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第66巻(巳の巻)
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第73巻(子の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第46巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 仕組の縺糸
01 榛並樹
〔1211〕
02 慰労会
〔1212〕
03 噛言
〔1213〕
04 沸騰
〔1214〕
05 菊の薫
〔1215〕
06 千代心
〔1216〕
07 妻難
〔1217〕
第2篇 狐運怪会
08 黒狐
〔1218〕
09 文明
〔1219〕
10 唖狐外れ
〔1220〕
11 変化神
〔1221〕
12 怪段
〔1222〕
13 通夜話
〔1223〕
第3篇 神明照赫
14 打合せ
〔1224〕
15 黎明
〔1225〕
16 想曖
〔1226〕
17 惟神の道
〔1227〕
18 エンゼル
〔1228〕
第4篇 謎の黄板
19 怪しの森
〔1229〕
20 金の力
〔1230〕
21 民の虎声
〔1231〕
22 五三嵐
〔1232〕
23 黄金華
〔1233〕
余白歌
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> 第2篇 狐運怪会 > 第10章 唖狐外れ
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第一〇章
唖狐
(
あご
)
外
(
はづ
)
れ〔一二二〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
篇:
第2篇 狐運怪会
よみ(新仮名遣い):
こうんかいかい
章:
第10章 唖狐外れ
よみ(新仮名遣い):
あごはずれ
通し章番号:
1220
口述日:
1922(大正11)年12月15日(旧10月27日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
魔我彦はお民に逃げられて悄然として坂道を下り、橋のたもとまで思わず進んできた。すると向こうから美しく衣服を着飾った女がやってくる。よく見ればそれはお民であった。
魔我彦は、お民が蠑螈別と駆け落ちしたことを責め立てた。お民は案に相違して魔我彦にしなだれかかった。そして、すべては魔我彦と一緒になるための計略で、蠑螈別を野中の森で殺し、隠し金二十万両をせしめたと語った。
魔我彦は有頂天になり、お民と一緒に小北山に戻ってきた。魔我彦は文助に、自分は二十万両の金と美人を今手に入れたところだと自慢していた。
お寅は外で妙な声がすると見てみると、魔我彦はポカンと口を開け、涎をたらしながら何かわけのわからないことをしゃべりたてていた。お寅がは魔我彦の顎を叩いて口を閉めると、やっと魔我彦は正気付いた。
魔我彦があたりを眺めると、お民はおらず、懐に入れた二十万両の影も形もなかった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-03-13 18:06:44
OBC :
rm4610
愛善世界社版:
133頁
八幡書店版:
第8輯 406頁
修補版:
校定版:
139頁
普及版:
54頁
初版:
ページ備考:
001
恋
(
こひ
)
にやつれし
魔我彦
(
まがひこ
)
は
002
昼狐
(
ひるぎつね
)
をば
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
した
003
やうな
間抜
(
まぬ
)
けた
面
(
つら
)
をして
004
ノソリノソリと
坂道
(
さかみち
)
を
005
下
(
くだ
)
つて
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
まで
006
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
007
時
(
とき
)
しもあれや
向
(
むか
)
ふより
008
云
(
い
)
ふに
云
(
い
)
はれぬ
美
(
うつく
)
しき
009
衣服
(
いふく
)
を
着飾
(
きかざ
)
り
濡
(
ぬ
)
れ
烏
(
がらす
)
010
欺
(
あざむ
)
くばかりの
黒髪
(
くろかみ
)
を
011
サツと
後
(
うしろ
)
に
垂
(
た
)
れ
流
(
なが
)
し
012
紫袴
(
むらさきばかま
)
を
穿
(
うが
)
ちつつ
013
紅葉
(
もみぢ
)
のついた
被衣
(
かづき
)
をば
014
サラリと
着流
(
きなが
)
しトボトボと
015
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
016
何人
(
なんぴと
)
なるか
知
(
し
)
らねども
017
どこともなしに
見覚
(
みおぼ
)
えの
018
ある
女
(
をんな
)
よと
佇
(
たたず
)
みて
019
口
(
くち
)
をポカンと
開
(
あ
)
けながら
020
指
(
ゆび
)
を
銜
(
くは
)
へて
眺
(
なが
)
め
居
(
ゐ
)
る
021
女
(
をんな
)
はやうやう
丸木橋
(
まるきばし
)
022
此方
(
こなた
)
に
渡
(
わた
)
つて
魔我彦
(
まがひこ
)
の
023
前
(
まへ
)
に
佇
(
たたず
)
みホヽヽヽと
024
やさしく
笑
(
わら
)
へば
魔我彦
(
まがひこ
)
は
025
夜分
(
やぶん
)
の
事
(
こと
)
なら
驚
(
おどろ
)
いて
026
逃
(
に
)
げる
処
(
ところ
)
をまだ
昼
(
ひる
)
の
027
最中
(
さいちう
)
なるを
幸
(
さいはひ
)
に
028
ビクとも
致
(
いた
)
さぬ
面構
(
つらがま
)
へ
029
よくよくすかし
眺
(
なが
)
むれば
030
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむや
恋慕
(
こひした
)
ふ
031
衣笠村
(
きぬがさむら
)
のお
民
(
たみ
)
さま
032
ハツと
驚
(
おどろ
)
き
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
033
魔我彦
『これこれもうしお
民
(
たみ
)
さま
034
お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
にひどい
人
(
ひと
)
035
蠑螈別
(
いもりわけ
)
と
手
(
て
)
をとつて
036
私
(
わたし
)
に
肱鉄
(
ひぢてつ
)
喰
(
く
)
はしおき
037
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
何処
(
どこ
)
となく
038
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
くとはあんまりだ
039
此処
(
ここ
)
で
会
(
あ
)
うたを
幸
(
さいは
)
ひに
040
怨
(
うら
)
みの
数々
(
かずかず
)
並
(
なら
)
べたて
041
何
(
ど
)
うしても
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらにや
042
お
前
(
まへ
)
を
抱
(
だ
)
いて
此
(
この
)
川
(
かは
)
へ
043
ザンブとばかり
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
044
あの
世
(
よ
)
とやらへ
行
(
ゆ
)
く
心算
(
つもり
)
045
お
返事
(
へんじ
)
如何
(
いかが
)
』とつめよれば
046
女
(
をんな
)
は
又
(
また
)
もやホヽヽヽと
047
いと
愉快気
(
ゆくわいげ
)
に
打笑
(
うちわら
)
ふ
048
はて
訝
(
いぶ
)
かしと
魔我彦
(
まがひこ
)
は
049
衝
(
つ
)
つ
立
(
た
)
ちよつて
細腕
(
ほそうで
)
を
050
グツと
握
(
にぎ
)
ればお
民
(
たみ
)
さま
051
山
(
やま
)
も
田地
(
でんち
)
も
家倉
(
いへくら
)
も
052
吸
(
す
)
ひ
込
(
こ
)
みさうな
靨
(
ゑくぼ
)
をば
053
両方
(
りやうはう
)
にポツと
現
(
あら
)
はして
054
腰
(
こし
)
つきさへもシナシナと
055
首
(
くび
)
をクネクネふりながら
056
しなだれかかる
嬉
(
うれ
)
しさよ
057
魔我彦
(
まがひこ
)
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
して
058
グツと
腰
(
こし
)
をば
抱
(
いだ
)
きしめ
059
魔我彦
『これこれもうしお
民
(
たみ
)
さま
060
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
は
知
(
し
)
らなんだ
061
何卒
(
どうぞ
)
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さんせ
062
私
(
わたし
)
も
嬉
(
うれ
)
しう
厶
(
ござ
)
ります
063
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
幻
(
まぼろし
)
か
064
夢
(
ゆめ
)
なら
夢
(
ゆめ
)
でよいけれど
065
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
醒
(
さ
)
めぬやうに
066
神
(
かみ
)
さま
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さんせ
067
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
068
さはさりながらお
民
(
たみ
)
さま
069
蠑螈別
(
いもりわけ
)
は
如何
(
どう
)
なつた
070
それが
一言
(
ひとこと
)
聞
(
き
)
きたい』と
071
詰
(
なじ
)
ればお
民
(
たみ
)
は
打笑
(
うちわら
)
ひ
072
お民
『
私
(
わたし
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまに
073
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
たやうに
074
見
(
み
)
せてゐたのも
只
(
ただ
)
一
(
ひと
)
つ
075
お
前
(
まへ
)
と
添
(
そ
)
ひたい
目的
(
もくてき
)
が
076
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
にあればこそ
077
蠑螈
(
いもり
)
さまをおだてあげ
078
昨夜
(
ゆうべ
)
の
暗
(
やみ
)
を
幸
(
さいは
)
ひに
079
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
へつれ
行
(
ゆ
)
きて
080
隠
(
かく
)
し
置
(
お
)
いたる
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
081
言葉
(
ことば
)
巧
(
たくみ
)
に
説
(
と
)
きつけて
082
薄野呂
(
うすのろ
)
さまを
説
(
と
)
き
落
(
おと
)
し
083
漸
(
やうや
)
く
目的
(
もくてき
)
相達
(
あひたつ
)
し
084
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
のお
金
(
かね
)
をば
085
これ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
懐
(
ふところ
)
へ
086
入
(
い
)
れてスゴスゴ
帰
(
かへ
)
りました
087
もう
之
(
これ
)
からは
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
088
小北
(
こぎた
)
の
山
(
やま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
で
089
お
前
(
まへ
)
は
教主
(
けうしゆ
)
私
(
わし
)
は
妻
(
つま
)
090
これだけ
金
(
かね
)
があつたなら
091
末代
(
まつだい
)
さまも
上義姫
(
じやうぎひめ
)
も
092
おつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
して
小北山
(
こぎたやま
)
093
主権
(
しゆけん
)
を
握
(
にぎ
)
る
其
(
その
)
準備
(
じゆんび
)
094
サアサア
之
(
これ
)
から
致
(
いた
)
しませう
095
金
(
かね
)
が
敵
(
かたき
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
096
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
は
云
(
い
)
ふけれど
097
お
金
(
かね
)
は
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
味方
(
みかた
)
ぞや
098
金
(
かね
)
さえあらば
何事
(
なにごと
)
も
099
成就
(
じやうじゆ
)
せない
事
(
こと
)
はない
100
どんな
阿呆
(
あはう
)
な
男
(
をとこ
)
でも
101
賢
(
かしこ
)
う
見
(
み
)
えるは
金
(
かね
)
の
徳
(
とく
)
102
一文
(
いちもん
)
生中
(
きなか
)
恵
(
めぐ
)
まない
103
人
(
ひと
)
にも
旦那
(
だんな
)
さま
旦那
(
だんな
)
さまと
104
持
(
も
)
て
囃
(
はや
)
されて
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
105
我物顔
(
わがものがほ
)
に
渡
(
わた
)
り
行
(
ゆ
)
く
106
こんな
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
はない
107
魔我彦
(
まがひこ
)
さまよ
私
(
わたくし
)
の
108
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
が
分
(
わか
)
つたか
109
何卒
(
どうぞ
)
仲
(
なか
)
よう
末永
(
すえなが
)
う
110
私
(
わたし
)
を
妻
(
つま
)
と
慈
(
いつく
)
しみ
111
添
(
そ
)
ひ
遂
(
と
)
げなさつて
下
(
くだ
)
さんせ』
112
云
(
い
)
へば
魔我彦
(
まがひこ
)
ビツクリし
113
恋
(
こひ
)
しき
女
(
をんな
)
と
合衾
(
がふきん
)
の
114
式
(
しき
)
まで
挙
(
あ
)
げて
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
115
生
(
うま
)
れて
此
(
この
)
方
(
かた
)
目
(
め
)
に
触
(
ふ
)
れた
116
事
(
こと
)
もない
様
(
やう
)
な
大金
(
たいきん
)
を
117
持参金
(
ぢさんきん
)
とは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
118
併
(
しか
)
し
心
(
こころ
)
にかかるのは
119
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
事
(
こと
)
である
120
魔我彦
(
まがひこ
)
言葉
(
ことば
)
を
改
(
あらた
)
めて
121
魔我彦
『それは
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
だ
122
併
(
しか
)
し
一
(
ひと
)
つの
心配
(
しんぱい
)
が
123
二人
(
ふたり
)
の
仲
(
なか
)
に
横
(
よこ
)
たはり
124
至幸
(
しかう
)
至福
(
しふく
)
の
妨
(
さまた
)
げを
125
するやうに
思
(
おも
)
へて
仕様
(
しやう
)
がない
126
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
があるまいか
127
蠑螈別
(
いもりわけ
)
がヒヨツとして
128
この
場
(
ば
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たなれば
129
俺
(
おれ
)
とお
前
(
まへ
)
は
如何
(
どう
)
しようぞ
130
これが
第一
(
だいいち
)
気
(
き
)
にかかる
131
如何
(
いか
)
にせむか』と
尋
(
たづ
)
ぬれば
132
お
民
(
たみ
)
はホヽヽと
打笑
(
うちわら
)
ひ
133
お民
『
必
(
かなら
)
ず
心配
(
しんぱい
)
なさるなや
134
こんな
謀反
(
むほん
)
を
起
(
おこ
)
す
私
(
わし
)
135
何処
(
どこ
)
に
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
があるものか
136
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
で
睾丸
(
きんたま
)
を
137
しめて
国替
(
くにがへ
)
さして
置
(
お
)
いた
138
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
139
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
夫婦
(
ふうふ
)
ぞや
140
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
小北山
(
こぎたやま
)
141
教主
(
けうしゆ
)
の
館
(
やかた
)
へ
堂々
(
だうだう
)
と
142
夫婦
(
ふうふ
)
が
手
(
て
)
に
手
(
て
)
をとり
交
(
か
)
はし
143
これ
見
(
み
)
よがしに
大勢
(
おほぜい
)
の
144
中
(
なか
)
をドシドシ
行
(
ゆ
)
きませう
145
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまもさぞやさぞ
146
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わたし
)
の
肝玉
(
きもだま
)
に
147
ビツクリなさる
事
(
こと
)
だらう
148
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
149
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
夫婦
(
めをと
)
連
(
づ
)
れ
150
金
(
かね
)
がとりもつ
縁
(
えん
)
かいな
151
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
152
もしゴテゴテと
云
(
い
)
うたなら
153
此
(
この
)
大金
(
たいきん
)
を
見
(
み
)
せつけて
154
荒肝
(
あらぎも
)
とつてやろぢやないか
155
魔我彦
(
まがひこ
)
さまよ
心
(
こころ
)
をば
156
丈夫
(
ぢやうぶ
)
にもつて
下
(
くだ
)
さんせ
157
私
(
わたし
)
もお
前
(
まへ
)
と
添
(
そ
)
ふのなら
158
此
(
この
)
大金
(
たいきん
)
は
要
(
い
)
りませぬ
159
皆
(
みんな
)
貴方
(
あなた
)
の
懐
(
ふところ
)
に
160
預
(
あづ
)
けておきます
改
(
あらた
)
めて
161
何卒
(
どうぞ
)
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
されや』
162
語
(
かた
)
れば
魔我彦
(
まがひこ
)
喜
(
よろこ
)
びて
163
涎
(
よだれ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
しつつ
164
開
(
あ
)
けたる
口
(
くち
)
も
塞
(
ふさ
)
がずに
165
お
民
(
たみ
)
の
後
(
あと
)
に
引添
(
ひきそ
)
うて
166
嶮
(
けは
)
しい
坂
(
さか
)
をエチエチと
167
肩
(
かた
)
で
風
(
かぜ
)
きり
嬉
(
うれ
)
しげに
168
館
(
やかた
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
169
其
(
その
)
スタイルの
可笑
(
をか
)
しさよ
170
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
と
魔我彦
(
まがひこ
)
は
171
嶮
(
けは
)
しき
坂
(
さか
)
を
攀
(
よ
)
ぢ
登
(
のぼ
)
り
172
受付前
(
うけつけまへ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
173
文助
(
ぶんすけ
)
さまとつき
当
(
あた
)
り
174
文助
『オツトドツコイ、アイタツタ
175
魔我彦
(
まがひこ
)
さまぢやありませぬか
176
貴方
(
あなた
)
は
何処
(
いづこ
)
へ
雲隠
(
くもがく
)
れ
177
なさつて
厶
(
ござ
)
つたか
知
(
し
)
らねども
178
此
(
この
)
大広前
(
おほひろまへ
)
は
大騒動
(
おほさうどう
)
179
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
へと
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
び
180
怒
(
いか
)
りつ
猛
(
たけ
)
びつ
修羅道
(
しゆらだう
)
の
181
大惨劇
(
だいさんげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられ
182
信者
(
しんじや
)
の
信仰
(
しんかう
)
がぐらついて
183
危
(
あやふ
)
き
事
(
こと
)
になつてゐる
184
お
前
(
まへ
)
はそれをも
知
(
し
)
らずして
185
お
民
(
たみ
)
の
後
(
あと
)
をつけ
狙
(
ねら
)
ひ
186
何
(
なに
)
をグヅグヅして
厶
(
ござ
)
る
187
気
(
き
)
をつけなされ』と
窘
(
たしな
)
めば
188
魔我彦
(
まがひこ
)
鼻
(
はな
)
を
蠢
(
うごめ
)
かし
189
魔我彦
『お
前
(
まへ
)
は
盲
(
めくら
)
で
分
(
わか
)
らねど
190
私
(
わたし
)
は
目出度
(
めでた
)
い
事
(
こと
)
だつた
191
お
目
(
め
)
にかけたうてならないが
192
生憎
(
あいにく
)
お
前
(
まへ
)
に
目
(
め
)
がないで
193
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
仕様
(
しやう
)
がない
194
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
のお
金
(
かね
)
をば
195
首尾
(
しゆび
)
よく
私
(
わたし
)
の
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
196
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
美人
(
びじん
)
をば
197
女房
(
にようばう
)
にきめて
揚々
(
やうやう
)
と
198
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ました
所
(
とこ
)
ですよ
199
世界
(
せかい
)
に
並
(
なら
)
ぶものもなき
200
幸福者
(
しあはせもの
)
とは
俺
(
わし
)
の
事
(
こと
)
201
明日
(
あした
)
に
屹度
(
きつと
)
お
祝
(
いはひ
)
を
202
致
(
いた
)
してお
目
(
め
)
にかけるから
203
お
前
(
まへ
)
も
楽
(
たのし
)
み
待
(
ま
)
つがよい
204
女
(
をんな
)
の
好
(
この
)
む
男
(
をとこ
)
とは
205
決
(
けつ
)
して
美
(
うつく
)
しいものでない
206
気前
(
きまへ
)
と
根性
(
こんじやう
)
がシヤンとして
207
居
(
を
)
りさへすれば
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
208
自分
(
じぶん
)
の
思
(
おも
)
ふ
存分
(
ぞんぶん
)
の
209
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
たして
下
(
くだ
)
さるよ
210
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わたし
)
を
平生
(
へいぜ
)
から
211
曲
(
まが
)
つた
男
(
をとこ
)
と
見縊
(
みくび
)
つて
212
フヽンと
笑
(
わら
)
ふ
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
213
随分
(
ずゐぶん
)
むかつきよつたけど
214
もうかうならば
神直日
(
かむなほひ
)
215
大直日
(
おほなほひ
)
にと
見直
(
みなほ
)
して
216
お
民
(
たみ
)
を
女房
(
にようばう
)
に
貰
(
もら
)
うたる
217
其
(
その
)
お
祝
(
いはひ
)
に
帳消
(
ちやうけ
)
しだ
218
俺
(
おれ
)
の
器量
(
きりやう
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
219
サアサアこれから
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
て
220
内事司
(
ないじつかさ
)
のお
寅
(
とら
)
さまに
221
羨
(
けな
)
りがらしてやりませう
222
これこれ
吾
(
わが
)
妻
(
つま
)
お
民
(
たみ
)
どの
223
早
(
はや
)
く
魔我彦
(
まがひこ
)
後
(
あと
)
につき
224
トツトとお
入
(
はい
)
りなされませ
225
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまが
嘸
(
さぞ
)
や
嘸
(
さぞ
)
226
驚
(
おどろ
)
き
喜
(
よろこ
)
ぶ
事
(
こと
)
でせう
227
私
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
から
大教主
(
だいけうしゆ
)
228
お
民
(
たみ
)
は
一躍
(
いちやく
)
奥
(
おく
)
さまで
229
羽振
(
はぶ
)
りを
利
(
き
)
かし
飛
(
た
)
つ
鳥
(
とり
)
も
230
落
(
おと
)
さむばかりの
勢
(
いきほひ
)
で
231
ウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
おん
)
道
(
みち
)
を
232
残
(
のこ
)
る
隈
(
くま
)
なく
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
233
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
さうぢやないかいな
234
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
235
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
236
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
237
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
238
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
239
魔我彦
(
まがひこ
)
さまとお
民
(
たみ
)
さまは
240
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
変
(
かは
)
らない
241
金勝要
(
きんかつかね
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
242
結
(
むす
)
び
給
(
たま
)
ひし
縁
(
えん
)
ぢやもの
243
如何
(
どう
)
してこれが
変
(
かは
)
らうか
244
もしも
中途
(
ちうと
)
で
変
(
かは
)
るやうな
245
悪
(
わる
)
い
行
(
おこな
)
ひあつた
時
(
とき
)
や
246
忽
(
たちま
)
ち
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれて
247
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
248
お
罰
(
ばつ
)
の
当
(
あた
)
るは
知
(
し
)
れた
事
(
こと
)
249
これこれもうしお
民
(
たみ
)
さま
250
此
(
この
)
事
(
こと
)
ばかしは
心得
(
こころえ
)
て
251
何卒
(
どうぞ
)
忘
(
わす
)
れて
下
(
くだ
)
さるな
252
ほんに
嬉
(
うれ
)
しい
有難
(
ありがた
)
い
253
小北
(
こぎた
)
の
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
254
信神
(
しんじん
)
してゐたお
蔭
(
かげ
)
にて
255
夢
(
ゆめ
)
にも
見
(
み
)
ぬやうなボロイ
事
(
こと
)
256
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
降
(
ふ
)
つて
来
(
き
)
たのだよ
257
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
258
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
259
お
寅
(
とら
)
は
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がするなと
思
(
おも
)
ひ
門口
(
かどぐち
)
をガラリと
開
(
あ
)
け、
260
外面
(
そとも
)
を
見
(
み
)
れば
魔我彦
(
まがひこ
)
が
真蒼
(
まつさを
)
の
顔
(
かほ
)
をし、
261
顔
(
かほ
)
に
黒
(
くろ
)
いもんを
処斑
(
ところまんだら
)
に
塗
(
ぬ
)
りつけられ、
262
ポカンと
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
け、
263
唖
(
おし
)
の
様
(
やう
)
に
涎
(
よだれ
)
を
垂
(
た
)
らし「アーアー」と
何
(
なに
)
か
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
つてる。
264
お
寅
(
とら
)
『これ
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
265
何
(
なん
)
だい、
266
みつともない、
267
其
(
その
)
顔
(
かほ
)
は、
268
男
(
をとこ
)
がさう
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けるものぢやない、
269
大方
(
おほかた
)
顎
(
あご
)
が
外
(
はづ
)
れたのだなア』
270
魔我彦
(
まがひこ
)
は
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けたまま、
271
魔我彦
『アーア、
272
アヽヽヽヽ』
273
と
足拍子
(
あしびやうし
)
をとり
同
(
おな
)
じ
処
(
ところ
)
を
踏
(
ふ
)
んでゐる。
274
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
アさまはポーンと
魔我彦
(
まがひこ
)
の
顎
(
あご
)
を
叩
(
たた
)
いた。
275
その
拍子
(
ひやうし
)
にカツと
音
(
おと
)
がして
外
(
はづ
)
れた
顎
(
あご
)
が
都合
(
つがふ
)
よく
元
(
もと
)
の
位置
(
ゐち
)
に
納
(
をさ
)
まつた。
276
魔我
(
まが
)
『アイタツタ、
277
誰
(
たれ
)
だい、
278
人
(
ひと
)
の
顔
(
かほ
)
を
叩
(
たた
)
く
奴
(
やつ
)
は、
279
ハヽア、
280
お
民
(
たみ
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつたのが
羨
(
けな
)
りいのだな』
281
お
寅
(
とら
)
『これ
魔我
(
まが
)
さま、
282
お
民
(
たみ
)
も
何
(
なに
)
も
居
(
ゐ
)
やせぬぢやないか。
283
みつともない、
284
阿呆
(
あはう
)
の
様
(
やう
)
に
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けて、
285
何
(
なに
)
をしてるのだい。
286
口
(
くち
)
に
土
(
つち
)
を
一杯
(
いつぱい
)
頬張
(
ほほば
)
つて、
287
困
(
こま
)
つた
男
(
をとこ
)
だな』
288
魔我彦
(
まがひこ
)
は
初
(
はじ
)
めて
気
(
き
)
がつき
其処辺
(
そこら
)
を
眺
(
なが
)
むれば、
289
お
民
(
たみ
)
らしきものもなく、
290
懐
(
ふところ
)
に
入
(
い
)
れた
二十万
(
にじふまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
は
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もなくなつてゐた。
291
(
大正一一・一二・一五
旧一〇・二七
北村隆光
録)
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