霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 糞闘(ふんとう)〔一四五五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻 篇:第1篇 照門山颪 よみ(新仮名遣い):てるもんざんおろし
章:第5章 糞闘 よみ(新仮名遣い):ふんとう 通し章番号:1455
口述日:1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月24日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
館の受付にはエル、オークス、ビルマの三人がたがいに泡沫のような出世話にふけっている。エルは、オークスとビルマが町人たちの財産を盗んで三五教の宣伝使のせいにしていることを知りながら、二人とともにワックスを追い出して、自分たち三人で館の重職を占領しようという話に乗ってきた。
ワックスは三人の話を陰で聞いていて業腹が立ち、大便所に入って長柄杓に汚いものを持ってきて、三人の顔に振りかけた。ワックスは逃げ出すとたんに畳の破れに足を引っかけ、倒れてしまった。倒れた拍子に敷居に鼻を打ち、息をつめて苦しんでいる。
三人は不意に臭いものを顔にかけられて、洗いに行こうと走ったとたんにワックスの体につまづいて倒れてしまった。四人は糞まみれになてひっくり返り、ウンウンとうめいている。
小国姫は物音にこの場に走ってきた。小国姫は悪人たちが糞まみれになって倒れているのを見て、彼らの腹黒さをなじる歌を歌った。ワックスとオークスは小国姫を非難し、互いにいがみあっている。
エキスとヘルマンはこの場にやってきて、小国姫が四人を害しようとしたと非難し、ハルナの都の大黒主に報告すると捨て台詞を吐いて駆け出して行った。
四人はやっとおきあがり体を洗濯すると、今までの喧嘩は横に置き、ふたたび野心を充たすべく秘密相談会を開くことになった。
小国姫は病気の夫を気遣って早々にこの場を立って奥の間に身を隠した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-12 12:52:52 OBC :rm5705
愛善世界社版:60頁 八幡書店版:第10輯 280頁 修補版: 校定版:62頁 普及版:28頁 初版: ページ備考:
001 (やかた)受付(うけつけ)(たま)りにはエル、002オークス、003ビルマの(さん)(にん)004(つくゑ)真中(まんなか)()いて胡床(あぐら)をかき(むし)のよい(ゆめ)()て、005(たがひ)泡沫(はうまつ)(ごと)出世譚(しゆつせばなし)(あらそ)うて()る。
006エル『おい、007オークス、008貴様(きさま)門番(もんばん)(くせ)にドカドカと受付(うけつけ)関所(せきしよ)突破(とつぱ)して(おく)()進入(しんにふ)して()つたと()えるが、009余程(よほど)奥様(おくさま)からお目玉(めだま)()つたと()え、010随分(ずいぶん)(つら)(ふく)らしてゐるぢやないか。011(おれ)(ふくろふ)化物(ばけもの)(おも)つたよ』
012オークス『ヘン、013門番(もんばん)門番(もんばん)て、014偉相(えらさう)()ふない。015睾丸潰(きんたまつぶ)しの大将(たいしやう)()016(おれ)(いま)(まで)門番(もんばん)オークスとはチト(ちが)ふのだ。017これから此館(ここ)家令職(かれいしよく)となり、018奥住(おくずま)ひとなつてオークス(づと)めをするのだから、019何事(なにごと)(この)(はう)吩咐(いひつけ)服従(ふくじゆう)するのだぞ。020なあビルマ、021(まへ)がよく()つてるだらう』
022ビルマ『さうだな。023マアマア(ゆめ)(なか)家令(かれい)(ぐらゐ)なものだらうかい。024こんな(ところ)で、025かれい026これ()うて()ると(ひと)()かれて、027サア(いま)()(とき)(すべ)ての計劃(けいくわく)画餅(ぐわへい)()するかも()れないぞ。028成功(せいこう)する(ひと)(だま)つて()るよ。029(だま)つてる(ひと)夜光(やくわう)(たま)をとると()つてな、030(なん)でもガラガラ()ふものぢやない。031沈黙(ちんもく)一等(いつとう)だ』
032オークス『馬鹿(ばか)()ふな。033(すで)(すで)奥様(おくさま)から証言(しようげん)()()るのだ。034(たれ)(なん)()つてもワックスさまを此館(ここ)主人(あるじ)となし、035デビス(ひめ)(さま)芽出(めで)たく合衾(がふきん)(しき)()げさせ、036(この)オークスが家令職(かれいしよく)となり、037(いもうと)のケリナ(ひめ)(やが)(かへ)らるると()(こと)だから、038ケリナ(ひめ)(をつと)となり、039教務(けうむ)040政務(せいむ)刷新(さつしん)し、041綱紀(かうき)振粛(しんしゆく)尭舜(げうしゆん)()()たすのだ。042(いま)(まで)のやうな老耄(おいぼれ)や、043狼狽者(あわてもの)睾丸潰(きんたまつぶ)しの受付(うけつけ)では駄目(だめ)だからな。044エツヘヘヘヘヘ』
045エル『イツヒヒヒヒヒアイタタタタ(あんま)りしようもない(こと)(ぬか)すので、046可笑(をか)しうて睾丸(きんたま)(ひび)いて睾丸(きんたま)(いた)くて(ろく)(わら)ふことも出来(でき)やせないわ。047貴様(きさま)()(なが)いので、048そんな(ゆめ)でも()たのだらう。049それよりも(はや)門番(もんばん)神妙(しんめう)(つと)めぬかい。050旦那(だんな)(さま)何時(いつ)()れぬ(やう)()病気(びやうき)(おこ)つてるのに、051ウカウカして()(とき)ぢやないぞ』
052オークス『おい、053エル、054旦那(だんな)(さま)(すで)()帰幽(きいう)になつたと()つて()れて(ある)いたぢやないか。055随分(ずいぶん)いい狼狽者(あわてもの)だな』
056エル『(きま)つた(こと)だ。057(なん)でも手廻(てまは)しよくして()かねば間尺(ましやく)(あは)ぬぢやないか。058病人(びやうにん)ぢやなくても年寄(としより)(さき)()ぬのは当然(あたりまへ)だ。059何時(いつ)(まで)旦那(だんな)(さま)()きて()ると(おも)へば何時(なんどき)アフンとせなくちやならぬか(わか)らぬから、060一寸(ちよつと)町民(ちやうみん)()()ますために布令(ふれ)()し、061予行(よかう)演習(えんしふ)をやつたのだ。062英雄(えいゆう)心事(しんじ)門番(もんばん)(わか)つて(たま)るかい。063エヘン、064イヒン、065アイタタタタどうも睾丸(きんたま)(やつ)066もの()ひやがつて仕方(しかた)がないわ』
067オークス『おい、068エル、069ここは(ひと)真面目(まじめ)になつて()いて()れ。070本当(ほんたう)(おれ)今日(けふ)から家令職(かれいしよく)だぞ。071そしてワックス(さま)当館(たうやかた)()世継(よつぎ)だ。072それから()のビルマが受付(うけつけ)(すわ)り、073(まへ)(しばら)睾丸(きんたま)(なほ)(まで)(ひま)(たまは)つて休養(きうやう)するのだな。074(おれ)家令(かれい)になつた(うへ)は、075滅多(めつた)受付(うけつけ)より(した)(やく)はささぬから、076柔順(おとな)しく(ひか)へたが()からう』
077エル『(おれ)()んでも受付(うけつけ)()めぬのだ。078何程(なにほど)貴様(きさま)家令(かれい)になつた(ところ)で、079(おれ)受付(うけつけ)はハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)(さま)から、080命令(めいれい)()けてゐるのだから、081(おれ)地位(ちゐ)到底(たうてい)(うご)かすことは出来(でき)まい。082そんな(こと)()はずに門番(もんばん)でも神妙(しんめう)(つと)めたが()からうぞ』
083オークス『よし、084そんなら(おれ)受付(うけつけ)免職(めんしよく)させて()せよう。085貴様(きさま)受付(うけつけ)であり(なが)門外(もんぐわい)()()し、086()んでも(ござ)らぬ旦那(だんな)(さま)をお(かく)れになつたと()(ある)き、087町内(ちやうない)(さわ)がした大罪人(だいざいにん)だ。088これを大黒主(おほくろぬし)(さま)上申(じやうしん)しようものなら、089それこそ免職(めんしよく)(よひ)(くち)090貴様(きさま)(かさ)(だい)()んで(しま)ふのだ。091どうだ、092それでも(くる)しうないのか』
093エル『マママママ()つて()れ。094それやさうぢやけれど、095(じつ)(ところ)(ゆめ)()()つたのだ。096(ゆめ)でした(こと)仕方(しかた)がないぢやないか』
097オークス『(なに)098(ゆめ)()たと、099貴様(きさま)はさうすると怠慢(たいまん)(つみ)(まぬが)るる(こと)出来(でき)ない。100(あさ)から(ばん)まで平家蟹(へいけがに)のやうに()(たま)をツン()して、101役目(やくめ)大切(たいせつ)受付(うけつけ)(まも)つて()らねばならぬ役目(やくめ)でありながら、102(ひる)(うち)からサボタージュをやつて昼寝(ひるね)をやつて()つたのだな。103益々(ますます)()しからぬ。104おいビルマ、105貴様(きさま)証拠人(しようこにん)だ。106ここで(ひと)上申書(じやうしんしよ)()くから、107(まへ)証拠人(しようこにん)になつて()れ』
108ビルマ『そら、109(おれ)証拠人(しようこにん)にならぬ(こと)はないが、110(ちやう)事勿(ことなか)れと()つてエルの(こと)上申(じやうしん)すると、111それが(ひと)つの(ひつ)かかりとなり、112(しまひ)には貴様(きさま)(おれ)との……それ……窃盗(せつたう)事件(じけん)発覚(はつかく)するぢやないか。113ここはお(たがひ)辛抱(しんばう)したが()からうぞ』
114オークス『(なに)115何時(いつ)(おれ)窃盗(せつたう)した。116馬鹿(ばか)(こと)()ふな』
117ビルマ『セツトウと()ふのは盗人(ぬすびと)(こと)ぢやない。118去年(きよねん)(ふゆ)119テルモン(ざん)谷間(たにあひ)(ゆき)(かた)めて(ほら)穿(うが)ち、120そこで(あそ)んだ(こと)があるだらう。121それを雪洞(せつとう)()ふのだ。122それでも矢張(やつぱり)サボになるからのう』
123オークス『(なに)124(おれ)(たち)門番(もんばん)だから、125立派(りつぱ)(もん)(つく)らうと(おも)つて、126(ゆき)雛型(ひながた)(つく)つて(その)(した)(とほ)つたのだから、127()はば職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)になるのだ。128そんな(こと)(なに)129(つみ)にならう』
130(うま)二人(ふたり)()つて窃盗(せつたう)事件(じけん)誤魔化(ごまくわ)して(しま)つた。
131エル『ヒヒヒヒ、132アイタタタタ(なん)だか()らぬが、133二人(ふたり)とも()(すべ)つた(こと)(うま)()りつけたやうな気分(きぶん)がしてならぬわ。134此奴(こいつ)(さぐ)つて()れば(なに)かあるに相違(さうゐ)ない。135香爐(かうろ)金銀(きんぎん)水壺(みづつぼ)を、136あの(さわ)ぎに(みな)(ぬす)んで(しま)つたと()うてるからにやお(まへ)(たち)が、137よもや……ではあるまいかの』
138オークス『馬鹿(ばか)()ふな。139(おれ)旦那(だんな)(さま)()病気(びやうき)について、140門番(もんばん)(やす)んで(いま)(いま)まで(おく)御用(ごよう)をして()つたのだから、141そんな(こと)(ちつ)とも()らないわ。142大方(おほかた)三五教(あななひけう)魔法使(まはふつかひ)()つて()んだのだらう』
143ビルマ『オイ両人(りやうにん)144こんな(はなし)()めにして、145()(かく)旦那(だんな)(さま)何時(いつ)国替(くにが)へになるやら(わか)らぬなり、146家令(かれい)(また)何時(いつ)()ぬか()れぬ場合(ばあひ)だ。147ここで(おれ)(たち)(さん)(にん)同盟(どうめい)して(ひと)出世(しゆつせ)(もん)(ひら)かうぢやないか。148何時(いつ)(まで)門番(もんばん)受付(うけつけ)では面白(おもしろ)うないからのう。149(さいは)(とし)(わか)独身者(ひとりもの)だから、150家令(かれい)息子(むすこ)のワックスの馬鹿(ばか)此館(ここ)養子(やうし)にするのは勿体(もつたい)ない。151一層(いつそ)(こと)152(おれ)(たち)(さん)(にん)で、153此館(ここ)のお世継(よつぎ)と、154家令(かれい)と、155受付(うけつけ)(けん)内事頭(ないじがしら)()つの(やく)占領(せんりやう)する(こと)にしようぢやないか』
156エル『ウン、157そりや面白(おもしろ)からう。158(しか)(なが)(おく)さまが(うん)()つて()れるだらうかな』
159オークス『そこはそれ、160弱味(よわみ)につけ()(かぜ)(かみ)さまだ。161(この)(たふと)霊地(れいち)三五教(あななひけう)魔法使(まはふつかひ)をソツと引張(ひつぱ)()んだと()ふ、162(おく)さまに弱点(じやくてん)があるのだから、163屹度(きつと)(おれ)(たち)意見(いけん)採用(さいよう)するにきまつてる。164()採用(さいよう)せなけりや()破滅(はめつ)だからな』
165エル『成程(なるほど)166そりや妙案(めうあん)だ。167そんなら(おれ)此館(ここ)養子(やうし)になるから、168貴様(きさま)(たち)両人(りやうにん)家令(かれい)(なら)びに内事係(ないじがかり)(けん)受付(うけつけ)としてやらう。169門番(もんばん)分際(ぶんざい)として異数(いすう)抜擢(ばつてき)だらう』
170オークス『馬鹿(ばか)()ふな。171(おれ)はデビス(ひめ)さまの(をつと)となり当家(たうけ)のお世継(よつぎ)だ。172(まへ)(たち)二人(ふたり)(くじ)でもして家令(かれい)受付(うけつけ)とをやつたが()からう。173家令職(かれいしよく)受付(うけつけ)とは大変(たいへん)段階(だんかい)がある。174(もし)受付(うけつけ)となつたものは、175(いもうと)さまが(かへ)られたら受付(うけつけ)女房(にようばう)にする。176世継(よつぎ)はどうしても(あね)さまの婿(むこ)(かぎ)つてる。177家令(かれい)役柄(やくがら)(うへ)だから(ひめ)(さま)(もら)はずに辛抱(しんばう)するのだ。178さうすりや不公平(ふこうへい)()いだらう』
179エル『(とき)綿屋(わたや)老爺(おやぢ)(はなし)()けば、180高倉(たかくら)とか、181(あさひ)とか()三五教(あななひけう)化狐(ばけきつね)が、182二人(ふたり)(ひめ)(さま)()けて狸坊主(たぬきばうず)一緒(いつしよ)にパインの(もり)(つか)まへられたと()(こと)だが、183実際(じつさい)そんな(こと)があるだらうか。184(おれ)不思議(ふしぎ)(たま)らぬのだ。185(なか)にはコソコソ(はなし)をしてる(やつ)があつて、186あれは(きつね)ぢやない本真物(ほんまもの)(ひめ)(さま)()つてるものもあるが、187あれが本真物(ほんまもの)ならばワックスが(かく)しよつた岩窟(いはや)(たす)けに()つて、188(ひめ)さまの(こひ)独占(どくせん)するのも一興(いつきよう)だがな』
189オークス『馬鹿(ばか)()ふな。190彼奴(あいつ)(きつね)にきまつてる。191(いぬ)()まれよつて首筋(くびすぢ)(みみ)()まれたり、192狸坊主(たぬきばうず)(まで)首筋(くびすぢ)()まれたと()つて、193(むらさき)になつてはれ(あが)つて()つた、194(なん)本真物(ほんまもの)でも、195あの()面相(めんさう)では御免(ごめん)だ』
196ビルマ『おい、197エル、198貴様(きさま)睾丸(きんたま)(つぶ)されて綿屋(わたや)離室(はなれ)にスツ()んで()(なが)ら、199どうしてそんな(こと)()()いたのだ。200チツト可笑(をか)しいぢやないか』
201エル『(なに)202(おれ)だつて(をんな)()いちやジツとして()いて()れないので、203「ワツシヨワツシヨ」と門前(かどさき)(かつ)いで()くのを、204門口(かどぐち)()()し、205トツクリ()(ところ)(ひめ)(さま)()()るが、206(なん)となしに険相(けんさう)(かほ)して()るので、207(きつね)のお()けかと(おも)つて()たのだ。208どうも人間(にんげん)()真偽(しんぎ)(わか)らぬが、209マア(ひやく)(にん)(もの)七十(しちじふ)(にん)(まで)がお()けと()ふのだから、210大勢(おほぜい)()(はう)本当(ほんたう)だらうかい』
211オークス『サア、212無駄話(むだばなし)はどうでも()いが、213()()(ばや)約束(やくそく)()めて()かうぢやないか。214(おれ)此館(ここ)()養子(やうし)にきめて()いて、215家令職(かれいしよく)受付(うけつけ)との、216これから約束(やくそく)だ。217どうぢや家令職(かれいしよく)になれば(ひめ)(さま)はもらへぬなり、218(ひく)(やく)受付(うけつけ)になればケリナ(ひめ)女房(にようばう)(もら)へるのだ。219(くらゐ)をとるか、220(いろ)をとるか、221()(ところ)だ』
222ビルマ『そんなら(おれ)受付(うけつけ)になるわ』
223エル『馬鹿(ばか)()ふな。224受付(うけつけ)(おれ)持前(もちまへ)だ。225天下(てんか)御免(ごめん)受付(うけつけ)だ。226受付(うけつけ)(おれ)にきまつてる。227ヘン()みませぬな』
228オークス『オイ、229両人(りやうにん)230(ひめ)(さま)実際(じつさい)()きて(ござ)るか(ござ)らぬか(わか)らぬのだ。231万一(まんいち)(この)()()きて(ござ)らぬとすれば矢張(やつぱり)家令(かれい)になつた(はう)(とく)だぞ』
232エル『そんなら、233(おも)ひきつて(おれ)家令(かれい)になるわ。234ビルマ、235(まへ)236受付(うけつけ)になつて()れ』
237ビルマ『馬鹿(ばか)()ふな、238(たれ)受付(うけつけ)なんかするものかい。239適材(てきざい)適所(てきしよ)()つて、240此館(ここ)家令(かれい)貴様(きさま)のやうな狼狽者(あわてもの)では到底(たうてい)(つと)まりつこはない。241ビルマに(かぎ)つてるワイ』
242エル『(しか)し、243さうするとワックスさまのやり()()いぢやないか』
244オークス『(なに)245ワックスなんか、246彼奴(あいつ)悪事(あくじ)素破抜(すつぱぬ)いてやれば、247文句(もんく)なしに(いのち)()しさに()ぐるにきまつてる。248(さん)(にん)でさへも配置(はいち)(こま)つてるのに、249彼奴(あいつ)()()(たま)らうかい。250彼奴(あいつ)勘定外(かんぢやうぐわい)だ。251彼奴(あいつ)老爺(おやぢ)近々(ちかぢか)()んで(しま)ふから、252さうすりや門番(もんばん)(はし)にでも使(つか)つてやるのだな。253エツヘヘヘヘヘヘ』
254 ()何時(いつ)()にか(はなし)()()つて大声(おほごゑ)(さへづ)つて()る。255最前(さいぜん)からワックスは(かべ)(みみ)をあてて(からだ)(かく)し、256(さん)(にん)(はなし)()いて()たが(ごふ)()いて(たま)らぬので、257ソツと大便所(だいべんじよ)()長柄杓(ながびしやく)(きたな)いものを()つて()て、258自分(じぶん)(かほ)(かく)(なが)(さん)(にん)(まへ)(あら)はれ、259バツと(かほ)にふりかけ、260()()途端(とたん)(たたみ)(やぶ)れに(あし)()つかけ、261スツテンドウと(たふ)れて(しま)つた。262(たふ)れた拍子(ひやうし)()()(へだ)てた(しきゐ)(たか)(はな)()ち、263ウンと(いき)をつめ、264ビクともせず(くる)しんで()る。
265 (さん)(にん)不意(ふい)(くさ)(もの)(かほ)一面(いちめん)にかけられ、266(かほ)をハンカチーフにて(おさ)(なが)ら、267炊事場(すゐじば)(はう)(あら)ひに()かうと(はし)つた途端(とたん)に、268ワックスの(からだ)(つまづ)きバタリと(たふ)れた。269(つぎ)から(つぎ)から()(にん)(くそ)まぶれになつて()つくり(かへ)り、270ウンウン(うめ)いて()る。271(この)物音(ものおと)小国姫(をくにひめ)(この)()(はし)(きた)()れば、272(なん)とも()へぬ(くさ)(にほひ)がプンプンと(はな)をつく。273(ひめ)(はな)(つま)(なが)近寄(ちかよ)()れば、274(くそ)まぶれの長柄杓(ながびしやく)一本(いつぽん)と、275()(にん)(をとこ)(くそ)まぶれになつて、276其処(そこ)(たふ)()たり。
277小国姫(をくにひめ)糞度胸(くそどきよう)()ゑた(をとこ)(くそ)まぶれ
278(あし)(つまづ)いて苦楚(くそ)()めけり。
279(ばば)()(くそ)にまぶれた糞奴(くそやつこ)
280(くさ)(やつ)には(あき)()てたり。
281物臭(ものくさ)(たく)(いた)した天罰(てんばつ)
282(をとこ)(しやく)(たふ)れしならむ。
283オークスの(こころ)(きたな)門番(もんばん)
284今日(けふ)大糞(おほくそ)(かぶ)りけるかな。
285睾丸(きんたま)(うし)()まれて(また)ここで
286(くそ)(かぶ)せられ()エル馬鹿者(ばかもの)
287ワックスか(また)(くそ)かは()らねども
288どちらにしても(くさ)(やつ)かな』
289ワックス『糞奴(くそやつこ)(さん)(にん)(そろ)(その)(なか)
290(くそ)まぶしたり糞婆(くそばば)(いへ)で』
291小国姫(をくにひめ)『ワックスよ、(われ)(むか)つて糞婆(くそばば)
292()つた言葉(ことば)(わす)れずに()よ。
293いろいろと(くさ)思案(しあん)(めぐ)らして
294(くそ)()めたる(いま)天罰(てんばつ)
295オークス『テルモンの(やかた)家令(かれい)となる()には
296(くそ)苦労(くらう)(なん)のものかは』
297小国姫(をくにひめ)『いろいろと(くさ)(やつ)めが()()うて
298これの(やかた)(くそ)まき()らす。
299これよりはハルナの(みやこ)神柱(かむばしら)
300大黒主(おほくろぬし)申上(まをしあ)げなむ。
301何事(なにごと)(みな)三千彦(みちひこ)神司(かむづかさ)
302(さと)(たま)ひぬ(なれ)()(たく)みを。
303(ひと)(いへ)(なや)みにつけ()糞思案(くそじあん)
304(めぐ)らし(わが)()()つる馬鹿者(ばかもの)
305オークス『三千彦(みちひこ)三五教(あななひけう)魔法使(まはふつかひ)
306(つぶ)さに()げむ大黒主(おほくろぬし)へ。
307大黒主(おほくろぬし)(この)有様(ありさま)()きまさば
308小国姫(をくにのひめ)()(をは)りぞや』
309 かかる(ところ)へエキス、310ヘルマンの両人(りやうにん)(あわただ)しく(はし)(きた)り、311プンプン(にほ)臭気(しうき)(はな)(つま)(なが)ら、
312エキス『モシ奥様(おくさま)313ワックス(その)()連中(れんぢう)ぢや(ござ)いませぬか。314貴女(あなた)()(にん)(もの)陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)(おそ)れて(くそ)()びせ()(たふ)し、315(いのち)をとらうとなさつたのですか、316こりや()しからぬ。317モウ()うなつては()主人(しゆじん)(さま)だとて容赦(ようしや)(いた)しませぬぞ。318さあワックスさま(しつか)りなさいませ。319(これ)からハルナの(みやこ)早馬使(はやうまづかひ)()貴方(あなた)(がた)(かたき)()つて()げませう』
320()(なが)(しり)ひつからげ、321エキス、322ヘルマン両人(りやうにん)表門(おもてもん)さして(くも)(かすみ)()()したり。323()(にん)はヤツと()(あが)り、324(たがひ)(からだ)洗濯(せんたく)(をは)り、325一間(ひとま)()つて(いま)(まで)喧嘩(けんくわ)(しばら)(よこ)()き、326(ふたた)野心(やしん)(みた)すべく秘密(ひみつ)相談会(さうだんくわい)(ひら)(こと)となつた。327小国姫(をくにひめ)(をつと)病気(びやうき)気遣(きづか)匆々(さうさう)(この)()()つて(おく)()()(かく)しけり。
328大正一二・三・二四 旧二・八 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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