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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
01 大山
〔1451〕
02 煽動
〔1452〕
03 野探
〔1453〕
04 妖子
〔1454〕
05 糞闘
〔1455〕
06 強印
〔1456〕
07 暗闇
〔1457〕
08 愚摺
〔1458〕
第2篇 顕幽両通
09 婆娑
〔1459〕
10 転香
〔1460〕
11 鳥逃し
〔1461〕
12 三狂
〔1462〕
13 悪酔怪
〔1463〕
14 人畜
〔1464〕
15 糸瓜
〔1465〕
16 犬労
〔1466〕
第3篇 天上天下
17 涼窓
〔1467〕
18 翼琴
〔1468〕
19 抱月
〔1469〕
20 犬闘
〔1470〕
21 言触
〔1471〕
22 天葬
〔1472〕
23 薬鑵
〔1473〕
24 空縛
〔1474〕
25 天声
〔1475〕
余白歌
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> 第3篇 天上天下 > 第22章 天葬
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第二二章
天葬
(
てんさう
)
〔一四七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第3篇 天上天下
よみ(新仮名遣い):
てんじょうてんか
章:
第22章 天葬
よみ(新仮名遣い):
てんそう
通し章番号:
1472
口述日:
1923(大正12)年03月26日(旧02月10日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ワックスは腰を抜かして呆けたように中腰に倒れている。この町に習慣にしたがって、遺産を相続せずに主人が亡くなった場合は財産は町民のものとなり、競争的に取らせるのが掟だといって、エルがたくさんの町民を連れてきた。
町民一同はめいめいの財産に自分の名札を付け終ると、ワックスの前にやってきて悔やみを上げた。町内の葬式係や比丘がやってきて段取りを始め、ワックスの意向で天葬にふすことになった。これは、遺体を細かく刻んでたくさんのハゲワシに喰わせてしまうという儀式である。
比丘の先導で一同は天葬式を済ませ、ふたたびワックスの館に帰ってきていろいろの馳走を食べて暴飲暴食にうつつを抜かした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5722
愛善世界社版:
263頁
八幡書店版:
第10輯 355頁
修補版:
校定版:
274頁
普及版:
123頁
初版:
ページ備考:
001
エルは
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
ちワックスの
家
(
いへ
)
に
駆
(
か
)
けつけた。
002
オールスチンのコルブスはソファーの
上
(
うへ
)
に
静
(
しづ
)
かに
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
003
其
(
その
)
傍
(
かたはら
)
にワックスは
田螺
(
たにし
)
のやうな
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き
口
(
くち
)
あんぐりさせ
乍
(
なが
)
ら、
004
天井
(
てんじやう
)
の
棧
(
さん
)
を
睨
(
にら
)
みつけたやうなスタイルで、
005
手
(
て
)
を
畳
(
たたみ
)
につき、
006
足
(
あし
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
して
中腰
(
ちうごし
)
に
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
007
そして
目玉
(
めだま
)
ばかりクリクリと
回転
(
くわいてん
)
さして
居
(
ゐ
)
た。
008
其
(
そ
)
の
嫌
(
いや
)
らしさ、
009
到底
(
たうてい
)
化物
(
ばけもの
)
とより
見
(
み
)
えなかつた。
010
日
(
ひ
)
はソロソロ
暮
(
く
)
れかかる。
011
何
(
なん
)
ともなしに
嫌
(
いや
)
らしさが
四辺
(
しへん
)
から
襲
(
おそ
)
うて
来
(
く
)
る。
012
数多
(
あまた
)
の
欲惚
(
よくばう
)
けの
連中
(
れんちう
)
は
直
(
ただ
)
ちに
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
にドカドカと
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて
押入
(
おしい
)
り、
013
ソファーの
下
(
した
)
を
見
(
み
)
れば
一文
(
いちもん
)
も
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ない……こりや
大方
(
おほかた
)
倉
(
くら
)
の
中
(
なか
)
だらう……と
鍵
(
かぎ
)
を
探
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し
倉
(
くら
)
の
中
(
なか
)
に
押入
(
おしい
)
つて、
014
其処辺
(
そこら
)
の
什器
(
じふき
)
を
引繰
(
ひつくり
)
覆
(
かへ
)
し、
015
金
(
かね
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
して
居
(
ゐ
)
る。
016
エルはワックスの
前
(
まへ
)
に
丁寧
(
ていねい
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき、
017
エル『もし、
018
ワックス
様
(
さま
)
、
019
存
(
ぞん
)
じもよらぬ、
020
お
父
(
とう
)
様
(
さま
)
にはお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
まして、
021
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
022
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
斯
(
か
)
うして
置
(
お
)
く
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
きませぬので、
023
此
(
この
)
エルは
直様
(
すぐさま
)
町内
(
ちやうない
)
へ
報告
(
はうこく
)
致
(
いた
)
し、
024
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
を
連
(
つ
)
れて
参
(
まゐ
)
りました。
025
何卒
(
どうぞ
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ。
026
それに
就
(
つ
)
いてお
父上
(
ちちうへ
)
様
(
さま
)
が
生前
(
せいぜん
)
に
貯
(
たくは
)
へ
置
(
お
)
かれた
金銀
(
きんぎん
)
のお
宝
(
たから
)
、
027
町民
(
ちやうみん
)
一般
(
いつぱん
)
に
遺物
(
かたみ
)
の
為
(
ため
)
、
028
競争
(
きやうさう
)
的
(
てき
)
に
取
(
と
)
らせるのが
此
(
この
)
町内
(
ちやうない
)
の
習慣
(
しふくわん
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
029
それは
御
(
ご
)
異存
(
いぞん
)
厶
(
ござ
)
いますまいな。
030
当家
(
たうけ
)
の
財産
(
ざいさん
)
は
全部
(
ぜんぶ
)
オールスチンの
物
(
もの
)
、
031
其
(
その
)
所有主
(
しよいうぬし
)
が
帰幽
(
きいう
)
された
以上
(
いじやう
)
は、
032
これは
公有物
(
こういうぶつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
033
町民
(
ちやうみん
)
の
自由
(
じいう
)
に
任
(
まか
)
せ
什器
(
じふき
)
一切
(
いつさい
)
を
持
(
も
)
ち
去
(
さ
)
る
事
(
こと
)
にするでせうから、
034
そのお
考
(
かんが
)
へをして
居
(
ゐ
)
なさるが
宜
(
よろ
)
しからう。
035
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
葬式
(
さうしき
)
の
費用
(
ひよう
)
は
諸道具
(
しよだうぐ
)
を
売払
(
うりはら
)
つて
其
(
その
)
一部
(
いちぶ
)
で
当
(
あ
)
てませう。
036
お
前
(
まへ
)
も
一
(
ひと
)
つ
働
(
はたら
)
いて
財産
(
ざいさん
)
を
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
くが
宜
(
よ
)
からう。
037
何故
(
なぜ
)
お
前
(
まへ
)
は
生前
(
せいぜん
)
財産
(
ざいさん
)
の
一部分
(
いちぶぶん
)
を
譲
(
ゆづ
)
つて
貰
(
もら
)
つて
置
(
お
)
かないのです。
038
本当
(
ほんたう
)
に
智慧
(
ちゑ
)
のない
事
(
こと
)
でしたね』
039
ワックスは
漸
(
やうや
)
く
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
040
残念
(
ざんねん
)
さうに
白眼勝
(
しろめがち
)
の
目玉
(
めだま
)
から
涙
(
なみだ
)
を
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
041
ワックス『アーア、
042
おい、
043
エル、
044
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
をしたワイ。
045
一歩
(
ひとあし
)
帰
(
かへ
)
るが
遅
(
おそ
)
かつたので
到頭
(
たうとう
)
財産
(
ざいさん
)
を
譲
(
ゆづ
)
り
受
(
う
)
ける
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
046
そこへ
化物
(
ばけもの
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつたので
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし
身動
(
みうご
)
きのならぬ
処
(
ところ
)
に、
047
オークス、
048
ビルマの
奴
(
やつ
)
、
049
大
(
おほ
)
トランクに
金銀
(
きんぎん
)
を
詰
(
つ
)
め
込
(
こ
)
みエチエチと
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
しよつた。
050
まだ
遠
(
とほ
)
くは
行
(
ゆ
)
くまいから
誰
(
たれ
)
か
行
(
い
)
つて
彼奴
(
あいつ
)
を
取
(
と
)
ツ
捉
(
つか
)
まへて
分配
(
ぶんぱい
)
をし、
051
其
(
その
)
中
(
うち
)
から
三千
(
さんぜん
)
両
(
りやう
)
ばかり
俺
(
おれ
)
に
返
(
かへ
)
して
呉
(
く
)
れまいかな』
052
エル『ソリヤ、
053
もう
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いぢやないか。
054
先取権
(
せんしゆけん
)
があるのだからな』
055
ワックス『エー
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
をした。
056
此
(
この
)
怨
(
うら
)
みを
如何
(
どう
)
しても
晴
(
は
)
らさにやおかぬのだ』
057
エル『
男
(
をとこ
)
らしくもない。
058
そんな
執着心
(
しふちやくしん
)
を
持
(
も
)
つな。
059
それよりも
早
(
はや
)
く
腰
(
こし
)
を
上
(
あ
)
げて
神館
(
かむやかた
)
に
参
(
まゐ
)
り
親
(
おや
)
の
帰幽
(
きいう
)
を
報告
(
ほうこく
)
し、
060
厚
(
あつ
)
く
葬
(
はうむ
)
る
手続
(
てつづ
)
きをした
上
(
うへ
)
、
061
御
(
ご
)
養子
(
やうし
)
になつたら
如何
(
どう
)
だ』
062
ワックス『
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
が
滅
(
ほろ
)
びぬ
間
(
うち
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
063
何
(
なん
)
とかして
彼奴
(
あいつ
)
を
平
(
たひら
)
げる
工夫
(
くふう
)
はあるまいかな』
064
エル『あらいでかい。
065
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
俺
(
おれ
)
がスツカリ
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
るのだ』
066
と
利口
(
りこう
)
らしく
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
067
そこへ
沢山
(
たくさん
)
の
爺
(
ぢぢ
)
、
068
婆
(
ばば
)
が
水鼻汁
(
みづばな
)
を
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
らやつて
来
(
き
)
て、
069
目
(
め
)
を
擦
(
こす
)
り
手鼻汁
(
てばな
)
をかみつつ、
070
一同
(
いちどう
)
(
泣声
(
なきごゑ
)
)『ワーンワーンワーンワーン、
071
オーンオーンオーンオーン、
072
これワックスさま。
073
確
(
しつか
)
りしなされや。
074
悲
(
かな
)
しい
事
(
こと
)
ぢやないかいな。
075
ワーンワーンワーン、
076
オーンオーンオーン』
077
と
義理
(
ぎり
)
一遍
(
いつぺん
)
の
作
(
つく
)
り
泣
(
な
)
きを
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
078
家
(
いへ
)
の
外
(
そと
)
にも
内
(
うち
)
にも
目
(
め
)
に
唾
(
つば
)
をつけて
義理泣
(
ぎりな
)
きが
始
(
はじ
)
まつた。
079
此処
(
ここ
)
の
習慣
(
しふくわん
)
として
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
憎
(
にく
)
らしい
敵
(
かたき
)
が
死
(
し
)
んでも、
080
義理泣
(
ぎりな
)
きをせなくば
町外
(
ちやうはづ
)
れをされる
規則
(
いましめ
)
がある。
081
倉
(
くら
)
の
中
(
なか
)
の
財産
(
ざいさん
)
に
目
(
め
)
をつけた
連中
(
れんちう
)
も
各自
(
めいめい
)
に
自分
(
じぶん
)
の
名札
(
なふだ
)
を
記
(
つ
)
け
終
(
をは
)
り、
082
ヤツト
安心
(
あんしん
)
してワックスの
前
(
まへ
)
に
来
(
きた
)
り、
083
一同
(
いちどう
)
(
泣声
(
なきごゑ
)
)『ワーンワーンワーンワーン オーンオーンオーンオーン ワーンワーンワーン ウーンウーンウーンウーン、
084
ワックスさま、
085
誠
(
まこと
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でござます。
086
もう
諦
(
あきら
)
めなさいませ、
087
私
(
わたし
)
も
諦
(
あきら
)
めます。
088
沢山
(
たくさん
)
な
遺物
(
かたみ
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
して
有難涙
(
ありがたなみだ
)
が
出
(
で
)
ます。
089
ワーンワーンワーンワーン オーンオーンオーンオーン』
090
暫
(
しば
)
らくすると
町内
(
ちやうない
)
の
葬式係
(
さうしきがかり
)
がやつて
来
(
き
)
た。
091
さうして
比丘
(
びく
)
が
鈴
(
りん
)
を
恭
(
うやうや
)
しく
左手
(
ゆんで
)
に
持
(
も
)
ち
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
に
数珠
(
じゆず
)
を
巻
(
ま
)
き
乍
(
なが
)
ら、
092
コルブスの
前
(
まへ
)
に
端坐
(
たんざ
)
し、
093
怪
(
あや
)
しき
経文
(
きやうもん
)
を
唱
(
とな
)
へ
初
(
はじ
)
めた。
094
比丘
(
びく
)
『チーン、
095
チンチンチン、
096
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
、
097
是生
(
ぜしやう
)
滅法
(
めつぽふ
)
、
098
生滅
(
しやうめつ
)
々已
(
めつち
)
、
099
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
、
100
南無
(
なむ
)
波羅門尊
(
ばらもんそん
)
天子
(
てんし
)
、
101
大自在
(
だいじざい
)
天子
(
てんし
)
、
102
大国彦
(
おほくにひこの
)
命
(
みこと
)
、
103
帰妙
(
きめう
)
頂来
(
ちやうらい
)
、
104
霊宝
(
れいほう
)
加持
(
かぢ
)
。
105
惟
(
おもんみ
)
るに
現世
(
げんせ
)
に
生存
(
せいぞん
)
する
事
(
こと
)
、
106
八十
(
やそ
)
有余
(
いうよ
)
年
(
ねん
)
、
107
その
間
(
あひだ
)
に
於
(
おい
)
てテルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
に
仕
(
つか
)
へ、
108
家令
(
かれい
)
の
職
(
しよく
)
となり
上
(
あが
)
り、
109
館
(
やかた
)
の
会計
(
くわいけい
)
は
云
(
い
)
ふに
及
(
およ
)
ばず、
110
一切
(
いつさい
)
の
事務
(
じむ
)
を
処理
(
しより
)
し、
111
其
(
その
)
功
(
こう
)
空
(
むな
)
しからずと
雖
(
いへど
)
、
112
元来
(
ぐわんらい
)
貪
(
とん
)
、
113
瞋
(
じん
)
、
114
痴
(
ち
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
深
(
ふか
)
きを
以
(
もつ
)
つて、
115
バラモン
天
(
てん
)
より
賜
(
たまは
)
りし
一子
(
いつし
)
ワックスは
無頼
(
ぶらい
)
の
悪漢
(
あくかん
)
となり、
116
且
(
かつ
)
痴愚
(
ちぐ
)
迷妄
(
めいまう
)
の
徒
(
と
)
と
蔑
(
さげし
)
まれ、
117
糟糠
(
さうかう
)
の
妻
(
つま
)
には
早
(
はや
)
く
別
(
わか
)
れ、
118
淋
(
さび
)
しき
浮世
(
うきよ
)
を
送
(
おく
)
りたるは
全
(
まつた
)
く
天命
(
てんめい
)
の
然
(
しか
)
らしむる
所
(
ところ
)
、
119
然
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
は
至仁
(
しじん
)
至愛
(
しあい
)
に
在
(
い
)
ますが
故
(
ゆゑ
)
に、
120
今回
(
こんくわい
)
の
帰幽
(
きいう
)
と
共
(
とも
)
に、
121
外部
(
ぐわいぶ
)
的
(
てき
)
状態
(
じやうたい
)
を
除去
(
ぢよきよ
)
して、
122
八衢
(
やちまた
)
に
於
(
おい
)
て
凡
(
すべ
)
ての
罪悪
(
ざいあく
)
を
削除
(
さくぢよ
)
し
清浄
(
せいじやう
)
無垢
(
むく
)
の
精霊
(
せいれい
)
となし、
123
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
必定
(
ひつぢやう
)
なり。
124
汝
(
なんぢ
)
オールスチンの
精霊
(
せいれい
)
、
125
現世
(
げんせ
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
を
残
(
のこ
)
さず、
126
速
(
すみやか
)
に
幽冥界
(
いうめいかい
)
の
法則
(
はふそく
)
に
従
(
したが
)
つて
不老
(
ふらう
)
不死
(
ふし
)
の
霊界
(
れいかい
)
へ
旅立
(
たびだ
)
ちせよ。
127
必
(
かなら
)
ず
迷
(
まよ
)
ふ
事
(
こと
)
勿
(
なか
)
れ。
128
迷
(
まよ
)
ひは
地獄
(
ぢごく
)
の
種
(
たね
)
なるぞ。
129
帰妙
(
きめう
)
頂礼
(
ちやうらい
)
、
130
南無
(
なむ
)
波羅門
(
ばらもん
)
尊天
(
そんてん
)
、
131
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へ
恵
(
めぐ
)
ませ
玉
(
たま
)
へ、
132
チーン、
133
チンチンチンチンチン』
134
比丘
(
びく
)
『サアサ、
135
これでスツカリ
引導
(
いんだう
)
を
渡
(
わた
)
して
置
(
お
)
いた。
136
皆
(
みな
)
さま
土葬
(
どさう
)
に
致
(
いた
)
しますか、
137
水葬
(
すいさう
)
にしますか、
138
但
(
ただし
)
は
天葬
(
てんさう
)
に
致
(
いた
)
すか、
139
どちらが
宜
(
よろ
)
しいか。
140
それは
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
、
141
定
(
き
)
めて
下
(
くだ
)
さいませ』
142
ワックス『
私
(
わたし
)
は
喪主
(
もしゆ
)
だから
私
(
わたし
)
の
望
(
のぞ
)
み
通
(
どほ
)
りにして
貰
(
もら
)
ひませう。
143
何卒
(
どうぞ
)
天葬
(
てんさう
)
に
願
(
ねが
)
ひませう。
144
さすれば
天国
(
てんごく
)
へ
参
(
まゐ
)
るでせうから』
145
比丘
(
びく
)
『
皆様
(
みなさま
)
、
146
ワックス
様
(
さま
)
の
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
ひ、
147
これから
天葬
(
てんさう
)
に
致
(
いた
)
しますから、
148
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
用意
(
ようい
)
をして
下
(
くだ
)
さい』
149
一同
(
いちどう
)
は『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』と
総
(
すべ
)
ての
準備
(
じゆんび
)
を
整
(
ととの
)
へ、
150
オールスチンのコルブスを
戸板
(
といた
)
に
載
(
の
)
せて、
151
テルモン
山
(
ざん
)
の
墓地
(
ぼち
)
を
指
(
さ
)
して
送
(
おく
)
り
行
(
ゆ
)
く。
152
天葬
(
てんさう
)
と
云
(
い
)
へばコルブス(
死骸
(
しがい
)
)を
墓地
(
ぼち
)
に
運
(
はこ
)
び
石刀
(
せきたう
)
や
丸石
(
まるいし
)
を
以
(
もつ
)
て
体
(
からだ
)
を
細々
(
こまごま
)
にきざみ、
153
骨
(
ほね
)
も
残
(
のこ
)
らず
粉
(
こな
)
にして
了
(
しま
)
ひ、
154
麦
(
むぎ
)
の
煎粉
(
いりこ
)
をまぶして
団子
(
だんご
)
をつくり、
155
沢山
(
たくさん
)
な
禿鷲
(
はげわし
)
に
喰
(
く
)
はして
了
(
しま
)
ふ
儀式
(
ぎしき
)
である。
156
又
(
また
)
水葬
(
すいさう
)
と
云
(
い
)
へばコルブスを
其
(
そ
)
の
儘
(
まま
)
川
(
かは
)
へ
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
ふ
儀式
(
ぎしき
)
である。
157
数多
(
あまた
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
石刀
(
せきたう
)
や
石片
(
いしくれ
)
や
種々
(
いろいろ
)
の
木刀
(
ぼくたう
)
を
以
(
もつ
)
てコルブスを
一寸刻
(
いつすんきざ
)
み
五分試
(
ごぶだめ
)
しとなし、
158
潔
(
きよ
)
き
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひながら
汗
(
あせ
)
をタラタラ
出
(
だ
)
して
天葬
(
てんさう
)
の
準備
(
じゆんび
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
した。
159
禿鷲
(
はげわし
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
羽
(
は
)
ばたきしながら
幾百
(
いくひやく
)
ともなく
翺翔
(
こうしやう
)
して
待
(
ま
)
つてゐる。
160
比丘
(
びく
)
は
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
161
一同
(
いちどう
)
は
拍子
(
ひやうし
)
をとつてコルブスを
挫
(
くじ
)
く。
162
比丘
(
びく
)
の
歌
(
うた
)
163
『
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
、
是生
(
ぜしやう
)
滅法
(
めつぼふ
)
164
生滅
(
しやうめつ
)
々已
(
めつち
)
、
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
は
世
(
よ
)
の
習
(
なら
)
ひ
165
兎角
(
とかく
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
は
仮
(
かり
)
の
世
(
よ
)
だ
166
鷲
(
わし
)
の
腹
(
はら
)
へと
葬
(
はうむ
)
られ
167
翼
(
つばさ
)
なき
身
(
み
)
に
中空
(
ちうくう
)
を
168
翔
(
かけ
)
りて
尊
(
たふと
)
き
天国
(
てんごく
)
に
169
難
(
なん
)
なく
上
(
のぼ
)
る
目出度
(
めでた
)
さよ
170
チンチンチンチン、チンチンチン
171
皆
(
みな
)
さま
確
(
しつか
)
り
頼
(
たの
)
みます
172
オールスチンのコルブスは
173
チツトは
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れるぞや
174
皮
(
かは
)
と
骨
(
ほね
)
とが
沢山
(
たくさん
)
で
175
チツトも
肉
(
にく
)
がない
故
(
ゆゑ
)
に
176
禿鷲
(
はげわし
)
どもの
喜
(
よろこ
)
んで
177
喰
(
く
)
つて
呉
(
く
)
れるか
知
(
し
)
らないが
178
そこは、それそれ
焦
(
こが
)
し
麦
(
むぎ
)
179
粉
(
こな
)
をドツサリ
塗
(
ぬ
)
りつけて
180
うまく
味
(
あぢ
)
をば
付
(
つ
)
けるのだ
181
只
(
ただ
)
一片
(
ひときれ
)
も
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
182
残
(
のこ
)
しちやならぬ
天葬式
(
てんさうしき
)
183
禿鷲
(
はげわし
)
どのも
骨
(
ほね
)
折
(
を
)
つて
184
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
喰
(
く
)
つて
呉
(
く
)
れ
185
チンチンチンチン チンチンチン
186
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
、
是生
(
ぜしやう
)
滅法
(
めつぼふ
)
187
生滅
(
しやうめつ
)
々已
(
めつち
)
、
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
188
仮
(
かり
)
の
浮世
(
うきよ
)
を
後
(
あと
)
にして
189
執着心
(
しふちやくしん
)
を
脱却
(
だつきやく
)
し
190
身
(
み
)
も
魂
(
たましひ
)
も
天国
(
てんごく
)
に
191
黄金
(
こがね
)
の
翼
(
つばさ
)
に
乗
(
の
)
つて
行
(
ゆ
)
け
192
こんな
芽出度
(
めでた
)
い
事
(
こと
)
あろか
193
ワックスさまも
幸福
(
しあわせ
)
だ
194
土葬
(
どさう
)
水葬
(
すいさう
)
火葬
(
くわさう
)
とて
195
賤
(
いや
)
しき
民
(
たみ
)
の
葬式
(
さうしき
)
に
196
比
(
くら
)
べて
見
(
み
)
れば
最善
(
さいぜん
)
の
197
此
(
この
)
法式
(
はふしき
)
で
天国
(
てんごく
)
へ
198
救
(
すく
)
はれて
行
(
ゆ
)
く
父上
(
ちちうへ
)
は
199
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
身魂
(
みたま
)
ぞや
200
喜
(
よろこ
)
び
祝
(
いは
)
へ
皆
(
みな
)
さまよ
201
チンチンチンチン チンチンチン
202
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
で
永久
(
とこしへ
)
に
203
百味
(
ひやくみ
)
の
飲食
(
おんじき
)
与
(
あた
)
へられ
204
華
(
はな
)
の
台
(
うてな
)
に
坐
(
ざ
)
を
占
(
し
)
めて
205
下界
(
げかい
)
を
遥
(
はる
)
かに
見下
(
みお
)
ろしつ
206
テルモン
山
(
ざん
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
207
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
を
始
(
はじ
)
めとし
208
此
(
この
)
町内
(
ちやうない
)
の
人々
(
ひとびと
)
の
209
悩
(
なや
)
みを
払
(
はら
)
ひ
身
(
み
)
の
幸
(
さち
)
を
210
守
(
まも
)
りて
誠
(
まこと
)
の
生神
(
いきがみ
)
と
211
ならせ
玉
(
たま
)
へよ、チンチンチン
212
チンチンチンチン チンチンチン
213
皆
(
みな
)
さま
之
(
これ
)
で
有難
(
ありがた
)
い
214
バラモン
教
(
けう
)
の
読経
(
どくきやう
)
が
215
目出度
(
めでた
)
く
終結
(
しうけつ
)
致
(
いた
)
しました
216
さらばお
先
(
さき
)
へ
帰
(
かへ
)
ります
217
第一番
(
だいいちばん
)
の
天葬式
(
てんさうしき
)
218
営
(
いとな
)
みなさつた
事
(
こと
)
ならば
219
お
布施
(
ふせ
)
もドツサリ
張
(
は
)
り
込
(
こ
)
んで
220
後
(
あと
)
から
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
てお
呉
(
く
)
れ
221
遺産
(
かたみ
)
が
沢山
(
たくさん
)
ある
故
(
ゆゑ
)
に
222
何程
(
なにほど
)
お
金
(
かね
)
を
使
(
つか
)
うたとて
223
皆
(
みな
)
さま
腹
(
はら
)
が
痛
(
いた
)
むでも
224
頭
(
あたま
)
が
悩
(
なや
)
むでもない
程
(
ほど
)
に
225
同
(
おな
)
じ
風呂屋
(
ふろや
)
の
湯
(
ゆ
)
の
水
(
みづ
)
を
226
汲
(
く
)
んで
隣
(
となり
)
のお
客
(
きやく
)
さまに
227
与
(
あた
)
へてやるも
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
228
比丘
(
びく
)
を
大切
(
だいじ
)
になさいませ
229
帰依仏
(
きえぶつ
)
帰依法
(
きえほふ
)
帰依
(
きえ
)
比丘
(
びく
)
だ
230
此
(
この
)
大法
(
だいほふ
)
を
謬
(
あやま
)
らば
231
皆
(
みな
)
さま
死
(
し
)
んで
地獄道
(
ぢごくだう
)
へ
232
忽
(
たちま
)
ち
堕
(
お
)
ちると
覚悟
(
かくご
)
して
233
お
布施
(
ふせ
)
を
惜
(
を
)
しまず
出
(
だ
)
しなされ
234
アア
左様
(
さやう
)
なれば
左様
(
さやう
)
なれば
235
これからお
先
(
さき
)
へ
帰
(
かへ
)
ります
236
チンチンチンチン チンチンチン』
237
と
鈴
(
りん
)
を
打
(
う
)
ち
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
の
従者
(
じうしや
)
を
引率
(
ひきつ
)
れ
自分
(
じぶん
)
の
庵
(
いほり
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
238
一同
(
いちどう
)
は
漸
(
やうや
)
く
天葬式
(
てんさうしき
)
を
済
(
す
)
ませ、
239
再
(
ふたた
)
びワックスの
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
り、
240
種々
(
いろいろ
)
の
馳走
(
ちそう
)
を
惜気
(
をしげ
)
もなく
拵
(
こしら
)
へて
暴飲
(
ばういん
)
暴食
(
ばうしよく
)
にうつつを
抜
(
ぬ
)
かした。
241
ここに
又
(
また
)
一場
(
いちぢやう
)
の
大活劇
(
だいくわつげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられた。
242
それはスマートが
酒宴
(
しゆえん
)
の
最中
(
さいちう
)
に
跳
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
である。
243
(
大正一二・三・二六
旧二・一〇
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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