(
うち
)
で
特別
(
とくべつ
)
に
愛
(
あい
)
を
注
(
そそ
)
ぐものが
一人
(
ひとり
)
厶
(
ござ
)
いませう』
026
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
は
平等愛
(
びやうどうあい
)
です、
027
つまり
博愛
(
はくあい
)
ですから
愛
(
あい
)
に
依怙
(
えこ
)
贔屓
(
ひいき
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
028
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
禽獣
(
きんじう
)
虫魚
(
ちうぎよ
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
愛
(
あい
)
する
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
います。
029
愛
(
あい
)
に
偏頗
(
へんぱ
)
があれば
愛
(
あい
)
自体
(
じたい
)
は
既
(
すで
)
に
不完全
(
ふくわんぜん
)
のもので
厶
(
ござ
)
いますからなア』
030
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
031
それは
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
ります。
032
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴方
(
あなた
)
は、
033
ラブ イズ ベストを
何
(
なん
)
とお
心得
(
こころえ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
034
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
のバラモン
軍
(
ぐん
)
のカーネルならば
盛
(
さか
)
んにラブ イズ ベストを
唱
(
とな
)
へました。
035
併
(
しか
)
し
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
り
円頂
(
ゑんちやう
)
緇衣
(
しえ
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
となり、
036
忍辱
(
にんにく
)
の
衣
(
ころも
)
を
身
(
み
)
につけた
上
(
うへ
)
からは、
037
ラブなどは
夢
(
ゆめ
)
にも
思
(
おも
)
つた
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ』
038
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
思
(
おも
)
ひきやラブせし
人
(
ひと
)
は
隼
(
はやぶさ
)
の
039
羽
(
は
)
ばたき
強
(
つよ
)
しパインの
林
(
はやし
)
に。
040
常磐木
(
ときはぎ
)
の
松
(
まつ
)
の
心
(
こころ
)
のさきくあれと
041
祈
(
いの
)
りし
君
(
きみ
)
を
恨
(
うら
)
めしくぞ
思
(
おも
)
ふ』
042
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
皇神
(
すめかみ
)
の
道
(
みち
)
を
畏
(
かしこ
)
み
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
は
043
如何
(
いか
)
で
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
うつさむ』
044
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
、
045
どうしても
妾
(
わらは
)
の
願
(
ねがひ
)
は
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいませぬか。
046
貴方
(
あなた
)
は
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
とは
違
(
ちが
)
つて
宣伝使
(
せんでんし
)
では
厶
(
ござ
)
いますまい。
047
又
(
また
)
大切
(
たいせつ
)
な
使命
(
しめい
)
を
帯
(
お
)
びて
征途
(
せいと
)
に
上
(
のぼ
)
らるる
御
(
おん
)
身
(
み
)
でもありますまいに、
048
この
憐
(
あはれ
)
な
女
(
をんな
)
を
見殺
(
みごろ
)
しに
遊
(
あそ
)
ばす
御
(
ご
)
所存
(
しよぞん
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
049
貴方
(
あなた
)
のお
考
(
かんが
)
へ
一
(
ひと
)
つで
妾
(
わらは
)
は
天国
(
てんごく
)
に
遊
(
あそ
)
び、
050
又
(
また
)
は
地獄
(
ぢごく
)
の
底
(
そこ
)
に
陥
(
おち
)
るので
厶
(
ござ
)
います。
051
可憐
(
かれん
)
な
乙女
(
をとめ
)
を
地獄
(
ぢごく
)
に
堕
(
おと
)
しても
比丘
(
びく
)
のお
役目
(
やくめ
)
が
勤
(
つと
)
まりますか、
052
それから
承
(
うけたま
)
はりたう
厶
(
ござ
)
います。
053
妾
(
わらは
)
のラブは
九寸
(
くすん
)
五分
(
ごぶ
)
式
(
しき
)
、
054
岩
(
いは
)
をも
射貫
(
いぬ
)
く
大決心
(
だいけつしん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
055
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『アハハハハハ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
冗談
(
じようだん
)
云
(
い
)
つてはいけませぬよ。
056
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
揶揄
(
からか
)
つて
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ』
057
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
動
(
うご
)
くこそ
人
(
ひと
)
の
赤心
(
まごころ
)
動
(
うご
)
かずと
058
云
(
い
)
ひて
誇
(
ほこ
)
らふ
人
(
ひと
)
は
石木
(
いはき
)
か
059
と
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
が
厶
(
ござ
)
いませう、
060
夫
(
それ
)
を
何
(
なん
)
と
考
(
かんが
)
へなさいますか。
061
人間
(
にんげん
)
の
身体
(
からだ
)
はよもや
石木
(
いはき
)
では
厶
(
ござ
)
いますまい。
062
愛情
(
あいじやう
)
の
炎
(
ほのほ
)
が
心中
(
しんちう
)
に
燃
(
も
)
えて
居
(
を
)
らねば
衆生
(
しゆじやう
)
済度
(
さいど
)
も
出来
(
でき
)
ますまい。
063
理論
(
りろん
)
のみに
走
(
はし
)
つて
冷
(
ひや
)
やかな
態度
(
たいど
)
のみを
保
(
たも
)
つのが
決
(
けつ
)
して
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
本心
(
ほんしん
)
では
厶
(
ござ
)
いますまい』
064
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『アア、
065
迷惑
(
めいわく
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たものだなア。
066
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ
煩悶
(
はんもん
)
の
種
(
たね
)
が
殖
(
ふ
)
へて
来
(
き
)
たワイ』
067
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
卑
(
はした
)
ない
愚
(
おろか
)
な
女
(
をんな
)
にラブされて
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
068
貴方
(
あなた
)
に
愛
(
あい
)
の
無
(
な
)
いのを
妾
(
わらは
)
はたつてとは
申
(
まを
)
しませぬ』
069
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
さう
悪取
(
わるどり
)
をして
貰
(
もら
)
つては
求道
(
きうだう
)
も
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
ります。
070
貴方
(
あなた
)
のやうな
才媛
(
さいえん
)
をどうして
嫌
(
きら
)
ひませうか。
071
私
(
わたくし
)
だつて
未
(
ま
)
だ
年若
(
としわか
)
い
有情
(
うじやう
)
の
男子
(
だんし
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
072
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一旦
(
いつたん
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せした
身
(
み
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
073
さう
勝手
(
かつて
)
に
恋愛味
(
れんあいみ
)
を
吸収
(
きふしう
)
する
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りますまい』
074
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『モシ
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
、
075
貴方
(
あなた
)
はまだ
或物
(
あるもの
)
に
捉
(
とら
)
はれて
居
(
ゐ
)
られますなア。
076
それでは
解脱
(
げだつ
)
なされたとは
申
(
まを
)
されますまい。
077
況
(
まし
)
て
比丘
(
びく
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
ではなく、
078
半俗
(
はんぞく
)
半聖
(
はんせい
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
で
厶
(
ござ
)
いませぬか。
079
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
は
総
(
すべ
)
て
解放
(
かいはう
)
的
(
てき
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか。
080
何物
(
なにもの
)
にも
捉
(
とら
)
へらるる
事
(
こと
)
なく、
081
坦々
(
たんたん
)
たる
大道
(
だいだう
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
進
(
すす
)
み
得
(
う
)
るのが
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
でせう。
082
情
(
なさけ
)
を
知
(
し
)
らぬは
決
(
けつ
)
して
男子
(
だんし
)
とは
申
(
まを
)
されますまい』
083
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『さう
短兵
(
たんぺい
)
急
(
きふ
)
に
大手
(
おほて
)
搦手
(
からめて
)
から
追撃
(
つゐげき
)
されてはこの
円坊主
(
まるばうず
)
も
逃
(
に
)
げ
道
(
みち
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬワイ、
084
今日
(
けふ
)
は
何卒
(
どうぞ
)
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
て
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
085
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ、
086
貴方
(
あなた
)
は
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
卑怯
(
ひけふ
)
なお
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア。
087
そんな
事
(
こと
)
でどうして
衆生
(
しうじやう
)
済度
(
さいど
)
が
出来
(
でき
)
ますか。
088
貴方
(
あなた
)
は
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
を
一人
(
ひとり
)
堕落
(
だらく
)
さす
考
(
かんが
)
へですか。
089
比丘
(
びく
)
と
云
(
い
)
ふ
雅号
(
ががう
)
を
取
(
と
)
り
除
(
のぞ
)
けば
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
090
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は
変化
(
へんげ
)
の
術
(
じゆつ
)
を
用
(
もち
)
ひて
衆生
(
しゆじやう
)
を
済度
(
さいど
)
遊
(
あそ
)
ばすでせう、
091
貴方
(
あなた
)
も
暫
(
しばら
)
く
観
(
くわん
)
自在天
(
じざいてん
)
の
境地
(
きやうち
)
になつて
憐
(
あは
)
れな
女
(
をんな
)
を
救
(
すく
)
ふお
考
(
かんが
)
へは
厶
(
ござ
)
いませぬか。
092
女
(
をんな
)
に
関係
(
くわんけい
)
して
行力
(
ぎやうりき
)
が
落
(
お
)
ちるなぞと
頑迷
(
ぐわんめい
)
固陋
(
ころう
)
の
思想
(
しさう
)
に、
093
失礼
(
しつれい
)
ながら
囚
(
とら
)
はれてお
出
(
いで
)
なさるのでは
厶
(
ござ
)
いますまいか』
094
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
何分
(
なにぶん
)
私
(
わたし
)
の
両親
(
りやうしん
)
が
一夜
(
ひとよさ
)
の
間
(
ま
)
に
粗製
(
そせい
)
濫造
(
らんざう
)
してくれた
代物
(
しろもの
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
095
今時
(
いまどき
)
の
新
(
あたら
)
しい
婦人
(
ふじん
)
方
(
がた
)
のお
考
(
かんが
)
へは、
096
容易
(
ようい
)
に
頭
(
あたま
)
に
滲
(
し
)
みませぬ。
097
実
(
じつ
)
に
時代後
(
じだいおく
)
れの
骨董品
(
こつとうひん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
098
何
(
いづ
)
れ
徴古館
(
ちようこくわん
)
に
陳列
(
ちんれつ
)
される
代物
(
しろもの
)
ですからなア、
099
アハハハハ』
100
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『エエ
辛気
(
しんき
)
臭
(
くさ
)
い、
101
ジレツたい、
102
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
妾
(
わらは
)
は
初心
(
しよしん
)
を
貫徹
(
くわんてつ
)
せなくては
現代
(
げんだい
)
婦人
(
ふじん
)
に
対
(
たい
)
しても
妾
(
わらは
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ。
103
婦人
(
ふじん
)
の
面貌
(
めんばう
)
に
泥
(
どろ
)
を
塗
(
ぬ
)
つては
済
(
す
)
みませぬ。
104
妾
(
わらは
)
が
貴方
(
あなた
)
に
擯斥
(
ひんせき
)
せられたのは
決
(
けつ
)
して
妾
(
わらは
)
一人
(
ひとり
)
ではございませぬ、
105
現代
(
げんだい
)
婦人
(
ふじん
)
の
代表
(
だいへう
)
的
(
てき
)
侮辱
(
ぶじよく
)
を
受
(
う
)
けたやうなもので
厶
(
ござ
)
いますから、
106
そのお
覚悟
(
かくご
)
で
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい』
107
と
自棄
(
やけ
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
108
猛烈
(
まうれつ
)
な
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
きかけた。
109
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『アア
夢
(
ゆめ
)
では
無
(
な
)
からうかなア。
110
バラモン
軍
(
ぐん
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
には、
111
干瓢
(
かんぴよう
)
に
目鼻
(
めはな
)
をつけたやうな
女
(
をんな
)
にさへ
嫌
(
きら
)
はれたものだが、
112
修験者
(
しゆげんじや
)
の
身
(
み
)
になつて
女
(
をんな
)
を
断念
(
だんねん
)
したと
思
(
おも
)
へば、
113
生
(
うま
)
れてから
無
(
な
)
いやうな、
114
婦人
(
ふじん
)
の
方
(
はう
)
からラブされるとは、
115
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
も
変
(
かは
)
つたものだ、
116
否
(
いな
)
私
(
わたし
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
も
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
が
起
(
おこ
)
つたやうなものだ。
117
エエ
仕方
(
しかた
)
がない、
118
仮令
(
たとへ
)
神罰
(
しんばつ
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
底
(
そこ
)
の
国
(
くに
)
へ
堕
(
お
)
ちるとも
貴方
(
あなた
)
の
熱愛
(
ねつあい
)
に
酬
(
むく
)
いませう』
119
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
、
120
決
(
けつ
)
して
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
へは
妾
(
わらは
)
が
堕
(
おと
)
しませぬ。
121
夜
(
よる
)
なく
冬
(
ふゆ
)
なき
天国
(
てんごく
)
の
楽
(
たの
)
しみを
此
(
この
)
世
(
よ
)
乍
(
なが
)
らに
楽
(
たの
)
しみ、
122
大神
(
おほかみ
)
の
御用
(
ごよう
)
に
夫婦
(
ふうふ
)
和合
(
わがふ
)
して
仕
(
つか
)
へませう、
123
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ。
124
夫
(
それ
)
について
男
(
をとこ
)
の
心
(
こころ
)
と
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
とか
云
(
い
)
ひますから、
125
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
誓
(
ちか
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
126
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
然
(
しか
)
らば
大空
(
おほぞら
)
に
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
る
麗
(
うるは
)
しき
月
(
つき
)
に
向
(
むか
)
つて
誓
(
ちか
)
ひませう』
127
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
月
(
つき
)
には
盈
(
み
)
つると
虧
(
か
)
くるの
変化
(
へんくわ
)
が
厶
(
ござ
)
います。
128
途中
(
とちう
)
に
変
(
かは
)
られては
困
(
こま
)
りますから、
129
何卒
(
どうぞ
)
この
庭先
(
にはさき
)
の
千引岩
(
ちびきいは
)
に
誓
(
ちか
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
130
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『
千代
(
ちよ
)
八千代
(
やちよ
)
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
の
動
(
うご
)
きなく
131
君
(
きみ
)
を
愛
(
め
)
でむと
誓
(
ちか
)
ふ
今日
(
けふ
)
かな』
132
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
千引岩
(
ちびきいは
)
押
(
お
)
せども
引
(
ひ
)
けども
動
(
うご
)
きなき
133
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
と
千代
(
ちよ
)
を
契
(
ちぎ
)
らむ』
134
と
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
135
求道
(
きうだう
)
の
手
(
て
)
を
固
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
り
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
上下
(
じやうげ
)
左右
(
さいう
)
に
強
(
つよ
)
く
揺
(
ゆす
)
つた。
136
求道
(
きうだう
)
も
亦
(
また
)
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り、
137
頬
(
ほほ
)
と
頬
(
ほほ
)
とをピタリと
合
(
あは
)
し、
138
千代
(
ちよ
)
の
固
(
かた
)
めとした。
139
暫
(
しばら
)
く
両人
(
りやうにん
)
はパインの
蔭
(
かげ
)
に
直立
(
ちよくりつ
)
し
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り
合
(
あ
)
つて
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
ハートに
浪
(
なみ
)
を
打
(
う
)
たせて
居
(
ゐ
)
る。
140
ヘルは
退屈
(
たいくつ
)
紛
(
まぎ
)
れに
月
(
つき
)
を
眺
(
なが
)
めながらブラリブラリと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
141
ヘル『イヤ、
142
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
様
(
さま
)
、
143
お
祝
(
いは
)
ひ
申
(
まを
)
します』
144
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ヤア
貴方
(
あなた
)
はヘルさまで
厶
(
ござ
)
いましたか。
145
月
(
つき
)
の
景色
(
けしき
)
がよいので
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
とブラついて
居
(
ゐ
)
ましたのですよ』
146
ヘル『
何卒
(
どうぞ
)
毎晩
(
まいばん
)
月夜
(
つきよ
)
で
厶
(
ござ
)
いますからお
楽
(
たの
)
しみ
遊
(
あそ
)
ばしませ。
147
私
(
わたくし
)
は
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かして
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
ましたのですよ、
148
アハハハハ』
149
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
『…………』
150
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ、
151
お
月様
(
つきさま
)
が
可笑
(
をか
)
しさうにニコニコと
笑
(
わら
)
つてゐらつしやいますわ』
152
ヘル『
貴女
(
あなた
)
も
嬉
(
うれ
)
しさうに
笑
(
わら
)
つてゐらつしやいましたね』
153
(
大正一二・三・二六
旧二・一〇
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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