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第46巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 仕組の縺糸
01 榛並樹
〔1211〕
02 慰労会
〔1212〕
03 噛言
〔1213〕
04 沸騰
〔1214〕
05 菊の薫
〔1215〕
06 千代心
〔1216〕
07 妻難
〔1217〕
第2篇 狐運怪会
08 黒狐
〔1218〕
09 文明
〔1219〕
10 唖狐外れ
〔1220〕
11 変化神
〔1221〕
12 怪段
〔1222〕
13 通夜話
〔1223〕
第3篇 神明照赫
14 打合せ
〔1224〕
15 黎明
〔1225〕
16 想曖
〔1226〕
17 惟神の道
〔1227〕
18 エンゼル
〔1228〕
第4篇 謎の黄板
19 怪しの森
〔1229〕
20 金の力
〔1230〕
21 民の虎声
〔1231〕
22 五三嵐
〔1232〕
23 黄金華
〔1233〕
余白歌
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第一九章
怪
(
あや
)
しの
森
(
もり
)
〔一二二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
篇:
第4篇 謎の黄板
よみ(新仮名遣い):
なぞのおうばん
章:
第19章 怪しの森
よみ(新仮名遣い):
あやしのもり
通し章番号:
1229
口述日:
1922(大正11)年12月16日(旧10月28日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月25日
概要:
舞台:
怪志の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
小北山には松姫、魔我彦、お菊、お千代、文助らをはじめとして役員信者が三五の誠の教えを守り、天国の福音を説き諭されて歓喜法悦の涙にくれていた。一方お寅を加えた松彦一行七人は、河鹿川の橋を渡って浮木の森を指して進んで行った。
話は少し戻る。浮木の森の手前に小さな森があり、怪しの森と言われていて絶えず不思議があり恐れられている。そこで追っ手から逃げる時にはこの森に逃げ込むと、もう追及されないのが例となっていた。
この森の入り口は河鹿峠の本道と間道が分かれるところであり、そこに四五人のバラモン教の荒男が目付として張り込んでいた。夜の闇の中、一同はこの近くのウラナイ教は最近勢いが盛んで、自分たちがひどい目にあわされた三五教でさえも近寄れないと噂をしている。
そこへ一人の女が走ってくるのが見えた。それは蠑螈別と駆け落ちして逃げてくるお民であった。男たちはバラモン軍の目付だとお民の前に立ちはだかるが、お民は男たちを馬鹿にして取り合わない。
無理矢理通ろうとするお民に、バラモン軍の男たちは飛び掛かるが、お民は柔術の手で投げつけて格闘を始める。そこへ一人の男が走ってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-03-18 20:03:10
OBC :
rm4619
愛善世界社版:
239頁
八幡書店版:
第8輯 444頁
修補版:
校定版:
251頁
普及版:
98頁
初版:
ページ備考:
001
小北
(
こぎた
)
の
山
(
やま
)
を
包
(
つつ
)
みたる
002
醜
(
しこ
)
の
八重雲
(
やへくも
)
隈
(
くま
)
もなく
003
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひたる
時津風
(
ときつかぜ
)
004
斎苑
(
いそ
)
の
神風
(
かみかぜ
)
しとやかに
005
世人
(
よびと
)
の
心
(
こころ
)
に
積
(
つも
)
りたる
006
塵
(
ちり
)
や
芥
(
あくた
)
を
払
(
はら
)
ひつつ
007
平和
(
へいわ
)
の
花園
(
はなぞの
)
忽
(
たちま
)
ちに
008
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
に
開
(
ひら
)
けけり
009
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
010
八十
(
やそ
)
の
曲津
(
まがつ
)
の
醜魂
(
しこたま
)
に
011
とらはれ
苦
(
くる
)
しむ
枉人
(
まがびと
)
も
012
漸
(
やうや
)
く
眠
(
ねむ
)
りの
夢
(
ゆめ
)
覚
(
さ
)
めて
013
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまを
始
(
はじ
)
めとし
014
魔我彦
(
まがひこ
)
、
文助
(
ぶんすけ
)
其
(
その
)
他
(
ほか
)
の
015
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
や
信徒
(
まめひと
)
は
016
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
恩恵
(
おんけい
)
を
017
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
摂受
(
せつじゆ
)
して
018
勇
(
いさ
)
みの
声
(
こゑ
)
は
天
(
てん
)
に
充
(
み
)
ち
019
地上
(
ちじやう
)
も
揺
(
ゆる
)
ぐばかりなり
020
三五教
(
あななひけう
)
に
仕
(
つか
)
へたる
021
松彦司
(
まつひこつかさ
)
を
始
(
はじ
)
めとし
022
五三公
(
いそこう
)
、
万公
(
まんこう
)
其
(
その
)
他
(
ほか
)
の
023
清
(
きよ
)
き
司
(
つかさ
)
は
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
め
024
心
(
こころ
)
を
浄
(
きよ
)
め
天地
(
あめつち
)
の
025
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
と
祀
(
まつ
)
り
替
(
か
)
へ
026
以前
(
いぜん
)
の
神
(
かみ
)
を
一所
(
ひととこ
)
へ
027
斎
(
いは
)
ひをさめて
一同
(
いちどう
)
に
028
嬉
(
うれ
)
しき
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げながら
029
館
(
やかた
)
を
後
(
あと
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
030
歌
(
うた
)
ひ
歌
(
うた
)
ひて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
031
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまは
松彦
(
まつひこ
)
の
032
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
033
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
に
救
(
すく
)
はれぬ
034
悪魔
(
あくま
)
の
虜
(
とりこ
)
となり
果
(
は
)
てし
035
蠑螈別
(
いもりわけ
)
やお
民
(
たみ
)
をば
036
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
誘
(
いざな
)
ひて
037
眼
(
まなこ
)
を
覚
(
さ
)
まし
救
(
すく
)
はねば
038
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
に
相対
(
あひたい
)
し
039
何
(
なん
)
の
弁解
(
べんかい
)
あるべきか
040
何処
(
いづく
)
までもと
追
(
お
)
ひ
行
(
ゆ
)
きて
041
是非
(
ぜひ
)
とも
真理
(
しんり
)
を
伝
(
つた
)
へむと
042
松彦
(
まつひこ
)
一行
(
いつかう
)
に
従
(
したが
)
ひて
043
老躯
(
らうく
)
をひつさげスタスタと
044
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くこそ
健気
(
けなげ
)
なれ。
045
小北山
(
こぎたやま
)
には
松姫
(
まつひめ
)
、
046
魔我彦
(
まがひこ
)
、
047
お
菊
(
きく
)
、
048
お
千代
(
ちよ
)
が
重
(
おも
)
なる
神柱
(
かむばしら
)
となり、
049
文助
(
ぶんすけ
)
は
依然
(
いぜん
)
として
受付
(
うけつけ
)
を
忠実
(
ちうじつ
)
につとめ、
050
其
(
その
)
他
(
ほか
)
百
(
もも
)
の
役員
(
やくゐん
)
信者
(
しんじや
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
三五
(
あななひ
)
の
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
し、
051
天国
(
てんごく
)
の
福音
(
ふくいん
)
を
詳
(
つぶ
)
さに
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
され
歓喜
(
くわんき
)
法悦
(
はふえつ
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれて
居
(
ゐ
)
た。
052
一方
(
いつぱう
)
松彦
(
まつひこ
)
一行
(
いつかう
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
は
小北山
(
こぎたやま
)
の
神殿
(
しんでん
)
を
伏拝
(
ふしをが
)
み、
053
河鹿川
(
かじかがは
)
の
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
つて
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
をさして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
054
話
(
はなし
)
は
後
(
あと
)
へ
戻
(
もど
)
る。
055
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
の
三
(
さん
)
里
(
り
)
ばかり
手前
(
てまへ
)
に
一寸
(
ちよつと
)
した
小
(
ちひ
)
さき
森
(
もり
)
がある。
056
ここは
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
本街道
(
ほんかいだう
)
と
間道
(
かんだう
)
との
別
(
わか
)
れ
道
(
みち
)
である。
057
治国別
(
はるくにわけ
)
、
058
松彦
(
まつひこ
)
が
通過
(
つうくわ
)
したのは、
059
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
から
近道
(
ちかみち
)
を
選
(
えら
)
んで
間道
(
かんだう
)
を
来
(
き
)
たものであつた。
060
此
(
この
)
森
(
もり
)
は
怪
(
あや
)
しの
森
(
もり
)
と
云
(
い
)
つて
絶
(
た
)
えず
不思議
(
ふしぎ
)
があると
伝
(
つた
)
へられてゐた。
061
此
(
この
)
森
(
もり
)
へ
入
(
はい
)
つたものは
到底
(
たうてい
)
無事
(
ぶじ
)
で
帰
(
かへ
)
れないと
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
062
それだから
追手
(
おつて
)
に
出会
(
であ
)
つた
時
(
とき
)
等
(
など
)
は、
063
必
(
かなら
)
ず
此
(
この
)
森
(
もり
)
へ
隠
(
かく
)
れさへすれば
追手
(
おつて
)
も
大抵
(
たいてい
)
の
時
(
とき
)
は
追及
(
つゐきふ
)
せないのが
例
(
れい
)
となつてゐる。
064
故
(
ゆゑ
)
に
一名
(
いちめい
)
難除
(
なんよ
)
けの
森
(
もり
)
とも
称
(
とな
)
へられてゐた。
065
此
(
この
)
森
(
もり
)
の
入口
(
いりぐち
)
、
066
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
本道
(
ほんだう
)
、
067
間道
(
かんだう
)
と
分
(
わか
)
れてゐる
辻
(
つじ
)
の
角
(
かど
)
に
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
がバラモン
教
(
けう
)
の
目附
(
めつけ
)
と
見
(
み
)
えて
車座
(
くるまざ
)
となつて
退屈
(
たいくつ
)
ざましに
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐた。
068
コー『おい、
069
ワク、
070
此
(
この
)
寒
(
さむ
)
いのに
火
(
ひ
)
も
焚
(
た
)
かず、
071
昼
(
ひる
)
となく
夜
(
よ
)
となく、
072
こんな
道
(
みち
)
へ
辻地蔵
(
つじぢざう
)
の
代用
(
だいよう
)
を
仰
(
おほ
)
せ
付
(
つ
)
けられて
居
(
を
)
つてもつまらぬものだな』
073
ワク『
一体
(
いつたい
)
此
(
この
)
戦
(
いくさ
)
は
如何
(
どう
)
なるだらうかな』
074
コー
『どうなるつて、
075
勝敗
(
しようはい
)
の
数
(
すう
)
は
正
(
まさ
)
に
歴然
(
れきぜん
)
たるものだ。
076
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せず、
077
窮鼠
(
きうそ
)
猫
(
ねこ
)
を
噛
(
か
)
むと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるだらう。
078
衆
(
しう
)
は
所謂
(
いはゆる
)
寡
(
くわ
)
に
敵
(
てき
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのだ。
079
愈
(
いよいよ
)
となれば
鼠
(
ねずみ
)
が
猫
(
ねこ
)
を
噛
(
か
)
むやうなものだ。
080
愈
(
いよいよ
)
真剣
(
しんけん
)
となつた
時
(
とき
)
にや、
081
どうしても
小人数
(
こにんず
)
の
方
(
はう
)
が
心
(
こころ
)
が
一致
(
いつち
)
して
大勝利
(
だいしようり
)
を
得
(
う
)
るものだよ』
082
ワク
『それだつて
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せずとは
多勢
(
たぜい
)
と
一人
(
ひとり
)
とは
敵
(
かな
)
はぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
083
多勢
(
たぜい
)
と
小人数
(
こにんず
)
とは
数
(
かず
)
に
於
(
おい
)
て
益
(
えき
)
に
於
(
おい
)
て、
084
凡
(
すべ
)
ての
点
(
てん
)
に
於
(
おい
)
て
敵
(
かな
)
はないものだ。
085
強
(
つよ
)
いものが
勝
(
か
)
ち、
086
弱
(
よわ
)
いものは
負
(
ま
)
けるのは
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
だ。
087
それだから
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せずと
云
(
い
)
ふのだ。
088
貴様
(
きさま
)
の
解釈
(
かいしやく
)
は
矛盾
(
むじゆん
)
してるぢやないか』
089
コー
『
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せずと
云
(
い
)
ふのは
衆
(
しう
)
が
寡
(
くわ
)
に
敵
(
てき
)
せずと
云
(
い
)
ふのだ。
090
寡
(
くわ
)
が
衆
(
しう
)
に
敵
(
てき
)
せぬ
時
(
とき
)
は
寡衆
(
くわしう
)
に
敵
(
てき
)
せずと
云
(
い
)
ふのだ。
091
然
(
しか
)
しあまり
寡衆
(
くわしう
)
に
敵
(
てき
)
せずと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
がない。
092
其
(
その
)
証拠
(
しようこ
)
には
河鹿山
(
かじかやま
)
の
戦
(
たたか
)
ひを
考
(
かんが
)
へても
分
(
わか
)
るぢやないか。
093
敵
(
てき
)
は
僅
(
わづか
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
、
094
而
(
しか
)
も
武器
(
ぶき
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ない
敵
(
てき
)
に
対
(
たい
)
し、
095
数百
(
すうひやく
)
の
勇士
(
ゆうし
)
が
脆
(
もろ
)
くも
潰走
(
くわいそう
)
したぢやないか。
096
之
(
これ
)
が
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せずの
実例
(
じつれい
)
だ』
097
エム『
時
(
とき
)
に
兄弟
(
きやうだい
)
、
098
小北山
(
こぎたやま
)
にはウラナイ
教
(
けう
)
とか
云
(
い
)
つて
大変
(
たいへん
)
な
信者
(
しんじや
)
が
集
(
あつ
)
まつてゐると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
099
こんな
衛兵
(
ゑいへい
)
の
役
(
やく
)
さへなければ、
100
一遍
(
いつぺん
)
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
をやつてゐるか
研究
(
けんきう
)
のため
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
たいものだな』
101
コー『
随分
(
ずゐぶん
)
沢山
(
たくさん
)
の
女
(
をんな
)
がゐるさうだ。
102
浮木
(
うきき
)
の
里
(
さと
)
の
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
は
大方
(
おほかた
)
あの
小北山
(
こぎたやま
)
とかへ
避難
(
ひなん
)
してるさうだ。
103
然
(
しか
)
し、
104
あこへ
行
(
い
)
つたものを
奪
(
うば
)
つて
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ないさうだ。
105
何
(
なん
)
でも
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
術
(
じゆつ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
106
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
でさへも
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ないと
云
(
い
)
ふ
勢
(
いきほひ
)
だからな』
107
エム『さうすると、
108
余程
(
よほど
)
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
が
居
(
ゐ
)
ると
見
(
み
)
えるな。
109
吾々
(
われわれ
)
の
大将
(
たいしやう
)
は
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
弟子
(
でし
)
の
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
三四
(
さんよ
)
人
(
にん
)
に
脆
(
もろ
)
くも
敗走
(
はいそう
)
したのだ。
110
三五教
(
あななひけう
)
は
偉
(
えら
)
いと
思
(
おも
)
つてゐたが、
111
小北山
(
こぎたやま
)
はさうするとそれ
以上
(
いじやう
)
だな。
112
何
(
なん
)
と
上
(
うへ
)
には
上
(
うへ
)
があるものだな』
113
コー『きまつた
事
(
こと
)
よ。
114
無茶
(
むちや
)
ほど
強
(
つよ
)
いものはないからな』
115
エム『だつて
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
だつて、
116
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
だつて、
117
無茶
(
むちや
)
で
行
(
い
)
つたぢやないか。
118
無茶
(
むちや
)
が
勝
(
か
)
つのなら、
119
あんなみつともない
敗北
(
はいぼく
)
はとりさうな
筈
(
はづ
)
がないぢやないか』
120
ワク『そこが
人間
(
にんげん
)
の
智慧
(
ちゑ
)
で
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
だ。
121
勝敗
(
しようはい
)
は
時
(
とき
)
の
運
(
うん
)
と
云
(
い
)
ふからな。
122
時
(
とき
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
斯
(
か
)
う
毎日
(
まいにち
)
単純
(
たんじゆん
)
な
無意味
(
むいみ
)
な
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
を
)
つてもつまらぬぢやないか。
123
女房
(
にようばう
)
はあつてもハルナの
都
(
みやこ
)
に
置
(
お
)
いてあるなり、
124
本当
(
ほんたう
)
に
陣中
(
ぢんちう
)
の
無聊
(
むれう
)
には
閉口
(
へいこう
)
せざるを
得
(
え
)
ないな』
125
コー『
誰
(
たれ
)
か
此処
(
ここ
)
へナイスでもやつて
来
(
き
)
たら、
126
面白
(
おもしろ
)
いがな』
127
エム『さう
誂向
(
あつらへむき
)
にいつたら
宜
(
い
)
いが、
128
こんな
物騒
(
ぶつそう
)
な
所
(
ところ
)
へナイスが
通
(
とほ
)
る
筈
(
はず
)
があるか』
129
ワク『それでも
小北山
(
こぎたやま
)
には
沢山
(
たくさん
)
の
女
(
をんな
)
が
寄
(
よ
)
つて
居
(
ゐ
)
るさうだから、
130
ここを
通
(
とほ
)
らなくちや
通
(
とほ
)
る
所
(
ところ
)
がないぢやないか』
131
エム『
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
吾々
(
われわれ
)
が
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
に
張
(
は
)
つてゐるから、
132
どれもこれも
恐
(
おそ
)
れて、
133
橋
(
はし
)
から
此方
(
こちら
)
へは
来
(
こ
)
ないと
云
(
い
)
ふのだから、
134
サツパリ
駄目
(
だめ
)
だよ。
135
夜
(
よる
)
も
大分
(
だいぶん
)
に
更
(
ふ
)
けたし、
136
寒
(
さむ
)
うはあるし、
137
火
(
ひ
)
を
焚
(
た
)
けば
軍律
(
ぐんりつ
)
上
(
じやう
)
敵
(
てき
)
に
所在
(
ありか
)
を
知
(
し
)
られるとか
云
(
い
)
つて
八釜
(
やかま
)
しいなり、
138
本当
(
ほんたう
)
に
因果
(
いんぐわ
)
な
商売
(
しやうばい
)
だな』
139
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
して
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
へ、
140
髪
(
かみ
)
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し
息
(
いき
)
せき
切
(
き
)
つて
走
(
はし
)
つて
来
(
く
)
る
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
があつた。
141
コー『おい、
142
向
(
むか
)
ふを
見
(
み
)
よ。
143
誂向
(
あつらへむき
)
にやつて
来
(
き
)
たよ。
144
如何
(
どう
)
やら
月
(
つき
)
に
透
(
す
)
かして
見
(
み
)
れば、
145
あの
足許
(
あしもと
)
と
云
(
い
)
ひ
女
(
をんな
)
らしい。
146
一
(
ひと
)
つ
俄
(
にはか
)
に
泥棒
(
どろばう
)
と
化
(
ば
)
けて
嚇
(
おど
)
かしてみようぢやないか』
147
両人
(
りやうにん
)
『そりや
面白
(
おもしろ
)
からう』
148
かかる
処
(
ところ
)
へスタスタやつて
来
(
き
)
たのは
小北山
(
こぎたやま
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
したお
民
(
たみ
)
であつた。
[
※
第46巻第10章参照
]
149
お
民
(
たみ
)
は
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
をさして
行
(
ゆ
)
くつもりだつたが、
150
何
(
なん
)
とはなしに
人声
(
ひとごゑ
)
が
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
へ
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
るので、
151
引返
(
ひきかへ
)
して
道
(
みち
)
を
此方
(
こちら
)
へとり、
152
本街道
(
ほんかいだう
)
に
出
(
で
)
るつもりでやつて
来
(
き
)
たのであつた。
153
コー『そこなお
女中
(
ぢよちう
)
、
154
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
たつせい。
155
ここを
何処
(
どこ
)
だと
考
(
かんが
)
へてゐる。
156
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
妄
(
みだ
)
りに
通行
(
つうかう
)
は
許
(
ゆる
)
さない
処
(
ところ
)
だ』
157
お
民
(
たみ
)
『ホヽヽヽヽ、
158
天下
(
てんか
)
の
往来
(
わうらい
)
が
何故
(
なぜ
)
通
(
とほ
)
れないのですか。
159
此
(
この
)
道
(
みち
)
はお
前
(
まへ
)
さまが
造
(
つく
)
つたのぢやありますまい。
160
通
(
とほ
)
るなと
仰有
(
おつしや
)
つても
私
(
わたし
)
の
権利
(
けんり
)
で
通
(
とほ
)
ります。
161
構
(
かま
)
うて
下
(
くだ
)
さいますな』
162
コー『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
通
(
とほ
)
さないと
云
(
い
)
つたら
金輪際
(
こんりんざい
)
通
(
とほ
)
さないのだ。
163
俺
(
おれ
)
を
誰様
(
どなた
)
と
心得
(
こころえ
)
てる』
164
お
民
(
たみ
)
『
あた
阿呆
(
あはう
)
らしい。
165
誰様
(
どなた
)
も
此方
(
こなた
)
もあつたものか。
166
お
前
(
まへ
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
に
生
(
うま
)
れながら、
167
こんな
道
(
みち
)
の
辻
(
つじ
)
の
番
(
ばん
)
をさされてゐるのぢやないか。
168
技能
(
ぎのう
)
と
知識
(
ちしき
)
とあればランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
にあつて
帷幕
(
ゐばく
)
に
参
(
さん
)
じ
重要
(
ぢゆうえう
)
な
相談
(
さうだん
)
に
与
(
あづか
)
るのだが、
169
何処
(
どこ
)
も
使
(
つか
)
ひ
場
(
ば
)
のない
屑人足
(
くづにんそく
)
だから、
170
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
様
(
やう
)
に、
171
こんな
辻番
(
つじばん
)
をさされてゐるのだ。
172
そんな
男
(
をとこ
)
が
空威張
(
からゐばり
)
をしたつて
誰
(
たれ
)
が
恐
(
おそ
)
れるものがありませうぞ。
173
すつこんでゐなさい』
174
ワク『
何
(
なん
)
と
渋太
(
しぶと
)
い
尼
(
あま
)
つちよだな』
175
お
民
(
たみ
)
『
渋太
(
しぶと
)
い
尼
(
あま
)
つちよだよ。
176
何程
(
なにほど
)
女
(
をんな
)
が
弱
(
よわ
)
いと
云
(
い
)
つても、
177
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
たち
)
のやうな
番犬
(
ばんけん
)
の
代理
(
だいり
)
をつとめて
居
(
ゐ
)
るやうなお
方
(
かた
)
に
弱
(
よわ
)
るやうな
女
(
をんな
)
は、
178
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
だつてありやせないワ』
179
ワク『
番犬
(
ばんけん
)
とは
何
(
なん
)
だ。
180
あまり
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎるぢやないか』
181
お
民
(
たみ
)
『
過
(
す
)
ぎたつて
事実
(
じじつ
)
なれば
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
182
お
前
(
まへ
)
、
183
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
れば、
184
今
(
いま
)
に
吠面
(
ほえづら
)
かわかなくちやなりませぬぞや。
185
小北山
(
こぎたやま
)
に
時
(
とき
)
めき
給
(
たま
)
ふウラナイ
教
(
けう
)
の
教祖
(
けうそ
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
今
(
いま
)
直
(
す
)
ぐお
越
(
こ
)
しだから、
186
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
術
(
わざ
)
を
以
(
もつ
)
て、
187
お
前
(
まへ
)
さま
等
(
たち
)
の
五十
(
ごじふ
)
人
(
にん
)
や
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
は
一息
(
ひといき
)
に
吹
(
ふ
)
いて
飛
(
と
)
ばされる
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ひますよ。
188
そんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はずに
其処
(
そこ
)
退
(
の
)
きなさい。
189
こんな
夜
(
よる
)
の
道
(
みち
)
に
髯武者
(
ひげむしや
)
の
狼面
(
おほかみづら
)
した
男
(
をとこ
)
が
居
(
を
)
つては
通
(
とほ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
190
往来
(
わうらい
)
妨害
(
ばうがい
)
の
罪
(
つみ
)
でバラモン
署
(
しよ
)
へ
訴
(
うつた
)
へて
上
(
あ
)
げませうか』
191
エム『おい、
192
ワク、
193
コー、
194
何
(
なん
)
と
押尻
(
おしけつ
)
の
強
(
つよ
)
い
代物
(
しろもの
)
だな。
195
此奴
(
こいつ
)
ア
只
(
ただ
)
の
狸
(
たぬき
)
ぢやあるまいぞ。
196
一
(
ひと
)
つ
非常
(
ひじやう
)
手段
(
しゆだん
)
をとつて
何々
(
なになに
)
しようぢやないか』
197
お
民
(
たみ
)
『ホヽヽヽ、
198
お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り
只
(
ただ
)
の
狸
(
たぬき
)
ぢやありませぬぞえ。
199
小北山
(
こぎたやま
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
眷属
(
けんぞく
)
ですよ』
200
コー『
何
(
なに
)
、
201
狼
(
おほかみ
)
の
眷属
(
けんぞく
)
、
202
此奴
(
こいつ
)
ア
又
(
また
)
太
(
ふと
)
う
出
(
で
)
よつたものだ』
203
お
民
(
たみ
)
『
何
(
なに
)
も
太
(
ふと
)
くも
細
(
ほそ
)
くも、
204
ありやせないよ。
205
お
寅
(
とら
)
さまと
喧嘩
(
けんくわ
)
して
此処
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
たのだ』
206
コー『
何
(
なに
)
、
207
大虎
(
おほとら
)
と
喧嘩
(
けんくわ
)
する。
208
此奴
(
こいつ
)
ア、
209
素敵
(
すてき
)
な
代物
(
しろもの
)
だな』
210
エム『
此奴
(
こいつ
)
ア、
211
さうすると
狼
(
おほかみ
)
が
化
(
ば
)
けてゐやがるのだな。
212
道理
(
だうり
)
でお
内儀
(
かみ
)
さまの
風
(
ふう
)
になつてゐやがる』
213
ワク『
何
(
なに
)
、
214
狼
(
おほかみ
)
ぢやない。
215
大神
(
おほかみ
)
さまの
眷属
(
けんぞく
)
と
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるのだ。
216
さうしてお
寅婆
(
とらばあ
)
さまと
云
(
い
)
ふ、
217
酢
(
す
)
でも
菎弱
(
こんにやく
)
でも
行
(
ゆ
)
かぬ
悪垂婆
(
あくたればば
)
が
居
(
ゐ
)
るさうだから、
218
そのお
寅婆
(
とらばば
)
に
苛
(
いぢ
)
められて
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
よつたに
相違
(
さうゐ
)
ない。
219
何程
(
なにほど
)
強
(
つよ
)
い
女
(
をんな
)
だと
云
(
い
)
つても
多寡
(
たくわ
)
が
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
、
220
此方
(
こちら
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
だ。
221
まだ
其
(
その
)
他
(
ほか
)
にお
添物
(
そへもの
)
として
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
が
二匹
(
にひき
)
慄
(
ふる
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
222
此奴
(
こいつ
)
、
223
やつつけようぢやないか。
224
これ
女
(
をんな
)
、
225
貴様
(
きさま
)
は、
226
婆
(
ばば
)
に
悋気
(
りんき
)
されて
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて
来
(
き
)
たのだらう。
227
どうも
慌
(
あわ
)
てた
様子
(
やうす
)
だ。
228
さア
此処
(
ここ
)
を
通過
(
つうくわ
)
するなら
通過
(
つうくわ
)
さしてやらぬ
事
(
こと
)
もないが、
229
身
(
み
)
のまはり
一切
(
いつさい
)
を
俺
(
おれ
)
様
(
さま
)
に
渡
(
わた
)
して
行
(
ゆ
)
け』
230
お
民
(
たみ
)
『オホヽヽヽヽ、
231
甲斐性
(
かひしやう
)
のない
男
(
をとこ
)
だこと、
232
大
(
おほ
)
きな
体
(
からだ
)
を
持
(
も
)
ちながら、
233
人
(
ひと
)
の
物
(
もの
)
を
盗
(
と
)
つて
生活
(
せいくわつ
)
せなくては
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
渡
(
わた
)
れぬとは、
234
憐
(
あは
)
れなものだな。
235
衛兵
(
ゑいへい
)
になつたり
泥棒
(
どろばう
)
になつたり、
236
よう
へぐれる
代物
(
しろもの
)
だな』
237
コー『
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふない。
238
軍人
(
ぐんじん
)
と
云
(
い
)
ふものは
強盗
(
がうたう
)
強姦
(
がうかん
)
を
天下
(
てんか
)
御免
(
ごめん
)
でやるのが
所得
(
しよとく
)
だ。
239
所謂
(
いはゆる
)
役徳
(
やくとく
)
だ。
240
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
正義
(
せいぎ
)
の
軍人
(
ぐんじん
)
となり、
241
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
財宝
(
ざいほう
)
掠奪
(
りやくだつ
)
の
公盗
(
こうたう
)
となり、
242
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
猥褻
(
わいせつ
)
公許者
(
こうきよしや
)
となるのだ。
243
さうだから
男
(
をとこ
)
と
生
(
うま
)
れた
甲斐
(
かひ
)
にや、
244
如何
(
どう
)
してもバラモン
教
(
けう
)
の
軍人
(
ぐんじん
)
にならなくちや
幅
(
はば
)
が
利
(
き
)
かないのだ』
245
お
民
(
たみ
)
『えー、
246
八釜
(
やかま
)
しい、
247
耄碌
(
もうろく
)
、
248
其処
(
そこ
)
除
(
の
)
け』
249
と
無理
(
むり
)
に
通
(
とほ
)
り
過
(
す
)
ぎようとする。
250
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はお
民
(
たみ
)
に
喰
(
くら
)
ひつき
一歩
(
いつぽ
)
も
進
(
すす
)
ませじとあせる。
251
お
民
(
たみ
)
は
全身
(
ぜんしん
)
の
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
荒男
(
あらをとこ
)
をヤスヤスと
柔術
(
じうじゆつ
)
の
手
(
て
)
で
投
(
な
)
げつける。
252
かかる
所
(
ところ
)
へ「おーいおーい」と
苦
(
くる
)
しげな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
此方
(
こなた
)
へ
向
(
むか
)
つて
馳
(
は
)
せ
来
(
く
)
る
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
があつた。
253
(
大正一一・一二・一六
旧一〇・二八
北村隆光
録)
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