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第49巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 神示の社殿
01 地上天国
〔1275〕
02 大神人
〔1276〕
03 地鎮祭
〔1277〕
04 人情
〔1278〕
05 復命
〔1279〕
第2篇 立春薫香
06 梅の初花
〔1280〕
07 剛胆娘
〔1281〕
08 スマート
〔1282〕
第3篇 暁山の妖雲
09 善幻非志
〔1283〕
10 添書
〔1284〕
11 水呑同志
〔1285〕
12 お客さん
〔1286〕
13 胸の轟
〔1287〕
14 大妨言
〔1288〕
15 彗星
〔1289〕
第4篇 鷹魅糞倒
16 魔法使
〔1290〕
17 五身玉
〔1291〕
18 毒酸
〔1292〕
19 神丹
〔1293〕
20 山彦
〔1294〕
余白歌
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第四章
人情
(
にんじやう
)
〔一二七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
篇:
第1篇 神示の社殿
よみ(新仮名遣い):
しんじのしゃでん
章:
第4章 人情
よみ(新仮名遣い):
にんじょう
通し章番号:
1278
口述日:
1923(大正12)年01月16日(旧11月30日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年11月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
地鎮祭も終わって直会の宴に移った。今日は飲酒を許され、バラモン軍から来た者たちも酔いつぶれて不平をしゃべりだした。
イルは普段酒を飲むことが許されないことに対して、大声で文句をいいはじめた。イクやサールがそれをなだめにかかる。イルはさらに、自分は治国別に心服して降参したのだ、猿に目をひっかかれるような玉国別やその弟子の道公に仕えるのは気に食わないと言い始めた。
そこに道公がやってきてイル、イク、サールの輪に入り、酒の席での言葉は気にかけないと一同をなだめ、盃を取って一緒に飲みながら歌を歌い始めた。四人は一段となって打ち解け、酒を酌み交わしている。
ヨル、ハル、テルはまた別の輪になって、イル、イク、サールたちの酒盛りを論評していると、晴公が徳利を下げてやってきて輪に入った。晴公は三人をねぎらい、三人の名を読み込んだ歌を歌って打ち解けた。
直会の宴は閉じ、一同は十二分に歓を尽くして寝に就いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-09 16:53:04
OBC :
rm4904
愛善世界社版:
42頁
八幡書店版:
第9輯 47頁
修補版:
校定版:
44頁
普及版:
21頁
初版:
ページ備考:
001
石搗
(
いしつき
)
は
漸
(
やうや
)
く
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
んで
地鎮祭
(
ぢちんさい
)
も
終
(
をは
)
り、
002
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
に
移
(
うつ
)
つた。
003
今日
(
けふ
)
は
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
許
(
ゆる
)
しを
得
(
え
)
てさしも
酒豪
(
しゆがう
)
のイル、
004
イク、
005
サール、
006
テル、
007
ハル、
008
ヨルのバラモン
組
(
ぐみ
)
は
天
(
てん
)
にも
昇
(
のぼ
)
るやうな
心地
(
ここち
)
で
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひ、
009
石
(
いし
)
などをケンケンと
叩
(
たた
)
きならし、
010
堤
(
どて
)
を
切
(
き
)
らして
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふた。
011
何人
(
なにびと
)
も
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れた
時
(
とき
)
は
小供
(
こども
)
のやうになるものである。
012
又
(
また
)
平素
(
へいそ
)
から
心
(
こころ
)
にもつて
居
(
ゐ
)
た
不平
(
ふへい
)
は
残
(
のこ
)
らず
喋
(
しやべ
)
るものである。
013
イル『おい、
014
イク、
015
サール
何
(
ど
)
うだ。
016
清春山
(
きよはるやま
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
は、
017
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
甘
(
うめ
)
い
酒
(
さけ
)
を
鱈腹
(
たらふく
)
呑
(
の
)
んで、
018
新来
(
しんき
)
のお
客
(
きやく
)
さま
伊太公
(
いたこう
)
さま
迄
(
まで
)
敵味方
(
てきみかた
)
の
障壁
(
しやうへき
)
をとつて
優遇
(
いうぐう
)
したぢやないか。
019
それに
馬鹿
(
ばか
)
らしい
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
してから
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
一滴
(
いつてき
)
も
呑
(
の
)
ましちや
貰
(
もら
)
筈
(
はず
)
、
020
本当
(
ほんたう
)
に
淋
(
さび
)
しくて、
021
矢張
(
やつぱり
)
元
(
もと
)
のバラモン
教
(
けう
)
の
方
(
はう
)
が
余程
(
よつぽど
)
よいと
思
(
おも
)
つたよ。
022
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
が
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もこんな
所
(
ところ
)
に
引
(
ひつ
)
いて
けつ
かるものだから、
023
俺
(
おれ
)
も
仕方
(
しかた
)
なしにひつ
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
たのだ。
024
本当
(
ほんたう
)
にここの
大将
(
たいしやう
)
はケチン
坊
(
ばう
)
だからな。
025
なんだい
道公
(
みちこう
)
なンて
偉
(
えら
)
さうに
監督面
(
かんとくづら
)
を
提
(
さ
)
げやがつて、
026
俺
(
おれ
)
はあの
しやつ
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
てもむかつくのだ。
027
エーン』
028
と
副守
(
ふくしゆ
)
が
発動
(
はつどう
)
して
本音
(
ほんね
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
した。
029
イクはイルが
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
不平
(
ふへい
)
を
云
(
い
)
ふて
管
(
くだ
)
をまくので
道公
(
みちこう
)
の
監督
(
かんとく
)
に
聞
(
き
)
かれては
大変
(
たいへん
)
と、
030
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
で
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
を
押
(
おさ
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
031
そしてイルの
耳許
(
みみもと
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ、
032
イク『オイ
兄弟
(
きやうだい
)
、
033
そんな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
不平
(
ふへい
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない。
034
勿体
(
もつたい
)
ないぞ。
035
道公
(
みちこう
)
の
耳
(
みみ
)
へ
入
(
はい
)
つたらどうするのぢや』
036
イル『ナヽ
何
(
なん
)
だ、
037
何
(
なに
)
が
勿体
(
もつたい
)
ないのだい。
038
道公
(
みちこう
)
の
耳
(
みみ
)
へ
入
(
はい
)
るのが、
039
それ
程
(
ほど
)
われや
恐
(
おそ
)
ろしいのか。
040
何
(
なん
)
だその
手
(
て
)
は
耳
(
みみ
)
を
押
(
おさ
)
へやがつて』
041
イク『それだつて、
042
余
(
あま
)
り
貴様
(
きさま
)
が
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
悪口
(
わるくち
)
を
吐
(
ぬか
)
すものだから、
043
監督
(
かんとく
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
らないやうに
つめ
をして
居
(
ゐ
)
るのだ』
044
イル『
何
(
なに
)
さらしやがるのだ。
045
馬鹿
(
ばか
)
だな、
046
耳
(
みみ
)
を
押
(
おさ
)
へて
鈴
(
すず
)
を
盗
(
ぬす
)
むやうな
事
(
こと
)
をしたつて
何
(
なん
)
になる。
047
このイルの
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
は、
048
何程
(
なにほど
)
金挺
(
かなてこ
)
聾
(
つんぼ
)
でも
直
(
す
)
ぐ
耳
(
みみ
)
に
イル
やうに
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
049
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
との
痩馬
(
やせうま
)
を
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
引
(
ひ
)
いて
通
(
とほ
)
るやうに、
050
ヘエヘエ ハイハイと
盲従
(
まうじゆう
)
する
奴
(
やつ
)
は、
051
それこそ
気骨
(
きこつ
)
のない
章魚
(
たこ
)
人間
(
にんげん
)
だ。
052
このイルはそんな
卑怯
(
ひけふ
)
な
事
(
こと
)
はなさらぬぞ。
053
も
少
(
すこ
)
し
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
不平
(
ふへい
)
を
云
(
い
)
ふのぢや。
054
否
(
いな
)
大
(
おほい
)
に
怨言
(
えんげん
)
非辞
(
ひじ
)
を
連発
(
れんぱつ
)
するのだ。
055
のうサール、
056
貴様
(
きさま
)
もサール
者
(
もの
)
だから、
057
きつと
俺
(
おれ
)
と
同感
(
どうかん
)
だらう』
058
サール『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
059
この
目出度
(
めでた
)
い
地鎮祭
(
ぢちんさい
)
に
結構
(
けつこう
)
な
酒
(
さけ
)
を
頂
(
いただ
)
きやがつて
何
(
なに
)
をグヅグヅ
云
(
い
)
ふのだ。
060
ちと
心得
(
こころえ
)
ぬかい』
061
イル『ナヽ
何
(
なに
)
が
目出度
(
めでた
)
いのだ。
062
何
(
なに
)
がそれ
程
(
ほど
)
結構
(
けつこう
)
なのだ。
063
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
い、
064
清春山
(
きよはるやま
)
は
破壊
(
はくわい
)
され、
065
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
はメチヤ、
066
クチヤにされ、
067
何
(
ど
)
うして
吾々
(
われわれ
)
バラモン
勇士
(
ゆうし
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
つか、
068
それに
何
(
なん
)
ぞや
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
を
祭
(
まつ
)
るお
宮
(
みや
)
のお
手伝
(
てつだ
)
ひをさして
貰
(
もら
)
ひ、
069
嬉
(
うれ
)
しさうに
嫌
(
いや
)
でもない
酒
(
さけ
)
を
強
(
しひ
)
られて
何
(
なに
)
が
有難
(
ありがた
)
いのだ。
070
勿体
(
もつたい
)
ないのだ。
071
フゲタが
悪
(
わる
)
いぢやないか、
072
敵
(
てき
)
に
兜
(
かぶと
)
をぬいで
敵
(
てき
)
の
馳走
(
ちそう
)
を
頂
(
いただ
)
き、
073
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
をこぼすやうな
者
(
もの
)
は
人間
(
にんげん
)
ぢやないぞ。
074
俺
(
おれ
)
もかうして
表面
(
へうめん
)
帰順
(
きじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
るものの、
075
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
貴様
(
きさま
)
のやうに
帰順
(
きじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
るのぢやない。
076
かうして
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
に
紛
(
まぎ
)
れ
込
(
こ
)
み、
077
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
つた
上
(
うへ
)
、
078
大
(
おほい
)
に
手柄
(
てがら
)
をせうと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
たのだ。
079
白夷
(
はくい
)
、
080
叔斉
(
しゆくせい
)
は
首陽
(
しゆやう
)
の
蕨
(
わらび
)
を
食
(
くら
)
つて
周
(
しう
)
の
粟
(
ぞく
)
を
喰
(
く
)
はず
生
(
い
)
きて
居
(
ゐ
)
たぢやないか。
081
夫
(
そ
)
れだけの
気骨
(
きこつ
)
が
無
(
な
)
くてバラモンの
武士
(
ぶし
)
と
云
(
い
)
はれるか。
082
エーン』
083
サール『アハヽヽヽ、
084
それ
程
(
ほど
)
三五教
(
あななひけう
)
の
飲食
(
いんしよく
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬのなら、
085
なぜ
前後
(
ぜんご
)
も
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
ふたのだ。
086
貴様
(
きさま
)
はいつも
悪酒
(
わるざけ
)
だから
困
(
こま
)
つたものだ。
087
ちと
躾
(
たしな
)
まぬと、
088
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
迄
(
まで
)
が
痛
(
いた
)
くない
腹
(
はら
)
をさぐられては
詰
(
つま
)
らない。
089
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は、
090
貴様
(
きさま
)
のやうな
二股
(
ふたまた
)
武士
(
ぶし
)
ぢやない、
091
帰順
(
きじゆん
)
したと
云
(
い
)
ふたら
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
帰順
(
きじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ』
092
イル『
俺
(
おれ
)
だつて、
093
松彦
(
まつひこ
)
や
治国別
(
はるくにわけ
)
には
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
帰順
(
きじゆん
)
したのだ。
094
玉国別
(
たまくにわけ
)
や
道公
(
みちこう
)
て、
095
あんな
宣伝使
(
せんでんし
)
に
帰順
(
きじゆん
)
したのぢやない。
096
第一
(
だいいち
)
それが
俺
(
おれ
)
は
気
(
き
)
に
喰
(
く
)
はないのだ。
097
よく
考
(
かんがへ
)
えて
見
(
み
)
よ、
098
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ともあらうものが、
099
四
(
よ
)
つ
手
(
で
)
に
目玉
(
めだま
)
を
引
(
ひ
)
つかかれるやうで
何処
(
どこ
)
に
神徳
(
しんとく
)
があるか、
100
俺
(
おれ
)
はあの
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
るとムツとするのだ。
101
治国別
(
はるくにわけ
)
さまのやうな
宣伝使
(
せんでんし
)
なら
何程
(
なにほど
)
バラモン
教
(
けう
)
の
俺
(
おれ
)
だつて
帰順
(
きじゆん
)
するのだけれどな』
102
道公
(
みちこう
)
は、
103
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
隅
(
すみ
)
の
方
(
はう
)
に
片寄
(
かたよ
)
り
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
ゐ
)
るので、
104
喧嘩
(
けんくわ
)
ぢやないか、
105
もし
喧嘩
(
けんくわ
)
なら
仲裁
(
ちうさい
)
して
目出度
(
めでた
)
う
納
(
をさ
)
めねばならぬ、
106
肝腎
(
かんじん
)
の
地鎮祭
(
ぢちんさい
)
にケチを
付
(
つ
)
けられては
耐
(
たま
)
らないと、
107
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
にホロ
酔
(
よひ
)
機嫌
(
きげん
)
でヒヨロヒヨロと
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
108
道公
(
みちこう
)
『おいイル、
109
イク、
110
サール、
111
何
(
なに
)
を
夫
(
それ
)
程
(
ほど
)
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
112
何
(
なん
)
ぞ
面白
(
おもしろ
)
い
話
(
はなし
)
でもあるのか』
113
イク『ハイ、
114
面白
(
おもしろ
)
い
事
(
こと
)
があるのですよ。
115
このイルの
奴
(
やつ
)
たうとう
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
きやがつて
仕様
(
しやう
)
もない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのです』
116
イル『コレヤ コレヤ イク、
117
幾何
(
いくら
)
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ふても
大事
(
だいじ
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふてはいけないよ。
118
俺
(
おれ
)
が
玉国別
(
たまくにわけ
)
が
嫌
(
いや
)
になつた
事
(
こと
)
や、
119
この
普請
(
ふしん
)
の
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬ
事
(
こと
)
や、
120
矢張
(
やつぱり
)
バラモン
教
(
けう
)
の
方
(
はう
)
が
結構
(
けつこう
)
だと
云
(
い
)
つた
事
(
こと
)
を
決
(
けつ
)
して
道公
(
みちこう
)
の
監督
(
かんとく
)
に
云
(
い
)
つてはならないぞ。
121
そこが
友達
(
ともだち
)
の
交誼
(
よしみ
)
だからな』
122
道公
(
みちこう
)
『アハヽヽヽ、
123
や イルさま、
124
たつて
聞
(
き
)
かうとは
云
(
い
)
ひませぬよ。
125
併
(
しか
)
し
皆
(
みんな
)
分
(
わか
)
りましたからな』
126
イク『それ
見
(
み
)
ろ、
127
イルの
奴
(
やつ
)
矢張
(
やつぱ
)
りお
神酒
(
みき
)
の
神徳
(
しんとく
)
により、
128
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
のゴモクを
薩張
(
さつぱ
)
り
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
されよつたな。
129
もし
道公
(
みちこう
)
さま、
130
どうぞイルが
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
131
あいつは
副守
(
ふくしゆ
)
が
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのですから
聞
(
き
)
き
流
(
なが
)
してやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
132
サール『
道公
(
みちこう
)
の
監督
(
かんとく
)
さま、
133
イルはこんな
奴
(
やつ
)
です。
134
併
(
しか
)
し
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
正直者
(
しやうぢきもの
)
ですから、
135
玉国別
(
たまくにわけ
)
様
(
さま
)
にはどうぞ
仰有
(
おつしや
)
らないやうにして
許
(
ゆる
)
してやつて
下
(
くだ
)
さいませ。
136
本当
(
ほんたう
)
に
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
137
ウンウンガー、
138
アヽ
酔
(
よ
)
ふた
酔
(
よ
)
ふた、
139
ほんとに
結構
(
けつこう
)
なお
神酒
(
みき
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しまして
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
140
正
(
せい
)
、
141
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
迄
(
まで
)
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じます』
142
道公
(
みちこう
)
『ヤア
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
心配
(
しんぱい
)
するな。
143
酒酔
(
さけよひ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
取
(
と
)
りあげるやうな
俺
(
おれ
)
も
馬鹿
(
ばか
)
ぢやないからな』
144
イル『
成程
(
なるほど
)
、
145
それ
聞
(
き
)
いて
俺
(
おれ
)
も
道公
(
みちこう
)
さまが
好
(
す
)
きになつた。
146
こんな
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
家来
(
けらい
)
をもつて
居
(
ゐ
)
る
玉国別
(
たまくにわけ
)
さまも
好
(
す
)
きになつた。
147
其
(
その
)
盃
(
さかづき
)
を
一
(
ひと
)
つ
僕
(
ぼく
)
にさして
下
(
くだ
)
さい。
148
今日
(
けふ
)
はお
神酒
(
みき
)
に
酔
(
よ
)
つてすつかり
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
ごもく
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
しました。
149
決
(
けつ
)
してイルの
肉体
(
にくたい
)
であんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたのぢやありませぬ。
150
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
を
)
つた
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
眷族
(
けんぞく
)
が
囁
(
ささや
)
いたのですから、
151
私
(
わたし
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
迷惑
(
めいわく
)
ですよ』
152
道公
(
みちこう
)
『それやさうだらう。
153
まあ
心配
(
しんぱい
)
したまふな。
154
サア
一杯
(
いつぱい
)
いかう』
155
と
道公
(
みちこう
)
は
心
(
こころ
)
よく、
156
イル、
157
イク、
158
サールに
盃
(
さかづき
)
を
与
(
あた
)
へ、
159
自
(
みづか
)
らついでやり、
160
自分
(
じぶん
)
も
其処
(
そこ
)
に
安坐
(
あぐら
)
をかいて
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
面白
(
おもしろ
)
をかしく
酒
(
さけ
)
を
引
(
ひ
)
つかけて
居
(
ゐ
)
る。
161
イルは『
兄貴
(
あにき
)
まア
一杯
(
いつぱい
)
』と
道公
(
みちこう
)
に
盃
(
さかづき
)
をさし
唄
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
162
イル『
三五教
(
あななひけう
)
の
道公
(
みちこう
)
さまが
163
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
ポンポンと
164
拍手
(
かしはで
)
うつのはよけれども
165
ヨイトサヽ ヨイトサヽ
166
このイルさまを
捉
(
とら
)
まへて
167
ポンポン
云
(
い
)
ふのにや
困
(
こま
)
ります
168
ヨイトサ ヨイトサぢや
169
アハヽヽヽ、
170
まア
一杯
(
いつぱい
)
僕
(
ぼく
)
についでくれたまへ、
171
なア
道公
(
みちこう
)
さま、
172
酒酔
(
さけよひ
)
本性
(
ほんしやう
)
違
(
たが
)
はずと
云
(
い
)
つて、
173
よく
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
るだらう』
174
道公
(
みちこう
)
は
歌
(
うた
)
ふ、
175
道公
『
道公司
(
みちこうつかさ
)
がポンポンと
176
お
前
(
まへ
)
に
云
(
い
)
ふたのは
訳
(
わけ
)
がある
177
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
酒
(
さけ
)
をのむ
178
お
前
(
まへ
)
を
瓢箪
(
ふくべ
)
と
思
(
おも
)
た
故
(
ゆゑ
)
179
そして
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
は
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
180
太鼓
(
たいこ
)
のやうに
厚
(
あつ
)
うして
181
サツパリ
腹
(
はら
)
が
空
(
から
)
故
(
ゆゑ
)
に
182
太鼓
(
たいこ
)
と
思
(
おも
)
うてポンポンと
183
叩
(
たた
)
いて
見
(
み
)
たのだイルさまよ
184
俺
(
おれ
)
に
怒
(
おこ
)
つちや
見当違
(
あてちが
)
ひ
185
俺
(
おれ
)
は
役目
(
やくめ
)
でポンポンと
186
石搗
(
いしづき
)
しなくちやならないで
187
合図
(
あひづ
)
をしたのだと
思
(
おも
)
ふて
呉
(
く
)
れ
188
ヨイトセ ヨイトセ
189
ヤツトコセ、ヨウイヤナ
190
アレワイセ、コレワイセ
191
サアサ、ヨーイトセ』
192
イク、
193
サールは
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち、
194
イク『ヤア ポンポンだ、
195
甘
(
うま
)
い
甘
(
うま
)
い、
196
ポンポンながらカンカン
乍
(
なが
)
ら、
197
このイクさまが
一
(
ひと
)
つ
唄
(
うた
)
つて
見
(
み
)
ませう。
198
エヘン、
199
オイ、
200
イルちつと
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
囃
(
はや
)
して
呉
(
く
)
れ、
201
囃
(
はやし
)
がまづいと
歌
(
うた
)
が
全
(
まつた
)
くいかぬからな』
202
イル『ヨシ
囃
(
はや
)
してやらう、
203
サア
云
(
い
)
ふたり
云
(
い
)
ふたり』
204
イク『
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
神
(
かみ
)
さまは
205
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
206
大国彦
(
おほくにひこ
)
と
思
(
おも
)
ふたら
207
サツパリ
当
(
あて
)
が
外
(
はづ
)
れよつて
208
大国治立
(
おほくにはるたち
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だ
209
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
俺
(
おれ
)
はバラモンの
210
神
(
かみ
)
程
(
ほど
)
偉
(
えら
)
い
奴
(
やつ
)
は
無
(
な
)
いと
211
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
たのにこれや
何
(
なん
)
だ
212
アテが
外
(
はず
)
れて
三五教
(
あななひけう
)
の
213
いやな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
喜
(
よろこ
)
んで
214
拝
(
をが
)
まにやならない
羽目
(
はめ
)
となり
215
不性
(
ふしやう
)
無精
(
ぶしやう
)
に
朝夕
(
あさゆふ
)
に
216
信者
(
しんじや
)
らしく
見
(
み
)
せかけて
217
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
たのが
偽善者
(
きぜんしや
)
の
218
其
(
その
)
行
(
おこな
)
ひと
知
(
し
)
つた
故
(
ゆゑ
)
219
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
て
考
(
かんが
)
へた
220
揚句
(
あげく
)
の
果
(
はて
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
221
教
(
をしへ
)
は
誠
(
まこと
)
と
知
(
し
)
つた
故
(
ゆゑ
)
222
心
(
こころ
)
の
悩
(
なや
)
みも
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
り
223
今
(
いま
)
は
全
(
まつた
)
く
三五
(
あななひ
)
の
224
神
(
かみ
)
を
信
(
しん
)
ずる
身
(
み
)
となつた
225
ほんとに
心
(
こころ
)
の
持
(
も
)
ちやうで
226
どうでもなるのが
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
だ
227
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
228
天地
(
てんち
)
経綸
(
けいりん
)
の
主宰者
(
しゆさいしや
)
と
229
教
(
をし
)
へられたる
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
230
何
(
なん
)
だか
怪体
(
けたい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふ
231
慢心
(
まんしん
)
じみた
教
(
をしへ
)
だと
232
心
(
こころ
)
に
蔑
(
さげす
)
み
居
(
を
)
つたれど
233
矢張
(
やつぱり
)
神
(
かみ
)
は
嘘
(
うそ
)
つかぬ
234
バラモン
教
(
けう
)
では
吾々
(
われわれ
)
を
235
塵
(
ちり
)
や
芥
(
あくた
)
の
固
(
かたま
)
りの
236
より
損
(
ぞこな
)
ひのよに
云
(
い
)
ふけれど
237
矢張
(
やつぱり
)
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
だ
238
これを
思
(
おも
)
へば
飲
(
の
)
む
酒
(
さけ
)
も
239
一入
(
ひとしほ
)
味
(
あぢ
)
がよいやうだ
240
今日
(
こんにち
)
の
石搗
(
いしつき
)
お
祝
(
いはひ
)
に
241
どつさりお
酒
(
さけ
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
し
242
魂
(
たま
)
は
浮
(
うか
)
れて
天国
(
てんごく
)
の
243
御園
(
みその
)
に
遊
(
あそ
)
ぶ
思
(
おも
)
ひなり
244
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
245
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
慎
(
つつし
)
みて
246
茲
(
ここ
)
に
感謝
(
かんしや
)
し
奉
(
たてまつ
)
る
247
サア
一盃
(
いつぱい
)
いきませう』
248
斯
(
か
)
く
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
一団
(
いちだん
)
となりて
酒
(
さけ
)
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
して
居
(
ゐ
)
る。
249
一方
(
いつぱう
)
には
又
(
また
)
バラモン
組
(
ぐみ
)
のヨル、
250
ハル、
251
テルの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
三巴
(
みつどもゑ
)
となつて
趺坐
(
あぐら
)
をかき、
252
管
(
くだ
)
を
捲
(
ま
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
253
ヨル『オイ、
254
あのイルを
見
(
み
)
よ、
255
彼奴
(
あいつ
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
結構
(
けつこう
)
な
酒
(
さけ
)
に
喰
(
くら
)
ひ
酔
(
よひ
)
、
256
しようもない
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
ごもくた
をさらけ
出
(
だ
)
したぢやないか、
257
彼奴
(
あいつ
)
はいつも
酒
(
さけ
)
くらひやがると
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もさらけ
出
(
だ
)
しやがるのだ。
258
何
(
なに
)
か
怪体
(
けたい
)
なものが
憑
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
るのだよ』
259
テル『さうだな、
260
可哀
(
かあい
)
さうなものだ。
261
彼
(
あれ
)
は
村
(
むら
)
でも
怠惰者
(
なまけもの
)
で
仕事
(
しごと
)
が
嫌
(
きら
)
ひなのだから
仕方
(
しかた
)
がない。
262
いつも
襤褸
(
ぼろ
)
を
下
(
さ
)
げやがつて、
263
人
(
ひと
)
の
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
ち
酒
(
さけ
)
でも
呑
(
の
)
んで
居
(
ゐ
)
やうものなら、
264
汚
(
きたな
)
い
風
(
ふう
)
をして
坐
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
むのだから
誰
(
たれ
)
しも
迷惑
(
めいわく
)
して、
265
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
ましてやり、
266
少
(
すこ
)
しばかり
金
(
かね
)
をやつて
帰
(
いな
)
してやるのだ。
267
其
(
それ
)
が
今度
(
こんど
)
の
戦争
(
せんそう
)
で
安
(
やす
)
い
金
(
かね
)
で
雇
(
やと
)
はれた
雇兵
(
やとひへい
)
だ。
268
元来
(
ぐわんらい
)
がノラクラ
者
(
もの
)
の
成上
(
なりあが
)
りだから、
269
一度
(
いちど
)
憐
(
あは
)
れみをかけると
云
(
い
)
ふと
好
(
よ
)
い
気
(
き
)
になり、
270
メダレを
見
(
み
)
て
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いものだ。
271
道公
(
みちこう
)
さまがよい
気
(
き
)
であんな
奴
(
やつ
)
と
盃
(
さかづき
)
の
取
(
と
)
り
交
(
かは
)
しをするなんて
余
(
あま
)
りぢやないか、
272
俺
(
おれ
)
にだつて
盃
(
さかづき
)
の
一杯
(
いつぱい
)
位
(
くらゐ
)
さして
呉
(
く
)
れたつて
損
(
そん
)
はあるまいに、
273
あんな
奴
(
やつ
)
より
下
(
した
)
に
見
(
み
)
られちや
約
(
つ
)
まらないぢやないか』
274
ハル『オイ、
275
テル、
276
貴様
(
きさま
)
は
気
(
き
)
をつけないと
額際
(
ひたひぎわ
)
に
曇
(
くも
)
りがかかつてゐるぞ。
277
そこが
曇
(
くも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのは
貴様
(
きさま
)
の
未来
(
みらい
)
に
取
(
と
)
り
不祥
(
ふしやう
)
なる
事
(
こと
)
が
来
(
く
)
るのを
教
(
をし
)
へて
居
(
ゐ
)
るのだ。
278
つまり
死
(
し
)
ぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へて
居
(
ゐ
)
るのだ。
279
深酒
(
ふかざけ
)
を
呑
(
の
)
まぬやうにせぬと
危
(
あぶ
)
ないものだ。
280
たとへ
身体
(
からだ
)
がピンピンして
居
(
ゐ
)
ても
人
(
ひと
)
の
悪口
(
わるくち
)
ばかり
云
(
い
)
ふて
居
(
ゐ
)
ると、
281
憎
(
にく
)
まれてどんな
災難
(
さいなん
)
を
買
(
か
)
ふやら
分
(
わか
)
らないぞ。
282
些
(
ちつ
)
と
慎
(
つつし
)
むがよい』
283
テル『そんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと
折角
(
せつかく
)
の
酔
(
よひ
)
がさめて
仕舞
(
しま
)
ふぢやないか。
284
俺
(
おれ
)
は
平常
(
ふだん
)
から
顔色
(
かほいろ
)
が
悪
(
わる
)
いのだ、
285
気
(
き
)
にかけて
呉
(
く
)
れるな。
286
そんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
迄
(
まで
)
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くなるからな』
287
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
片手
(
かたて
)
に
燗徳利
(
かんどくり
)
を
下
(
さ
)
げ、
288
片手
(
かたて
)
に
盃
(
さかづき
)
を
持
(
も
)
ち
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
たのは
晴公
(
はるこう
)
であつた。
289
晴公
(
はるこう
)
『ヨルさま、
290
ハルさま、
291
テルさま、
292
石搗
(
いしづき
)
は
大分
(
だいぶ
)
大層
(
たいそう
)
でしたが、
293
先
(
ま
)
づ
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
のおかげで
無事
(
ぶじ
)
終了
(
しうれう
)
し、
294
斯
(
こ
)
んな
目出度
(
めでた
)
い
事
(
こと
)
はありませぬね。
295
お
祝
(
いは
)
ひに
一杯
(
いつぱい
)
つがして
下
(
くだ
)
さい』
296
と
盃
(
さかづき
)
をさし
出
(
だ
)
した。
297
ヨルはさも
嬉
(
うれ
)
し
気
(
げ
)
に
晴公
(
はるこう
)
につがせながら、
298
一口
(
ひとくち
)
のんで
額
(
ひたひ
)
をポンと
叩
(
たた
)
き、
299
ヨル『
遉
(
さすが
)
は
晴公
(
はるこう
)
さまだ。
300
治国別
(
はるくにわけ
)
さまのお
仕込
(
しこ
)
みだけあつて
道公
(
みちこう
)
さまとは
大分
(
だいぶん
)
気
(
き
)
が
利
(
き
)
いてゐるわい。
301
晴公
(
はるこう
)
さま、
302
宜敷
(
よろし
)
く
頼
(
たの
)
みますよ。
303
吾々
(
われわれ
)
はバラモン
教
(
けう
)
から
帰化
(
きくわ
)
した
所謂
(
いはゆる
)
異邦人
(
いほうじん
)
だから
何
(
なに
)
かにつけて
疎外
(
そぐわい
)
せられるやうに
思
(
おも
)
はれてなりませぬワ。
304
これも
心
(
こころ
)
のひがみでせうか。
305
人間
(
にんげん
)
といふものは
妙
(
めう
)
なもので
貴方
(
あなた
)
のやうにして
下
(
くだ
)
さると
本当
(
ほんたう
)
に
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
打
(
う
)
ち
解
(
と
)
けたやうで、
306
働
(
はたら
)
くのも
何
(
なん
)
だか
勢
(
せい
)
が
出
(
で
)
るやうですわ。
307
ナア、
308
ハル、
309
テルさうぢやないか』
310
テル『さうだなア、
311
人
(
ひと
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
つ
人
(
ひと
)
は
余程
(
よほど
)
気
(
き
)
をつけて
下
(
くだ
)
さらぬと
下
(
した
)
の
者
(
もの
)
はやり
切
(
き
)
れないからなア』
312
ハル『
同
(
おな
)
じハルのついた
晴公
(
はるこう
)
さまだから、
313
同名
(
どうめい
)
異人
(
いじん
)
と
云
(
い
)
ふだけで、
314
やつぱり
身魂
(
みたま
)
が
合
(
あ
)
ふて
居
(
ゐ
)
るのだよ。
315
それだから
晴公
(
はるこう
)
さまが
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつたのだ。
316
ヨル、
317
テル、
318
晴公
(
はるこう
)
様
(
さま
)
に
感謝
(
かんしや
)
すると
共
(
とも
)
にこのハルさまにも
感謝
(
かんしや
)
するのだぞ』
319
ヨル、
320
テル『ヘーン、
321
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのだえ、
322
鼻
(
はな
)
を
捻折
(
ねぢを
)
るぞ』
323
晴公
(
はるこう
)
『
常暗
(
とこやみ
)
のヨルははれけり
大空
(
おほぞら
)
に
324
月
(
つき
)
は
照
(
て
)
るなり
星
(
ほし
)
は
輝
(
かがや
)
く。
325
空
(
そら
)
晴
(
はる
)
る
月
(
つき
)
テル
ヨル
の
星影
(
ほしかげ
)
は
326
いとも
疎
(
まばら
)
に
見
(
み
)
え
渡
(
わた
)
るかな』
327
ヨル『オイ、
328
テル、
329
ハル
両人
(
りやうにん
)
喜
(
よろこ
)
べ、
330
俺
(
おれ
)
はヨルさま、
331
お
前
(
まへ
)
はテル、
332
ハルの
両人
(
りやうにん
)
、
333
それに
晴公
(
はるこう
)
さまだから、
334
あのやうに
目出度
(
めでた
)
い
歌
(
うた
)
を
詠
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
さつた。
335
親切
(
しんせつ
)
と
慈愛
(
じあい
)
の
徳
(
とく
)
は
曇
(
くも
)
つた
空
(
そら
)
も
晴
(
は
)
るるなり、
336
曇
(
くも
)
つた
心
(
こころ
)
の
月
(
つき
)
も
照
(
て
)
るものだなア』
337
晴公
(
はるこう
)
は
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
338
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
と
何
(
なに
)
を
思
(
おも
)
ふてか、
339
感謝
(
かんしや
)
の
声
(
こゑ
)
に
涙
(
なみだ
)
を
帯
(
お
)
びながら
神文
(
しんもん
)
を
奏上
(
そうじやう
)
した。
340
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
手
(
て
)
を
打
(
う
)
つて『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』と
連呼
(
れんこ
)
した。
341
斯
(
か
)
くして
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
は
全
(
まつた
)
く
閉
(
と
)
ぢ、
342
一同
(
いちどう
)
は
十二分
(
じふにぶん
)
に
歓
(
くわん
)
を
尽
(
つく
)
して
寝
(
しん
)
についた。
343
(
大正一二・一・一六
旧一一・一一・三〇
加藤明子
録)
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