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第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第49巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 神示の社殿
01 地上天国
〔1275〕
02 大神人
〔1276〕
03 地鎮祭
〔1277〕
04 人情
〔1278〕
05 復命
〔1279〕
第2篇 立春薫香
06 梅の初花
〔1280〕
07 剛胆娘
〔1281〕
08 スマート
〔1282〕
第3篇 暁山の妖雲
09 善幻非志
〔1283〕
10 添書
〔1284〕
11 水呑同志
〔1285〕
12 お客さん
〔1286〕
13 胸の轟
〔1287〕
14 大妨言
〔1288〕
15 彗星
〔1289〕
第4篇 鷹魅糞倒
16 魔法使
〔1290〕
17 五身玉
〔1291〕
18 毒酸
〔1292〕
19 神丹
〔1293〕
20 山彦
〔1294〕
余白歌
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第七章
剛胆娘
(
がうたんむすめ
)
〔一二八一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
篇:
第2篇 立春薫香
よみ(新仮名遣い):
りっしゅんくんこう
章:
第7章 剛胆娘
よみ(新仮名遣い):
ごうたんむすめ
通し章番号:
1281
口述日:
1923(大正12)年01月16日(旧11月30日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年11月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫は、この征途の成功を祈り自らの決意を露わにした宣伝歌を歌いながら産土山を下り、荒野ケ原を渡り、たそがれ時に深谷川の丸木橋のほとりに着いた。
この谷川には、川底まで百閒もある高い丸木橋があった。騎馬でも渡れるほどの大木を切り倒して渡した丈夫な橋で、宣伝使はみな、この一本橋を渡らなければならない。
初稚姫は丸木橋の中央に立ち、眼下の谷水が飛沫を飛ばしてごうごうと流れていく絶景を眺めていた。初稚姫は橋を渡り、暗さと寒さに路傍にみのを敷いて一夜を明かそうと、天津祝詞を奏上してうとうとし始めた。
すると一本橋の彼方から二匹の鬼が現れた。鬼たちは初稚姫がこのあたりを通ることを知っており、何とかして新鮮な人肉が食いたいとあたりを探し始めた。
初稚姫はこれを聞き、これくらいの鬼が恐ろしくてこの先数千里の旅が続けられようか、一つ腕試しにこちらから先に相手になってやろう、と胆力をすえた。そして鬼たちに、自分は万物を救う宣伝使だから、腹がすいているなら肉体をくれてやるから食うが良い、と話しかけた。
二人の鬼は初稚姫のこの宣言を聞いて逆に肝をつぶし、ふるえだした。初稚姫は、声を聞いて父・杢助の僕の六と八だとわかり、二人を呼びつけた。六と八は、杢助に頼まれて初稚姫を試しに来たことを白状した。
六と八は初稚姫の剛胆に驚かされて、目の前の初稚姫は化け物が変化したものではないかと恐れてふるえていた。初稚姫はうとうとと眠りについた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-06-14 17:54:07
OBC :
rm4907
愛善世界社版:
97頁
八幡書店版:
第9輯 67頁
修補版:
校定版:
100頁
普及版:
45頁
初版:
ページ備考:
001
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
人
(
ひと
)
となり
002
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
救
(
すく
)
はれて
003
父
(
ちち
)
の
命
(
みこと
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
004
産土山
(
うぶすなやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
005
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
仕
(
つか
)
へたる
006
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
こそ
嬉
(
うれ
)
しけれ
007
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
008
高天原
(
たかあまはら
)
に
登
(
のぼ
)
りまし
009
姉
(
あね
)
大神
(
おほかみ
)
に
疑
(
うたが
)
はれ
010
高天原
(
たかあまはら
)
の
安河
(
やすかは
)
で
011
誓約
(
うけひ
)
の
業
(
わざ
)
をなしたまひ
012
清明
(
せいめい
)
無垢
(
むく
)
の
瑞御霊
(
みづみたま
)
013
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
014
さはさりながら
八十猛
(
やそたける
)
015
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
は
猛
(
たけ
)
り
立
(
た
)
ち
016
吾
(
わが
)
大神
(
おほかみ
)
の
御心
(
みこころ
)
は
017
かくも
尊
(
たふと
)
き
瑞御霊
(
みづみたま
)
018
しかるを
何故
(
なにゆゑ
)
大神
(
おほかみ
)
は
019
汚
(
きたな
)
き
心
(
こころ
)
ありますと
020
宣
(
の
)
らせたまひし
怪
(
あや
)
しさよ
021
事理
(
ことわけ
)
聞
(
き
)
かむと
伊猛
(
いたけ
)
りて
022
遂
(
つひ
)
には
畔放
(
あはな
)
ち
溝埋
(
みぞう
)
め
頻蒔
(
しきまき
)
や
023
串
(
くし
)
さしなどの
曲業
(
まがわざ
)
を
024
始
(
はじ
)
めたまひし
悲
(
かな
)
しさよ
025
我
(
わが
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
026
百千万
(
ももちよろづ
)
の
神人
(
しんじん
)
の
027
深
(
ふか
)
き
罪
(
つみ
)
をば
身一
(
みひと
)
つに
028
負
(
お
)
はせたまひて
畏
(
かしこ
)
くも
029
高天原
(
たかあまはら
)
を
下
(
くだ
)
りまし
030
島
(
しま
)
の
八十島
(
やそしま
)
八十
(
やそ
)
の
国
(
くに
)
031
雪
(
ゆき
)
に
埋
(
うづ
)
もれ
雨
(
あめ
)
にぬれ
032
はげしき
風
(
かぜ
)
に
曝
(
さら
)
されて
033
世人
(
よびと
)
のために
御心
(
みこころ
)
を
034
尽
(
つく
)
させたまひ
産土
(
うぶすな
)
の
035
伊曽
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
にしのばせて
036
茲
(
ここ
)
に
天国
(
てんごく
)
建設
(
けんせつ
)
し
037
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
を
負
(
お
)
はせつつ
038
五六七
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
を
来
(
きた
)
さむと
039
いそしみ
玉
(
たま
)
ふ
有難
(
ありがた
)
さ
040
妾
(
わらは
)
も
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
神
(
かみ
)
の
041
御許
(
みもと
)
に
近
(
ちか
)
く
仕
(
つか
)
へつつ
042
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
真諦
(
しんたい
)
を
043
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
たりし
嬉
(
うれ
)
しさよ
044
父
(
ちち
)
の
命
(
みこと
)
に
暇
(
いとま
)
乞
(
ご
)
ひ
045
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
046
出
(
い
)
で
往
(
ゆ
)
く
身
(
み
)
こそ
楽
(
たの
)
しけれ
047
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
048
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
049
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
050
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
三五
(
あななひ
)
の
051
愛
(
あい
)
と
信
(
しん
)
との
御教
(
みをしへ
)
は
052
幾万劫
(
いくまんごふ
)
の
末
(
すゑ
)
までも
053
天地
(
てんち
)
と
共
(
とも
)
に
変
(
かは
)
るまじ
054
かくも
尊
(
たふと
)
き
御教
(
みをしへ
)
に
055
吾
(
わが
)
精霊
(
せいれい
)
を
充
(
みた
)
しつつ
056
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御使
(
みつかひ
)
と
057
茲
(
ここ
)
に
旅装
(
りよさう
)
を
調
(
ととの
)
へて
058
ハルナを
指
(
さ
)
して
出
(
い
)
でて
往
(
ゆ
)
く
059
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
060
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
くして
061
往
(
ゆ
)
く
手
(
て
)
にさやる
曲
(
まが
)
もなく
062
身
(
み
)
も
健
(
すこやか
)
に
此
(
この
)
使命
(
しめい
)
063
果
(
はた
)
させたまへ
大御神
(
おほみかみ
)
064
石
(
いし
)
の
枕
(
まくら
)
に
雲
(
くも
)
の
夜着
(
よぎ
)
065
野山
(
のやま
)
の
露
(
つゆ
)
に
身
(
み
)
を
伏
(
ふ
)
せて
066
仮令
(
たとへ
)
幾夜
(
いくよ
)
を
明
(
あか
)
すとも
067
神
(
かみ
)
の
御守
(
みまも
)
り
有
(
あ
)
る
上
(
うへ
)
は
068
何
(
なに
)
か
恐
(
おそ
)
れむ
宣伝使
(
せんでんし
)
069
かよわき
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
ながらも
070
絶対
(
ぜつたい
)
無限
(
むげん
)
の
神力
(
しんりき
)
を
071
保
(
たも
)
たせ
給
(
たま
)
ふ
大神
(
おほかみ
)
の
072
吾
(
われ
)
は
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
使
(
つかひ
)
073
必
(
かなら
)
ず
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
名
(
な
)
をば
074
汚
(
よご
)
さず
穢
(
けが
)
さず
道
(
みち
)
のため
075
世人
(
よびと
)
のためにあくまでも
076
神
(
かみ
)
の
御旨
(
みむね
)
を
発揚
(
はつやう
)
し
077
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
も
醜神
(
しこがみ
)
も
078
剰
(
あま
)
さず
残
(
のこ
)
さず
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
079
救
(
すく
)
はにややまぬ
吾
(
わが
)
覚悟
(
かくご
)
080
立
(
た
)
てさせたまへ
惟神
(
かむながら
)
081
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
赤心
(
まごころ
)
を
082
捧
(
ささ
)
げて
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
083
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あ
)
れまして
084
善神
(
ぜんしん
)
邪神
(
じやしん
)
を
立
(
た
)
てわける
085
五六七
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
も
近
(
ちか
)
づきて
086
常世
(
とこよ
)
の
春
(
はる
)
の
花
(
はな
)
開
(
ひら
)
き
087
小鳥
(
ことり
)
も
歌
(
うた
)
ふ
神
(
かみ
)
の
園
(
その
)
088
此
(
この
)
世
(
よ
)
は
曲
(
まが
)
の
住家
(
すみか
)
ぞと
089
世人
(
よびと
)
は
云
(
い
)
へど
吾
(
わが
)
身
(
み
)
には
090
皆
(
みな
)
天国
(
てんごく
)
の
影像
(
えいざう
)
ぞ
091
あゝ
勇
(
いさ
)
ましや
勇
(
いさ
)
ましや
092
悪魔
(
あくま
)
の
征討
(
せいたう
)
に
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
093
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞ
楽
(
たの
)
しけれ』
094
と
声
(
こゑ
)
淑
(
しと
)
やかに
歌
(
うた
)
ひつつ、
095
産土山
(
うぶすなやま
)
を
下
(
くだ
)
り、
096
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
渡
(
わた
)
り、
097
漸
(
やうや
)
く
黄昏時
(
たそがれどき
)
深谷川
(
ふかたにがは
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
の
辺
(
ほとり
)
についた。
098
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
は
川底
(
かはぞこ
)
迄
(
まで
)
殆
(
ほとん
)
ど
百間
(
ひやくけん
)
許
(
ばか
)
りもある、
099
高
(
たか
)
き
丸木橋
(
まるきばし
)
である。
100
総
(
すべ
)
ての
宣伝使
(
せんでんし
)
は
皆
(
みな
)
この
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
渡
(
わた
)
らねばならない。
101
併
(
しか
)
し
一本橋
(
いつぽんばし
)
とは
云
(
い
)
へ、
102
谷川
(
たにがは
)
の
辺
(
ほとり
)
の
大木
(
たいぼく
)
を
切
(
き
)
り
倒
(
たふ
)
し、
103
向岸
(
むかふぎし
)
へ
渡
(
わた
)
せし
自然橋
(
しぜんばし
)
なれば、
104
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
丈夫
(
ぢやうぶ
)
にして
騎馬
(
きば
)
のまま
通過
(
つうくわ
)
し
得
(
う
)
る
巨木
(
きよぼく
)
の
一本橋
(
いつぽんばし
)
であつた。
105
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はこの
丸木橋
(
まるきばし
)
の
中央
(
ちうあう
)
に
立
(
た
)
ち、
106
目
(
め
)
も
届
(
とど
)
かぬ
許
(
ばか
)
りの
眼下
(
がんか
)
の
谷水
(
たにみづ
)
が
飛沫
(
ひまつ
)
をとばして
囂々
(
がうがう
)
と
流
(
なが
)
れ
往
(
ゆ
)
く
其
(
その
)
絶景
(
ぜつけい
)
を
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
107
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
大神
(
おほかみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
清
(
きよ
)
き
谷水
(
たにみづ
)
の
108
流
(
なが
)
れて
広
(
ひろ
)
き
海
(
うみ
)
に
入
(
い
)
るかな。
109
闇
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
を
明
(
あか
)
きに
渡
(
わた
)
す
丸木橋
(
まるきばし
)
110
妾
(
わらは
)
は
今
(
いま
)
や
中
(
なか
)
に
立
(
た
)
ちぬる。
111
眺
(
なが
)
むれば
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬ
谷川
(
たにがは
)
に
112
伊猛
(
いたけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
清
(
きよ
)
き
真清水
(
ましみづ
)
。
113
谷底
(
たにそこ
)
を
流
(
なが
)
るる
水
(
みづ
)
はいと
清
(
きよ
)
し
114
空
(
そら
)
渡
(
わた
)
り
往
(
ゆ
)
く
人
(
ひと
)
は
如何
(
いか
)
にぞ。
115
黄昏
(
たそが
)
れて
闇
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
はおろされぬ
116
されど
水泡
(
みなわ
)
は
白
(
しろ
)
く
光
(
ひか
)
れる。
117
伊曽
(
いそ
)
館
(
やかた
)
、
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ひたる
白梅
(
しらうめ
)
に
118
暇
(
いとま
)
を
告
(
つ
)
げて
別
(
わか
)
れ
来
(
き
)
しかな。
119
月
(
つき
)
もなく
星
(
ほし
)
さへ
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれて
120
暗
(
くら
)
さは
暗
(
くら
)
し
夜
(
よ
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
。
121
かくばかり
淋
(
さび
)
しき
野路
(
のぢ
)
を
渡
(
わた
)
り
来
(
き
)
て
122
黒白
(
あやめ
)
もわかぬ
闇
(
やみ
)
に
遇
(
あ
)
ふかな。
123
さりながら
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされし
124
吾
(
わ
)
が
御霊
(
みたま
)
こそは
暗
(
くら
)
きを
知
(
し
)
らず。
125
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
橋
(
はし
)
のなかばに
佇
(
たたず
)
みて
126
思
(
おも
)
ひに
悩
(
なや
)
む
父
(
ちち
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
。
127
いざさらば
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
に
名残
(
なご
)
りをば
128
惜
(
おし
)
みていゆかむ
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
へ』
129
かく
歌
(
うた
)
ひながら
暗
(
やみ
)
の
小路
(
こうぢ
)
を
足探
(
あしさぐ
)
りしつつ
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く、
130
遉
(
さすが
)
の
初稚姫
(
はつわかひめ
)
も
暗
(
くら
)
さと
寒
(
さむ
)
さに
襲
(
おそ
)
はれ
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
路傍
(
ろばう
)
に
蓑
(
みの
)
をしき、
131
一夜
(
いちや
)
を
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
ち
明
(
あか
)
さむと、
132
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
133
うとうと
眠
(
ねむ
)
る
時
(
とき
)
しも
一本橋
(
いつぽんばし
)
の
彼方
(
かなた
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
、
134
のそりのそりと
大股
(
おほまた
)
に
踏張
(
ふんば
)
り
乍
(
なが
)
ら、
135
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
傍近
(
そばちか
)
く
進
(
すす
)
みより、
136
甲
(
かふ
)
(赤六)
『オイ、
137
臭
(
くさ
)
いぞ
臭
(
くさ
)
いぞ』
138
乙
(
おつ
)
(黒八)
『
何
(
なに
)
が
臭
(
くさ
)
いのだ。
139
ちつとも
臭
(
くさ
)
くは
無
(
な
)
いぢやないか。
140
昨夕
(
ゆうべ
)
も
失敗
(
しつぱい
)
し、
141
今晩
(
こんばん
)
こそは
人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
を
見
(
み
)
つけて
腹
(
はら
)
を
膨
(
ふく
)
らさなくちや、
142
最早
(
もはや
)
やり
切
(
き
)
れない。
143
何
(
なん
)
とかして
人肉
(
じんにく
)
の
温
(
あたた
)
かいやつを
食
(
く
)
ひたいものだなア』
144
甲
(
かふ
)
(赤六)
『さうだから
臭
(
くさ
)
いと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
145
何
(
なん
)
でも
此
(
この
)
辺
(
へん
)
に
杢助
(
もくすけ
)
の
娘
(
むすめ
)
、
146
初稚姫
(
はつわかひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
た
筈
(
はず
)
ぢや。
147
昼
(
ひる
)
は
到底
(
たうてい
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
世界
(
せかい
)
ぢやないが、
148
都合
(
つがふ
)
のよい
事
(
こと
)
には
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
の
旅
(
たび
)
、
149
肉
(
にく
)
はムツチリと
肥
(
こえ
)
て
甘
(
うま
)
さうだ。
150
何
(
なん
)
とかして
捜索出
(
たづねだ
)
して
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
預
(
あづ
)
かり
度
(
た
)
いものだ。
151
……オイますます
臭
(
にほひ
)
がして
来
(
き
)
たよ。
152
何
(
なん
)
でもこの
辺
(
へん
)
の
横
(
よこ
)
つちよの
方
(
はう
)
に
休息
(
きうそく
)
して
居
(
ゐ
)
るに
相違
(
さうゐ
)
ない。
153
オイ
黒
(
くろ
)
、
154
貴様
(
きさま
)
はそつちから
探
(
さが
)
して
呉
(
く
)
れい。
155
この
赤
(
あか
)
サンは
足許
(
あしもと
)
から
探
(
さが
)
しに
着手
(
ちやくしゆ
)
する』
156
黒
(
くろ
)
(八)
『オイ
赤
(
あか
)
、
157
貴様
(
きさま
)
は
鬼
(
おに
)
の
癖
(
くせ
)
に
目
(
め
)
が
悪
(
わる
)
いのか』
158
赤
(
あか
)
(六)
『
何
(
なに
)
、
159
ちつとも
悪
(
わる
)
くは
無
(
な
)
いが、
160
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
人間
(
にんげん
)
を
食
(
く
)
はないので
些
(
すこ
)
しうすくなつたのだ。
161
オイ
黒
(
くろ
)
、
162
貴様
(
きさま
)
は
見
(
み
)
えるかい』
163
黒
(
くろ
)
(八)
『
見
(
み
)
えいでかい。
164
イヤ、
165
其処
(
そこ
)
に
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
や
笠
(
かさ
)
が
見
(
み
)
えかけたぞ。
166
ヤ
旨
(
うま
)
い
旨
(
うま
)
い
今晩
(
こんばん
)
はエヘヽヽヽ
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶ
)
りで、
167
どつさりと
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
頂
(
いただ
)
かうなア』
168
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
の
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
たものだと、
169
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らして
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
170
さうして
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
思
(
おも
)
ふやう、
171
初稚
(
はつわか
)
『
妾
(
わらは
)
は
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ、
172
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
な
鬼
(
おに
)
が
怖
(
おそ
)
ろしくて、
173
此
(
この
)
先
(
さき
)
数千
(
すうせん
)
里
(
り
)
の
旅行
(
りよかう
)
が
続
(
つづ
)
けられやうか。
174
一
(
ひと
)
つ
腕試
(
うでだめ
)
しに
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
から
先
(
せん
)
をこして
相手
(
あひて
)
になつて
見
(
み
)
よう、
175
否
(
いや
)
威
(
おど
)
かしてやらう』
176
と
胆力
(
たんりよく
)
を
据
(
す
)
ゑ、
177
初稚
(
はつわか
)
『こりやこりや そこな
赤
(
あか
)
黒
(
くろ
)
とやら
申
(
まを
)
す
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
、
178
貴様
(
きさま
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
179
大変
(
たいへん
)
に
腹
(
はら
)
を
減
(
へら
)
して
居
(
ゐ
)
るさうだなア。
180
人肉
(
じんにく
)
の
温
(
あたた
)
かいのが
喰
(
く
)
ひたいと
云
(
い
)
ふて
居
(
ゐ
)
たが、
181
茲
(
ここ
)
で
温
(
あたた
)
かい
肉
(
にく
)
と
云
(
い
)
へば
妾
(
わらは
)
一人
(
ひとり
)
しかいない
筈
(
はず
)
ぢや。
182
年
(
とし
)
は
二八
(
にはち
)
の
若盛
(
わかざか
)
り、
183
肉
(
にく
)
もポツテリと
肥
(
こえ
)
て
大変
(
たいへん
)
味
(
あぢ
)
がよいぞや。
184
所望
(
しよまう
)
とならば
喰
(
く
)
はしてやらう。
185
サア
手
(
て
)
からなりと、
186
足
(
あし
)
からなりと、
187
勝手
(
かつて
)
に
喰
(
く
)
つたがよからう。
188
妾
(
わらは
)
は
天下
(
てんか
)
の
万物
(
ばんぶつ
)
を
救
(
すく
)
ふべき
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
189
吾
(
われ
)
の
御霊
(
みたま
)
は
神
(
かみ
)
の
聖霊
(
せいれい
)
に
満
(
みた
)
されて
居
(
ゐ
)
る。
190
汝
(
なんぢ
)
は
哀
(
あは
)
れにも
悪霊
(
あくれい
)
に
取
(
と
)
りつかれ、
191
肉体
(
にくたい
)
迄
(
まで
)
が
鬼
(
おに
)
になつたと
見
(
み
)
える。
192
妾
(
わらは
)
は
今日
(
けふ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
の
門出
(
かどで
)
、
193
初
(
はじ
)
めて
聞
(
き
)
いた
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
悔
(
くや
)
み
事
(
ごと
)
、
194
之
(
これ
)
を
救
(
すく
)
うてやらねば
妾
(
わらは
)
の
役
(
やく
)
がすまぬ。
195
サア
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらぬ、
196
吾
(
わが
)
肉体
(
にくたい
)
を
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
一条
(
ひとすぢ
)
残
(
のこ
)
さず
食
(
く
)
ふて
呉
(
く
)
れ。
197
神
(
かみ
)
の
神格
(
しんかく
)
に
満
(
みた
)
された
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
喰
(
く
)
はば、
198
汝
(
なんぢ
)
赤
(
あか
)
、
199
黒
(
くろ
)
の
鬼
(
おに
)
どもはきつと
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひに
預
(
あづ
)
かり、
200
清
(
きよ
)
き
尊
(
たふと
)
き
人間
(
にんげん
)
になるであらう。
201
妾
(
わらは
)
は
繊弱
(
かよわ
)
き
身
(
み
)
なれども、
202
汝
(
なんぢ
)
の
如
(
ごと
)
き
荒男
(
あらをとこ
)
に
喰
(
く
)
はれ、
203
汝
(
なんぢ
)
を
吾
(
わが
)
生宮
(
いきみや
)
として
使
(
つか
)
ひなば、
204
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
身体
(
からだ
)
は
荒男
(
あらをとこ
)
二人
(
ふたり
)
となつて
神
(
かみ
)
のために
尽
(
つく
)
す
非常
(
ひじやう
)
の
便宜
(
べんぎ
)
がある。
205
サア、
206
早
(
はや
)
く
喰
(
く
)
つてもよからうぞ』
207
赤
(
あか
)
黒
(
くろ
)
二人
(
ふたり
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
此
(
この
)
宣言
(
せんげん
)
に
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
したか、
208
ビリビリと
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
した。
209
赤
(
あか
)
(六)
『オイ、
210
ク、
211
黒
(
くろ
)
、
212
駄目
(
だめ
)
だ
駄目
(
だめ
)
だ。
213
サヽ
遉
(
さすが
)
は
杢助
(
もくすけ
)
さまの
娘
(
むすめ
)
だけあつて
偉
(
えら
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
214
俺
(
おれ
)
はもう
嚇
(
おど
)
し
文句
(
もんく
)
が
何処
(
どこ
)
へかすつ
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
215
貴様
(
きさま
)
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れないか。
216
帰宅
(
いん
)
で
話
(
はなし
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやないか』
217
と
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
218
黒
(
くろ
)
(八)
『オイ
赤
(
あか
)
、
219
彼奴
(
あいつ
)
はバヽヽ
化物
(
ばけもの
)
だよ。
220
決
(
けつ
)
して
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまぢやなからう。
221
あんな
柔
(
やさ
)
しい
女
(
をんな
)
がどうしてあんな
大胆
(
だいたん
)
の
事
(
こと
)
が
云
(
い
)
へるものか。
222
彼奴
(
あいつ
)
はキツト
化物
(
ばけもの
)
に
違
(
ちが
)
ひない。
223
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
反対
(
あべこべ
)
に
喰
(
く
)
はれて
仕舞
(
しま
)
ふぞ。
224
サア、
225
逃
(
に
)
げろ
逃
(
に
)
げろ』
226
赤
(
あか
)
(六)
『
俺
(
おれ
)
だつて
足
(
あし
)
がワナワナして
逃
(
に
)
げるにも
逃
(
に
)
げられぬぢやないか。
227
ほんとに
貴様
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
彼奴
(
あいつ
)
は、
228
バヽ
化物
(
ばけもの
)
だ。
229
それだから
杢助
(
もくすけ
)
さまに
耐
(
こら
)
へて
下
(
くだ
)
されと
云
(
い
)
ふのに、
230
ちつとも
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さらぬからこんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふのだ』
231
と
二三間
(
にさんげん
)
此方
(
こなた
)
の
萱
(
かや
)
の
中
(
なか
)
に
首
(
くび
)
を
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
んで
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
232
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は、
233
初稚
(
はつわか
)
『ホヽヽヽヽ、
234
何
(
なん
)
とまア
腰抜
(
こしぬ
)
けの
鬼
(
おに
)
だこと、
235
そんな
鬼
(
おに
)
みそ
に
喰
(
く
)
つて
貰
(
もら
)
ふのは
御免
(
ごめん
)
だよ。
236
お
前
(
まへ
)
の
身体
(
からだ
)
に
入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
で、
237
そんな
みそ
鬼
(
おに
)
は
仕様
(
しやう
)
がないから
今
(
いま
)
の
宣言
(
せんげん
)
は
取
(
と
)
り
消
(
け
)
しますよ。
238
オイ
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
一寸
(
ちよつと
)
茲
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
なさい、
239
少
(
すこ
)
し
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かしてあげる。
240
お
前
(
まへ
)
も
可愛
(
かあい
)
さうに
人間
(
にんげん
)
の
身体
(
からだ
)
を
持
(
も
)
ちながら、
241
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
だ。
242
妾
(
わらは
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
違
(
ちが
)
ひありませぬよ。
243
決
(
けつ
)
して
化物
(
ばけもの
)
ぢやありませぬ。
244
最前
(
さいぜん
)
からお
前
(
まへ
)
の
囁
(
ささや
)
き
声
(
ごゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
245
何
(
ど
)
うやら
下僕
(
しもべ
)
の
六
(
ろく
)
と
八
(
はち
)
のやうだが、
246
夫
(
それ
)
に
違
(
ちが
)
ひはあるまいがな。
247
妾
(
わらは
)
も
初
(
はじ
)
めはほんとの
鬼
(
おに
)
かと
思
(
おも
)
ふて
身体
(
からだ
)
を
喰
(
く
)
はしてやらうと
云
(
い
)
つたが、
248
幽
(
かす
)
かに
囁
(
ささや
)
く
話声
(
はなしごゑ
)
を
聞
(
き
)
けば
六
(
ろく
)
と
八
(
はち
)
とに
相違
(
さうゐ
)
あるまい。
249
お
父
(
とう
)
さまに
頼
(
たの
)
まれて
私
(
わたし
)
を
試
(
ため
)
しに
来
(
き
)
たのだらう。
250
サアここに
来
(
き
)
なさい、
251
決
(
けつ
)
して
化物
(
ばけもの
)
でもありませぬ』
252
赤
(
あか
)
と
名乗
(
なの
)
つて
居
(
ゐ
)
た
六
(
ろく
)
は
小声
(
こごゑ
)
になり、
253
六
(
ろく
)
『オイ
黒八
(
くろはち
)
、
254
どうだらう、
255
本当
(
ほんたう
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
だらうか? どうも
怪
(
あや
)
しいぞ。
256
うつかり
傍
(
そば
)
へ
往
(
ゆ
)
かうものなら、
257
頭
(
かしら
)
から
噛
(
かぢ
)
りつかれるかも
知
(
し
)
れやしないぞ』
258
八
(
はち
)
『さうだなア、
259
赤六
(
あかろく
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
260
どうも
此奴
(
こいつ
)
は
怪体
(
けたい
)
だぞ。
261
それだから
今晩
(
こんばん
)
の
御用
(
ごよう
)
は
根
(
ね
)
つから
気
(
き
)
に
喰
(
く
)
はぬと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
262
あゝ
逃
(
に
)
げるにも
逃
(
に
)
げられぬ、
263
どうも
仕方
(
しかた
)
がない。
264
鬼
(
おに
)
さま、
265
いや
化
(
ばけ
)
さまの
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて
断
(
ことわ
)
りを
云
(
い
)
はうぢやないか。
266
喰
(
く
)
はれぬ
先
(
さき
)
にお
詫
(
わび
)
をして
九死
(
きうし
)
に
一生
(
いつしやう
)
を
得
(
う
)
る
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
賢
(
かしこ
)
いやり
方
(
かた
)
だ』
267
赤
(
あか
)
(六)
『ウンさうだな、
268
もしもし
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
にお
化
(
ば
)
けなされたお
方
(
かた
)
、
269
実
(
じつ
)
は
私
(
わたくし
)
は
八
(
はち
)
、
270
六
(
ろく
)
と
云
(
い
)
ふ
伊曽
(
いそ
)
館
(
やかた
)
の
役員
(
やくゐん
)
杢助
(
もくすけ
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
の
下僕
(
しもべ
)
です。
271
実
(
じつ
)
は
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
案
(
あん
)
じ、
272
且
(
か
)
つ
試
(
ため
)
す
積
(
つも
)
りで
主人
(
しゆじん
)
の
命令
(
めいれい
)
をうけ
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
たもので
厶
(
ござ
)
います。
273
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
ぢやありませぬ。
274
何
(
ど
)
うぞ
命
(
いのち
)
許
(
ばか
)
りはお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ』
275
初稚
(
はつわか
)
『ホヽヽヽヽ、
276
やつぱり
六
(
ろく
)
に
八
(
はち
)
であらう。
277
そんな
肝
(
きも
)
のチヨロイ
事
(
こと
)
で
何
(
ど
)
うして
此
(
この
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
が
試
(
ため
)
されませう。
278
お
父
(
とう
)
さまもそんな
腰抜
(
こしぬけ
)
男
(
をとこ
)
を
沢山
(
たくさん
)
の
給料
(
きふれう
)
を
出
(
だ
)
してお
抱
(
かか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばすかと
思
(
おも
)
へばお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だよ。
279
六
(
ろく
)
でもない
八助
(
はちすけ
)
だなア』
280
六
(
ろく
)
『もしお
化様
(
ばけさま
)
どうぞ
勘忍
(
かんにん
)
なして
下
(
くだ
)
さいませ。
281
そしてお
嬢様
(
ぢやうさま
)
は
此処
(
ここ
)
をお
通
(
とほ
)
りになつた
筈
(
はず
)
ですがお
前
(
まへ
)
さま
喰
(
く
)
つたのでせう。
282
喰
(
く
)
はれたお
嬢
(
ぢやう
)
さまは
仕方
(
しかた
)
がありませぬが、
283
併
(
しか
)
し
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
だけはどうぞお
助
(
たす
)
けを
願
(
ねが
)
ひます』
284
初稚
(
はつわか
)
『これ
六
(
ろく
)
に
八
(
はち
)
、
285
妾
(
わらは
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
間違
(
まちが
)
ひないぞや。
286
些
(
ちつ
)
と
確
(
しつか
)
りなさらないかい。
287
お
前
(
まへ
)
、
288
睾丸
(
きんたま
)
をどうしたのだい』
289
八
(
はち
)
『オイ
六
(
ろく
)
、
290
やつぱり
化州
(
ばけしう
)
だ。
291
彼奴
(
あいつ
)
は
睾丸狙
(
きんたまねら
)
ひだよ。
292
俺
(
おれ
)
の
睾丸
(
きんたま
)
まで
狙
(
ねら
)
つてけつかる、
293
此奴
(
こいつ
)
は
堪
(
たま
)
らぬぢやないか』
294
六
(
ろく
)
『
睾丸狙
(
きんたまねら
)
ひだつて、
295
俺
(
おれ
)
の
金助
(
きんすけ
)
は
余程
(
よほど
)
気
(
き
)
が
利
(
き
)
いとると
見
(
み
)
えて、
296
どこかへ
往
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
297
貴様
(
きさま
)
は
八
(
はち
)
と
云
(
い
)
つて
八畳敷
(
はちでふじき
)
の
大睾丸
(
おほきんたま
)
だから
些
(
ち
)
つと
困
(
こま
)
るだらう』
298
八
(
はち
)
『イヤ、
299
俺
(
おれ
)
の
睾丸
(
きんたま
)
も
何処
(
どこ
)
かへ
往
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたやうだ。
300
吃驚
(
びつくり
)
してどこかへ
落
(
おと
)
したのではあるまいかな』
301
六
(
ろく
)
『ハヽヽヽヽ、
302
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
へ、
303
睾丸
(
きんたま
)
を
落
(
おと
)
す
奴
(
やつ
)
があるか、
304
大方
(
おほかた
)
転宅
(
てんたく
)
したのだらう』
305
八
(
はち
)
『
何
(
なん
)
だか
腹
(
はら
)
が
膨
(
ふく
)
れたと
思
(
おも
)
ふたら
腹中
(
ふくちう
)
にグレングレンやつて
居
(
ゐ
)
ると
見
(
み
)
える。
306
オイ
一
(
ひと
)
つこんな
時
(
とき
)
には
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
られた
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
を
唱
(
とな
)
へようでないか。
307
さうすればきつと
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
が
消
(
き
)
えると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ』
308
六
(
ろく
)
『そりやよい
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
がついた。
309
サア
一所
(
いつしよ
)
に
惟神
(
かむながら
)
だ。
310
カーンナガアラ、
311
タヽマチ、
312
ハヘ、
313
マセ』
314
八
(
はち
)
『カンナンガラ、
315
タマチハヘマセ。
316
……
何
(
なん
)
だか
自分
(
じぶん
)
の
声
(
こゑ
)
迄
(
まで
)
怖
(
おそ
)
ろしくなつて
来
(
き
)
た。
317
アンアンアン』
318
初稚
(
はつわか
)
『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
319
吾
(
わが
)
家
(
や
)
の
下僕
(
しもべ
)
六
(
ろく
)
、
320
八
(
はち
)
の
二人
(
ふたり
)
の
御霊
(
みたま
)
に
力
(
ちから
)
を
与
(
あた
)
へさせたまへ。
321
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
322
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はうとうとと
眠
(
ねむ
)
りについた。
323
六
(
ろく
)
、
324
八
(
はち
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
鼾
(
いびき
)
を
聞
(
き
)
いて
益々
(
ますます
)
怖
(
おそ
)
ろしくなり、
325
一目
(
ひとめ
)
も
眠
(
ねむ
)
らず
夜中
(
よなか
)
頃
(
ごろ
)
まで
互
(
たがひ
)
に
体
(
からだ
)
を
抱
(
いだ
)
き
合
(
あ
)
ひ、
326
怖
(
おそ
)
ろしさに
慄
(
ふる
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
327
(
大正一二・一・一六
旧一一・一一・三〇
加藤明子
録)
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