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第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
01 大山
〔1451〕
02 煽動
〔1452〕
03 野探
〔1453〕
04 妖子
〔1454〕
05 糞闘
〔1455〕
06 強印
〔1456〕
07 暗闇
〔1457〕
08 愚摺
〔1458〕
第2篇 顕幽両通
09 婆娑
〔1459〕
10 転香
〔1460〕
11 鳥逃し
〔1461〕
12 三狂
〔1462〕
13 悪酔怪
〔1463〕
14 人畜
〔1464〕
15 糸瓜
〔1465〕
16 犬労
〔1466〕
第3篇 天上天下
17 涼窓
〔1467〕
18 翼琴
〔1468〕
19 抱月
〔1469〕
20 犬闘
〔1470〕
21 言触
〔1471〕
22 天葬
〔1472〕
23 薬鑵
〔1473〕
24 空縛
〔1474〕
25 天声
〔1475〕
余白歌
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第七章
暗闇
(
くらがり
)
〔一四五七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第1篇 照門山颪
よみ(新仮名遣い):
てるもんざんおろし
章:
第7章 暗闇
よみ(新仮名遣い):
くらがり
通し章番号:
1457
口述日:
1923(大正12)年03月24日(旧02月8日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ワックスは猛犬スマートにくわえられて門外に運び出され、気も遠くなって夏草の上に身を横たえて呻いていた。
ビルマは月を誉め鼻歌を歌いながらやってきた。たちまち一天掻き曇り、大空は墨を流したごとくさっと月光を包んでしまった。
ビルマはこわごわと述懐を歌いながらふるえている。にわかに黒雲はぱっと晴れて月の光があたりを昼のように照らした。ビルマは足元の黒い影をうかがい、人間だと気が付いた。二つ三つゆするとワックスは気が付き、むくむくと起き上がった。
ワックスはビルマが助けてくれたことに礼を言った。そして、あの黒い犬が出て来たのは、三五教の魔法使いが館に忍び込んでいるに違いないと述べたてた。ワックスは腰がいたいのも我慢して、町民を扇動して館から三千彦を追い出さなければならない、とビルマをせきたてた。
ワックスは驢馬にまたがり、ビルマが太鼓や打ち鐘ではやしたて、夜中町内を触れ回った。瞬く間にに三百のあわて者たちが飛び出して、ワックスについて館に押し寄せた。
この物音に不審を起こした三千彦は、小国姫に病人を看護させて門外に出て来た。ワックスは群衆に下知すると、三千彦を捕えさせた。三千彦は縛られて、アンブラック川に投げ込まれてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5707
愛善世界社版:
91頁
八幡書店版:
第10輯 291頁
修補版:
校定版:
94頁
普及版:
43頁
初版:
ページ備考:
001
ワックスは
猛犬
(
まうけん
)
スマートに
銜
(
くは
)
へられ、
002
門
(
もん
)
の
外
(
そと
)
に
運
(
はこ
)
び
出
(
だ
)
され、
003
暫
(
しばら
)
くは
気
(
き
)
も
遠
(
とほ
)
くなり、
004
夏草
(
なつぐさ
)
の
上
(
うへ
)
に
身
(
み
)
を
横
(
よこ
)
たへて
唸
(
うめ
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
005
斯
(
かか
)
る
所
(
ところ
)
へビルマは
月
(
つき
)
を
賞
(
ほ
)
め
鼻唄
(
はなうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
らやつて
来
(
き
)
た。
006
忽
(
たちま
)
ち
一天
(
いつてん
)
掻
(
か
)
き
曇
(
くも
)
り、
007
大空
(
おほぞら
)
は
墨
(
すみ
)
を
流
(
なが
)
した
如
(
ごと
)
く、
008
サツと
月光
(
げつくわう
)
を
包
(
つつ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
009
ビルマ『
暗闇
(
くらがり
)
の
一滴
(
いつてき
)
が
010
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
との
間
(
あひだ
)
に
011
ぼつたりと
落
(
お
)
ちると
012
暗黒
(
あんこく
)
と
静寂
(
せいじやく
)
が
013
うろたへてやつて
来
(
く
)
る
014
○
015
ふくれ
上
(
あが
)
つた
暗闇
(
くらやみ
)
の
中
(
なか
)
に
016
甍
(
いらか
)
の
波
(
なみ
)
はどよみ
017
煙突
(
えんとつ
)
の
林
(
はやし
)
は
黙立
(
もくりつ
)
し
018
四方
(
よも
)
の
山脈
(
さんみやく
)
は
横臥
(
わうぐわ
)
し
019
万物
(
ばんぶつ
)
は
020
今
(
いま
)
し
021
暗灰色
(
あんくわいしよく
)
に
溶
(
と
)
けて
行
(
ゆ
)
く
022
○
023
暗闇
(
くらやみ
)
の
一
(
ひと
)
つの
壁
(
かべ
)
から
024
煤
(
すす
)
けた
025
赤
(
あか
)
らんだ
026
月
(
つき
)
が
027
顔
(
かほ
)
をしかめた
028
○
029
月
(
つき
)
はユララユララと
030
ゆらめきながら
031
険
(
けは
)
しい
雲
(
くも
)
の
坂路
(
さかみち
)
を
032
昇
(
のぼ
)
り
初
(
はじ
)
めた
033
○
034
しばし
035
やがて
036
悪魔
(
あくま
)
が
翼
(
つばさ
)
をひろげて
037
黒雲
(
くろくも
)
の
臥床
(
ふしど
)
に
038
月
(
つき
)
を
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めて
了
(
しま
)
ふと
039
暗闇
(
くらやみ
)
がぬけ
落
(
お
)
ちた
歯
(
は
)
の
間
(
あひだ
)
から
040
ゲラゲラと
笑
(
わら
)
うて
041
急
(
いそ
)
いで
地
(
ち
)
の
中
(
なか
)
へ
潜
(
もぐ
)
り
込
(
こ
)
んだ
042
○
043
翌
(
あく
)
る
朝
(
あさ
)
044
生温
(
なまぬる
)
い
雨
(
あめ
)
が
045
しよぼしよぼと
降
(
ふ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
046
○
047
月
(
つき
)
は
恐
(
おそ
)
ろし
雲間
(
くもま
)
に
隠
(
かく
)
れ
048
ワックス
司
(
つかさ
)
は
雲
(
くも
)
がくれ
049
黒
(
くろ
)
い
犬
(
いぬ
)
奴
(
め
)
が
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
て
050
ウウ、ワンワン
吠
(
ほ
)
へ
猛
(
たけ
)
る
051
ワツと
驚
(
おどろ
)
くワックスが
052
帯
(
おび
)
を
銜
(
くは
)
へてトントンと
053
門
(
もん
)
の
外
(
そと
)
へと
引
(
ひき
)
ずり
出
(
だ
)
した
054
その
怖
(
おそ
)
ろしい
権幕
(
けんまく
)
に
055
ビルマはビルビル
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
し
056
オークスさまは
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
す
057
睾丸
(
きんたま
)
潰
(
つぶ
)
したエルの
奴
(
やつ
)
058
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
隠
(
かく
)
れ
行
(
ゆ
)
く
059
さはさり
乍
(
なが
)
らデビスのお
姫
(
ひめ
)
さま
060
どこの
何処
(
いづこ
)
へ
雲
(
くも
)
がくれ
061
月雪花
(
つきゆきはな
)
にも
擬
(
まが
)
うよな
062
綺麗
(
きれい
)
な
綺麗
(
きれい
)
なお
顔立
(
かほだち
)
063
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
てさへ
顫
(
ふる
)
ひつく
064
雲
(
くも
)
がお
月
(
つき
)
を
隠
(
かく
)
すよに
065
いづこの
曲津
(
まがつ
)
がやつて
来
(
き
)
て
066
テルモン
館
(
やかた
)
の
蓮華花
(
れんげばな
)
067
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
したか
知
(
し
)
らねども
068
ワックスさまは
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
める
069
あれ
程
(
ほど
)
惚
(
ほ
)
れたお
姫
(
ひめ
)
さま
070
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
071
みちみち
彦
(
ひこ
)
に
攫
(
さら
)
はれて
072
指
(
ゆび
)
を
銜
(
くは
)
へてアングリと
073
嘸
(
さぞ
)
今
(
いま
)
頃
(
ごろ
)
は
草
(
くさ
)
の
露
(
つゆ
)
074
涙
(
なみだ
)
に
湿
(
しめ
)
る
事
(
こと
)
だらう
075
とは
云
(
い
)
ふものの
俺
(
おれ
)
だとて
076
木石
(
ぼくせき
)
ならぬ
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
だ
077
男
(
をとこ
)
と
生
(
うま
)
れて
来
(
き
)
たからは
078
あんなナイスと
一夜
(
いちや
)
の
枕
(
まくら
)
を
079
交
(
かは
)
してみたい
気
(
き
)
も
起
(
おこ
)
る
080
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
081
月下氷人
(
むすぶのかみ
)
の
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せ
082
姫
(
ひめ
)
の
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ね
出
(
だ
)
し
083
第一番
(
だいいちばん
)
の
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
084
やらねばならぬ
羽目
(
はめ
)
となり
085
弥々
(
いよいよ
)
館
(
やかた
)
を
抜
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
して
086
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
頼
(
たよ
)
りとし
087
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たものの
088
一寸先
(
いつすんさき
)
も
見
(
み
)
えわかぬ
089
真暗
(
まつくら
)
がりの
馬場道
(
ばんばみち
)
090
アイタタツタ
何者
(
なにもの
)
ぢや
091
嫌
(
いや
)
らしいものが
触
(
さは
)
つたぞ
092
これやこれや
其方
(
そち
)
は
化物
(
ばけもの
)
か
093
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
代物
(
しろもの
)
ぢや
094
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
095
こんな
所
(
ところ
)
に
化物
(
ばけもの
)
を
096
現
(
あら
)
はし
俺
(
おれ
)
の
肝玉
(
きもだま
)
を
097
取
(
と
)
らうとしても
駄目
(
だめ
)
だぞよ
098
ウンウンウンウンそれや
何
(
なん
)
だ
099
狐
(
きつね
)
か
狸
(
たぬき
)
か
狼
(
おほかみ
)
か
100
但
(
ただし
)
は
天狗
(
てんぐ
)
か
古狸
(
ふるだぬき
)
101
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
102
逃
(
に
)
げようと
云
(
い
)
つても
足許
(
あしもと
)
が
103
ハツキリ
分
(
わか
)
らぬ
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
104
この
怪物
(
くわいぶつ
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
105
度胸
(
どきよう
)
を
据
(
す
)
ゑて
調
(
しら
)
べよか
106
もしも
姫
(
ひめ
)
さまであつたなら
107
それこそ
思
(
おも
)
はぬ
儲
(
まう
)
けもの
108
アア
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
109
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
110
と
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
111
俄
(
にはか
)
に
黒雲
(
くろくも
)
はパツと
晴
(
は
)
れて
皎々
(
かうかう
)
たる
夏
(
なつ
)
の
月
(
つき
)
は
四辺
(
あたり
)
を
昼
(
ひる
)
の
如
(
ごと
)
く
照
(
てら
)
した。
112
草
(
くさ
)
に
置
(
お
)
く
露
(
つゆ
)
の
玉
(
たま
)
には
月光
(
げつくわう
)
宿
(
やど
)
り
瑠璃
(
るり
)
の
如
(
ごと
)
くに
光
(
ひか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
113
ビルマは
足許
(
あしもと
)
の
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
を
見
(
み
)
て
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
窺
(
うかが
)
へば
正
(
まさ
)
しく
人間
(
にんげん
)
の
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
である。
114
怖々
(
こはごは
)
ながら
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り『オーイオーイ』と
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
揺
(
ゆす
)
つて
見
(
み
)
た。
115
倒
(
たふ
)
れた
影
(
かげ
)
はムクムクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
りビルマの
顔
(
かほ
)
を
覗
(
のぞ
)
くやうにして
凝視
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
116
ビルマは
月
(
つき
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
うて
居
(
ゐ
)
たのでハツキリ
顔
(
かほ
)
が
分
(
わか
)
らなかつたが、
117
一方
(
いつぱう
)
の
顔
(
かほ
)
には
月光
(
げつくわう
)
を
受
(
う
)
けて
顔
(
かほ
)
の
生地
(
きぢ
)
迄
(
まで
)
分
(
わか
)
つてゐる。
118
ビルマ『ヤアお
前
(
まへ
)
はワックスぢやないか。
119
随分
(
ずいぶん
)
甚
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたものだなア。
120
どこともなしに
山犬
(
やまいぬ
)
がやつて
来
(
き
)
やがつてお
前
(
まへ
)
を
銜
(
くは
)
へて
出
(
で
)
た
時
(
とき
)
の
怖
(
おそ
)
ろしさ、
121
友達
(
ともだち
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
見捨
(
みす
)
てる
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
122
オークス、
123
エルの
奴
(
やつ
)
はビリビリ
慄
(
ふる
)
つて
居
(
ゐ
)
るなり、
124
剛胆
(
がうたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
此
(
この
)
ビルマが
助
(
たす
)
けようと
思
(
おも
)
うてやつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
、
125
お
前
(
まへ
)
に
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
り、
126
どうも
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
をした。
127
どうだ、
128
どこも
怪我
(
けが
)
は
無
(
な
)
かつたか』
129
ワックス『ウン
有難
(
ありがた
)
う、
130
よう
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
131
友達
(
ともだち
)
なればこそ
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れたのだなア。
132
山犬
(
やまいぬ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
俺
(
おれ
)
を
銜
(
くは
)
へ
込
(
こ
)
み、
133
最後
(
さいご
)
になつて
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
振
(
ふ
)
りやがつた
時
(
とき
)
には
目
(
め
)
がマクマクして
怖
(
こは
)
かつたよ。
134
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
親友
(
しんいう
)
なればこそお
前
(
まへ
)
が
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れたのだ。
135
この
儘
(
まま
)
放
(
ほ
)
つて
置
(
お
)
けば
俺
(
おれ
)
の
命
(
いのち
)
は
無
(
な
)
くなつたかも
知
(
し
)
れない。
136
アア
有難
(
ありがた
)
い、
137
お
礼
(
れい
)
申
(
まを
)
す、
138
屹度
(
きつと
)
俺
(
おれ
)
が
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
したならお
前
(
まへ
)
を
家令
(
かれい
)
にしてやるから
楽
(
たの
)
しんで
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
れ』
139
ビルマ『
何
(
なん
)
と
俄
(
にはか
)
に
雲行
(
くもゆき
)
が
変
(
かは
)
つたものですな。
140
いつも
私
(
わたし
)
を
門番
(
もんばん
)
門番
(
もんばん
)
と
呼
(
よ
)
び
付
(
つけ
)
になさいましたが、
141
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
親友
(
しんいう
)
だと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さつた。
142
アア
有難
(
ありがた
)
い、
143
幾久
(
いくひさ
)
しう
親友
(
しんいう
)
として
御
(
ご
)
交際
(
かうさい
)
願
(
ねが
)
ひますよ。
144
いつもなら
吾々
(
われわれ
)
を
塵埃
(
ちりあくた
)
の
如
(
ごと
)
く
振向
(
ふりむ
)
いても
下
(
くだ
)
さらぬのだが、
145
矢張
(
やつぱ
)
り
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み、
146
こんな
時
(
とき
)
に
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
うと
嬉
(
うれ
)
しいと
見
(
み
)
えますな。
147
併
(
しか
)
し
斯様
(
かやう
)
の
所
(
ところ
)
に
居
(
ゐ
)
ると
誰
(
たれ
)
に
見
(
み
)
つかるかも
分
(
わか
)
りませぬ。
148
サア
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
貴方
(
あなた
)
のお
館
(
やかた
)
迄
(
まで
)
送
(
おく
)
つて
上
(
あ
)
げませう』
149
ワックス『
家
(
いへ
)
へ
帰
(
かへ
)
る
所
(
どこ
)
か、
150
お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふかも
知
(
し
)
れぬが、
151
又
(
また
)
しても
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
が
館
(
やかた
)
の
中
(
なか
)
に
潜
(
もぐ
)
り
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
るやうだ。
152
さうでなければあの
犬
(
いぬ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
がない。
153
サア
是
(
これ
)
から、
154
人気
(
にんき
)
の
立
(
た
)
つたを
幸
(
さいは
)
ひ、
155
鉦
(
かね
)
や
太鼓
(
たいこ
)
を
叩
(
たた
)
いて
辻説法
(
つじせつぽふ
)
を
初
(
はじ
)
め、
156
あの
三千彦
(
みちひこ
)
を
門外
(
もんぐわい
)
に
誘
(
おび
)
き
出
(
だ
)
し、
157
やつつけねば
陰謀
(
いんぼう
)
露見
(
ろけん
)
して
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
が
飛
(
と
)
ぶかも
知
(
し
)
れぬ。
158
少
(
すこ
)
し
腰
(
こし
)
が
痛
(
いた
)
くとも
辛抱
(
しんばう
)
して
今晩
(
こんばん
)
は
大活動
(
だいくわつどう
)
をやるのだな。
159
アイタタツタ。
160
山犬
(
やまいぬ
)
の
奴
(
やつ
)
、
161
ひどくやつ
付
(
つ
)
けやがつた。
162
おい、
163
ビルマ、
164
何処
(
どこ
)
かで
驢馬
(
ろば
)
でも
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱり
)
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れ。
165
そして
鉦
(
かね
)
も
太鼓
(
たいこ
)
も
探
(
さが
)
して
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
い。
166
天
(
てん
)
へ
登
(
のぼ
)
るか
地獄
(
ぢごく
)
へ
堕
(
お
)
ちるかと
云
(
い
)
ふ
境目
(
さかひめ
)
だからな』
167
ビルマ『
三千彦
(
みちひこ
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
へ
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めて、
168
二人
(
ふたり
)
の
番卒
(
ばんそつ
)
がつけてある
上
(
うへ
)
は、
169
滅多
(
めつた
)
に
館
(
やかた
)
の
中
(
うち
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
がありますまい。
170
お
前
(
まへ
)
さま
山犬
(
やまいぬ
)
に
振
(
ふ
)
られて
気
(
き
)
が
狂
(
くる
)
うたのではありますまいか』
171
ワックス『エ、
172
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
173
その
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
が
狂
(
くる
)
ふものか、
174
サア
事
(
こと
)
遅
(
おく
)
れては
一大事
(
いちだいじ
)
だ、
175
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
176
と
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
てる、
177
ビルマは
一目散
(
いちもくさん
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
178
驢馬
(
ろば
)
に
跨
(
またが
)
り
一頭
(
いつとう
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ
来
(
きた
)
り、
179
ワックスを
助
(
たす
)
け
乗
(
の
)
せ、
180
自分
(
じぶん
)
は
豆太鼓
(
まめだいこ
)
や
摺鉦
(
すりがね
)
を
打
(
う
)
ち
鳴
(
な
)
らしながら、
181
宮町
(
みやまち
)
の
四辻
(
よつつじ
)
に
向
(
むか
)
つて
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
182
トントンチンチン トンチンチン
183
チントン チントン チントントン
184
と
夜中
(
よなか
)
に
飴屋
(
あめや
)
式
(
しき
)
に
囃
(
はや
)
し
立
(
た
)
てた。
185
杢平
(
もくべい
)
、
186
八平
(
はちべい
)
、
187
田吾作
(
たごさく
)
もこの
声
(
こゑ
)
に
夢
(
ゆめ
)
を
破
(
やぶ
)
られて
慌
(
あわ
)
てて
戸外
(
こぐわい
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
188
ワックスは
馬上
(
ばじやう
)
より
大声
(
おほごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ、
189
『ヤアヤア
宮町
(
みやまち
)
の
連中殿
(
れんちうどの
)
、
190
又
(
また
)
もや
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
がお
館
(
やかた
)
に
現
(
あら
)
はれた。
191
サア
戸毎
(
こごと
)
に
叩
(
たた
)
き
起
(
おこ
)
し
脛腰
(
すねこし
)
の
立
(
た
)
つものは
拙者
(
せつしや
)
に
従
(
したが
)
つて
館
(
やかた
)
の
表門
(
おもてもん
)
に
押
(
お
)
しかけられよ、
192
時
(
とき
)
後
(
おく
)
れては
一大事
(
いちだいじ
)
、
193
魔法使
(
まはふづかひ
)
が
先度
(
せんど
)
のやうに
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
194
終
(
しま
)
ひには
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
取
(
と
)
つて
仕舞
(
しま
)
ひますぞ。
195
悪魔
(
あくま
)
を
滅
(
ほろ
)
ぼすは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
』
196
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てた。
197
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へと
慌者
(
あわてもの
)
が
触
(
ふ
)
れ
歩
(
ある
)
き、
198
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
二三百
(
にさんびやく
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
が
四辻
(
よつつじ
)
に
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
た。
199
ビルマは
馬上
(
ばじやう
)
より、
200
ドンドコ ドンドコ ドコドコドン
201
チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
202
と
囃
(
はや
)
し
立
(
た
)
て
乍
(
なが
)
ら
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
つて
進
(
すす
)
む。
203
ワックスは
馬上
(
ばじやう
)
から
進軍
(
しんぐん
)
の
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
204
ワックス『
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
鬼
(
おに
)
が
出
(
で
)
た
205
テルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
206
小国別
(
をくにわけ
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
207
打
(
う
)
てよ
打
(
う
)
て
打
(
う
)
て
今
(
いま
)
打
(
う
)
てよ
208
館
(
やかた
)
の
大事
(
だいじ
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
209
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
の
難儀
(
なんぎ
)
だぞ
210
ドンドコ ドンドコ ドコドコドン
211
チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
212
各自
(
めいめい
)
家
(
いへ
)
の
重宝
(
ぢゆうはう
)
を
213
戸毎
(
こごと
)
に
盗
(
ぬす
)
んだ
泥坊
(
どろばう
)
も
214
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
215
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
と
云
(
い
)
ふ
鬼
(
おに
)
だ
216
殺
(
ころ
)
せよ
殺
(
ころ
)
せよ
打
(
う
)
ち
殺
(
ころ
)
せ
217
これを
見逃
(
みのが
)
し
置
(
お
)
いたなら
218
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
219
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
の
身
(
み
)
の
終
(
をは
)
り
220
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
るか
取
(
と
)
られるか
221
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
正念場
(
しやうねんば
)
222
ドンドコ ドンドコ ドコドコドン
223
チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン』
224
歌
(
うた
)
と
拍子
(
ひやうし
)
につれて
数多
(
あまた
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
月光
(
げつくわう
)
を
浴
(
あ
)
びながら
館
(
やかた
)
の
表門
(
おもてもん
)
指
(
さ
)
して
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せた。
225
この
物音
(
ものおと
)
に
小国姫
(
をくにひめ
)
、
226
三千彦
(
みちひこ
)
は
不審
(
ふしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
227
三千彦
(
みちひこ
)
は
小国姫
(
をくにひめ
)
に
病人
(
びやうにん
)
の
看護
(
かんご
)
をさせ
置
(
お
)
き、
228
自分
(
じぶん
)
は
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
門外
(
もんぐわい
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
229
ワックスは
三千彦
(
みちひこ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより、
230
ワックス『ヤアヤア
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
231
今
(
いま
)
其処
(
そこ
)
に
現
(
あら
)
はれた
奴
(
やつ
)
が
町民
(
ちやうみん
)
の
仇
(
あだ
)
、
232
大泥坊
(
おほどうばう
)
の
魔法使
(
まはふつかひ
)
だ、
233
それ
逃
(
に
)
がすな』
234
と
下知
(
げち
)
すれば、
235
何
(
なに
)
も
知
(
し
)
らぬ
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
蚯蚓
(
みみず
)
に
蟻
(
あり
)
が
集
(
あつ
)
まつたやうに
四方
(
しはう
)
から
木片
(
きぎれ
)
をもつて
打
(
う
)
ち
叩
(
たた
)
き、
236
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つてふん
縛
(
じば
)
り、
237
ワツシヨワツシヨと
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へてアンブラック
川
(
がは
)
の
水瀬
(
みなせ
)
にザンブと
許
(
ばか
)
り
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
238
アア
三千彦
(
みちひこ
)
の
運命
(
うんめい
)
はどうなるであらうか。
239
(
大正一二・三・二四
旧二・八
於伯耆皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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